技術レポート 2 車載機器の複合環境試験 −概要及び試験の考え方− 泉 重郎* 近年の自動車は、省エネルギー、リサイクル化の推進、公害防止等の社会的要求や、安全 性の向上、快適性及び利便性の追求のような個人的要望に応える取組みが進められている。 これらに対応する複雑な制御システムはカーエレクトロニクスなしでは語れない状況になっ てきている。自動車用電装品のエレクトロニクス化が更に発展して、診断システム、シリア ルデータ伝送制御、ナビゲーションと、車室内外への情報表示と発信が必要とされる時代と なってきている。車載電子機器類の増大とともに、その取り付けられる場所の多様化のため に、電子機器単独の耐環境性を把握していても、車両に搭載すると結果が変わることもあ る。実際には比較的環境の良い室内搭載もあるが、大部分は車室外の低温、高温高湿で機 械的振動の影響を受けるエンジンルーム等にて使用されている。実際の使用環境で所定の性 能と安全性を長期間維持するため、多種類の車両に搭載される電子機器および電子機器を内 蔵した機械装置について複合試験が実施されている。ここでは車の使用環境を想定した温湿 度と振動を組み合わせた複合環境試験の考え方の実例と紹介を行なう。 1.はじめに 2.車載機器の使用環境 最近の自動車は高性能化、高機能化を実現するために、ま 自動車の使用環境において、それらの要素としては、温度、 すます電子制御化の傾向が強く、最も技術開発の力が注がれ 湿度、振動、雨水、耐候、電圧変動、サージ電圧などがある。 ている分野であり、各種制御システムは機能の複雑化が進ん 温度環境を考えると、自動車自体が発熱源であり、エンジン でいる。この背景には、 (1)安全性と快適性へのニーズが高まり、四輪操舵、ブ ルーム内の温度は100 ℃前後まで上昇する。また、気象条件 にも左右されるが、炎天下の駐車時、ダッシュパネル上部に レーキ制御、トラクションコントロール等安全快適 て100 ℃以上、トランクルーム内で65 ℃以上、車室内のイン 装備が多くの車に採用され始めた。 パネ等は100 ℃以上まで上昇することもある。湿度に関して (2)燃費向上、排出ガス規制等が進められ一般走行中に は、単なる雨水による高湿度のみでなく、温度の急変による これらの改善とドライバビリティの両立が求められ、 結露の発生が起こり、トランクルームでは最大で 38 ℃、95% 高度な制御が要求されるようになった。 の状態になることもある。振動に関しては、道路走行中のボ ことがあげられる。 高度に電子化された車の制御システムでは、電子制御機器 の信頼性が自動車全体の信頼性に及ぼす影響は重大である。 ディシャーシ振動は、2.2 ∼ 4.4G の加速度を受け、エンジン 振動は、20 ∼40G の加速度を発生しエンジンルーム内に影響 を与える。 一般的に電子デバイスやユニットの耐久性や動作特性は、 使用環境の影響を受ける。そのため、デバイスやユニットを 組み込む機器の開発設計や採用を検討する際に、実使用条件 に対して環境試験項目をどのように設定するかが、合理的な コストを踏まえた実用性確保と所要性能維持のために重要な 課題となってきている。 3.車載機器に影響する車の温湿度環境 3-1 自動車の発熱源(エンジンルームの温度条件) 自動車の場合、主な熱源は、エンジンの発熱、オートマチ ックトランスミッション及びブレーキ系の摩擦に伴う発熱で ある。特に、高温気象下での登坂走行や渋滞運転時のエンジ ンルーム内は熱的に厳しい条件になる。最近は空気抵抗減の ために冷却空気取入口が小さく、加えてDOHC、ターボチャ ージャーなど高出力化により、発熱量が増えて熱気の吹き溜 * 複合プロジェクト 5 ESPEC 技術情報誌 No.9 りでは80 ∼ 120 ℃を覚悟しなければならなくなっている。エ ンジンルーム各部の最高温度例を表1に示す。 3-4 電子機器の耐温度環境要求事例 車載電子機器が温度に関して要求される条件は、 ① 低温、高温状態での正常動作。 