中国知財関連司法動向調査 - 日本貿易振興機構北京事務所知的財産権部

中国知財関連司法動向調査(2014 年度版)
2015 年 3 月
日本貿易振興機構(JETRO)
北京事務所
知識産権部
目次
Ⅰ
司法保護状況 ·························································· 3
1.
中国の人民法院における知的財産権に係る司法保護の状況(2013 年) ····· 3
2.
2010 年以降 4 年分の同司法保護状況に記載された各種統計のまとめ ···· 19
3.
2010 年以降 4 年分の同司法保護状況の推移分析 ······················ 25
Ⅱ
判例研究 ····························································· 27
1.
最高人民法院「2013 年の中国の人民法院における 10 大知的財産権事
件」 ······························································ 27
(1)
知的財産権民事事件 ·········································· 27
(2)
知的財産権行政事件 ·········································· 52
(3)
知的財産権刑事事件 ·········································· 57
2.
最高人民法院「10 大革新性知的財産判例」 ···························· 60
3.
最高人民法院「司法による知的財産権保護 50 典型事例」 ················ 90
Ⅲ
(1)
専利法に関して ·············································· 90
(2)
商標法及び不正競争防止法に関して ···························· 91
(3)
著作権法 ···················································· 93
司法解釈 ····························································· 96
1.
信用失墜被執行者の名簿情報の公布に関する最高人民法院の若干規
定 ······························································· 96
(1)
概要 ························································ 96
(2)
最新動向(2014 年 3 月以後) ···································· 96
(3)
法令 ························································ 97
2.
人民法院の裁判文書のウェブサイトでの公開に関する規定 ············ 102
(1)
概要 ······················································· 102
(2)
最新動向(2014 年 3 月以後) ··································· 102
(3)
法令 ······················································· 103
3.
最高人民法院「被執行者貯金のオンライン照会、凍結に関する規定」 ···· 109
(1)
概要 ······················································· 109
(2)
最新動向(2014 年 3 月以後) ··································· 109
(3)
法令 ······················································· 110
1
4.
最高人民法院と 10 銀行間の執行情報提携覚書の締結(2014 年 4 月 23
日) ····························································· 115
(1)
概要、解説 ················································· 115
(2)
執行情報提携覚書 ··········································· 116
5.
「情報提携を強化し、執行及び執行協力を規範化することに関する最
高人民法院、国家工商行政管理総局の通知」 ························· 117
(1)
概要 ······················································· 117
(2)
解説 ······················································· 118
(3)
通知の内容 ················································· 119
6.
最高人民法院による商標法改正決定施行後の商標事件の管轄及び法
律適用の問題に関する解釈 ········································ 127
(1)
概要 ······················································· 127
(2)
解説 ······················································· 127
(3)
司法解釈 ··················································· 129
Ⅳ
その他 ······························································ 134
Ⅴ
特定テーマに関する研究 ·············································· 136
1.
知識産権法院の設置 ·············································· 136
(1)
各知識産権法院の概況 ······································· 136
(2)
北京、上海、広東の知識産権法院の審級 ······················· 136
(3)
知識産権法院設立前後の変化 ································· 137
2.
人民検察院に関する動向 ·········································· 141
(1)
案件情報公開ネット開設の背景 ······························· 141
(2)
4 つの機能 ·················································· 142
3.
損害賠償額に関する分析 ·········································· 144
(1)
問題の所在 ················································· 144
(2)
広東省高級人民法院によるパイロット業務の開始················ 145
(3)
紀要の概要 ················································· 145
(4)
第三次商標法改正 ··········································· 150
(5)
損害賠償額の立証・算定方法につき参照できる判例·············· 150
(6)
最後に ····················································· 151
2
Ⅰ 司法保護状況
1. 中国の人民法院における知的財産権に係る司法保護の状況
(2013 年)
中国語原文:2014 年 4 月 26 日付中国法院網
http://www.chinacourt.org/article/detail/2014/04/id/1283299.shtml
中国の人民法院における知的財産権に係る司法保護の状況(2013 年)
目次
はじめに
一. 司法保護へと力強く導き、裁判機能を積極的に発揮
二. イノベーション主導型発展目標に立脚し、知的財産権戦略の実施に注力
三. 司法の公正性・社会的信頼性を高めるため、裁判の管理監督を強化
四. 末端レベルの基盤を整備し、裁判官の能力を向上
おわりに
はじめに
2013 年は、人民法院が共産党の第 18 回全国代表大会の精神を实行に移した最初の年
であり、また、「第 12 次 5 か年計画(2011~2015 年)」の前半と後半をつなぐ重要な年で
もあり、人民法院の知的財産権の裁判業務が新たな発展を遂げた 1 年であった。人民法
院は、習近平氏を総書記とする共産党中央の力強い指導、全国の各級人民代表大会及び
その常務委員会の有効な監督の下で、鄧小平理論、「三つの代表」1の重要思想、科学的発
展観を指針とすることを堅持し、習近平総書記の一連の重要講話の精神を真摯に貫き、
憲法、法律から付与された責務を忠实に履行し、「人民がすべての司法事件において公平
と正義を感じられるようにする」という目標に沿った形で、大局への奉仕、人民のための
司法、公正な司法を確实に守るとともに、知的財産権の裁判業務を全面的に強化し、国
の知的財産権戦略を積極的に实施し、知的財産権に係る司法保護の主導的な役割を果た
し、知的財産権に係る司法体制の改革を掘り下げて進め、司法の公開を前進させ、司法
の社会的信頼性を向上させ、司法能力を高めることで、平安な中国、法治国家の構築、
イノベーション型国家や社会主義文化強国の構築、ゆとりのある社会の全面的な建設に
向けて大きく貢献した。
1
江沢民・元中国共産党総書記が 2000 年 2 月に発表した思想。中国共産党は、1.中国の先進的な社会
生産力の発展の要求 2.中国の先進的文化の前進の方向 3.中国の最も広範な人民の根本的利益を代表
すべきというもの。―訳注
3
一. 司法保護へと力強く導き、裁判機能を積極的に発揮
人民法院は、共産党と国の事業の大局をしっかりと捉え、知的財産権の裁判業務を極
めて重視し、その裁判機能を積極的に果たし、「保護を強化し、カテゴリー別に分類し、
寛厳よろしきを得る」という知的財産権に係る司法保護の基本政策を深く徹底した。ま
た、法に依って公正かつ効率的に各種の知的財産権事件を審理し、知的財産権の権利者
の合法的な権益を適切に保護し、各種の知的財産権侵害行為の制止、制裁、取り締まり
に取り組み、公正な競争を重視する社会主義市場経済の秩序を維持し、知的財産権に係
る司法保護の主導的な役割を強めた。2013 年、全国の地方人民法院の各種知的財産権を
めぐる第一審事件、第二審事件の既済件数は合わせて 114,075 件だった。
(一) 知的財産権民事裁判は著しい成果を上げ、財産権保護や革新激励の役割を発揮
人民法院は、2013 年、改革を全面的に推進する中で、知的財産権の司法保護をめぐっ
て提起された新しい目標、要求を正確に把握し、契機を確实に捉えて、業務のテーマを
明確にし、司法積極主義を貫き、知的財産権の保護、自己革新の促進という新たな分野
における知的財産権関係民事裁判の主要な手段としての役割をさらに発揮した。全国の
地方人民法院における知的財産権民事第一審事件の新受件数は 88,583 件、既済件数は
88,286 件で、前年に比べてそれぞれ 1.33%、5.29%増加した。新受事件のうち、特許事
件が 9,195 件で、前年比 5.01%減、商標事件が 23,272 件で、同 17.45%増、著作権事件
が 51,351 件で、4.64%減、技術契約事件が 949 件で、27.21%増、不正競争事件が
1,302 件(そのうち、独占をめぐる民事第一審事件は 72 件)で、15.94%増、その他の知
的財産権事件は 2,514 件で、13.91%増だった。既済の渉外知的財産権第一審事件数は
1,697 件で、18.75%増、既済の香港・マカオ・台湾知的財産権民事第一審事件は 483 件
で、21.21%減、既済の独占民事第一審事件は 69 件で 40.82%増だった。知的財産権民
事第二審事件の新受件数は 11,957 件、既済件数は 11,553 件で、前年に比べてそれぞれ
24.80%、24.33%増加した。知的財産権関係民事再審事件の新受件数は 75 件、既済件数
は 96 件(前年からの繰越分を含む)で、前年に比べてそれぞれ 56.40%、56.95%減尐し
た。
最高人民法院知識産権審判廷の知的財産権民事事件の新受件数は 457 件、既済件数は
417 件で、前年に比べてそれぞれ 92.82%、69.51%増加した。そのうち、再審事件の新
受件数は 365 件、既済件数は 341 件だった。
全国の各級人民法院は、権利侵害行為を速やかに制止し、当事者の合法的な権利利益
を保護するため、訴訟前の保全措置を法に従って適用した。法により受理した知的財産
権に関わる訴訟前の侵害行為の差止命令請求件数は 11 件で、裁定による支持率は
77.78%、法により受理した訴訟前の証拠保全請求件数は 173 件で、裁定による支持率は
97.63%となっており、当事者の挙証責任の負担を効果的に軽減した。また、法により受
理した訴訟前の財産保全請求件数は 47 件で、裁定による支持率は 96.97%だった。例え
ば、湖北省武漢市中級人民法院は、マイクロソフト社が北京富基融通科技有限公司を相
手取り、Microsoft Office(マイクロソフトオフィス)シリーズのコンピューターソフト
4
ウェア著作権を侵害したとして訴えた事件の受理において、マイクロソフト社の訴訟前
の証拠保全請求を受けて法に依って保全措置を講じ、権利侵害の事实を固めることで、
被告が判決に服し、訴訟が完結する結果を導いた。
人民法院が審理した知的財産権関係民事事件のうち、社会的影響が大きな事件とし
て、湖单科力遠新能源股份有限公司と愛藍天高新技術材料(大連)有限公司等との特許権
侵害をめぐる紛争事件、佛山市海天調味食品股份有限公司と佛山市高明威極調味食品有
限公司との商標権侵害と不正競争をめぐる紛争事件、百度在線網絡技術(北京)有限公司
等と北京奇虎科技有限公司等との不正競争をめぐる紛争事件、株式会社円谷プロダク
ション等と上海音像出版社等との著作権侵害をめぐる紛争事件、SI Group 社等と華奇
(張家港)化工有限公司等との営業秘密侵害をめぐる紛争事件、福建超大現代種業有限公
司と安徽省農業科学院水稲研究所との育成者権の实施許諾契約の無効確認をめぐる紛争
事件などが挙げられる。
(二) 知的財産権関係行政裁判は着实に前進し、法執行の監督や法による行政促進の機能
を発揮
人民法院は、共産党の第 18 回全国代表大会の社会主義的法治国家づくり、法治国家づ
くりの全面的推進に向けた重要な計画を徹底し、司法審査の機能を存分に発揮し、行政
機関の法律による行政を監督・支援して、知的財産権の行政保護のレベルアップを図
り、行政管理の対象者の合法的権益を保護した。
2013 年、全国の地方人民法院における知的財産権関係行政第一審事件の新受件数は
2,886 件で、前年に比べて 1.43%減尐、既済件数は 2,901 件(前年からの繰越分を含む)
で、前年比でほぼ横ばいだった。新受事件のうち、特許関係は 697 件で、前年比 8.29%
減、商標関係は 2,161 件で、同 0.51%増、著作権関係は 3 件で、前年比横ばい、その他
の行政事件は 25 件で、同 66.67%増だった。既済事件のうち、渉外及び香港・マカオ・
台湾関係は 1,312 件で、知的財産権関係行政第一審既済事件全体の 45.23%と、依然大
きなウェイトを占めた。そのうち、渉外関係は 1,143 件、香港関係は 84 件、マカオ関係
は 0 件、台湾関係は 85 件だった。既済事件はすべて特許と商標をめぐる事件で、商標関
係のウェイトは大きく、全体の 80.10%を占めた。
全国の地方人民法院における知的財産権関係行政第二審事件の新受件数は 1,490 件、
既済件数は 1,496 件(前年からの繰越分を含む)で、前年に比べてそれぞれ 4.64%、
7.78%増加した。既済事件のうち、原判決の維持は 1,268 件、原判決の変更は 146 件、
訴訟取下は 59 件、却下は 18 件、その他の事件帰結は 5 件だった。
最高人民法院知識産権審判廷の知的財産権関係行政不服申立事件の新受件数は 117
件、既済件数は 104 件で、前年に比べてそれぞれ 19.38%、6.12%増加した。既済事件
のうち、却下は 80 件で、全体の 76.92%を占めた。再審裁定は 23 件で、22.12%を占め
た。訴訟取下は1件で、0.96%を占めた。知的財産権関係行政事件のうち再審事件は新
受、既済ともにそれぞれ 19 件だった。既済事件のうち、原判決の維持は 3 件で、全体の
5
15.79%を占めた。原判決の変更は 14 件で、73.69%を占めた。訴訟取下は 1 件で
5.26%を占めた。破棄差戻し判決は 1 件で、5.26%を占めた。
人民法院が審理した知的財産権関係行政事件のうち社会的影響が大きな事件として、
聖象集団有限公司と国家工商行政管理総局商標評審委員会等との商標争議をめぐる行政
紛争事件、Cubist Pharmaceuticals, Inc.と国家知識産権局専利復審委員会との特許権
無効をめぐる行政紛争事件、武夷山市桐木茶葉有限公司と国家工商行政管理総局商標評
審委員会等との商標登録異議申立の再審査をめぐる行政紛争事件、北京鴨王烤鴨店有限
公司と国家工商行政管理総局商標評審委員会等との商標登録異議申立の再審査をめぐる
行政紛争事件、李隆豊と国家工商行政管理総局商標評審委員会等との商標争議をめぐる
行政紛争事件などが挙げられる。
(三) 知的財産権関係刑事裁判は着实に進歩し、犯罪懲罰や権利侵害抑止の機能を発揮
人民法院は、刑事裁判の職能を存分に果たし、知的財産権侵害行為、摸倣・粗悪品製
販の取り締まりキャンペーンに積極的に協力し、知的財産権侵害の犯罪行為に対する懲
罰と威嚇に成功した。人民法院が受理した知的財産権侵害の犯罪事件は直近 5 年間で初
めて低下傾向を呈した。2013 年、全国の地方人民法院における知的財産権関係刑事第一
審事件の新受件数は 9,331 件で、前年に比べて 28.79%減尐した。そのうち、知的財産
権侵害罪事件は 5,021 件(登録商標冒用などの登録商標侵害事件は 3,473 件、著作権侵害
事件は 1,484 件)で、前年に比べて 35.96%減尐した。知的財産権侵害に関わる偽粗悪品
の生産販売罪事件は 2,455 件で、前年に比べて 5.83%減尐した。知的財産権侵害に関わ
る不法経営罪事件は 1,686 件で、前年に比べて 34.83%減尐した。知的財産権侵害に関
わるその他の事件は 169 件で、前年に比べて 141.43%増加した。
全国の地方人民法院が受理した知的財産権関係刑事第一審事件の既済件数は 9,212 件
で、前年に比べて 28%減尐した。判決の発効に及んだ人数は 1 万 3,424 人で、前年に比
べて 13.49%減尐した。刑事処罰対象者は 1 万 3,265 人で、前年に比べて 13.52%減尐し
た。そのうち、知的財産権侵害罪事件は 4,957 件、判決の発効に及んだ人数は 6,866
人、知的財産権侵害に関わる偽粗悪品の生産販売罪事件は 2,390 件で、判決の発効に及
んだ人数は 3,430 人、知的財産権侵害に関わる不法経営罪事件は 1,712 件で、判決の発
効に及んだ人数は 2,882 人、知的財産権侵害に関わるその他の事件は 153 件で、判決の
発効に及んだ人数は 246 人だった。知的財産権侵害罪事件の既済事件のうち、登録商標
冒用罪事件は 1,546 件で、判決の発効に及んだ人数は 2,462 人、登録商標冒用商品販売
罪事件は 1,496 件で、判決の発効に及んだ人数は 2,221 人、登録商標標章の不法製造及
び不法製造登録商標標章販売罪事件は 350 件で、判決の発効に及んだ人数は 589 人、特
許冒用罪事件は 1 件で、判決の発効に及んだ人数は 0 人、著作権侵害罪事件は 1,499 件
で、判決の発効に及んだ人数は 1,490 人、権利侵害複製品販売罪事件は 15 件で、判決の
発効に及んだ人数は 33 人、営業秘密侵害罪事件は 50 件で、判決の発効に及んだ人数は
71 人だった。全国の地方人民法院における知的財産権関係刑事第二審事件の新受件数は
662 件、既済件数は 627 件だった。
6
人民法院が審理した知的財産権関係刑事事件で、社会的影響が大きな事件として、宗
連貴ら 28 人の登録商標冒用罪事件、江西億鉑電子科技有限公司等の営業秘密侵害罪事
件、陳邦取ら 3 人の偽粗悪品生産販売罪、尤艶ら 3 人の著作権侵害罪事件などが挙げら
れる。
人民法院は、2013 年、知的財産権の裁判業務を全面的に強化した。その新しい特徴と
して以下の点が挙げられる。
第一に、事件の増加率が鈍化する一方で、裁判の困難度が増した。全国の地方人民法
院における新受件数の変動幅をみると、民事第一審事件は前年の 45.99%増から 1.33%
増に下降した。行政及び刑事第一審事件はそれぞれ前年の 20.35%増、129.61%増から
1.43%減、28%減に下降した。一方、全国の地方人民法院の 2009 年から 2012 年までの
民 事 、 行 政 及 び 刑 事 第 一 審 事 件 の 新 受 件 数 の 年 平 均 増 加 幅 は そ れ ぞ れ 37.63 % 、
33.05%、48.05%であった。新受事件の全国分布をみると、事件の基数が高い地方人民
法院の増加率は鈍化傾向にある一方で、事件の基数が低い中西部地域の人民法院は急速
な増加傾向を呈している。事件の増加率が全体的に鈍化するなか、渉外知的財産権関係
民事第一審事件の新受件数は前年比 18.75%増と増加幅が大きい。先端技術をめぐる新
型で難解な事件、著名企業の重大な利益に関わるブランド保護をめぐる事件、技術成果
の实用化に関わる技術契約をめぐる事件、市場競争の秩序保護に関わる不正競争をめぐ
る事件などが増えており、裁判の困難度が高まっている。例として、北京鋭邦湧和科貿
有限公司と強生(上海)医療器材有限公司等との国内初の垂直的独占合意をめぐる紛争事
件、米国イーライリリー社等と黄孟煒との技術上の秘密侵害をめぐる紛争事件、華為技
術有限公司と IDC 社の標準規格必須特許のロイヤルティをめぐる紛争事件、グーグル社
と王莘との著作権侵害をめぐる紛争事件、中山市隆成日用製品有限公司と湖北童覇児童
用品有限公司との实用新案権侵害をめぐる紛争事件、天津天隆種業科技有限公司と江蘇
徐農種業科技有限公司との育成者権侵害をめぐる紛争事件などが挙げられる。
第二に、裁判の品質と効率性が顕著に向上した。全国の地方人民法院における知的財
産権関係民事事件のうち、第一審事件の既済率は 87.95%、再審率は 2012 年の 0.20%か
ら 2013 年の 0.09%に低下した。上訴事件の原判決の変更・原審差し戻し率は 5.84%
だった。全国の地方人民法院における知的財産権関係行政事件のうち、第一審事件の既
済率は 87.04%で、前年に比べて 0.5%上昇した。既済上訴事件の原判決の変更・原審差
し戻し率は 9.8%、再審率は 2012 年の 0.21%から 2013 年の 0.069%に低下した。全国
の地方人民法院における知的財産権関係刑事第一審事件の既済率は 91.66%で、高水準
にある。
第三に、調停が顕著な効果を呈した。人民法院は、法律による調停、自発的な調停、
適正な調停の原則を貫き、知的財産権紛争の調停を引き続き強化し、調停方法の革新に
絶えず取り組むことで、軋轢や紛争の解消に努めた。また、司法調停、人民調停、行政
調停を連携させた「三位一体」調停体制を整備し、多くの紛争について末端レベルでの帰
結、訴訟前の解消に成功した。委託調停、業界調停、専門家調停などさまざまな調停方
法の模索、複数の方法を組み合わせた軋轢や紛争の解決、調停事件の正しい処理、調停
7
の難題の解決を図った。関連事件の調停を重視し、共助によるウィンウィンの实現、社
会の調和促進に努めた。例えば、山西省高級人民法院は軋轢や紛争の解消方式・方法を
積極的に模索し、経緯が複雑で、対立が激しい事件について、ただ機械的に法廷での審
理に頼るのではなく、現場に出向いて状況を把握するなど、民生に関わる多くの事件を
末端レベルで解消するよう努めた。人民法院と関係当局の連携により、全国の人民法院
に おけ る知 的財 産権 関係 民事 第一 審事 件の 調解 成立 によ る訴 訟取 り下 げ率 は平均
68.45%に達した。人民法院が調停に成功した事件のうち、社会から注目を浴び、社会的
影響の大きな知的財産権関係民事事件として、北京長地万方科技有限公司と深圳市凱立
徳科技術股份有限公司等との電子地図「道道通」の著作権侵害をめぐる紛争事件、BMW 社
と深圳市世紀宝馬服飾有限公司等との商標権侵害及び不正競争をめぐる紛争事件、香港
洪和堂医薬有限公司と桂林益佰漓江製薬有限公司との技術協力開発契約をめぐる紛争事
件、マイクロソフト社と安徽省皖儀科技股份有限公司のコンピューターソフトウェア著
作権侵害をめぐる紛争事件、高暁松と北京優視米網絡科技有限公司等との著作権侵害を
めぐる紛争事件などが挙げられ、優れた社会的、法律的効果を収めた。
第四に、司法の公開性が強化された。人民法院は、公開裁判を推進し、司法の公開性
を強化し、人民の裁判に対する知る権利、参加権、監督権を着实に保障することで、司
法の公開性を高めた。
知的財産権関係裁判文書のネット公開制度の充实化と適正化:最高人民法院知識産権
審判廷は「人民法院知的財産権裁判文書インターネット公開暫定弁法」を公布し、全国の
人民法院において知的財産権裁判文書ウェブサイト掲載の担当職員体制を構築し、ウェ
ブサイト掲載の定期通報制度を实施することで、裁判文書がウェブサイトに掲載される
比率を高めた。2013 年末までに、インターネットを通じて公開された全国の各級人民法
院の効力を生じた知的財産権関係裁判文書は 6 万 1,368 通に上った。
重大事件の徹底公開の強化:社会からの注目度が高い事件については、「オムニメディ
ア」式に事件審理全体の様子を紹介し、公開性の強化に努めた。奇虎社と騰訊社の不正競
争をめぐる紛争事件、ジョンソン・エンド・ジョンソン社の独占をめぐる紛争事件など
の重大な事件の公開裁判は、社会から高く評価された。
司法の公開手段の多様化:法廷で行われる審理の生放送、人民代表大会の代表を知的
財産権事件裁判の傍聴者として招待、裁判の一般開放日を設定、司法保護状況の白書や
典型判例を発表などにより、知的財産権裁判の状況と知的財産権裁判の各種情報を全面
的に公開することで、社会からの関心に応えた。最高人民法院は、「中国の人民法院にお
ける知的財産権に係る司法保護の状況(2012 年)」を公布するほか、「中国知的財産権司法
保護年鑑(2012 年)」を編集・出版した。北京、河北、上海、江蘇、安徽、山東、広東、
海单、甘粛、新疆などの高級人民法院もそれぞれ管轄区の 2012 年における知的財産権の
司法保護状況を発表した。
裁判文書の論理性の強化:事件の事实、判決の根拠、申立と抗弁の観点、判決理由を
実観的かつ全面的に公開することで、大衆の司法裁判に対する理解を深め、また、裁判
文書が、公衆に裁判過程を紹介し、司法イメージを展示し、司法行為を適正化し、法律
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知識を宠伝し、社会の風紀向上を牽引する媒体となって、社会を正しい方向に導き、法
治の力を伝達した。
監督の自発的受け入れ:各界からの司法保護に対する意見と提言を幅広く聴取し、大
衆、検察監督機関、マスメディア等による司法保護に対する監督を自発的に受け入れ
た。最高人民法院は、第 11 期全国人民代表大会常務委員会第 30 回会議による「知的財産
権裁判業務状況に関する最高人民法院の報告」に対する意見、提言を重視し、活動徹底の
方策を真摯に検討したうえで策定し、特別報告書を作成することで、全国人民代表大会
常務委員会の審議意見を着实なものにした。地方の各級人民法院も、人民代表大会の代
表、中国人民政治協商会議の委員との日常業務連絡を積極的に強化し、司法保護状況を
自ら進んで報告し、司法保護の継続的改善に努めた。江西省高級人民法院が江西省人民
代表大会常務委員会に行った知的財産権の司法保護状況に関する特別報告は、委員から
高い評価を受けた。
第五に、裁判の影響力が向上し続けた。人民法院は、重大な事件の裁判を重視し、社
会からの注目度が高く、影響範囲が広く、利益紛争が激しく、産業の将来に関わる事件
を法に従って適切に審理し、さまざまな権利主体と国内外の当事者の合法的権益を適切
かつ平等に保護し、各界、国内外から幅広く賞賛を受け、知的財産権の司法保護の影響
力を高めた。例えば、インターネット分野の競争ルール確立に重大な影響を及ぼす奇虎
社と騰訊社の不正競争をめぐる紛争の上訴事件については、最高人民法院が副院長の奚
暁明判事を裁判長とする 5 人からなる合議廷を構成して裁判を行い、一般に向けて裁判
の全過程を生放送し、国内外のメディア 40 社余りによって大々的に報道された。強力メ
ンバーで構成されたこの合議廷の公開裁判とそれが引き起こした一般からの幅広い関心
から、知的財産権の司法保護に対する人民法院の揺ぎない自信と決意、知的財産権の司
法保護の人々への浸透、公衆と権利者から高い賛同を得ていることが明らかである。
二. イノベーション主導型発展目標に立脚し、知的財産権戦略の実施に注力
社会主義市場経済体制の万全化を加速し、経済成長モデルを転換させ、イノベーショ
ン主導型発展戦略を实施して知的財産権保護を強化することは、共産党の第 18 回全国代
表大会がゆとりのある社会づくりの重要な時期において下した重大な計画である。人民
法院は、知的財産権の司法保護が直面する前代未聞の新たな情勢と任務を深く認識し、
機会をしっかりと捉え、冷静沈着に課題に対処し、大局を見極めた形で職能を果たし、
国の知的財産権戦略の实施を徹底し、社会経済の発展の促進と保障に向けて弛まぬ努力
を続けた。広東省高級人民法院知識産権審判廷は、「国家知的財産権戦略实施活動先進集
団」という栄誉ある称号を取得した。
(一) 一貫して大局に立って奉仕し、知的財産権司法保護政策を整備
正しい司法保護の理念と政策は、知的財産権の司法保護の強化、知的財産権事件の公
正かつ効率的な裁判の保証にとって重要な指針となる。人民法院は、2013 年、「保護を
強化し、カテゴリー別に分類し、寛厳よろしきを得る」という司法保護の基本政策を徹底
9
し、国の科学技術政策、経済政策、産業政策、文化政策、貿易政策等の発展と変化に応
じて、司法政策体制を適時に調整・整備した。また、各種知的財産権の属性、機能、特
徴、实需を踏まえて、司法政策内容の多様化と充实化に努めた。イノベーション主導型
発展の新たな原動力の増強をめぐり、自己革新能力を高め、特許権保護を更に強化し、
基礎及び最先端の研究、戦略的新興産業、高度情報技術産業における技術成果の保護を
重点的に強化し、技術的な飛躍と革新を推進した。また、ブランド競争の新たな強みの
育成をめぐり、ブランドイノベーションを促進し、商標権の保護を更に強化し、著名商
標に対する保護を強化し、商標詐称、悪意の冒認出願などの商標権侵害行為を断固とし
て制止した。文化の繁栄と産業の成長の推進をめぐり、著作権保護を強化し、優れた文
化資源、文化革新の成果と新しい文化産業の保護を重点的に強化し、自己革新を推奨し
た。公平さと信義誠实を重んじる市場環境の形成をめぐり、市場の活性化を促し、競争
の保護を更に強化し、摸倣、虚偽宠伝、営業秘密侵害などの不正競争行為を重点的に取
り締まり、近代的な市場体制の充实化を促した。権利者の利益保護をめぐり、損害賠償
を重くし、証明妨害に係る制度の活用を強化し、法定賠償と酌量賠償の関係を正確に把
握し、損害賠償計算の科学性と合理性を高めた。知的財産権関係刑事裁判において、財
産刑を活用した知的財産権犯罪の懲罰強化を特に重視し、犯罪者の再犯の能力と条件を
経済面から剥奪した。例えば、河单省高級人民法院は、宗連貴ら 28 人による登録商標
「金龍魚」、「魯花」冒用の食用油生産販売事件において、被告人に罰金 2,704 万元を科
し、犯罪行為を企てる者に脅威を与え、市場環境を整えた。
(二) 一貫して改革革新を続け、知的財産権司法保護体制を改善
知的財産権の司法改革を推進し、改革革新を貫くことは、人民法院の知的財産権に係
る司法保護の活力を引き出し、公正な司法を確保する有効な制度的保障である。人民法
院は、2013 年、知的財産権分野の改革革新を推進し、知的財産権裁判体制と業務体制を
改善した。
知的財産権関係事件の管轄配置の更なる改善:特許関係事件が増え続ける情勢を受
け、最高人民法院は、「『特許紛争事件の審理における法律適用の問題に関する最高人民
法院の若干規定』の改正に関する決定」を公布し、特許関係事件の管轄権を適度に移譲
し、条件に適合する基層人民法院を指定して特許をめぐる紛争事件の第一審を管轄させ
た。また、特許などの技術関係の民事事件の管轄人民法院の配置を集中化し、必要に応
じて著名商標など特殊な事件の管轄人民法院を柔軟に配置するなど、知的財産権事件の
管轄人民法院の配置をより合理化した。2013 年末時点で、全国で特許、育成者権、集積
回路配置図設計、著名商標に関する事件の管轄権を有する中級人民法院の数は、それぞ
れ 87、45、46、45 であった。一般的な知的財産権事件の管轄権を有する基層人民法院の
数は 160 で、实用新案権、意匠をめぐる紛争事件の管轄権を有する基層人民法院の数は
7 であった。
10
知的財産権裁判の「三合一」パイロット事業の着实な推進:知的財産権裁判の「三合一」
方式2のパイロット事業の系統性、全体性、協働性が強化され、地方人民法院のパイロッ
ト事業が着实に推進された。2013 年末時点で、7 の高級人民法院、79 の中級人民法院、
71 の基層人民法院がパイロット事業を实施している。
技術検証体制の更なる充实化:司法鑑定、専門家助手、専門家照会などの技術検証の
实行手順を具体化するほか、鑑定人、技術専門家が出廷し、裁判に参加する業務体制の
構築と改善を進め、鑑定意見、専門家意見の手続と实体審査を強化し、技術の事实認定
をより科学的なものにした。浙江省高級人民法院は、技術専門家業務規則を制定し、技
術の事实認定の難題解決を支援する技術専門家 20 名を招聘した。湖北省高級人民法院
は、裁判をめぐる専門的な問題について知識面の支援を提供するため、3 つの専門家
データベースを構築した。
人民陪審員の業務の最適化:人民陪審員の事件審理への参加方法、手順を適正化し、
裁判参加体制を改善し、知的財産権裁判に必要な専門知識が豊富な陪審員を多く選び、
人民陪審員が法律に基づいて職権を行使できるようにし、裁判参加の有効性を高めた。
広西チワン族自治区单寧市中級人民法院は、裁判の品質と効率性を向上させるため、専
門家陪審員による裁判参加を強化し、高度な技術的問題に関わる事件 58 件に専門家陪審
員を取り入れた。
(三) 一貫して人民のための司法に取り組み、知的財産権に関わる司法サービスを開拓
人民法院は、知的財産権裁判業務において共産党の大衆路線の实行を真摯に徹底し、
人民のための司法の趣旨を自覚して实践し、現場、大衆に触れ、大衆の声に耳を傾け、
大衆の望みを知り、人民に奉仕する司法の取り組みの強化に努めた。
権利保護と訴訟の指導の強化:権利と義務、証明責任、訴訟リスクなどの事項の告知
を強化し、権利者に権利侵害からの保護、冷静な権利保護を指導した。例えば、湖北省
黄石市中級人民法院は、当地の企業に「法律リスク注意カード」、「企業知的財産権保護リ
スク注意ハンドブック」などを定期的に配布し、企業に向けて、権利保護のための対処体
制、訴訟の手引き体制の構築を指導した。証拠保全と職権に基づく証拠調査を強化し、
証拠保全や証拠の調査収集の条件に適合する場合は速やかに関連の措置を講じて、権利
者の証明責任の負担を適切に軽減した。
適地適策の巡回裁判の实施:河单省高級人民法院は、全省の人民法院において知的財
産権事件の巡回裁判に取り組んだ。巡回裁判を適用した事件は 400 件余で、経緯が複雑
で、当事者の対立感情が激しい多数の知的財産権事件の裁判に成功した。人民代表大会
の代表、中国人民政治協商会議の委員、高等教育機関の教員・学生を含む各界の関係者
2 万人余が巡回裁判を傍聴し、優れた成果を収めた。安徽省滁州市中級人民法院は、知
的財産権紛争が多発する市・県で積極的に巡回裁判に取り組み、司法裁判の模範的な役
割を存分に果たした。新疆ウイグル自治区高級人民法院伊犁カザフ自治州分院は、コル
2
知的財産権に関わる民事、行政、刑事事件を知識産権審判廷が一元的に審理する方式―訳注
11
ガス特殊経済開発区に裁判官巡回執務所を開設し、裁判官を毎月定期的に執務所に赴か
せ、現場で業務を行わせた。
法律相談サービスの实施:吉林、福建、安徽、貴州などの人民法院は裁判の機能を拡
張し、知的財産権保護について前もって対応し、重点企業、科学技術工業パークなどで
「法律出張」サービスを提供して、企業の知的財産権保護の需要を知り、企業の知的財産
権をめぐる革新、管理、運用、保護などに関して遭遇した法律問題の解決を支援するこ
とで、企業のイノベーション主導型発展意識、リスク防止意識及び司法保護意識を高
め、企業の自己防衛能力、経営リスク解消を強化し、革新实現を成功させ、企業から好
評を得た。
司法建議の強化:司法建議の指導的、方向付け的な役割を発揮し、知的財産権の司法
保護において発見された顕著な問題、共通問題、頻発問題などについて、当局に積極的
に司法建議を出し、問題の实質的な解決を促進した。例えば、湖北省高級人民法院は、
インターネットカフェの著作権侵害をめぐる紛争について、当地の人民政府、著作権関
係官庁に司法建議を出し、知的財産権使用者の適法、適正な経営を導き、業界の健全で
秩序ある発展を促進した。貴州省高級人民法院は、公証文書の手続上の瑕疵による効力
の不採用問題について、省司法庁に司法建議を出し、その適正な公証を懇切に促した。
海单省高級人民法院は、省人民政府に特色ある商標資源保護の司法建議を出し、特色あ
る商標資源の保護強化を促進した。山西、上海などの高級人民法院も、司法建議を強化
し、当局の知的財産権の活用、管理、保護の充实化に向けて有力な支援を提供した。
(四) 一貫して保護に力を入れ、知的財産権の司法宠伝を強化
司法宠伝は、人民法院が知的財産権の司法保護を一般に知らしめる重要な手段であ
り、司法保護の法治の精神を伝える重要な媒体であり、社会全体の知識に対する尊重を
高め、知的財産権保護の理念を広める重要な一環である。人民法院は、2013 年、知的財
産権の司法保護の法則を正しく把握し、知的財産権の司法保護の特徴を強調し、宠伝活
動形式を改めると同時に、宠伝活動の重点をめぐり、人民法院の自前のメディア、マス
メディア、微信、微博などの宠伝媒体を存分に生かし、各方面の力を動員し、協力する
ことで宠伝効果を強化した。世界知的所有権の日(4 月 26 日)の宠伝ウィークイベントを
入念に計画し、实施に移した。最高人民法院は、2012 年の中国の人民法院における知的
財産権の司法保護 10 大事件、10 大革新型事件と典型判例 50 件、「最高人民法院知的財
産権事件年次報告(2012 年)」を公布し、人民法院の知的財産権の司法保護強化の成果を
ありのままに一般公開した。地方人民法院も知的財産権の司法保護状況の公表、判例の
公布、記者会見の開催、街頭での知的財産権宠伝冊子配布などの形式で、宠伝活動に取
り組み、大衆の知的財産権の司法保護に対する関心に応えた。例えば、内モンゴル自治
区高級人民法院は、全自治区の人民法院を動員して「知的財産権戦略の实施、イノベー
ション主導型発展の支援」と題した知的財産権宠伝ウィークイベントに取り組み、企業や
学校で法制度の宠伝を实施した。江蘇省の人民法院は宠伝ウィークの期間中、記者会見
を 9 回開催し、各界から裁判の傍聴者を延べ 1,800 人余集め、企業 100 社余を訪問し、
12
各種の宠伝資料 5,000 冊を配布した。新疆ウイグル自治区高級人民法院生産建設兵団分
院は、「知的財産権による経済モデル転換の促進」と題して、内容が豊富で、形式が多様
な、一般への親しみやすさを配慮した知的財産権宠伝活動に取り組んだ。安徽省合肥市
中級人民法院は、種子業者が集まる「種子一本街」を訪れて育成者権をめぐる事件の開廷
審理を行い、種子管理所の職員と種子業者を傍聴席に招き、事件の裁判を通じて法律に
触れてもらうことで、司法宠伝の感化力と影響力を高めた。
(五) 一貫して協調的発展を行い、知的財産権をめぐる共助と交流を強化
経済のグローバル化、文化の多様化、社会の情報化が進む今日、知的財産権保護を強
化するには、多方面における相互間のウィンウィンの实現、共助が不可欠である。
官庁間の共助を強化、保護で連携:人民法院は、2013 年、引き続き知的財産権の司法
保護と行政保護の関係の統括と協調に努め、行政法執行官庁との共助を強化し、知的財
産権の多面的な保護体制を構築した。安徽、江西、広西などの高級人民法院は知的財産
権保護をめぐる連携体制づくりを進め、情報共有の場を構築した。河单省高級人民法院
は、知的財産権当局との共助を強化し、知的財産権をめぐる紛争調停の新しい手段を開
拓した。
国際交流の強化、国際的イメージの向上:最高人民法院は、中国・米国、中国・EU、
中国・ロシア、中国・スイスとの知的財産権タスク会議、中国・スイス、中国・韓国の
自由貿易区交渉などの国際会議に代表者を派遣し、中国の知的財産権保護の成果を余す
ところなく紹介し、知的財産権の司法保護を弛まず貫く立場と決意を表明した。また、
米国、日本、EU などの上層部代表団 100 人近くの訪問に入念に応対し、外国側の関心に
積極的に応え、誤解を晴らし、中国の知的財産権の司法保護に関する成果を宠伝し、好
ましい国際的イメージを樹立した。交流をより円滑にし、交流の成果を拡張するため、
最高人民法院は知的財産権保護国際交流(上海)基地を設立し、上海市高級人民法院を主
宰者として米国、日本、韓国、カナダ、スイスなどの代表団を招き、来訪者から高い評
価を受けた。
三. 司法の公正性・社会的信頼性を高めるため、裁判の管理監督を強化
公正な司法は、法治中国の構築のための重要な一環であり、人民法院の生命線であ
り、司法の社会的信頼性を保証するための基盤でもある。人民法院は、2013 年、公正な
司法をめぐり、すべての事件の審査が法律、歴史、人民の検証に耐えうるよう、主軸で
ある司法の社会的信頼性の向上、司法保護の規則の健全化と充实化、裁判の管理監督体
制の強化、裁判の調査研究指導の強化に努め、知的財産権裁判のレベルと効率の向上に
注力した。
(一) 司法保護規範を整備し、司法保護基準の協調と統一を推進
司法指導の強化:改正後の民事訴訟法を正しく適用し、特許関係事件の裁判業務の秩
序ある实施を保障するため、最高人民法院は、2013 年 1 月、「中華全国特許弁理士協会
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が推薦する特許弁理士名簿の発行に関する最高人民法院の通知」を公布し、特許弁理士に
よる特許関係民事訴訟への参加を適正化した。また、最高人民法院は、改正後の商標法
の正しく徹底的な实施を保証するため、「商標法改正決定施行後の商標事件の管轄と法適
用問題に関する最高人民法院の解釈」を速やかに起草し、公布した。
裁判指導の強化:最高人民法院は、2013 年 3 月、陝西省西安市で全国人民法院第 3 回
知的財産権裁判業務会議を開催し、共産党第 18 回全国代表大会と第 12 期全国人民代表
大会第 1 回会議の精神について深く学び、人民法院の 5 年間にわたる知的財産権裁判の
成果と経験を総括し、今日の知的財産権裁判が直面する情勢を分析し、現在と近い将来
における全国の人民法院の知的財産権裁判業務の指針と業務任務を明らかにするととも
に、今日の知的財産権裁判における法適用に関して注意すべき問題を検討した。会議の
開催は、2013 年及び近い将来における知的財産権裁判業務の方向を指し示すもので、非
常に重要な意義があるといえる。最高人民法院は、2013 年 4 月、江蘇省蘇州市にて全国
の人民法院の知識産権審判廷長による討論会を開催し、知的財産権裁判の实情を踏まえ
て、司法の公正の強化・司法の社会的信頼性の向上・法治国家の推進というテーマを強
調し、知的財産権裁判が直面する情勢、正しく把握すべき司法政策などを中心に討論を
行い、考え方を統一し、活動を推進するという目的を果たした。全国人民法院第 3 回知
的財産権裁判業務会議の精神を徹底するため、浙江、福建、山東、広東などの高級人民
法院も、全省人民法院知的財産権裁判業務会議を開催し、2013 年の知的財産権の裁判業
務に向けた手配と計画を徹底し、知的財産権の裁判業務が適正かつ秩序よく实施される
ようにした。
裁判指導資料の編纂:最高人民法院は、業務指導活動の迅速化を図り、「知的財産権裁
判指導」、「知的財産権裁判の動き」、「商標裁判の回顧と展望」などの書籍を出版し、重要
な規範性文書と指導意見、活動の概要、統計データ、調査研究の成果、典型判例などの
業務資料を整理した。北京市高級人民法院は、全市の人民法院の特許をめぐる法執行基
準の統一的な指導と協調に向けて、「専利権侵害判定ガイドライン」を配布した。
(二) 裁判の調査研究に力を入れ、法適用を一元化する手段の開拓
知的財産権の司法保護は、イノベーションが最も活発な経済、科学技術、文化、芸術
の分野と対しているため、未曾有の問題が後を絶たず、新しい課題や挑戦に次々と直面
する。このため、知的財産権事件と裁判の調査研究と指導の強化、裁判基準の迅速な統
一、知的財産権の司法保護の新たな需要への迅速な対応は、知的財産権裁判の合理的な
発展のための重要な手段である。人民法院は、2013 年、知的財産権裁判業務の重点的な
難題をめぐり、調査研究スタイルを革新し、調査業務の重点を正確に押さえ、裁判をめ
ぐる調査研究に全力を挙げて取り組み、新たな経験を速やかに総括し、新たな問題を速
やかに解決することで、实り多い成果を得た。最高人民法院は、特許権侵害の判定基
準、特許の権利付与・権利確認をめぐる行政事件の審理基準、商標の法適用、商標の権
利付与・権利確認をめぐる行政事件の審理基準、著名商標とサービスマークの保護、営
業秘密の保護、カラオケ経営者の著作権をめぐる紛争への法適用等の問題をめぐって特
14
別調査研究を行い、その司法解釈の起草と公布に向けて準備を進めた。最高人民法院
は、2013 年 1 月、福建省アモイ市にて全国インターネット分野の新たな技術、ビジネス
モデル、ビジネス競争の状況に関する調査研究会を開催した。また、2013 年 7 月、貴州
省遵義市中級人民法院に、業界関係の知的財産権の司法保護問題の発見と業界の健全な
発展促進を目的とした「最高人民法院による白酒産業知的財産権司法保護調査研究基地」
を開設した。調査研究活動を推進するため、最高人民法院は、第 1 回全国知的財産権優
秀調査研究成果選考活動を計画し、193 篇の調査研究報告について一次評価を行った。
地方の各級人民法院も裁判の实情を踏まえ、内容の豊富な調査研究活動に取り組んだ。
重慶市高級人民法院は、関係事業者と共同で、「インターネット環境における商標権侵害
と独占の問題をめぐる国際セミナー」、「クラウドコンピューティング環境におけるコン
ピューターソフト著作権司法保護ハイレベルフォーラム」を開催した。天津市高級人民法
院は、「天津市文化クリエイティブ企業知的財産権保護状況」と題する調査研究活動に取
り組んだ。広東省高級人民法院は、「司法証拠制度改善により知的財産権侵害をめぐる損
害賠償請求の困難性を打破する試み」と題する調査研究に取り組み、中級人民法院、基層
人民法院合わせて 14 ヶ所でパイロット事業を实施した。北京、河北、遼寧、上海、江
蘇、広西、雲单、陝西、青海、寧夏などの高級人民法院も、地方の知的財産権裁判の重
点、難点をめぐって特別調査研究を实施し、裁判を強く支援した。
(三) 裁判の管理を強化し、合理的かつ有効な監督評価体制を整備
権利に必ず責任を伴わせる、権利の行使を監督する、職務怠慢には責任を問う、不法
行為は必ず追及するといった管理体制の構築、裁判権の厳格な監督、自由裁量権行使の
適正化、権力の暴走及び規範なき行為の防止は、公正な司法の重要な制度的保障であ
る。各級人民法院は、2013 年、裁判の品質と効率を保証するための制度構築と真摯な徹
底に力を入れ、裁判の品質と効率の向上に利する経験とやり方の総括と迅速な普及によ
り、知的財産権裁判の品質と効率が顕著に向上した。裁判の流れの管理を強化し、裁判
の重要な流れと段階を追跡し、既済事件の定期的な通報制度を实施することで、審理均
衡化の強化と裁判の品質及び効率の向上を図った。陝西省高級人民法院は、インター
ネット上の事件処理手続を实現し、事件の受理、開廷、合議から判決までの全ての流れ
を適正化し、裁判の各段階について準拠とするものがあり、根拠に基づいて調べられる
ようにした。裁判の品質向上に取り組み、難解で複雑な事件について、裁判長合同会
議、全裁判官会議、専門家考察会などの形で研究、討論を行うことで、裁判の品質を確
保した。裁判の品質評価に取り組み、品質向上の意識を高めた。事件の品質評価体制を
充实化し、入念な評価基準を作成し、誤審の認定基準と責任追及制度を明らかにし、問
題の迅速な発見と誤りの是正により、誤りのある裁判を防ぐための最低ラインを死守し
た。裁判文書が、裁判の過程を再現し、裁判の根拠を提示し、社会の監督を受ける媒体
となるよう、裁判文書の評価と評定を行い、裁判文書の品質を高め、文書の誤り等の過
誤を根絶した。最高人民法院はまた、裁判文書の品質向上を推進するため、第 3 回全国
15
知的財産権優秀裁判文書選考活動を計画し、483 篇の裁判文書について一次評価を行っ
た。
四. 末端レベルの基盤を整備し、裁判官の能力を向上
人民のための司法、公正な司法を堅持し、司法の社会的信頼性を高める鍵は裁判官に
あり、末端レベルに重きが置かれるべきである。人民法院は、知的財産権裁判の裁判官
チームづくりを一貫して重視し、人民がすべての司法事件において公正と正義を感じら
れるよう、正規化、高度化、厳密化に向けて、裁判官チームの科学的レベルを全面的に
引き上げ、政治的思想が固く、業務が熟練され、風紀が優れ、公正で清廉な知的財産権
裁判官チームづくりに努めた。
(一) 知的財産権裁判組織の強化
充实した組織構成は知的財産権の裁判業務を適切にこなすうえでの前提である。人民
法院は、2013 年、「国家知的財産権戦略の徹底的な实施にかかる若干の問題に関する意
見」を真摯に徹底し、知的財産権専門の裁判組織の整備を全力を挙げて強化し、知的財産
権裁判の末端の基盤を固めた。チベット自治区の林芝、山单、那曲、阿里の 4 つの中級
人民法院は知的財産権専門の裁判組織を設置、福建省の鼓楼、思明、晋江の 3 つの基層
人民法院は知識産権審判廷を設立、湖北省の襄陽、宜昌、黄石、黄岡、荆門などの中級
人民法院も知識産権審判廷を開設し、専門的な裁判組織の設立を通じて、知的財産権裁
判の専門化を促進した。北京市海淀区人民法院は、中関村の国家自主革新モデル区の整
備を支援するため、全国に先駆けて知的財産権事件の審理を主とする基層人民法院の派
出法廷を設立した。また、各級人民法院は裁判組織の人員配備を強化し、総合的な事件
処理能力が優れた裁判官を選抜して知的財産権裁判チームを万全にすることで、知的財
産権裁判業務に優秀な人材によるサポートを提供した。
(二) 司法能力構築の強化
知的財産権裁判官の人民に奉仕し、公平と正義を守り、対立や紛争を解消し、世論を
導く司法能力及びレベルを高めることは、新たな情勢に対応する知的財産権裁判を推進
するために切实に必要とされている。人民法院は、知的財産権裁判官の司法能力向上を
知的財産権の司法保護の重点とし、特別研修、特別セミナー、現場教育、交流出向、裁
判見学、知的財産権保護实践基地の設立などの形式で、教育訓練を強化し、その対象の
拡大に努めた。
政治的理論の学習の強化:各級人民法院は、共産党の第 18 回全国代表大会の精神と習
近平総書記の一連の重要講話の学習を真摯に徹底し、知的財産権裁判官の理想と信念を
固め、社会主義的法治の考え方を樹立し、社会主義の核心的価値観の育成と实践に努
め、社会主義の道、理論、制度に対する自信を強めることで、公正な司法の思想的基盤
を固めた。
16
業務訓練の強化:最高人民法院は、国家裁判官学院の知的財産権裁判訓練課程によ
り、全国の人民法院の知的財産権裁判官に対する業務訓練活動に取り組んだ。また、中
西部地域の知的財産権裁判官の訓練を強化し、西部各地をめぐって教育活動を实施する
西部巡回講師団に知的財産権裁判官を送り込んだ。黒龍江省高級人民法院は、知的財産
権専門分野の育成計画を推進するとともに、裁判官講義活動により、専門知識を備えた
裁判官の育成に努めた。湖北省高級人民法院は、学習を重視する裁判官チームを育成す
るための「五つの一」と題するチーム育成活動に取り組んだ。雲单省高級人民法院は、裁
判官講座を開催し、来所した国家知的財産権局専利復審委員会の審査員を集めて省内の
特許関係事件管轄権のある中級人民法院で巡回講義を实施した。浙江省高級人民法院
は、裁判官の業務訓練を強化するため、省裁判官学院と共同で知的財産権裁判業務研修
コース、業務幹部研修コースを開催した。重慶市高級人民法院は、学校間の交流活動に
取り組み、資源の連携、各自の強みを生かし、裁判の専門化を図った。内モンゴル自治
区高級人民法院は、裁判官に知的財産権に関わる先進的な問題に関する訓練を实施す
る、全区人民法院知的財産権裁判業務研修コースを開催した。北京市高級人民法院は、
实践研修型の訓練モデルを模索し、青年裁判官の訓練を強化することにより、知的財産
権裁判の持続可能な発展のために確固たる基礎を築き上げた。北京市高級人民法院審判
委員会の専任委員、知識産権審判廷の廷長を務める陳錦川氏は、中国版権協会から「中国
版権事業の卓越した成功者」賞を授与された。
(三) 司法の風紀づくりの強化
司法の風紀は司法の公正の外在的な表現であり、司法の公正に対する人民のイメージ
と評価に直接関わる。人民法院は、2013 年、共産党の大衆路線教育活動を契機とし、知
的財産権裁判チームの司法の風紀づくりに精力を注ぎ、裁判官一人ひとりに問題に立ち
向かう勇気を持つよう求め、風紀を正す精神でもって風紀の欠点と不足を見つけ出し、
「鏡に照らして身なりを正し、自らを清め病を治せ」というスローガンの下で、人民のた
めの司法を具現化するため、誠实な批判と自己批判により、大衆の不満が高い問題を真
摯に解決し、共産党中央が掲げた活動の風紀の改善、大衆に密接に関わる 8 つの規定と
最高人民法院が制定した 6 つの措置を徹底した。司法の風紀づくりに精力を注ぎ、厳重
に管理を強化することで、知的財産権裁判官の目的意識、公僕意識を高め、知的財産権
裁判官チームの先進性、清廉性を確保した。
(四) 司法の清廉性の強化
司法の清廉性の推進は、人民法院の裁判官チームづくりに欠かせない任務である。各
級人民法院は、2013 年、「石を踏んだら足跡を残せ、鉄を掴んだら痕跡を残せ」の精神
で、腐敗撲滅と廉潔提唱に精力を注ぎ、腐敗防止体制を整備し、管理監督責任、責任追
及を強化し、集中的教育、警告教育、特別民主生活会、心を語る会などの形で、知的財
産権裁判官に対して、「人民に奉仕する、实務に励む、清廉を保つ」との要請に従って権
力を丁重に扱い、その使用を慎み、正しく用い、さまざまな誘惑に負けず、妨害に惑わ
17
されないよう教育し、指導した。また、司法巡査、審査業務の監督・検査などに真摯に
取り組むことを通じて、管理を強化し、管理の穴を塞ぎ、権力を制度の檻に閉じ込め、
裁判官の清廉公正、人民法院の清廉性、司法の明朗性を確保した。
おわりに
2014 年は、共産党の第 18 期中央委員会第 3 回全体会議の精神を徹底し、「第 12 次 5
か年計画」を遂行し、安定成長を図り、構造を調整し、改革を促す重要な一年である。人
民法院は、習近平氏を総書記とする共産党中央の指導の下で、中国の特色のある社会主
義という偉大な旗を掲げ、鄧小平理論、「三つの代表」の重要思想、科学的発展観を指針
とし、法律に基づく正確な職務履行を貫き、人民のための司法、公正な司法を貫きつ
つ、改革と革新の精神をもって知的財産権司法事業の発展を推進し、知的財産権の司法
保護の主導的機能を果たし、知的財産権の司法保護を引き続き強化するとともに、進取
の精神で難題を克服し、知的財産権裁判の新しい局面を切り開き、イノベーション主導
型発展戦略を推進し、中華民族の偉大なる復興に向けた中国の夢を实現するため、さら
なる貢献を果たさなければならない。
18
2. 2010 年以降 4 年分の同司法保護状況に記載された各種統計の
まとめ
図表Ⅰ-1(件数)
各年度全国の地方人民法院が新規に受理した
知的財産権第一審事件の数
項目
2010 年
2011 年
2012 年
2013 年
民事事件
42931
59612
87419
88583
行政事件
2590
2433
2928
2886
刑事事件
3992
5707
13104
9331
上記データが示すとおり、2013 年の民事一審事件数の上昇幅は前年の 45.99%から
1.33%へと減尐しており、一方、行政一審事件数、刑事一審事件数は、対前年比それぞ
れ 1.43%、28.79%減となり、減尐傾向にあるものの、知的財産権の侵害行為は依然と
して多く存在していることや、知的財産権意識が高まり、法的手段を通じて権利保護を
図ろうとする市民の意図が窺える。
図表Ⅰ-2(件数)
項目
著作権事件
各年度知的財産権民事一審新受事件の内訳
2010 年
2011 年
2012 年
2013 年
24719
35185
53848
51351
商標事件
8460
12991
19815
23272
特許事件
5785
7819
9680
9195
670
557
746
949
不正競争事件
1131
1137
1123
1302
その他
1966
2193
2207
2514
技術契約紛争事件
2010 年以降、著作権事件、商標事件、特許事件が一貫して知的財産権民事一審事件の
90%以上の割合を占めており、2013 年には、2012 年まで急増していた著作権事件が対前
年比 4.64%減、特許事件が同比 5.01%減となった。一方、商標事件が同比 17.45%増、
技術契約紛争事件が同比 27.21%増、不正競争事件が同比 15.94%増、その他事件が同比
13.91%増となった。
19
2013 年の渉外知的財産権民事一審事件数を見ると、上昇率が 18.75%となっており、
変動率は大きい一方、グローバル化が進むにつれ、今後もさらに増えていくと予想され
ている。それに対して、香港・澳門・台湾に関わる知的財産権民事一審事件数は 2012 年
に減尐に転じはじめ、2013 年には対前年比 21.21%減となり、減尐傾向を示した。
図表Ⅰ-4
各年度全国の地方人民法院知的財産権民事二審事件、再審事件の新受・既済件数
及び最高人民法院知的財産権裁判廷の新受・既済件数
項目
2010 年
全国の地方人民法院
知的財産権民事二審事件の新受件数
上記事件の既済件数
全国の地方人民法院
知的財産権民事再審事件の新受件数
上記事件の既済件数
(前年からの繰越分を含む)
最高人民法院知的財産権裁判廷の知的財
産権民事事件の新受件数
上記事件の既済件数
(前年からの繰越分を含む)
最高人民法院知的財産権裁判廷へ再審請
求の新申立数
20
2011 年
2012 年
2013 年
6522
7642
9581
11957
6481
7659
9292
11553
111
294
172
75
109
224
223
96
313
305
237
457
317
311
246
417
未掲載
255
181
365
上記事件の既済件数
未掲載
262
186
341
2010 年以降、全国の地方人民法院知的財産権民事二審事件の新受件数は一貫して増え
続けており、2013 年には対前年比 24.80%増、既済件数が同比 24.33%増となった。一
方、地方人民法院の再審事件の新受件数及び既済件数は、2011 年に急増したものの、
2012 年から減尐に転じており、これは二審判決の品質が上がったこと、各地方人民法院
が立件審査に対して慎重になったことが理由として考えられる。最高人民法院知的財産
権裁判廷の知的財産権民事事件については、2012 年まで減尐していたが、2013 年に増加
に転じており、特許等技術に関わる事件の増加が理由の一つとして考えられる。
図表Ⅰ-5(比率)
項目
一審事件
知的財産権民事事件の裁判効率
2010 年
2011 年
2012 年
2013 年
86.39%
87.61%
87.61%
87.95%
上訴率
49.65%
47.02%
39.53%
未掲載
再審率
0.27%
0.51%
0.20%
0.09%
4.57%
3.66%
5.46%
5.84%
97.93%
98.57%
99.24%
未掲載
既済率
原審
差し戻し率
審理期間内の
既済率
人民法院による知的財産権民事の裁判効率は、2010 年以来一貫して高効率、高品質を
維持しており、2013 年には一審事件既済率を更に 87.9%へ、上訴事件の原審差戻し率を
5.84%へ、再審率が 0.09%へと減尐したことで、知的財産権民事事件の裁判効率、品質
の更なる高まりを見せた。
図表Ⅰ-6(件数)
項目
各年度知的財産権行政一審事件の新受件数
2010 年
2011 年
2012 年
2013 年
特許事件
551
654
760
697
商標事件
2026
1767
2150
2161
2
2
3
3
11
10
15
25
著作権事件
その他の事件
2010 年以降の全国の地方人民法院が受理した知的財産権行政一審事件を事件別にみる
と、2012 年まで増え続けた特許事件が対前年比 8.29%減と転じたが、商標事件は同比
0.51%増となった。また、2013 年の渉外関連、香港・澳門・台湾に関わる行政一審事件
数は計 1312 件となり、対前年比 2.74%減に転じたものの、依然一審行政事件既済件数
の 45.23%の高い割合を占めている。
21
図表Ⅰ-7(件数)
2013 年度全国の地方人民法院の知的財産権行政二審事件(既済ベース)
各判決結果の割合
件数
項目
(合計 1496)(前年からの繰越分を含む)
原判決維持
1268
原判決変更
146
訴訟取下
59
却下
18
その他の終了方法
5
2013 年の知的財産権行政二審事件の既済件数は同比 7.78%増となった。件数は増えた
ものの、各判決結果の割合は、2010 年に比べて大きな変化は見られなかった。
図表Ⅰ-8
最高人民法院知的財産権裁判廷の知的財産権に関する
行政不服申立事件の新受件数、既済件数及び各判決結果の件数
項目
2010 年
2011 年
2012 年
2013 年
新受件数
60
102
98
117
既済件数
56
101
98
104
却下
未掲載
73
70
80
上位審への移送
未掲載
20
20
23
再審命令
未掲載
3
2
0
訴訟取下
未掲載
3
5
1
通知
未掲載
1
0
0
その他の終了方法
未掲載
1
1
0
2010 年以降の知的財産権関する行政服不申立事件の最高人民法院の知的財産権裁判廷
による既済件数の判決結果をみると、却下裁定が一貫して最も高い割合を占めており、
上位審へ移送されたのが 20%前後、再審命令を受けたのが 3%未満であった。
図表Ⅰ-9
最高人民法院知的財産権裁判廷へ移送された知的財産権行政事件の
新受件数、既済件数及び各判決結果の件数
項目
2010 年
2011 年
2012 年
2013 年
新受件数
未掲載
13
24
19
既済件数
未掲載
11
22
19
原判決維持
未掲載
1
5
3
原判決変更
未掲載
10
16
14
22
訴訟取下
未掲載
0
1
1
最高人民法院の知的財産権裁判廷に移送された知的財産権行政事件数は尐ないもの
の、2011 年の 90.90%、2012 年の 72.72%、2013 年の 73.69%と高い確率で、原判決が
変更されている。
図表Ⅰ-10(件数)
全国の地方人民法院知的財産権に関わる刑事一審事件の新受件数
項目
2010 年
知的財産権
侵害罪
偽粗悪品
生産販売罪事件
不法経営罪事件
その他の事件
2011 年
2012 年
2013 年
1294
3134
7840
5021
609
774
2607
2455
2054
1747
2587
1686
25
52
70
169
図表Ⅰ-11
全国の地方人民法院の知的財産権刑事一審事件の各判決結果の件数
(既済ベース)
項目
2010 年
2011 年
2012 年
2013 年
既済事件件数
3942
5504
12794
9212
判決発効対象者数
6001
10055
15518
13424
刑事処罰対象者数
6000
7892
15338
13265
知的財産権侵害罪
1254
2967
7684
4957
609
750
2504
2390
2054
1735
2535
1712
25
52
71
153
偽粗悪品生産販売罪
不法経営罪
その他の犯罪
図表Ⅰ-12
全国の地方人民法院の知的財産権侵害罪と判決された事件のうち,各罪名の件数
(既済ベース)
項目
2010 年
2011 年
2012 年
2013 年
偽商標登録罪
585
1060
2012
1546
偽商標登録商品販売罪
345
863
1906
1496
182
370
615
350
2
1
63
1
違法製造された登録商標標章の違法
な生産販売罪
特許特許偽称罪
23
著作権侵害罪
権利を侵害する複製品販売罪
営業秘密侵害罪
85
594
3018
1499
5
30
27
15
50
49
43
50
図表 1-10~12 のデータのとおり、2012 年まで増加し続けていた全国の地方人民法院
の知的財産権刑事一審新受事件、既済事件が 2013 年(それぞれ、9331 件、9212 件、対前
年比 28.79%減、28%減)に減尐に転じており、判決発行対象者、処罰対象者の減尐も示
した。それは、2010 年から 4 年以来、知的財産権の刑事司法保護を強化し、刑事裁判の
知的財産権侵害犯罪に対する制裁及び予防の効果の現れであったと言える。
役割を上記統計結果を見る限り、中国における知的財産権の司法保護状況が継続的に
改善され、知的財産権裁判体制のレベルアップに繋がったものの、なおも大量の知的財
産権侵害行為が存在することや、事件の多様化、グローバル化が進むにつれ、複雑で困
難な事件が増える可能性もあり、依然として大きな負担を抱えており、厳しい試練に直
面していると言えよう。
24
3. 2010 年以降 4 年分の同司法保護状況の推移分析
近年、最高裁は、毎年 4 月、前年の知的財産権司法保護状況(白書という)を発表して
いる。同白書で、裁判職能、知的財産権戦略、裁判の監督及び業務指導、担当裁判官
チーム強化などの内容を含め、知財訴訟に関する統計情報、及び司法保護方針などを紹
介している。同白書は、既に、中国知財司法保護現状と発展傾向を把握するための重要
な書類となっている。
2010 年以降 4 年分の同白書から、以下の傾向を読み取ることができる。
(1) 知的財産権裁判業務は毎年新たな進展を示し、2013 年以降、事件の増加幅が鈍化す
る一方で、裁判の困難度が増した。全国地方人民法院が新たに受理・終結した知的
財産権民事一審事件は、2010 年~2012 年の三年間、每年、前年に比べ約 40%増加し
ていたが、2013 年は大きな変化がなく、前年に比べて数パーセント(全国地方人民
法院の第一審事件の新受件数は 1.33%増と微増)しか増加していない。一方、裁判
の効率と品質は年々高まり、2013 年は、渉外知的財産権関係民事事件、先端技術に
係わる新類型、複雑な事件、著名企業の重大利益であるブランド保護に係わる事
件、技術成果の商業使用に係わる技術契約事件、市場競争秩序維持に係わる不正競
争事件が増えており、裁判の困難度も高まっている。
(2) 調停の役割を重要視する。2010 年には「事件の調停制度を強化し、矛盾解消に尽力
する」、「調停可能な分野を広げ、司法調停プロセスを規範化し、調停の質の効率を
向上させるためにさまざまな方策を採用する」を挙げ、2011 年には「調停と判決の関
係をあくまでも正確に処理し、調停行為の規範化に尽力し、調停の質を引き続き高
める」と調停の質的向上を引き続き目指し、更に 2012 年には「より画期的な調停方
式で、業界の協会や科学技術の専門家の優勢を十分に発揮させ、委託調停、業界調
停及び専門家による調停など多種多様な調停方式の積極的に探る」と多種多様な調
停の方式の達成を目指した。そして、2013 年には「司法調停、人民調停、行政調停
を連携させた「三位一体」調停体制を充实化させ、委託調停、行政調停、専門家によ
る調停などさまざまな調停方法の模索」と調停を引き続き強化し、調停方法の革新
を目指した。2010 年全国知的財産権民事一審事件の平均調停・提訴取下率は
66.76%に達し、前年比で 5.68%上昇し、2011 年全国知的財産権民事事件一審調
停・提訴取下率は 72.72%に達し、2012 年全国知的財産権民事一審事件の調停・取
下率は 70.26%に達し、2013 年全国知的財産権民事事件一審調停・提訴取下率は
68.45%に達した。社会から注目を浴び、社会的影響の大きな知的財産権関係民事
事件として、マイクロソフト社と安徽省皖儀科技術股份有限公司のコンピューター
ソフト著作権侵害をめぐる紛争事件などが挙げられ、調停することによって、社会
的及び法律的に優れた効果を収めた。
(3) 裁判監督指導を強化し、司法保護の規範を健全化、充实化したことは、ここ 4 年以
来、中国における司法保護が最も重要視し、かつ、顕著な進展を实現した結果であ
25
る。最高裁が、重大典型判例、裁判指導資料などの評価・公表を通じて、関係法律
適用問題を釈明したことは、地方人民法院だけではなく、社会公衆にとっても、指
導や参考となる。また、裁判の調査研究を強化し、法適用統一のための手段を開拓
した。
(4) 司法公開を強化し、司法公信を向上する。白書で関係統計情報を公開するほか、各
人民法院に、裁判文書をインターネットにて公開するよう要求した。2013 年末まで
に、インターネットを通じて公開された全国の各級人民法院において発効された知
的財産権関係裁判文書は 61368 枚に上った。また、司法の公開手段も多様化し、開
廷審理のオンライン生配信、人民代表大会の代表を知的財産権事件裁判の傍聴者と
して招待し、司法保護状況白書及び典型事件の公布するなどによる公開もますます
増加しており、規範となっている。
(5) 裁判の影響力が増加している。人民法院は、社会関心度が高く、影響力が大きく、
紛争の規模が大きく、産業発展と係わる事件の解決を通じて、各当事者の権利を保
護して、知的財産権の司法的影響力を高めている。例えば、インターネット分野の
競争ルールを確立した奇虎会社とテンセント会社の間の不正競争紛争事件等が挙げ
られる。
26
Ⅱ 判例研究
1. 最高人民法院「2013 年の中国の人民法院における 10 大知的財
産権事件」
以下の裁判例の解説において、「事件の概要」及び「事件の典型性」は、(出典:htt
p://www.legaldaily.com.cn/index_article/content/2014-04/21/content_546766
6.htm)を和訳したものであり、「コメント」は、本レポートの執筆担当事務所が作成
したものである。
(1) 知的財産権民事事件
①
新材料技術分野の均等論適用をめぐる特許侵害事件
湖单科力遠新能源股份有限公司と愛藍天高新技術材料(大連)有限公司等の特許権
侵害紛争をめぐる上訴事件【江蘇省高級人民法院(2011)蘇知民再終字第 1 号民事判
決書】
【事件の概要】
湖单科力遠新能源股份有限公司(以下「科力遠社」という)は、「スポンジ状多孔質
ニッケルの調製方法」と称する特許権を有していた。当該特許の権利付与手続おい
て、特許出願人は、「マグネトロンスパッタリング工程条件の総括は、係争特許の
進歩性を反映しており、原請求項 1 とマグネトロンスパッタリングの工程パラメー
タに関わる原請求項 2 を新請求項 1 に修正したことは、係争特許の進歩性を有す
る」と説明した。科力遠社は、特許権を侵害したとして、愛藍天高新技術材料(大
連)有限公司(以下「愛藍天大連社」という)、湖单凱豊新能源有限公司(以下「凱豊社」
という)を人民法院に提訴した。長沙市中級人民法院は、審理の結果、「愛藍天大連
社が採用する製造方法の技術的特徴は係争特許の方法の技術的特徴と同一又は又は
均等である」として、愛藍天大連社に対し、経済的損失 2,900 万元余を科力遠社に
賠償するよう命じる判決を下した。湖单省高級人民法院で行われた第二審では、一
審判決が維持された。愛藍天大連社は最高人民法院に再審を請求し、最高人民法院
は江蘇省高級人民法院に本件の再審を命じた。再審では、審理の結果、次のとおり
判断がなされた。係争特許の請求項に記載されたバックグラウンド真空度と動作真
空度はそれぞれ(1.1~4.7)×10-3Pa、(2.7~4.7)×10-2Pa で、特許権侵害と指摘さ
れた技術方案の中のバックグラウンド真空度と動作真空度はそれぞれ 2×10-2Pa、
(2.0~2.5)×10-1Pa であり、両者は一桁分(10 倍)異なり、約 10 倍の圧力変化がス
パッタ効率に影響を及ぼさないことを証明するに足る直接的な証拠がない状況にお
いては、両者がほぼ同一の効果に達すると認定すべきでない。係争特許のマグネト
ロンスパッタリングプロセスに関わる各種のパラメータ条件はいずれも先行技術に
おいて触れられたか、又は先行技術の範囲から選択された小さな範囲である。とは
27
いえ、最終的に所期のスパッタ効果を得るためには、これらの工程パラメータの範
囲を入念に計算した上で大量の实験によって検証されなければならない。したがっ
て、これらのパラメータは、すでに、先行技術の中であらゆる人の参考・選択の用
に供する公共財としての属性から、特定の対象のみに用いられる排他的な属性に変
えられた。一方、特許権侵害と指摘された技術方案の中で採用された真空度パラ
メータは、本分野の一般技術者による創造的労働がなくても先行技術から容易く得
られる技術方案であるため、両者間で簡卖に連想しうることによって均等論の適用
を安易に主張することはできない。最後に、係争特許の請求項の中の真空度パラ
メータは端点が明らかなデータ範囲であり、その範囲は特許出願人が概括的な選択
により決定したものであるため、均等論の適用は厳格に制限すべきであって、その
範囲と明らかに異なるデータを均等の技術的特徴の範囲に組み入れるべきではな
い。以上の点から、特許権侵害と指摘された技術方案の中の「バックグラウンド真
空度と動作真空度」の特性と係争特許の請求項に記載された「バックグラウンド真空
度と動作真空度」の特性は同一ではなく、均等でもないため、特許権侵害と指摘さ
れた技術方案は係争特許権の保護範囲にはない。以上の理由により、科力遠社の請
求を却下する判決を下した。
【事件の典型性】
本件の争点は、「特許による保護を求める技術方案が先行技術の最適化によって
形成された好適な技術方案である上、その中に端点が明らかなデータ範囲という技
術的特徴があるとき、その特許について均等論適用の範囲をいかに確定するか」で
ある。本件の再審判決において、人民法院は、係争特許の技術的特徴を正確に分析
し、均等論を正しく適用することによって、先行技術の最適化によって形成された
特許の技術方案については均等論適用の範囲を厳格に制限すべきであるという裁判
のルールを打ち立て、類似事件の処理に模範を示したといえる。
28
【コメント】
本判決は「均等論」の適用を否定し、均等成立の要件について解釈を示した裁判例で
ある。
係争特許の請求項に記載されたバックグラウンド真空度及び動作真空度と、専利権
侵害を指摘された技術の中のバックグラウンド真空度及び動作真空度は一桁分(10 倍)
異なり、約 10 倍の圧力変化がスパッタ効率に影響を及ぼさないことを証明するに足る
直接的な証拠がないため、「基本的に同一の効果をもたらすこと」には該当しないとさ
れた。
また、最終的に所期のスパッタ効果を得るためには、これらの工程パラメータの範
囲を入念に計算した上で大量の实験による検証が必要となるため、「当該領域の普通の
技術者が創造的な労働を経なくても連想できる特徴であること」には該当しないとされ
た。
さらに、係争特許の請求項の中の真空度パラメータには端点が明らかなデータ範囲
があり、これは特許の出願人が概括的な選択により決定したものであるため、均等論
適用を厳格に適用すべきであって、その範囲と明らかに異なるデータを均等の構成要
件の範囲に組み入れるべきではないとされた。
本判決は、「基本的に同一の効果をもたらすこと」及び「当該領域の普通の技術者が創
造的な労働を経なくても連想できる特徴であること」を具体的にあてはめ、構成要件の
端点値範囲が明確な場合の均等論の厳格適用について示した裁判例である。
ⅰ
専利権侵害訴訟の判断原則
一般的に、専利権侵害訴訟において、訴えられた技術方案が原告側の特許発明
の技術的範囲に属するか否かが問題とされる。技術的範囲に属するか否かは「オー
ルエレメントルール」(即ち「権利侵害で訴えられた技術方案が専利権の保護範囲に
入っているかを判断する際、人民法院は権利者が主張した請求項に記載された全
ての構成要件を審査しなければならない。」というルール)により判断する。さら
に、審査の際、権利侵害で訴えられた技術方案は権利者が主張した請求項に記載
された全構成要件の同一性だけではなく、均等についても、専利権の保護範囲か
否かを判断する。「均等」とは、「オールエレメントルール」を補足する「均等論」の
ことである。権利侵害者は権利侵害責任を避けるため、権利侵害する技術方案の
うち、権利者の特許と異なる構成要件を又は加除して、権利侵害で訴えられた際
に、権利侵害で訴えられた技術が係争特許より優れている、又は务っているた
め、専利権侵害を構成しないとする主張が散見される。権利者が請求項を作成す
るとき、将来の権利者の全ての権利侵害手段を想定できないことから、文言侵害
の原則の例外として、専利権者の保護のために保護範囲を拡張し、専利権者の権
益を保護する制度である。
ⅱ
均等論の法律根拠
29
均等論の法律根拠は「最高人民法院による専利紛争案件審理の法律適用問題に関
する若干規定」(2001 年 6 月 22 日公布)(以下「専利司法解釈」)である。具体的な規
定は下記のとおりである。
専利司法解釈第 17 条には「専利法第 56 条第 1 項(現行法の第 59 条第 1 項)にい
う『専利権又は实用新案権の保護範囲は、その請求項の内容を基準とし、明細書
及び添付図面は請求項の内容を解釈に用いることができる』権利の保護範囲と
は、請求項に明記された必要構成要件により確定される範囲を基準とすることを
