セクシュアルハラスメントへの考え方

L EGAL R EPORT
「セクシュアルハラスメントへの考え方」
2015.05.20
おかやま番町法律事務所
るリスクを負うことになり
ん。その一歩手前,相手が
ます。
嫌がるかもと思った時点で
2. セ ク ハ ラ と は
そのような行為はしないと
セクハラとは,相手の意
いう姿勢を企業内に徹底し
に反する性的言動をいいま
てこそ,予防につながるの
す。そして,相手の意に反
だと思います。
するかどうかについて均等
3. 違 法 性 の 判 断 基 準
法 施 行 通 達 (H 18.10.11雇
もっとも企業側がどれほ
児 1011002号 ) で は 「 平
ど予防を心がけても,セク
□主な経歴
均的な女性労働者の感じ
ハラ問題が生じる可能性は
岡山市生まれ
方」を基準とする,とされ
否定できません。また,相
岡山県立岡山一宮高等学校卒業
ています。
手方の意に反する性的言動
弁護士 溝 渕 順 子
岡山大学文学部文学科卒業
岡山大学大学院法務研究科卒業
1.
はじめに
しかし何をもって「平均
の全てが,人格権侵害とし
的」とするのか,この判断
て損害賠償の対象となるわ
は個人の価値観に左右され
けでもありません。
るといえるでしょう。むし
裁判所は,職場において
セクシュアルハラスメン
ろセクハラ防止のために
上司が部下に対しその地位
トすなわちセクハラは,今
は ,「 平 均 的 」 か ど う か で
を利用して,相手の意に反
日 ,人 権 問 題 の 一 つ と し て ,
はなく,対象者の主観すな
する性的言動に出たとして
社会の中で一定の地位を占
わち当該相手が嫌がるかが
もすべて違法と評価される
め る に 至 り ま し た 。「 セ ク
重要だと考えます。
ものではいとした上で,
「そ
ハラ」という言葉が誰にで
ここで注意していただき
れが社会的見地から不相当
も通じる一般的なものにな
たいのは,対象者の明示的
とされる程度のものである
ったことは,日本社会が一
な拒否の有無を問題にして
場合には,性的自由ないし
歩成熟したことを意味する
いるのではないという点で
性的自己決定権等の人格権
のだと思います。
す。加害者(敢えて加害者
を侵害するものとして違法
他方この事実は,企業に
と い う 言 葉 を 使 い ま す 。)
になる」とします。そして
使用者としての法的責任が
はしばしば,相手が嫌がっ
その考慮要素について,
「そ
生じるようになったことも
ているとは気づかなかった
の行為の態様,行為者であ
意味します。そして一度セ
な ど と 主 張 し ま す 。し か し ,
る男性の職務上の地位,年
クハラ問題が発生すると,
相手が嫌がっていると気づ
齢,被害女性の年齢,婚姻
企業は,被害者・加害者の
いたらやめるという態度で
歴の有無,両者のそれまで
双方との間で紛争となりう
は,予防にはつながりませ
の関係,当該言動の行われ
-1-
た場所,その言動の反復・
対する抗議や抵抗ないし会
びこれによる従業員Aらの
継 続 性 ,被 害 女 性 の 対 応 等 」
社に対する被害の申告を差
被害の事実を具体的に認識
( 名 古 屋 高 裁 平 成 11年 7月
し控えたりちゅうちょした
して警告や注意等を行い得
16日 ) を 上 げ て い ま す 。
りすることが少なくないと
る機会があったとはうかが
したがって,企業内でセ
考えられること」や,本件
われないことからすれば,
クハラ問題が生じた場合,
での各行為の内容等に照ら
被上告人らが懲戒を受ける
企業側としてもこれらの点
せ ば ,「 仮 に 上 記 の よ う な
前の経緯について被上告人
を念頭に置いて対応にあた
事情があったとしても,そ
らに有利にしんしゃくし得
る必要があるといえます。
のことをもって被上告人ら
る事情があるとはいえな
4
最 判 平 成 27年 2月 26日
に有利にしんしゃくするこ
い 」( ※ 番 号 に つ き 筆 者 加 筆 )
セクハラ行為の行為者に
とは相当ではない」と示し
としたのです。
対する会社の懲戒処分に関
ました。
あくまで具体的事案に即
し,当該処分の相当性が争
⑶
更に,原審は,行為
しての判断ですが,①②③
われた事件において,本年
者が懲戒を受ける前にセク
要件を示しつつ,懲戒を受
2月 , 最 高 裁 は 原 審 を 破 棄
ハラに対する懲戒に関する
ける前の経緯について斟酌
した上で自らの判断を示し
会社の具体的な方針を認識
されない場合があることを
ました。ニュースとして大
する機会がなく,また事前
示したものといえます。
きく取り上げられましたの
に会社側から警告や注意等
5.最後に
で記憶されている方も多い
を受けていなかったことに
本件で会社側は,就業規
のではないでしょうか。
ついて,行為者に有利な事
則への明記は当然のことと
⑴
本件で問題とされた
情としてしんしゃくしまし
して,さらに職場における
各行為は,いずれも身体的
たが,最高裁はこれを否定
セクハラ防止を重視し,セ
接触ではなく,言葉のみに
しました。そして「①管理
クハラ禁止文書の作成や配
よるものでした。これにつ
職である被上告人ら(=行
布,毎年のセクハラ研修の
いて最高裁は,言葉のみに
為者)において,セクハラ
義務付けなど,数々の取組
よる行為であってもセクハ
の防止やこれに対する懲戒
を行っていました。にもか
ラにあたりうることをはっ
等に関する上記(1)のよ
かわらず,セクハラ行為が
きりと認めました。
うな上告人の方針や取組を
発生したことは,セクハラ
⑵
次に,被害者からの
当然に認識すべきであった
の根深さを示しているとも
明示の拒否がなかったこと
といえることに加え,②従
考えられます。
を原審が行為者に有利な事
業員Aらが上告人に対して
個人の価値観が大きな意
情として斟酌したのに対
被害の申告に及ぶまで1年
味を持つ問題である以上,
し,最高裁はこれを否定し
余にわたり被上告人らが本
予防のための姿勢とそれに
ました。そしてその理由に
件各行為を継続していたこ
基づく日々の取組の積み重
ついて「職場におけるセク
とや,③本件各行為の多く
ねが最も重要だと思いま
ハラ行為については,被害
が第三者のいない状況で行
す。
者が内心でこれに著しい不
われており,従業員Aらか
快感や嫌悪感等を抱きなが
ら被害の申告を受ける前の
らも,職場の人間関係の悪
時点において,上告人が被
化等を懸念して,加害者に
上告人らのセクハラ行為及
-2-
2015.5.20