表1 エンジンルーム内の各部位の最高温度例 場 所 最 高 温 度 エンジンクーラー 120℃ エンジンオイル 120℃ トランスミッションオイル 150℃ 吸気マニホールド 120℃ 排気マニホールド 650℃ オルタネータ吸気エアー 130℃ ② 短時間内での急激な温度上昇下降状態での正常動作。 であり、急激な温度変化と、発進、停止の振動を受ける環境 にて、耐久性を有することが非常に重要なこととなる。 (事例1) 真夏の炎天下駐車場よりの発進にて、80 ∼ 120 ℃で安全作動を要求され、発進後10 分も走 行すれば、エアコンが効き 15 ∼ 20 ℃になり、 停車するとまた高温に戻っていく。 「自動車エレクトロニクスと信頼性」から引用 (事例2) 北国の冬、早朝(-30 ℃前後)エンジンをかけ ると同時に全ての機能は正常に作動しなければ 3-2 駐車中の車室内温度 ならない。 炎天下で駐車中の車室内は密閉されたサンルーム状態であ 発進後 10 分もするとエンジンルームは 80 ∼ り、前後のウインドガラスを通して太陽光にさらされるフロ 120 ℃、室内はカーエアコンが効き 20 ∼ 25 ℃ ント、リアーパネル付近は110 ∼ 120 ℃くらいまで温度が上 になり、停車しエンジンを止めるとまた-30 ℃ 昇し、それ以外のヘッドライニング、前後部座席付近は65 ∼ に戻っていく。 85 ℃くらいに達する。車室内の主な場所での最高温度例を表 2に示す。 3-5 カーエレクトロニクス・センサーの耐環境性 カーエレクトロニクス・センサーは、温度、湿度、振動、 表2 車室内の各部位の最高温度例 場 所 最 高 温 度 フロントパネル計器盤上部 120℃ フロントパネル計器盤下部 71℃ 室内床面 105℃ リアーデッキ 117℃ 83℃ ヘッドライニング 「自動車エレクトロニクスと信頼性」から引用 高圧サージ、電源変動など使用環境条件が厳しく、その故障 が事故につながりかねず、高い安全性と信頼性が求められ る。 カーエレクトロニクス・センサーに求められることとして は、 ① 要求精度は、他の分野に比べて特に厳しくない。 ② 耐環境性と信頼性については、他の分野に比べて格段に 厳しさが要求される。 である。 3-3 自動車の湿度環境 各種用途センサーに要求される仕様と耐環境性について表 最近はほとんどの車種にカーエアコンが装備され、冷却さ れた機器がドアーの開閉等により高湿の外気にさらされて、 4 に示す。 最新のセンサーの用途としては、2 軸加速度センサーにて 容易に結露が発生するようになった。車載オーディオ機器の 測定してシャーシを制御したり、3 軸加速度センサーにてエ 場合を例として取り上げてみると、寒冷地のスキー場等に駐 ア・バックを作動させているものがある。 車中の車内で暖房を使用した時、フロントパネル外側に取り 付けられた機器は、エンジンルーム内のエアコンの吹き出し 表4 各種用途センサーに要求される仕様と耐環境性 の熱風にさらされ急激な温度変化により車室内との温度差が 生じる。車室内の主な部分の最高湿度例を表3に示す。 精 度 家庭用 計測用 航空機用 自動車用 数% 0.1∼1% 0.1∼1% 1∼数% 動 作 温 度 −10∼50℃ 0∼40℃ −55∼70℃ −40∼120℃ 表3 自動車各部位の最高湿度例 場 所 最 高 湿 度 耐 振 動 電源電圧変動 環 電磁環境 エンジンルーム(エンジン付近) 38℃ 95%RH エンジンルーム(ダッシュボード) 66℃ 80%RH 座席シート 66℃ 80%RH 両側面ドアー付近 38℃ 95%RH 各種ガス フロント計器盤付近 38℃ 95%RH 信頼性(故障率) 66℃ 80%RH リアーデッキ 38℃ 95%RH トランクルーム 38℃ 95%RH 水 水 性 フロアーシート 境 塩 泥 水 ∼5G 1G 0.5∼10G 2∼25G ±10% ±10% ±10% ±50% 良 良 良∼最悪 悪 なし なし 有 有 有 なし 有 有 なし なし なし 有 なし なし なし 有 − − (10 −9以下) 10万km (10 −9) 〈10−9以下/時間〉 「自動車エレクトロニクスと信頼性」から引用 ESPEC 技術情報誌 No.9 6 4.