指し、それには当該必要構成要件と均等な特徴により確定される範囲も含まれ
る。均等な特徴とは、記載された構成要件と基本的に同一の手段により、基本的
に同一の機能を实現し、基本的に同一の効果をもたらし、且つ当該技術の属する
技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が創造的な労働
を経なくても連想できる特徴を指す。」と規定されている。
ⅲ
均等論適用の要件
上記法律根拠に基づき、中国法における均等論は下記の 4 つの要件が規定され
ている。
a
基本的に同一の手段によること
b
基本的に同一の機能を实現すること
c
基本的に同一の効果をもたらすこと
d
当該領域の普通の技術者が創造的な労働を経なくても連想できる特徴である
こと
しかしながら、上記の規定は原則的なものであり、明確な解釈は人民法院によ
り個別の案件に示されている。
なお、北京高級人民法院は 2013 年 9 月 4 日に「専利権侵害判定ガイドライン」
(以下「北京ガイドライン」)を公布し、当該北京ライドラインに均等論に関する解
釈が明確に規定されているが、これは北京市の地方司法解釈であるため、北京市
の人民法院にて訴訟を行う際に参照するにとどまる。もっとも、北京ガイドライ
ンの幾つかの解釈は最高人民法院により公布される「十大知的財産権案件」及び「十
大創新案件」等により確定されていることから、参照価値は高いと思われる。
ⅳ
北京ガイドラインの均等論適用に関する解釈
a.
基本的に同一の手段によること
訴えられた権利侵害行為の発生日前に、属する技術分野において、よく入れ
替わる構成要件及び工作原理がほぼ同一であることをいう。出願日後に出現
し、工作原理が特許の構成要件と異なる場合は訴えられた権利侵害行為の発
生日が容易に連想できる代替的な特徴に属する場合、基本的には同一な手段
と認定することができる(北京ガイドライン 44)。
b.
基本的に同一の機能を实現すること
権利侵害で訴えられた技術方案の代替的な手段による作用は、係争特許の請
30
求項に対応する構成要件が特許技術方案における作用と基本的に同一である
ことをいう(北京ガイドライン 45)。
c.
基本的に同一の効果をもたらすこと
一般的に、権利侵害で訴えられた技術方案の代替的な手段により实現される
効果が、係争特許の請求項に対応する構成要件の技術的効果と实質的相違が
ないことをいう。
訴えられた権利侵害技術方案の代替的な手段に関しては、係争特許の請求項
に対応する構成要件と比較して、技術効果の面で明らかな向上又は低下がな
い場合、实質的相違がないと認められるものとする(北京ガイドライン 46)。
d.
当該領域の普通の技術者が創造的な労働を経なくても連想できる特徴である
こと
当業者が権利侵害で訴えられた技術方案の代替的な手段に関して、係争特許
の請求項に対応する構成要件と相互に入替可能なことが明らかであることを
いう(北京ガイドライン 47)。
ⅴ
近年の均等論の裁判例
近年、司法裁判する際、均等論適用について、厳格に解釈される傾向がある。
厳格に解釈された各裁判例(均等成立否定例として、近年、十大案件として公布さ
れた案件)を下記のとおり挙げる。
a.
上記の四つの要件を満たされなければ、均等論を適用するべきではない。
【(2010)民申字第 181 号】
請求項において、「……により構成」のような閉鎖式請求項が用いられている
場合、均等論を適用することができない。【(2012)民提字第 10 号】
b.
請求項に限定された技術手段と相反する技術手段を用い、相反する技術効果
を得られる場合、均等論を適用することができない。【(2013)民申字第 1146
号】
c.
権利侵害で訴えられた技術方案は係争特許のある構成要件が欠ける場合、均
等論を適用することができない。【(2011)民申字第 1490 号】
d.
方法特許に関して、当該特許のステップが変わると、技術機能又は技術効果
上の实質的相違をもたらす場合、当該方法特許のステップが変わる係争特許
について均等論を適用することができない。【(2013)民提字第 225 号】
②
醬油「威極」の商標権侵害及び不正競争をめぐる紛争事件
佛山市海天調味食品股份有限公司と佛山市高明威極調味食品有限公司の商標権侵
害及び不正競争をめぐる紛争事件【広東省佛山市中級人民法院(2012)佛中法知民初
字第 352 号民事判決書】
31
【事件の概要】
佛山市海天調味食品股份有限公司(以下「海天社」という)は、登録商標「
」の
権利者であり、同商標を 1994 年 2 月 28 日に登録し、使用範囲として醬油などの商
品を指定した。1998 年 2 月 24 日に設立された佛山市高明威極調味食品有限公司(以
下「威極社」という)は、「威極」の二文字を企業の屋号に使用するほか、広告看板、
銘板において、人目を引くように「威極」の二文字を使用した。威極社が工業用塩水
を醬油の生産に不法に使用したことが明るみになった後、海天社の信用と製品の売
上げはいずれも影響を受けた。海天社は、威極社の行為は自社の商標権を侵害し、
不正競争を構成すると考え、広東省佛山市中級人民法院に訴訟を提起し、威極社に
権利侵害行為の停止及び謝罪を命じ、自社の経済的損失及び合理的な費用合わせて
1,000 万元を賠償する判決を下すよう求めた。広東省佛山市中級人民法院で行われ
た第一審では、「威極社はその広告看板と企業銘板に人目を引くように『威極』の
二文字を使用し、海天社の登録商標専用権を侵害した。威極社の株主 2 名は会社設
立前から食品関連及び醬油生産関連の業界で働いていたため、道理からいって海天
社と海天ブランドの製品を知り得るべきであるにもかかわらず、海天社の登録商標
『
』の中の『威極』の二文字を企業の屋号として登録したことは、海天社の
商標のれんを利用しようとする悪意があり、消費者を誤導し又は誤認させ、海天社
の営業上の信用を毀損し、不正競争を構成する」として、威極社に対し「その広告看
板、企業銘板にある人目を引く『威極』の二文字の使用を直ちに停止し、屋号に
『威極』の文字を含む企業名の使用を停止し、判決発効から 10 日以内に工商部門
で屋号の変更手続を行った上で、海天社に対する謝罪文を新聞に記載してその影響
を除去するとともに、海天社に経済的損失と合理的な費用合わせて 655 万元を賠償
する」よう命じる判決を下した。損害賠償の計算時、審理を行った人民法院は海天
社が 16 日以内に取得すべき合理的な利益額と合理的な利益の縮小率から海天社が
信用毀損によって被る損失を推算し、威極社による登録商標専用権の侵害行為と不
正競争行為の性質、期間、影響などの要素を勘案した上で、製品の売上げ低下に
よってもたらされる海天社の損失額を 350 万元と算出した。また、影響除去、信用
回復、権利侵害結果の拡大制止のために海天社が支払った合理的な広告費 300 万元
と弁護士費用 5 万元を賠償の対象に含めた。これを受け、威極社は上訴したが、第
二審の段階で自発的に上訴を取り下げた。
【事件の典型性】
本件は、威極社が工業用塩水を醬油の生産に不法に使用した「醬油スキャンダル」
事件に起因する訴訟であり、社会から多くの注目を浴びた。人民法院は裁判におい
て適法かつ有効な民事責任の確定によって、権利者の利益を確实に保護した。侵害
停止に関して、人民法院は被告が不正競争を構成すると認定した後、被告に対し、
係争屋号の使用を停止し、企業名を一定の期限内に変更するよう命じる判決を下す
ことで、権利侵害行為が再発する可能性を根本から取り除いた。損害賠償に関し
32
て、権利者が受けた損失が多大であることの証拠はあっても、既存の証拠では实際
の損失額を直接に証明することができないという状況下において、監査報告書など
の証拠を踏まえて法定の賠償額以上の損害賠償額を確定したことで、権利者が实際
の損失に近い損害賠償金を取得し、権利者が受けた損失を最大限補償するに至っ
た。また、権利侵害行為と不正競争行為による影響の除去、信用回復、権利侵害結
果の拡大制止のために権利者が支払った合理的な広告費を賠償の対象に含めたこと
には、知的財産権司法保護の強化とその決意が示されている。
【コメント】
本件の注目すべきポイントは、(ⅰ)登録商標と企業名称の抵触、(ⅱ)損害賠償金
額の算定の 2 点である。特に、(ⅱ)に関していえば、本件は、判決当時有効な商標
法(2001)(下記、「旧商標法」という。)で定める法定の賠償金額上限(50 万元)を大幅
に超えた 655 万元の損害賠償の支払いを命じている点で、今後の裁判動向を推察す
る上で意義深い判決といえよう(この背景には、広東省高級人民法院が推進する「パ
イロット業務」が関係しているものと推察されるが、この詳細については、本報告
書 V.3 以下を参照されたい)。
そこで、(ⅱ)に重点を置きつつ、以下解説する。
ⅰ
登録商標と企業名称の抵触
a.
中国で多発する「登録商標と企業名称の抵触」
本件は、中国で多発している「登録商標と企業名称の抵触」案件の典型的
なパターンに属する。ここでいう「登録商標と企業名称の抵触」とは、権利
者 X が登録した商標 A が、後に第三者(侵害者)によって当該第三者の企業
名称(商号)A 社として登録された結果、権利者 X の製造した登録商標 A を
付した(正規)商品と、A 社が製造した類似商品について、人々の誤認混同
が生じてしまった状況を意味する。
b.
商標権侵害行為について
本件の第一審人民法院は原告の主張を支持し、被告の行為が原告の登録
商標に対する商標権侵害行為に該当すること、及び原告に対する不正競争
行為を構成したことを認定した。この認定のプロセス及び結論は、中国法
上の関連規定及びこれまで裁判例において確立されてきた法適用に係る運
用基準に則るものであるということができる。
すなわち、中国法の関連規定によれば、企業名称の使用が商標権侵害を
構成するには、(a)当該企業名称が先に権利者によって登録されている商
標と類似し、(b)当該企業名称が権利者の登録商標の指定商品・役務と類
似する商品・役務において使用されたというだけではなく、(c)かかる企
業名称を人目を引くように(商標として)使用し、かつ関連公衆に誤認混同
33
を生じさせたという要件も必要である3。
この点、本件では、醤油製品を含む調味料製造会社である被告が、原告
が先に登録した商標(「威極」)と類似した被告の企業名称の商号部分(「威
極」)を(上記(a)充足)、宠伝作用を持つ広告看板において使用したもので
あり(上記(b)充足)、かつその文字の表記にあたっては、他の企業名称を
表示する文字に比して大きく、かつ他の字が黒字表示であるのに対して赤
字表示にすることで明らかに目立つように配置したものであり、これに
よって「威極」部分は、被告の企業名称から独立した商標として使用されて
いるといえる(上記(c)を充足)。
第一審人民法院は、被告のかかる行為が容易に関連公衆に誤認混同を生
じさせる状況を作出するものであることを認定した上で、被告が原告の登
録商標の商標権を侵害したと認めたものである。
c.
不正競争行為について
裁判实務において、企業名称の登録行為が不正競争行為4に該当するか否
かは、登録商標を後から企業名称として登記した側に、当該登録商標の信
用や名声を利用する故意があったか否かという点が争点となることが多
い。本件では、被告が原告と同じ地域(広東省沸山市)における同種製品の
製造業者であったこと、原告会社ブランドとしての「威極」の知名度が確立
していたことの証拠はないものの、原告会社の「海天」ブランドの醤油が高
い知名度を有している状況において、その子ブランドである「威極」の醤油
の知名度も日増しに高まっていくことが合理的に推定されること、被告が
「威極」を商号とする理由を説明できなかったこと、及び被告が当該企業名
称を登記する以前には、国際的な著名企業と同一の名称で登記することも
検討していた経緯からして、被告が原告の信用や名声を利用する故意が
あったことが容易に推定できよう。
第一審人民法院は、この点に加えて、上記のとおり、被告が实際に社会
公衆に誤認混同を起こしたという事实も認めた上で、被告の企業名称登録
行為が不正競争行為に該当すると認定し、被告に対して「威極」を含めた企
業名称の使用を停止し、判決発効日より 10 日以内に企業名称の登記機関
にて企業名称変更手続を行うよう命じたものである。
3
他人の登録商標と同一又は類似の文字を企業の屋号として同一又は類似の商品に目立つように使用
し、容易に関係公衆を誤認させる行為は、旧商標法第 52 条(5)号[新商標法第 57 条(7)号]で定める
「他人の登録商標専用権に対してその他の損害を与えた場合」に該当する(「商標民事紛争案件の法律
適用の若干問題に関する最高人民法院による解釈」(法釈[2002]32 号)第 1 条(1)号)
4
無断で著名商品特有の名称、包装、デザインを使用し、又は著名商品と類似の名称、包装、デザイ
ンを使用して、他人の著名商品と混同させ、購入者に当該著名商品であると誤認させること等の手
段により市場取引を行い、競争相手に損害を与える行為は禁止される(不正当競争防止法第 5 条第 2
号)、新商標法第 58 条)。
34
ⅱ
損害賠償金額の算定について
本件において一審の人民法院は、原告が被告に対して請求した損害賠償金額
1000 万元のうち、最終的に 655 万元を認容するに至った。
冒頭でも述べたとおり、この賠償金額は、中国のこれまでの類似案件に比較
すると異例の高額である。そのため、原告がどのような立証活動を展開し、一
審の人民法院が原告の請求及び証拠をどのように評価したのかは、今後、日系
企業が知財関連の損害賠償を主張する際に参考になる点が尐なくないと思われ
る。そこで、本項では、次頁から始まる一覧表において、原告の請求内容及び
立証内容、並びに人民法院の認定内容を整理した上で、そこから導き出される
日系企業への示唆について言及したい。
原告の請求及び立証内容
人民法院の認定内容
日系企業への示唆
(1)製品の販売数量の下落
原則:原告の商業的信用の毀損
◆高額の賠償額の認定を勝ち取る
による利潤の損失:
による損害を主軸として、商標
ためには、権利者が实際に損失を
権侵害及び不正競争行為によっ
受けたという事实の立証が不可欠
て受けた損害を考慮して、利潤
である。本件で原告の損失が高額
の損失を決めること。
となった背景には、原告の登録商
◆左記①の期間を認容
標と被告の企業名称が近似してい
①
賠償額の計算期間:
2012 年 5 月 22 日(被告に
たために、原告が社会公衆から、
よる工業用かん水の醬油
左記(1)①の不祥事で刑事責任を
生産への違法使用が世間
追及された被告と関連のある会社
に公表された日)~2012 年
ではないかと疑われた結果、原告
6 月 6 日(本件受理日)の
製造の醤油の売上げにも一時的な
16 日間
影響が及んでしまったことがあ
②
利 潤 損 失 5,941,996
◆左記②について
る。本件第一審判決において「原
元と主張
⇒原告が左記①の期間で得るべ
則」記載の認定が採用された趣旨
2010 年から 2011 年への利
き利潤は、「株式募集説明書」に
は、上記の背景事情を汲み、原告
潤加率の比率をもって
照らし、最近 3 年間の平均利潤
が受けた損失の計算において、原
2012 年 の 利 潤 額 を 推 定
額により確定した 43,000,000 元
告の商業的信用が著しく害された
し、そこから上記計算期
が相当である。
という点を重視した結果と解され
間の利潤額を計算し、当
⇒代理店の販売数量の下落率≠
る。
該利潤額に代理店等の販
原告の利潤の下落率
◆従前の知的財産権の侵害訴訟に
売数量の下落率(=原告の
(ⅰ)利潤の下落には販売数量の
おける裁判例では、権利者がその
利潤下落率)を乗じること
みならずコストや市場の状況等
損失又は侵害者の不法利得を立証
で算出する。
さまざまな要因が影響する。
できない場合、ほとんどの例で法
【関連証拠】
(ⅱ)原告の製品の構成比率、販
定の損害賠償額の上限をもって損
(a)期間中、代理店(11 店
売規模、販売市場等は各代理店
害賠償額が確定されてきた。しか
35
舗)が発行した販売額の損
のそれと異なるため、代理店の
し、本件においては、原告の損失
失統計表(上記①の期間に
販売数量の下落を原告の利潤率
額は特定できないものの、原告に
おける販売量を、前年度
に直結させることはできない。
立証活動及び個々の証拠の提出に
同期の販売量と比較した
(ⅲ)原告と利害関係のある代理
より尐なくとも損害額は法定の損
場合の下落率をも って、
店が提出したデータの正確性及
害賠償額の上限を超えることにつ
利潤下落率を証明する)
び実観性について保証できな
いて人民法院の心証を得て、法定
(b) 「 株 式 募 集 説 明 書 」
い。
の損害賠償額の上限(当時 50 万
(2011 年 度 の 利 潤 総 額 が
(ⅳ)原告が提供した過去年度の
元)に縛られず、原告の損失額を
2010 年度の利潤総額より
利潤額のデータには、国外の利
合理的に決めようとした点が注目
20.9% 増加して いる部分
潤額も含まれているところ、本
される。この手法は、まさに広東
をもって、2012 年度の総
件に関して損失を受けたのは国
省高級人民法院が進めている「パ
利潤額を利潤の増加率に
内市場に限られるため、利潤額
イロット業務」の内容の 1 つと符
基づき確定することの合
の計算においては、原告が左記
合するものであり、今後もかかる
理性を証明する)
①の期間内に国外市場において
手法が推奨されることが期待され
取得した利潤額部分を控除すべ
る。
きである。
◆代理店のデータは販売量の証明
⇒立証活動の不十分
にとって参考に値するものの、そ
原告は比較的大規模な株式会社
の証明力には限界がある。本件裁
として、内部には厳格な財務会
判では、原告と代理店の利害関係
計管理制度を有し、自社製品の
をもって、そのデータの実観性と
販売量及び売上げの変化を把握
正確性に疑問が呈示されている。
すべきであるにもかかわらず、
よって、権利者企業としては、裁
関連データを提出せず、利潤の
判における証明に堪えうるような
損失額の監査申請も行なってい
実観性のある資料(例えば毎月製
ない。
品類別ごとの販売量や利潤額の統
計及び変動データ等)を作成し、
★
以上の状況を総合考慮し
保管しておくことが肝要である。
て、第一審人民法院は、原告側
◆権利者が自社製品の販売量、利
が権利侵害によって受けた損失
潤率のデータを提出できない場
及び被告が侵害行為によって得
合、損失額が算定できないだけで
た不法利得とも確定できないと
はなく、裁判官から、本来保有し
した上、原告が 16 日間で得るべ
ているはずの資料を故意に提出し
き合理的利潤額・合理的な利潤
ないとみなされ、「立証妨害制度」
の下落率から、原告が信用毀損
(本報告書 V.3(3)②をご参照)を
によって受けた損失を推算する
適用される可能性がある。特に本
ことにし、かつ被告の侵害行為
件のように規模が大きい会社は内
の性質、期間及び結果等の要素
部財務会計制度が完備され、かか
36
を考慮し、原告が販売量の下落
る資料は当然に保有しているだろ
によって受けた利潤の損失が 350
うとの推定が強く働くため、適用
万元と確定した。
の可能性がより高まる点に留意が
必要である。
(2)原告ブランドへの影響
⇒原告側が主張した広告費用の
◆権利者が知的財産権の被害によ
を除去するための広告費
うち、合理的な部分を認める。
る影響を除去するために行なった
用(4,008,004 元)を請求
人民法院が合理的と認めた範
広告の費用も損害賠償金額に含め
【関連証拠】
囲は次のとおりである。
て主張するべきである。
(a)原告が広告した文面、
(ⅰ)広告の期間:2012 年 5 月 25
◆広告費用のうちどの範囲が損害
(b)広告会社が発行した広
日~6 月 1 日
賠償と認められるかはケース・バ
告費の領収書(上記(1)①
(ⅱ)広告地域:広東、湖单、山
イ・ケースであるが、広告の必要
の被告の不祥事による原
東、海单、北京、上海、四川
性と合理性(期間、地域及び内容)
告ブランドへの影響を払
(ⅲ)広告の内容(被告と原告とが
を踏まえた立証活動が必要とな
拭するために高額を投じ
無関係であることの声明部分の
る。
て広告を行なったことを
み)
◆左記のとおり、純粋な製品の宠
証明する)
→広告内容のうち、原告製品の
伝部分については、影響の除去に
宠伝にかかる部分の費用につい
不必要な内容として、損害賠償額
ては一部減額が相当である。
から除かれることは合理的であ
る。もっとも、实際に広告を行な
★
以上により、原告が主張し
う場面では、明確な線引きが難し
た広告費用のうち、合理的な金
い内容を含む場合も想定されるこ
額を 300 万元と認定した。
とから、広告の仕方にも工夫を要
する。
(3)弁護士費用(50,000 元)
⇒請求額 50,000 元を認容する。
◆弁護士費用については、中国各
【関連証拠】
地の弁護士会に弁護士報酬の徴収
・弁護士事務所の発行し
基準やレートに係る規定がある。
た領収書(原告が本件のた
その基準に合致するような金額で
めに弁護士に 50,000 元を
あれば、案件や地域によって運用
支払ったことを証明する)
が異なる可能性があるものの、人
民法院の支持を得易くなると考え
られることから、弁護士に依頼す
る際には基準と金額の透明性・合
理性にも留意する必要がある。
37
③
銭鍾書氏の書信手稿の競売をめぐる訴訟前の侵害行為差止めの申立て事件
楊季康と中貿聖佳国際拍売有限公司、李国強の訴訟前の侵害行為差止申立事件【北
京市第二中級人民法院(2013)二中保字第 9727 号民事裁決書】
【事件の概要】
申立人である楊季康の供述によると、銭鍾書氏(故人)と楊季康は夫婦で、2 人には
一人娘・銭瑗氏(故人)がいた。銭鍾書氏、楊季康、銭瑗氏は友人である李国強に私書
を 100 通余送った。当該私書は李国強が収蔵していた。2013 年 5 月、中貿聖佳国際拍
売有限公司(以下「中貿聖佳社」という)は 2013 年 6 月 21 日 13 時に上記銭鐘書の私書
を公開で競売にかけるオークション「也是集――銭鍾書書信手稿」を開催し、2013 年 6
月 18 日から 6 月 20 日に下見会を開催するとの公告を発表した。楊季康は、銭鍾書
氏、楊季康、銭瑗氏はそれぞれ各自が執筆した私書作品について著作権を有すると考
えた。銭瑗氏は 1997 年 3 月 4 日に、銭鍾書氏は 1998 年 12 月 19 日に病死した。銭鍾
書氏の死後、その著作権のうち、財産権は楊季康氏によって相続され、氏名表示権、
改変権、作品の同一性の保護権は楊季康氏によって維持され、公表権は楊季康氏に
よって行使された。銭瑗氏の死後、その著作権のうち、財産権は楊季康と銭瑗氏の配
偶者である楊偉成氏によって共同で相続され、氏名表示権、改変権、作品の同一性の
保護権は楊季康と楊偉成氏によって維持され、公表権は楊季康と楊偉成氏によって共
同で行使された。楊偉成氏は本件において権利を主張しないと明確に表明したことか
ら、楊季康が法に基づいてかかる権利を主張する権利を握った。楊季康は、「中貿聖
佳社と李国強が近々实施する私書の公開競売及び实施中の一般公開、宠伝などの活動
は、楊季康が所有し、相続する著作権を侵害するものである。これらの活動を速やか
に停止しない場合、楊季康の適法な権利は取り返しのつかない損害を受ける」と主張
し、人民法院に対し、中貿聖佳社と李国強に楊季康が著作権を所有する私書の公開競
売、一般公開、公開宠伝の即刻停止を命じるよう請求した。2013 年 6 月 3 日、北京市
第二中級人民法院は「中貿聖佳社は競売、下見会、宠伝などの活動において、公開発
表、展示、複製、発行、情報ネットワーク通信などの形で、銭鍾書氏、楊季康、銭瑗
氏が李国強宛てに執筆した係争書信手稿の著作権を侵害してはならない」という裁定
を下した。この裁定書が送達された後、被申立人である中貿聖佳社は直ちに「2013 年
6 月 21 日の『也是集――銭鐘書書信手稿』の公開競売の停止決定」との声明を発表し
た。楊季康は 2013 年 6 月 13 日、中貿聖佳国際拍売有限公司、李国強を被告とした著
作権及びプライバシー権の侵害をめぐる紛争事件を人民法院に提訴した。
【事件の典型性】
本件は、著作者人格権をめぐる訴訟前の侵害行為差止めの申立て事件である。中国
の著名な作家、文学研究者であった故銭鍾書氏と中国の著名な作家、翻訳家、外国文
学研究者である楊絳5氏に関わる事件であるため、その審理は社会から多くの注目を浴
びた。人民法院は、審査の結果、「係争私書は著作権法によって保護された文字著作
物であり、その著作権は作者、即ち信書発送者が所有する。信書受領者及び信書手稿
を合法的に取得したその他の者を含む何人であっても、信書手稿を処分するにあたっ
て、著作権者の適法な権益を侵害してはならない。中貿聖佳社が、権利者が信書手稿
の公開に同意しない意思を表明している中で一般公開、公開競売を实施する行為は、
著作権者の公表権に対する侵害を構成するものであり、速やかに停止しない場合、権
利者に取り返しのつかない損害をもたらす」と判断し、公衆の利益の保護を熟慮した
上で司法裁定を迅速かつ慎重に下した。これにより、著作権者の権利が有効に保護さ
れただけでなく、競売会社と需要者に影響が及ぶことを防いだ。同禁止令は、私書発
送者の著作権とプライバシー権に対する社会全体、とりわけ私書受領者の保護意識を
高める一助となり、司法の権威を示し、社会を導く役割を果たした。
【コメント】
ⅰ
私書は未発表の文字作品としてその発表権が著作権者に帰属すること
本件裁定書は、私書について、①作成者が著作権を有する未発表の文字作品に
該当し、その著作権は法的保護を受けるべきであること、②作成者が著作権者と
して発表権を行使すること(作成者が死亡した場合にはその相続人が発表権を承
継して行使すること)ができること、③私書の受領者(保管者)でも、著作権者(作
成者又はその承継人)の同意なく、発表権を行使してはならないことを明らかに
した。
中国では、歴史的な著名人の私書が公開の書籍に収録されたり、博物館に展示
されたりすることは珍しくないため、本件私書の作者の著名性も相まって、本件
に対する社会的な反響は非常に大きかった。これらの私書については、その歴史
的研究価値にばかり注目が集まり、その私書の作成者である著名人、その承継者
たる遺族が有している著作権やプライバシー権を保護しようという意識は社会的
に乏しいといわざるを得ない。しかしながら、法律の学界においては 90 年代か
ら、私書は一部の例外を除いて、著作権法で定める作品の要件を満たすものであ
る以上、著作権法に基づいて保護されるべきであるという意見が度々聞こえてく
るようになった6。
本件の裁定は、これまで学界で形成されてきた意見を集約して判断された实例
であり、私書が個人の感情・観点・生活等の内容を变述するものであり、個人が
選択した文字、符号等の形式により表現される文学・芸術・科学的領域における
知力の成果であって、独創性を有することから、それが著作権法における「作品」
5
楊季康のペンネームである。
6
劉白駒「私人書簡の著作権問題」(「法律学習と研究」1992 年 1 期)
- 39 -
の特徴に合致すると結論付けることで、これまで明らかにされてこなかった私書
と著作権法との関係を明確にしたという意味において意義があるものと思われ
る。なお、本件裁定は、申立人の求める保全措置に対する裁定であり、保全措置
の必要性を判断するために必要な範囲内での検討にとどまるものであるため、私
書の著作権問題についてはさらに深く検討する余地がある7。
ⅱ
知的財産権侵害案件における訴訟提起前の保全措置について
2012 年第二次改正以前の民事訴訟法では、保全措置として、財産保全に関す
る規定のみ置かれ、行為の保全措置(一定の作為又は不作為を求める内容の保全
措置)は、知財関連訴訟においてのみ適用できるような建付けとなっていた8。
本件は、上記改正を機に、知財関連訴訟だけではなく、一般の民事訴訟にも訴
訟前の行為保全措置を導入することができるようになった初期段階で、民事訴訟
法9に基づき行為の保全措置を認めた事例であり、これこそ本件が 2013 年度十大
知財案件として選ばれたもう一つの理由であると思料される。
知的財産権侵害訴訟を提起しようとする場合、権利者は当該訴訟提起に先立
ち、あらかじめ人民法院に対して保全措置を申請することが一般的である。中国
の裁判实務において、訴訟前の保全措置がどのような基準で認められるかについ
ては、日系企業が最も関心を寄せる問題の 1 つである。
行為の保全措置は、当事者一方の行為又はその他の原因で判決の執行が困難に
なり、又は、当事者にその他の損害を与える恐れがある場合に認められ(民事訴
訟法第 100 条)、さらに、訴訟前の保全措置は、利害関係人が緊急の状況にあ
り、直ちに保全措置を認めなければその適法な権益が補填できないほどの損害を
被る場合(緊急性・必要性・回復困難性がある場合)に認められる(民事訴訟法第
101 条第 1 項)。
これまでの中国人民法院の保全实務では、以下の傾向が見られている。
a.
利害関係人の権利侵害状況の判断が直ちにつき難く、本案の審理において
慎重な判断を要するようなケースでは、裁判官が慎重になり、事前の保全
措置が認められにくい 。
7
本件書簡が(a)美術作品として認定される余地はなかったのか(本件の書簡の作者は著名な作家である
だけでなく、書道の造詣も深く、加えて本件書簡が毛筆で書かれたものであるため、美術作品として
認定することも可能であったように思われる)、(b)仮に美術作品として認定された場合、美術作品の
展覧権は原本の「所有権者」に帰属することを規定する著作権法第 18 条との関係をどう考えるのかとい
う問題を指摘する意見もある(金海軍「書簡上の物権、著作権及びプライバシー権とその相互関係」(「法
学」2013 年 10 期))。
8
当時、行為の保全措置について、専利法、商標法及び著作権法という特別法において規定が置かれて
おり、それ以外の一般的な民事訴訟案件(不正競争防止法関連の案件も含む)において行為の保全措置
が利用できる法的根拠がないという状況であった。
9
民事訴訟法(2012 改正)第 100 条
- 40 -
b.
人格的権利が侵害される可能性があるケースでは保全措置が比較的認めら
れやすい。
c.
被申立人(侵害者)に対する行為の保全措置は、銀行口座や不動産の凍結等
の財産保全措置に比べて認められにくい。
本件においても上記の实務が踏襲されているものと評価できる。つまり、本件
書簡に申立人の著作権及びプライバシー権が表象されていることは明らかである
(必要性)ところ、被申立人による本件書簡のオークションの日程は差し迫ってお
り(緊急性)、これに関わる申立人の発表権等の著作権的人格権やプライバシー権
の性質上、いったん社会に公表された場合には、後で金銭的補償があったとして
も、その損失を補填することができないことは明らかであるから(回復困難性)、
人民法院は、これを直ちにやめさせる必要性があると判断し(必要性)、保全措置
を認める旨を裁定した。
なお、本件において、申請人は、(ⅰ)被申立人らのプライバシー権及び著作権
侵害行為の停止、(ⅱ)被申立人らによるメディアにおける公開の謝罪、(ⅲ)申請
人が被った経済的損失(50 万元)の賠償、(ⅳ)申立人が被った精神的損害に係る
慰謝料(15 万元)、(ⅴ)申立人が権利侵害行為を止めるために支出した合理的費
用(0.5 万元)を求めて、人民法院に提訴し判決が確定している。詳細は(2014)高
民終字第 1152 号を参照されたい。
④
「ウルトラマン」著作権紛争事件
株式会社円谷プロダクション、上海円谷策劃有限公司とソンポート・ソンゲンチャ
イ、チャイヨー・プロダクション社、広州購書中心有限公司、上海音像出版社の著作
権侵害をめぐる紛争の再審請求事件【最高人民法院(2011)民申字第 259 号民事裁決
書】
【事件の概要】
2005 年 9 月 30 日、ソンポート・ソンゲンチャイ(以下「ソンポート」という)、チャ
イヨー・プロダクション社(以下「チャイヨー社」という)は、株式会社円谷プロダク
ション、上海円谷策劃有限公司(以下「上海円谷社」という)、広州購書中心有限公司
(以下「広州購書中心」という)、上海音像出版社を相手取り、著作権侵害を理由に、広
州市中級人民法院に訴訟を提起し、被告 4 社それぞれに対して権利侵害行為の停止、
公開謝罪、経済的損失の賠償を命じる判決を下すよう請求した。賠償請求額は広州購
書中心が 10 万元)、上海音像出版社が 30 万元、上海円谷社、株式会社円谷プロダク
ションが共同で 100 万元であった。ソンポート氏、チャイヨー社は次の証拠をもって
権利を主張した。①1976 年 3 月 4 日付け契約(以下「1976 年契約」という)。この契約
によって、チャイヨー社の最高経営責任者であるソンポート氏は『ジャンボーグ A &
ジャイアント』など、ウルトラマン 9 作品の日本以外での無期限の独占的使用権を付
- 41 -
与された。②1996 年 7 月 23 日の「謝罪書状」。この書簡はソンポートが「1976 年契約」
に基づき取得した独占的使用権に再び触れ、株式会社円谷プロダクションは、他者に
再度使用許諾したことに対して謝罪を表明した。一方、2001 年に株式会社円谷プロダ
クションは日本で著作権確認訴訟を提起した。東京地方裁判所、東京高等裁判所、最
高裁判所は「1976 年契約」の信憑性と有効性を認定し、ソンポートが日本以外における
ウルトラマン作品の独占的使用権を有することを確認し、株式会社円谷プロダクショ
ンのその他の請求を却下した。株式会社円谷プロダクションは、タイでチャイヨー
社、ソンポートら 4 者について、著作権を侵害したとして提訴した。タイ中央知的財
産国際貿易裁判所は、2000 年 4 月 4 日、「1976 年契約」の信憑性と有効性を認定し、
株式会社円谷プロダクションは被告側の反訴に従って、ソンポートに賠償しなければ
ならないとの判決を下した。株式会社円谷プロダクションは上訴し、タイ最高裁判所
は 2008 年 2 月 5 日、タイ国家警察庁証拠捜索局の局長により任命された文書と偽造
品検査に関する専門家 7 名で構成される文書審査委員会が発行した鑑定意見を採用
し、「1976 年契約」を認めず、株式会社円谷プロダクションの請求を認める最終判決を
下した。広州市中級人民法院で行われた第一審において、「1976 年契約」の真实性を確
認できないという理由で、ソンポート、チャイヨー社の請求を却下する判決が下され
た。ソンポートとチャイヨー社はこれを不服とし、上訴した。広東省高級人民法院で
行われた第二審では、「日本とタイの裁判所における判決の効力は、中国の民事訴訟
手続によって承認されず、両国の判決は中国においては法的効力がなく、拘束力を持
たないため、本件においては、日本とタイの裁判所の判決で確認された事实を本件の
事实認定の拠り所とすべきではない。第一審人民法院がタイの鑑定機関による鑑定結
果を直接に採用したことは、法的根拠に欠ける」との判断がなされた。二審人民法院
は、「1976 年契約」は真实性と有効性のある契約であると認定した上で第一審判決を取
消し、ソンポート、チャイヨー社の請求を部分的に認めた。株式会社円谷プロダク
ション、上海円谷社は再審を請求したが、最高人民法院は審査の結果、再審の請求を
却下した。
【事件の典型性】
本件は権利侵害をめぐる訴訟であるが、实質的な争点は、ソンポート、チャイヨー
社が著作権を所有するかどうかという点であり、主として「1976 年契約」の真实性に対
する判断に関わる。この問題をめぐって、日本とタイの最高裁判所はそれぞれ異なる
判決を下していることに本件の特徴がある。最高人民法院は本件において、「中国の
人民法院が外国の鑑定機関が発行した鑑定結果を採用できるかどうかについて、中国
の関連法律に従って審査すべきである。外国で発効した判決の承認と執行を請求する
場合、民事訴訟法の関連規定により、中国の管轄権のある中級人民法院に審査を請求
し、同人民法院の法による審査を受けなければならない」と明確にしている。
- 42 -
【コメント】
本件判例が注目されたポイントは、以下の 2 点である。
ⅰ
外国の裁判所による有効判決の中国の裁判における証拠能力の有無
a.
外国の裁判所による判決の中国における承認
まず、中国の民事訴訟法第 281 条及び第 282 条は、外国裁判所が下した有
効な判決についての中国における人民法院の承認手続について定めている。
すなわち、外国裁判所が下した判決であっても中国の人民法院が承認すれば
それを証拠として用いる余地があることが窺われる。
ここでいう人民法院による外国判決等の承認のための手続として、まずは
(ⅰ)当事者から中国において管轄権を有する中級人民法院に申請するか、
(ⅱ)外国の裁判所が当該外国と中国との間で締結し、又は中国と共に参加し
た関連国際条約の規定若しくは互恵原則に基づいて人民法院に承認を申請す
ることのいずれかが必要となり、これに対して、中国の人民法院が、当該外
国の判決を承認すべきか否かを最終的に裁定の形で下すことになる。
b.
人民法院による承認審査の基準
民事訴訟法第 282 条によれば、「中華人民共和国法律の基本原則又は国家
主権、安全、社会公共利益に違反しないものについてその効力を認める旨、
裁定する」ことが原則であって、当該外国との間の関係については特別な要
件は設けられていない。しかしながら、これはあくまでも原則的な規定であ
り、これまでの中国の人民法院が承認した外国の判決の实例からみれば、当
該外国が中国と締結し、又は中国と共に参加した国際条約又は二国間の互恵
関係がなければ、当該外国の判決を承認しないという運用ルールが存在して
いる10。
c.
本件での運用
本件に関しては、円谷側(上海円谷及び株式会社円谷プロダクションを指
す)は自身に有利な証拠としてタイにおける勝訴判決を提出しているとこ
ろ、タイと中国との間には締結済みの国際条約や互恵関係(司法協力・援助
の関係)が存在しない。そのため上記のルールに則り、中国の人民法院はタ
イの有効判決を事实認定のための証拠として直接認めることはしなかったも
10
この点に関しては、2015 年 1 月 30 日に最高人民法院が、「中華人民共和国民事訴訟法の適用に関する
解釈」(法釈[2015]5 号)を公布し、前記の運用ルールが明記されるに至っている(「当事者が中国の管轄
権を有する中級人民法院に対して、外国法院が下した法的効力を有する判決、裁定の承認及び執行を
申請した場合において、当該外国法院の所在国が中国と国際条約を締結し、又は中国と共にそれに参
加しておらず、互恵関係もないときは、人民法院は、申請を却下するとの裁定を下すものとする。…」
同解釈第 544 条 1 項)
- 43 -
のであり、この人民法院の判断は、上記のルールに則れば違和感のないもの
と受け止められる11。
ⅱ
本件の争点となった「1976 年契約」の信憑性の認定について
本件では、「1976 年契約」の信憑性の認定により、第一審人民法院と第二審人
民法院の結論が分かれた。最終的に、最高人民法院の裁定は第二審人民法院の認
定方法と認定結果が妥当であると認めている。
筆者は、最高人民法院の裁定書全文を拝見した上で、信憑性の認定に関する一
審と二審の違いを以下のとおりに補足する。
a.
第一審人民法院
第一審人民法院は、ソンポート氏が提供した「1976 年契約」の形式上の不備
について強調した上で、タイの訴訟にてタイの鑑定機関が作成した鑑定書を
証拠として採用し、1996 年 7 月 23 日付謝罪状が真实のものであるとして
も、それをもって 1976 年契約の実観性と真实性まで証明することができな
いと判断している。
b.
第二審人民法院
上記に対して、第二審人民法院は、1996 年 7 月 23 日付謝罪状が真实なも
のであるとの前提の下で、当該謝罪状の文面において 1976 年 3 月 4 日付契
約の存在が示唆されていることから、1976 年 3 月 4 日当時当事者間で何らか
の契約が締結されていると推定した。その上で、円谷側から、1976 年 3 月 4
日に円谷臬とソンポート氏が(「1976 年契約」以外の)別の契約書を締結したこ
とが証明されなかったため、ソンポート氏が提供した「1976 年契約」こそが謝
罪状で言及された契約のことであると認定した。そして、仮に「1976 年契約」
が形式面において署名、捺印、記名の箇所に若干の不備があるとしても、こ
れらの不備によってもソンポート氏が提供した「1976 年契約」の真实性を否定
するには足りない以上、「1976 年契約」の真实性と有効性を認めるべきである
との結論を下したものである12。
ⅲ
本件の意義
以上から明らかであるとおり、人民法院は案件を審理する際に、事实認定及び
法律の適用両方において、中国法に基づく審理を徹底しており、たとえ外国で効
力を有する判決や外国の正式な鑑定機関が出した鑑定報告書であっても、それを
11
なお、仮にタイの有効判決の承認が認められる状況にあっても、さらにタイの判決の承認について管
轄権を有する人民法院はどこになるのかという問題が生じる点に付言する。
12
なお、二審では、一審が採用したタイの鑑定機関が出した鑑定報告書を採用していない。また、謝罪
状により「1976 年契約」の真实性が証明されたため、さらに「1976 年契約」の真偽についての鑑定は不要
とした。
- 44 -
無条件に承認し、証拠として採用するような運用は行なわない。このように外国
において正当な権利を有する機関が関連する案件において、中国の裁判の運用方
針を明確にした点で、本件判例は意義のあるものということができよう。
⑤
樹脂特許に関連する情報の営業秘密侵害紛争をめぐる事件
SI Group 社、聖莱科特化工(上海)有限公司と華奇(張家港)化工有限公司、徐捷の営
業秘密侵害紛争をめぐる上訴事件【上海市高級人民法院(2013)滬高民三(知)終字第 93
号民事判決書】
【事件の概要】
SI Group 社、聖莱科特化工(上海)有限公司(以下「SI 上海社」という)は共同で次の
とおり主張した。SP-1068 製品の生産フロー、工程、調合方法などの技術情報は SI
Group 社の営業秘密であり、SI 上海社はこれらの営業秘密の中国における独占的通常
实施権者である。被告である徐捷は SI 上海社の元従業員で、両原告の係争営業秘密
を把握していた。徐捷は SI 上海社を退職した後、被告である華奇(張家港)化工有限
公司(以下「華奇社」という)に入社し、華奇社での勤務期間において両原告の係争営業
秘密を華奇社に開示し、華奇社は両原告の係争営業秘密を使用し、SL-1801 製品を生
産した上、「アルキルフェノール熱可塑性樹脂生産の改良工程」との名称の特許を出願
した。そこで両原告は人民法院に、両被告に対し、権利侵害行為の停止、影響の除
去、経済的損失 200 万元の賠償を命じる判決を下すよう請求した。上海市第二中級人
民法院は、審理の結果、「人民法院が委託した技術鑑定の結果により、華奇社が SL1801 製品を生産するときに使用した技術情報と、係争特許の中の技術情報は両原告の
営業秘密である技術情報と同一ではなく、实質も異なっているため、両原告の本件に
おける主張には事实上、法律上の根拠がない」として、両原告の請求を却下する判決
を下した。両原告はこれを不服として上訴した。二審人民法院は審理の結果、「第一
審人民法院の判決の事实認定は明らかで、法律適用も正確である」と判断し、上訴を
却下する判決を下し、原判決を維持した。
【事件の典型性】
営業秘密侵害事件の審理においては、権利者が主張する営業秘密を保護するのみな
らず、当事者間の利益の均衡、当事者間の公正競争の適正化、市場の正当な秩序維持
にも配慮すべきである。本件の原告と被告の技術比較に関わる審理の中で、第一審人
民法院は厳格かつ規範化された鑑定手続を实施し、鑑定機関により専門的な鑑定報告
書を発行された。技術鑑定の結果が自身にとって不利であることを知った両原告は、
被告の追加、提訴の取り下げ、開廷への不参加の形で、訴訟の引き延ばしを図った。
第一審人民法院は信義誠实の原則により、両原告による不当な請求を速やかに却下
- 45 -
し、被告が長期的に権利侵害嫌疑をかけられる不安定な状態に置かれることを回避す
るため、本件について欠席裁判を行った。本件は、中米両国が同一の事实について同
時に審理した営業秘密侵害をめぐる代表的な事件といえる。本件の審理において、SI
Group 社は米国 ITC に「第 337 条調査」を申請し、中国にある自身の子会社の営業秘密
が華奇社によって侵害されたと告発し、ITC は終審で SI Group 社の主張を却下した。
本件の審理は当事者間のノウハウをめぐる争議に影響を及ぼしたほか、中国の知的財
産権司法保護の国際的イメージにも影響が及んだ。
【コメント】
ⅰ
本件判例が十大知財案件に選出された意義
営業秘密の保護は、日系企業にとって最も関心を寄せるトピックの一つであ
る。もっとも、本件における判決文を読む限り、その営業秘密の認定の過程や営
業秘密の立証手法といった面において、特別に重要な先例的ポイントが見当たら
ない。そうであるにもかかわらず、本件が 2013 年度の十大知財案件に選ばれた
点について考察を加えたい。
中国においては、会社(X 社)の営業秘密に触れる機会を有した従業員(例えば
技術スタッフ等)が、X 社を離職する際にその営業秘密や技術ノウハウを持ち出
し、転職先の会社(Y 社)に Y 社における待遇の向上や、Y 社からの見返りを求め
てこれを提供する例が多々発生している。その後に Y 社が当該従業員から得たこ
れらの秘密情報を利用して、自社の既存製品を改造したり、新たな特許製品を開
発したりすることにより、X 社はその営業秘密や技術ノウハウを侵害されること
になる。かかる現实の下、司法関係者の間においては、営業秘密に関わる訴訟が
提起された場合において、(a)侵害行為の直前において従業員の転職という状況
が発生した、かつ(b)当該従業員が以前の勤務先においてその営業秘密に接触し
たことがあった、という事情を耳にしたとたんに、「従業員の転職に際しての営
業秘密侵害の案件である」と思い込み、先入観をもって審理に臨んでしまう傾向
がある。
しかし、これらの案件において、特に重要な争点となり得べきポイントは、上
記の場面を例とすれば、そもそも Y 社が既存製品の改造や新たな特許製品の発明
に使用した技術情報や技術ノウハウは、X 社が保有している営業秘密と完全に同
一のものといえるか否かという点である。
本件判例は、厳格な技術鑑定を経た上で、原告の営業秘密と被告の技術情報の
同一性を否定しており、営業秘密の侵害を認定するために不可欠なポイントを示
唆するものといえ、これこそ最高人民法院が本件判決を重要な知財案件として位
置付けたことの最も重要な意義ではないかと思料される。
ⅱ
営業秘密侵害案件における技術鑑定の重要性
- 46 -
本件において、重要な証拠となったのは専門の鑑定機関の発行した鑑定報告で
あることからも明らかであるとおり、営業秘密や技術ノウハウ等に関連する案件
において専門的な鑑定意見は重要なカギを握る。営業秘密侵害として相手方から
訴訟を提起された場合において、被告が不利な立場に置かれる可能性が高いこと
は上記(1)のとおりであるが、被告としてはかかる立場に置かれてもひるむこと
なく、積極的に人民法院に対して鑑定を申請し、積極的な立証活動を展開すべき
である。
⑥
標準規格必須特許の使用料をめぐる事件
華為技術有限公司と IDC 社の標準規格必須特許の使用料紛争をめぐる上訴事件【広
東省高級人民法院(2013)粤高法民三終字第 305 号民事判決書】
【事件の概要】
華為技術有限公司(以下「華為社」という)は IDC 社と標準規格必須特許の使用料や料
率の問題をめぐって幾度か交渉を行った。交渉期間中、IDC 社は米国裁判所に訴訟を
提起すると同時に、米国国際貿易委員会に華為社等の関連製品に対する第 337 条調査
の発動、輸入全面禁止令、販売の一時差止め又は差止め命令を出すよう請求した。華
為社はこれを受け、広東省深圳市中級人民法院に提訴し、IDC 社に対し、公正、合理
的、非差別的(FRAND)の原則に則って標準規格必須特許の使用料率を確定することを
命じる判決を下すよう人民法院に求めた。広東省深圳市中級人民法院で行われた第一
審において、「公正、合理的、非差別的な原則により、標準規格必須特許の使用料率
は 0.019%と確定されるべきである」との判決が下された。IDC 社は第一審判決を不服
とし、広東省高級人民法院に上訴した。広東省高級人民法院で行われた第二審におい
て、次のとおり判断が下された。文字通りに理解するにしても、欧州電気通信標準化
機構(ETSI)と米国電気通信工業会の知的財産権政策及び中国の関連法令に基づくにし
ても、いずれにせよ「FRAND」義務は「公正、合理的、非差別的」にライセンスを行う義
務と理解されるべきであり、合理的な使用料を支払う意思のある善意の標準規格の使
用者に対して、標準規格必須特許権者はライセンス拒否一辺倒であってはならない。
特許権者が技術革新によって確实に十分な収益が得られるようにすると同時に、標準
規格必須特許権者が標準規格によって形成される強い地位を利用して高い使用料率を
請求したり、又は不合理な条件を付加したりすることを回避しなければならない。
「FRAND」義務の核心は、合理的で非差別的な使用料又は料率の確定にある。華為社と
IDC 社はいずれも欧州電気通信標準化機構のメンバーであるため、IDC 社は華為社に
対してその標準規格必須特許の实施を許諾する義務がある。使用料又は料率の問題に
関して、双方は公正、合理的、非差別的な条項、即ち「FRAND」条項に従って協議すべ
きであり、協議ができない場合は人民法院に裁決を請求することができる。この場
合、人民法院は、標準規格必須特許の特徴に基づき、当該特許又は類似特許の实施に
- 47 -
よって得られる利益及びその被許諾者の関連製品の販売益や売上高に占める比率、特
許使用料は製品利益の一定の比率を超えてはならない等の若干の要素を加味しつつ、
企業間の特許ライセンスの实情の相違、及び華為社が IDC 社の中国以外における標準
規格必須特許を使用するには使用料を別途支払う必要があるといったことを勘案し、
本件における特許使用料を合理的に確定する。
【事件の典型性】
本件は、中国で初めての標準規格必須特許の使用料をめぐる紛争であり、知的財産
権法の適用にとって重要な意味がある。本件では新たな訴訟事由が使用されており、
今後の民事事件の訴訟事由の改正と改善のための实証例となり得る。さらに重要なの
は、本件は標準規格必須特許の使用料をいかに確定するかという問題をめぐって初め
て「FRAND」原則を裁判での論述の根拠として適用し、かつ、計算の具体的な参考要素
を提示したことである。こうした事は今後、類似事件の処理や専利法の改正に有力な
支えとなってくるであろう。本件の審理は、重大な難解事件を解決する人民法院の能
力を顕示し、中国の知的財産権裁判の好ましい国際的イメージを樹立し、優れた法律
的かつ社会的効果を収めたものといえる。
【コメント】
本判決は中国初の標準規格必須特許の専利ライセンス料をめぐる紛争であり、
「FRAND」条項を根拠に、標準規格必須特許のロイヤリティ率の計算を認定した裁判例
である。
標準規格必須特許のライセンス義務について、華為社と IDC 社はいずれも欧州電気
通信標準化機構のメンバーであることを理由に、IDC 社の華為社に対する標準規格必
須特許のライセンス義務を認定している。
使用料又は料率について、「FRAND」条項に従って協議すべきであり、協議ができな
い場合は人民法院に裁決を請求することができるとし、各要素(①当該特許又は類似
特許の实施によって得られる利益、②その被許可者の関連製品の販売益や売上高に占
める比率、③専利使用料は製品利益の一定の比率を超えるべきでない、④企業間の特
許ライセンスの实情の相違、⑤華為社が IDC 社の中国以外における標準規格必須特許
を使用するには使用料を別途支払う必要があること等)を考慮して、本件の標準規格
必須特許の専利使用料を認定している。
このように、本判決は、ライセンス義務を認定し、更にライセンスの使用料まで具
体的に認定している点に特徴を持つ裁判例である。
標準規格必須特許(Standard-essential patent)とは、国家標準、業界標準等、標
準規格に準拠した製品を製造し、又はサービスを提供するにあたって、避けることが
できない特許をいう。当該特許のライセンス方式に関して、国際的に何種類か(ETSI
の FRAND(Fari、Reasonable and Non-Discriminatory)条項、米国電信工業協会(TIA)
- 48 -
の FRAND 条項等)存在するが、基本的には「公正で合理的かつ非差別」な方式をいう。
近年、世界中に实施されている標準(例えば、通信標準規格(携帯電話の 3G、4G 等に
関する技術の標準)が注目を集めている。通信標準規格に関して、米国、日本、韓国
も含め、様々な国において、各大手会社間で特許訴訟乱戦の様相を呈している。例え
ば、サムスン対アップルの日本における訴訟、マイクロソフト社対モトローラ社の米
国における訴訟等である。
標準規格必須特許の専利ライセンス料をめぐる紛争に関して、注目される点は以下
のとおりである。
a.
FRAND 条項によりライセンス契約が成立するか。
ライセンス契約前の標準規格必須専利権者と实施者の法律関係は、ライセンス契
約関係ではなく、標準規格必須専利権者が实施者に対して、FRAND 条項の条件で
特許をライセンスする義務を負う関係と理解されるべきと管轄法院により説明さ
れた(深圳市中級人民法院により「人民司法・裁判例」2014 年第 4 期)。
これは世界中でも主流の解釈と思われる。
b.
国際法上において、標準規格必須特許に関するライセンス料率について明確な基
準はなく、具体的なライセンス料率も交渉によるものであるが、標準規格必須特
許のライセンス料に関して、2008 年に最高人民法院により関連回答文書(以下
「回答文書」)を公布している。回答文書によれば、標準規格必須特許のライセン
ス料について、一定の使用費の支払いを要求することができるが、その金額は正
常のライセンス料より明らかに低額でなければならない。
c.
本事件には差止請求権について触れられていないが、現時点において標準規格必
須特許に関する差止について明確な規定がないものの、2014 年 7 月 31 日から意
見募集中の「専利権侵害を巡る紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関
する解釈(二)」第 27 条に以下のとおり規定されている。
非強制的国家、業界又は地方の標準において係争専利の情報を明示しており、被
告侵害者は自らが当該標準を实施するに当たって専利権者の許可を必要としない
ことを理由に、専利権侵害に当たらないと主張する場合、人民法院は通常、これ
を支持しない。
但し、専利権者は「公正、合理的、非差別的」の原則に違反して、標準に係る専利
の实施許諾条件について悪意に被告侵害者と交渉し、被告侵害者はこれを理由に
实施行為の差止を主張する場合、人民法院は通常、これを支持する。
上記の規定が現状のまま公布される場合、標準規格必須特許の FRAND 条項等に基
づき、差止を主張できることになる。
⑦
「両優 996」育成者権の利用許諾契約無効の確認をめぐる紛争事件
福建超大現代種業有限公司と安徽省農業科学院水稲研究所の育成者権の利用許諾契
- 49 -
約無効の確認をめぐる紛争の上訴事件【安徽省高級人民法院(2012)皖民三終字第 81
号民事裁定書】
【事件の概要】
福建超大農業集団は、国務院台湾事務弁公审が指定した台湾農産品調達の重点企業
であり、台湾の農業界と緊密な協力関係にある。その傘下企業である福建超大現代種
業有限公司(以下「福建超大社」という)は、主に農作物の種子の研究、生産、加工、販
売を手がけている。2012 年 3 月、安徽省農業科学院水稲研究所(以下「農科院水稲所」
という)は、福建超大社、合肥科源農業科学研究所(以下「科源農科所」という)を相手
取り、合肥市中級人民法院にそれぞれ育成者権と「種間雑種中稲『両優 996』育成者権
利用許諾契約」無効の確認訴訟を提起し、「科源農科所は許可を得ずして、福建超大社
と契約を締結し、福建超大社に対し、独占的ライセンスの形で種間雑種中稲の新品種
『両優 996』の中国国内における生産と販売を許諾した。また、福建超大社はこの品
種の母本の育成者権が農科院水稲所にあることを知りながら、科源農科所と育成者権
の利用許諾契約を締結した」と主張し、人民法院に対し、係争の種間雑種中稲「両優
996」育成者権の利用許諾契約の無効を法により確認し、両被告に権利侵害行為の停
止、経済的損失の賠償を命じる判決を下すよう請求した。2012 年 7 月、第一審人民法
院は上記 2 つの事件について、農科院水稲所の請求を基本的に認める一審判決を下し
た。福建超大社はこれを不服とし、安徽省高級人民法院に上訴した。安徽省高級人民
法院による調停の結果、当事者と関係する第三者が和解契約を結び、紛争は包括的に
解決され、福建超大社は本件の上訴を取り下げた。
【事件の典型性】
係争の種間雑種中稲「両優 996」の育成プロジェクトは、福建超大農業集団と台湾省
農会、高雄農業開発股份有限公司の提携により、福建省と台湾の間で高度種苗の栽
培・増殖・普及一体化グループの構築を目指す重点プロジェクトであり、中国大陸地
区と台湾地区(両岸)間の農業において、とりわけ作物の良種の栽培・増殖・普及及び
両岸の農業協力の革新的な新モデルであるため、本件は社会から多くの注目を浴び
た。二審人民法院は、卖純に契約効力の問題として処理するのでは当事者間の紛争を
解決できないと考え、当事者が相手の立場に立って考え、敵対関係を協力関係に変え
るよう導き、育成者権者、台湾系企業、関連企業が農業科学技術成果の産業化に向け
た協力体制の構築を促すことで、ウィンウィンの局面を形成した。事件の処理は各方
面から高い評価を受け、優れた社会的効果を収めた。
- 50 -
【コメント】
本件は、第一審では被告である科源農科所及び福建超大社の権利侵害を認定し、8
万人民元損害賠償金を認定したのに対して、第二審において、被告が原告の関連会社
と合弁会社を設立し、当該合弁会社において紛争対象となっている品種を開発、生
産、販売することを条件とする和解を成立させた事件である。
本事件は中国の植物品種権(育成者権)に関する事件であるが、中国関連法律によれ
ば、植物品種権は、登録制度であり、育成を達成した卖位又は個人は自らが出願し授
権された品種について排他的独占権限を有するとされ、卖位又は個人は、植物品種権
者(以下「品種権者」)の許諾を得ず、商業目的で当該授権品種の繁殖材を生産又は販売
してはならず、商業目的で当該授権品種を他の品種の繁殖材の生産のため繰り返して
使用してはならない(別途規定がある場合を除く)と規定されている(植物新品種保護
条例第 6 条、第 19 条)。
本事件は中国大陸と台湾の特別な背景がある事件であるものの、人民法院が知的財
産権事件において、和解を重視する態度が示されたものといえる。特に近年、人民法
院は社会的影響が大きい事件、又は法律根拠が曖昧な事件に対して、和解を利用し解
決を図る傾向にある。IPAD 事件もその一例である。
实務上、民事案件の和解率は裁判官の評価の一つとして扱われており、民事案件全
体として和解が利用されることが多く、2013 年の知的財産権案件の一審の和解によ
る取下率は 68.45%にまで上昇している。
本事件のように、当事者間の権利義務を明確に整理し、和解を行うことにより、真
の意味での紛争解決となり、将来的紛争も避けることができることから今後の和解の
積極的活用が期待される。
- 51 -
(2) 知的財産権行政事件
⑧
著名商標「聖象」の保護をめぐる事件
聖象集団有限公司と国家工商行政管理総局商標評審委員会、河北広太石膏鉱業有限
公司の商標争議行政紛争の再審事件【最高人民法院(2013)行提字第 24 号行政判決
書】
【事件の概要】
聖象集団有限公司(以下「聖象集団」という)は、引用商標「聖象及図」の商標権者であ
る。当該商標は 1997 年 5 月 14 日に登録され、使用範囲として「床板」などの商品を指
定した。係争商標は「聖象」という中国語文字と象が立っている姿の写实的な図形で構
成され、2003 年 3 月 21 日に登録された。出願人は河北広太石膏鉱業有限公司(以下
「広太社」という)で、使用範囲として「石膏、石膏板、セメント」などの商品を指定し
た。2006 年 2 月 21 日、聖象集団は国家工商行政管理総局商標評審委員会(以下「商標
評審委員会」という)に次の理由で係争商標の取消しを申し立てた。係争商標は自社の
著名商標を悪意をもって摸倣したものであり、係争商標の指定商品である「石膏、セ
メント」などは、引用商標の指定商品である「床板」などとの関連性が非常に強い。聖
象集団の床板業界における高い知名度や影響力と、係争商標と引用商標の指定商品が
機能・用途上いずれも建築用材料であることを踏まえると、消費者がこれらの商品を
購入・使用するとき、商品の生産者を混同したり、又は誤認しやすい。2009 年 8 月
31 日、商標評審委員会の商評字〔2009〕第 23269 号商標紛争裁定により、「係争商標
が不正な手段を使い、聖象集団の商標に対する悪意ある抜け駆け登録であることを証
明するに足る証拠が欠けている」ことを理由に、係争商標を維持する裁定が下され
た。聖象集団はこの裁定を不服とし、北京市第一中級人民法院に訴訟を提起した。北
京市第一中級人民法院は、審理の結果、「聖象集団及びその関連会社は宠伝や使用を
通じて、係争商標の出願(2001 年)以前に商標「聖象及図」を中国の十分に広範な需要者
に周知のものとしており、商標法第 13 条の保護を受けるべきである」と判断し、商標
評審委員会の第 23269 号商標紛争裁定を取消す判決を下した。商標評審委員会と広太
社はいずれも一審判決を不服とし、それぞれ北京市高級人民法院に上訴した。北京市
高級人民法院は、審査の結果、「本事件において、引用商標が係争商標の出願日以前
に著名商標となっていたことを証明するに足る証拠が欠けている」と判断し、一審判
決を取消し、商標評審委員会の第 23269 号裁定を維持する判決を下した。聖象集団は
この判決を不服とし、最高人民法院に再審を請求した。最高人民法院は審査の結果、
本件を再審し、再審判決を下した。最高人民法院は以下のとおり判断した。「聖象集
団の商標『聖象及図』の周知の度合い、聖象集団及びその関連会社による当該商標の
継続的な使用及び宠伝の状況、メディアによる聖象集団及び『聖象及図』の宠伝や報
道の状況を踏まえて、聖象集団の商標『聖象及図』をすでに周知されている著名商標
と認定する。」北京市高級人民法院の「引用商標が係争商標の出願日以前に著名商標と
- 52 -
なっていたことを証明するに足る証拠が欠けている」という認定は、事实認定と法律
適用に誤りがあるため、是正する。本件の係争商標と引用商標は全体の視覚効果にほ
ぼ差異がない。石膏などの商品と引用商標の指定商品である木目床材はいずれも建築
材料である。建築材料メーカーである広太社が、引用商標の知名度を知り得べきであ
りながら、当該引用商標に極めて近似する標章を商標として出願した行為は、聖象集
団の商標「聖象及図」に対する摸倣であり、商標法第 13 条第 2 項の規定に違反するた
め、取消されるべきである。第一審人民法院はこれについて事实認定が明らかで、法
律適用も正確であるため、維持されるべきである。以上により、二審判決を取消し、
一審判決を維持した。
【事件の典型性】
本件において、著名商標の司法認定を通じて商標権者の適法な権利を保護したこと
は、正常な経済秩序を守り、「有名ブランドを騙る」行為や「便乗行為」を制止し、著名
企業のブランド構築の促進につながるものといえる。
【コメント】
本事件のポイントは著名商標の認定である。
本事件の著名商標の認定に関して、①商標法(2013)(以下「新商標法」という)第 13
条第 3 項(登録済みの著名商標の複製、模倣、翻訳)を根拠に、異なる区分の商標につ
いて、商標無効を申し立てる場合、係争商標を出願する前に引用商標が既に著名と
なった証拠を提出しなければならないとし、②関連会社による引用商標の使用の事实
は、著名商標の認定に関する斟酌要素としている。
本事件は、著名商標を認定しているものの、近年、商標法改正、司法解釈及び司法
政策等により、著名商標の認定が厳格になってきている。著名商標の認定について、
特に地方法院が消極的な考え方を持つところが多く、著名商標であることを認定しな
い傾向があることには注意が必要である。
⑨
普通名称化した商標「金駿眉」をめぐる行政紛争事件
武夷山市桐木茶葉有限公司と国家工商行政管理総局商標評審委員会、福建武夷山国
家級自然保護区正山茶葉有限公司の商標登録異議申立の再審査をめぐる行政紛争の上
訴事件【北京市高級人民法院(2013)高行終字第 1767 号行政判決書】
【事件の概要】
2007 年 3 月 9 日、福建武夷山国家級自然保護区正山茶葉有限公司(以下「正山茶葉
社」という)は第 30 類茶などの商品において第 5936208 号商標「金駿眉」(以下「被異議
申立商標」という)の登録を出願した。初期査定公告の後、武夷山市桐木茶葉有限公司
(以下「桐木茶葉社」)はこれに異議を申し立てたが、国家工商行政管理総局商標評審委
- 53 -
員会(以下「商標評審委員会」という)は審査を経て被異議申立商標の登録を許可すると
裁定した。桐木茶葉社はこの裁定を不服とし、商標評審委員会に対し、「『金駿眉』
は商品の普通名称であり、『「商標法」』第 11 条第 1 項第(一)、(二)号の規定に違反
するとともに、『「商標法」』第 10 条第 1 項第(八)号の規定にも違反する」として再審
査を申し立てた。2013 年 1 月 4 日、商標評審委員会は商評字〔2012〕第 53057 号「第
5936208 号商標『金駿眉』登録異議申立の再審査に関する裁定書」(以下「第 53057 号裁
定」という)を下した。当該裁定は次のように判断した。「記録されている証拠では、
『金駿眉』が本商品の普通名称と化しているのか、あるいは商品の主原料を表示する
マークに過ぎないのかを証明するに足りない。桐木茶葉社の他の再審査請求理由も成
立しない。よって、被異議申立商標の登録を許可する裁定を下す」。桐木茶葉社は第
53057 号裁定を不服とし、行政訴訟を提起した。北京市第一中級人民法院で行われた
第一審では、「『金駿眉』は商品の普通名称ではなく、桐木茶葉社の理由は成立しな
い。とはいえ、商標評審委員会の審理手続にも不備があった」として、「『中華人民共
和国行政訴訟法』適用の若干の問題に関する最高人民法院の解釈」第 56 条第(四)号の
規定により、桐木茶葉社の請求を却下する判決が下された。桐木茶葉社は一審判決を
不服とし、上訴した。北京市高級人民法院で行われた第二審では、次の判断がなされ
た。第 53057 号裁定が下されたとき、「金駿眉」はすでに紅茶の商品名として需要者の
間に広く認識され、社会的に定着した特定種類の紅茶商品の普通名称となった。よっ
て、第 53057 号裁定が下された時点の实情に基づき、被異議申立商標の登録出願は
「商標法」第 11 条第 1 項第(一)号の規定に違反すると認定されるべきである。以上に
より、①「一審判決を取消す、②第 53057 号裁定を取消す、③商標評審委員会が再び
裁定を下す」との判決が下された。
【事件の典型性】
中国国内の高級紅茶の代表格である商標「金駿眉」の登録異議申立事件の審理は社会
から多くの注目を浴びた。本件は商標出願者にとっては残念な結果ではあるが、国内
企業のイノベーションと知的財産権保護にとっては参考とするに値するケースであ
る。本件は、「係争商標が普通名称であるかどうかを判断するにあたり、それが法定
の商品名であるか、又は社会的に定着した商品名であるかどうかを審査すべきであ
り、判断の時間的基点は通常、登録出願時を基準とする。ただし、係争商標の登録出
願時には普通名称化しておらず、登録が許可された時点に普通名称化されている場合
であってもその商品の普通名称と認定されるべきである」という点を明らかにした。
本件はまた、「商品商標と団体商標はその性質、機能上明らかな違いがあり、係争商
標が団体や協会のメンバーが使用するために団体商標の性質を有する商標として確定
する場合は、その商標の機能が変化するからといって商品商標として登録してはなら
ない。特定の地域の住民の利益に関わるブランドについては、それ自体の实情をもと
に、商標の類型を適切に選んで登録すべきであり、地域経済の成長と利益共有の最大
- 54 -
化を最大限に实現しなければならない」という点も明らかにした。
【コメント】
本事件のポイントは普通名称化の認定及び商品商標・団体商標の区別である。
ⅰ
普通名称に関して法定普通名称と口コミ普通名称の 2 種類が存在する
本事件の判決おいてには、普通名称を法定普通名称と口コミ普通名称とに区別
している。法定普通名称は法律規定又は国家標準、業界標準により定める普通名
称であり、他方、口コミ普通名称は、中国国内において、関連商品分野の公衆の
通常判断を標準として定める普通名称である。なお、専門書籍に商品名称として
記載されている場合、口コミ普通名称とみなされる。(「商品授権権利確定行政案
件に関する若干問題の意見」第 7 条第 1 項)
法定普通名称の認定は関連規定等により判断できるが、他方で口コミ普通名称
の認定は関連商品分野の公衆が当該名称が全て当該商品であると判断する場合に
限り、当該名称の普通名称化を認定できると解釈された。
普通名称であることを立証する場合、主に以下の点に注意する必要がある。
a.
判断時期
これは本事件の争点でもあるが、係争商標が普通名称であるかの判断時期
は出願時ではなく、登録時点である。
本事件において、「係争商標が普通名称に該当するかの判断は通常、登録出
願時点の事实状態に準ずるが、出願時に、普通名称ではなく、登録時に普
通名称である場合、普通名称といえることから、登録拒絶を認定するべき」
と明確化された。
この理由は、商標の普通名称化は商標の取消理由の一つとして規定され、
商標登録された場合であっても、第三者が商標取消を主張することができ
ることから、出願時点の事实状態だけではなく、登録時点の事实状態も考
慮する必要があることによる。また、普通名称化した商標については、商
標の基本機能である出所識別機能を失うことも理由の一つである。
なお、2013 年商標法改正前において、普通名称化した商標は始めから存在
しなかったものとみなされたが、新商標法においては、取消日から存在し
ないもの、つまり普通名称化前の商標権が認められるものとなった。
b.
判断主体
判断主体は関連分野の消費者のみではなく、当該関連分野の生産者、経営
者も普通名称の判断主体になることから、立証の際、消費者の証拠のみで
は足りず、生産者、経営者の判断も立証すべきである。
c.
地域範囲
「中国全国」において普通名称と判断されていることを立証しなければなら
ない。
- 55 -
ⅱ
商品商標、団体商標の区別
新(旧)商標法第 3 条によれば、登録商標は商品商標、サービス商標、団体商
標、証明商標を含む。そのうち、商品商標(サービス商標も含む、以下同様)と団
体商標は性質、機能上、明らかに違いがあり、商品商標は商品又はサービスの出
所を識別、他の商品又はサービスの提供者を区別できる。他方で、団体商標は当
該商標の使用者が当該団体のメンバーであることを証明するものである。上記の
区別があることから、「団体商標の性質を有する商標として確定された場合は、
その商標の機能が変化したからといって商品商標として登録すべきではない」と
判示された。
- 56 -
(3) 知的財産権刑事事件
⑩
食用油の登録商標冒用罪事件
宗連貴ら 28 人による登録商標冒用罪事件【河单省高級人民法院(2013)豫法知刑終
字第 2 号刑事裁定書】
【事件の概要】
2007 年 11 月、被告人の宗連貴、黄立安は共同出資により油脂会社を設立し、2008
年 8 月、9 月から 2011 年 9 月 4 日にかけて、複数の労働者を雇用し、登録商標「金龍
魚」、「魯花」冒用の食用油を生産・販売すると同時に、不法に製造された登録商標「金
龍魚」、「魯花」の標章を仕入れて社外に販売した。被告人の陳金孝らは、宗連貴、黄
立安が生産した食用油が偽物であることを知りながらもその雇用を受け入れて生産・
販売に従事し、不法売上高は 1,924 万 9,759.5 元に上った。2009 年末から 2011 年に
かけて、被告人の劉志勇らは宗連貴の油脂会社が生産した「金龍魚」、「魯花」の食用油
が登録商標冒用の商品であることを知りながら、それらの購入と販売を繰り返し、係
争金額は数百万元に上った。河单省高級人民法院で行われた第二審では、次の判決が
下された。被告人の宗連貴、黄立安らが犯罪活動を行うために会社を設立し、犯罪の
实施を主な活動としたことは自然人の犯罪であって組織の犯罪として処罰すべきでは
ない。被告人の宗連貴は登録商標冒用罪、不法製造登録商標標章販売罪にあたり、併
合罪として 12 年 6 か月の有期懲役刑を科し、人民元 1,050 万元の罰金を併科する。
被告人の黄立安は登録商標冒用罪、不法製造登録商標標章販売罪にあたり、併合罪と
して 11 年 6 か月の有期懲役刑を科し、人民元 1,050 万元の罰金を併科する。被告人
の陳金孝は登録商標冒用罪、不法製造登録商標標章販売罪にあたり、併合罪として 8
年の有期懲役刑を科し、かつ、人民元 90 万元の罰金を併科する。被告人の劉志勇ら
は登録商標冒用商品販売罪に処し、4 年 3 か月の有期懲役刑を科し、人民元 97 万元の
罰金を併科する。その他 25 名の被告人については、それぞれ異なる期間の有期懲役
とそれぞれ金額が異なる罰金を科す。
【事件の典型性】
本件は、刑事的手段を利用した知的財産権侵害事犯の取り締まり、市場秩序の維持
と食品安全保護の典型的事例である。本件は河单省の人民法院による知的財産権裁判
の「三合一」方式13による知的財産権刑事事件の審理の典型的事例であり、人民法院の
知的財産権に対する刑事司法保護の強化、知的財産権侵害事犯の厳格な取り締まりの
姿勢が反映されている。審理が行われた人民法院は、各種の刑罰を活用し、犯罪者の
罪状を確定したほか、財産刑を活用した知的財産権侵害事犯の処罰強化を特に重視
し、経済面から犯罪者の再犯の力量と条件を剥奪することにも配慮した。本件では、
13
知的財産権に関わる民事、行政、刑事事件を知識産権審判廷が一元的に審理する方式―訳注
- 57 -
被告人 28 人全員に対して法により刑事責任を追及し、被告人に有期懲役刑と罰金を
併科し、罰金の総額は 2,704 万元にも上り、知的財産権侵害行為を企む者に脅威を与
えたことで、市場の浄化、市場経済秩序の維持につながった。
【コメント】
(注:2014 年 12 月付「中国知財関連司法動向調査」レポート 97 頁に本事件についての
コメントが掲載されており、以下にそれを転載した。)
本件は、刑事法律に基づいて、刑事司法手続きにより、知的財産権を深刻に侵害
し、知的財産権犯罪を構成する模倣事件について、模倣者の刑事責任を追及した事件
であるが、被告人が 28 名であり、かつ、全被告人が刑事責任を追及され、有期懲役
が科されると同時に 2,704 万人民元となる高額の罰金刑が科されたので、注目され、
大きな影響力を及ぼし、知的財産権侵害犯罪行為への強力な威嚇となった。
本件において、関係犯罪行為は、被告人の宗連貴、黄立安が設立した油脂会社によ
る卖位犯罪であるか、それとも、関係被告人による自然人犯罪であるかが、争点の一
つとなっていたが、違法犯罪活動を行う目的で会社を設立し、又は、会社が設立後に
犯罪の实施を主な活動としている場合は、卖位犯罪ではなく、自然人犯罪に該当する
ので、本件における犯罪行為も、前記理由で、油脂会社の卖位犯罪ではなく、各被告
人による自然人犯罪であると判断された。
仮に、油脂会社の卖位犯罪と判断される場合は、卖位犯罪の刑事責任が原則として
会社に対して罰金を科し、かつ、その直接責任者に対して刑罰を科すべきなので、被
告人 28 名全員の刑事責任を追及し難くなる。被告人 28 名全員の刑事責任を追究でき
たのは、本件を自然人犯罪と認定したからである。
また、本件に係わる犯罪は、登録商標詐称罪、登録商標詐称商品販売罪及び不法製
造登録商標標章の販売罪である。
そのうち、登録商標詐称罪は、登録商標権者の許諾を得ずに、同一種類の商品に登
録商標と同一の商標を使用した行為を懲罰対象とするが、不法経営額が 5 万元以上又
は違法所得額が 3 万元以上の場合、或いは、二種類以上の登録商標を冒用し、不法経
営額が 3 万元以上又は違法所得額が 2 万元以上の場合、或いは、その他重大な情状が
ある場合は、訴追基準に達するので、刑事責任を追究できる。ここで、留意必要のあ
るところは、民事責任上、類似商品における類似商標の無断使用も商標権侵害となる
が、犯罪として、刑事責任を追究する場合は、同一種類の商品における同一商標の無
断使用でなければならない。
登録商標詐称商品販売罪は、登録商標を冒用した商品であることを明らかに知りな
がら販売した行為を懲罰対象とするが、販売金額が 5 万元以上である場合、或いは、
まだ販売されていないが、商品の価格額が 15 万元以上である場合、或いは、販売金
額が 5 万元以下であるが、販売金額とまだ販売されていない商品の価格額を合わせて
15 万元以上である場合は、訴追基準に達するので、刑事責任を追究できる。
- 58 -
登録商標標章の不法製造販売罪は、他人の登録商標の標識を偽造し、無断で製造
し、又は偽造し、無断で製造した登録商標の標識を販売した行為を懲罰対象とする
が、偽造、無断製造し、又は販売した偽造、無断製造の登録商標の標識の数量が 2
万件以上、又は不法経営額が 5 万元以上若しくは違法所得額が 3 万元以上の場合、或
いは、偽造、無断製造し、又は販売した偽造、無断製造の二種類以上の登録商標の標
識の数量が 1 万件以上、又は不法経営額が 3 万元以上若しくは違法所得額が 2 万元以
上の場合、或いは、その他重大な情状がある場合は、訴追基準に達するので、刑事責
任を追究できる。
本件の 28 名の被告者は、それぞれ、上記の状況に該当する行為を行っていた。人
民法院は、各被告人が行った行為、各自の犯罪情状、各犯罪における役割、及び、係
わる非法経営額等を考慮した上、各自の違法情状に応じて、異なる刑罰を科するとの
旨の判決を言渡した。
本件の懲罰力度から、中国の刑事司法による知的財産権の保護力の増強、及び、知
的財産権侵害犯罪に対する厳正な取締の精神を見出すことができる。
知財権侵害事件の刑事対応は、処罰と威嚇の機能を有し、且つ、侵害事件の根本的
な解決にも有利である。そして、上記のように、中国が知財権侵害に対する打撃と刑
事司法による知財権保護を強化し、重要視している状況で、知財権侵害事件につい
て、各企業は、刑事手段の応用を重視し、積極的に刑事対応を展開する価値がある
が、そのためには、中国の刑事訴追基準等を了解する必要がある。そして、刑事責任
を追及するためには、被告の侵害行為を証明する証拠だけでは不十分で、侵害の情状
が重大であることを証明できる証拠も必要であるが、専門の調査会社を利用して、で
きる限り、犯罪の情報を十分に把握した上、公安局へ告発したほうが得策である。

