障害年金不支給処分取消請求事件 判決要旨メモ

障害年金不支給処分取消請求事件
判 決 要 旨メモ
(大阪地判
原告
被告
平成27年5月15日)
A (平成2年生まれ,女性)
国
主文要旨 被告が平成23年に原告に対してした国民年金法30条の4第1項の規定による障
害基礎年金を支給しない旨の処分を取り消す。
【事案の概要】
本件は,原告が,精神発達遅滞により国民年金法施行令別表の障害等級2級に該当する
程度の障がいの状態にあるとして障害基礎年金の支給の裁定の請求をしたところ,厚生
労働大臣から障害基礎年金を支給しない旨の処分を受けたことから,被告に対し,その
取消を求める事案である。
【本件不支給処分に至る経緯】
平成23年 5月 本件裁定請求
平成23年 7月 不支給処分
平成23年 9月 審査請求
平成23年12月 審査請求棄却
平成24年 2月 再審査請求
平成24年 6月 再審査請求棄却
平成24年12月 本訴提起
【争点】
1 障がいの評価のあり方について
(原告の主張)
障害は社会的に評価されるべきものであり,機能障害を基準とする国年令別表は,
憲法25条,14条等に違反する。障害年金の支給の可否は,機能的な支店からのみみた
障害の程度の軽重を基準とするのではなく,社会的に被る不利益が障害年金による経
済的支援を必要とする程度かどうかを基準とすべきであり,この基準によれば,原告
の障がいの状態は当然に障害等級2級に該当する。
(被告の主張)
国民年金は,労働者のみならず学生や無職の者も被保険者としており,労働能力の
損失の度合いにより障がいの程度を判断するのでは,労働に従事していない者の評価
を公平に行うことができないから,国年令別表が,障害基礎年金の支給要件となる障
害の状態を,日常生活の支障度を基準として判断することとしているのは合理的であ
り,憲法及び国民年金法の趣旨に反するものではない。
2 国年令別表の基準を前提とした場合の障害等級該当性について
(原告の主張)
国年令別表の基準を前提としたとしても,原告の障がいの程度は障害等級2級に該
当する。
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(被告の主張)
認定基準は,医学的地検等を踏まえて,詳細で具体的な基準を定めているのであり,
障がいの程度の認定は,特段の事情がない限り,認定基準に従って判断するのが合理
的である。認定基準に照らせば,原告の障害の程度は2級相当に該当しない。
【裁判所の判断の要点】
1 判断の枠組み
認定基準は,行政機関の内部的な取扱指針であり,法的拘束力はないものの,その
基準としての合理性を疑わせる事情を認めるに足りる証拠はなく,給付の公平性の確
保のためには一定の合理的な基準に従った運用がされる必要があること等をも考慮す
れば,障害の程度については,特段の事情がない限り,認定基準によって判断するの
が相当である。
2 具体的な検討
IQは51ないし58
療育手帳B2
生活訓練により日常生活能力に一定の工場はみられた者の,グループホームで提供
される夕食や,勤務先で一括して注文される弁当の昼食等を取って生活しており,自
発的に食事をバランスよく用意することなどはできなかった。
用便,入浴,洗面,着衣といった清潔保持についても,自発的かつ適切には行うこ
とができない。
少額の買物を単独で行うことはあるものの,計画的な金銭管理や一人暮らしを想定
した日常の買物等をすることもできなかった。
知らない人との会話等の意思疎通が困難であり,社会生活の中でその場に適さない
行動を取ることもあった。
とっさの出来事に対して臨機応変に対応することもできなかった。
職業訓練等の結果,自宅近くの職場に一人で公共交通機関を使って通勤して稼働し
ているのであって,一定の一般就労ができているものの,障害者枠での雇用であり,
その仕事内容は単純作業に限られ,上司から具体的な指示を受けその監督の下に行わ
れていたもので,就労しているからといってただちに原告の日常生活能力が向上した
ものとはいえない。
コンビニで出来合いのものを買ったり,インスタントラーメンを自分で作ったりし
て食事をしても,適切な食事摂取とはいえない。
周囲から促されなければ部屋の片付けをすることができず,美容院も支援員の援助
の下でようやく予約ができるという状態では,身辺の清潔保持を自発的に行うことが
できる状態に近いものとは評価できない。
銀行預金や現金の管理も,支援員が支援しているので,金銭管理を自発的にするこ
とができる状態に近いとは認められない。
知らない人との意思の疎通も困難で,外出も慣れた場所しか行けない。日常生活訓
練等の結果,日常生活能力に一定の向上がみられるとしても,日常生活上の基本的な
行為を自発的かつ適切に行うことができる状態に至っているとは到底認められない。
よって,国年令別表の合憲性,適法性について検討するまでもなく,原処分は違法
で取り消しを免れない。
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【原告代理人のコメント】
原告の診断書の「日常生活能力の程度」は,5段階中,障がいの重い方から2番目の「精
神障害を認め,日常生活における身のまわりのことも,多くの援助が必要である。」とな
っている。
日常生活能力の判定は,適切な食事摂取と身辺の安全保持及び危機対応が4段階中重い
方から3番目,身辺の清潔保持,金銭管理と買い物,通院と服薬,他人との意思伝達及び
対人関係は,重い方から2番目である。
通常,このような診断書では,障害年金2級が認められることが多いと思われる。にも
かかわらず,非該当とされたのは,長期間(原処分時点で2年半),家電量販店で安定的に
就労(ただし障がい者枠)していたことを過剰に評価したのが原因と思われる。
原告については,周囲の支援が手厚く,勤務先でもていねいなサポートが行われてい
た。原処分は,その点を十分にみることなく,長く働けているから障がいが軽いとみて,
不支給処分をしたものと思われる。
審査請求段階で,審査官は,勤務先にアンケート形式の調査票を送っていた。支援者
はそのことに気づかず,あとになってその事実を知った。勤務先は,何のための調査票
であるか理解しないまま,原告ががんばって就労しているという趣旨の回答をしてしま
った。このことも,審査請求段階で厳しく影響したものと思われる。
訴訟の進行中も,裁判体の心証は,必ずしも原告側に好意的なものではなかったと思
われる。原告本人尋問に先立ち,原告の陳述書を提出するように求められたのに対し,
陳述書など到底作成できるような陳述能力はないとしてこれを拒否し,とにかく本人の
供述を裁判所の目で見てもらうように要請した。
結果的には,原告の法廷での陳述は,本人の能力を反映したものとなった。また,支
援者の証言も,日常的に手厚い支援をしていることが伝わるよい内容のものであった。
これが裁判体の心証形成に大きく影響を与えたものと思われる。
厚労省で認定ガイドラインの策定作業中であること,厚労省が予定しているガイドラ
インに照らせば,本件は当然に支給決定の対象となるはずであることを主張して,控訴
を断念するよう働きかけた。その結果,控訴はなく,そのまま確定した。
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