車載機器に関係のある車の振動の種類 と振動特性 車室内の振動・騒音は多数の振動源から成り立っており、 車室内の振動・騒音の発生メカニズムの概略を図1に示す。 その発生条件や周波数帯域によっていくつかに分類され る。エンジン振動、ギヤノイズ、ロードノイズ、タイヤノイ ) 動が問題となる低周波数振動は、主に路面よりの振動であり、 振動の種類は、ランダム振動・ショック振動(突起路、段差 路)である。 エンジン中、高周波振動、騒音 現 象 振動 源 騒音 ズ、風騒音等に大きく分類される。また、ばね上・ばね下振 エンジン音 排気、吸気音 エネルギー 伝達系 エンジン振動 排気管曲げ振動 トルク変動 駆動系曲げ振動 ギヤノイズ ロードノイズ 風雨騒音 ギヤかみあいガタ 路面、タイヤ 風、雨 駆動軸ねじり振動 懸 架 系 振動伝達 空気伝搬 ( ) 排気マウント系 エンジン、ミッション、マウント系 車体シール性 防振、防音処理 防振、防音処理 ボデー(振動、音響特性) 放射系 車室内振動騒音 「自動車技術ハンドブック 試験 評価編」第6章より引用 図1 車内振動騒音の発生メカニズムの概略図 4-1 走行時に発生する車の振動 ① 1 ∼2Hz の振動(ばね上ボデーのピッチング・バウンジ ホイールが低周波振動を起こす。ブルブル振動は4気筒 で20 ∼ 35Hz 、6 気筒で30 ∼ 50Hz であり、ユサユサ振 ング振動) 動は5 ∼10Hz で燃焼不均一にて発生し、エンジンロール 高速道路の大きなうねりを走行時や路面の凸凹を乗り越 振動が主な要因である。 した後に、ボデーが連続的にフワフワする。この振動数 はばね上の固有振動数にて決まる。 ② 2 ∼ 15Hz で車体全体がブルブルと振動 連続的な凸凹路面走行や大きな段差を乗り越した後に発 生する。ばね下共振、エンジン剛体共振、ボデーの弾性 共振によって増幅され、シート、ハンドル、フロアまで 伝達する。 ③ 15 ∼ 30Hz の運転者まで伝わるゴツゴツ振動 連続的に荒れた路面走行時に、上下、前後の路面刺激が サスペンション系で減衰しないで伝わる振動。 4-2 走行時のエンジン低周波数振動 自動車のエンジン−サスペンション系の剛体共振は 10 ∼ 4-3 サスペンション系の振動特性 サスペンション系の振動特性は、静特性とは異なった特性 を持ち、防振ゴムは振幅や周波数への依存性が大きく、ロー ドノイズで問題となる高振動数、小振幅では振動伝達特性が 悪くなる。コイルスプリングではサージングによる急峻なピ ークが高周波数に有り、高いバネ定数となる。ショックアブ ソーバでは防振ゴムと同じヒステリシス減衰に近い特性とな る。 サスペンション系には色々の振動が伝わるが、主なものに は次のようなものがある。 ① 道路の凸凹によってタイヤに発生する垂直、水平二方向 の振動。 30Hz で、その振動現象は多種であって、スタート時・アイ ② ブレーキ摩擦面の制動時に発生するトルク変動。 ドリングの車体振動、発進・変速時の急激なエンジントルク ③ エンジンからタイヤまでの回転部の静的、動的アンバラ 変動によるショックと車体前後のシャックリ振動が起こる。 ① エンジンシェーク(7 ∼20Hz) エンジン、車体、サスペンションの連成系において車体 の剛体振動とエンジン系の共振により低周波振動が発生 する。これをエンジンシェークと呼ぶ。 ンスよって生じる回転振動。 ④ トランスミッションやデフなど歯車ギヤーの噛み合い時 に発生する400 ∼ 1kHz の高周波振動。 ⑤ ブレーキの摩擦面の自励振動にて発生する1 ∼数 kHz の 高周波振動。 ② アイドル振動(20 ∼50Hz) アイドル回転状態で、フロア、シート及びステアリング 7 ESPEC 技術情報誌 No.9 4-4 ステアリング系の振動特性 ③ キックバックは悪路走行時に操舵輪のタイヤに加わる垂 直、水平二方向の振動がタイロッドに伝わり、ステアリ ステアリング系に作用する振動は、サスペンションに作用 するものと同じで直接作用するものは少なく、タイヤ、サス ングホイールが周方向に急激に回転する現象である。 