家族信託の世界 家族信託の現状

家族信託の世界
44号(27・11)
相続対策の専門家
堀光博税理士事務所
092-292-5138
家族信託の現状
~保険から考える家族信託~
家族信託の世界43号では、42号から引き続き「家族信託」の契約書事例を、いつも
と違う視点から考えてみました。今回は、これまでの「家族信託の世界」と異なり、保険
の世界から見た家族信託を考えてみたいと思います。
今回は福岡県福岡市中央区薬院で、法人専門ファイナンシャルプランナーとしてFPコン
サルティングオフィスALL-ONEを開いておられる貝原 収氏に原稿をお願いいたし
ました。貝原氏には、日ごろから保険などを通じて様々なアドバイスをいただいており、
その見識に感銘を受けておりました。今回、お忙しいところ時間をさいていただきました
ので、まずはその原稿をご紹介させていただきます。
この度、ご縁を頂きまして信託と保険に関して書かせていただきます。
■生命保険と家族信託は似ている
一言で保険と申しましても、生命保険、損害保険、医療保険と分野は 3 つに分かれてい
て、商品の数は数千種類、保険会社も 50 社程ありますので、今回は生命保険に絞って進め
させていただきます。
生命保険の仕組みは、一家の大黒柱が(委託者)
、残された遺族(受益者)の経済的な負担
をかけないようにと、ご契約者が保険会社(受託者)にお金を渡し、保険事故が発生した
時に、保険会社が代わりに残された遺族に支払うと言うものであり、信託契約の他益信託
の仕組みに似ています。信託を研究した際、最初に感じたものでした。
ご契約者(委託者)の思いを、保険会社(受託者)が、保険金受取人(受益者)へ繋ぐ
契約者
保険会社
■ご契約者が高齢になった場合に起こること
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保険金受取人
生命保険には様々な商品があります、定期保険・養老保険・終身保険と大きく3つの保
険タイプに分けられ、保険料の支払い方も、月払い、年払い、半年払い、一時払い、前納
等、保障期間も1年~終身、保険料の払い込み期間も1年~終身などと、多くのバリエー
ションがあります。
このように、複雑に設定が可能であるからこそ、ご契約者の意向に添ったオーダーメイ
ドの保険プランが可能になるのです。
また、ご契約が成立後は保全機能として、保険の保障内容(減額、期間短縮、延長、変換)
や契約者・受取人の変更も制限の範囲内で自由にでき、解約返戻金が溜っている場合は貸
付金が可能です。保険料の支払い中に、ある一定の状態になると、保険料の支払いが免除
になる場合もあります。
では、家族信託の関係者にかかわるケースには、どのようなものがあるのでしょうか。
○失効のケース
月払いの保険料を 2 か月支払わなかったら、保険契約はその 2 か月目の月末をもって、
原則的には失効します。長年掛けてきた保険が、たった 2 回支払われなかった為に無駄に
なるわけです。この場合の救援策もありますので、保険会社の担当に確認してください。
失効は認知症等で判断能力がかけて、通帳等金銭の管理ができなくなった方に見受けられ
ます。
代わりに管理をしていただける方がいらっしゃればよいのですが、お一人暮らしや施設
に入居されたりすると、保険会社からの郵便通知が届かなかったり、電話もつながらなか
ったりします。保険会社もいろいろと工夫をして失効を回避する努力をしていますが、契
約者数が多いので対応に苦慮している模様です。
○保険料払い込み免除のケース
保険料の支払いが免除になっている保険のご契約者が死亡されたりした場合、保険契約
自体の存在を遺族が知らないケースがありました。
契約者は早くに離婚され、子息は音信不通で行方がわからず、実妹がご契約者のお世話を
しておられましたが、年金が振り込まれる通帳が一冊だけでしたので、その通帳から保険
料の引き落としがなされていなかったため気が付かず、保険会社から来る郵便は勧誘の DM
かと思って捨てていたそうです。
たまたま、私がその方の担当になり(保険会社の破たんによって、私が所属しておりま
した保険会社に契約が移管されました)
、ご連絡しましたところ、妹様が対応され、事情を
説明すると、驚かれて早速保険金の請求をしていただき、保険金をお支払いすることがで
きました。
○貸付金のケース
ご高齢夫婦のご主人が脳幹出血で意識不明の重体、年金生活で金融資産は預貯金と一時
払い終身保険、入院 1 年経過頃に必要資金を確保するために、一時払い終身保険から貸付
を検討するが、保険契約者でないと請求の権利がないと約款に書いてあるがため請求を見
送った。
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そこで、なにが一番の問題かと申しますと平均寿命が長くなった分、認知症等で判断能力
がない高齢者も増えていることです。
ご契約者が認知症等で判断能力を失うと、保険契約の保全機能を行使する際は後見制度
を利用して、後見人を選任しないと権利がないのです。
法定後見人であればすべての行為は可能ですが、任意後見人では、任意後見契約時に保険
契約の権限を記載する必要があり、登記事項証明書の代理権目録に記載がないと有効では
ないと厳しい制限のところもあります(保険会社により異なりますので、それぞれの保険
会社にご確認ください)
。
任意後見契約を作る際に、保険契約の代理権まで気が付く方がどの位いらっしゃるかです。
■生命保険契約の信託
信託法によりますと、財産となるものは信託が可能であるとするならば、保険契約も信
託財産に入れることも理論上はできることになるかとは思われます。
(あくまでも私見です
が)
ただ、現実問題としては、保険会社にとって実例がなくまた、保険会社自体に信託に詳
しい者がいないこともあり、受託者が委託者の保険契約を、信託契約によって委託されて
いますので契約内容の変更等が必要ですからと請求したとしても、素直に対応はしないの
ではないかと思います。
・対応したとしても時間がかかり満足のいく結論までは至らない
・前例ができないと動かない業界の悪習・・・
これは、私が取り扱っております保険会社に問い合わせた時に感じたことです。
一担当者レベルで判断のつかない、問い合わせでもあるので致し方ないとは思いますが
アイデアレベルですが一つご提案させていただきます
高齢者が契約者である生命保険契約を前提にですが!
