Page 1 帯広畜産大学学術情報リポジトリOAK:Obihiro university

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'
牛白血病臨床診断のピットフォールと発症牛早期診断
の試み
猪熊, 壽
家畜診療, 57(3): 137-143
2010-03
http://ir.obihiro.ac.jp/dspace/handle/10322/2789
全国農業共済協会
帯広畜産大学学術情報リポジトリOAK:Obihiro university Archives of Knowledge
)
I
<特 集 >│ 増加傾向にある牛白血病の現状と対策
(1
牛白血病臨床診断のビットフォールと
発症牛早期診断の試み
いの〈ま
ひさし
猪熊書
帯 広 畜 産大 学 臨 床 獣医 学研 究 部 門
(
〒0808555 北海道帯広市稲 田町西 2線 1
1番地)
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増加する牛白血病発症頭数 1, 12. 23. 31)
牛白血病の臨床症状 4,S.9,[5.22.23,27.29
牛白 J
f
u病は,牛白血病ウイルス (BLV)または不特
牛白血病の腫蕩細胞は,全身の様々な l
臓器に浸潤
定の原因によりリンパ系組織が腫蕩化する疾息であ
するが,とくに地方病型牛白血病および散発型のう
る。本来一般に用いられる「白血病jとは,骨髄中の
ち,子牛型牛白血病の症例では ,多中 '
L
、性にリンパ
造胤細胞が1重傷化する疾患群であり,牛白血病の病
系組織の腫筋増殖がみられることが多いため,臓器
態生理!は,その他の動物種では悪性リンパ脆と定義
と浸潤の程度により多彩な│臨床症状を示す。胸腔内
されている 。牛白血病は ,BLV感染に起因する地方
陸内臓機へのI
1
重傷細胞の浸潤
リンパ節腫大または胸 l
病型(成牛型)と発病因子が特定されていない散発型
は,呼吸器症状や循環器症状, 1
仮I
J
空内リンパ節腫大
に区分され,散発型には子牛型 ,JI旬腺型 , 皮 Ji~Î 型が
または腹腔内臓器へのI
1
重湯細胞法制は食欲不振や排
含まれる 。
便の異常(便秘,下痢 ,黒色使),そして骨披腔内の
到
平成 1
0年に牛白血病が届出伝染病に指定されて以
リンパ節腫大は ,神経圧迫による後躯麻縛の原因と
降,牛白血病の発症頭数が明らかにされるようにな
なることが多い。 またリンパ節は脊柱管に浸潤して
った。それによると ,平成 1
0年には96
頭であった発
脊髄を直接圧迫することもあり,起立不能はよくみ
040頭と 1
0倍以上に増加
症頭数が,平成 20年には 1,
られる症状の一つである 。 さらに,
しており ,臨床現場でもよく遭遇する疾病のひとつ
パ節腫大による 眼球突出もよくみられる 。
R
筒深部のリン
1
J
である 。本稿では,牛白血病の臨床診断における注
一方,散発型のうち胸腺型牛白斑病は ,頚音¥
1また
意点をまとめるとともに,現在私どもで検討を進め
は胸部胸腺の極大が王な特徴であるため ,頚部臓器
ている牛白血病発症牛早期診断の試みについて紹介
の物理的圧迫の結果,食道圧迫症状(鼓膜症,礁下
したい。
困難,食欲不振),呼吸器症状 (
1
呼吸速迫,呼吸困難),
頚部大血管の圧迫症状(頻脈, f
員静脈怒 i
j
l
t 冷性浮
「
家畜診療J57
巻 3号 (
2010年 3月)
137
図 2 シリ ンジ内筒を 勢いよく押すことで 、針先のサ
図 1 空気を 5mL程度いれた 10mLのシリンジ (
針付
ンプルをスライドガラス上に吹き出す
き)で,陰圧をかけずに 、腫大リンパ節を扇状
に 可 角度を変えながら 2~3 回穿刺する こ とで可
針先にサン プJレを採取する
腫など)が認められる 。 さらに ,皮膚型牛白血病は
尊麻疹様または結節性の皮膚腫癒が特徴的である
が,各所のリンパ節がI
重大することもあり ,その場
合には様々な症状が発現しうる 。
牛白血病の診断
牛白血病の典型的な所見として,体表リンパ節j
屋
大,末梢血液中への異型リンパ球出現を伴うリンパ
球数増多が認められることが多く ,それらの所見が
本疾患の臨床診断における一助となっている 。
触 診 ーリ ンパ節腫大 3.9.13.14 胤
図 3 成牛型牛白血病症例の腫大した浅頚りンパ節の
FNAP
I
i
見。淡くて大型、不正形の核を持つ大型
で芽球様のリンパ球が増加している 。また分裂
{
撃が散見される (
ヘマカラー染色)
1
9.2
2
.3
1
多くの症例では,体表 リンパ節腫大が認められる
ので,これが本症を疑わせる大きなポイントとなる 。