ペンション系で増幅されて作用する。その他の振動現象には、 FF 車では操舵輪に駆動力が作用するため、FR 車に比べ て前後方向の力変化を受けやすい。 タイヤホイールやブレーキドラムなど回転部の動的アンバラ ④ タイヤについては、静ばね特性で見れば縦ばね、横ばね、 ンスや、路面の凸凹によるキックバック、パワーステアリン 前後ばね、ねじりばねの要素からなる。実際の振動に関 グの振動などがある。 連が深いのは縦ばね定数で、ほぼ空気圧の増加に比例し ① 低速シミー* 1 は走行エネルギーが操舵系内に蓄積されて 発生する自励振動で、20 ∼60km/h の低車速で発生する。 て硬くなる。タイヤの固有振動数は空気が充填された弾 振幅は大きく、摩耗したタイヤ、空気圧の低いタイヤほ 性体で、固有の振動数と振動モードをもっている。ラジ ど発生しやすい。 アルタイヤは90、110、135、160Hz 付近に、バイアスタイ ヤは、140、155Hz 付近に固有振動数をもっている。 ② 高速シミー* 1 は車輪の静的又は動的アンバランスが主な 振動で、このほかにディスクホイールの偏心、傾き、タ イヤのノンユニフォミティ* 2 などで起きる。タイヤホイ 以上、車載機器に影響する車の振動特性として、サスペン ールのアンバランスによって10Hz ∼ 30Hz 付近にピーク ション系、ステアリング系について述べたが、関連する車両 が あり、振幅は小さいが、摩耗したタイヤや内圧の低い の振動・騒音現象を振動発生入力と、発生周波数で分類した タイヤでは振幅は大きくなる。 ものを図2に整理する。 周波数 1 路面入力 5 乗 り 10 心 50 地 100 中低速シェーク ロードノイズ 高速シェーク シミー タイヤノイズ サージ パワートレン 入 力 1000Hz ハーシュネス キックバック タイヤ・車輪 加振力 500 ギヤノイズ ワインドアップ駆動 シャクリ エンジン騒音 アイドル振動 低速こもり音 中速こもり音 高速こもり音 ブレーキノイズ ブレーキ入力 図2 サスペンション・ステアリング系への振動入力と発生現象 4-5 ボデーの弾性振動と振動騒音現象 走行時には種々の振動・騒音現象 が感じられる。走行するためのエン ジン駆動、動力伝達装置などが発生 表5 ボデーの弾性振動と振動騒音現象 振 動 騒 音 現 象 ボ デ ー の 弾 性 振 動 する強制力や、道路上を走行するこ シェーク(フロント) ボデー1次曲げ共振(5∼30Hz) とにより発生する路面からの振動な シェーク(ラテラル) ボデー構造1次ねじり共振(5∼30Hz) アイドル時の振動 ボデー構造1次ねじり共振(5∼30Hz) しゃくり振動 フレーム構造1次曲げ共振(∼10Hz) 加減速時の振動 ボデー1次曲げねじり共振(5∼30Hz) 低速時こもり音 車室内全床膜共振(30∼50Hz) 中速時こもり音 パネル部の局部振動(50∼100Hz) で、新合成材料やボデー構造の開発 高速時こもり音 パネル部の共振(100∼200Hz) 研究が盛んである。 ロードノイズ・ハーシュネス 上記全ての共振 どが車室に伝わり、車室内の振動・ 騒音現象が発生する。表5にボデー の弾性振動と関連のある振動現象を 示す。 このように、ボデーの振動は多く の振動・騒音に関連しており、安全 強化、軽量化、これから重要なテー マとなるリサイクル化の動きのなか 関 連 の あ る 振 動 現 象 エンジン懸架系の剛体振動、フロント ばね下共振、ステアリング系振動 リア足まわりのトランピング共振 ジート横振動 エンジン懸架系の剛体振動 排気管系の振動 駆動系ねじり1次振動 エンジン懸架系の剛体振動 駆動系1次2次振動 リアサスペンションワインドアップ共振 気柱共鳴 リアサスペンション系の弾性振動 駆動系ねじり4次振動、気柱共鳴 ドライブインの振動 気柱共鳴 タイヤ−サスペンション系の振動 * 1 前輪タイヤのアンバランスやノンユニフォミティによって発生するハンドル回転方向の振動をシミーという。 * 2 タイヤの重量、内部剛性、寸法的な不均一性をノンユニフォミティという。 