保険は契約者の変更をすることができます、ほとんどの保険会社は個人間の契約者は 2
親等以内であれば契約者の変更が可能です。
信託契約において、受託者を 2 親等以内に設定するのであれば、保険の契約者を受託者
に変更して、信託契約のなかで受託者の保険契約権限の制約を設けるというのはどうで
しょうか?
その際に問題となるのは、保険料負担者によって課税関係が変わるということで、実
質の保険料負担者が誰かを証明する必要が起きます。ただし、保険金の課税は保険金や
解約返戻金が支払われた時に課税されると言う特殊な方法をとっていますので、契約者
変更時には課税は発生しません。
平成 30 年以降であれば保険会社の発行する支払調書に、その後発生した契約者変更の履
歴も記載するようにはなるのですが、実際のところ契約者と保険料の引き落とし口座の
名義人が違っている場合は証明できませんので、確実に信託された口座から引き落とし
されるようにすることが肝心です。
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まだまだアイデアレベルで専門家の方のご意見を聞いたわけではありませんので、ご意
見あれば頂戴したいと思います。
(FP
貝原
収)
妹尾哲也からの意見
貝原さん、お忙しいところ、時間をさいていただき、貴重な情報とご意見、さらにはア
イデアまで提供していただき、誠にありがとうございました。
今回の原稿の内容については、貝原氏と打ち合わせをしましたが、その折にここでは記載
できないような情報をいただきました。一般の方が悪用した場合には、大変な問題になる
かもしれないということで、当然原稿としての公開はできないし、私にも詳細はお話にな
りませんでしたが、私はプロの凄さを感じました。保険の担当者が誰でもが知っているよ
うなことではないとのことでしたが、知っている人は存在するということになります。
知っている人は、それだけ研究をされたはずだし、倫理的におかしいと思うことができる
倫理観も持っておられるのだと思います。保険営業の武器としても使えるのでしょうがそ
れをせず、正攻法の営業で成績を残している。まさしく保険営業のプロだと感じました。
私は、サポートさせていただいたお客様が契約されている保険契約については、大いに活
用するべきと考えておりますので、保険契約を家族信託契約に合わせて、保険契約の変更
をお願いしておりましたが、保険サイドから見ると同じ事でも、景色が違っていると感じ
ました。
これまでは、保険の担当をしていただいた方には、知らず知らずに無理難題を押し付けて
いたのではないかと、大いに反省をしております。
さて、貝原さんの原稿の中には、検討すべき内容がたくさんありましたので、ひとつず
つ検討をしていきたいと思います。
まずは、貝原さんのアイデアについて考えてみましょう。
高齢者が契約者である生命保険契約を前提とします。保険は契約者の変更をすることが
できます、ほとんどの保険会社は個人間の契約者は 2 親等以内であれば契約者の変更が可
能です。信託契約において、受託者を 2 親等以内に設定するのであれば、保険の契約者を
受託者に変更して、信託契約のなかで受託者の保険契約権限の制約を設けるというのはど
うでしょうか?
ご契約が成立後は保全機能として、保険の保障内容(減額、期間短縮、延長、変換)や
契約者・受取人の変更も制限の範囲内で自由にでき、解約返戻金が溜っている場合は貸付
金が可能です。
」
制限があるとはいえ、保険保障内容や契約者・受取人の変更も可能ということは、家族信
託契約書作成時には、この変更可能性の取り扱いを検討しなくてはならないということに
なります。ただし、本当に制限するとしたら、受託者の権限についての部分になると思い
ますが、それは可能なのでしょうか。
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ここから先、いろいろ考え始めますと、紙面を大幅に使ってしまいますので、今回は上
記アイデアの提示ということにさせていただきます。
次回以降、このアイデアをはじめ、貝原氏の原稿内にある様々な家族信託関連のことにつ
いて考えていきたいと思います。
これをお読みいただいている皆様にとって、大いに参考になるのではないかという内容で
はないかと思いますので、皆様も貝原氏の原稿を参考に、それぞれの立場で考えていただ
ければと思います。
by T.Senoo (文責:家族信託研究所
妹尾哲也)
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