TMI 中国最新法令情報 ―(2015 年 9 月号)―

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TMI 中国最新法令情報
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皆様には、日頃より弊事務所へのご厚情を賜り誠にありがとうございます。
お客様の中国ビジネスのご参考までに、「TMI 中国最新法令情報」をお届けします。記事
の内容やテーマについてご要望やご質問がございましたら、ご遠慮なく弊事務所へご連絡下
さい。バックナンバーについては、弊事務所のウェブサイトに掲載させていただきますので、
併せてご利用下さい。(http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/china/index.html)
目次
一.中国最新法令
1. 中央法規
(1)企業経営範囲登記管理規定
(2)中華人民共和国刑法改正案(九)
(3)オンライン商品・サービス集中プロモーション活動管理暫定規定
(4)工商総局、税務総局による「三証合一」関係作業の移行貫徹に関する通知
二.連載 中国企業法実務/第八弾:財産法
(第 6 回 不動産登記)
三.中国法務の現場より
1. 北京市における「三証合一」の実施状況
2.「三証合一」の導入に伴う上海市工商局の新書式発表
1
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一.中国最新法令(2015 年 8 月中旬~2015 年 9 月中旬公布分)
1.中央法規
(1) 企業経営範囲登記管理規定1
国家工商行政管理総局
2015 年 8 月 27 日公布 2015 年 10 月 1 日施行
① 背景
工商登記制度改革と工商登記制度の利便性向上を促進し、国務院の「先照後証」2、工
商登記条件の緩和方針に従うため、国家工商行政管理総局は「企業経営範囲登記管理規
定」(以下「管理規定」という。)を改正した。
② 主な内容
管理規定によると、企業の経営範囲の中に許可経営項目がある場合、企業は、審査認
可機関から批准書類、証明書を取得してから 20 営業日以内に、企業信用情報公示システ
ムを通じて、批准書類、証明書の名称、審査認可機関、批准内容、有効期限等の事項を
社会に公示しなければならない。企業が申請する経営範囲の中に事前承認経営項目を含
む場合、企業が成立日から 20 営業日以内に、社会に公示しなければならない。審査認可
機関の批准書類、証明書に変更が発生する場合、企業は変更が承認された日から 20 営業
日以内に、企業信用情報公示システムを通じて、関連変更事項を社会に公示しなければ
ならない 3。
企業の経営範囲は、企業名称中の産業又は経営特徴を含み、又は反映しなければなら
ない。複数の産業を経営する企業は、その経営範囲の中の第 1 項の経営項目が所属する
産業を当該企業の産業とする4。
会社分割又は合併における存続企業、類型を変更する企業及び出資者を変更する企業
が、変更登記の前に元の審査認可機関の許可を経た事前承認経営項目については、新た
に審査認可手続を行う必要がない。但し、法律、行政法規又は国務院の決定が別途規定
する場合は、この限りではない 5。また、企業の出資者が国内出資者から海外出資者に、
又は海外出資者から国内出資者に変更される場合、企業登記機関は審査認可機関の批准
書類、証明書に基づき、改めて経営範囲を登記する必要がある6。
管理規定は、企業が登記していない一般的経営項目に従事した場合、企業登記機関が
範囲を超えた経営として法により調査処分を行う旨の規定7を削除した。この点について、
公開草案の趣旨説明 8では、以下の事実から、「企業がその登記した経営範囲を超えて経
1
企业经营范围登记管理规定(2015)(国家工商行政管理总局令第 76 号)
営業許可証を先に取得し、特別な許可証は後に取得する制度である。2014 年 6 月 4 日公布の「市場公平競
争の促進及び市場正常秩序の維持に関する若干の意見」(国発[2014]20 号)で、国務院は、工商登記制度を
改革し、工商登記制度の便利化を促進し、事前承認を大量に減らし、先証後照から先照後証に変更すること
を要求した。
3
管理規定第 6 条
4
管理規定第 7 条
5
管理規定第 9 条後段、第 10 条、第 11 条第 1 項
6
管理規定第 11 条第 2 項
7
旧管理規定第 16 条
8
关于《企业经营范围登记管理规定》的说明
2
2
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営活動に従事した場合、当該行為は法律、行政法規の市場に参入する制限的規定に違反
しない限り、民事関係において適法で有効であるだけではなく、行政処罰を受けるべき
でない」と理解できることを理由として述べている。
(a) 最高人民法院が、1999 年 12 月の中華人民共和国契約法を適用する若干の問題に
関する解釈(一)第 10 条で、「人民法院は、当事者が経営範囲を超えて契約を締
結したことを理由として、契約を無効と認定しない。但し、国家が制限する経営、
特別許可経営及び法律、行政法規が経営を禁止する規定に違反する場合はこの限
りではない。」と指摘したこと
(b) 2005 年改正の会社法と会社登記管理条例が、「会社は登記した経営範囲内で経営
活動に従事しなければならない。」、
「会社が登記機関の審査認可した範囲を超えた
経営活動に従事した場合、会社登記機関が責任を持って是正し、かつ 1 万元以上
10 万元以下の過料に処することができる。情状が重い場合、営業許可証を取り消
す。」との関連規定を削除したこと
(2) 中華人民共和国刑法改正案(九)9
全人代常務委員会
2015 年 8 月 29 日公布
2015 年 11 月 1 日施行
① 背景
汚職やサイバー犯罪に対する処罰を厳しくすべきとの声の高まりや、死刑の適用を減
少する国際的な動向への対応等、司法実務の中で現れている新たな状況や問題に対応す
るため、中華人民共和国刑法改正案(九)
(以下「改正案(九)」という。)が公布された。
② 主な内容
ア
汚職罪について
改正案(九)では、すべての類型の汚職罪に関し罰金が併科されることになった。汚
職罪の量刑基準について、従来の具体的な金額を基準とする量刑(例えば、個人の汚
職金額が 10 万元以上である場合、10 年以上の有期懲役又は無期懲役に処し、かつ財
産を没収することができる。)10から「抽象的な金額+情状」を基準とする量刑(例え
ば、汚職の金額が比較的多額であるか又はその他の重い情状がある場合、3 年以下の
有期懲役又は拘留に処し、かつ罰金に処する。)11に改正した。
贈収賄の金額が巨額かつ情状が深刻な汚職罪を犯し、死刑かつ執行猶予に処された
者について、人民法院は犯罪の情状等を勘案し、2 年の猶予期間満了後無期懲役への
減刑を決定すると同時に、終身拘禁を与え、減刑、仮釈放することができない旨を決
定することができる 12。これは、司法実務の中で、地方政府の元高官等一部の受刑者
が減刑、仮釈放、刑務所外執行等の人道的な制度を利用して、処罰から逃れるケース