ESPEC 技術情報誌 No.9 8 4-6 駆動系から発生する振動・騒音の特性と性質 の振動波形は、ランダム波・ランダムon ランダム・サインon 駆動系に起因する振動・騒音を発生現象別に分類すると、 ランダムに分類される振動現象が起きるので、動力系伝達振 動の試験では、実車振動の分析と再現のできる高度な振動コ 表6のようになる。 このように動力伝達系の回転部分のアンバランス、折れ角 ントローラが必要となる。 によるトルク変動、歯車の噛み合い等が発生源となっており、 運転条件によるエンジンからの動アンバランスやトルク変動 表6 駆動系に起因する発生現象と性質 振 動 源 発 生 現 象 周波数領域 エンジントルク変動 サージ(振動) 2∼10Hz クラッチ非線形 ジャダ(振動) 2∼10Hz ペラ軸折れ角 発進時振動(振動) 10∼20Hz エンジントルク変動 ワインドアップ(振動、こもり音) 20∼50Hz 回転アンバランス ワインドアップ(振動、こもり音) 20∼50Hz エンジントルク変動 駆動系ねじり(こもり音) 50∼80Hz ペラ軸折れ角 駆動系ねじり(こもり音) 50∼80Hz エンジン往復慣性力 パワープラント/ペラ軸 曲げ振動(こもり音) ハイポイドギヤかみ合い力 パワープラント/ペラ軸 曲げ振動(デフ音) 5.車載機器の複合環境試験についての 考え方 自動車部品への信頼性試験、環境耐久試験は使用環境条件 100∼200Hz 400∼2kHz 加振波形の評価としては、加振エネルギーはサイン波が大 きく、ランダム波は適格なパワースペクトルで行なえば使用 環境に近づく。制御はデジタルコントローラの普及によって、 サイン、ランダム、ショック波の試験は容易になっている。 を十分考慮して制定された JASO-D001 の環境試験方法通則 通常は、低速掃引周波数正弦波において、振動周波数範囲と に準処して行なわれている。しかし、車載機器の使用環境条 周波数軸に対して加速度レベルを一定または2 ∼ 3 段階値を 件は最近ブームの RV 車やワンボックスカーに代表されるよ 変えたパターンが多く、共振点耐久試験では固定周波数正弦 うに、実に多種多様なユーザーのニーズに応える車種が増え、 波が使用される。エンジン振動と走行時路面振動の影響を直 同じ部品でも取り付け位置が変わり作動状態も大きく異なる。 接受ける部品にはランダム波試験が採用され始めている。 最近は MIL 又は IEC 規格を参考とした環境シミュレーシ 最近は一方向の振動だけでなく、三方向(垂直・前後・左 ョン試験(EST) の採用が進んでいる。個々の車載部品の使 右)を切り替え、又は同時に加振可能な多次元多軸振動機が 用環境の温湿度と車種による車の振動と振動特性がその使用 採用されるケースもある。車載オーディオ機器の音飛び再現 場所に、走行時どのように影響するかを考慮した複合環境試 評価試験に、三方向同時多次元多軸振動機による実際の走行 験が信頼性、耐久性、評価のための試験として増えている。 振動波形の再現試験が効果をあげている。 5-1複合環境試験の振動加振波形 5-2 複合環境試験の代表的事例 実際の走行状態の再現と評価に必要とされる振動波形を分 類して下記に示す。一般的に使用される振動機は動電型の単 軸空冷の振動機である。 5-2-1 ランダム波試験条件 取付け場所に加わる振動は、三方向のトータル Grms 値も 異なり、垂直・水平の試験が必要であり、車種によって振動 が異なることが分かる。この試験条件に温度・湿度の条件を 同時に加えることによって複合環境試験を行うことができる。 