出所:2014 年 4 月 21 日付け法制ネット
http://www.legaldaily.com.cn/index_article/content/2014-04/21/content_54
67666.htm
- 59 -
2. 最高人民法院「10 大革新性知的財産判例」
以下の裁判例の解説において、「事件の概要」及び「事件の典型性」は、 (出典:
http://www.legaldaily.com.cn/index_article/content/201404/21/content_5467665.htm?node=6148)を和訳したものであり、「コメント」は、本レポー
トの執筆担当事務所が作成したものである。
①
北京鋭邦涌和科貿有限公司と強生(上海)医療器材有限公司、強生(中国)医療器材有限
公司との間の垂直的独占合意紛争上訴事件【上海市高級人民法院(2012)滬高民三(知)
終字第 63 号民事判決書】
【事件の概要】
北京鋭邦涌和科貿有限公司(以下「鋭邦社」という)は、強生(上海)医療器材有限公
司、強生(中国)医療器材有限公司(以下合わせて「ジョンソン・エンド・ジョンソン
社」という)の医療用縫糸、ステープラーなど医療機器製品の販売会社として、ジョン
ソン・エンド・ジョンソン社との協力関係を 15 年間続けてきた。2008 年 1 月に、
ジョンソン・エンド・ジョンソン社と鋭邦社は「販売契約書」及び付属書を締結し、鋭
邦社はジョンソン・エンド・ジョンソン社の定めた価格より低い価格で製品を販売し
てはならないと取り決めた。2008 年 3 月に、鋭邦社は北京大学人民医院の行ったジョ
ンソン・エンド・ジョンソン製医療用縫糸販売者入札において最低見積りで落札し
た。2008 年 7 月に、ジョンソン・エンド・ジョンソン社は鋭邦社が無断で値下げした
ことを理由に、阜外医院、整形医院における鋭邦社の販売権を取り消した。2008 年 8
月 15 日以降、ジョンソン・エンド・ジョンソン社は鋭邦社からの医療用縫糸の注文
を受けなくなり、2008 年 9 月に縫糸製品、ステープラー製品の供給を完全に中止し
た。2009 年、ジョンソン・エンド・ジョンソン社は鋭邦社と販売契約書を更新しな
かった。鋭邦社は上海市第一中級人民法院に訴訟を提起し、ジョンソン・エンド・
ジョンソン社が販売契約書に取り決めた再販売価格維持条項は独占禁止法の禁止する
垂直的独占合意に当たると主張し、ジョンソン・エンド・ジョンソン社に対し、当該
独占合意を履行し鋭邦社の低価格入札行為に対して「処罰」を行ったことにより鋭邦社
にもたらした経済的損失 1,439.93 万元の賠償金を命じる判決を出すよう人民法院に
請求した。上海市高級人民法院は第二審において、次のとおり判断した。本件の関連
市場は中国大陸地区の医療用縫糸製品市場であり、当該市場における競争は不十分
で、ジョンソン・エンド・ジョンソン社は同市場で極めて強い市場支配力を有し、本
件に関係する再販売価格維持の合意によって、本件の関連市場で競争排除、競争制限
の効果が発生しており、顕著で十分な競争促進効果が見られないため、独占合意に当
たると認定すべきである。一部の病院での販売資格の取り消し、縫糸製品の供給停止
などジョンソン・エンド・ジョンソン社が鋭邦社に対して取った措置は、独占禁止法
- 60 -
で禁止される独占行為であり、ジョンソン・エンド・ジョンソン社は前記独占行為に
より鋭邦社にもたらした 2008 年の縫糸製品の通常利益の損失分を賠償すべきであ
る。これにより、ジョンソン・エンド・ジョンソン社に対し、鋭邦社に経済的損失 53
万元を賠償するよう命じる判決を下した。
【事件の革新性】
本件は国内初の垂直的独占合意紛争事件であり、終審判決で原告勝訴となった全国
初の独占紛争事件でもあり、我が国の独占禁止裁判の発展における里程標といえるも
のである。本件は再販売価格維持行為について独占禁止分析を行うにあたっての一連
の重大課題に係わり、第二審判決では再販売価格維持行為の法的評価の原則、挙証責
任の分配、分析評価の要素などの課題について探索と試みを行い、その分析方法及び
結論は我が国における独占禁止裁判及び独占禁止法の推進にとって重要な意義があ
る。本件の判決により、人民法院の法に従って独占行為を制止し、市場の公正な競争
を保護、促進するという役割が十分に示され、発揮された。
【コメント】
(本件は、2013 年に最高人民法院により公布された「司法による知的財産権保護 8
典型事例」に記載されており、2014 年 12 月付「中国知財関連司法動向調査」レ
ポート 93 頁以下にも掲載されております。)
この事件は中国国内初の垂直的独占協定をめぐる紛争事件で、以下の 2 点にお
いて積極的な意義を有する。
1
挙証責任の配分について
「独占行為に起因して発生する民事紛争事件の審理における法律適用の諸
問題に関する最高人民法院の規定」第 7 条には「提訴される独占行為が独占禁
止法第 13 条第 1 項第(1)号から第(5)号に規定される独占協定に該当する場
合、被告は当該協定が競争を排除、制限する効果を有しないことについて挙
証責任を負わなければならない。」と定めている。
但し、当該規定は水平的協定紛争にかかるもので、本件の垂直的協定には
及んでいない。現行法律には関連規定がないので、「独占禁止法」第 14 条規
定の協定に対する独占禁止民事訴訟においては、「主張する者が挙証する」原
則に基づき、原告より係争協定が競争の排除・制限の効果を生じたことを証
明すべきである。
したがって、本件において、二審法院は、上訴人がひとまず、最低転売価
格制限協定が存在することを証明した後、本件最低転売価格制限協定が競争
の排除・制限の効果を生じたことを証明できる関連証拠を提出すべきである
と認定した。上訴人が上述の証拠を提出した後、被上訴人は反論証拠を提出
- 61 -
すべきである。
2
垂直的独占協定の認定原則について
垂直的独占協定とは経営者と取引相手間において締結した協定を言う。
「独占禁止法」に基づき、垂直的独占協定には以下のものが含まれている。
① 第三者へ転売する商品の価格を固定する。
② 第三者へ転売する商品の最低価格を制限する。
③ 国務院の独占禁止法執行機関が認定するその他の独占協定。
転売価格を制限する全ての協定が違法であるわけではない。経済学の角度
から見れば、最低転売価格を制限する行為は「両刃の剣」であり、良い面もあ
るが危害が及ぶおそれもはらんでいる。考えられる主な危害としては、通
常、市場の公平な競争、経済運営効率と消費者利益等のさまざまな面におい
て、マイナスの影響が現れることが考えられる。他方、その積極的な意義と
しては、代理業者間の悪性競争を避けることができ、異なるブランド間の同
類製品間の良性な競争を促進することが挙げられる。転売価格を制限するこ
とは、同時に競争の制限と促進の市場効果を有するので、転売価格を制限す
る協定が独占協定にあたるかどうかは一概に論じることはできない。
合理の原則と当然違法の原則は、独占審査における 2 大原則である。当然
違法の原則は、主に、明らかに経済効率を損なう行為に用いられるが、企業
の市場における特定の行為が法律に禁止される範囲に属すれば違法と見な
し、当該行為の市場に対する影響を総合的に考慮する必要はない。一方、合
理の原則は、米国独占禁止法において競争を制限する行為の違法性を判断す
る基本原則から発展したものである。その核心は、合理分析の方法で、競争
を制限する行為の社会コストと補償性収益を対比することを通じて、その行
為が合理的であるかどうかを判断し、さらに、合法であるかどうかを認定す
るものである。
なお、「独占禁止法」第 13 条に基づき、独占協定は競争の排除・制限の効
果を生じたことを構成要件とすべきである。当該概念は水平的独占協定を規
範する条項に定められているものの、転売価格を制限する協定においても同
じく適用すべきである。そのため、法院が独占審査をする際、合理の原則に
て最低転売価格制限協定が競争の排除・制限の効果を生じたかどうかを判断
し、そのプラス・マイナス効果についおて十分に考慮して、最終的に独占協
定を構成するかどうかを判断することを求めている。
本件において、二審法院もまさに合理の原則に基づき、最低転売価格を制
限する行為に対して総合的に分析した。即ち、関連市場の競争が十分である
かどうか、被告の市場地位が強大であるかどうか、被告が最低転売価格を制
限した動機、最低転売価格を制限した競争効果等の四つの面を最も重要な考
- 62 -
慮するべき要素と考え、最低転売価格を制限した行為を分析・評価すること
を基本方法とした。
かつ、本件の事实に基づき、本件の関連市場における競争が不十分で、
ジョンソン&ジョンソン社がこの市場で相当強い勢力を有し、本件におい
て、最低転売価格を制限した動機は価格競争を避けることにあり、本件にお
ける最低転売価格制限協定が競争の排除・制限の効果を生じたが、明らかに
十分な競争促進の効果を上げてはいなかったため、最終的に独占協定に当た
ると認定した。
②
米国イーライリリー社、礼来(中国)研発公司と黄孟煒との間のノウハウ侵害紛争
事件【上海市第一中級人民法院(2013)滬一中民五(知)初字第 119 号民事判決書】
【事件の概要】
黄孟煒は 2012 年 5 月に礼来(中国)研発公司(以下「イーライリリー中国社」という)
に入社し、同社と「秘密保持契約書」を締結した。2013 年 1 月に、黄孟煒はイーライリ
リー中国社のサーバーから米国イーライリリー社、イーライリリー中国社(以下合わ
せて「イーライリリー社」という)の保有する 48 点の文書(イーライリリー社はそのう
ち 21 点の文書について、核心的機密に係わるビジネス文書であると主張)をダウン
ロードし、上記文書を無断で黄孟煒の保有する設備に保存した。交渉の結果、黄孟煒
は同意書にサインし、会社の機密文書 33 点をダウンロードしたことを認め、イーラ
イリリー社が指定する者による当該文書の検査、削除を受け入れることを承諾した。
その後、イーライリリー社は何度も担当者を派遣して黄孟煒と連絡させたが、黄孟煒
は同意書に取り決めた事項の履行を拒絶した。イーライリリー社は 2013 年 2 月 27
日、黄孟煒に対し書簡で双方の労働関係を解除する旨を宠告した。2013 年 7 月、イー
ライリリー社は黄孟煒がノウハウを侵害したとして上海市第一中級人民法院に訴訟を
提起し、行為保全の申立てを行い、被申立人黄孟煒に対し申立人から盗み取った 21
点の営業秘密文書を開示、使用又は他人に使用を許可しないよう命じることを請求し
た。このために、イーライリリー社は人民法院に 21 点の係争営業秘密文書の名称及
び内容、承諾書などの証拠資料を提出すると同時に、上記申立について担保金を提供
した。上海市第一中級人民法院は審査した結果、申立人の提出した証拠により、被申
立人が申立人の営業秘密文書を入手し、保有していると暫定的に証明することがで
き、被申立人が上記書類の検査、削除を受け入れるとの承諾を履行しなかったこと
で、申立人の主張する営業秘密は開示、使用又は漏洩の危険にさらされ、申立人に取
り返しのつかない損害を与える恐れがあるため、行為保全の要件を満たしていると判
断した。2013 年 7 月 31 日、同人民法院は、被申立人黄孟煒に対し、申立人米国イー
ライリリー社、イーライリリー中国社が営業秘密としての保護を主張する 21 点の文
書を開示、使用又は他人に使用を許可することを禁止する旨の民事裁定を下した。
- 63 -
2013 年 12 月 25 日、同人民法院は第一審判決を下し、黄孟煒の行為はイーライリリー
社の営業秘密に対する侵害に当たり、停止すべきであると判断したが、イーライリ
リー社はその被った損失を証明する証拠を提出しなかったため、本件のために支出し
た合理的費用 12 万元の賠償を命じるにとどまった。本件の第一審判決は既に発効さ
れている。
【事件の革新性】
新民事訴訟法に行為保全制度が導入され、その適用範囲を全ての民事事件分野にま
で拡大した。行為保全措置は権利者が緊急の場合にその権利を保護するための有効な
手段である。人民法院が当事者の申立てに基づいて積極的かつ合理的に知的財産保全
措置を取ることで、保全制度の適時性を十分に利用し、知的財産に対する司法救済の
即時性、便宜性及び有効性を高めることができ、知的財産権の保護促進において重要
な意義を有する。本件は、新民事訴訟法に基づき営業秘密侵害訴訟において行為保全
措置が適用された我が国初の事件であり、社会のニーズに応えて法に基づき知的財産
司法保護の強化を目指す人民法院の实践的努力を示している。
【コメント】
本件は、2012 年の民事訴訟法改正において新設された行為の保全措置に係る
規定(同法第 100 条)を営業秘密侵害訴訟において初めて適用した事例として、10
大革新性知的財産判例に選ばれた14。
ⅰ 営業秘密侵害訴訟における行為の保全措置の適用について
営業秘密とその他の情報との最も大きな違いはその秘密性であり、それが
営業秘密の核心である。そして、他の権利侵害と異なる営業秘密侵害の最大
の特徴は、営業秘密がその秘密性を一度侵害されてしまった場合、その秘密
性を修復することは不可能であるという点である。ひとたびこの段階(秘密
の公開)に至ってしまえば、これに対する効果的な法的保護は期待できな
い。この意味において、営業秘密の侵害の恐れが発生した時点で、可及的速
やかにその侵害者又は潜在的な侵害者による営業秘密の漏洩行為や無断使用
行為等を禁じることは大変重要であり、かつ、それこそが営業秘密の権利者
にとって最も強力な救済措置になると考えられる。
ⅱ 営業秘密侵害訴訟における行為の保全措置の考慮要素について
14
2012 年の第二次民事訴訟法改正による行為の保全措置に係る規定の新設、及び同措置が著作権侵害案
件において認められた事例については、本報告書Ⅱの 1-(1)の③を参照されたい。
- 64 -
人民法院は、緊急性、必要性、回復困難性の要素を考慮して行為の保全措
置の要否を決定する15。
この緊急性、必要性、回復困難性について、本件営業秘密侵害訴訟におい
て、裁判官は以下のとおりに解釈し、保全措置の必要性を認定した16。
a
本件では、営業秘密情報がすでに被申請者側の支配下にあり、いつ
でも競合他社を含めた第三者に開示されてしまう恐れがあった(緊
急性)。
b
そして、係争対象の情報は、医薬品の開発に関連するものであるた
め、それが保護に値する秘密情報性を有するか否かは専門家の意見
を聞かなければ本来は人民法院が判断することは難しいところ、
(a)被申請者が係争情報 21 点を含む 33 点の秘密文書をダウンロー
ドしたことを認め、(b)指定人員に当該情報を削除させることを認
めていることからして、被申請者が不正な手段を用いて権利者が営
業秘密として保護する文書を取得した事实は明らかであった(必要
性)17。
c
さらに、本件営業秘密情報は、その秘密性が一旦失われ、公開情報
となってしまうと、その秘密性が永久に失われるという特性を有す
る(回復困難性)一方で、「被申立人による係争情報の開示の禁止」と
いう保全措置を行っても、権利者も人民法院に対して既に保証金を
提供している以上、被申立人が損害を被ることもない(被申立人の
立場からの回復可能性)。
ⅲ 日系企業への示唆
本件をみると、営業秘密侵害訴訟において行為の保全措置が認めてもらう
ために、権利者としては、営業秘密として保護を求める情報が真に必要性を
有することを裁判官に判断させるための判断材料を確保することの重要性が
分かる。そこで、営業秘密情報を有する日系企業をはじめとする権利者は、
本件申請者の対応を倣って、①社内の情報管理に係る社内規則を制定し、そ
れを従業員に周知・徹底させること、②かかる社内規則違反の行為が発見さ
れた場合は、当該規則に基づいた迅速な対応を实施すること、及び③当該対
応の实施に際しては、将来的に訴訟に発展する可能性も踏まえて逐一証拠を
残すように意識しておくことが重要となる。
15
詳細につき、本報告書Ⅱの 1-(1)の③以下解説を参照されたい。
16
唐震、呂長利《営業秘密侵害訴訟における行為の保全措置の適用》;《人民司法・案例》2013 年第 22
期。
17
営業秘密侵害訴訟においては、係争情報が真に営業秘密として保護に値すべき情報であるか否か(保全
措置の必要性)の判断が、保全措置を認める上での重要な判断ポイントとなるものと思料される。
- 65 -
③
百度在線網絡技術(北京)有限公司等と北京奇虎科技有限公司等との間の不正競争紛争
上訴事件【北京市高級人民法院(2013)高民終字第 2352 号民事判決書】
【事件の概要】
北京奇虎科技有限公司(以下「奇虎社」という)と奇智軟件(北京)有限公司(以下「奇智
社」という)は、アンチウイルスソフト「360 安全衛士」の運営会社である。北京百度網
訊科技有限公司(以下「百度網訊社」という)と百度在線網絡技術(北京)有限公司(以下
「百度在線社」という)は、百度サイト(www.baidu.com)の運営会社である。公正証書に
よると、2012 年 2 月と 3 月に、検索結果に対応するサイトにリスクが存在するとユー
ザーに警告するために、「360 安全衛士」は百度サイトの検索結果ページに警告マーク
として作為的に赤の背景に白の感嘆符のマークを挿入した。さらに、「360 安全衛士」
は検索結果ページにマークを挿入しただけでなく、ネットユーザーが「360 セキュリ
ティブラウザ」をインストールするように徐々に誘導して、その製品の普及を図った。
2012 年 3 月と 4 月に、奇虎社はそのナビゲーションサイト(hao.360.cn)のウェブペー
ジに百度の検索枠を設けて、百度サイトがその検索枠でユーザーに提供するプルダウ
ンの提示用語を改ざんすることで、関連キーワードの検索結果の上位でない、さらに
はユーザーの検索目的と完全に異なる奇虎社の運営するビデオ、ゲームなどのページ
にアクセスするように誘導した。百度網訊社と百度在線社は北京市第一中級人民法院
に第一審の訴訟を提起した。同人民法院は第一審で、「360 安全衛士」による検索結果
ページへのマーク挿入行為及び検索枠提示用語改ざん行為は不正競争に当たり、相応
の責任を負うべきであると判断し、不正競争行為を停止し、声明を掲載してその影響
を除去し、経済的損失 40 万元及び訴訟の合理的支出 5 万元を賠償するよう命じる判
決を下した。奇虎社は第一審判決を不服として上訴した。北京市高級人民法院は第二
審で、次のように判断した。原則として、インターネット製品又はサービス間では妨
害しあってはならない。インターネットサービス事業者は、インターネットユーザー
など社会公衆の利益を保護することを目的として、特定の事情に限り、インターネッ
トユーザーの了解と自主的判断及び他のインターネット製品又はサービス提供者の同
意を経ずに他人のインターネット製品又はサービスを妨害することができるが、妨害
手段の必要性と合理性を確保、証明しなければならない。この原則は、「公益上必要
でない限り妨害しない原則」といわれる。奇虎社は、「360 安全衛士」が検索結果ページ
にマークを挿入する行為、検索枠の提示用語を改ざんする行為の必要性と合理性を証
明していないため、「公益上必要でない限り妨害しない原則」に違反しており、不正競
争に当たる。よって、北京市高級人民法院は、上訴を棄却し、原判決を維持する旨の
判決を下した。
- 66 -
【事件の革新性】
近年来、インターネット事業者の不正競争紛争が頻繁に発生し、その多くはイン
ターネット製品又はサービス間の相互妨害に起因する。これらの紛争を裁判すると同
時に、いかに判決を通じてインターネット事業者の競争秩序を整え、インターネット
製品、サービスの自由で公正な競争秩序を守るかは、知的財産裁判が直面する重要な
課題である。本件の第二審判決では、次のように強調した。インターネット製品又は
サービスは、平和共存、自由競争が行われるべきである。インターネット製品又は
サービスを利用するかどうかは、インターネットユーザーの自らの判断にかかってい
る。原則として、インターネット製品又はサービス間は妨害しあってはならない。公
共利益を保護するために妨害措置を取る場合でも、妨害の必要性を確保しなければな
らない。本件の第二審判決で確立されたインターネット製品又はサービスが競争にお
いて守るべき「公益上必要でない限り妨害しない原則」は、インターネット事業者の競
争秩序の規範化に対する革新的な探索であり、同類事件の処理に一定の模範的役割を
果たすであろう。
【コメント】
(判決文全文が公開されていないため、下記は公開情報(人民法院報、人民法院網
の情報)を基にまとめた。)
本事件におけるポイントは、インターネット上の競争における遵守すべき原則
として「公益必要以外非妨害原則」が確定されたことである。
インターネットの急激な発展により、「不正競争防止法」が当初に予想していな
かった不正競争行為が次々に発生し、「不正競争防止法」第 5 条乃至第 15 条の具
体的な行為に関する規定では対処することができない場合がある。このような場
合は、原則に戻り、原則規定である第 2 条第 1 項(事業者は市場における取引の
過程で、自由意思、平等、構成、誠实信用の原則に従い、広く認められている商
業道徳を遵守しなければならない)を根拠に、新たな不正競争行為を規制する必
要がある。
本事件の場合、係争行為である警告マークの挿入、プルダウン提示語彙を改ざ
んする行為は、「不正競争防止法」第 5 条乃至第 15 条に規定されていないことか
ら、原則規定の第 2 条 1 項が適用されるとし、同条項の解釈として、以下のよう
なインターネット上の「公益必要以外非妨害原則」を確定した。
「インターネット製品またはサービスは平和共存自由競争するべきであり、ま
た、インターネットユーザーの意思で製品又はサービスの使用を決定できるべき
であり、原則的に、相互に妨害し合ってはならない。確かにインターネットユー
ザーなど社会公衆の利益を保護する目的で、インターネットサービス・プロバイ
ダは特定事情に限って、インターネットユーザーの了解と自主的判断、及びその
他のインターネット製品またはサービス提供者の同意を経ずに、他人のインター
- 67 -
ネット製品またはサービスを妨害することができるが、この場合、妨害手段の必
要性と合理性を確保、証明しなければならない。」
「公益必要以外非妨害原則」とは①自由競争の確保、②相互妨害の禁止及び③選
択の自由の確保が必要であるが、他方で、④社会公衆の利益を保護する場合に限
り、妨害をすることが例外的に許容されるという原則である。
前記③の社会公衆の利益を保護する例外に関して、後記の状況が挙げられる。
①実観的な原因により妨害された場合、②妨害につきネットユーザーが認知した
上で主体的に選択する場合、③妨害につきネットユーザーが認知せずに公衆利益
を保護する場合(この場合、妨害主体は、ⅰ社会公衆の利益のための妨害である
こと、ⅱ妨害手段の必要性及び合理性の立証責任を負うこと。一般的には、セ
キュリティ等が考えられる)がある。
本件の場合、被告側は、検索結果から排除した情報が詐欺情報であり、または
リンク先にウイルスが存在する恐れがあるので排除したと反論したが、公衆利益
保護、及び妨害の必要性の 2 つの要件を立証できず、かかる主張は認められな
かった。
近年、B(百度)T(テンセント)A(アリババ)を中心する中国のインターネット市
場が形成されているが、インターネット市場の競争はますます激化している。科
学・技術の発展に伴い、新たな不正競争行為が発生する可能性があり、これを判
断する際、本件は重要な価値を有すると考えられる。
④
グーグル社と王莘との間の著作権侵害紛争上訴事件【北京市高級人民法院(2013)高民
終字第 1221 号民事判決書】
【事件の概要】
筆名が棉棉である王莘は『「塩酸恋人』」という書籍(以下「係争著作物」という)の作
者である。2009 年 10 月に、王莘の代理人が北京谷翔信息技術有限公司(以下「谷翔社」
という)の運営するサイト http://www.google.cn(以下「グーグル中国サイト」という)
にアクセスし、その図書検索カテゴリーに入って、検索枠に「棉棉」を入力して検索し
たところ、検索結果の一番目は係争著作物であった。当該検索結果をクリックして次
のページに進むと、係争著作物の概略、著作物の一部、常用の用語とフレーズ、著作
物の著作権情報などの内容が掲載されていた。当該ページにおいて、キーワード検索
を利用したところ、当該キーワードを含む係争著作物の関連部分が示された。王莘
は、グーグル社が係争著作物をスキャンし、電子書籍化する行為、谷翔社がグーグル
中国サイトに係争著作物の一部を掲載する行為は権利侵害に該当するとして、北京市
第一中級人民法院に訴訟を提起した。第一審人民法院は、次のとおり判断した。谷翔
社が係争著作物の一部を提供する行為は情報ネットワーク伝播行為に当たるが、当該
行為はフェアユースに該当する。しかし、グーグル社の全文スキャン行為はフェア
- 68 -
ユースに該当せず、権利侵害の責任を負うべきである。よって、第一審人民法院は、
グーグル社に対し、侵害行為を停止し、経済的損失 5,000 元、訴訟の合理的支出
1,000 元を賠償するよう命じる判決を下した。王莘は、第一審判決を不服として上訴
し、グーグル社の複製行為はフェアユースに該当しないと主張した18。北京市高級人
民法院は第二審において、次のように判断した。「著作権法」第 22 条に定めた具体的
な場合以外にフェアユースを認定するにあたっては、認定基準を厳格に適用しなけれ
ばならない。使用者がその使用行為についてフェアユースに該当することを十分に証
明できる場合を除き、使用行為は権利侵害に当たると推定すべきである。フェアユー
スに該当するかどうかを判断するには、通常、著作物使用の目的と性質、著作権保護
を受ける著作物の性質、使用される部分の品質及び著作物全体に占める比重、並びに
使用行為の著作物の現实的・潜在的市場、価値への影響などの要素を考慮すべきであ
る。上記の考慮要素に係わる事实については、使用者が挙証責任を負うべきである。
本件においては、グーグル社は中国の人民法院が本件の管轄権を持たないことを証明
する証拠を提出しただけで、複製行為がフェアユースに該当するかどうかについて証
拠を提出していないため、その複製行為がフェアユースに該当するという主張には証
拠が足りない。北京市高級人民法院はまた、次のように判断した。許可を得ていない
複製行為は原則として権利侵害に当たるが、フェアユースだけのために行った複製に
ついては、その後の使用行為と合わせて扱うべきであって、同じようにフェアユース
に該当する可能性がある。よって、北京市高級人民法院は、上訴を棄却し、原判決を
維持する旨の判決を下した。
【事件の革新性】
いかに具体的にフェアユースを認定するかは、インターネット上の著作権紛争でよ
くみられる争点の 1 つである。本件の第一審判決も第二審判決もフェアユースの具体
的認定規則について、より深い探索を行った。本件の第二審判決は、次のように判断
した。「著作権法」に定めた著作権者が实施すべき行為が实施されさえすれば、使用者
が反対の証拠を提出して当該行為がフェアユースの構成要件を満たすことを証明した
場合を除き、原則として権利侵害と認定すべきである。使用行為がフェアユースに該
当する場合、当該使用行為だけのために行った複製行為もその使用行為と合わせて扱
うべきである。使用行為がフェアユースに該当するならば、当該複製行為もフェア
ユースに該当する可能性がある。第二審判決におけるフェアユースの具体的認定規則
に対する探索は、革新性が高く、インターネットの著作権紛争におけるフェアユース
の認定規則の規範化、発展に対して一定の模範的役割を果たすであろう。
18
後記注7参照されたい。
- 69 -
【コメント】
本件判決は、著作権法第 22 条19で定めるフェアユースの認定を巡る二審判決で
ある。本件において、係争作品に対する全文複製行為が「フェアユース」に該当す
るか否かが争点となっているところ、その認定に関する第二審人民法院の考え方
は、インターネットの普及により今後増加が予想される同様の事例において参考
となるため、以下に一審判決の経緯を補足しつつ本件におけるフェアユースの認
定に関して解説を加える。
ⅰ
第一審判決
一審においては、王莘(以下「王氏」という。一審の原告、二審被上訴人)が
グーグル社(一審第二被告、二審上訴人)の全文複製行為が一審原告の著作権
を侵害したとの主張に対して、グーグル社は、当該複製行為は著作権法で認
められたフェアユースであると反論した。第一審人民法院は、以下の理由に
基づき、当該複製行為がフェアユースには該当しないと判断した。
a
(一部にとどまらず)全文を複製する行為は、原告作品に対する正常な利
用方法に抵触していること
b
グーグル社による全文複製行為は、今後も当該作品を原告の許可なく、
グーグル社が継続的に利用する恐れのある状態を作出するものであるこ
と
c
加えて、グーグル社による全文複製行為は、今後他人が原告の許可なく
当該作品を利用することをも可能にしてしまったこと
d
グーグル社による全文複製行為がフェアユースに該当するか否かは、複
製物の継続的な使用又は伝播行為の有無とは原則として無関係であるこ
と20
ⅱ
第二審判決
二審判決は、グーグル社の複製行為はフェアユースに該当しないという結
論は維持し、グーグル社の主張を退けたものの、その理由部分において一審
判決の理論構成を一部修正した。二審判決が述べた理由は以下のとおりであ
る。
a
著作権法第 22 条で列挙された具体的な事由以外でのフェアユースを認
19
著作権法第 22 条は、同条列挙の作品の使用行為(学習や研究目的の使用や、紹介や評論目的の引用、
報道目的の再現や引用、図書館等における収蔵のための複製や国家機関の公務における使用等)は、
「フェアユース」行為であるとして、原則として著作権者の許可を得ず、かつ報酬を支払わずに著作権
作品を使用することを認めている。
20
一審判決によると、本件現有の証拠に基づき、グーグル社による全文複製行為が証明されたが、グー
グル社による複製物の継続的な使用及び伝播行為の有無が不明である、ということである。
- 70 -
めるためには、判断基準を厳しくすべきである。すなわち、使用者はそ
の使用行為がフェアユースであることを証明できなければ、当該使用行
為は権利侵害行為であると推定されるべきである。
b
フェアユースの判断に当たっては、通常以下の要素を考慮する。
(ⅰ) 係争作品を使用する目的及び性質
(ⅱ) 著作権の保護を受ける作品の性質
(ⅲ) 使用されている部分の質量及びそれが作品全体に占める割合
(ⅳ) 使用行為が係争作品の市場(潜在的な市場も含む)及び価値に与える
影響等
c
上記 b の考慮要素に関わる事实については、フェアユースを主張する者
が立証しなければならない。
d
加えて、第二審人民法院は、許可のない複製行為は原則として権利侵害
に該当するが、フェアユースのために行われた複製行為は、複製後の継
続的な使用行為等と合わせて判断すべきであり、状況によってはフェア
ユースと認定する余地があるとして、一審判決のⅰ-d 点目で述べた原
則に補足を加えている。
以上を理由として、二審判決は、グーグル社がその複製行為がフェアユースで
あることを裏付ける事实証拠を提出しなかったとして、その請求を棄却したもの
である。
⑤
天津天隆種業科技有限公司と江蘇徐農種業科技有限公司との間の育成者権紛争上訴事
件【江蘇省高級人民法院(2011)蘇知民終字第 194 号、(2012)蘇知民終字第 55 号民事
判決書】
【事件の概要】
2000 年 11 月 10 日に、北方雑交粳意稲工程技術中心(以下「北方ハイブリッドうるち
センター」という)と江蘇徐淮地区徐州農業科学研究所(以下「徐州農科所」という)が共
同で育成した「9 優 418」水稲品種が全国農作物品種審定委員会の審査を通過した。「9
優 418」水稲品種は母方品種 9201A、父方品種 C418 から育成されたものである。北方
ハイブリッドうるちセンターと遼寧省稲作研究所(以下「遼寧稲作所」という)は 2 つの
名称を有する 1 つの組織であり、その主管部門はいずれも遼寧省農業科学院である。
2003 年 12 月 30 日に、遼寧稲作所は国家農業部に C418 水稲品種の育成者権を申請
し、2007 年 5 月 1 日に権利を付与された。2007 年 5 月 1 日に、遼寧稲作所と天津天
隆種業科技有限公司(以下「天隆社」という)は「専用利用権許諾契約書」を締結し、遼寧
稲作所は天隆社に対して C418 の育成者権の専用利用権(遼寧省を除く)を付与した。
2003 年 9 月 25 日に、徐州農科所はその育成した「徐 9201A」水稲品種について国家農
業部に育成者権の保護を申請し、2007 年 1 月 1 日に権利を付与された。2006 年 4 月 3
- 71 -
日に、徐州農科所水稲审と天隆社は「『徐 9201A』の導入使用に関する契約書」を締結
し、「徐 9201A は国に育成者権の保護を申請済みであり、他社の利用は検定交雑の組
合せに限定され、商業開発に用いてはならず、また、第三者に拡散しないことを保証
しなければならない。使用期間中に同意を得ずに無断で繁殖してはならず、これに違
反した場合、権利侵害責任を追及する」と取り決めた。2008 年 1 月 3 日に、徐州農科
所と江蘇徐農種業科技有限公司(以下「徐農社」という)は「技術譲渡契約書」を締結し、
徐州農科所は徐農社に対して徐 9201A の育成者権の専用利用権を許諾した。天隆社、
徐農社はそれぞれ人民法院に訴訟を提起し、自己が独占的に保有する父方品種 C418、
母方品種徐 9201A の育成者権を相手方が侵害していることを確認するよう請求した。
人民法院は調査により、双方当事者は「9 優 418」水稲品種の生産においてそれぞれ同
様の父方品種 C418 と母方品種徐 9201A を使用したことを明らかにした。江蘇省高級
人民法院は第二審で、両事件で明らかになった事实を総合的に分析したところ、天隆
社、徐農社が「9 優 418」水稲品種の生産において互いに相手方の権利侵害を訴えてい
ることは、事实的根拠、法的根拠に欠けていると判断した。遼寧稲作所と徐州農科所
の「9 優 418」品種をめぐる提携の根源及び提携目的並びに双方がそれぞれ「9 優 418」を
生産するにあったっての法的障害に基づき、また、「9 優 418」の交配生産における父
方品種と母方品種の地位及び役割がほぼ同じであることに鑑み、人民法院は、提携双
方及び本件の双方当事者はいずれも相手方が権利を付与された親本繁殖材料を使用す
る権利があるほか、使用料を免除し合うべきであり、ただし、これは「9 優 418」水稲
品種の生産、販売に限られ、(その他の商業目的に用いてはならない)旨の判決を下し
た。さらに、人民法院は、徐農社が第二審において「9 優 418」品種を普及させるため
に、多くの商業的努力をしたうえで栽培技術の難題解決に取り組んだと主張したこと
について天隆社も認めたことに注目し、天隆社は「9 優 418」品種が市場で広く認めら
れた後に当該生産の領域に入ったのであり、当該品種を普及させるための市場コスト
が尐なくて済んだことは明らかであり、よって、天隆社が徐農社に一定の経済的補償
を支払うことは、公正性、合理性があるとした。また、次のように指摘した。双方当
事者がそれぞれ「9 優 418」を生産していることにより、事实上、ある程度の市場競争
と利益衝突が存在する。双方当事者はわが国の不正競争防止法の関連規定を遵守し、
誠实に事業を行い、秩序ある競争を行わなければならず、特に各自の商業マークを
はっきり表示し、新たな争議や紛争の発生を防止しなければならない。
【事件の革新性】
本件で示された育成者権紛争事件についての人民法院の考え方は、探索性、革新性
がある。本件人民法院の考え方の革新ポイントは、国の食糧安全戦略及び知的財産の
運用価値を守るために、強制許諾制度を参考にし、双方の父方品種と母方品種が係争
品種の生産において同様の価値を有するとバランスを取った上で、司法裁判の形で双
方当事者は相互に許諾し、かつ使用料を免除する旨の判決を直接に下し、その栽培が
- 72 -
既に広く普及している優良ハイブリッド米「9 優 418」を引き続き生産できるようにし
たことにある。本件の第二審裁判後、双方当事者は発効した裁判を協議して履行し、
良好な法的効果と社会的効果を上げた。
【コメント】
本件は、当事者双方がそれぞれ育成権及び排他的独占権を有する品種(育種素
材)同士を交配させ、新品種(「9 優 418」品種)を生産している場合において、当事
者双方の利益のみならず公共の利益をも考慮したうえで、人民法院が双方当事者
にクロスライセンスの付与を強制的に命じた革新的な判例である。
以下では、本件二審の人民法院が強制的クロスライセンス命令を判示した理由
及びその前提条件について、補足説明を加える。
ⅰ
第二審人民法院が示した理由
a
遼寧稲作所と徐州農科所による 9 優 418 水稲品種の共同育成の経緯及び
目的
遼寧稲作所と徐州農科所は、共同育成の開始に当たり、相手方による
使用、育成及び繁殖のため、互いに無償で相手方に育種素材(交配親品
種)を提供した。なお、共同育成の開始時及び 9 優 418 水稲品種が審査
を通過した後、今後互いの育種素材に関する権利をいかに行使するかに
ついては、何も約定していなかった。
このような特別の約定のない状況においては、共同育成に当たった双
方が相手の育種素材を使用する権利を有する。
b
相手方の育種素材がなければ、当事者がそれぞれ独自に 9 優 418 水稲品
種を生産することは困難であること
本件では、天隆社が 9 優 418 水稲品種の育種素材(父方品種)である
C418(育成権者:遼寧稲作所)の独占使用権の許諾を受け、徐農社が 9 優
418 水稲品種の育種素材(母方品種)である徐 9201A(育成権者:徐州農科
所)の独占使用権の許諾を受けているところ、互いに相手方の育種素材
も使用できなければ、9 優 418 水稲品種を生産することはできない。
加えて、本件の当事者が互いの権利について合意に達することができ
ず、9 優 418 水稲品種の生産が継続できなくなると、当事者双方の利益
だけではなく、国家の食糧安全戦略の实施の妨げにもなり、既に 9 優水
稲 418 品種が普及し作付けが開始されている江蘇省、安徽省及び河单省
の農家の生産にも影響が出て、公共の利益・農家の利益が損なわれる。
かかる事態の発生は、遼寧稲作所と徐州農科所の共同育成の目的に反
しており、植物新品種の实施促進という植物新品種法の目的にも沿わな
- 73 -
い。よって、国家食糧生産安全の公益及び優良品種の開拓のため、両当
事者による独占使用権の行使を制限することが妥当である。
c
「徐 9201A」(母方品種)と「C418」(父方品種)はほぼ同等の地位と価値を有
すること21
調査で判明した事实及び関連資料によれば、9 優 418 水稲品種の育種
素材に係る「徐 9201A」(母方品種)と「C418」(父方品種)は、ほぼ同等の地
位と価値を有する。
ⅱ
第二審人民法院が示した条件
第二審判決は、双方当事者に強制的なクロスライセンスを命じる一方で、
その内容について以下のとおりの制限を加えている。
a
9 優 418 水稲品種の生産及び販売目的に限定する。他の商業目的のた
め、相手方の育成素材を使用してはならない。
b
双方当事者はそれぞれ 9 優 418 水稲品種を生産しているため、競争や利
益の抵触が生じることが予想されるが、共に反不正当競争法の関係規定
を遵守し、とりわけそれぞれの商業標識を明確にし、新たな紛争の発生
を防止し、共に 9 優 418 水稲品種の良好な名声を保護・維持すべきであ
る。
ⅲ
日系企業への示唆
前記ⅰの a に関して、仮に共同育成のパートナーである遼寧稲作所と徐州
農科所の間で、新品種及び育成素材の権利の所属や分配をあらかじめ契約に
おいて明確に規定していれば、本件のような紛争に発展することはなかった
のではないかと思料される。農業分野においては、従来、このように詳細な
契約を作成しないことも多かったものと思われる。日系企業や関連団体にお
いても、中国の研究機関等と種苗の共同育成を行う場合には、本件を参考
に、紛争の発生を未然に防ぐように、互いの権利範囲を明確にした疑義のな
い契約書の作成を心がける必要がある。
21
一審で徐農社が、自己が独占的使用権の許諾を受けている「徐 9201A」が雄性不稔系統であり、より重
要な役割を果たしていると主張したのに対し、天隆社は上訴審において、自己が独占的使用権の許諾
を受けている「C418」(父方品種)は回復系統で適応力が高く、雑交水稲の優位性をより強化させたと反
論し、それぞれ資料を提出した。
- 74 -
⑥
中山市隆成日用製品有限公司と湖北童覇児童用品有限公司との間の実用新案権侵害紛
争再審事件【最高人民法院(2013)民提字第 116 号民事判決書】
【事件の概要】
中山市隆成日用製品有限公司(以下「隆成社」という)は「前輪位置決め装置」との名称
の实用新案(以下「本件实用新案」という)権者である。2008 年 4 月に、隆成社は湖北童
覇児童用品有限公司(以下「童覇社」という)が本件实用新案を侵害したとして訴訟を提
起した。湖北省武漢市中級人民法院は第一審で、童覇社に対して、権利侵害を停止し
損失を賠償するよう命じる判決を下した。童覇社はこれを不服として上訴した。第二
審の期間、人民法院による調停を経て、双方は調停合意を交わし、湖北省高級人民法
院は、童覇社は隆成社の实用新案権を以後侵害しないことを保証し、隆成社の实用新
案権を侵害する行為が発見された場合、隆成社に 100 万元を賠償する旨の民事調停書
を作成した。その後、隆成社は、童覇社が本件实用新案権を侵害する経営行為を続け
ていることを発見したので、2011 年 5 月に湖北省武漢市中級人民法院に再度訴訟を提
起し、童覇社に対して 100 万元を賠償するよう命じる判決を下すよう人民法院に請求
した。第一審の裁判中に、人民法院の釈明を経て、隆成社は、本件は实用新案権侵害
による提訴であり、契約違反の訴訟を選択しないと明確に示したが、侵害賠償金額に
ついては双方の取り決めた基準で計算するよう人民法院に請求した。第一審人民法院
は、次のように判断した。隆成社は権利侵害の訴訟を提起することを明確に選択した
ので、権利侵害責任法に基づいて賠償金額を確定すべきである。賠償金額を前事件の
民事調停書を基準にすると、契約法第 122 条の規定と矛盾する。隆成社が権利侵害の
訴訟であると主張していることで、童覇社は契約違反訴訟の契約違反事实及び違約金
の額の妥当性について抗弁することができず、契約違反訴訟を法廷の調査及び弁論の
範囲に入れることはできない。隆成社は契約違反の訴訟を主張していないので、人民
法院は契約違反行為及びその責任について判断する必要がなく、よって、当事者が取
り決めた違約賠償金の適用は適さない。第一審人民法院は、法定賠償を適用して、童
覇社に対して隆成社に 14 万元を賠償するよう命じる判決を下した。隆成社はこれを
不服として上訴した。湖北省高級人民法院は第二審において、権利侵害行為が成立す
るかどうかは本件の当事者双方の権利・義務関係の基礎であり、調停合意で取り決め
た賠償金額は本件に適用できないと判断し、上訴を棄却し、第一審判決を維持する旨
の判決を下した。隆成社はこれも不服として、最高人民法院に再審を申し立てた。最
高人民法院は本件を再審することを裁定し、2013 年 12 月 7 日に第一審、第二審判決
を取り消し、童覇社に対して隆成社に 100 万元を賠償するよう命じる判決を下した。
【事件の革新性】
通常、知的財産権侵害訴訟において、権利者は自身の損失及び権利侵害者の得た利
益を証明することが難しいため、その損害賠償請求の全額が人民法院の支持を得られ
- 75 -
ることはない。賠償金額が低いこと、挙証が困難であることは、知的財産保護の強
化、権利侵害行為に対する制裁を制約する重要な要素になっている。最高人民法院は
本件の判決を通じて、下記の 3 点を明確にした。(1)権利者と権利侵害者間の、権利
侵害による損害賠償金額に関する事前の約束は合法的で有効なものであり、このよう
な約束の法的性質は、権利侵害が将来発生した時に権利者が権利侵害により被る損失
又は権利侵害者が侵害により得る利益について、双方間で事前に合意する簡卖な計
算、確定方法である。(2)前記権利侵害による損害賠償金額に関する約束は、権利者
と権利侵害者との間の取引契約に当たらないので、権利侵害者が負うべき民事責任は
権利侵害責任のみであり、契約法第 122 条に定める権利侵害責任と契約違反責任の競
合の場合に該当しない。(3)人民法院は直接に権利者と権利侵害者との事前の約束を
権利侵害による損害賠償金額確定の根拠とすることができる。本件の審理は、各種の
合法かつ有効的な措置を探索し、権利者の挙証責任の負担を適当に軽減し、損害賠償
の計算方法を改善し、損害賠償を強化することについて、一定の指導的意義がある。
【コメント】
本件ポイントは、侵害責任を追及する場合に、賠償額についての事前の合意を
根拠に賠償額の認定をすることができるかにあり、契約法第 122 条との関係で問
題となる。
契約法第 122 条には、「一方当事者の違約行為により相手方の身体、財産上の
利益を侵害した場合、被害者は契約に基づき違約責任の負担を請求するか、又は
他の法律に基づき不法行為責任の負担を請求するかを選択することができる」と
規定され、契約責任と侵害責任とは競合関係に立つ。すなわち、違約責任を追及
する場合、侵害責任を追及できないとされている。
本件の第一審は、侵害責任を追及している以上、当事者の事前の合意を根拠に
損害額を確定すべきではなく、権利侵害責任法に基づき損害額を確定すべきであ
り、当事者の事前の合意を根拠にすることは契約法第 122 条に反するとする。つ
まり、当事者の事前の合意を根拠に損害額を確定するということは、实質的に契
約責任の追及となることから、侵害責任と契約責任との競合関係を示す契約法第
122 条に違反するということである。
他方で第二審は、当事者の事前の合意の有効性を認定し、当事者の事前の合意
の法的性質を計算確定方法の合意であるとした上で、当該合意が権利者と権利侵
害との間の取引契約に該当しないことから、契約法第 122 条に違反しないと判示
した。
賠償額に関する事前の合意が契約責任の追及の場合だけでなく、侵害責任の追
及の場合にも賠償額確定の根拠になる可能性のあることが示された重要な事例で
あるといえる。
- 76 -
⑦
北京鴨王烤鴨店有限公司と上海淮海鴨王烤鴨店有限公司、国家工商行政管理総局商標
評審委員会との間の商標異議申立再審査紛争に関する再審請求事件【最高人民法院
(2012)知行字第 9 号行政裁定書】
【事件の概要】
上海淮海鴨王烤鴨店有限公司(以下「上海鴨王社」という)の前身である上海淮海全聚
徳烤鴨店有限公司(以下「上海全聚徳」という)は、2002 年 1 月 29 日に国家工商行政管
理総局商標局(以下「商標局」という)に「鴨王」という文字の商標(本件被異議申立商標)
登録を出願し、指定役務は第 43 類飲食店等とした。商標局は、被異議申立商標は役
務の内容、特徴を直接に表示しただけに過ぎないとして、その出願を拒絶した。上海
全聚徳は国家工商行政管理総局商標評審委員会(以下「商標評審委員会」という)に再審
査を申請し、商標評審委員会は、被異議申立商標を初期査定のうえ公告することがで
きると決定した。初期査定公告の異議申立期間内に、北京鴨王烤鴨店有限公司(以下
「北京鴨王社」という)は、「鴨王」は北京鴨王社の商号及び先に使用して一定の影響力
がある商標であり、被異議申立商標の登録は「商標法」第 31 条の規定に違反するため
許可すべきではないとして、2005 年 5 月 31 日に異議を申し立てた。商標局は、北京
鴨王社の異議理由が成立し、被異議申立商標の登録を許可しない旨の裁定を下した。
上海全聚徳はこれを不服として、商標評審委員会に再審査を申し立てた。商標評審委
員会は、2007 年 6 月 18 日に、被異議申立商標の登録を許可する旨の裁定を下した。
北京鴨王社はこれを不服として、北京市第一中級人民法院に行政訴訟を提起した。同
人民法院は第一審で、「鴨王」は北京鴨王社の商号の核心的構成部分であり、また、先
に使用されて一定の影響力がある商標であり、上海全聚徳の被異議申立商標の登録出
願には悪意性があり、被異議申立商標の登録を許可すべきではないと判断して、商標
評審委員会の裁定を取り消す旨の判決を下した。上海全聚徳は、北京市高級人民法院
に上訴した。同人民法院は第二審で、商標評審委員会の裁定を取り消すという第一審
の結論を維持する旨の判決を下し、商標評審委員会に改めて裁定を出すよう命じた。
上海全聚徳は検察機関に不服を申立て、最高人民検察院は最高人民法院に訴訟を提起
した。最高人民法院は、北京市高級人民法院に本件の再審を命じる裁定を下した。
2012 年 12 月 8 日に、北京市高級人民法院は(2010)高行再終字第 53 号行政判決を下し
て、原第一審、第二審の判決を取り消し、商標評審委員会の裁定を維持した。北京鴨
王社はこれを不服として再度再審を申請したが、最高人民法院は審査を経て、その再
審申請を棄却した。
【事件の革新性】
本件は商標法第 31 条に定めた「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を
不正な手段で抜け駆けして登録する」ことについての理解に係わる。最高人民法院
は、本件において、同条にいう「不正な手段」とは、後に出願する商標出願人が先行商
- 77 -
標を明らかに知り又は知るべきであり、かつ、当該商標の評判から利益を得ようとす
る悪意があることをいうと明確にした。通常、先に使用された商標に既に一定の影響
力がある場合において、後に出願する商標出願人が当該商標を明らかに知り又は知る
べきでありながらその登録を出願したときは、他人の商標の評判を自分のものにして
使用する意図があると推定することができる。つまり、両者は重なることが多いので
ある。しかしながら、本件のような特別な状況もある。先行商標は既に一定の影響力
があるが、後から出願する商標出願人には悪意性がないため、同条にいう「不正な手
段」に当たらない。
【コメント】
本件は、旧商標法第 31 条(新商標法第 32 条、内容は改訂なし)が定める「不正
な手段」に関して、新たな解釈が展開された判例である。
ⅰ
旧商標法第 31 条における「不正な手段」について
a
抜け駆け登録の禁止(旧商標法第 31 条)
商標の登録出願においては、「不正な手段を用いて他人が既に使用
し、かつ一定の影響力を有する商標を抜け駆け登録してはならない」(旧
商標法第 31 条後半)。本規定は、未登録商標を保護するために、中華人
民共和国商標法第二次改正の際に追加された。
本規定が設けられる以前は、例えば A が先に宠伝・使用しているがま
だ登録していない商標 X について、X の知名度に目をつけた B によって
先に登録出願されてしまうといった事例が相次いで発生していたが、当
時の中国商標法には、かかる場面において未登録商標を保護することが
できる規定が置かれていなかった。本規定の新設によって、A は、(ⅰ)
自己の商標 X の先使用の事实及び一定の影響力を有する事实を証明し、
(ⅱ)B の行為が「不正な手段」による「抜け駆け登録」であることを証明で
きれば、B の登録出願を阻止することが可能となった。
しかしながら、「不正な手段」に係る明確な規定はないことに加え、こ
うした事案における B の行為は、表面的には卖なる商標の出願行為であ
り、「不正な手段」であることをいかに証明するかは権利者にとっての難
題であった。
b
抜け駆け登録に係る最高人民法院の司法解釈
係る状況の下、最高人民法院は、2001 年から 2010 頃までの司法实践
の結果を踏まえ、2010 年 4 月 20 日に「商標の授権及び権利確認行政案
件の審理に関する若干問題の意見」(以下「商標授権意見」という)を制
定・公布した。商標授権意見第 18 条では、「出願者は他人がすでに使用
- 78 -
し、かつ一定の影響力を有する商標を知り、又は知っているべきである
にもかかわらず、当該商標を抜け駆け登録しようとする場合には、出願
者が「不正な手段」を用いたと認定することができる」と規定している。
すなわち、「不正な手段」の認定には、(ⅰ)出願者が主観上「悪意」を有
することが必要であり、(ⅱ)この場合の「悪意」は、出願者が対象の商標
が既に他人によって宠伝・使用されていることを知り、又は知っている
べきであるにもかかわらず、当該商標を出願しようとした行動によって
発現されるものであり、とりわけ(ⅲ)当該商標が一定の影響力を有して
いる場合、出願者が前記(ⅱ)の「知り、又は知っているべき」状態である
ことに高度の蓋然性が認められるため、出願者が当該商標の知名度・影
響力を利用しようとする意図が明らかとなるといえ、「悪意」を有すると
推定できると解される。
ⅱ
本件の理論構成
a
旧商標法第 31 条と商標授権意見第 18 条の適用
本件は、(ⅰ)出願者が他人が先に宠伝・使用した商標であることを
知った上で商標出願をしており、かつ(ⅱ)当該先に宠伝・使用された商
標が一定の影響力を有しているため、商標授権意見第 18 条の適用によ
り出願者の「不正な手段」が推定される状況にあった。しかし、最高人民
法院は、さらに一歩展開し、出願者が当該商標の有している影響力を利
用しようとする悪意がないことを立証できた場合には、旧商標法第 31
条及び商標授権意見第 18 条の立法趣旨に照らして、当該推定を覆すこ
とができる可能性を指し示した。
b
本件裁定における最高人民法院の判断理由
本件裁定において、最高人民法院は、以下の理由により、出願者(上
海淮海鴨王・元上海全聚徳)の出願した「鴨王」商標の登録を維持し、北
京鴨王が北京地区において先に宠伝・使用した「鴨王」標識を引き続き使
用することができる旨の裁定を下した。
(ⅰ) 北京鴨王は先に「鴨王」商標をレストラン等サービス類(第 43 類飲食
店等)において出願したが、商標局から「サービスの内容及び特徴を
表したにすぎない」という理由で出願を拒絶されるも、その拒絶結
果をそのまま受け入れ、商標評審委員会に再審を申請しなかった。
その後、上海淮海鴨王(元上海全聚徳)も商標出願を提出し、商標局
から同様の理由で拒絶されたが、上海淮海鴨王は商標評審委員会に
対して再審を申請し、自己の使用事实を証明し、商標評審委員会に
より登録を認められている。つまり、上海淮海鴨王が先に「鴨王」商
- 79 -
標の登録を獲得できたのは、商標登録手続対応の違いによるもので
あり、上海淮海鴨王が主観的に北京鴨王の使用している「鴨王」の信
用と知名度を自分のものにするという意図を有していたものではな
い。
(ⅱ) 上海淮海鴨王は、「鴨王」商標を出願してから本件受理日まで、上海
地域における自社の積極的な使用・宠伝により、既に独自の信用と
ブランド力を確立している。これは自らの努力の成果であって、北
京鴨王の信用や知名度を利用することによって得たものではなく、
実観的に見ても、北京鴨王との関連性はなく公衆の混同も招いてお
らず、北京鴨王の利益を害していない。
ⅲ
日系企業への示唆
本件により、商標授権意見第 18 条に基づき「不正な手段」の本質である「悪
意」が推定されうべき状況であっても、出願者は、自分の出願行為や出願商
標の使用行為等を通じ、その出願に先使用者の名声や信用を利用しようとす
る悪意がないと証明することができた場合には、抜け駆け登録とみなされる
ことを回避できることが明らかとなった。
本件は、日系企業が万が一その登録商標について抜け駆け登録の疑いをか
けられ、紛争に巻き込まれた場合における立証活動の展開方針について、参
考とすることができる。
なお、商標の出願手続に関し、商標評審委員会が商標局の決定を翻すこと
はそれほど珍しいものではない。ひとたび商標の登録出願を提出した以上、
登録できるまでは途中で放棄することなく、最後まで努力することが望まし
いことは、本件における北京鴨王の苦い経験から見て取ることができる。
⑧
李隆豊と中華人民共和国国家工商行政管理総局商標評審委員会、三亜市海棠湾管理委
員会との間の商標争議行政紛争をめぐる再審申請事件【最高人民法院(2013)知行字第
41 号行政裁定書】
【事件の概要】
2005 年 6 月 8 日に、李隆豊は第 36 類の不動産賃貸、不動産管理、住所(アパート)
などの役務を指定して第 4706493 号「海棠湾」という商標(係争商標)を登録した。三亜
市海棠湾管理委員会(以下「海棠湾管理委員会」という)は商標法第 31 条、第 41 条第 1
項、第 10 条の規定に基づき国家工商行政管理総局商標評審委員会(以下「商標評審委
員会」という)に上記係争商標の取り消 しを請求した。商標評審委員会は商評字
〔2011〕第 13255 号の「第 4706493 号『「海棠湾」」商標紛争に関する裁定書」(以下「第
13255 号裁定」という)を発行し、上記「海棠湾」商標を取り消す旨の裁定を下した。李
- 80 -
隆豊はこれを不服として行政訴訟を提起した。北京市第一中級人民法院は第一審で商
標評審委員会の第 13255 号裁定を取り消す旨の判決を下した。商標評審委員会と海棠
湾管理委員会はこれを不服として、それぞれ上訴した。北京市高級人民法院は第二審
で第一審判決を取り消し、商標評審委員会の第 13255 号裁定を維持する旨の判決を下
した。李隆豊はこれを不服として、最高人民法院に再審を申請した。最高人民法院は
2013 年 8 月 12 日に李隆豊の再審申請を棄却する旨の裁定を下した。最高人民法院
は、次のように判断した。係争商標が商標法第 41 条第 1 項に定めた「その他の不正な
手段で登録を受ける」ことに該当するかどうかを審査、判断するには、欺瞞的手段以
外の商標登録の秩序を撹乱し、公共の利益を害し、不正に公共資源を占用し、又はそ
の他の方式で不正な利益を図る手段に該当するかどうかについて考慮すべきである。
商標法第 4 条規定の趣旨からみれば、民事法律関係の主体が商標登録を出願する時、
使用という实際の意図があり、自己の商標使用ニーズを満たすことを目的としなけれ
ばならず、その商標出願行為は合理性と正当性を有していなければならない。商標評
審委員会及び原審人民法院が明らかにした事实によると、李隆豊が係争商標の登録を
出願する前に、「海棠湾」というマークは海单省関係政府機関の宠伝・プロモーション
を経て、既に公知の三亜市リゾート地の地名及び政府が計画した大型総合開発プロ
ジェクトの名称になっており、その意味や方向性が明らかである。李隆豊は一個人と
して、本件に係わる不動産賃貸、不動産管理などの役務を指定して係争商標の登録を
出願しただけではなく、第 43 類旅館、飲食店等の役務及びその他の商品又は役務の
カテゴリーをも指定して「海棠湾」商標の登録を出願した。また、李隆豊は複数のカテ
ゴリーの商品又は役務を指定して「香水湾」、「椰林湾」など 30 件余りの商標を出願し
ており、その中の多くは公知の海单島の地名、観光地の名称に関係している。李隆豊
の、政府部門が海棠湾リゾート地及びその開発プロジェクトを宠伝、プロモーション
することにより生まれた大きな影響力を利用して、複数の「海棠湾」商標を抜け駆けし
て出願する行為及び合理的理由なく大量にその他の商標を登録する行為は、实際に使
用する意図がなく、商標登録に必要とされる正当性を有しておらず、不正に公共資源
を占用し、商標登録秩序を撹乱する行為に該当する。従って、商標法第 41 条第 1 項
の規定により取り消すべきである。
【事件の革新性】
商標の抜け駆け出願は、現在、我が国の商標法实施において比較的目立つ現象の 1
つであり、本件に示された实際の使用意図がないにもかかわらず大量に商標を出願す
る行為は、ある程度普遍的なものである。本件において、最高人民法院は商標法第 4
条の規定を援用することで、商標法における商標登録出願に関する趣旨を明示したう
え、实際の使用意図に欠け、商標登録出願行為が合理性又は正当性を持たず、商標を
大量に出願する行為は、商標登録秩序を撹乱し、公共の利益を害し、不正に公共資源
を占用する行為であり、商標法第 41 条第 1 項に定める「その他の不正な手段で登録を
- 81 -
受ける」に照らしてそれを取り消すべきであるとした。これは、商標の抜け駆け出願
を抑止する関連法律の適用にあたって、指導的役割を果たす。
【コメント】
本件のポイントは、旧商標法第 41 条 1 項の「不正な手段により登録を得ていた
商標が他の卖位または個人は商標評議審査委員会にその登録商標の取消裁定を申
し立てることができる」とされているうちの、「不正な手段」に関する解釈であ
る。
实務上ではこれまで、旧商標法第 41 条 1 項の「不正な手段」に対して、各地人
民法院は統一的な見解を有しておらず、大きく分けて、①旧商標法第 41 条全体
の立法趣旨から、民事権益侵害以外の商標取消理由のキャッチオール条項とする
見解、②旧商標法第 41 条全体のキャッチオール条項とする見解が存在した。
②の見解の論拠としては、①の見解のように、当該不正手段が民事権益侵害以
外の商標取消理由だとすると、旧商標法第 41 条第 2 項が適用できない不正手段
となり、商標取消を申し立てることができなくなることを理由とする。たとえ
ば、ある登録商標は先行登録商標と同様であるが、指定商品の範囲が先行商標の
指定商品の範囲と一致してないことから、第 41 条 2 項の取消理由を適用するこ
とができないが、明らかに悪意で登録された商標である場合、未登録商標が一定
の影響を有することを立証できる場合(本事件)にまで取消ができないとすると、
市場公平が撹乱されることから、このような事態に対応すべくキャッチオール条
項としたと説明する。
本事件においては、旧商標法第 4 条の「商標登録の目的が真实な使用でなけれ
ばならない」を根拠として、本事件の商標を取り消した。従前は、「信義誠实原
則」(前記②の見解を前提とする)を適用して問題を解決していたが、「信義誠实原
則」は商標法の基本原則であるものの商標法には明確な規定がないことから、本
事件のような明確な規定がある商標法第 4 条を適用する方が、より厳密に法を適
用して判断しているものといえる。なお、現行法においては、「信義誠实原則」条
項が新設されている(2013 年改正商標法第 7 条 1 項)ことから、今後は「信義誠实
原則」を根拠に、本事件のような商標出願等を抑制できると思われる。
⑨
Cubist Pharmaceuticals, Inc.と中華人民共和国国家知識産権局専利復審委員会との
間の特許権無効行政紛争をめぐる再審申請事件【最高人民法院(2012)知行字第 75 号
行政裁定書】
【事件の概要】
Cubist Pharmaceuticals, Inc.は「抗生物質の投与方法」という発明特許の特許権者
であり、肖紅は当該特許について無効宠告請求を提出した。国家知識産権局専利復審
- 82 -
委員会(以下「専利復審委員会」という)は第 13188 号決定を下して本件特許権のすべて
が無効であると宠告した。その主な理由として、ダプトマイシンが骨格筋毐性という
副作用を起こさないことに関する更なる認識について請求項 1 の保護する製薬用途と
公開の既に知られている製薬用途とを区別できると証明する証拠がないこと、投与
量、複数回投与及び投与間隔の特徴に医薬品自体を限定する要素はなく、請求項 1 の
製薬用途と公開の既に知られている製薬用途とを区別することができないため、本件
特許は新規性、進歩性を有しないとされた。 Cubist Pharmaceuticals, Inc.は第
13188 号決定を不服として行政訴訟を提起した。北京市第一中級人民法院と北京市高
級 人 民 法 院 は 相 次 い で 無 効 決 定 を 維 持 す る 旨 の 判 決 を 下 し た 。 Cubist
Pharmaceuticals, Inc.は最高人民法院に再審を申請した。その主な理由は次のとお
りである。本件特許の請求項 1 に記載の「骨格筋毐性を起こさない」という特徴は当該
用途の請求項を限定することができる。先行技術ではダプトマイシンを高用量投与す
ると骨格筋毐性が引き起こされ、こうした深刻な命にかかわる毐性反応により訴外会
社の(米国)イーライリリー社は米食品医薬品局での医薬品臨床試験を中止せざるを得
なくなり、自ら取りやめたのである。しかしながら、本件特許によりダプトマイシン
は深刻なグラム陽性菌感染の治療において真の投薬安全性と産業上の利用可能性を有
するようになり、治療用途と製薬用途を有するようになった。本件特許の係わる医薬
品は真に人体に進入可能なダプトマイシン薬品の製薬用途を初めて有したものであ
り、米食品医薬品局の認可を得ただけでなく、中華人民共和国国家食品薬品監督管理
総局も輸入薬品の注射用ダプトマイシンに対して証明書を発行し(医薬品の中国語商
品名は「克必信」)、「克必信」はビジネス上の成功を収めている。本件特許の請求項 1
の投与計画に示された技術効果は先行技術から予測できないものであり、本件特許は
新規性、進歩性を有するものである。最高人民法院は(2012)知行字第 75 号行政裁定
により、Cubist Pharmaceuticals, Inc.の再審申請を棄却した。
【事件の革新性】
化学分野の特許出願の中で、製薬用途請求項は特別な請求項である。係争特許はス
イス式請求項に沿って作成した物質の医薬用途の発明であり、このような請求項は新
規性の判断及び保護範囲の画定において長期にわたり論争が続いてきた。とりわけ、
既に知られている技術方案との唯一の区別点が投与計画、投与経路、治療対象など請
求項における治療関連の特徴にある場合、投与行為における特徴であるのか、或いは
製薬用途の技術的特徴であるのかをいかに区別するかが新規性を判断するポイントで
ある。本件では物質の医薬用途の発明は方法類に該当し、方法請求項の視点からその
技術的特徴を分析すべきであると明確にした。専利法にいう製薬過程とは何であるか
を確定し、投与量と卖位用量を区別し、投与特徴はこのような発明を限定する要素で
あるか、請求項が限定する特定の副作用を起こさないという特徴は医薬用途の発明を
- 83 -
限定する要素であるかについて詳しく分析した。特許権によるイノベーション成果の
保護に極度に依存している医薬産業にとって、重要な指導的意義がある。
【コメント】
中国専利法第 25 条によれば、疾病の診断及び治療方法については特許権が付
与されないことから、实質的には疾病の診断及び治療方法の保護を受ける目的
で、形式的に、医薬の製造方法の特許として出願することがあり、实務上問題視
されている。
医薬の製造方法は、ある疾病を治療するための医薬の製造をいい、同一の医薬
であっても、治療する疾病が異なる場合は、異なる医薬の製造方法として扱われ
る。この場合、医薬の製造方法のクレームは、「疾病 X の治療用医薬製造のため
の化合物 Y の使用」等と記載され、当該記載方式はスイス型クレーム(Swiss-type
claim)と呼ばれている。实質的には疾病の診断及び治療方法の保護を受ける目的
がある場合、スイス型クレームの記載方式を使用するケースもある。本事件は典
型的なスイス型クレームである。
本事件において、請求項 1 に、「ダプトマイシンは、投与の必要がある患者の
細菌感染を治療するとともに骨格筋毐性を生じない薬剤の製造における応用で
あって、前記治療に用いる投与量が 3 -- 75 mg/kg のダプトマイシンであり、前
記の投与量が反復投与され、前記の投与量の投与間隔が、24 時間ごとに 1 回~
48 時間ごとに 1 回である、応用」と記載されている。
請求項 1 の前段は細菌感染を治療するための医薬を製造することを記載し、後
段は当該医薬の投与量、投与方法、投与間隔について記載している。前段につい
て、細菌感染の治療は新たな疾患を治療する医薬ではないことから先行技術方案
と区別できず、後段について、治療過程の指定であり、医薬の製造過程の指定に
はならないことから、先行技術方案と区別できず、進歩性及び新規性がないと判
断された。
したがって、实質的に治療方法を出願する場合は、新たな医薬等の特徴を有さ
ず、先行技術方案との区別が投与計画、投与経路等の治療方法のみの場合が多
く、医薬の製造についての指定は通常記載できないことから、区別性、進歩性及
び新規性が認められない。
本件判決によれば、スイス型クレームの記載方式で医療用途発明を特許出願す
る場合、製薬過程と投与過程を明確に区別する必要があり、实質的に疾病の診断
及び治療方法の保護を受ける目的で、形式的に医薬の製造方法の特許出願をする
場合には、投与過程を記載するにすぎないことから、特許が認められることは困
難となると思われる。
- 84 -
⑩
江西億鉑電子科技有限公司、中山沃徳打印機設備有限公司、余志宏、羅石和、李影
紅、肖文娟の営業秘密侵害罪事件【広東省珠海市中級人民法院(2013)珠中法刑終字第
87 号刑事判決書】
【事件の概要】
被告余志宏、羅石和、肖文娟、李影紅は珠海賽納打印機科技股份有限公司(以下「珠
海賽納社」という)の元社員である。この 4 人は日常の業務において珠海賽納社のブラ
ンド区、单米区、アジア・太平洋区の顧実資料及び 2010 年の販売量、売上高及び珠
海賽納社製品のコスト、警戒価格、販売価格などの営業情報に触れ、それを入手する
ことができ、珠海賽納社の営業秘密を保持する義務を負っていた。2011 年初に余志宏
は他人と共同でプリンター用カートリッジなどの消耗品を生産する江西億鉑電子科技
有限公司(以下「江西億鉑社」という)を設立すると共に、江西億鉑社の製品を販売する
中山沃徳打印機設備有限公司(以下「中山沃徳社」という)及び Aster Graphic Company
Ltd、Aster Graphic Inc、Aster Technology Holland Bv を設立した。余志宏、羅石
和、肖文娟、李影紅らは業務上各自が入手した珠海賽納社の顧実の製品購入状況、販
売価格体系、製品コストなどの情報を無断で江西億鉑社、中山沃徳社に持ち込み、そ
れを元に当該 2 社の一部の製品の米国価格体系、欧州価格体系を策定し、珠海賽納社
より低い価格で元々珠海賽納社の顧実であった一部の顧実に同一規格の製品を販売し
た。江西億鉑社、中山沃徳社の財務資料及び輸出通関書類について監査を行ったとこ
ろ、2 社は合わせて 11 の珠海賽納社元顧実に対して珠海賽納社と同一規格の製品を販
売し、販売額は計 7,659,235.72 米ドルにのぼることがわかった。珠海賽納社の同一
規格製品の平均売上総利益率で計算すれば、珠海賽納社に与えた経済的損失は計
22,705,737.03 元(2011 年 5 月から 12 月までの経済的損失は 11,319,749.58 元、2012
年 1 月から 4 月にかけての経済的損失は 11,385,987.45 元)であった。広東省珠海市
中級人民法院は第二審で、次のような判決を下した。江西億鉑社、中山沃徳社、余志
宏、羅石和、肖文娟、李影紅の行為は営業秘密侵害罪に当たり、江西億鉑社、中山沃
徳社はそれぞれ 2,140 万元、1,420 万元の罰金に処する。余志宏は懲役 6 年に処し、
100 万元の罰金を併科する。羅石和は懲役 3 年に処し、20 万元の罰金を併科する。李
影紅は懲役 2 年執行猶予 3 年に処し、10 万元の罰金を併科する。肖文娟は懲役 2 年執
行猶予 3 年に処し、10 万元の罰金を併科する。
【事件の革新性】
本件は中国最大規模の営業情報類営業秘密侵害刑事犯罪事件であり、人民法院が科
した罰金総額は 3,700 万元にのぼった。本件は、広東省の人民法院が知的財産裁判の
「三合一」方式を实行して知的財産刑事事件を審理した成功例であり、知的財産権に係
る司法保護の全体性と有効性が際立ち、知的財産権に係る司法保護の主導的役割が十
- 85 -
分に示された。本件の裁判は罰金額計算の面でも自然人が刑事責任を負う面でも、知
的財産侵害犯罪行為を厳しく制裁する方向性を示した。