があったことを受けて新設された制度である。
イ
インターネット上の風説の流布に対する取締り
社会的な有害性が大きく、深刻な結果をもたらしたインターネット上の風説の流布に
9
中华人民共和国刑法修正案(九)(主席令第 30 号)
旧刑法第 383 条第 1 項
11
改正案(九)第 44 条第 1 項
12
改正案(九)第 44 条第 4 項
10
3
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ついて、刑事処罰を与える必要があるとの判断から「危険、病気、災害、犯罪を捏造し、
インターネット若しくはその他の媒体を通じて伝播させ、又は虚偽の情報であることを
知りながら、故意にインターネット若しくはその他の媒体を通じて伝播させ、社会秩序
を厳重に破壊した場合、3 年以下の有期懲役、拘留又は保護観察に処し、結果が深刻な
場合、3 年以上 7 年以下の有期懲役に処する。」との条文が新設された13。
ウ
死刑適用の減少
中央政府の方針と死刑の適用を減らす国際動向に照らして、改正案(九)では、武器・
弾薬密輸罪、核材料密輸罪、偽造通貨密輸罪、通貨偽造罪、資金調達詐欺罪、売春組織
罪、売春強要罪、軍事職務執行妨害罪、戦時風説流布罪の 9 つの犯罪類型について、死
刑の適用を撤廃した 14。
エ
人身売買に対する取締り
子どもと女性の人身売買犯罪が横行しているのは、買い手市場の存在が原因であると
の指摘から、刑法第 241 条第 6 項を以下のとおり改正した15。
改正前
改正後
誘拐された女性や子どもを買い取り、買い
誘拐された女性や子どもを買い取り、買い
取った女性の要望に応じて、元の居住地へ
取った子どもに虐待を行わず、救出を妨害
帰還することを妨害しない者や買い取った
しない者については、軽い刑罰に処するこ
子どもに虐待を行わず、救出を妨害しない
とができ、買い取った女性の要望に応じて、
者については、その刑事責任を追及しない
元の居住地へ帰還することを妨害しない者
ことができる。
については、軽い刑罰に処し又は刑罰を軽
減することができる。
オ
幼女売春罪の削除
改正案(九)では、刑法第 360 条第 2 項の幼女売春罪が削除され16、同罪に該当する行
為は、幼女姦淫罪、すなわち強姦罪で処罰され、厳しい刑罰が科されることになった。
カ
新犯罪行為の認定等
さらに、改正案(九)では、次のとおり条文が改正された。
(a) テロとの戦いの実情に鑑み、テロ活動の訓練に対する支援等の行為を犯罪として類
型化した 17。
(b) スクールバス又は旅客輸送業務に従事する者が、定員又は制限速度を著しく超過し
て運転した場合、拘留に処し、かつ罰金に処するとの条文を設けた 18。
(c) 医療トラブルが多発していることから、刑法第 290 条第 1 項の社会秩序を撹乱する
罪の構成要件的結果として、
「医療を行うことができなくなる」という文言を追加し
た19。
13
14
15
16
17
18
19
改正案(九)第 32 条
改正案(九)第 9 条、第 11 条、第 12 条、第 42 条、第 50 条、第 51 条
改正案(九)第 15 条
改正案(九)第 43 条
改正案(九)第 6 条
改正案(九)第 8 条第 1 項第 3 号
改正案(九)第 31 条第 1 項
4
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(d) 職務を執行している警察官を暴力によって襲撃した者は、公務妨害罪として厳しい
処罰を科するとの条文を追加した 20。
(e) 試験カンニング組織罪、受験代替罪等の罪を新設した21。
(3) オンライン商品・サービス集中プロモーション活動管理暫定規定 22
国家工商行政管理総局
2015 年 9 月 2 日公布
2015 年 10 月 1 日施行
① 背景
近年、各インターネット販売業者は、11 月 11 日(いわゆる「ダブル 11」23)と 12 月
12 日(いわゆる「ダブル 12」24)を利用して、大きなプロモーションを行っている。オ
ンライン商品・サービスの集中プロモーション活動を規範化し、消費者と経営者の適法
な権益を保護し、公平で秩序のあるオンライン商品・サービスの取引を維持するため、
国家工商行政管理総局は、今年のダブル 11 とダブル 12 の前に、
「オンライン商品・サー
ビス集中プロモーション活動管理暫定規定」(以下「暫定規定」という。)を公布した。
② 主な内容
ア
定義
暫定規定によると、オンライン商品・サービス集中プロモーション活動(以下「オ
ンライン集中プロモーション」という。)とは、特定の期間において、オンライン集中
プロモーション組織者がオンライン集中プロモーション経営者を組織して、インター
ネットでの優遇条件の提供を通じて、商品販売又はサービス提供を展開する経営活動
を指す25。
イ
第三者取引プラットフォーム事業者の義務
暫定規定はオンライン集中プロモーション組織者である第三者取引プラットフォー
ム事業者の義務を明確にした。例えば、
(a) 第三者取引プラットフォーム事業者は、オンライン集中プロモーション経営者の
プロモーション活動に対し検査監視責任を負い、工商行政管理法律法規に違反す
る行為を発見した場合、第三者取引プラットフォーム事業者所在地の工商行政管
理部門に報告し、遅滞なく阻止措置を採らなければならずない。また、必要な場
合には、第三者取引プラットフォームサービスの提供を停止し、かつ公示を行う
ことができる26。
(b) 第三者取引プラットフォーム事業者はオンライン集中プロモーション経営者の経
営主体身分について、審査と登記を行い、かつオンライン取引管理弁法 27の規定
に基づき、プロモーション活動期間内に、そのプラットフォームで提供する商品・
20
改正案(九)第 21 条
改正案(九)第 25 条
22
网络商品和服务集中促销活动管理暂行规定(国家工商行政管理总局令第 77 号)
23
中国語では「双十一」という。数字の 1 が並ぶので、独身の日(光棍节)とも呼ばれている。
24
中国語では「双十二」という。
「双十一」商戦ヒットにあやかり、1212 と数字が並ぶこの日も同様の商戦
が繰り広げられている。
25
暫定規定第 2 条
26
暫定規定第 7 条
27
网络交易管理办法(国家工商行政管理总局令第 60 号)
21
5
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サービスの情報内容及びその提供時間を記録・保存しなければならない28。
(c) 第三者取引プラットフォーム事業者は、検証可能な統計結果に基づき、オンライ
ン集中プロモーションの売上高を発表しなければならず、売上高について虚偽の
宣伝を行ったり、直接的又は間接的にオンライン集中プロモーション経営者のた
めに、虚偽の取引、売上高の発表又は口コミを行ってはならない 29。
(d) 第三者取引プラットフォーム事業者は、事前にウェブサイトの顕著な位置で、顕
著な方式を通じて、オンライン集中プロモーションの期限、方法及び規則等の情
報を公示しなければならない30。
ウ
オンライン集中プロモーション経営者の義務