正 弦 波 (サイン) 固定周波数正弦波 低速掃引周波数正弦波 ステップ掃引周波数正弦波 加振波形 広帯域波 定 常 波 非定常波 ランダム波 サインonランダム波 ランダムonランダム波 クラシカルショック ショックonランダム波 ショックレスポンススペクトル 実際の走行振動波形 表7 ランダム波試験の代表的事例 車 種 12V系 24V系 取り付け箇所 振動方向 トータル値 振動数 全般 インパネ、床 センターコンソール 上 下 左 右 前 後 全般 インパネ、床 センターコンソール 上 下 左 右 前 後 3.25 Grms 2.79 2.73 15 ∼ 2.19 Grms 0.66 500Hz 1.62 試験時間:2h 9 ESPEC 技術情報誌 No.9 5-2-2 サイン波試験条件 5-3 車室内に搭載する機器の実使用状態での劣化と 加速寿命試験について 自動車用電子機器の信頼性試験、耐久性評価試験は長時間 表8 サイン波試験の代表的事例 振動周波数 周 期 振動加速度 12V系 15 ∼ 60Hz 24V系 20分 振動方向と時間 上 下 4h 左 右 2h 前 後 2h 4.4 G 6.8G(3mm) 12V系と同じ 33Hz を必要とする。電子機器開発と多種多様な仕向け先の車両開 発との整合性を維持しながら、試験時間の短縮が不可欠で、 加速寿命試験の実施が求められている。加速寿命試験とは、 使用環境条件または最大定格に対してそれ以上の厳しいスト レス(2 個以上の環境因子の組合等)を加えて、時間的、物 いずれも非通電 理的に劣化を加速させ、効率よく製品、部品の寿命を推定す 表8は、ばね上の振動試験条件として一般的に公表されて る試験である。 いる試験パターンである。最近は振動発生機のロングストロ ここに紹介する内容は、国内大手自動車メーカーが廃車に ーク(100mmp-p)化と、スイッチングアンプの採用による 搭載されていた自動車用電子機器150 台の回収調査結果より 最大振動速度( 200cm/sec)が UP して、 5Hz にて 4.4G 発表した、貴重な半田接合寿命評価の報告である。 (79mmp-p)が可能となりボデーの共振点付近の試験が可能 となった。これに車室内外の温湿度条件を同時に加えること によって複合環境試験を行うことができる。 ① 全ての電子機器は電気接続上は全く問題は起こっていな かったが、外観上一部リードピン周辺にクラックが発生 し、破面は粒状化した典型的な熱疲労破面であった。 5-2-3 複合試験サイクル ② クラック発生部はリードピン近傍と基板穴周囲の半田フ ィレット部に限られていた。 ③ クラック発生部はリードピン界面から剥離したものでは +85℃ 左記温度サイクル中に 振動を加える 振動周波数:15∼60Hz 周 期:5分 振動加速度:2.2 G 加 振 方 向:上下方向 −30℃ 1 10 2 10 1 図3 複合試験の代表的事例 なく、半田自身の中で発生している。 ④ 劣化のメカニズムの推定としては、半田接合部に繰り返 し応力が印加され、SN の拡散、α相の粗大化が進み、 α・β相の界面の結晶粒界に微小空穴が発生し、破壊応 力の低下を起こす。 上記検討で得られた内容より、実使用状態での寿命予測を フィールドモデル式により予測し、車載電子機器のはんだ接 図3は、車室内のフロントパネルのディスプレイおよびナ 合寿命評価法が発表されている。今後開発リードタイムの短 ビゲーションの液晶表示部の複合環境試験等の試験パターン 縮化の要求から加速寿命試験の必要性が増え、アッセンブリ に応用できるサイクル試験である。ハンドル内エアーバック ー部品への実施が進むと予想される。 アッセンブリユニットおよび助手席用エアーバックユニット の複合環境試験では、RT(23 ℃)が追加され、前後方向と × 1000 左右の方向振動試験の追加と振動周波数は5 ∼100Hz に広が って、各振動方向の加速度値も変えている。このように新し く登場する車載機器の評価試験では、走行時の振動と振動伝 達特性の違いによる、三方向の取付状態での機器の振動と温 度を同時に行う複合環境試験を実施している。 写真1 クラック部の破面 × 1000 α相 β相 β相の 遊離 写真2 クラック部の拡大断面 ESPEC 技術情報誌 No.9 10 5-4 自動車の試験場での試験結果と市場での不具合結果 験が求められている。過去の経験実績(フィールドデータ) 複合環境試験装置を使った室内での環境シミュレーション と現在ある評価データより、合理的な評価試験を実施してい 試験以外に、各メーカーは、試験場のテストコースで実際に るが、市場での不具合発生の再現に、より近い用途別複合試 車を走らせてロード試験の評価を行っている。 