出所:2014 年 4 月 21 日付け法制ネット
http://www.legaldaily.com.cn/index_article/content/2014-04/21/content_54
67665.htm?node=6148
【コメント】
ⅰ
営業秘密の要件
営業秘密侵害訴訟においては、まず係争情報が営業秘密に該当するか否か
が判断される。
ここでいう営業秘密とは、公衆に知られておらず、権利者に経済的利益を
もたらすことができ、实用性を有し、かつ権利者が秘密保持措置を講じた技
術情報及び経営情報である(反不正当競争法第 10 条 3 項、刑法第 219 条 3
項)。すなわち、①秘密性、②経済的価値、③实用性、及び④秘密保持性と
いう 4 つの要件が具備された技術情報と経営情報のみが、営業秘密として法
的保護を受けることとなる。
本件では、係争情報(顧実の情報、売上額及び会社が定めた製品のコスト
や販売価格等の経営情報)が珠海賽納社に経済的利益をもたらしており、珠
海賽納社が当該情報について秘密保持措置を講じていること等を踏まえて、
営業秘密の上記要件に合致すると判定した。
ⅱ
営業秘密侵害罪の構成要件・訴追要件
刑法上の営業秘密侵害罪が成立するためには、営業秘密侵害行為の構成要
件に該当し、さらに一定の訴追要件を満たす必要がある。
a
営業秘密侵害罪の構成要件
営業秘密侵害罪が成立するためには、以下の要件が必要である。
(ⅰ) 営業秘密を侵害したこと(実体要件)
(ⅱ) 侵害者に侵害の故意があること(主観要件)
(ⅲ) 侵害行為の内容として(a)営業秘密を不正な手段で取得、開示、使用若
しくは他人にその使用を許諾し、(b)秘密保持義務に違反し、自己が
知っている営業秘密を開示し、使用し、若しくは他人に使用を許諾し、
又は(c)(a)若しくは(b)に該当する行為であることを明らかに知り、若
しくは知っているべきであるのにもかかわらず他人の営業秘密を取得
し、使用し、若しくは開示したこと(行為要件)
(ⅳ) 侵害行為の結果として、権利者に損害をもたらしたこと(損害の発生)
- 86 -
(ⅴ) 上記の(ⅲ)と(ⅳ)の間に因果関係があること(因果関係要件)
本件において被告らは、(ⅰ)珠海賽納社の従業員として当該公司の営業秘
密について秘密保持義務を負っているにもかかわらず(主観要件)、(ⅱ)被告
の一人である余氏が他人と共に江西億鉑社、中山沃徳社を設立し、珠海賽納
社の製品と同類の製品を製造・販売し、他の被告らと一緒に獲得した珠海公
司の営業秘密を利用して、江西億鉑社、中山沃徳社のために、一部の製品に
ついてアメリカ価格システムとヨーロッパ価格システムを制定し(行為要
件)、さらに(ⅲ)珠海賽納社の製品の販売価格より低い価格で同類の製品を
珠海賽納社の販売先に販売することにより、珠海賽納社の営業秘密を侵害し
ただけではなく、珠海賽納社に経済損失をもたらした(実観要件、損害の発
生、因果関係要件)。そのため人民法院は、江西億鉑社、中山沃徳社及び個
人の被告らによる珠海賽納社の営業秘密の違法な開示は、権利者に重大な経
済損失をもたらす行為に該当し、営業秘密侵害罪を構成したと認定した。
b
営業秘密侵害罪の立件・訴追要件
営業秘密侵害行為が刑事事件として立件・起訴されるためには、上記の構
成要件該当性に加えて、(ⅰ)権利者に 50 万元以上の損失を与えたこと、
(ⅱ)違法所得が 50 万元以上であること、(ⅲ)権利者を破産させたこと、又
は(ⅳ)その他権利者に重大な損失を与えたことのいずれかを満たす必要があ
る(「公安機関が管轄する刑事案件の立件訴追基準に関する最高人民検察院及
び公安部による規定(二)」)。
ⅲ
営業秘密侵害罪の量刑基準と罰金金額の確定について
a
法定の量刑基準
権利者に重大な損失を与えた場合、三年以下の有期懲役又は勾留に処
し、罰金を卖科又は併科され、特に重大な結果をもたらした場合には、
三年以上七年以下の有期懲役に処せられ、罰金を併科される(刑法第
219 条 1 項柱書)。ここでいう「重大な損失を与えた場合」とは、営業秘
密の権利者に 50 万元以上の損失をもたらした場合を指し、「特に重大な
結果をもたらした場合」とは、営業秘密の権利者に 250 万人民元以上の
損失をもたらした場合をいう(知的財産権侵害の刑事事件の処理におけ
る具体的な法律適用の若干問題に関する最高人民法院・最高人民検察院
による解釈(法釈[2004]19 号)第 7 条)。
なお、組織が営業秘密侵害罪を犯した場合には、個人が犯した場合の
量刑基準の 3 倍に相当する金額が基準となる(同解釈第 15 条)。
- 87 -
b
本件の罰金金額の確定について
特に異例の高額な罰金が科されたことが本件判決の最も注目すべき点
であり、かつ 10 大革新性知的財産判例に選ばれた大きな理由でもあ
る。
本件で【珠海賽納社の損失額】は、【侵害者(被告二社)の違法所得
(珠海賽納社の元顧実 11 社に対して同類の製品を販売した販売額)】×
【珠海賽納社の同類製品の平均販売利潤率】で算出された
22,705,737.03 元とされ、結果として江西億鉑社及び中山沃徳社は、そ
れぞれ 2,140 万元、1,420 万元の罰金に処せられている。個人被告がそ
れぞれ 10 万元~100 万元の罰金にとどまっていることを鑑みると、被
告二社への罰金は前記司法解釈第 15 条が定める法人・組織:自然人=
3:1 という基準を大きく超えていることが分かる。
ⅳ
知的財産権裁判の「三合一」
前記「事件の革新性」にて言及された知的財産権裁判の「三合一」について、
ここで補足する。
知的財産権裁判の「三合一」とは、知的財産権紛争を審理する法廷におい
て、知的財産権に関わる民事、行政及び刑事事件を集中的に審理する方式を
いう。1996 年頃、上海浦東法院において初めて試行され、その後も多くの地
方法院で实践されている方式である。
2008 年の「国家知的財産権戦略綱要」において、知的財産権の民事、行政及
び刑事事件を統一して受理する専門の知的財産権法廷の設置を検討するとい
う目標が掲げられた。また、最高人民法院は、2009 年~2013 年人民法院の
第三次五カ年改革綱要において、各地方の人民法院による「三合一」方式によ
る知的財産事件の受理を最高人民法院が推進する司法改革の内容の 1 つに据
えている。
営業秘密侵害罪に関していえば、「三合一」方式は、人民法院内部の部門間
の調整・協力によって裁判の時間を大幅に短縮することが可能となる点にお
いて、司法の効率性を大幅に向上させるものと評価できる22。
ⅴ
日系企業への示唆
営業秘密は企業にとって貴重な財産であり、厳重に保護しなければならな
22
従前、民事刑事を跨ぐ知的財産事件については、民事事件と刑事事件に分けてそれぞれ受理・審理す
るという運用を行っていた結果、刑事裁判では先に罪が認定されたものの、後に開かれた民事裁判で
は知的財産権の侵害が認められなかったという結論になってしまった实例も存在していた。これは、
公安・検察院が刑事事件の処理に慣れているものの、営業秘密等の知財専門分野での経験に乏しいた
め、その判断が困難であることに起因する。こうした状況は、公安機関や検察院が営業秘密侵害罪の
立案等を躊躇する原因の 1 つとなっており、犯罪行為の阻止の観点からその改善策が望まれていた。
- 88 -
い。訴訟の過程において真摯に対応することはもちろん重要であるが、紛争
発生のリスクを事前に予防することが最善の対応策である。
すなわち、日系企業は、その日常的な経営活動において、重要な技術情
報・経営情報についての秘密保持措置を完備し、従業員との間で秘密保持や
競業禁止に関する約定(労働契約での規定又は特別な規則の設置)が適切に行
われることを注意する必要がある。また、従業員が安易な気持ちで企業の秘
密情報を漏洩したり、無断で利用したりすることのないように、従業員のコ
ンプライアンス意識を高め、営業秘密が漏洩した場合の影響の重大さを十分
に理解させるような教育を徹底することは非常に重要である。この意味にお
いて、本件判決は営業秘密侵害問題の重大さを知る上でよい材料となるだろ
う。
- 89 -
3. 最高人民法院「司法による知的財産権保護 50 典型事例」
2013 年、中国各級人民法院関連知的財産権事件既済件数は約 10 万件あるが、最高人民
法院によりピックアップされた五十典型案件は、特許事件 14 件、商標及び不正競争事件
17 件、著作権事件 10 件、技術契約事件 5 件、ノウハウ事件 2 件、不正競争事件 1 件(不正
競争防止法における権利のみ主張する事件)、独占禁止事件 1 件である。当該事件から最
高人民法院が今後の知的財産事件おいて、重要視する部分を確認することができる。
(1) 専利法に関して
50 典型事例における専利法関連の事例は以下のとおりである。
発明特許:
民事 4 件、行政 4 件
实用新案:
民事 3 件
意匠特許:
民事 3 件
渉外事件:
民事 3 件(うち 2 件:当事者にフランス企業が含まれる、うち 1 件:日系
企業が含まれる)、行政 3 件(うち 3 件:日系企業が含まれる)
2013 年の 50 典型事例は实用新案特許、意匠特許の件数が昨年より多く増加してい
る。
ⅰ
均等論
毎年 50 典型事件には均等論に関する事件が複数件掲載されているが、2013 年の 50
典型事件も同様に均等論に関する事件が複数掲載されている。均等論に関する事件に
ついては以前は特許関連事件が多くあったが、2013 年には、实用新案特許及び意匠特
許関連事件も多く掲載されている。
①
北京市捷瑞特弾性阻尼体技術研究センターVS 北京金自天和緩沖技術有限公司、王ハ
ン夏―実用新案特許権侵害事件(最高人民法院(2013)民申字第 1146 号)
【事件の概要・解説】
实用新案における均等論適用についての解釈を示した事案である。
係争技術案の技術手段と請求項に明記された技術手段とが相反し、技術効果も相反
し、かつ、目的を实現できない場合には、均等論を適用せず、権利侵害に該当しない
と判示した。
- 90 -
②
陳順弟 VS 浙江楽雪儿家居用品有限公司、何建華、温士丹―発明特許権侵害事件(最高
人民法院(2013)民提字第 225 号民事判決書)
【事件の概要・解説】
方法特許における均等論適用についての解釈を示した事案である。
方法特許がステップの組合せ及びステップの順序により实現するものであることか
ら、請求項には、ステップの組合せのみならずステップの順序が含まれるとし、ス
テップの順序を変更し、技術機能又は技術効果に实質的な相違が生じる場合には、係
争特許に均等論を適用することができないと判示した。
本件は、ステップの順序の変更により、作業が減尐し効率が上昇したことから、技
術効果に实質的な相違が生じるものと判断された。
ⅱ 特許の進歩性の有無
進歩性判断の困難度及び重要度に鑑み、進歩性の判断に関連する事例はほぼ毎年 50
典型事例に指定されている。2013 年の事例は以下のとおりである。
③
新日鉄住友ステンレス株式会社 VS 中華人民共和国国家知識産権局専利復審委員会、
李建新―発明特許権無効の行政紛争事件(北京市高級人民法院(2013)高行終字第 1754
号行政判決書)
【事件の概要・解説】
専利法第 22 条第 3 項の進歩性の判断に関する解釈を示した事案である。
当該発明の際立つ实質的特色及び顕著な進歩性の有無を判断する場合、先行技術と
比較するだけではなく、当該発明が相応する技術効果を实現できるかも判断するべき
であり、当該発明と技術効果との因果関係も確認する必要があると判示した。
特許の進歩性は特許権及び实用新案権の要件の一つであり、進歩性は、先行技術と
比較して、当該発明が際立つ实質的特色及び顕著な進歩性を有する、及び当該实用新
案が实質的特色及び進歩を有する場合をいう。発明の進捗性の有無の判断は、①当該
発明と最も近接する先行技術の確定、②当該発明の区別的特徴及び解決する技術課題
の確定、③本領域の技術者が容易に想到できたかの順序で判断する。なお、实用新案
権の進歩性の基準は発明より低いとされる。
(2) 商標法及び不正競争防止法に関して
ⅲ
商標権と他の権利の抵触
登録された商標が著作権、商号権、意匠特許権、ドメインネーム権等の「他の権利」
と抵触する場合に、商標権を保護するか又は他の権利を保護するかに関わる事件は、
- 91 -
毎年 50 典型事件に多く見られる。2013 年の事例は以下のとおりである。
④
北京大宝化粧品有限公司 VS 北京市大宝日用化学製品廠、深圳市碧桂園化工有限公司
―商標権侵害、不正競争に関する紛争事件(最高人民法院(2012)民提字第 166 号民事
判決書)
【事件の概要・解説】
企業名称が先行登録商標に抵触する場合の使用停止命令の要件について判示した事
案である。
1987 年~1995 年、北京三露廠は「大宝」のシリーズ商標を出願、登録した(「大宝」シ
リーズ商標には「大宝」文字+図形、「Dabao」ピンイン商標は馳名商標として、商標局で
認定されたことがある)。1991 年、北京三露廠は「大宝」登録商標をその子会社の北京
市大宝特殊接着剤廠(以下「接着剤廠」という)にライセンスした。1999 年、北京三露廠
は大宝化粧品公司を設立し、「大宝」企業商号の使用を許諾した。2004 年 8 月、接着剤
廠は三露廠の許可を得たうえで、企業名称を「大宝日化廠」に変更した。同年 9 月、三
露廠は「大宝牌」文字+図形、「大宝」文字+図形、「Dabao」ピンインの登録商標を大宝
化粧品公司に譲渡した。2007 年、大宝日化廠は碧桂園と「提携生産、販売契約」を締結
した。その提携生産、販売した商品には「大宝日化」、「DABAO RIHUA」の文字(際立った
態様で使用)が付されていた。2008 年、三露廠は大宝化粧品公司の全ての持分をジョ
ンソン(中国)投資有限公司(米国ジョンソン・エンド・ジョンソン社の中国現地法人)
に譲渡した。譲渡する際、大宝日化廠に対してライセンスをしていることについては、
ジョンソン(中国)投資有限公司に伝えていなかった。大宝化粧品公司は大宝日化廠、
碧桂園社に対し、商標権侵害、企業名称侵害を主張する訴訟を提起した。
最高人民法院は下記を認定した。
ア、 大宝日化廠が「大宝」を企業名称として使用した時、悪意がないことは当事者両方
とも肯定した。
イ、 登録商標権と商号権とともに法により保護される権利であるので、権利の境界を
越えた使用により、他人の法的権利を損害することは認められない。
ウ、 大宝日化廠が商品において、際立って使用する「大宝日化」の文字は出所が識別で
きるため、出所について公衆を混乱、誤解させる可能性があり、大宝化粧品公司
の「大宝」シリーズが商標権侵害に該当すると判断された。
エ、 上述の権利侵害に該当するため、「最高人民法院による登録商標、企業名称と先
行権利が衝突する民事争議事件の審理に関する若干問題の規定」第 4 条(登録商標
専用権を侵害、又は不当競争を該当するとして提訴された企業名称については、
人民法院は原告の訴訟請求と事件の具体的情況を根拠とすることができ、被告に
対して使用停止、使用の制限などの民事責任を引き受けることを確定する)によ
り、最高人法院は本件の被告側の大宝日化廠、碧桂園化工有限公司に対して、
- 92 -
「大宝日化」、「DABAO RIHUA」の際立った態様での使用の停止を命じた。
本件のポイントは、企業名称が先行登録商標に抵触する場合、人民法院により、先
行登録商標権を侵害する企業名称権の権利者に対して、企業名称の使用停止を命じる
ことができるかという点である。しかし、本件の場合、大宝日化廠の企業名称は大宝
化粧品公司の登録商標権を侵害したが、大宝日化廠の企業名称を登記した時点におい
て、悪意がない、及び、特殊の経緯があることを考慮して、使用の停止までは命じな
かった。
ⅳ
商標権侵害の賠償責任免除に関する認定
⑤
環球股份有限公司 VS 青島際通文具有限公司、青島際通鉛筆有限公司、青島イオン東
泰商業有限公司―商標権侵害に関する紛争事件(山東省高級人民法院(2013)魯民三終
字第 32 号民事判決書)
【事件の概要・解説】
商標権侵害の商品の販売者に賠償責任を課すための過失要件について示した事件で
ある。商標権者が、販売者は自身の行為について権利侵害にあたることを知っていた
と証明することができず、かつ、販売者が正規の仕入伝票又は契約書を提供して係争
商品は現实の市場取引で入手したものであることを証明でき、販売者が真の供給者で
あることを説明できる場合には、販売者は賠償責任を負わないと判示した。
権利侵害商品を販売する者の賠償責任の免除を判断する際、二つの要件を揃える必
要がある。一つは主観的要件として、販売する商品が権利侵害商品であるとの認識が
ないこと、もう一つは実観的要件として、合法的な仕入れルートがあることである。
これについては、販売者が立証責任を負う。主観的要件は販売者の経営方式、経営規
模、商標の知名度、権利侵害商品の侵害類型等の要素を判断し、実観的要件は商品供
給契約、インボイス、出荷書、納品書等の証拠から判断する。
(3) 著作権法
今回の著作権法関連の事件の中で、著作物への該当性に関する紛争が多いことから、
次のとおり 3 件をピックアップしてそれぞれに示された判断基準等を纏めた。
- 93 -
ⅴ
応用美術
⑥
景徳鎮フランツ実業有限公司 VS 潮州市加蘭徳陶磁器有限公司―著作権侵害に関する
紛争事件(最高人民法院(2012)民申字第 1392 号民事裁定書)
【事件の概要・解説】
本件の応用美術が著作物に該当し、著作権法によりその著作財産権が保護されるこ
とを示した事案である。係争物の応用美術(磁器製品)は、自然界の植物を装飾要素と
し、立体造形の表現手法を用いて各種器形の口縁部や取手に立体的な動植物の造形を
つくり出したものであり、このように従来の構造・形とは異なる表現手法を用いるこ
とで、一連の磁器製品は日用品としての機能を持ちながら、観賞性やコレクション性
も高く、独創性に富み、中国著作権法に定める著作物の構成要件に適合しているため、
中国著作権法の保護対象である美術的著作物に該当すると判示した。
本件のように、応用芸術品が著作権法により保護される著作物に該当するか否
かについては、比較的よく議論される問題点である。その理由は、応用芸術品が
著作権と意匠権等の両者に跨がる点にあると思われる。
ⅵ
契約書の雛形
⑦
広州万唯建設工程顧問有限公司 VS 広州市番禺交通建設投資有限公司、広東海外建設
監理有限公司―著作権侵害に関する紛争事件(広東省広州市中級人民法院(2012)穂中
法民三終字第 96 号民事判決書)
【事件の概要・解説】
契約書の雛形(「作品著作権登記証」を取得済み)が著作権法における著作物に該当し
ないことを示した事案である。係争物の契約書の雛形について、「作品著作権登記証」
の取得は当該雛形が著作物に該当することを確認する直接的な証拠にはならず、また、
仮に契約書の書き方について著作権を認めると、他人が同様の法的問題に直面した際
に同様の書き方を利用してはならなくなり、これは思想の独占であるため、著作権法
の主旨に反すると判示した。
- 94 -
ⅶ
タイプフェース
⑧
北京漢儀科印情報技術有限公司 VS 青蛙王子(中国)日化有限公司、福建双飛日化有限
公司、蘇果超市有限公司――著作権侵害紛争上訴事件(江蘇省高級人民法院(2012)蘇
知民終字第 161 号民事判決書)
【事件の概要・解説】
タイプフェースの1文字が著作権法の保護対象である美術的著作物に該当するか否
かにつき示した事件である。
タイプフェースに関して、2012 年の典型知的財産権事件には 2 件が存在した。基本
的には、デジタル処理後のタイプフェースはコンピューターソフトウェアとして保護
されるが、一部のタイプフェースは書道の原稿の二次的著作物として形成される。こ
の場合、タイプフェースの 1 文字が書道の原稿(美術の著作物)の著作権を侵害するか
どうかがポイントとなる。本件で人民法院は、書道の線、色等が全てデザイナーの選
択により形成され、美感も有し、独創性があることから、タイプフェースの 1 文字は
著作権法上の美術の著作物に該当し、保護されるべきと判断した。なお、タイプ
フェースは審美と实用の機能を兼有するので、現在使用されているタイプフェースの
正常な使用を妨害しないことから、タイプフェースは高い独創性があり、現在使用さ
れているタイプフェースと明らかに異なるといった事情がない限り、保護されるべき
ではないとされている。
ⅷ
フェアユースに関する認定
⑨
蒋友柏 VS 周為軍、江蘇人民出版社有限公司、北京鳳凰聯動文化メディア有限公司―
著作権侵害紛争上訴事件(浙江省杭州市中級人民法院(2013)浙杭知終字第 13 号民事判
決書)
【事件の概要・解説】
伝記のようなノンフィクションの引用にも著作権法第 22 条(フェアユース)の適用
があることを示した事件である。伝記のようなノンフィクションの引用も著作権法第
22 条の規定に従って、著作者の氏名、著作物の名称を明示する必要があり、明示しな
い場合には、フェアユースの適用はなく、権利侵害に該当すると判示した。
※著作権法第 22 条第 1 項第 2 号:ある著作物を紹介し、批判し、又はある問題を説
明するため、著作物の中で他人の公表された著作物を適当に引用する場合、著作権者
の許諾を受けず、著作権者に報酬を支払わなくても良いが、著作者の氏名、著作物の
名称を明示しなければならず、かつ著作権者が本法によって享有するその他の権利を
侵害してはならない。
- 95 -
Ⅲ 司法解釈
1. 信用失墜被執行者の名簿情報の公布に関する最高人民法院の若
干規定
http://www.chinacourt.org/law/detail/2013/07/id/146217.shtml
(1) 概要
中国の民事裁判手続における執行難の問題を改善するため、「信用失墜被執行者の
名簿情報の公布に関する最高人民法院の若干規定」が、2013 年 10 月 1 日から施行さ
れている。2015 年 1 月 23 日までに公開された信用失墜被執行者情報は 101.5 万件、
高額消費制限命令を下されたケースは 150 万余23であった。
同規定は、信用失墜被執行者の名簿に加えた個人、法人又はその他の組織に対
し、それらの情報を最高人民法院の信用失墜被執行者の名簿データベースに登録
し、一般人に公開するほか、人民法院が政府関連部門、金融監督官庁、金融機関、
行政職能を担う事業卖位及び業界団体等に対し通報し、関連部門が政府調達、入札
募集・応募、行政審査、政府扶助、融資貸付、市場参入許可及び資格認定等につい
て、被執行者に対し信用上のペナルティーを与えるものである。
 信用失墜被執行者データベース:http://shixin.court.gov.cn/index.html
(2) 最新動向(2014 年 3 月以後)
① 2015 年 2 月 26 日までに公開された信用失墜被執行者情報は、自然人が 939,024
件、法人又はその他組織が 148,140 件である。また、2014 年 7 月 23 日までに、
信用失墜被執行者の 20%が自発的に支払義務を履行した24。
② 2014 年 4 月 1 日、最高人民法院、公安部、国務院国資委、国家工商総局、中国
銀監会、中国民用航空局及び中国鉄道総公司の 8 機関は、「信義則を構築し、信
用失墜行為を懲戒する」との提携覚書を締結した。これにより、最高人民法院か
ら送られた信用失墜被執行者リスト(信用失墜被執行者データべースに掲載され
ている被執行者、及び他の被執行者)に基づき、他の 7 機関は当該リスト掲載者
に対して、①高額消費の禁止(航空券や一等寝台列車の乗車券も含む)、②ローン
及びクレジットカードの使用制限、③企業の高級管理職への就任禁止等の懲戒を
与えることとなった25。
③ 2014 年 7 月 8 日、最高人民法院執行局から「信用失墜被執行者ランキングリス
23
http://www.chinapeace.gov.cn/2015-01/23/content_11171881.htm
24
http://politics.people.com.cn/n/2014/0726/c1001-25347883.html
25
http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/sjyw/201412/t20141202_202186.html
- 96 -
ト」が発表され、信用失墜継続期間、金額、回数等により整理された信用失墜被
執行者リストが公開された。2015 年 2 月 26 日現在、信用失墜にかかわる金額の
最高額は、自然人で約 3.9 億元、法人で約 3.3 億元、最多回数は、自然人で 79
回、法人で 170 回26である。
④ 2014 年 12 月 8 日、最高人民法院と中国人民銀行信用調査センターは情報収集の
協力に関する覚書を締結し、情報データ面における相互連絡を实現した。これ
は、信用失墜被執行者が銀行の「ブラックリスト」に掲載されることを意味し、銀
行からの融資も困難になる27。
(3) 法令
 日本語訳
信用失墜被執行者の名簿情報の公布に関する最高人民法院の若干規定
法釈〔2013〕17 号
「信用失墜被執行者の名簿情報の公表に関する最高人民法院の若干規定」はす
でに 2013 年 7 月 1 日に最高人民法院審判委員会第 1582 回会議において採択さ
れたことから、ここにそれを公表し、2013 年 10 月 1 日から施行する。
最高人民法院
2013 年 7 月 16 日
信用失墜被執行者の名簿情報の公表に関する
最高人民法院の若干規定
(2013 年 7 月 1 日最高人民法院審判委員会第 1582 回会議で採択)
被執行者が、発効した法律文書に決められた義務を自ら履行するよう促し、
社会信用システムの確立を促進するために、「中華人民共和国民事訴訟法」の規
定に基づき、人民法院の实務と結びつけて、本規定を定める。
第一条
被執行者が履行能力を有しながら発効した法律文書に決められた義務を履行
せず、かつ下記状況のいずれかに該当する場合、人民法院はそれを信用失墜被
執行者の名簿に載せ、それに対し法により信用懲戒を加えなければならない。
26
http://legal.people.com.cn/sxphb/
27
http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/sjyw/201412/t20141210_202976.html
- 97 -
(一)
証拠偽造、暴力、威嚇などの方法で執行を妨害・拒否した場合
(二)
虚偽訴訟、虚偽仲裁又は財産の隠匿、移転などの方法で執行を回避し
た場合
(三)
財産報告制度に違反した場合
(四)
高消費制限令に違反した場合
(五)
被執行者が正当な理由なく和解協議を履行・執行しなかった場合
(六)
履行能力を有しながら発効した法律文書に決められた義務を履行しな
いその他の場合
第二条
人民法院から被執行者に出した「執行通知書」には、信用失墜被執行者の名簿
に掲載されるリスクを注意する内容を明記しなければならない。
執行請求者は、被執行者に本規定第一条に列挙される信用失墜行為のいずれ
かがあると認める場合、人民法院に対して当該被執行者を信用失墜被執行者の
名簿に載せるよう請求することができ、人民法院は、審査を経て決定する。人
民法院は、被執行者に本規定第一条に列挙される信用失墜行為のいずれかがあ
ると認める場合、職権により、当該被執行者を信用失墜被執行者の名簿に載せ
る旨の決定を下すことができる。
人民法院は、当該被執行者を信用失墜被執行者の名簿に載せる旨の決定を下
した場合、決定書を作成しなければならず、決定書は作成日より発効するもの
とする。決定書は、民事訴訟法に規定される法律文書送達方法に従って、当事
者に送達しなければならない。
第三条
被執行者は、自分を信用失墜被執行者の名簿に載せることが間違っていると
認める場合、人民法院に是正するよう請求することができる。被執行者が自然
人の場合、通常、被執行者本人が人民法院に出頭して請求しかつ理由を説明し
なければならない。被執行者が法人又はその他の組織の場合、通常、被執行者
の法定代表者又は責任者本人が人民法院に出頭して請求しかつ理由を説明しな
ければならない。人民法院は審査を経て、理由が成立すると認める場合、是正
する旨の決定を下さなければならない。
第四条
掲載・公表した信用失墜被執行者の名簿情報には次のような内容を含まなけ
ればならない。
(一) 被執行者である法人又はその他の組織の名称、組織機構コード、法定
代表者若しくは責任者の氏名
- 98 -
(二) 被執行者である自然人の氏名、性別、年齢、身分証明書番号
(三) 発効した法律文書に規定される義務と被執行者の履行状況
(四) 被執行者による信用失墜行為の詳細
(五) 執行根拠の作成卖位と文書番号、執行事案番号、立件時間、執行法院
(六) 人民法院が記載・公表すべきと認める、国家秘密・営業秘密・個人プ
ライバシーに関わらないその他の事項
第五条
各級人民法院は、信用失墜被執行者の名簿情報を最高人民法院信用失墜被執
行者の名簿データベースに登録し、かつ当該名簿データベースを通して統一的
に社会に公表しなければならない。
各級人民法院は、各地の实情に基づき、信用失墜被執行者の名簿を新聞、ラ
ジオ放送、テレビ、インターネット、法院公告欄などその他の方法で公表する
ことができ、また記者会見又はその他の方法で定期的に、本法院及び管轄区内
の法院による「信用失墜被執行者の名簿」という制度の实施状況を社会に公表す
ることもできる。
第六条
関係卖位が法律、法規と関係規定に基づき、政府による買い付け、入札募
集・応募、行政審査許可、政府による扶助、融資貸付、市場参入許可、資格認
定などの面で、信用失墜被執行者に対して信用懲戒を加えるように、人民法院
は信用失墜被執行者の名簿情報を政府関係部門、金融監督管理機関、金融機
関、行政職能を負う事業卖位及び業界協会などに通告しなければならない。
人民法院は信用失墜被執行者の名簿を信用格付け機関に報告しなければなら
ず、信用格付け機関はその信用格付けシステムに記録しなければならない。
信用失墜被執行者が国家業務要員である場合には、人民法院はその信用失墜
状況をその所属する卖位に通告しなければならない。
信用失墜被執行者が国家機関、国有企業である場合には、人民法院はその信
用失墜状況をその上級卖位又は主管部門に通告しなければならない。
第七条
信用失墜被執行者が下記の状況のいずれかに該当する場合、人民法院はその
関係情報を信用失墜被執行者の名簿データベースから削除しなければならな
い。
(一) 発効した法律文書に決められた義務をすべて履行した場合
(二) 執行請求者と執行和解協議に合意し、かつ履行が完了したと執行請求
者から確認された場合
- 99 -
(三) 人民法院が法により執行終結を裁定した場合
上記司法解釈第 5 条において規定され、最高人民法院による「全国法院信用失
墜被執行者個人情報の公開と検索」というデータベースの関連情報について、下
記のとおり紹介する。