同時に、暫定規定は、オンライン集中プロモーション経営者の義務についても明確
に定めている。例えば、
(a) オンライン集中プロモーション経営者もオンラインストアのホームページの顕著
な位置で、顕著な方式を通じて、オンライン集中プロモーションの期限、方法及
び規則を公示しなければならない 31。
(b) オンライン集中プロモーション経営者の広告は真実で、正確なものでなければな
らず、虚偽の内容を含み、消費者を欺罔し、又は誤解を与えてはならない 32。条
件付きプロモーション広告を行う場合、付加された条件をプロモーション広告の
中で明確かつ完全に表記しなければならない 33。
(c) オンライン集中プロモーション経営者は、次のような手段を利用してプロモーシ
ョン活動を行ってはならない34
x
表示する商品の品名、用途、性能、産地、仕様、等級、品質、価格又はサー
ビスの項目、価格等の内容が実情と合致しない場合
x
プロモーションとして景品、無料サービスを提供する場合で、表示する景品、
無料サービスの名称、数量と品質、履行期間と方式、安全注意事項とリスク
警告、アフターサービス等消費者と重大な利害関係のある情報が実情と合致
しない場合
x
虚偽の取引、売上げ又は虚偽の口コミ等で信用を高め、消費者とその他の経
営者の適法な権益を侵害する場合
(d) オンライン集中プロモーション経営者がプロモーション活動で消費ポイント又は
クーポンを発行する場合、消費ポイント又はクーポンの使用条件、方法と期限を
明記しなければならない35。
(e) オンライン集中プロモーション経営者がプロモーション活動賞品付きプロモーシ
ョンを行う場合、検証可能な福引きの方法を公示し、かつ賞品数量と品質につい
28
29
30
31
32
33
34
35
暫定規定第 6 条
暫定規定第 10 条第 1 項
暫定規定第 8 条
暫定規定第 12 条
暫定規定第 13 条第 1 項
暫定規定第 13 条第 2 項
暫定規定第 14 条
暫定規定第 17 条第 1 項
6
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て、虚偽の情報を提供したり、虚偽の福引きを行ったり、福引きを操作したりし
てはならない36。
(4) 工商総局、税務総局による「三証合一」関係作業の移行貫徹に関する通知37
国家工商行政管理総局、国家税務総局
2015 年 9 月 9 日公布
2015 年 9 月 9 日施行
① 背景
国務院が本年 6 月 23 日に公布した「三証合一」登記制度改革の推進加速化に関する意
見38や国家工商行政管理総局等の 6 部門が本年 8 月 7 日に公布した国務院弁公庁による
「三証合一」登記制度改革の推進加速化に関する意見の実施貫徹に関する通知 39に基づ
き、各地の情報共有システムを構築し、企業登記と税務管理の一括管理を進め、
「三証合
一」作業の円滑かつ効率的な実施を実現するため、工商総局、税務総局による「三証合
一」関係作業の移行貫徹に関する通知(以下「通知」という。)が公布された。
② 主な内容
通知によると、企業登記機関は、企業の新設・変更登記(届出)を行った後、遅滞な
くその基本登記情報、変更登記(届出)情報を省レベルの情報共有交換プラットフォー
ム(以下「交換プラットフォーム」という。)に共有しなければならない。税務機関は、
納税者の情報を確認した後、遅滞なく税務主管機関の名称を交換プラットフォームに共
有しなければならない。また、税務主管機関は生産経営地、財務責任者、会計方法等事
項の変更を行い、又はタックスクリアランス証明を出した後に、遅滞なく上記事項の変
更情報、タックスクリアランス情報を交換プラットフォームに共有しなければならない。
企業登記機関は遅滞なく交換プラットフォームから変更後の情報、タックスクリアラン
ス情報を取得・更新し、企業登記情報との関連関係を構築しなければならない。
通知では、2015 年 10 月 1 日から登記済み企業が変更登記又は営業許可証の書換交付
を申請する場合、企業登記機関は統一社会信用コードが記載されている営業許可証を発
行することを要求した。生産経営地、財務責任者、会計方法は、企業登記機関が会社の
新設時に収集する。税務管理過程において、上述の情報に変更が生じた場合、企業が税
務主管機関に変更申請を行う。
通知は、各工商部門や税務部門に、サービス水準の向上、トレーニングと広報の強化
を要求し、かつ 2015 年 9 月 20 日までに部門間情報共有交換プラットフォームの構築作
業を完成させることを要求した。
(呉燕・中国法顧問)
36
暫定規定第 18 条
工商总局、税务总局关于做好“三证合一”有关工作衔接的通知(工商企注字[2015]147 号)
38
国务院办公厅关于加快推进“三证合一”登记制度改革的意见(国办发[2015]50 号)
39
工商总局等六部门关于贯彻落实《国务院办公厅关于加快推进“三证合一”登记制度改革的意见》的通知
(工商企注字[2015]121 号)
37
7
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二.連載 中国企業法実務
第八弾:財産法(第 6 回/全 6 回)
第1回
2015 年 4 月号
財産法の体系
第2回
2015 年 5 月号
物権法の概要と諸原則、所有権一般
第3回
2015 年 6 月号
区分所有権
第4回
2015 年 7 月号
用益物権
第5回
2015 年 8 月号
担保物権
第6回
2015 年 9 月号
不動産登記
第6回
不動産登記
財産法の連載の第 6 回となる今回は、中国における不動産登記について紹介する。
1.はじめに
中国では、2015 年 3 月 1 日付で不動産登記暫定条例40(以下「暫定条例」という。)が
施行された。暫定条例が制定されるまでは、中国国内における統一的な不動産登記制度
が制定されておらず、制度の不統一による実務上の問題、不都合が発生していた。その
ような中で、暫定条例は中国国内における不動産登記の統一的な制度を定め、非効率性
を解消すべく制定されたものである。その意味で、暫定条例は、今後の中国における不
動産登記実務に重要な影響を与えるものといえる。
以下、暫定条例の施行前の不動産登記制度を概観しながら、暫定条例の施行による不
動産登記制度の今後の見通しについて説明することとする。
2.中国における不動産登記制度の概要
暫定条例が制定される以前の不動産登記制度を概観するにあたっては、更に物権法制
定の前後で分けることができる。
(1) 物権法制定前の不動産登記制度
① 概要
物権法が制定される以前の中国では、不動産登記に関する統一的な法令は制定されて
おらず、各種法律、行政法規、規章、地方法規、更には人民法院による司法解釈等が多
元的・多重的に定められていた。
これは、当時の中国においては、不動産登記制度が、不動産に関する私的な取引の安
全を保護することを目的としたものではなく、不動産取引による全ての権利の変動を行
政的に監理・監督することを目的としたものであったからと考えられている 41。
40
原文は《不动产登记暂行条例》である。
その根拠としては、以下の 3 点が挙げられる(鄭芙蓉「中国物権変動法制の構造と理論-日本法との双