験のニーズが高まっている。 試験場での結果と市場との故障率を比較した例を示す。 図 4 は、試験場での悪路走行による不具合と、市場での不 具合発生率との比較を示している。車体と操舵系は試験場の 故障率が市場の故障率を上回り、エンジン、ブレーキ、トラ ンスミッション、電気系統は逆に市場の故障率が大幅に上回 複合試験槽と単軸振動機との組み合せによる用途別試験シ ステムは増えてきているが、フィールドデータの再現性とい う点ではまだ十分とはいえない。 振動テーブル上の一方向の単軸振動波形再現については、 デジタルコントローラの進歩により、種々の振動波形の再現 っている。各々の試験での故障内容の分析がより必要となっ が可能となっているが、よりフィールドでの使用状態に近づ ている。 けるための振動再現方法として多軸振動がある。 図 5 は、試験場内での耐久試験結果と市場の故障データに 近年多軸振動試験装置の改良が進み、車載機器の受ける振 ついて相関を求めた例を示す。試験場での走行距離と故障率 動数範囲を再現できるシステムが市場に導入され始めている との関係は2700 マイルから30000 マイルまで一定の関係であ が、複合多軸三方向試験システムを実現するためには、まだ るが、市場では5000 マイルから18000 マイルまでは走行距離 多くの課題が残されている。 と故障率との関係は試験場より下回り、20000 マイル以上で 課題としては、 は上回っている。試験場での耐久評価試験方法に検討課題が (1)槽内にて振動テーブルが三方向抱束されずに動く構 あることを示していると考えられる。 造を維持しながら、槽と振動発生機との連結と完全な シールを実現すること。 (2)限られた操作面とスペースにおける、槽内振動テー 6.おわりに ブルへの試料脱着の作業性の改善。 車載機器の複合環境試験に適用する温湿度条件と、車の走 行時の振動発生と振動特性の説明を行い、その試験の事例と 最近の試験動向について述べた。 などである。 単軸複合試験の性能を維持しながら、環境試験器メーカー が複合多軸試験における上記の課題が解決できれば、温湿度 新しく登場する車載機器は、開発期間のより一層の短縮化 と多軸振動の組み合せによる複合試験市場への複合多軸試験 要求により、商品のライフサイクル試験も含めた加速評価試 器の導入が進み、複合環境試験の今後の展望が開けると考え られる。 24 フォード社の試験結果 480 試験場 市場 20 400 16 12 試験場 320 故 ︵ % ︶ ︵ % 160 ︶ 障 発 生 240 率 8 10 ク レ ー ム 率 4 80 0 0 5 故障率(%) 20 4 3 市場 2 18200 =3.3:1 5500 1 5500 mile 車 体 電 バ 気 ン 系 パ 統 ラ ジ エ ー タ 操 舵 系 燃 料 系 統 車 輪 タ イ ヤ ト ラ ン ス ミ ッ シ ョ ン ブ レ ー キ 装 置 後 輪 懸 架 前 輪 懸 架 エ ン ジ ン 18200 mile 0.5 0.4 0.3 0.2 1000 2 3 4 5 10000 2 3 4 5 100000 (マイル) 図4 試験場での悪路走行による不具合と市場での不具合発生率との比較 図5 試験場内での耐久試験結果と市場故障データについての相関 [参考文献] 1)押野康夫,永島博通,棚橋慈孝:「No.1 基礎・理論編 第 7 章 振動乗り心地・騒音の基礎・理論」 「No.3 試験・評価編 第 4 章 強度・耐久信頼性試験、第 10 章 電送品・電子システム試験」、 自動車技術ハンドブック、社団法人 自動車技術会 2)松重誠一(トヨタ自動車):「加速寿命試験の考え方と実施例」、第 21 回日科技連信頼性・保全性シンポジウム報文集、 (1991) 3)西 干機:「自動車エレクトロニクスと信頼性」、電子材料 5月号、(1979) 11 ESPEC 技術情報誌 No.9
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