細 胞 診 2. 7.13.I ~
幻)
体表リンパ節の腫大が認められた場合,細針吸引
体表のみならず,腹腔内または骨盤腔内のリンパ節
生検 (
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n:FNA)によ り,病変部
腫大, または子宮への腫蕩細胞浸潤による腫癌形成
を組織学的に観察することで牛白血病が確定される
もよ くみられる所見なので,直腸検査による触診が
ことがある 。
重要である 。鑑別診断として脂肪壊死症,ミイラ胎
方法 (
図 1)
子,妊娠,感染症によるリンパ節腫大などを考える
まず, 21-1
80の針をつけた I
OmL
のシリンジ (
空
必要がある 。 ただし ,触知可能なリンパ節の腫大を
気を 5mL
程度いれる )で,陰圧をかけずに ,腫大リ
認めない非典型的な牛 白血病症例もあるため,体表
ンパ節を扇状 に角度 を変えながら 2-3回穿刺する
リンパ節の腫大がない症例でも,鑑別診断リストの
ことで,量i
先 にサンプルが得られる 。次に針先のサ
片隅に牛白血病を入れておくべきである 。
ンプルを , シリンジ内筒を勢いよく押すことでスラ
138
「
家音診療J57
巻 3号 (
2010
年 3月)
•••
•
••
••
イドガラス上に吹き出し (
図 2),別のスライ ドガラ
スで引き伸ばす。あとは検査室に持ち帰り ,クイッ
ク染色,ギムザ染色なとで染色して ,観察する 。
リンパ節細胞診のポイント (
図 3)
C
I細胞の大きさ
:腫傷細胞は芽球化 して大型,均
司
.
一な形態をとることが多い。
②核
DNA
合成が盛んな腫蕩細胞では ,核の異型,
大型化
, 分裂像がみられる 。
③核小体 :rRNA
合成と貯蔵により ,核小体も大
型化
, 増数,あるいは形態変化がみられる こと
カずある 。
④ クロマチン :DNAと蛋白質の結合し たものであ
るが,転写が活発な腫蕩制1胞では ,クロマチン
図4 成牛型牛白血病症例の末梢血液塗抹像。増数し
た核小体を含む大型不整形の核を持つ異型リン
パ球が散見された。上のリンパ球の核には凹部
があり 、単球のようにみえる
の密度が低 くなり淡くみえる 。
細胞診の限界
たとえ リン パ 節 が 腫 大 し て い て も ,細 胞 診 で
典型的な牛白血病では,末梢血液塗沫において異
1
00%の確定診断はつけられない。たとえば ,臆 %
j
j
型リ ンパ球が出現するが (
図 4),異型度に より検出
化 したリ ンパ節は壊死することがあるため ,s
重湯細
の容易さは様々である 。 もともと牛の末梢血 リンパ
胞がうまく採取されないことがある。 また ,血液混
球は健常でも単球様のものがみられるた め
, 異型度
入あるいは適切な部位を穿刺できない場合も あるの
が相当高 くないとはっきりと鑑別できない。
で,複数個所の細胞診を行うことが望ましい。最近
の研究では ,牛白血病診断における FNAの感度(牛
LDHおよび LDHアイソザイム
白血病を見落とさずに診断できる か)は 38-67% ,
牛白血病症例では ,血清LDH
活性が牛白血病のひ
I
O
. I
J
)
特異性(他の疾患と間違えずに牛白 血病と診断でき
とつ の指標とされている 。 とくにア イソ ザ イム解析
るか)は 2
5-8
0% と報告されて いる
。
により,LDH2とLDH3の割合の和が上昇している場
合,身体検査,血液検査お よびBLV
抗体検査と併せ
血液検査 1
.7.9.23 剖
て,地方病型牛白血病診断の重要 な所見となると報
前述のように ,牛白血病は悪性リ ンパ臆を含むた
告されている。しかし LDHは多くの組織から漏出し,
め,必ず しも末梢血に腫蕩化 したリンパ球は出現し
腫蕩細胞特異性が高くないため ,確定診断にはなら
ない。 しかし , リンパ球数の増加または異型リンパ
ない。
球の出現など,量的 ・質的な異常が末梢血にみられ
牛白血病ウイルスまたは抗体検出 口切 21. 28)
ることがあり ,診断の助けとなる 。
リンパ球増多
ゲル内沈降反応または血球凝集反応、による BLV
抗
持続性リンパ球増多症 (
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体検出 , また最近ではリア J
レタイム PCRによる BLV
PL)が,BLV感染牛の約 3割にみられる 。 しかしリ
遺伝子の検出が利用可能である 。抗体または遺伝子
ンパ球増多症は ,必ずしも牛白血病発症ではない。
検査│場性牛は BLVに感染していることが示唆される
さらに,病態が進行して発症するのは BLV感染牛
が,陽性所見は必ずしも 牛白 血病の発症ではない。
.