方向的比較の視点から」110 頁~112 頁(日本評論社、2014 年))。
(a) 諸外国の多くが登記を物権変動の対抗要件としていたのに対し、当時の中国における裁判実務では、
41
8
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② 物権法制定前の不動産登記制度の内容
物権法制定前の不動産登記制度は以下のような内容・構造となっていた。
(a) 土地の登記機関と建物の登記機関が異なり、土地については県級以上の人民政府
の土地管理部門であるのに対し 42、建物については県級以上の人民政府の建物管
理部門であった43。
(b) 登記簿には土地登記簿と建物登記簿があり、これらは別個に編成され、その間に
直接の連絡はない。登記結果(登記簿及び地図)についてはいかなる単位及び個人
も閲覧することができる一方 44
45
、原始登記資料 46 については、権利者や権利者
の同意を得た者その他国家安全機関、公安機関等に限り閲覧することができる 47
48
。
(c) 登記の対象となる不動産は土地、建物、草原、森林、立木、林地、海域、鉱産物
等であり、土地建物以外の不動産については、それぞれ特別法に基づき登記の対
象とされている 49。なお、物権法制定前において、登記の対象とされていた建物
は、都市部の建物に限られており、農村部における建物については登記対象とな
っていなかった50。
(d) 土地登記手続は、初回登記 51と変更登記 52の 2 種類が定められていた53。ここにい
う初回登記とは、一定の期間内に管轄区内にある全ての土地、農村土地等に対し
て行われる普遍的な登記のことをいい、変更登記とは、土地使用権、集団土地所
有権等に変更が生じた場合に行うべき登記のことをいう 54。土地に関して、適時
登記を物権変動にかかる契約の効力要件と解していたこと
(b) 登記簿の公開は禁止されており、後述する「土地登記資料の公開閲覧に関する弁法」や「建物権利
帰属登記資料の閲覧に関する暫定弁法」といった、下位の法律によって例外的に登記簿の公開が認
められていたこと
(c) 法律行為によらない物権変動についても、一定期間内に登記をしなければならず、また、不動産譲
渡代金等も登記の際に申告しなければならないこと
42
土地登記規則(原文は《土地登记规则》である。)第 4 条。なお、土地登記規則は土地登記弁法(原文は
《土地登记办法》)が施行されたことによって廃止されている。
43
都市部建物権利帰属登記管理弁法(原文は《城市房屋权属登记管理办法》である。)第 7 条。なお都市部
建物権利帰属登記管理弁法は建物登記弁法(原文は《房屋登记办法》である。)が施行されたことによって
廃止されている。
44
土地登記資料の公開閲覧に関する弁法(原文は《土地登记资料公开查询办法》である。)第 2 条第 2 項後
段
45
建物権利帰属登記資料の閲覧に関する暫定弁法(原文は《房屋权属登记信息查询暂行办法》である。)第
7条
46
土地登記の原始登記資料には、権利帰属証明書、土地登記申請書、地籍調査表、地籍図等の資料が含ま
れる(土地登記資料の公開閲覧に関する弁法第 2 条第 2 項前段)。建物登記の原始登記資料には、建物登記
権利申請表、建物権利設立・変更・移転・消滅又は制限の具体的根拠、建物権利帰属登記申請者が提供した
その他資料が含まれる(建物権利帰属登記資料の閲覧に関する暫定弁法第 4 条)。
47
土地登記資料の公開閲覧に関する弁法第 3 条
48
建物権利帰属登記資料の閲覧に関する暫定弁法第 8 条
49
具体的には、草原法、森林法、立木及び林地権利帰属登記管理弁法、海域使用管理法、海域使用権登記
弁法、鉱産資源法等がある。
50
都市部建物権利帰属登記管理弁法第 1 条参照
51
原文は初始土地登记である。
52
原文は变更土地登记である。
53
土地登記規則第 2 条第 3 項
54
土地登記規則第 2 条第 3 項
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に初回登記をしない場合には、土地の占有が不法なものとなり、行政罰の対象と
なった。さらに、適時に変更登記をしない場合には、行政罰の対象となるだけで
はなく、土地使用権帰属証が無効とされることもあった 55。
(e) 建物に関する登記は、初回登記、保存登記、移転登記、変更登記、その他権利の
登記、抹消登記の 6 種類が定められているが 56、土地に関する登記と同じ用語で
も異なる意味を持つ等の不統一が生じていた 57。建物に関する登記は、適時に登
記申請をしない場合には、登記費用の 3 倍以下の費用を徴収されるという制裁が
課されていた58。
(f) 不動産登記がされた時には、同時に権利帰属証が発行され 59、権利帰属証は権利
を証明する唯一の証明書となる 60。しかし、権利帰属証と登記の表示が異なって
いた場合の法的効果については特段の定めがなかった。
(g) 不動産登記費用については、地方毎に定められているため、不動産登記費用の種
類、計算基準等については、統一的な定めはおかれていなかった。
(2) 物権法制定後の不動産登記制度
① 物権法で定められた内容
前述したとおり、物権法制定前の中国においては、不動産登記は不動産に関する権利
変動の行政的な管理手段として位置づけられたゆえに多元的・多重的な規定が制定され、
その結果、土地と建物とで登記を取り扱う登記機関、登記の内容、登記手続が統一され
ておらず、手続上の弊害が多く生じていた。
物権法では、このような状況を改善し、不動産に関する権利帰属を正確かつ迅速に公
示するための統一的なルールの制定を目指し、以下の事項を定めた。
(a) 登記申請者の提出した権利帰属証明資料その他必要な資料の審査、登記申請者
に対するヒアリングを行うこと、また、事実に即し且つ遅滞なく関連事項を登記
することが登記機関の義務として定められたものである 61。これは、登記と実体関
係の整合性を担保する趣旨で定められたものである62。物権法制定前は、登記の実
質的な審査権限の所在が明確に定められていなかった。
55
土地登記規則第 69 条
原文はそれぞれ、总登记、初始登记、转移登记、变更登记、他 项 权利登记、注销登记である。以上、都
市部建物権利帰属登記管理弁法第 9 条
57
例えば、土地登記に関しては、初回登記と総登記が同義で用いられているのに対して(土地登記規則第 2
条第 3 項)、建物登記に関しては、初回登記と総登記を明確に区別して用いている(都市部建物権利帰属登
記管理弁法第 9 条)。また、土地登記にいう変更登記は、初回登記以外の登記をいうのに対し、建物登記に
いう変更登記は、権利者の変更と権利の客体に変更が生じた場合に行う登記をいう(都市部建物権利帰属登
記管理弁法第 18 条第 1 項)等、同じ用語についても概念が異なることがあった。
58
都市部建物権利帰属登記管理弁法第 29 条
59
土地登記規則第 19 条、都市部建物権利帰属登記管理弁法第 4 条第 2 項
60
土地登記規則第 65 条、都市部建物権利帰属登記管理弁法第 5 条第 1 項
61
物権法第 12 条
62
もっとも、このように取引の実体について登記官が審査するとなると、登記にかかる効率が著しく低下