中国語
最高人民法院关于公布失信被执行人名单信息的若干规定
《最高人民法院关于公布失信被执行人名单信息的若干规定》已于 2013 年 7 月 1
日由最高人民法院审判委员会第 1582 次会议通过,现予公布,自 2013 年 10 月 1
日起施行。
最高人民法院
2013 年 7 月 16 日
法释〔2013〕17 号
最高人民法院
关于公布失信被执行人名单信息的若干规定
(2013 年 7 月 1 日最高人民法院审判委员会第 1582 次会议通过)
为促使被执行人自觉履行生效法律文书确定的义务,推进社会信用体系建设,
根据《中华人民共和国民事诉讼法》的规定,结合人民法院工作实际,制定本规
定。
第一条
被执行人具有履行能力而不履行生效法律文书确定的义务,并具有下列
情形之一的,人民法院应当将其纳入失信被执行人名单,依法对其进行信用惩
戒:
(一) 以伪造证据、暴力、威胁等方法妨碍、抗拒执行的;
(二) 以虚假诉讼、虚假仲裁或者以隐匿、转移财产等方法规避执行的;
(三) 违反财产报告制度的;
(四) 违反限制高消费令的;
(五) 被执行人无正当理由拒不履行执行和解协议的;
(六) 其他有履行能力而拒不履行生效法律文书确定义务的。
- 100 -
第二条
人民法院向被执行人发出的《执行通知书》中,应当载明有关纳入失信
被执行人名单的风险提示内容。
申请执行人认为被执行人存在本规定第一条所列失信行为之一的,可以向人民
法院提出申请将该被执行人纳入失信被执行人名单,人民法院经审查后作出决
定。人民法院认为被执行人存在本规定第一条所列失信行为之一的,也可以依职
权作出将该被执行人纳入失信被执行人名单的决定。
人民法院决定将被执行人纳入失信被执行人名单的,应当制作决定书,决定书
自作出之日起生效。决定书应当按照民事诉讼法规定的法律文书送达方式送达当
事人。
第三条
被执行人认为将其纳入失信被执行人名单错误的,可以向人民法院申请
纠正。被执行人是自然人的,一般应由被执行人本人到人民法院提出并说明理
由;被执行人是法人或者其它组织的,一般应由被执行人的法定代表人或者负责
人本人到人民法院提出并说明理由。人民法院经审查认为理由成立的,应当作出
决定予以纠正。
第四条 记载和公布的失信被执行人名单信息应当包括:
(一)
作为被执行人的法人或者其他组织的名称、组织机构代码、法定代表人
或者负责人姓名;
(二) 作为被执行人的自然人的姓名、性别、年龄、身份证号码;
(三) 生效法律文书确定的义务和被执行人的履行情况;
(四) 被执行人失信行为的具体情形;
(五) 执行依据的制作单位和文号、执行案号、立案时间、执行法院;
(六)
人民法院认为应当记载和公布的不涉及国家秘密、商业秘密、个人隐私
的其他事项。
第五条
各级人民法院应当将失信被执行人名单信息录入最高人民法院失信被执
行人名单库,并通过该名单库统一向社会公布。
各级人民法院可以根据各地实际情况,将失信被执行人名单通过报纸、广播、
电视、网络、法院公告栏等其他方式予以公布,并可以采取新闻发布会或者其它
方式对本院及辖区法院实施失信被执行人名单制度的情况定期向社会公布。
第六条
人民法院应当将失信被执行人名单信息,向政府相关部门、金融监管机
构、金融机构、承担行政职能的事业单位及行业协会等通报,供相关单位依照法
律、法规和有关规定,在政府采购、招标投标、行政审批、政府扶持、融资信
贷、市场准入、资质认定等方面,对失信被执行人予以信用惩戒。
- 101 -
人民法院应当将失信被执行人名单向征信机构通报,并由征信机构在其征信系
统中记录。
失信被执行人是国家工作人员的,人民法院应当将其失信情况通报其所在单
位。
失信被执行人是国家机关、国有企业的,人民法院应当将其失信情况通报其上
级单位或者主管部门。
第七条
失信被执行人符合下列情形之一的,人民法院应当将其有关信息从失信
被执行人名单库中删除:
(一) 全部履行了生效法律文书确定义务的;
(二) 与申请执行人达成执行和解协议并经申请执行人确认履行完毕的;
(三) 人民法院依法裁定终结执行的。