1-1
0%である 。
の0
なお , リアルタイム PCRでは , ウイルス量を定量す
異型リンパ球出現
ることができるため,発症リスクの高さと相関する
「
家畜診療J57
巷3号 (2010
年3月)
1
39
を鑑別診断リストに入れる必要があると考えられる。
牛白血病発症マーカーによる発症牛
早期診断の試み
牛白血病の非典型的症例では,体表リンパ節の臆
大や異型リンパ球増多なとの所見が得られないため
に,現場における臨床診断が困難であり,と畜場てや
解体されてはじめて牛白血病とわかり ,全廃棄され
てしまうケ ース も多発している 。帯広食肉検査所に
搬入された牛のうち ,牛白血病で全廃棄となった 52
頭のうち, 24頭 (
46%)は生体検査時に著変がなく ,
図 B 症例 2の発咳と呼吸障害の原因とな った喉頭蓋
左側基部に認められた直径8
.
0cmの腫癌 (
矢印)
5頭は起立困難あるいは起立不能でユあったと報
また 1
1年度北海道産業動物獣医学会,
告されている(平成 2
帯 広 食 肉 検 査 所 成 淳 ら )。
著者らは ,現在 これら非典型的牛白血病症例を生
で,発咳を主訴に受診。初診時,自J
I痩 と腹式呼吸が
産現場において診断するための簡便な方法について
みられ,聴診所見より胸膜炎が疑われたが,後に起
検討している 。そのひとつとして ,牛白血病症例に
立不能となった(図7)。本症例ではリンパ球数が 6
おける血清チミジンキナ ーゼ活性 (
TK)に着目 した
。
歳以上の正常リンパ球数上限である 5
5
0
0
/μLより軽
血清 TKは,細胞分裂時の DNA
合成に関与する細胞
度増加していたが,末梢鼠液中への異型リンパ球出
内隊素のひとつであり,人医および小動物領域にお
現は認められなかった。
いて,既に造血系腿蕩マ
病理解剖検査の結果,第四胃壁の著しい肥厚がみ
られ,割面は粘膜下に乳白色髄様組織が認められた。
また,十二指腸
カーとして利用されてお
り5.6.16. 17 叩,これが牛 白血病診断 に応用可能かと
うかを検討した 。
結腸周囲 ・左右心室 ・心房壁,お
よび両側腎臓では直径 8cm大に至る結節状の,右
血清チミジンキ ナ
ゼの診断的意 義 の 検 討剖
腎周囲脂肪組織内および左胸部皮下では 1
0
.
0X20.
0
の診断的意義を検討するために ,まず帯広
血清TK
白色悦様膝癌が認められた。さ
畜産大学に搬入されて病理解剖された ,あるいは血
らに ,喉頭蓋左側基部の粘膜下に筋層と筋暦に浸潤
液検査を実施した北海道十勝管内の牛計 242頭の血
する乳白色髄様組織か らなる境界不明瞭な直径 8
.
0
清TKを評価した 。各種臨床検査と病理解剖および
cm大の!堕癌が認められた (
図 8)
。
病理組織学的検査により 242頭を以下の 5群に分類
CI
1
1大に至る板状の
本症例では ,腿蕩細胞が喉頭部に気道をほぼ閉塞
する形で腫癌が形成されたことにより発咳と呼吸障
害 が 発 現 し ま た,全身性に浸潤した臆蕩により重
度削痩し ,胸膜炎を疑うに 至 ったと考えられた 。
した。
①牛白血病発症牛 (
BL)
群 ・病理学的に牛白血病
と診断された 20頭
cg:疾患群 :病理解剖の結果牛白血病以外の炎症
性 ・代謝性先天性疾患などと診断された 7
9頭
BLV抗体は陽性であった。
③非リンパ球増多症牛 (
Non
P
L)
群 :臨床上異常
このように臨床疲状を認めず,体表リンパ節の腫
大も血液検査の異常もない場合には ,牛白血病を疑
うことすら困難であるが,灘診断症例では牛白血病
を認めず BLV
抗体陽性かつリンパ球数に異常を
認めない 36
頭
④ リンパ球増多症牛 (
PL)群
「家畜診療J57
巻 3号 (2010
年 3月)
臨床上異常を認め
141
に対して,いっそう関心を持ってもらうためのきっ
かけとして牛白血病発症マ ーカーが利用 できないか
と考えている 。今後は,血清 TKの特異性の検討を
十分に行うとともに, EL
!SA等,より簡便かつ安価
な邸前iTK測定法の開発を進めたい。 また,リンパ
臆 PCRや mi
cr
oRNAプロファイルなど,分子生物学
的な手法を応用したより感度の高い他の診断マーカ
ーの開発も望まれる 。
62,71
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6) MUSTOP,BODENt
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2) 今 内 覚 , 田 島 誉 士 , 小 沼 操 ら 北 獄 会 誌 ,
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新版,前出
53,
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3) 久保田直樹,秋葉由美,坂田貴洋ら
北獣会誌,
52,
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日獣会誌, 61,
主要症状を基礎にした牛の臨床
小岩編, 614-618,デーリィマン社,札幌
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32) VONEULERH,EINARSSONR,
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4) MARSHAKRR,CORI
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5) 松山雄喜,神尾恭平,村上智亮ら
日獣会誌,
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「
家笥診療J57
巻 3号 (2010
年 3月)
- 143