するという問題点が指摘されており、取引の実体や権利の実体関係については公証制度を導入すべきとの指
摘もされている(黄松有 主編 中華人民共和国物権法条文理解と適用(原題:
《中华人民共和国物权法》条文
理解与适用)78 頁~81 頁)。
56
10
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(b) 登記簿は、物権の帰属及びその内容の根拠であり 63、権利帰属証は、権利者が当
該不動産に対する物権を有することの証明であるが 64、この両者の記載が一致し
ない場合には、登記簿の記載を基準とすることが明確に定められた 65。
(c) 登記簿記載の事項に誤りがある場合に、権利者及び利害関係人は更正登記の申請
をすることができることとなり 66、登記簿記載の権利者が更正登記に同意しない
場合、利害関係人は異議登記の申請をすることができることとなった67
68
。
(d) 建物及びその他不動産物権の売買が締結された場合、将来における物権の実現を
担保するため、約定にしたがって登記機関に対して仮登記 69の申請をすることが
できると定められた 70。仮登記がされた後に、登記申請者の同意なく行われた不
動産の処分の効力は生じないものとされている71
72
。
(e) 当事者が誤った資料を提出したことによって、誤った登記がなされ、その結果他
人に損害が発生した場合には、当該当事者は損害賠償責任を負わなければならな
い 73。また、登記機関が誤った登記をし、これによって他人に損害が発生した場
合には、登記機関(すなわち国家)が損害賠償責任を負う。かかる損害賠償責任の
発生に、登記官の故意過失は要件とされていない74。
(f) 物権法は、国家が不動産に関する統一的な登記制度を導入し、登記の範囲、登記
機関及び登記方法等を統一する法律、行政法規を整備していく旨の宣言をしてい
る 75。暫定条例は、これを受けて制定された初めての統一的な登記に関する法令
である。
(g) 権利者、利害関係人は登記資料の調査、複製を申請することができ、登記機関は
これに応じなければならないことが明らかにされた 76。前述のとおり、物権法が
制定される以前から、登記資料を閲覧することを認める制度自体は存在していた
が、あくまでも法律の下位規範によって定められていたに過ぎなかった。この点、
物権法は法律レベルでの登記資料の公開を認めたものである。
(h) 不動産登記費用については、登記の申請件数ごとに徴収するものとし、不動産の
面積や体積、価格に応じて徴収してはならないことが明らかにされた 77。前述の
63
物権法第 16 条
物権法第 17 条第 1 文
65
物権法第 17 条第 2 文
66
物権法第 19 条第 1 項第 1 文
67
物権法第 19 条第 2 項第 1 文
68
異議登記の申請書が異議登記の日から 15 日以内に訴えを提起しない場合には、当該異議登記の効力は失
われる(物権法第 19 条第 2 項第 2 文)。また、不当な異議登記によって、権利者に損害が発生した場合には、
権利者は異議登記の申請人に対して損害賠償請求をすることができる(物権法第 19 条第 2 項第 3 文)。
69
原文は预告登记である。
70
物権法第 20 条第 1 項第 1 文
71
物権法第 20 条第 1 項第 2 文
72
日本の不動産登記法上、仮登記に認められている登記順位保全効(不動産登記法第 105 条、第 106 条)
は、物権法上の仮登記では認められていない。
73
物権法第 21 条第 1 項
74
物権法第 21 条第 2 項第 1 文
75
物権法第 10 条第 2 項
76
物権法第 18 条
77
物権法第 22 条
64
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とおり、従前は地方毎に不動産登記費用が定められており、地方によっては不動
産の面積に応じて不動産登記費用が定められたり、不動産の価格に応じて不動産
登記費用が定められたりする例が存在していた。これに対し物権法は、登記の申
請件数ごとに不動産登記費用を徴収するという統一的な基準を示したことに意味
がある。但し、具体的な基準は、国務院の関連部門及び価格部門が定めるとして、
法律上は具体的な基準を定めていない。
② 土地登記弁法 78及び建物登記弁法79の制定
物権法の制定に伴い、土地の登記に関しては国土資源部が土地登記弁法を制定し、建
物の登記に関しては建設部が建物登記弁法を制定した。これらは、物権法の制定にあわ
せ、従前、土地登記規則や都市部不動産権利帰属登記管理弁法が定めていた不動産登記
の実務的な手続に関する制度を改正したものである。
これらの法改正により物権法の補完がなされたり 80、これまで実務上は必ずしも明確
でなかった登記共同申請の原則が明確にされたりする等 81、不動産登記制度の一定の充
実が図られた。
しかし、これらの規定が定められてもなお、土地登記と建物登記とで登記機関は異な
っており、土地登記と建物登記は別々に編製され、権利帰属証書も別々に発行される上
82
、登記の種類についても統一されていない等、統一的な不動産登記制度の制定には至
っていなかった。上海市、深セン市、広州市等の一部の地域では、土地と建物とで統一
した登記制度を地方法規レベルで定め 83、運用が行われていたが、あくまで地方法規レ
ベルでの運用に過ぎず、全国で統一された運用には至っていなかった。
3.暫定条例の概観
(1) 暫定条例の概要
これまでに概観してきたように、物権法制定後も不動産登記制度の不統一による実務
上の問題、不都合が残っていたことから、2013 年 3 月以降、国務院において統一的不
動産登記制度を制定するための作業が開始された。そして、2014 年 8 月 15 日のパブリ
ックコメントの公募を経て、2014 年 12 月 22 日付で暫定条例が公布され、2015 年 3 月 1
日に施行された。
暫定条例は、不動産登記の統一的制度を構築するための基礎となるものであり、国土
資源部が全国の不動産登記業務の指導・監督管理の責任を負うことや、登記の申請から
登記に至る一連の登記手続(登記の申請、受理、調査、登記)が明確にされた。
78
原文は《土地登記弁法》である。
原文は《房屋登記弁法》である。
80
例えば、異議登記の効力として、異議登記がされている間は、異議登記権利者の同意がなければ、土地
上の権利の変更登記ができないことが明確にされた(土地登記弁法第 60 条第 3 項、建物登記弁法第 78 条)。
81
土地登記弁法第 7 条、建物登記弁法第 12 条
82
土地登記を申請すべき登記機関は、県以上の人民政府国土資源行政主管部門であるのに対し(土地登記
弁法第 3 条第 2 項)、建物登記を申請すべき登記機関は、建物の所在する地の直轄市、市、県人民政府建設
主管部門又は、それが設置する建物登記業務機関である(建物登記弁法第 11 条第 1 項、第 4 条第 2 項)。
83
上海市不動産登記条例(原文は《上海市房地产登记条例》である。)第 6 条第 1 項、深セン経済特区不動