出所:2013 年 7 月 24 日付け最高人民法院ホームページ
http://www.court.gov.cn/qwfb/sfjs/201307/t20130724_186661.htm
2. 人民法院の裁判文書のウェブサイトでの公開に関する規定
http://www.chinacourt.org/law/detail/2013/11/id/147242.shtml
(1) 概要
人民法院に裁判公開の原則を徹底的に实行させるため、インターネット上での裁判
文書の公表について、「人民法院の裁判文書のウェブサイトでの公開に関する規定」
が、2014 年 1 月 1 日から施行されている。
裁判文書は公開が原則であるが、①国家機密、個人のプライバシーに関わる場合、
②未成年者の違法行為や犯罪行為に関わる場合、③調停によって事件を解決する場
合、④インターネット上で公開すべきでない場合等は非公開となる。
裁判文書は、発効後 7 日以内に、一部の当事者及び訴訟参加者の匿名化処理及び一
定のプライバシー情報の削除の技術的処理をされ、公開される。

裁判文書公開サイト「中国裁判文書網」:http://www.court.gov.cn/zgcpwsw/
(2) 最新動向(2014 年 3 月以後)
2015 年 1 月 23 日までに、全国の各級の人民法院が「中国裁判文書網」を通じて公開
した裁判文書(発効済)は約 593 万通28。そのうち、最高人民法院の裁判文書は 1 万 2
28
http://www.chinapeace.gov.cn/2015-01/23/content_11171881.htm
- 102 -
千通余りである。半年前のデータ(2014 年 6 月 30 日までに、全国の各級の人民法院が
公開した裁判文書は約 166 万通。そのうち刑事裁判文書が約 41 万通(約 25%)、民事
裁判文書が約 107 万通(約 65%)、行政裁判文書が約 5.3 万通(約 3%)で、残りは知的
財産権裁判文書(約 1%)、執行裁判文書(約 6%)であった29。)と比較すると、倍の速
度で増加していることがわかる。
司法情報の公開については、裁判文書公開のほか、近年では裁判過程のオンライン
配信(生中継もある)30も实施されており、2013 年までに 4.5 万件がネット配信され、
2014 年以降も急速に増えている。
(3) 法令

日本語訳
最高人民法院
「人民法院のインターネット上での裁判文書の公開に関する規定」
法釈〔2013〕26 号
最高人民法院の「人民法院のインターネット上での裁判文書の公開に関する規
定」は、2013 年 11 月 13 日、最高人民法院審判委員会第 1595 回会議にて可決さ
れ、ここに公布する。2014 年 1 月 1 日から施行する。
最高人民法院
2013 年 11 月 21 日
最高人民法院
「人民法院のインターネット上での裁判文書の公開に関する規定」
(2013 年 11 月 13 日、最高人民法院審判委員会第 1595 回会議にて可決)
審判公開の原則を徹底し、人民法院のインターネット上での裁判文書の公開
を規範化し、司法の公正を促進し、司法の公信力を高めるため、「中華人民共和
国刑事訴訟法」、「中華人民共和国民事訴訟法」、「中華人民共和国行政訴訟法」な
どの関連規定に基づき、人民法院の活動の实情を踏まえ、本規定を制定する。
第一条
人民法院は、インターネット上に裁判文書を公開するに当たって、法に従
29
http://www.chinacourt.org/article/detail/2014/10/id/1459706.shtml
30
http://ts.chinacourt.org/
- 103 -
い、速やかに、適正に、真实に基づいて行わなければならない。
第二条
最高人民法院は、インターネット上に中国裁判文書網を開設し、各級人民法
院の発効済裁判文書を統一的に公開する。各級人民法院は、中国裁判文書網に
おいて公開した裁判文書の品質に対して責任を負う。
第三条
各級人民法院は、インターネット上に公開した裁判文書の管理を行う専門機
関を指定しなければならない。当該機関は、以下の職責を果たす。
(一)
裁判文書の公開を手配し、裁判文書をアップロードする。
(二)
公開された裁判文書に書き間違い、又は技術的な処理の不具合などの
問題が存在した場合、関係官庁に協力して速やかに処理する。
(三)
その他の関連する指導、監督、評価を行う。
第四条
人民法院の発効済裁判文書は、インターネット上に公開されなければならな
い。ただし、次の各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合を除く。
(一)
国家機密、個人のプライバシーに関わる場合
(二)
未成年者の違法行為や犯罪行為に関わる場合
(三)
調停によって事件を解決する場合
(四)
インターネット上で公開すべきでない場合
第五条
人民法院は、案件受理通知書、応訴通知書において、インターネット上で公
開する裁判文書の範囲を当事者に通知し、政務ウェブサイト、タッチスクリー
ン、訴訟の手引きなど複数の方法を通じて、人民法院のインターネット上での
裁判文書の公開に関する規定を公衆に告知しなければならない。
第六条
人民法院は、インターネット上で裁判文書を公開するとき、当事者の氏名又
は名称などの真实の情報を公開しなければならない。ただし、符号に置き換え
る形で、次に掲げる当事者及び訴訟参加者の氏名について匿名化処理を必ず行
わなければならない。
(一)
家事、相続をめぐる紛争事件における当事者及びその法定代理人
(二)
刑事事件における被害者及びその法定代理人、証人、鑑定人
(三)
3 年間の有期懲役以下の刑罰を言い渡され、刑事処罰を免れ、かつ累
- 104 -
犯又は常習犯に属さない被告人
第七条
人民法院は、インターネット上で裁判文書を公開するとき、次に掲げる情報
を削除しなければならない。
(一)
自然人の自宅住所、連絡方法、身分証明書の番号、銀行の口座番号、
健康状況などの個人情報
(二)
未成年者の関連情報
(三)
法人及びその他の組織の銀行の口座番号
(四)
営業秘密
(五)
公開すべきでないその他の内容
第八条
担当裁判官又は人民法院が指定する専任者は、裁判文書の発効から 7 日以内
に本規定の第六条、第七条の要求に従って技術的な処理を完了した上で、当該
裁判文書を、当該法院でインターネットによる裁判文書の公開を担当する専門
機関に提出し、中国裁判文書網に公開しなければならない。
第九条
卖独裁判官又は合議体は、本規定第四条第四号のインターネット上で公開す
べきでない事由が裁判文書にあると考える場合、意見及び理由を書面で部署責
任者に提起しなければならない。部署責任者は当該意見及び理由を審査した後
で、主管副院長に報告し、査定を仰がなければならない。
第十条
インターネット上に公開された裁判文書は、本規定に従って技術的な処理が
行われる以外に、当事者に送達した裁判文書と一致しなければならない。
人民法院は、当事者に送達する裁判文書を補正する場合、補正の裁決を速や
かにインターネット上に公開しなければならない。
第十一条
人民法院がインターネット上に公開する裁判文書は、ネットワーク伝送の故
障に起因して当事者に送達した裁判文書との不一致を招いた場合を除いて、修
正又は差換えを行ってはならない。法定の理由又はその他の特別な原因によ
り、確かに撤回する必要がある場合、高級人民法院以上の法院でインターネッ
トによる裁判文書の公開を担当する専門機関が、撤回するかどうかを審査によ
り決定し、中国裁判文書網にて撤回及び登記、届出の手続を行わなければなら
- 105 -
ない。
第十二条
中国裁判文書網は、公衆が裁判文書の検索、閲覧を行いやすいように、操作
が簡便な検索、閲覧システムを提供しなければならない。
第十三条
最高人民法院は、地方の各級人民法院のインターネットによる裁判文書の公
開について、監督と指導を担当する。
高級人民法院は、管轄区内の各級人民法院のインターネットによる裁判文書
の公開について、手配、指導、監督、検査を担当する。
第十四条
各高級人民法院は、本規定の实施過程において、实情を踏まえて实施細則を
制定することができる。中西部地域の基層人民法院のインターネットによる裁
判文書公開スケジュールは、高級人民法院が決定した上で、最高人民法院に報
告し、届出を行う。
第十五条
本規定は、2014 年 1 月 1 日から实施する。最高人民法院が 2010 年 11 月 8 日
に制定した「人民法院のインターネット上での裁判文書の公開に関する規定」(法
発〔2010〕48 号)は、本規定の实施と同時に廃止する。最高人民法院が以前に公
布した司法解釈と規範性文書が本規定と一致しない場合、本規定に準ずる。

中国語
最高人民法院关于人民法院在互联网公布裁判文书的规定
《最高人民法院关于人民法院在互联网公布裁判文书的规定》已于 2013 年 11
月 13 日由最高人民法院审判委员会第 1595 次会议通过,现予公布,自 2014 年 1
月 1 日起施行。
最高人民法院
2013 年 11 月 21 日
法释〔2013〕26 号
最高人民法院关于
人民法院在互联网公布裁判文书的规定
(2013 年 11 月 13 日最高人民法院审判委员会第 1595 次会议通过)
- 106 -
为贯彻落实审判公开原则,规范人民法院在互联网公布裁判文书工作,促
进司法公正,提升司法公信力,根据《中华人民共和国刑事诉讼法》《中华人民
共和国民事诉讼法》《中华人民共和国行政诉讼法》等相关规定,结合人民法院
工作实际,制定本规定。
第一条 人民法院在互联网公布裁判文书,应当遵循依法、及时、规范、真实的
原则。
第二条 最高人民法院在互联网设立中国裁判文书网,统一公布各级人民法院的
生效裁判文书。
各级人民法院对其在中国裁判文书网公布的裁判文书质量负责。
第三条 各级人民法院应当指定专门机构负责互联网公布裁判文书的管理工作。
该机构履行以下职责:
(一) 组织、上传裁判文书;
(二)
发现公布的裁判文书存在笔误或者技术处理不当等问题的,协调有关部
门及时处理;
(三) 其他相关的指导、监督和考评工作。
第四条 人民法院的生效裁判文书应当在互联网公布,但有下列情形之一的除
外:
(一) 涉及国家秘密、个人隐私的;
(二) 涉及未成年人违法犯罪的;
(三) 以调解方式结案的;
(四) 其他不宜在互联网公布的。
第五条 人民法院应当在受理案件通知书、应诉通知书中告知当事人在互联网公
布裁判文书的范围,并通过政务网站、电子触摸屏、诉讼指南等多种方式,向公
众告知人民法院在互联网公布裁判文书的相关规定。
第六条 人民法院在互联网公布裁判文书时,应当保留当事人的姓名或者名称等
真实信息,但必须采取符号替代方式对下列当事人及诉讼参与人的姓名进行匿名
处理:
(一) 婚姻家庭、继承纠纷案件中的当事人及其法定代理人;
(二) 刑事案件中被害人及其法定代理人、证人、鉴定人;
(三)
被判处三年有期徒刑以下刑罚以及免予刑事处罚,且不属于累犯或者惯
- 107 -
犯的被告人。
第七条 人民法院在互联网公布裁判文书时,应当删除下列信息:
(一)
自然人的家庭住址、通讯方式、身份证号码、银行账号、健康状况等个
人信息;
(二) 未成年人的相关信息;
(三) 法人以及其他组织的银行账号;
(四) 商业秘密;
(五) 其他不宜公开的内容。
第八条 承办法官或者人民法院指定的专门人员应当在裁判文书生效后七日内按
照本规定第六条、第七条的要求完成技术处理,并提交本院负责互联网公布裁判
文书的专门机构在中国裁判文书网公布。
第九条 独任法官或者合议庭认为裁判文书具有本规定第四条第四项不宜在互联
网公布情形的,应当提出书面意见及理由,由部门负责人审查后报主管副院长审
定。
第十条 在互联网公布的裁判文书,除依照本规定的要求进行技术处理的以外,
应当与送达当事人的裁判文书一致。
人民法院对送达当事人的裁判文书进行补正的,应当及时在互联网公布补正裁
定。
第十一条 人民法院在互联网公布的裁判文书,除因网络传输故障导致与送达当
事人的裁判文书不一致的以外,不得修改或者更换;确因法定理由或者其他特殊
原因需要撤回的,应当由高级人民法院以上负责互联网公布裁判文书的专门机构
审查决定,并在中国裁判文书网办理撤回及登记备案手续。
第十二条 中国裁判文书网应当提供操作便捷的检索、查阅系统,方便公众检
索、查阅裁判文书。
第十三条 最高人民法院负责监督和指导地方各级人民法院在互联网公布裁判文
书的工作。
高级人民法院负责组织、指导、监督和检查辖区内各级人民法院在互联网公布
裁判文书的工作。
- 108 -
第十四条 各高级人民法院在实施本规定的过程中,可以结合工作实际制定实施
细则。中西部地区基层人民法院在互联网公布裁判文书的时间进度由高级人民法
院决定,并报最高人民法院备案。
第十五条 本规定自 2014 年 1 月 1 日起实施。最高人民法院 2010 年 11 月 8 日制
定的《关于人民法院在互联网公布裁判文书的规定》(法发〔2010〕48 号)同时废
止。最高人民法院以前发布的司法解释和规范性文件与本规定不一致的,以本规
定为准。

出所:2013 年 11 月 29 日付け最高人民法院ホームページ
http://www.court.gov.cn/qwfb/sfjs/201311/t20131129_189898.htm
3. 最高人民法院「被執行者貯金のオンライン照会、凍結に関する規
定」
http://www.chinacourt.org/law/detail/2013/08/id/146627.shtml
(1) 概要
同規定は、人民法院の事件の処理、執行において、貯金等金融機関のある財産に対
するインターネットを通じた財産照会、凍結等の措置に関する司法解釈であり、2013
年 9 月 2 日に施行された。同規定に従い、人民法院は、インターネットを通じて被執
行者の貯金を照会、凍結、続凍、解凍、引き落とし等の措置を講ずることができる。
また、同規定には、被執行者の株式、株券、証券口座資金、不動産等のその他の財産
に対しても、同規定の趣旨を類推適用すると規定されている。
(2) 最新動向(2014 年 3 月以後)
後記 4 をご参照ください。
- 109 -
(3) 法令