産登記条例(原文は《深圳经济特区房地产登记条例》である。)第 4 条第 2 項、広州市不動産登記弁法(原
文は《广州市城镇房地产登记办法》である。)第 6 条第 1 項参照
79
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暫定条例の内容に関するポイントとしては、以下の点を指摘することができる。
(a) 集団土地所有権、建物所有権、土地使用権等の各種不動産物権 84に関する登記は、
今後は暫定条例に依拠して行われることとなる85。
(b) 全国不動産登記業務の指導、監督に関する責任は、国務院国土資源主管部門が負う
こと、また、各県及び県以上の地方政府が各自の行政区画にて一つの機関を不動産
登記機関として指定することが定められ、不動産登記業務の責任の所在が明らかに
された86。
(c) 国土資源部が「統一不動産登記情報管理プラットフォーム」
(以下「プラットフォー
ム」という。)を構築すること、登記情報はプラットフォームにて、国家・省・市・
県の 4 つの級の不動産登記機関において登記情報の共有が図られるだけでなく、国
土資源、公安、民政、財政、税務、工商、金融、会計監査、統計等の部門間でも不
動産登記関連情報の相互共有の強化が要求されることが明確にされた87。
暫定条例によれば、例えば、企業が用地を取得し、用地の上に建物や工場を建設する
場合を想定した場合、従前は国有土地使用権を取得してこれを国土資源部に対して土地
使用権の変更登記申請を行い、国有土地使用証の発行を受けた上、竣工後に建設部に対
して建物所有権の初回登記申請を行い、建物所有権証を受ける必要があったのに対し、
今後は、いずれの登記申請についても、単一の地方の不動産登記機関に対して行えば足
り、登記が完了したときは、単一の登記機関から権利帰属証書又は登記証明の発行を受
けることとなる88。
(2) 不動産登記について
暫定条例は、不動産登記機関に対し、国務院国土資源主管部門の規定に基づいて統一
した不動産登記簿を構築しなければならないと義務付けた 89。そして、不動産登記簿に
て定めるべき事項としては以下の事項が定められている 90。
(a) 不動産の位置、住所、空間区分、面積、用途等の自然状况
(b) 不動産権利の主体、類型、内容、出所、期限、権利変更等の権利帰属状况
84
具体的には、以下の権利について不動産登記の対象として定められている。
(a) 集団土地所有権
(b) 建物等建築物、構築物の所有権
(c) 森林、林木の所有権
(d) 耕地、林地、草地等の土地の引受経営権
(e) 建設用地使用権
(f) 住宅用地使用権
(g) 海域使用権
(h) 地役権
(i) 抵当権
(j) 法律規定が登記を必要とするその他不動産所有権
85
暫定条例第 5 条。しかし、暫定条例も法律の下位規範であるため、今後、土地登記弁法等の法律が改正
される必要があると考えられる。
86
暫定条例第 6 条
87
暫定条例第 23 条ないし第 25 条
88
暫定条例第 21 条第 2 項
89
暫定条例第 8 条第 2 項
90
暫定条例第 8 条第 3 項
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(c) 不動産権利に関連する制限、注意事項
(d) その他関連事項
(3) 登記申請について
不動産登記の申請については、売買、抵当権設定等により不動産登記を申請する場合、
当事者双方が共同で申請しなければならないとして、当事者の共同申請の原則が明記さ
れた91。なお、例外的に単独申請が認められるのは以下の場合である 92
93
。
(a) 未登記不動産の初回登記申請をする場合
(b) 相続、遺贈受領により不動産権利を取得した場合
(c) 人民法院、仲裁委員会の効力を有する法律文書又は人民政府の効力を有する決定等
が不動産権利を確立、変更、譲渡、消失した場合
(d) 権利者の姓名、名称又は自然状况に変更が発生し、変更登記を申請する場合
(e) 不動産消失又は権利者が不動産権利を放棄し、抹消登記を申請する場合
(f) 更正登記又は異議登記を申請する場合
(g) 法律、行政法規規定が当事者片方の申請を可能にするその他の場合
(4) 不動産登記資料の照会等について
また、不動産登記資料の照会や複製について、権利者、利害関係者は法に基づいて不
動産登記資料を照会、複製することができ、不動産登記機関はそれに対応しなければな
らないこと、また、不動産登記資料の照会をする場合、単位、個人は不動産登記機関に
照会の目的を説明しなければならず、照会で獲得した不動産登記資料をその他の目的に
使用してはならないことも明記されている 94。これらの規定は物権法第 18 条と趣旨を同
一とするものといえるが、物権法では不動産登記資料の照会に際して不動産登記機関に
対して照会の目的を説明しなければならない旨が規定されていないのに対して、暫定条
例でかかる規定が盛り込まれている点に注意する必要がある。
また、暫定条例は、権利者及び利害関係人による不動産登記資料の照会、複製につい
ては定めているものの、利害関係のない一般公衆からのアクセスについては何ら規定し
ていない。不動産登記資料、不動産登記情報の一般への公開については、今後の立法を
待つ必要がある。
(5) 不動産登記にかかる法的責任について
また、不動産登記にかかる法的責任は、物権法、土地登記弁法、建物登記弁法でそれ
ぞれ規定されているが、規定の内容については統一されていなかった。暫定条例は、こ
の法的責任についても、以下のように整理して規定した。
(a) 不動産登記機関の誤登記が他人に損害をもたらし、又は当事者が申請登記に虚偽資
91
暫定条例第 14 条第 1 項
暫定条例第 14 条第 2 項
93
なお、土地登記弁法、建物登記弁法でも、登記の共同申請の原則及び例外として単独申請が認められる
場合が定められているが(土地登記弁法第 7 条、建物登記弁法第 12 条)、単独申請が認められる例外的な場
合については統一されていない。
94
暫定条例第 27 条、第 28 条
92
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料を提出したことで他人に損害をもたらした場合、物権法の規定に照らした賠償責
任を負う 95
96
。
(b) 不動産登記機関の業務担当者が虚偽登記を行い、不動産登記簿を毀損、偽造し、勝
手に登記事項を修正し、又はその他職権濫用、職務怠慢行為をした場合、法に従っ
て処分が与えられる。他人に損害をもたらした場合、法に従って賠償責任を負う。
犯罪を構成した場合、法に従って刑事責任を追及する 97。
(c) 不動産の権利帰属証書若しくは不動産登記証明を偽造若しくは変造し、又は偽造若
しくは変造した不動産の権利帰属証書若しくは不動産登記証明を売買若しくは使用
する場合、不動産登記機関又は公安機関が法に従って当該証書を没収する。これら
の行為よって違法所得を得た場合、違法所得を没収する。他人に損害をもたらした
場合、法に従って賠償責任を負う。治安管理行為への違反を構成した場合、法に従
って治安管理処罰を与える。犯罪を構成した場合、法に従って刑事責任を追及する98。
(d) 不動産登記機関、不動産登記情報共有部門及びその業務担当者または不動産登記資
料を照会する会社や団体、又は個人が国家規定に違反して、不動産登記資料、登記
情報を漏洩し、又は不動産登記資料、登記情報を不当な活動に利用し、他人に損害
をもたらした場合、法に従って賠償責任を負う。関連責任者に法に従って処分を与
える。関連責任者が犯罪を構成する場合、法に従って刑事責任を追及する99。
(6) 不動産登記情報管理プラットフォームについて
前述したとおり、暫定条例では、統一的なプラットフォームを構築し、各地方レベル
の不動産登記機関、そして政府の各部門において不動産登記情報の管理、共有を図って
いくことが明記されたが、プラットフォームの構築に関して暫定条例は具体的な定めを
置いていない。
そのため、この点については、今後の立法を待つ必要があるが、2015 年 8 月に国土資
源部がプラットフォーム構築に関する通知(以下「通知」という。)100を出しており、通
知の中でプラットフォーム構築に関する今後の見通しについても触れているので、通知
の概要を紹介する。
① プラットフォームのイメージ
通知の添付書類として公開されている「不動産登記情報管理の基本的なプラットフォ
ーム建設の基本方案」101では、以下のようなプラットフォームのイメージが示されてい
る。
95
暫定条例第 29 条
不動産登記機関の誤登記によって他人に損害が発生した場合は当該誤登記を行った登記機関が賠償責任
を負い(物権法第 21 条第 2 項)、当事者が申請登記に虚偽資料を提出したことで他人に損害をもたらした場
合には虚偽資料を提出した当事者が賠償責任を負うこととなる(物権法第 21 条第 1 項)。
97
暫定条例第 30 条
98
暫定条例第 31 条
99
暫定条例第 32 条
100
原文は《国土资源部关于做好不动产登记信息管理基础平台建设工作的通知》である。
101
原文は《不动产登记信息管理基础平台建设总体方案》である。
96
15
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不動産登記機関
業務支援
社会公衆
(権利者、利害関
情報検索
交換享有
不動産登記情報基本プ
税務、工商等部門
ラットフォーム
係者等)
公安、民政、財政、
タイムリーな共有
国土部門
住建部門
農業部門
林業部門
海洋部門
② プラットフォーム構築の重要性について
統一的なプラットフォームの構築は、暫定条例の明確な要求であることが謳われると
共に、取引の安全を保障し、情報共有の実現のための重要な手段であるという認識が示
されている。この点でも、不動産登記制度が取引安全のための制度として扱われつつあ
ることが窺われる。
③ プラットフォーム構築に関する目標の正確な把握について
国内各地では、2015 年下半期のプラットフォームのオンラインでの試験的な運用に基
づき、2016 年には各地で不動産登記データの整合的なデータベースの基本的な部分を完
成させ、2017 年には全国的なプラットフォームの統括部署、上下連動、連携の基本的な
部分を完成させる102。なお、プラットフォームは国土資源部が統一的に建設したクラウ
ドデータベースの上に置かれることを想定されている。
プラットフォームの設計や、開発組織、部署等の統括、統括的なネットワーク構築、
関連基準の設定等に関しては、国土資源部の責任で行われる。
省級の人民政府は、省内各級における整合的なデータベース及び不動産登記情報シス
テムの建設、省・市・県をカバーするネットワークの建設について責任を負う。また、
市級の人民政府は、不動産登記データを整合的にデータベース化すること、不動産登記
データの融合、入力、登記業務の実現、データベースの運用、登記業務発展の保証につ
いて責任を負い、必要な審査、取引部門間でのタイムリーな情報共有、対外的に情報検
索サービスの提供を行う。
④ 重点的な作業促進について
省級の人民政府は、省・市・県の相互のネットワークの建設方案又は改造方案を制定
し、プラットフォーム建設のロードマップ、タイムスケジュールを編成し、市・県に対
してプラットフォーム建設作業の要求を提出し、省の国土資源主管部門は 2015 年 10 月
102
なお、「不動産登記情報管理の基本的なプラットフォーム建設の基本方案」では、2017 年の作業工程と
して、全国の不動産登記データ体系の基本的部分の形成をし、全国各級の不動産登記機関から国家のプラ
ットフォームへのデータ入力を概ね実現することが予定されている。
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31 日までに省級のプラットフォーム建設の実施方案について報告する。
2015 年下半期のプラットフォームのオンラインでの試験的な運用での総体要求に基
づき、プラットフォームと全国の不動産登記情報の入力作業を行い、各省において、基
本的条件の良い市・県を選択してプラットフォームのデモ版を建設し、2015 年末までに、
いずれの省でも少なくとも 2 つ以上の市・県の登記情報を国家のプラットフォームに入
力する。
2016 年末までに、正確で整合的な不動産登記データベースの建設作業の基本的部分を
完成させ、また、各地のネットワーク環境のセキュリティを関連規定に適合するものと
した上で、各級の国土資源のメインネットワーク及び同級部門間のネットワークの改造
建設の基本的な部分を完成させる。
[応用編]
暫定条例は、暫定条例の施行後も、施行までに既に発行された各種不動産権利証書及び
不動産登記簿を引き続き有効としており103、既にこれらの証書等を保有する者については
特段の変更手続は不要とされている。
その一方で、暫定条例自身、従前の行政法規の中で不動産登記に関連して暫定条例と抵
触する規定がある場合、暫定条例の規定が優先する旨を明記していることから 104、暫定条
例の施行後は原則的に暫定条例に則った手続を行うこととなる。暫定条例は、その実施細
則を国土資源部及び関連部門が共同で制定する旨定めているものの、現時点では国土資源
部が地方政府に対して、不動産登記職責に関する指導意見を発しているにとどまり105、具
体的な実施細則は未だ制定されていない状況である。
したがって、暫定条例の施行に伴う不動産登記実務の運用については、引き続き動向を
注視していく必要がある。
また、今後プラットフォームの構築、運用を開始していくにあたって、不動産登記情報、
データにかかるセキュリティ確保は極めて重要な課題になると思われる。データセキュリ
ティの構築と共に、データ流出等の事故が生じた場合のリスク対策の策定、情報保護の強
化も今後の課題になるものと考えられる。
(包城偉豊・弁護士)
103
暫定条例第 33 条第 1 項
暫定条例第 35 条第 2 文
105
2015 年 4 月 13 日付《国土资源部、中央编办关于地方不动产登记职责整合的指导意见(国土资发[2015]50
号)》、2015 年 7 月 10 日付《国土资源部、住房城乡建设部关于做好不动产统一登记与房屋交易管理衔接的指
导意见(国土资发[2015]90 号)》
104
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三.