日本語訳
最高人民法院「被執行者預金のインターネット照会、凍結に関する規定」
法釈〔2013〕20 号
最高人民法院「被執行者預金のインターネット照会、凍結に関する規定」は
2013 年 8 月 26 日、最高人民法院裁判委員会第 1587 回会議にて可決され、ここ
に公布し、2013 年 9 月 2 日から施行する。
最高人民法院
2013 年 8 月 29 日
最高人民法院
「被執行者預金のインターネット照会、凍結に関する規定」
(2013 年 8 月 26 日、最高人民法院裁判委員会第 1587 回会議にて可決)
人民法院が事件の処理、執行においてインターネットを通じて被執行者の預
金及びその他の財産を照会、凍結する行為を規範化し、執行効率をさらに引き
上げるため、「中華人民共和国民事訴訟法」の規定に基づき、人民法院の实情を
踏まえて、本規定を制定する。
第一条
人民法院と金融機構は、インターネットによる捜査取締執行体制を構築する
場合、インターネットを通じて被執行者の預金を照会、凍結するなどの措置を
講じることができる。
インターネットによる捜査取締執行メカニズムの構築と運用にあたって、次
の各号に掲げる条件を備えなければならない。
(一) インターネットによる捜査取締執行システムをすでに構築しており、イン
ターネットによる捜査取締執行システムを通じて捜査取締情報を送信、転
送、フィードバックする機能を有する。
(二) インターネットによる捜査取締執行業務を行う権限を特定の要員に授与し
ている。
(三) 安全規則に適合する電子印鑑システムを有する。
(四) 捜査取締システムと情報セキュリティを十分に保証する措置をすでに講じ
ている。
- 110 -
第二条
人民法院は、インターネットによる捜査取締執行措置を講じるにあたって、
事前に関連金融機構に、インターネットを通じて捜査取締執行措置を講じる権
利を有する特定の執行担当者の関連公務証明書を一括して届け出なければなら
ない。实際の業務を行うとき、関連する金融機構に当該執行担当者の関連公務
証明書を別途提供しない。
人民法院は、インターネット捜査取締執行業務を行う特定の執行担当者に変
更が生じた場合、関連金融機構の届出担当者にすみやかに情報変更と関連公務
の証明書を届け出なければならない。
第三条
人民法院は、インターネットを通じて被執行者の預金を照会するとき、電子
預金調査協力通知書を金融機構に転送しなければならない。複数の事件を集中
的に調査する場合、事件調査対象をまとめたリストを添付することができる。
照会した被執行者預金を凍結し、又は継続して凍結する必要がある場合、人
民法院は、電子凍結裁定書と預金凍結協力通知書をすみやかに金融機構に転送
しなければならない。
凍結した被執行者預金の凍結を解除する必要がある場合、人民法院は、電子
凍結裁定書と預金凍結協力通知書をすみやかに金融機構に転送しなければなら
ない。
第四条
人民法院は、金融機構に転送する法律文書に電子印鑑を押捺しなければなら
ない。
執行協力者である金融機構は、照会、凍結などの事項を遂行した後、イン
ターネットを通じて、電子印鑑が押捺された照会、凍結などの結果をすみやか
に人民法院に返信しなければならない。
人民法院が発行した電子法律文書、金融機構が発行した電子照会、凍結など
の結果は、紙の法律文書及びフィードバック結果と同等の効力を有する。
第五条
人民法院がインターネットを通じて被執行者預金を照会、凍結、続凍、解凍
することは、執行担当者が金融機構の営業所に赴き、被執行者預金の調査、凍
結、続凍、解凍を行うことと同等の効力を有する。
第六条
金融機構は、人民法院がインターネット捜査取締執行システムを通じて執行
- 111 -
した捜査取締措置が、関連する法律、行政法規の定めに違反すると考える場
合、人民法院に書面で異議を唱えなければならない。人民法院は、15 日以内に
審査を完了し、書面で回答を出さなければならない。
第七条
人民法院は、法律、行政法規の定め及び関連取扱規範に従って、インター
ネット捜査取締執行システムと捜査取締情報を使用し、情報セキュリティを保
証しなければならない。
人民法院は、事件の処理・執行の過程で、インターネット捜査取締執行シス
テムを通じて取得した捜査取締情報を漏洩してはならず、それを事件執行以外
の目的に使用してはならない。
人民法院は、事件の処理・執行の過程で、被執行者以外の非執行義務主体に
対してインターネット捜査取締措置を講じてはならない。
第八条
人民法院の職員が第七条の定めに違反した場合、「人民法院職員処分条例」に
従って懲戒処分を科さなければならない。情状が深刻で犯罪を構成する場合、
刑事責任を追及しなければならない。
第九条
人民法院は、インターネット口座振替技術を有し、金融機構と協議のうえで
合意に達した場合、インターネット捜査取締執行システムを通じて被執行者預
金の引き落とし措置を講じることができる。
第十条
人民法院は、工商行政管理、証券管理監督、土地不動産管理などの執行協力
機関とインターネット捜査取締執行体制をすでに構築し、インターネット捜査
取締執行システムを通じて被執行者の株式、株券、証券口座資金、不動産など
その他の財産に対して捜査取締措置を講じる場合、本規定の趣旨を類推適用す
る。

中国語
最高人民法院关于网络查询、冻结被执行人存款的规定
《最高人民法院关于网络查询、冻结被执行人存款的规定》已于 2013 年 8 月
26 日由最高人民法院审判委员会第 1587 次会议通过,现予公布,自 2013 年 9 月
- 112 -
2 日起施行。
最高人民法院
2013 年 8 月 29 日
法释〔2013〕20 号
最高人民法院
关于网络查询、冻结被执行人存款的规定
(2013 年 8 月 26 日最高人民法院审判委员会第 1587 次会议通过)
为规范人民法院办理执行案件过程中通过网络查询、冻结被执行人存款及其
他财产的行为,进一步提高执行效率,根据《中华人民共和国民事诉讼法》的规
定,结合人民法院工作实际,制定本规定。
第一条
人民法院与金融机构已建立网络执行查控机制的,可以通过网络实施查
询、冻结被执行人存款等措施。
网络执行查控机制的建立和运行应当具备以下条件:
(一)
已建立网络执行查控系统,具有通过网络执行查控系统发送、传输、反
馈查控信息的功能;
(二) 授权特定的人员办理网络执行查控业务;
(三) 具有符合安全规范的电子印章系统;
(四) 已采取足以保障查控系统和信息安全的措施。
第二条
人民法院实施网络执行查控措施,应当事前统一向相应金融机构报备有
权通过网络采取执行查控措施的特定执行人员的相关公务证件。办理具体业务
时,不再另行向相应金融机构提供执行人员的相关公务证件。
人民法院办理网络执行查控业务的特定执行人员发生变更的,应当及时向相应
金融机构报备人员变更信息及相关公务证件。
第三条
人民法院通过网络查询被执行人存款时,应当向金融机构传输电子协助
查询存款通知书。多案集中查询的,可以附汇总的案件查询清单。
对查询到的被执行人存款需要冻结或者续行冻结的,人民法院应当及时向金融
机构传输电子冻结裁定书和协助冻结存款通知书。
对冻结的被执行人存款需要解除冻结的,人民法院应当及时向金融机构传输电
子解除冻结裁定书和协助解除冻结存款通知书。
- 113 -
第四条 人民法院向金融机构传输的法律文书,应当加盖电子印章。
作为协助执行人的金融机构完成查询、冻结等事项后,应当及时通过网络向人
民法院回复加盖电子印章的查询、冻结等结果。
人民法院出具的电子法律文书、金融机构出具的电子查询、冻结等结果,与纸
质法律文书及反馈结果具有同等效力。
第五条
人民法院通过网络查询、冻结、续冻、解冻被执行人存款,与执行人员
赴金融机构营业场所查询、冻结、续冻、解冻被执行人存款具有同等效力。
第六条
金融机构认为人民法院通过网络执行查控系统采取的查控措施违反相关
法律、行政法规规定的,应当向人民法院书面提出异议。人民法院应当在 15 日内
审查完毕并书面回复。
第七条
人民法院应当依据法律、行政法规规定及相应操作规范使用网络执行查
控系统和查控信息,确保信息安全。
人民法院办理执行案件过程中,不得泄露通过网络执行查控系统取得的查控信
息,也不得用于执行案件以外的目的。
人民法院办理执行案件过程中,不得对被执行人以外的非执行义务主体采取网
络查控措施。
第八条
人民法院工作人员违反第七条规定的,应当按照《人民法院工作人员处
分条例》给予纪律处分;情节严重构成犯罪的,应当依法追究刑事责任。
第九条
人民法院具备相应网络扣划技术条件,并与金融机构协商一致的,可以
通过网络执行查控系统采取扣划被执行人存款措施。
第十条
人民法院与工商行政管理、证券监管、土地房产管理等协助执行单位已
建立网络执行查控机制,通过网络执行查控系统对被执行人股权、股票、证券账
户资金、房地产等其他财产采取查控措施的,参照本规定执行。

出所:2013 年 9 月 2 日付け最高人民法院ホームページ
http://www.court.gov.cn/qwfb/sfjs/201309/t20130902_187589.htm
- 114 -
4. 最高人民法院と 10 銀行間の執行情報提携覚書の締結(2014 年 4
月 23 日)
http://www.legaldaily.com.cn/index_article/content/2014-04/23/content_547445
4.htm?node=5955
(1) 概要、解説
最高人民法院は、2013 年から、商業銀行 10 行と相次いで執行情報(オンライン照
会・規制及び共同信用懲戒業務)提携覚書を締結した。
2014 年 4 月 23 日には、上記記事のとおり、中国進出口銀行等の政策性銀行・商業
銀行 10 行とも提携覚書を締結し、提携範囲を更に広げた。これにより、各級の人民
法院及び銀行の各支店がオンライン照会・規制システムを構築し、信用失墜被執行者
の名簿情報を利用して共同で信用懲戒を实施することが推進された。
また、2014 年 10 月 24 日には、中国銀行業監督管理委員会(銀行の監督官庁)と共同
で「人民法院と銀行業金融機関のオンライン照会・規制及び共同信用懲戒業務の实施
に関する意見」を公布した(同日施行)。同意見では、オンライン照会・規制の全国
ネットワークシステムの構築が推奨されており、今後は、各人民法院・銀行間の個別
のシステムがこの全国ネットワークシステムの下で運用されていくことになると思わ
れる。
なお、全国ネットワークシステムは二つの方式をとる。一つは「全体対全体」方式
で、最高人民法院が中国銀行業監督管理委員会の専用ルートを通じて各銀行の本店に
アクセスするものである。各級人民法院は最高人民法院のオンライン照会・規制シス
テムを通じて照会、規制を行うこととなる。もう一つは「点対点」方式で、高級人民法
院が当該地の銀行監督局の専用ルートを通じて各銀行の省級支店にアクセスするもの
である。人民法院が管轄区域内の照会、規制を行う場合は、当該地の高級人民法院の
オンライン照会・規制システムを通じて行い、管轄区域外の照会、規制を行う場合
は、最高人民法院を通じて当該地の高級人民法院のオンライン照会・規制システムに
アクセスすることとなる。
最高人民法院のオンライン照会・規制システムは 2014 年 12 月に完成し、運用を開
始したとのこと31である。
上記システムの完備により、インターネットを通じて被執行者の預金について照
会、凍結、続凍、解凍、引き落とし等の措置を講ずることが可能になれば、執行対象
財産の発見や執行それ自体が容易になり、また執行までに要する期間も極めて短縮さ
れ、執行費用の負担も軽くなることが予想される。
31
http://www.wenming.cn/jwmsxf_294/cxjszdh/zcfg/201412/t20141217_2350481.shtml
- 115 -
(2) 執行情報提携覚書

日本語訳
最高人民法院と 10 銀行間で執行情報提携覚書を締結
原稿出所:法制日報――法制網
最高人民法院は 2014 年 4 月 23 日、「人民法院と銀行業の執行提携調印式」を
北京で開催した。最高人民法院執行局と、中国進出口銀行、中国農業発展銀
行、中国郵政儲蓄銀行、招商銀行、興業銀行、平安銀行、上海浦東発展銀行、
恒豊銀行、浙商銀行、渤海銀行の政策性銀行・商業銀行 10 行は、執行情報提携
覚書を締結した。各級の人民法院及び銀行の各支店によるオンライン照会規制
システムの構築を奨励し、信用失墜被執行者の名簿情報を利用して共同で信用
懲戒を实施する。
最高人民法院執行局の劉貴祥局長は次のように指摘した。初期の商業銀行 10
行との執行情報提携は順調に進み、各地の人民法院、各銀行は積極的に实行に
移している。2 つのシステムの構築は大きな進展を見せており、制度構築の利点
は顕著である。北京、浙江、広西、福建等複数の地区の高級人民法院は主要な
商業銀行とオンライン執行照会規制システムを構築し、ネットワークを通じた
照会を实現しているうえ、ネットワークを通じた凍結・引き落としも徐々に進
めている。最高人民法院執行局が中国人民銀行信用調査センター、中国工商銀
行に対して光学ディスクにより信用失墜被執行者の名簿を送り、合同で行って
いる信用懲戒も、すばらしい社会的効果を上げている。
劉局長は、「今回はさらに政策性銀行・商業銀行 10 行と提携覚書を締結し、2
つのシステムの構築に参加する銀行が一段と増えたうえ、信用失墜被執行者名
簿の活用ルートが一層広がった。これは、2 つのシステムの構築において重要な
進展であり、その意義は非常に大きい」との見解を示した。

中国語
最高法与 10 家银行签订执行信息合作备忘录
来源: 法制日报——法制网
最高人民法院 23 日在北京召开“人民法院与银行业执行合作签字仪式”。最高
人民法院执行局与中国进出口银行、中国农业发展银行、中国邮政储蓄银行、招
商银行、兴业银行、平安银行、上海浦东发展银行、恒丰银行、浙商银行、渤海
银行等 10 家政策性银行、商业银行共同签订执行信息合作备忘录,鼓励各级法院
和银行各分支机构推进网络查控机制建设,使用失信被执行人名单信息共同实施
- 116 -
信用惩戒。
最高人民法院执行局长刘贵祥指出,前期与十家商业银行执行信息合作进展顺
利,各地法院、各个银行积极落实,两个机制建设取得了很大进展,制度建设的
优势已经显现。北京、浙江、广西、福建等多个地区高级人民法院都与主要商业
银行建立了网络执行查控系统,实现了联网查询,并逐步推进联网冻结、扣划功
能。最高法执行局与中国人民银行征信中心、中国工商银行通过光盘推送失信被
执行人名单进行联合信用惩戒,也取得很好的社会效果。
他表示,此次再与 10 家政策性银行、商业银行签订合作备忘录,进一步扩大了
参与两个机制建设的银行范围,进一步拓宽了失信被执行人名单的应用渠道,是
两个机制建设的重要突破,意义十分重大。
5. 「情報提携を強化し、執行及び執行協力を規範化することに関す
る最高人民法院、国家工商行政管理総局の通知」
http://file.chinacourt.org/f.php?id=2417&class=file(2014 年 10 月)
(1) 概要
工商行政管理機関の協力のもと人民法院による執行問題を改善するため、「情報提
携を強化し、執行及び執行協力を規範化することに関する最高人民法院、国家工商行
政管理総局の通知」が、2014 年 10 月 10 日から施行されている。
同通知の主な内容は情報提携、執行協力、執行措置の開示である。
情報提携については、次の 2 点について要請している。①各級人民法院と工商機関
はオンライン執行調査システムを構築して、執行及び執行協力のネットワーク化を实
現すること、②各級人民法院と工商機関は信用制約システムを構築し、被執行者、信
用失墜被執行者のリスト、刑事犯罪者等の情報を交換する仕組みをつくり、工商機関
はこれを市場の信用に対する監督管理を強化するための情報源とすること。
執行協力には、以下の内容が含まれる。①関連主体の設立・変更・抹消登記、対外
投資並びに処罰等の状況及び原資料の照会、②被執行者の出資持分その他投資権益の
凍結、凍結解除についての開示、③人民法院が被執行者の出資持分を強制譲渡したこ
とによる、有限責任会社の株主変更登記の処理、④法律、行政法規に定めるその他の
事項。
執行措置の開示については、工商機関は企業信用情報開示システムに「司法協力」の
欄を設け、人民法院が執行協力を要請する事項について掲載することとしている。人
民法院は開示協力を要請するとき、執行情報開示協力請求書を作成し、執行協力通知
書等の法律文書と併せて工商機関に送達しなければならない。工商機関は執行情報開
示協力請求書に従って開示情報を公表することとなる。
- 117 -
(2) 解説
同通知が制定された背景32としては、以下の 3 点が挙げられる。
第一に、人民法院と工商機関の双方が、それぞれの職責の履行を必要としていたこ
とである。経済の成長に伴い、被執行者が会社等の市場主体において保有する持分や
その他の投資権益は人民法院にとって重要な執行対象物となっているため、人民法院
は工商機関の執行協力を切实に求めていた。他方、工商機関は、市場主体の監督管理
責任を果たすために、人民法院の裁判・執行過程で形成された当事者に関する情報を
切实に求めていた。しかしながら、实務及び調査結果により、各級人民法院と工商機
関間の情報提携及び執行協力には足りない点が多く、規範性文書を制定してこれを解
決する必要があった。
第二に、情報化の流れが挙げられる。最高人民法院は執行の情報化、規範化を大変
重視している。一方、工商機関も情報化を非常に重視し、工商機関の情報化の程度は
行政機関の中ではかなり高いほうである。そのため、双方が情報提携を強化し、資源
の共有を实現することは必然の流れといえる。
第三に、工商登記制度の改革による必要性も制定を後押しした要因の一つである。
2013 年以降、中国は市場主体の資本制度改革を進めてきたため、工商登記制度もこれ
に伴って大きく改革されている。求められているのは、監督管理の理念及び方法の転
換、IT の利用、信用に対する監督管理の強化等であり、情報開示、情報共有、信用制
約等の手段の運用に力を入れ、部門間の協同監督管理、業界の自主規制、社会による
監督管理及び市場主体の自主管理を結び付けた市場の監督管理構造を形作ることであ
る。人民法院と工商機関には、協力してこうした改革を实行に移す義務があるといえ
る。
同通知により、国家工商行政管理総局が管理する持分等の投資権益について、イン
ターネットにより(又はシステムが構築されていない場合には、その他の方法により)
執行協力することが可能となった。これは、同通知に基づき、ネットワークを通じて
被執行者の株式・持分の凍結、強制譲渡等の措置を講ずることが实務運用においても
可能になれば、執行それ自体が容易になり、また執行までに要する期間も短縮され、
執行費用の負担も軽くなることが予想され、今後中国における訴訟の手段を利用しや
すくなるものと推察される。
同規定により、第 3 において言及した銀行口座だけでなく、被執行者の持分等の投
資権益までも、インターネットによる執行が可能となり、「執行難」の問題改善への大
きな一歩になると思料される。
32
http://www.chinapeace.gov.cn/2014-11/15/content_11152119.htm
- 118 -
記者問答
(3) 通知の内容

日本語訳
情報提携を強化し、執行及び執行協力を規範化することに関する
最高人民法院、国家工商総局の通知
法〔2014〕251 号
各省・自治区・直轄市の高級人民法院、解放軍軍事法院、新疆ウイグル自治
区高級人民法院生産建設兵団分院、及び各省・自治区・直轄市の工商行政管理
局 宛
最高人民法院、国家工商行政管理総局は、中央政府による工商登記制度改革
の決定・手配に従い、登録資本登記制度改革にかかわる法律及び行政法規に対
する全国人民代表大会常務委員会及び国務院の改正決定並びに国務院から公布
された「登録資本登記制度改革案」、「企業情報開示暫定条例」に基づき、情報提
携の強化、人民法院による執行及び工商行政管理機関による執行協力の規範化
等の事項について、以下のとおり通知する。
一
情報提携の更なる強化
1
各級人民法院及び工商行政管理機関は、オンライン専用ライン、電子政務
プラットフォーム等の媒体を通じ、双方の業務情報システムを連結し、オ
ンライン執行調査システムを構築して、執行及び執行協力のネットワーク
化を实現する。
2
人民法院及び工商行政管理機関は、人民法院が企業信用情報開示システム
を通じて関連情報を自ら開示できるよう、積極的に条件を生み出していか
なければならない。
3
オンライン執行調査システムを構築済みの地域は、当該システムを通じて
協力事項を行うことができる。
オンライン執行調査システムの要件、電子文書の要件、法的効力等に関し
ては、「被執行者預金のオンライン照会・凍結に関する最高人民法院の規
定」(法釈〔2013〕20 号)に従って規定する。オンラインを通じた凍結、出
資持分その他投資権益の強制譲渡(従前は法釈〔2013〕20 号 9 条、10 条等
の規定に従って執行)の手続は、本通知の要求に従って行う。ただし、協力
請求、結果のフィードバックの方法については、現場からオンラインを通
じたオペレーションへと転換する。
4
オンライン執行調査システムを構築していない地域であって、工商行政管
理機関に条件が備わっている場合は、専門の司法協力窓口を設置し、又は
- 119 -
専門の機関若しくは人員を指定して、執行協力業務を行うことができる。
5
各級人民法院及び工商行政管理機関は、オンライン専用ライン、電子政務
プラットフォーム等の媒体を通じて被執行者、信用失墜被執行者のリス
ト、刑事犯罪者等の情報を交換するシステムを構築する。工商行政管理機
関は、これを、市場の信用に対する監督管理を強化する情報源とする。
二
人民法院による執行及び工商行政管理機関による執行協力の更なる規範化
6
人民法院が事件を処理するにあたり工商行政管理機関の執行協力を必要と
する場合、工商行政管理機関は、人民法院の効力を生じている法律文書及
び執行協力通知書に従い、執行協力事項を行う。
人民法院が執行協力を要請する事項は、工商行政管理機関の法定の職権範
囲内でなければならない。
7
工商行政管理機関は、人民法院の以下の事項の処理に協力する。
(1) 関連主体の設立・変更・抹消登記、対外投資並びに処罰等の状況及び
原資料(企業信用情報開示システムにおいて既に開示されている情報
を除く)の照会
(2) 被執行者の出資持分その他投資権益の凍結、凍結解除についての開示
(3) 人民法院が被執行者の出資持分を強制譲渡したことによる、有限責任
会社の株主変更登記の処理
(4) 法律、行政法規に定めるその他の事項
8
工商行政管理機関は、企業信用情報開示システムに「司法協力」の欄を設置
し、人民法院が執行協力を要請する事項について公開掲載する。
人民法院は、工商行政管理機関に開示協力を要請するとき、執行情報開示
協力請求書を作成し、執行協力通知書等の法律文書と併せて工商行政管理
機関に送達しなければならない。工商行政管理機関は、執行情報開示協力
請求書に従い、開示情報を公表する。
開示情報には、執行人民法院、執行裁定書及び執行通知書の文書番号、被
執行者の氏名(名称)、凍結又は譲渡対象の出資持分その他投資権益が所在
する市場主体の氏名(名称)、出資持分その他投資権益の金額、譲受人、執
行協力の期間等の内容が含まれる。
9
人民法院は、出資持分その他投資権益について、凍結又は实体的処分を行
う前に、その権利帰属について照会しなければならない。
人民法院は、まずは企業信用情報開示システムを通じて関連情報を照会す
るものとする。更なる情報を取得する必要がある場合には、工商行政管理
機関に対して協力を要請することができる。
執行人員が工商行政管理機関に赴いて照会する場合、職員証又は公務執行
証を提示し、かつ、照会協力通知書を発行しなければならない。照会協力
- 120 -
通知書には、被照会主体の氏名(名称)、照会内容を明記し、かつ、執行の
根拠、人民法院の担当者の氏名及び電話番号等の内容を記載しなければな
らない。
10
人民法院は、工商行政管理機関の業務システム、企業信用情報開示システ
ム及び会社定款から、被執行者名義の出資持分その他投資権益を見つけた
場合、これを凍結することができる。
11
人民法院は、出資持分その他投資権益を凍結するとき、被執行者及びその
出資持分その他投資権益が所在する市場主体に凍結裁定書を送達し、か
つ、工商行政管理機関に開示協力を要請しなければならない。
人民法院が出資持分その他投資権益の凍結に関し開示協力を要請する場
合、執行人員は、職員証又は公務執行証を提示し、凍結対象の出資持分そ
の他投資権益が所在する市場主体の登記している工商行政管理機関に対し
て執行裁定書、開示協力通知書及び執行情報開示協力請求書を送付しなけ
ればならない。
開示協力通知書には、被執行者の氏名(名称)、執行の根拠、凍結対象の出
資持分その他投資権益が所在する市場主体の氏名(名称)、出資持分その他
投資権益の金額、凍結期間、人民法院の担当者の氏名及び電話番号等の内
容を明記しなければならない。
工商行政管理機関は、通知の受領後 3 業務日以内に、企業信用情報開示シ
ステムを通じて開示しなければならない。
12
出資持分その他投資権益が凍結された場合、人民法院の許可なしに、譲渡
してはならず、抵当権又はその他の権利・負担を設定してはならない。
有限責任会社の株主の出資持分が凍結されている間、工商行政管理機関
は、当該株主の変更登記、当該株主が会社の他の株主に対して出資持分の
凍結された部分を譲渡する旨の会社定款の届出、及び凍結された部分の出
資持分に対する質権設定登記を処理しない。
13
工商行政管理機関は、複数の人民法院から同一の出資持分その他投資権益
の凍結を要請された場合、全ての凍結要請を全部開示しなければならな
い。
最初に開示協力通知書が送達された執行人民法院の凍結を、有効凍結とす
る。続いて送達された凍結を、待機凍結とする。有効な凍結が解除された
場合、待機中の凍結のうち先に送達されたものが自動的に効力を生じる。
14
出資持分その他投資権益の凍結期間は、2 年を超えてはならない。申立人
が凍結の継続を申し立てた場合、人民法院は、当該凍結期間の満了 3 日前
までに、本通知第 11 条に従って手続を行わなければならない。凍結期間の
延長は、1 年を超えてはならない。凍結継続の回数には制限はない。
有効な凍結期間が満了し、人民法院が凍結継続の手続を行わない場合は、
- 121 -
凍結の効力は消滅する。前項に従って凍結継続の手続を行った場合、凍結
の効力は継続し、待機凍結に優先する。
15
人民法院は、被執行者の出資持分その他投資権益等について凍結を解除す
る場合、当事者に通知し、同時に工商行政管理機関に通知して開示を行わ
せなければならない。
人民法院による通知及び工商行政管理機関による開示の手続は、本通知第
11 条に従う。
16
人民法院は、被執行者の出資持分その他投資権益を強制譲渡し、時価換算
等の手続を完了した後、譲受人、被執行者又はその出資持分その他投資権
益が所在する市場主体に対して譲渡裁定書を送達しなければならず、工商
行政管理機関に対し、開示協力及び有限責任会社の株主変更登記を要請し
なければならない。
人民法院が有限責任会社の株主変更登記を要請する場合、執行人員は、職
員証又は公務執行証を提示し、効力を生じている法律文書の副本又は執行
裁定書、執行協力通知書、執行情報開示協力請求書、譲受人の適法な身分
証明又は資格証明を送達し、被執行者の出資持分が所在する有限責任会社
の登記している工商行政管理機関に赴いて処理しなければならない。
法律、行政法規に株主の資格、持分比率等について特別な規定がある場
合、人民法院は、工商行政管理機関に対し、有限責任会社の株主変更登記
を処理する前に審査を行い、当該会社の株主変更が会社法第 24 条、第 58
条の規定に適合していることを確認するよう要求する。
工商行政管理機関は、人民法院の上記文書を受領後、3 業務日以内に業務
システムにおいて直接処理するものとし、当該有限責任会社からの別途の
申請は必要なく、また、速やかに株主変更登記情報を開示しなければなら
ない。開示後、当該株主の権利は、開示情報により確定される。
17
人民法院は、関連資料の照会、抄録、複製を行うことができるが、原本を
持ち出してはならない。
工商行政管理機関は、人民法院が複製した書面資料を確認し、これに押印
しなければならない。人民法院が電子版の提供を要請した場合において、
工商行政管理機関に条件が備わっているときは、これを提供しなければな
らない。
工商行政管理機関が協力することができない事項について、人民法院から
書面による説明を発行するよう要請された場合は、工商行政管理機関は、
これを発行しなければならない。
18
工商行政管理機関は、人民法院の要請に応じて行った執行協力により生じ
た結果について、責任を負わない。
当事者、第三者が工商行政管理機関の執行協力行為に不服があり、異議又
- 122 -
は行政不服審査を申し立てた場合、工商行政管理機関は、これを受理しな
い。人民法院に提訴した場合、人民法院は、これを受理しない。
当事者、第三者は人民法院の執行協力要請に錯誤があるとみなす場合、民
事訴訟法第 225 条の規定に従い、人民法院に執行異議を申し立てなければ
ならず、人民法院はこれを受理しなければならない。
当事者が、工商行政管理機関が執行協力にあたって範囲を拡大した、又は
違法な措置を講じて損害をもたらしたとみなし、行政訴訟を申し立てた場
合、人民法院は、これを受理しなければならない。
19
人民法院の出資持分その他投資収益の凍結に係る通知が 2014 年 2 月 28 日
までに工商行政管理機関に送達され、凍結満了日が 2014 年 3 月 1 日以降の
場合、工商行政管理機関は、2014 年 11 月 30 日までに、凍結情報を開示し
なければならない。開示後、凍結を継続する場合は、本通知第 11 条に従い
手続を行う。
凍結満了日が 2014 年 3 月 1 日以降 2014 年 11 月 30 日以前であって、人民
法院が凍結継続通知書を送達した場合、凍結の継続は有効とする。工商行
政管理機関は、2014 年 11 月 30 日までに、凍結継続の情報を開示しなけれ
ばならない。
人民法院が出資持分その他投資権益の凍結について期間を設定していない
場合、工商行政管理機関は、2014 年 11 月 30 日までに、凍結情報を開示し
なければならない。開示の日から 2 年が経過し、人民法院が凍結を継続し
ない場合は、凍結の効力は消滅する。
各高級人民法院及び各省級工商行政管理局は、本通知に基づき、当該地の
实情を踏まえ、实施弁法を制定し、实施することができる。本通知の執行
状況及び業務中に遭遇した問題については、最高人民法院、国家工商行政
管理総局に速やかに報告されたい。
付属文書:主な文書の参考様式
最高人民法院
国家工商総局
2014 年 10 月 10 日

中国語
最高人民法院、国家工商总局关于加强信息合作规范执行与协助执行的通知
(法〔2014〕251 号)
- 123 -
各省、自治区、直辖市高级人民法院,解放军军事法院,新疆维吾尔自治区高级
人民法院生产建设兵团分院;各省、自治区、直辖市工商行政管理局:
按照中央改革工商登记制度的决策部署,根据全国人大常委会、国务院对注
册资本登记制度改革涉及的法律、行政法规的修改决定,以及国务院印发的《注
册资本登记制度改革方案》《企业信息公示暂行条例》,最高人民法院、国家工
商行政管理总局就加强信息合作、规范人民法院执行与工商行政管理机关协助执
行等事项通知如下:
一、 进一步加强信息合作
1.
各级人民法院与工商行政管理机关通过网络专线、电子政务平台等媒介,将
双方业务信息系统对接,建立网络执行查控系统,实现网络化执行与协助执
行。
2.
人民法院与工商行政管理机关要积极创造条件,逐步实现人民法院通过企业
信用信息公示系统自行公示相关信息。
3.
已建立网络执行查控系统的地区,可以通过该系统办理协助事项。
有关网络执行查控系统要求、电子文书要求、法律效力等规定,按照《最高
人民法院关于网络查询、冻结被执行人存款的规定》(法释〔2013〕20 号)执
行。通过网络冻结、强制转让股权、其他投资权益(原按照法释〔2013〕20
号第九、十条等规定执行)的程序,按照本通知要求执行,但协助请求、结果
反馈的方式由现场转变为通过网络操作。
4.
未建成网络执行查控系统的地区,工商行政管理机关有条件的,可以设立专
门的司法协助窗口或者指定专门的机构或者人员办理协助执行事务。
5.
各级人民法院与工商行政管理机关通过网络专线、电子政务平台等媒介,建
立被执行人、失信被执行人名单、刑事犯罪人员等信息交换机制。工商行政
管理机关将其作为加强市场信用监管的信息来源。
二、 进一步规范人民法院执行与工商行政管理机关协助执行
6.
人民法院办理案件需要工商行政管理机关协助执行的,工商行政管理机关应
当按照人民法院的生效法律文书和协助执行通知书办理协助执行事项。
人民法院要求协助执行的事项,应当属于工商行政管理机关的法定职权范
围。
7.
工商行政管理机关协助人民法院办理以下事项:
(1) 查询有关主体的设立、变更、注销登记,对外投资,以及受处罚等情况
及原始资料(企业信用信息公示系统已经公示的信息除外);
(2) 对冻结、解除冻结被执行人股权、其他投资权益进行公示;
(3) 因人民法院强制转让被执行人股权,办理有限责任公司股东变更登记;
(4) 法律、行政法规规定的其他事项。
8.
工商行政管理机关在企业信用信息公示系统中设置“司法协助”栏目,公开
- 124 -
登载人民法院要求协助执行的事项。
人民法院要求工商行政管理机关协助公示时,应当制作协助公示执行信息需
求书,随协助执行通知书等法律文书一并送达工商行政管理机关。工商行政
管理机关按照协助公示执行信息需求书,发布公示信息。
公示信息应当记载执行法院,执行裁定书及执行通知书文号,被执行人姓名
(名称),被冻结或转让的股权、其他投资权益所在市场主体的姓名(名称),
股权、其他投资权益数额,受让人,协助执行的时间等内容。
9.
人民法院对股权、其他投资权益进行冻结或者实体处分前,应当查询权属。
人民法院应先通过企业信用信息公示系统查询有关信息。需要进一步获取有
关信息的,可以要求工商行政管理机关予以协助。
执行人员到工商行政管理机关查询时,应当出示工作证或者执行公务证,并
出具协助查询通知书。协助查询通知书应当载明被查询主体的姓名(名称)、
查询内容,并记载执行依据、人民法院经办人员的姓名和电话等内容。
10. 人民法院对从工商行政管理机关业务系统、企业信用信息公示系统以及公司
章程中查明属于被执行人名下的股权、其他投资权益,可以冻结。
11. 人民法院冻结股权、其他投资权益时,应当向被执行人及其股权、其他投资
权益所在市场主体送达冻结裁定,并要求工商行政管理机关协助公示。
人民法院要求协助公示冻结股权、其他投资权益时,执行人员应当出示工作
证或者执行公务证,向被冻结股权、其他投资权益所在市场主体登记的工商
行政管理机关送达执行裁定书、协助公示通知书和协助公示执行信息需求
书。
协助公示通知书应当载明被执行人姓名(名称),执行依据,被冻结的股权、
其他投资权益所在市场主体的姓名(名称),股权、其他投资权益数额,冻结
期限,人民法院经办人员的姓名和电话等内容。
工商行政管理机关应当在收到通知后三个工作日内通过企业信用信息公示系
统公示。
12. 股权、其他投资权益被冻结的,未经人民法院许可,不得转让,不得设定质
押或者其他权利负担。
有限责任公司股东的股权被冻结期间,工商行政管理机关不予办理该股东的
变更登记、该股东向公司其他股东转让股权被冻结部分的公司章程备案,以
及被冻结部分股权的出质登记。
13. 工商行政管理机关在多家法院要求冻结同一股权、其他投资权益的情况下,
应当将所有冻结要求全部公示。
首先送达协助公示通知书的执行法院的冻结为生效冻结。送达在后的冻结为
轮候冻结。有效的冻结解除的,轮候的冻结中,送达在先的自动生效。
14. 冻结股权、其他投资权益的期限不得超过两年。申请人申请续行冻结的,人
民法院应当在本次冻结期限届满三日前按照本通知第 11 条办理。续冻期限不
- 125 -
得超过一年。续行冻结没有次数限制。
有效的冻结期满,人民法院未办理续行冻结的,冻结的效力消灭。按照前款
办理了续行冻结的,冻结效力延续,优先于轮候冻结。
15. 人民法院对被执行人股权、其他投资权益等解除冻结的,应当通知当事人,
同时通知工商行政管理机关公示。
人民法院通知和工商行政管理机关公示的程序,按照本通知第 11 条办理。
16. 人民法院强制转让被执行人的股权、其他投资权益,完成变价等程序后,应
当向受让人、被执行人或者其股权、其他投资权益所在市场主体送达转让裁
定,要求工商行政管理机关协助公示并办理有限责任公司股东变更登记。
人民法院要求办理有限责任公司股东变更登记的,执行人员应当出示工作证
或者执行公务证,送达生效法律文书副本或者执行裁定书、协助执行通知
书、协助公示执行信息需求书、合法受让人的身份或资格证明,到被执行人
股权所在有限责任公司登记的工商行政管理机关办理。
法律、行政法规对股东资格、持股比例等有特殊规定的,人民法院要求工商
行政管理机关办理有限责任公司股东变更登记前,应当进行审查,并确认该
公司股东变更符合公司法第二十四条、第五十八条的规定。
工商行政管理机关收到人民法院上述文书后,应当在三个工作日内直接在业
务系统中办理,不需要该有限责任公司另行申请,并及时公示股东变更登记
信息。公示后,该股东权利以公示信息确定。
17. 人民法院可以对有关材料查询、摘抄、复制,但不得带走原件。
工商行政管理机关对人民法院复制的书面材料应当核对并加盖印章。人民法
院要求提供电子版,工商行政管理机关有条件的,应当提供。
对于工商行政管理机关无法协助的事项,人民法院要求出具书面说明的,工
商行政管理机关应当出具。
18. 工商行政管理机关对按人民法院要求协助执行产生的后果,不承担责任。
当事人、案外人对工商行政管理机关协助执行的行为不服,提出异议或者行
政复议的,工商行政管理机关不予受理;向人民法院起诉的,人民法院不予
受理。
当事人、案外人认为人民法院协助执行要求存在错误的,应当按照民事诉讼
法第二百二十五条之规定,向人民法院提出执行异议,人民法院应当受理。
当事人认为工商行政管理机关在协助执行时扩大了范围或者违法采取措施造
成其损害,提起行政诉讼的,人民法院应当受理。
19. 人民法院冻结股权、其他投资权益的通知在 2014 年 2 月 28 日之前送达工商
行政管理机关、冻结到期日在 2014 年 3 月 1 日以后的,工商行政管理机关应
当在 2014 年 11 月 30 日前将冻结信息公示。公示后续行冻结的,按照本通知
第 11 条办理。
冻结到期日在 2014 年 3 月 1 日以后、2014 年 11 月 30 日前,人民法院送达
- 126 -
了续行冻结通知书的,续行冻结有效。工商行政管理机关还应当在 2014 年
11 月 30 日前公示续行冻结信息。
人民法院对股权、其他投资权益的冻结未设定期限的,工商行政管理机关应
当在 2014 年 11 月 30 日前将冻结信息公示。从公示之日起满两年,人民法院
未续行冻结的,冻结的效力消灭。
各高级人民法院与各省级工商行政管理局可以根据本通知,结合本地实际,
制定贯彻实施办法。对执行本通知的情况和工作中遇到的问题,要及时报告
最高人民法院、国家工商行政管理总局。
附件:主要文书参考样式
最高人民法院
国家工商总局
2014 年 10 月 10 日
6. 最高人民法院による商標法改正決定施行後の商標事件の管轄及
び法律適用の問題に関する解釈
http://www.chinacourt.org/law/detail/2014/03/id/147702.shtml
(1) 概要
上記司法解釈は、2014 年 5 月 1 日からの改正商標法の施行に伴い、今後裁判实務上
生じうる商標事件の管轄問題及び新旧の商標法の適用問題についての司法解釈であ
る。同司法解釈も改正商標法と同様に 2014 年 5 月 1 日から施行された。
(2) 解説
同司法解釈の背景に、2014 年 5 月 1 日からの改正商標法の施行がある。商標法の第
2 次改正のときに制定された「2002 年の商標事件の管轄問題及び法律適用解釈」は既に
施行から 11 年が経過し、その一部の内容が人民法院の審理方法及び新商標法と適合
しないことから調整が必要である。そこで、人民法院の審理方法、新商標法の内容と
旧商標法の内容の調整、法律適用の問題等を明確にするために、同司法解釈を制定し
たものである。
同司法解釈には、商標法施行(2014 年 5 月 1 日)以降の商標事件の管轄問題及び商標
法の適用問題に関して、詳細に規定されている。今後商標事件に関する訴訟を提起す
る場合、又は提起される場合に、同司法解釈を利用して訴訟の管轄、適用法令を明確
にする必要がある。訴訟の管轄、適用法令は下図のとおりである。

訴訟管轄(同司法解釈第 2 条及び第 3 条)
事件
・商標評審委員会が下した再審査決定又は裁
定に対する不服申立にかかる行政事件
- 127 -
管轄
北京市の関連の中級人民法院
(同司法解釈第 2 条)
・商標局による商標に関する具体的行政行為
に対する不服申立にかかる事件

・第一審の商標民事事件
中級以上の人民法院及び最高人民法院が指定
する基層人民法院
(同司法解釈第 3 条)
・著名商標保護に関わる民事事件、行政事件
省、自治区の人民政府所在地の市、計画卖列
市、直轄市の管轄区にある中級人民法院及び
最高人民法院が指定するその他の中級人民法
院
(同司法解釈第 3 条)
適用法令(同司法解釈第 5 条、第 6 条、第 7 条及び第 9 条)
事件
商標法改正施行前になされた商標の登録出願
及び更新登録申請について、商標局が施行後
に当該商標の登録出願又は更新登録に対して
不受理又は不更新の決定を下し、当事者がそ
れに対して行政訴訟を提起した場合
適用法令
審査:改正後の商標法
(同司法解釈第 5 条)
商標法改正施行前になされた商標をめぐる異
議申立について、商標局が施行後に当該異議
申立に対して不受理の決定を下し、当事者が
それに対して行政訴訟を提起した場合
審査:改正前の商標法
(同司法解釈第 5 条)
商標法改正施行前に、当事者が、登録が許可
されていない商標について再審査を請求し、
商標評審委員会が施行後に再審査決定又は裁
定を下し、当事者がそれに対して行政訴訟を
提起した場合
審査:改正後の商標法
(同司法解釈第 6 条)
商標評審委員会が施行後に登録不許可の決定
を下し、当事者がそれに対して行政訴訟を提
起した場合
関係する訴権と主体資格の問題の審理:改正
前の商標法
(同司法解釈第 6 条)
商標法改正施行前に登録が許可された商標に
ついて、商標評審委員会が施行前に受理し、
施行後に再審査決定又は裁定を下し、当事者
がそれに対して行政訴訟を提起した場合
関係する手続問題の審理:改正後の商標法
实体問題の審理:改正前の商標法
(同司法解釈第 7 条)
本解釈に別途定めがある場合を除いて、商標
法改正施行後に人民法院が受理した商標民事
事件が、施行前に発生した行為に関わる場合
改正前の商標法
(同司法解釈第 9 条)
本解釈に別途定めがある場合を除いて、施行
前に発生し、施行後も継続している行為に関
わる場合
改正後の商標法
(同司法解釈第 9 条)
- 128 -
(3) 司法解釈

日本語訳
最高人民法院
「商標法改正決定施行後の商標事件の管轄及び
法律適用の問題に関する解釈」
(2014 年 2 月 10 日最高人民法院審判委員会第 1606 回会議にて可決)
法釈〔2014〕4 号
中華人民共和国最高人民法院公告
「商標法改正決定施行後の商標事件の管轄及び法律適用の問題に関する最高人
民法院の解釈」は、2014 年 2 月 10 日に最高人民法院審判委員会第 1606 回会議に
て可決された。ここに公布し、2014 年 5 月 1 日から施行する。
最高人民法院
2014 年 3 月 25 日
商標をめぐる事件を正しく審理するため、2013 年 8 月 30 日の第 12 期全国人
民代表大会常務委員会第 4 回会議「『中華人民共和国商標法』の改正に関する決
定」及びこれに基づき新たに公布された「中華人民共和国商標法」並びに「中華人
民共和国民事訴訟法」、「中華人民共和国行政訴訟法」などの法律の規定に基づ
き、人民法院による商標事件の審理にかかる管轄、法律適用などの問題につい
て、本解釈を制定する。
第一条
人民法院は、次の各号に掲げる商標事件を受理する。
1. 国務院工商行政管理部門商標評審委員会(以下、商標評審委員会という)が
下した再審査決定又は裁定に対する不服申立にかかる行政事件
2. 工商行政管理部門による商標に関わるその他の具体的行政行為に対する不
服申立にかかる事件
3. 商標権の帰属をめぐる紛争事件
4. 商標専用権の侵害をめぐる紛争事件
5. 商標専用権の非侵害の確認をめぐる紛争事件
6. 商標権譲渡契約をめぐる紛争事件
7. 商標使用許諾契約をめぐる紛争事件
8. 商標代理契約をめぐる紛争事件
9. 訴訟前の商標専用権侵害停止の請求をめぐる事件
- 129 -
10. 商標専用権侵害停止の請求に起因する侵害責任をめぐる事件
11. 商標の紛争に起因する訴訟前財産保全の請求をめぐる事件
12. 商標の紛争に起因する訴訟前証拠保全の請求をめぐる事件
13. その他の商標事件
第二条
商標評審委員会が下した再審査決定又は裁定に対する不服申立にかか
る行政事件及び国家工商行政管理総局商標局(以下、商標局という)による商標
に関する具体的行政行為に対する不服申立にかかる事件は、北京市の関連の中
級人民法院が管轄する。
第三条
第一審の商標民事事件は、中級以上の人民法院及び最高人民法院が指
定する基層人民法院が管轄する。
著名商標保護に関わる民事事件、行政事件は、省、自治区の人民政府所在地
の市、計画卖列市、直轄市の管轄区にある中級人民法院及び最高人民法院が指
定するその他の中級人民法院が管轄する。
第四条
工商行政管理部門が商標権の侵害行為を取り締まる中で、当事者が関
係する商標について商標権の帰属又は商標専用権の侵害をめぐる民事訴訟を提
起した場合、人民法院は、これを受理しなければならない。
第五条
商標法の改正に関する決定の施行前になされた商標の登録出願及び更
新登録申請について、商標局が決定の施行後に当該商標の登録出願又は更新登
録に対して不受理又は不更新の決定を下し、当事者がそれに対して行政訴訟を
提起した場合、人民法院は、その審査において改正後の商標法を適用する。
商標法の改正に関する決定の施行前になされた商標をめぐる異議申立につい
て、商標局が決定の施行後に当該異議申立に対して不受理の決定を下し、当事
者がそれに対して行政訴訟を提起した場合、人民法院は、その審査において改
正前の商標法を適用する。
第六条
商標法の改正に関する決定の施行前に、当事者が、登録が許可されて
いない商標について再審査を請求し、商標評審委員会が決定の施行後に再審査
決定又は裁定を下し、当事者がそれに対して行政訴訟を提起した場合、人民法
院は、その審査において改正後の商標法を適用する。
商標法の改正に関する決定の施行前に受理された商標の再審査請求につい
て、商標評審委員会が決定の施行後に登録許可の決定を下し、当事者がそれに
対して行政訴訟を提起した場合、人民法院は、これを受理しない。商標評審委
員会が決定の施行後に登録不許可の決定を下し、当事者がそれに対して行政訴
- 130 -
訟を提起した場合、人民法院は、関係する訴権と主体資格の問題の審理におい
て改正前の商標法を適用する。
第七条
商標法の改正に関する決定の施行前に登録が許可された商標につい
て、商標評審委員会が決定の施行前に受理し、決定の施行後に再審査決定又は
裁定を下し、当事者がそれに対して行政訴訟を提起した場合、人民法院は、関
係する手続問題の審理においては改正後の商標法を適用し、实体問題の審理に
おいては改正前の商標法を適用する。
第八条
商標法の改正に関する決定の施行前に受理した関係する商標事件につ
いて、商標局、商標評審委員会が決定の施行後に決定又は裁定を下し、当事者
がそれに対して行政訴訟を提起した場合において、人民法院は、当該決定又は
裁定が商標法の審査期限に関する規定に適合するかどうかを認定するとき、改
正決定の施行日から当該審査期限を計算しなければならない。
第九条
本解釈に別途定めがある場合を除いて、商標法の改正に関する決定の
施行後に人民法院が受理した商標民事事件が、当該決定の施行前に発生した行
為に関わる場合、改正前の商標法の規定を適用する。当該決定の施行前に発生
し、当該決定の施行後も継続している行為に関わる場合、改正後の商標法の規
定を適用する。