中国法務の現場より
1.北京市における「三証合一」の実施状況
国内各メディアの報道によると、北京市では 9 月 29 日午前 10 時過ぎに北京市工商局に
おいて営業許可証、組織機構コード証、税務登記証が一体化された「三証合一」第一号の
営業許可証が申請企業に発行され、視察に訪れた副市長が「北京市で正式に『三証合一、
一照一碼』
(3 種の証明書を統一し、一証書に一つのコードを設定する)登記制度改革を開
始した」旨を宣言したとのことである。
9 月 29 日というキリの悪い日に開始したのはライバル都市よりも 1 日でも早く始めたか
ったからではないかという穿った見方もできるが、おそらく 10 月 1 日の国慶節休暇に入る
前に始めてしまおうという判断であろう。
その前日の 9 月 28 日に、北京市工商局も上海市工商局と同様に「本市における『三証合
一、一証書一コード』登記制度改革の実施に関する公告」106を発表している。内容はほと
んど上海市のものと同じだが、北京市における証明書の移行期間(過渡期)は「2020 年 12
月 31 日まで」とされており、あと 5 年以上もある(上海市では 2017 年 12 月 31 日まで)。
余談になるが、このような全国統一制度の地方細則を見比べてみると、文面が瓜二つな
ため、中央政府から雛形をもらって作成したことが丸わかりなのだが、担当者が「てにを
は」レベルの細かい表現を修正することでオリジナリティを出そうとしていることが微笑
ましい。例えば、上海の公告における項目名は「一、改革範囲/二、改革内容/三、其他」
だが、北京の公告では「一、実施範囲/二、改革内容/三、其他事項」というように微妙
に異なっており、目を凝らせば間違い探しゲームができそうである。
それはさておき、今回の改革によって、
企業の保有する各種証書が統一・簡便化
されたことは大いに歓迎したい。これま
で北京市で法人を設立する場合や、法定
代表者や住所等を変更する際には、工商
局、質量技術監督局、税務局(国税、地
税)をそれぞれ回って、3 種類の証明書を
取得・書き換えする必要があり、最低で
も 20 営業日以上かかっていたが、今後は
工商局において 3~5 営業日日程度で統一
107
版の営業許可証が取得できるとのことで
ある。
(野中信孝・弁護士)
106
http://www.hd315.gov.cn/xxgk/tzgg/djyw/201509/t20150928_1239676.htm
9 月 29 日、北京市石景山区の工商局でも「三証合一」第一号の営業許可証が発行された
(http://news.china.com.cn/live/2015-09/29/content_34389565.htm)。
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2.「三証合一」の導入に伴う上海市工商局の新書式発表
先月号の本欄でご紹介したとおり、上海では、営業許可証、組織機構コード証、税務登
記証の「三証」を一体化して、さらに番号も 1 つにするという「三証合一」の導入が 10
月 1 日より開始する。
上海市工商局では、9 月 23 日付で、「本市において『三証合一』、『一証書一コード』登
記制度改革の実施に関する公告」 108を発表した。
これによれば、会社の登記における申請書類は、1 つの申請書に一本化される。そして、
企業の設立・変更登記の際又は証書書換申請の際、工商局が統一コードを記載した営業許
可証を発行し、かつ全国企業信用情報公示システムにて公示する。
設立済みの企業が変更登記又は証書書換を申請する場合、元の営業許可証、組織機構コ
ード証、税務登記証を返納する。新しい営業許可証の発行後、従来の営業許可証、組織機
構コード証、税務登記証は失効する。
なお、2015 年 10 月 1 日から 2017 年 12 月 31 日までの 1 年 3 か月は、改革の移行期間と
し、その間は、書換未了の証書は引き続き有効とする。但し、移行期間終了後は、全て統
一コードを記載した営業許可証を用いることを要し、書換未了の営業許可証は失効する。
三証合一の導入に際して、工商登記に必要な申請書類が新しくなり、設立登記・変更登
記・届出が一体の用紙 109となっているほか、税務登記の際に要求されていた財務責任者の
届出書が含まれている。また、工商連絡員の届出用紙も追加された。工商連絡員は他の省
や市では既に導入例もあるが、今回の上海市の届出用紙の注記によれば、企業と登記機関
との連絡窓口となるべき者であり、企業信用情報システムを用いて企業情報の公示を行う
担当者であることが要求されている。
また、これまでは、手続の種類ごとに必要書類リストが作られていたのが、設立110・変
更111・届出 112・抹消113といった大分類にまとめられたこと、また、従前申請書に含まれて
いた手続代理人の指定・委任の書面が独立の書面となったこと114など、細かな点で変更が
見られる。
そのため、これまで上海での手続に慣れてきた企業も、改めて各関係資料を熟読して、
変更点がないか、注意する必要がある。また、9 月末は工商局が移行対応のために、新規
の手続の受付をストップしていたが、今後も、運用の改善・変更等により手続が予定通り
進まない可能性もあるので、手続には余裕を持って当たる必要がある。
(弁護士・山根基宏)
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110
111
112
113
114
http://www.sgs.gov.cn/shaic/html/dtxx/2015-09-23-0000009a201509230001.html
http://www.sgs.gov.cn/shaic/downloads/tables/mulu-85-1.doc
http://www.sgs.gov.cn/shaic/downloads/tables/mulu-85-5.doc
http://www.sgs.gov.cn/shaic/downloads/tables/mulu-85-6.doc
http://www.sgs.gov.cn/shaic/downloads/tables/mulu-85-7.doc
http://www.sgs.gov.cn/shaic/downloads/tables/mulu-85-8.doc
http://www.sgs.gov.cn/shaic/downloads/tables/mulu-85-3.doc
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TMI 中国最新法令情報―2015 年 9 月号―
発
行:TMI 総合法律事務所
監
修:何連明・外国法事務弁護士
編集主幹:山根基宏、中城由貴・弁護士
発 行 日:2015 年 9 月 30 日
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