中国語
最高人民法院关于商标法修改决定施行后商标案件管辖和法律适用问题的解释
(2014 年 2 月 10 日最高人民法院审判委员会第 1606 次会议通过)
法释〔2014〕4 号
中华人民共和国最高人民法院公告
《最高人民法院关于商标法修改决定施行后商标案件管辖和法律适用问题的解
释》已于 2014 年 2 月 10 日由最高人民法院审判委员会第 1606 次会议通过,现予
公布,自 2014 年 5 月 1 日起施行。
最高人民法院
2014 年 3 月 25 日
为正确审理商标案件,根据 2013 年 8 月 30 日第十二届全国人民代表大会常务
委员会第四次会议《关于修改〈中华人民共和国商标法〉的决定》和重新公布的
- 131 -
《中华人民共和国商标法》《中华人民共和国民事诉讼法》和《中华人民共和国
行政诉讼法》等法律的规定,就人民法院审理商标案件有关管辖和法律适用等问
题,制定本解释。
第一条
1.
人民法院受理以下商标案件:
不服国务院工商行政管理部门商标评审委员会(以下简称商标评审委员会)作
出的复审决定或者裁定的行政案件;
2.
不服工商行政管理部门作出的有关商标的其他具体行政行为的案件;
3.
商标权权属纠纷案件;
4.
侵害商标专用权纠纷案件;
5.
确认不侵害商标专用权纠纷案件;
6.
商标权转让合同纠纷案件;
7.
商标使用许可合同纠纷案件;
8.
商标代理合同纠纷案件;
9.
申请诉前停止侵害商标专用权案件;
10. 因申请停止侵害商标专用权损害责任案件;
11. 因商标纠纷申请诉前财产保全案件;
12. 因商标纠纷申请诉前证据保全案件;
13. 其他商标案件。
第二条
不服商标评审委员会作出的复审决定或者裁定的行政案件及国家工商行
政管理总局商标局(以下简称商标局)作出的有关商标的具体行政行为案件,由北
京市有关中级人民法院管辖。
第三条
第一审商标民事案件,由中级以上人民法院及最高人民法院指定的基层
人民法院管辖。
涉及对驰名商标保护的民事、行政案件,由省、自治区人民政府所在地市、计
划单列市、直辖市辖区中级人民法院及最高人民法院指定的其他中级人民法院管
辖。
第四条
在工商行政管理部门查处侵害商标权行为过程中,当事人就相关商标提
起商标权权属或者侵害商标专用权民事诉讼的,人民法院应当受理。
第五条
对于在商标法修改决定施行前提出的商标注册及续展申请,商标局于决
定施行后作出对该商标申请不予受理或者不予续展的决定,当事人提起行政诉讼
的,人民法院审查时适用修改后的商标法。
对于在商标法修改决定施行前提出的商标异议申请,商标局于决定施行后作出
- 132 -
对该异议不予受理的决定,当事人提起行政诉讼的,人民法院审查时适用修改前
的商标法。
第六条
对于在商标法修改决定施行前当事人就尚未核准注册的商标申请复审,
商标评审委员会于决定施行后作出复审决定或者裁定,当事人提起行政诉讼的,
人民法院审查时适用修改后的商标法。
对于在商标法修改决定施行前受理的商标复审申请,商标评审委员会于决定施
行后作出核准注册决定,当事人提起行政诉讼的,人民法院不予受理;商标评审
委员会于决定施行后作出不予核准注册决定,当事人提起行政诉讼的,人民法院
审查相关诉权和主体资格问题时,适用修改前的商标法。
第七条
对于在商标法修改决定施行前已经核准注册的商标,商标评审委员会于
决定施行前受理、在决定施行后作出复审决定或者裁定,当事人提起行政诉讼
的,人民法院审查相关程序问题适用修改后的商标法,审查实体问题适用修改前
的商标法。
第八条
对于在商标法修改决定施行前受理的相关商标案件,商标局、商标评审
委员会于决定施行后作出决定或者裁定,当事人提起行政诉讼的,人民法院认定
该决定或者裁定是否符合商标法有关审查时限规定时,应当从修改决定施行之日
起计算该审查时限。
第九条
除本解释另行规定外,商标法修改决定施行后人民法院受理的商标民事
案件,涉及该决定施行前发生的行为的,适用修改前商标法的规定;涉及该决定施
行前发生,持续到该决定施行后的行为的,适用修改后商标法的规定。
- 133 -
Ⅳ その他
(附録)知財紛争に係る現行の法律、行政法規、部門規則及び司法解釈(2014 年 3 月か
らのもの)
法令
特許代理機構審査認可の過程及び事後
に対する監督管理業務の更なる強化に
関する通知
制定機関
制定・執行年
国家知識産権局
2014 年 12 月制定
新商標法实施条例の施行前に商標登録
出願を受理し、かつなおも補正が必要
な案件の処理方法に関する通知
国家工商行政管理総局
2014 年 12 月制定
行政訴訟法
全国人民代表大会
1989 年制定、
2014 年 11 月改正
税関企業信用管理暫定弁法
税関総署
2014 年 10 月制定
北京、上海、広州知的財産権法院事件
管轄に関する規定
最高人民法院
2014 年 10 月制定
知的財産権法院裁判官選任作業指導意
見(試行)
最高人民法院
2014 年 10 月制定
商標登録出願の新商標法实施条例施行
後の受理審査プロセス調整についての
説明
国家工商行政管理総局
2014 年 9 月制定
馳名商標の認定及び保護規定(2014 改
正)
国家工商行政管理総局
2014 年 7 月制定
国家知的財産権戦略を更に实施し、知
的財産権管理を強化及び改善すること
に関する若干意見
国家知識産権局、教育
部、科学技術部
2014 年 7 月制定
小規模・零細企業の発展に向けた知的
財産権支援に関する若干意見
国家知的財産権局
2014 年 7 月制定
公平な競争の促進及び市場正常な秩序
の保護に関する若干意見
国務院
2014 年 6 月制定
「工商管理機構による市場の支配的地位
の濫用行為の禁止についての規定」の意
見募集稿
国家工商行政管理総局
2014 年 6 月制定
商標評審規則
国家工商行政管理総局
1995 年制定、
2005 年改正、
2014 年 5 月改正
商標法改正決定施行後の商標事件の管
轄及び法律適用問題に関する解釈
最高人民法院
2014 年 5 月制定
特許行政法執行案件の関連情報の具体
的な事項の公開に関する通知
国家知識産権局
2014 年 4 月制定
植物新品種保護条例实施細則(農業部
農業部
1999 年制定、
- 134 -
分)
2007 年改正、
2014 年 4 月改正
商標法实施条例
国務院
2002 年制定、
2014 年 4 月改正
改正後の「商標法」の執行に関連する問
題についての通知
国家工商行政管理総局
2014 年 4 月制定
「新聞出版(著作権)行政執行部門による
模造务悪商品の製造販売及び知的財産
権侵害に係る行政処分事件情報の法に
よる公開に関する实施細則(試行)」の公
布に関する通知
国家新聞出版広電総局
2014 年 4 月制定
国外著作権者により授権されたオンラ
インゲーム作品及びコンピュータゲー
ム出版物の出版申告資料をさらに規範
化することについての通知
新聞出版総署
2014 年 4 月制定
2013 年中国法院知的財産権 10 大事件、
2013 年中国法院 10 大革新的知的財産権
事件及び 2013 年中国法院 50 件典型知
的財産権判例
最高人民法院
2014 年 4 月制定
国務院
1994 年制定、
2005 年改正、
2014 年改正
会社登記管理条例
- 135 -
Ⅴ 特定テーマに関する研究
1. 知識産権法院の設置
全国人民代表大会常務委員会「知的財産権法院設立に関する決定」(8 月 31 日)
(1) 各知識産権法院の概況33
北京
上海
広東
設立期日
2014 年 11 月 6 日
2014 年 12 月 28 日
2014 年 12 月 16 日
裁判官数
定員:30 人
定員:10 人
定員:10 人
技術審査管数
関連司法起草中
管轄地域
北京市
管轄事件
上海市
広東省(一部の事件)
詳細は下図をご参照ください。
(2) 北京、上海、広東の知識産権法院の審級
北京、上海、広東の知識産権法院、及びその上下級人民法院は、第一審の知的財産
案件の受理の裁判管轄に関して、下図のように役割分担されている。
北京
上海
北京市高級人民法院
(知識産権裁判廷)
2 億以上知的財産権民事訴訟、
1 億以上渉外知的財産権民事訴訟
等
上海市高級人民法院
(知識産権裁判廷)
2 億以上知的財産権民事訴訟、
1 億以上渉外知的財産権民事訴訟
等
上訴
上訴
北京知識産権法院
①技術にかかわる民事、行政訴訟
②非技術にかかわる行政訴訟(国務
院各部及び県級以上の地方人民政
府への提訴)
③馳名商標にかかわる民事訴訟
④他の 500 万以上の知財訴訟等
上海知識産権法院
①技術にかかわる民事訴訟、行政
訴訟
②非技術にかかわる行政訴訟(県級
以上の地方人民政府への提訴)
③馳名商標にかかわる民事訴訟
④他の 1,000 万以上の知財訴訟等
上訴
上訴
北京市基層人民法院
①非技術にかかわる 500 万元以下
の民事事件
②非技術事件に関する行政訴訟(県
級地方人民政府への提訴)
33
上海市基層人民法院
①非技術にかかわる 500 万元以下
の民事訴訟
②非技術事件に関する行政訴訟(県
級地方人民政府への提訴)
2015 年 2 月 27 日時点
- 136 -
広州
広東省高級人民法院(知識産権裁判廷)
2 億以上知的財産権民事訴訟、1 億以上渉外知的財産権民事訴訟等
上訴
上訴
広州知識産権法院
①広東省内の技術にかかわる民
事、行政訴訟
②非技術事件にかかわる行政訴訟
(県級以上の地方人民政府への提
訴)
③広東省内の馳名商標に関する民
事訴訟
④他の 200 万以上の知財訴訟等
広東省内他の中級人民法院
(広州市以外の中級人民法院)
①非技術にかかわる 200 万以上、2
億以下の行政訴訟(県級以上の地方
人民政府への提訴)
②他の 200 万以上の知財訴訟等
上訴
上訴
広州市基層人民法院
①非技術にかかわる 200 万元以下
の民事訴訟
②非技術事件に関する行政訴訟(県
級政府への提訴)
広東省内他の基層人民法院
①非技術にかかわる 200 万元以下
の民事訴訟
②非技術事件に関する行政訴訟(県
級政府への提訴)
・技術事件とは専利、植物新種品、集積回路配置設計図、秘術秘密、コンピューターソフトウェアを指す。
・非技術事件とは技術事件以外の知的財産権事件を指す。
・上訴とは中国の二審終審制のため、下級人民法院の裁判事件の上訴先を示すのみである。
(3) 知識産権法院設立前後の変化
2013 年、北京市、上海市、広東省人民法院の取り扱った知的財産事件数は下記のと
おりである。
北京市
上海市
特許
300 件
334 件
商標
1,079 件
1,172 件
著作権
7,698 件
2,740 件
技術契約
159 件
不当競争
138 件
その他
310 件
2,736 件
- 137 -
広東省
24,843 件
知識産権法院設立後一ヶ月の知的財産事件数はそれぞれ下記のとおりである。
北京市
上海市
広東省
事件数
221 件
―
539 件
上記の裁判官数に比較すると、広東省の事件数は他よりも多いため、広州知識産権
法院の裁判官数は足りておらず、今後、広州知識産権法院の規模を大きくする必要が
あると思われる。
- 138 -
【和訳】
北京、上海、広州における知識産権法院設立に関する
全国人民代表大会常務委員会の決定
(2014 年 8 月 31 日第 12 期全国人民代表大会常務委員会第 10 回会議にて可決)
国のイノベーション主導型発展戦略を推進し、知的財産権の司法保護を更に強化し、法
により権利者の合法的権益を適切に保護し、社会公共の利益を擁護するため、「憲法」及び
「人民法院組織法」に基づき、以下のとおり決定する。
一.北京、上海、広州に知識産権法院を設立する。
知識産権法院審判廷の設置については、最高人民法院が知的財産権事件の種類及び件数
により確定する。
二.知識産権法院は、特許、植物新品種、集積回路配置設計、ノウハウ等に関する専門性
及び技術性が高い知的財産権関係の第一審民事及び行政事件を管轄する。
国務院行政部門の裁定又は決定に不服として提起された知的財産権の権利付与・権利確
認に係る第一審行政事件は、北京知識産権法院が管轄する。
知識産権法院は、第二条第一項に規定する事件について、区域を跨いだ管轄を实施す
る。知識産権法院の設立から 3 年間は、まず所在する省(直轄市)において区域を跨いだ管
轄を实施することができる。
三.知識産権法院所在市の基層人民法院による著作権、商標等の知的財産権関係の第一審
民事及び行政事件の判決及び裁定についての上訴事件は、知識産権法院が審理する。
四.知識産権法院の第一審判決及び裁定についての上訴事件は、知識産権法院所在地の高
級人民法院が審理する。
五.知識産権法院の裁判業務は、最高人民法院及び所在地の高級人民法院の監督を受け
る。知識産権法院は、法により人民検察院の法的監督を受ける。
六.知識産権法院院長の任免は、所在地の市人民代表大会常務委員会主任会議が当該人民
代表大会常務委員会に提起して行う。
知識産権法院の副院長、廷長、裁判官及び裁判委員会委員の任免は、知識産権法院院長が
所在地の市人民代表大会常務委員会に提起して行う。
知識産権法院は、所在地の市人民代表大会常務委員会に対して責任を負い、業務報告を
行う。
七.本決定の施行から 3 年経過後、最高人民法院は、全国人民代表大会常務委員会に本決
定の实施状況を報告しなければならない。
八.本決定は、公布日から施行する。
 出所:2014 年 8 月 31 日付け中国政府公式サイトホームページ
http://www.gov.cn/xinwen/2014-08/31/content_2742979.htm
- 139 -
【中文】
全国人民代表大会常务委员会关于在北京、上海、广州设立知识产权法院的决定
(2014 年 8 月 31 日第十二届全国人民代表大会常务委员会第十次会议通过)
为推动实施国家创新驱动发展战略,进一步加强知识产权司法保护,切实依法保护权利
人合法权益,维护社会公共利益,根据宪法和人民法院组织法,特作如下决定:
一、在北京、上海、广州设立知识产权法院。
知识产权法院审判庭的设置,由最高人民法院根据知识产权案件的类型和数量确定。
二、知识产权法院管辖有关专利、植物新品种、集成电路布图设计、技术秘密等专业技
术性较强的第一审知识产权民事和行政案件。
不服国务院行政部门裁定或者决定而提起的第一审知识产权授权确权行政案件,由北京
知识产权法院管辖。
知识产权法院对第一款规定的案件实行跨区域管辖。在知识产权法院设立的三年内,可
以先在所在省(直辖市)实行跨区域管辖。
三、知识产权法院所在市的基层人民法院第一审著作权、商标等知识产权民事和行政判
决、裁定的上诉案件,由知识产权法院审理。
四、知识产权法院第一审判决、裁定的上诉案件,由知识产权法院所在地的高级人民法
院审理。
五、知识产权法院审判工作受最高人民法院和所在地的高级人民法院监督。知识产权法
院依法接受人民检察院法律监督。
六、知识产权法院院长由所在地的市人民代表大会常务委员会主任会议提请本级人民代
表大会常务委员会任免。
知识产权法院副院长、庭长、审判员和审判委员会委员,由知识产权法院院长提请所在
地的市人民代表大会常务委员会任免。
知识产权法院对所在地的市人民代表大会常务委员会负责并报告工作。
七、本决定施行满三年,最高人民法院应当向全国人民代表大会常务委员会报告本决定
的实施情况。
八、本决定自公布之日起施行。

出所:中国人大网
http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/2014-09/01/content_1877042.htm
- 140 -
2. 人民検察院に関する動向
(1) 案件情報公開ネット開設の背景
現在、中国が推進する法治国家政策の一環として、司法及び検察機関の独立公正が
重視されている。かかる流れの中で、公衆の検察機関に対する知る権利、監督権を保
証して、検察手続の透明性を高め、公正性への信頼を確保することを目的に、2014 年
6 月 20 日、最高人民検察法院は、インターネット、電話、メール、サービス窓口等を
通じた、検察機関が扱う案件の手続進行状況、重要な案件情報や司法文書の公開に係
る手続等をまとめた《人民検察院の案件情報公開活動に関する規定(試行)》(以下「公
開規定」という)を公布した。そして、公開規定の施行日である同年 10 月 1 日、案件
情報公開ネット(中国語名:案件信息公開網、以下「本ネット」とい
う)(www.ajxxgk.jcy.gov.cn)の正式な運用が開始された。
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(2) 4 つの機能
本ネットは、①案件手続情報の検索、②重要案件情報の閲覧、③公開中の司法文書
の閲覧、④弁護人と代理人によるオンライン予約申請のための 4 つの機能を備えてい
る。具体的には以下のとおりである。
①
案件手続情報の検索
案件関係者は、通知や告知、送達といった手段を経ずに、当該案件の進行に必
要な手続、現在の進捗状況等を随時確認することが可能。
ⅰ
利用対象者:案件の当事者並びにその法定代理人、近親者、弁護人及び訴訟
代理人に限られる
ⅱ
検索可能な情報の範囲:案件に関わる罪名(立件の事由)、受理日時、案件処
理期限、案件担当部門、処理の進捗状況、処理の結果、強制措置等の手続
ⅲ
検索可能な案件:「汚職案件(反貪)」、「職権濫用案件(反瀆)」、「公安機関に
よる捜査活動を監督中の案件(偵監)」、「検察院による公訴案件(公訴)」、「刑
事訴訟法に基づく再審の申立(申訴34)」及び人民検察院と関係のある「民事・
行政案件に係る判決や調停、執行に係る監督案件(民行)」35
②
重要案件情報の閲覧
社会が関心を寄せる重大な案件について、誰でも各種メディアを通すことなく
直接その進捗状況を確認することが可能。
ⅰ
利用対象者:制限なし
ⅱ
閲覧可能な情報:本機能で閲覧可能な「重要案件」とは、以下のとおり(公開
規定第 11 条)
a.
社会的影響が比較的大きな職務犯罪案件の立案捜査、逮捕決定、公訴の提起
等の状況
b.
社会に広く注目されている刑事案件の逮捕決定、公訴の提起等の情報
c.
既に処理が完了した典型的な案件
d.
重大、専門的なプロジェクト業務の進展及び結果情報
e.
その他重要案件の情報
※
但し、本稿執筆現在、閲覧可能な重要案件の情報は、案件の進捗情報のみ
(例えば、「2014 年 9 月 25 日、XX 人民検察院は、収賄罪の嫌疑で被疑者 A に
34
本ウェブサイトの目的からすれば、ここにいう「申訴」とは、刑事訴訟法に基づく狭義の申訴、すなわ
ち、当事者、被害者及びその親族、又はその他案件状況を知っている公民が、人民法院の下した既に
効力が発生した判決又は裁定に誤りがあることを理由に、人民法院又は人民検察院に対して再審を申
し立てる手続を指すものと解される。
35
中国法の関連規定によれば、刑事事件の審理において付属する民事関連の事項(中文:刑事付帯民事案
件)も処理することも可能。人民検察院は、刑事事件が殆どであり、ここにいう「民事・行政案件」は、
一般的な民事案件や行政案件ではなく、刑事事件に付随している民事・行政案件のことを指すもの推
測される。
- 142 -
ついて、YY 人民法院に公訴を提起した」等)となっている点に留意された
い。
③
公開された司法文書の閲覧
一部の司法文書については、それを送達された当事者のみならず、誰でも閲覧
することが可能。
ⅰ 利用対象者:制限なし
ⅱ 公開文書:本機能で閲覧可能な司法文書は以下のとおり(公開規定第 18 条)
a.
人民法院の判決、既に効力の発生した刑事案件の起訴状、控訴状
b.
不起訴決定書
c.
刑事不服申立再調査決定書(中国語:刑事申訴復査決定書)
d.
最高人民検察院が公開すべきと判断したその他の司法文書
※ 但し、公開される司法文書からは、個人情報、未成年者に関する情報、
法人等組織の口座番号、国家秘密・商業秘密・個人のプライバシー関連
情報、文書の表現からこれらが推測できる内容、その他公開すべきでな
い内容は遮蔽措置が施される(公開規定第 20 条)。
※ なお、本稿執筆現在、「最高人民検察院が公開すべきと判断したその他
の司法文書」に関しては、まだ何も情報が掲載されていない。
ⅲ 公開までの流れ:案件担当者が、案件処理後、又は人民法院の効力の発生し
た判決、裁定を受領してから 10 日以内に、対象の司法文書について秘密保
持審査と技術的処理を行った後、部門責任者の審査に報告し、管轄の検察長
又は副検察長の認可を得て、案件管理部門が再確認し、公開される(公開規
定第 21 条第 1 項)。
④
弁護と代理に関するオンライン予約
弁護人及び訴訟代理人は、以下の事務の予約申請がオンラインで可能。
ⅰ
案件資料の閲覧、当事者会見の申請
ⅱ
証拠資料の収集(取調べ)の申請
ⅲ
証拠資料提出の申請
ⅳ
証拠資料の自己収集の申請
ⅴ
意見聴取の申請
ⅵ
強制措置の変更(解除)の申請
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3. 損害賠償額に関する分析
(1) 問題の所在
知的財産権侵害を巡る損害賠償請求事件において、裁判で苦労の末に勝訴判決を得
て、賠償金が支払われたとしても、弁護士費用等の訴訟費用がその賠償金額を上回
り、金銭的にはかえって損をしたという声がたびたび聞かれている。
このように、知的財産権侵害事件で認められた損害賠償金額が往々にして低額にと
どまっていた原因としては、主に以下の 2 つが挙げられる。
① 権利者による自己の損失額又は侵害者の不法利得額の証明が困難であること
中国の知的財産権侵害訴訟においても、日本と同様、「主張する者が立証責任
を負う」という主張・立証責任の分配法則に基づき、損失を受けたことを主張す
る権利者が、自己の損失額又は侵害側の不法利得額を証明しなければならない。
しかしながら、無形資産である知的財産権については、(a)その価値評価体系
がいまだ完備されていない中国において、知的財産権が侵害された場合の損失額
を評価し確定することは極めて困難である(「損失額の評価」の問題)。さらに、
(b)知的財産権の侵害によって侵害者が得た不法利得額を証明できる証拠は、権
利者ではなく、侵害者又は事件とは無関係の第三者の手中にある状況が多い(「証
拠の偏在」の問題)にもかかわらず、後記(3)①のとおり現行法上の既存の証拠開
示制度は实行性に欠けるため、権利者が自力で侵害者の利得を証明することが困
難であった。
②
法定の損害賠償金額の上限が低く設定されていたこと
前記①のように、自己の損失額又は侵害者の不法利得額の証明が困難である場
合について、知的財産権関連法規は、人民法院が認定可能な損害賠償額をかなり
低額に設定している(「法定金額」の問題)。
具体的には、概ね以下のとおりである。
ⅰ
特許権侵害の場合:1 万人民元以上 100 万人民元以下(専利法第 65 条第 2 項)
ⅱ 商標権侵害の場合:50 万人民元以下(旧商標法(2001 年改正)第 56 条第 2
項)36
ⅲ 著作権侵害の場合:50 万人民元以下(著作権法第 49 条第 2 項)
このように、知的財産権侵害を巡る損害賠償請求訴訟は、権利者の損失額又は侵害
者の不法利得額に係る証拠が提出される場面が限られてしまい、その金額の立証が困
難であることに加え(前記①)、かかる場合に人民法院が認定できる法定損害賠償金額
36
なお、後記(4)の商標法(2013 改正)第 63 条第 3 項では、法定賠償金額の上限が 50 万元以下から 300
万元以下に引き上げられた。
- 144 -
の限度額が低額であることから(前記②)、権利者保護が不十分となる問題(以下「賠償
難問題」という)を抱えていた。
(2) 広東省高級人民法院によるパイロット業務の開始
前記の賠償難問題を解決するため、2011 年、広東省高級人民法院徐春建副院長が調
査チームを組織し、全国の知的財産権侵害訴訟事件を分類化し、その問題を整理した
うえで、最高人民法院の司法解釈や知的財産権侵害に係る指導性文書を研究し、調査
報告書を纏めた。
その後 2013 年 3 月に第三回全国法院知的財産権審判工作会議が開かれ、政府から
知的財産権の保護をさらに強める政策が打ち出されたことを受け、広東省高級人民法
院は、前記の調査報告書をベースにし、一部の法院を試行地点37として、「司法証拠制
度の整備によって知的財産権侵害の賠償難問題を解決する」ために、理論的な調査検
討及び司法实践上の運用業務(以下「パイロット業務」という)を試行的に開始し、同年
5 月 17 日に、広州市单沙区においてパイロット業務座談会を開催した。
座談会では、中国現行の民事訴訟法及び最高人民法院の民事訴訟証拠の若干規定等
関連法令を根拠とする①証拠開示制度、②立証妨害制度、③優勢証拠制度、④専門家
補助人制度及び⑤法定賠償制度の 5 つの制度の運用指針について検討が行なわれた。
この検討により、「広東法院『司法証拠制度の改善・完備
知的財産権侵害の損害
賠償難問題の解決』のパイロット業務座談会紀要」(以下「紀要」という)として纏めら
れた各制度の運用指針は、概ね以下のとおりである38。
(3) 紀要の概要
① 証拠開示制度
前記(1)①(b)の証拠の偏在の問題を解決するための制度として、現行法では証
拠開示制度、即ち、「当事者(権利者)及びその訴訟代理人が実観的原因により自
ら証拠を収集することができない場合、又は人民法院が審理事件のために必要な
証拠であると認めた場合には、人民法院は職権で相手方当事者(侵害者)又は訴外
第三者に証拠を開示させ、又はこれに協力するよう命じることができ、これによ
り他方の当事者(侵害者)又は訴外第三者に当該証拠の開示義務を負わせる」制度
が設けられている(民事訴訟法第 64 条第 2 項39、「民事訴訟証拠に関する最高人民
37
試行地点に指定された法院は、広州市、深セン市、汕頭市、佛山市、東莞市及び中山市の 6 つの中級
人民法院、並びに広州市单沙区人民法院、同市天河区人民法院、深セン市宝安区人民法院、同市龍岡
区人民法院、佛山市单海区人民法院、東莞市第一人民法院、中山市第一人民法院及び同市第二人民法
院の 8 つの基層法院である。
38
中華全国弁護士協会 2014 年 7 月 25 日公布(http://www.acpaa.cn/article.asp?id=3375)
39
「当事者及びその訴訟代理人が実観的原因により自ら証拠を収集することができない場合、又は人民法
院が審理事件に必要な証拠であると認めた場合には、人民法院が調査収集すべきものとする。」
- 145 -
法院による若干規定」(以下「証拠規定」という)40第 17 条41)。
このように、制度そのものは法令上既に存在しているものの、これが過去の知
的財産権侵害訴訟においてうまく運用されてこなかったのは、本制度適用のため
の要件や方法等に不明確な点があったためであるように思われる。
そこで紀要では、以下のとおり例示、説明し、その解決を図っている。
ⅰ
証拠開示制度を適用すべき場面
相手方当事者に証拠開示を求める場合には、ある証拠が侵害者及びその訴
訟代理人の支配下にあり、かつそれを申請者(権利者)が公開の情報等を通じ
て自ら取得することが困難である証拠(例えば、侵害者の真实の財務帳簿等)
の開示を求める必要があるときに適用すべきである。他方で、訴外第三者に
証拠開示を求める場合には、これらの組織又は個人が権利侵害の損害賠償額
に関する証拠(例えば、某商品の市場シェアのデータ、業界の利潤率、ロイ
ヤリティや譲渡費の一般的基準・慣例・相場等)を握っているときに適用す
べきである。
ⅱ
証拠開示手続の開始
当事者主義、当事者間の公平の観点から、人民法院が職権で開始するので
はなく、まずは人民法院が当事者に対して証拠開示制度の意義、必要性及び
その法的効果について説明し、当事者からの申請をもって開始すべきであ
る。
ⅲ
商業秘密に関する証拠の提出
商業秘密に関する証拠も、証拠開示制度における開示の範疇に入ることは
明らかであるところ(証拠規定第 17 条)、開示義務者が商業秘密を理由に提
出を拒むという場面が多々見受けられる。しかし、それは誤った解釈であ
り、証拠自体は開示させたうえで、かかる証拠については公開の法廷での開
示は避け、関与者に対して秘密保持義務を負わせるべきである。
ⅳ
開示申請に対する人民法院の審査・判断
人民法院は当事者の証拠開示申請を受けた場合、そもそも権利侵害が成立
しているのか、開示義務者が賠償責任を負う可能性について審査したうえ
で、関連法律法規、商慣習及び日常の経験則に基づき、開示義務者の下に申
請者が開示を求める証拠が存在するか総合的に判断すべきである。
40
41
法釈[2001]33 号
以下に掲げる条件のいずれかに該当した場合には、当事者及びその訴訟代理人は、人民法院に証拠の
調査収集を申請することができる。
(一) 調査収集を申請する証拠が国家の関連部門が保管し、かつ人民法院が職権により取り調べた記
録資料である場合
(二) 国家秘密、商業秘密、個人のプライバシーに関する資料
(三) 当事者及び訴訟代理人が実観的原因により自ら収集することができないその他の資料
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② 立証妨害制度
前記①の証拠開示義務と合わせて、民事訴訟法及び証拠規定は、開示義務者が
かかる義務に違反して当事者の立証を妨害した場合の制裁について規定してい
る。その具体的な帰結について、紀要は以下のとおり説明し、その明確化を図っ
ている。
ⅰ
当事者による立証妨害
証拠開示義務を負う一方の当事者が正当な理由なく保有する証拠の提供を
拒否した場合において、権利者が主張する当該証拠の内容が開示義務を負う
当事者に不利に働く場合には、当該主張が成立するものと推定することがで
きる(民事訴訟法第 75 条)。
これについて紀要は、開示義務者が偽造証拠の提出により積極的に真の証
拠の提出を拒否した場合も含めて、その制裁の対象とすべきとし、当該証拠
が財務資料やパソコンハードディスク内の財務データ、製品在庫等である場
合には、関連の状況(例えば証拠保全時に提出された不完全な財務資料等)も
加味したうえで権利者の主張する損害賠償金額の成立を認めることができる
ものとする。
ⅱ
当事者以外の証拠開示義務者による妨害
訴訟参加人又はその他の者が重要証拠を偽造又は破壊し、人民法院の事件
審理を妨害した場合、人民法院は、情状に応じ、過料、拘留を課し、刑事責
任を追及することができる(証拠規定第 111 条)。
これについて紀要は、上記「その他の者」は、民事訴訟法第 67 条及び第 72
条が「関連組織(卖位)及び個人」、即ち訴訟参加人以外で関連証拠を保有する
組織及び卖位を指すと明示したうえで、本規定を根拠に、当事者以外の証拠
開示義務者による妨害にも制裁が課されることを説明している。
③ 優勢証拠制度
民事訴訟において、事件に現れた全ての証拠に照らして、裁判官が合理的な理
由で証明事实の存在する可能性が存在しない可能性を上回ると判断した場合に
は、100%疑いのない事实とまでは判断できない場合であっても、裁判官は高度
の蓋然性に照らして当該事实を認定することができる(優勢証拠基準、証拠規定
第 73 条)。
この制度に関して、最高人民法院は、2009 年 4 月 21 日に公布、施行した「現
在の経済情勢下での知的財産権審判サービス全体に関する若干問題の意見」42にお
いて、「損害賠償額を確定する場合においては、証拠規則を適用し、全面的かつ
実観的に賠償額を計算するためのデータを審査し、論理的推測や日常生活の経験
42
法発[2009]23 号
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を十分に用いて、関連証拠の真实性、合法性及び証明力を総合的に審査判断し、
優勢証拠の基準をもって損害賠償事实を認定する。損失又は不法利得の具体的な
金額を証明することが難しい場合において、証拠により当該金額が法定の最高賠
償額を超過することが明らかである場合には、全ての証拠に照らして、法定の最
高賠償額以上の合理的な金額に確定することができる」と述べた。
紀要は、上記意見の文言に触れつつ、優勢証拠制度の運用について、以下のと
おり説明している。
ⅰ
法定の最高賠償額を超える(最低賠償額を下回る)金額の認定
前記(1)②の法定金額の問題について、知的財産権侵害訴訟においては、
権利者の損失又は侵害者の不法利得の具体的な金額が証明できていないもの
の、当該金額が明らかに法定賠償額の上限を超えた(又は下限を下回った)こ
とが証拠により証明できた場合には、人民法院は、法定の損害賠償額以上
(又はそれを下回る賠償額)で権利者の損失額又は侵害者の不法利得額を合理
的に確定することができる。
ⅱ
調査により明らかになったデータと具体的状況から割り出したデータによる
総合判断
計算が難しい場合又は既存の証拠だけでは損失を直接証明することができ
ない場合、一定の基準値を参考に推測して計算すべきである。例えば、当事
者が売上金額等を提供したが、その他のデータがまだ確定できない場合、人
民法院は、ロイヤリティ、業界の一般的利潤率、侵害行為の性質・持続期
間、当事者の主観的過失等を考慮し、賠償額の算定に必要な他のデータを確
定し、明らかとなっている売上金額等と合わせて、实際の損失額又は不法利
得額を算出する。
ⅲ
証拠認定における留意事項
優勢証拠制度の運用に関して、紀要は、(a)商標が著名であるか否かは实
際の状況から判断すべきであり、当事者間に争いがないことを理由に著名と
すべきではないこと、(b)ライセンスのロイヤリティ額が損害賠償金額に関
わる場合においては、領収書や送金記録等の合理性も審査し、契約書に記載
された金額のみを根拠としてそれを認定すべきではないこと、(c)公証を経
た証拠であってもその記載内容に重大な瑕疵があって、真实性及び実観性等
に欠けるような場合には、相手方がそれを覆すに足る証拠を提出できないこ
とを理由としても軽々に採用すべきでないことについても付言している。
④ 専門家補助人制度
当事者は、前記(1)①(a)の損失額の評価の問題を解決する一助として、専門家
- 148 -
補助人の出廷を人民法院に申請することができる(民事訴訟法第 79 条43、証拠規
定第 61 条)。紀要は、専門家補助人は、鑑定人の鑑定意見に対して意見を述べる
だけでなく、鑑定意見の存在しない状況においても、一方当事者からの委託を受
けて、当該当事者から受けた報告又は検査、測量等の類似手段により発見した事
实を基礎として、十分に自己の知識を応用し、事件に関する専門的な問題を十分
に説明、論証、評価し、裁判官の確信を得ることに協力する役割を担うことを説
明している。
専門家補助人を利用した場合のメリットとして、鑑定制度と比較して「専門的
知識を有する者」との資格制限が緩やかであり、状況に応じて必要な人材、機関
を選出できること、専門知識が加わることにより、時間的経済的な訴訟コストを
削減できることが挙げられる。例えば、当事者は、实際の損失額又は不法利得額
の算定を監査・会計等を業務とする専門家補助人に委託すれば、出廷した専門家
補助人を通じて、売上額、業界の利潤率及び同類の製品の卖価や財務諸表等に対
する評価及び説明を行なうことができる。
なお、専門家補助人の意見は、双方当事者による質疑尋問を経て、法廷が認定
することも確認されている。
⑤ 法定賠償額の運用
紀要は、前記(1)②の各問題に起因して訴訟費用が賠償金額を上回ってしまう
現状に鑑み、法定賠償額の運用について以下のとおり明記している。
ⅰ
損害賠償金額の適用においては、侵害者の主観を重視すべきであり、故意又
は過失による侵害であるのか、注意義務を尽くさなかった結果の侵害なの
か、侵害が反復継続していないかといった観点から、金額を斟酌すべきであ
ること
ⅱ
ひとつの製品に対する侵害が複数の知的財産権を侵害している状況において
は、各知的財産権への侵害が権利者に与えた損失を個別に審査して、これら
の状況を酌量の上、比較的高い賠償額を確定すべきこと
ⅲ
権利者が権利を保護するために支出した公証、鑑定、出張、弁護士費用等に
ついては、損害賠償額に計上すべきであり、特に論理的・経験則的に考えて
必須の出張費用、宿泊費用等については、会計証憑がなくても、合理的な範
囲で認めるべきであること
ⅳ
弁護士費用の請求については、当事者が实際に支払った弁護士費用が国家、
省、市の関連規定に合致するものであり、かつ合理的であると認められる場
合には、人民法院はそれを支持すべきであること
43
当事者は、人民法院に対して、専門知識のある者に出廷を通知し、鑑定人が作成した鑑定意見書又は
専門業務上の問題に対して意見書を提出することを申請できる。
- 149 -
(4) 第三次商標法改正
2013 年 8 月 30 日公布の中国商標法(2013 改正)(以下「新商標法」という)の改正にお
ける 1 つの注目ポイントは、商標権侵害に係る損害賠償金額に関する条項である。す
なわち、新商標法では、(a)商標権侵害による損害賠償額について、権利者が实際に
被った損失額又は侵害者の不法利得額を確定することが困難である場合には、当該商
標のロイヤリティの倍数を参照して合理的に確定すること、さらに著しい侵害行為に
対しては、当該額の 1 倍以上 3 倍以下の賠償金額を確定することができるものとし
て、具体的な計算方法を樹立した(第 63 条第 1 項)。さらに(b)証拠開示制度及び立証
妨害制度を明文化したうえ44(同条第 2 項)、法定賠償額の上限も従来の「50 万元」から
「300 万元」まで大幅に引き上げた(同条第 3 項)。
これらの新設規定に鑑みれば、新商標法第 63 条は、中国政府の知的財産権保護を
強化するという国家政策を背景として、前記の広東省高級人民法院によるパイロット
業務の成果を反映したものと評価できる。
(5) 損害賠償額の立証・算定方法につき参照できる判例
「佛山市海天調味食品股份有限公司と佛山市高明威極調味食品有限公司との商標権
侵害及び不正競争紛争事件―『威極』醤油商標権侵害及び不正競争紛争事件」45(以下
「本件」という)において人民法院が認定した損害賠償額は、当時有効な旧商標法で定
める法定損害賠償額の上限(50 万元)を遥かに超えた 655 万元であった。
(a)本件の第一審人民法院がパイロット業務に指定された広東省佛山市中級人民法
院で審理されていること、(b)一審の審理期間がパイロット業務の前身である広東省
高級人民法院主導による賠償難問題の研究時期と重なっていること、(c)損害賠償に
関して、権利者が受けた損失が多大であることの証拠はあっても、既存の証拠では实
際の損失額を証明することができないという状況下において、監査報告書などの証拠
を踏まえて法定の賠償額以上の損害賠償額を確定していることからすれば、本件判例
は、知的財産権侵害訴訟における損害賠償額の算定に関するひとつの指針を示すもの
ということができる。
加えて(d)本件判決が最高人民法院により 2013 年度の知的財産権司法保護の十大案
件の 1 つとして選定されたことに鑑みれば、本件で使用された損害賠償額の立証・算
定方法は、最高人民法院も認めるものであり、今後の知的財産権侵害訴訟においても
損害賠償額の立証・算定を行う際に各人民法院から参照されることが想定される。
44
人民法院は、賠償額を確定するために、既に権利者は挙証を尽くしたが、侵害行為に関連する帳簿、
資料を主に侵害者が有している状況において、侵害者に、侵害行為に関連する帳簿、資料の提供を命
じることができる。侵害者が提供しない場合、又は虚偽の帳簿、資料を提供した場合には、人民法院
は、権利者の主張及び提供した証拠を参考に賠償額を判定することができる。
45
詳細は、本報告書Ⅱ-1-(1)-②を参照されたい。
- 150 -
(6) 最後に
①
小括
知的財産権訴訟における損害賠償額が往々にして低額にとどまってしまう現象
には、既存の法律の運用及び法律の内容それ自体に原因があることは、以上で述
べてきたとおりである。
司法運用の面においては、2011 年以来、人民法院はパイロット業務を通じて、
(a)民事訴訟法や証拠規定に基礎を置く証拠収集等関連規定を整理し、(b)それら
の規定の知的財産権侵害訴訟における損害賠償額の算定への活用方法について人
民法院内部で意見を形成し、運用方針を示すとともに、(c)具体的な案件を通じ
て証拠開示や賠償額の算定方法の实践を模索してきた。この意味において、パイ
ロット業務とは、新しい法制度を確立するものではなく、従来あった証拠制度等
の運用方法を示すことと、知的財産権侵害訴訟の審理において存在してきた傾向
(例えば、实際の損失額又は不法利得額を証明する証拠を検討せず、法定賠償額
の範囲内で適当に賠償金額を決めるという安易な損害賠償金額の算定方法)を批
判することによって、知的財産権侵害訴訟における賠償額の算定難問題の解決に
積極的な意義を有するものと評価できる。
また、法律の内容面においては、2013 年の第三次商標法改正によって、法定損
害賠償額の上限が大幅に引き上げられ、その解決が図られている。
②
日系企業への示唆・留意点
以上のとおり、司法の運用及び法律規定上の改善によって、今後、人民法院
は、知的財産権侵害訴訟において損害賠償額の立証と算定により積極的な職権の
行使及び訴訟指揮を实施し、認定される賠償金額も、権利者の要求する金額によ
り近づいていくのではないかと期待できる。
これは、知財の権利者である日系企業にとって朗報である。日系企業は、この
動向を踏まえ、今後知的財産権訴訟に損害賠償を求める場合においては、その損
害賠償額に関する立証及び主張をより積極的に行うことが望ましい。
他方で、日系企業が中国において知的財産権侵害を理由とする損害賠償を求め
られた場合において、その侵害行為が認定されることが避けられない事態となっ
たときに、例えば証拠開示の要請への反応が遅れてしまったり、誤った資料を開
示してしまったりすることは、損害賠償額の認定時に命取りとなり、巨額の損害
賠償金が命じられる恐れがあることを厳に留意すべきである。日系企業は、これ
を機に、自社が中国で知的財産権侵害訴訟に巻き込まれるリスクを改めて評価
し、帳簿管理等日常的な経営活動を再度見直し、非常時に備えた準備態勢を整え
ておくことが重要である。
また、中国では、裁判の運用、法律の適用について、地方毎にその方針が異な
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る可能性がある点は留意すべきである。特にパイロット業務に指定された人民法
院に関しては、証拠制度の運用や損害賠償額の算定について、他の地域の人民法
院よりも慣れているため、積極的な認定を行なう可能性が高いといって差し支え
ないであろう。日系企業は中国企業との間の知的財産関連契約の締結時や、原告
側として知的財産権侵害訴訟の管轄地を選択する際に、地域の差を念頭において
おくことが望ましい。
パイロット業務の成果である紀要は、あくまでもパイロット業務に参加した人
民法院の間で形成されたものであり、最高人民法院の政策意図を反映してはいる
もののその司法解釈とは異なり、他の地域の人民法院の参考となる資料に過ぎ
ず、強制力は有しない。また、パイロット業務や商標法改正の背景には、中国政
府による知的財産保護強化の政策があり、今後も中国政府の知的財産関連政策の
変動により、紀要で明確にされた点についても、裁判運用上のぶれが生じる可能
性は十分にあり得る。したがって、今後も引き続き、中国政府の知的財産関連政
策の動向及び他の地域の人民法院の裁判運用の状況について、情報収集を行うこ
とが大切である。
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[著者]
西村あさひ法律事務所 上海事務所
[発行]
ジェトロ北京事務所 知的財産権部
TEL: +86-10-6528-2781
FAX: +86-10-6528-2782
2015 年 3 月発行 禁無断転載
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