明るく強い建物デザインを考える教育プログラム(食材版)の実用化に向けた模型製作法の改善 13.教育 教材 強度 3.教育方法 食材 抜き型 模型実験 3Dプリンタ 正会員 ○菅原正則* 会員外 菅原由楠** 会員外 水谷好成*** 1.はじめに これまで筆者ら1)~4)は、紙箱や食材を用いた建物模 型による「明るく強い建物デザインを考える教育プログ ラム(紙箱版を表1に示す) 」を提案している。食材版4) は、クッキーをヌガーで組み立てるものであるが、クッ キーはコンクリートのような「割れる」現象をよく再現 し、実験後もゴミにならない利点がある。しかし、一方 で、実施に2時間程度と時間がかかりすぎることや、強 度測定法も結果に誤差が出やすいことから、これらを改 善する必要がある。 本報では、この教育プログラムを主に小中学生向けに 実施するための改善策を示す。 インを容易にするため、壁面をひと回り大きくした。さ らに、壁強度の誤差要因を除くため、妻面が生じないよ う同一の壁4面で構成し、模型寸法を縦6×横9×奥行 9cm とした(図1) 。 2.教育プログラム実施方法の再検討 2.1 建物模型の作製 壁面の強度を比較できるようにするため、建物模型は 壁面のみ食材の部品とし、天井・床部分にはプラスチッ ク板を用いる。また、従来4)に比べ、強度(開口部なし では 500N を超える場合もあった)の低減と開口部デザ 使用する食材と作製手順に関する基本的な内容は、以 下に示すように既存4)のものとする。 【壁部品(クッキー)材料】 ・強力粉 40g ・片栗粉 20g ・砂糖 20g ・卵 15g ・ファットスプレッド(油脂含有量約 70%)15g 図1 建物模型の寸法 表1 明るく強い建物デザインを考える教育プログラム(紙箱版)のすすめ方3) ①紙箱(ティッシュ箱など)を用意する。 (ケーキ箱など同一規格の方が望ましい。 ) ②紙箱を建物に見たて、カッターで開口部を作る。 建物模型の制作例 ( 「できるだけ明るくて丈夫なものを」と指示する。 ) ③箱の内外で照度を測定し、 昼光率(=室内照度/天空照度×100)[%]を求める。 ・照度計と曇天光生成器(半透明の覆い)を各2つ用意。 ・予め、箱が無い条件で同じ照度になる向きにしておく。 (実験用の光源は用意せず、環境光を利用) 室内照度 天空照度 ・片方に箱を置いて、同時に照度を測る。 昼光率測定の様子(断面図) ④箱に荷重をかけ、建物強度を測定する。 ⑤(昼光率×建物強度)[N]の比較をし、どのような開口 昼光率[%] 0 Max. の建物が最も値が大きいかを検討する。順位をつけ表彰 建物強度[N] Max. 0 してもよい。 開口の大きさと昼光率、建物強度の一般的な関係 Improvement of Model Fabrication-Methodology for Popularising Education Program on Bright and Strong Building Design using Foodstuff SUGAWARA Masanori, SUGAWARA Yukina and MIZUTANI Yoshinari 【接着(ヌガー)材料】 ・マシュマロ8g ・ファットスプレッド2g 【手順】 ①材料を混ぜよくこねる。 ②製麺機を使って均等に薄く伸ばす。 ③クッキー抜き型を用いて、生地を型抜きする。 ④生地を冷やし、焼く。 ⑤冷めたらヌガーを用いて部品を接着する。 2.2 教育プログラムの準備と実施内容 従来の教育プログラム4)の大まかな流れは次の通りで ある。 【授業実施前の準備】 ①材料を混ぜよく捏ね、製麺機で伸ばし、生地を部品の 寸法に型抜きする。 ②接着剤(ヌガー)の入ったコルネと塩ビ板を用意して おく。 【授業実施】 ①前節の【手順】の③~⑤をさせる。 ②強度・明るさ測定をし、考察をする。 ③壊した模型を食べる。 しかし、この授業実施内容では、大学生であっても2 時間弱かかってしまうので、小中学生に対して実施する 際には集中力や技術支援の点で負担が大きいと考えられ る。そこで、指導者が前節【手順】の④まで済ませてお き、参加者に壁部品を選ばせるところから開始すること によって時間短縮を図る。ただし、参加者に開口部を型 抜きしてもらうことができないので、教育プログラムに おいて明るさや強さを予想しにくい画一的ではない開口 部デザインにする必要がある。また、壁部品の仕上がり を均質化し、事前準備の負担を軽減するためにも、専用 のクッキー抜き型を製作する必要がある。 宮城教育大学大学祭の研究室出展「お菓子の家を作ろ う!」 (2014.10.26)において、前節【手順】の⑤を一般 の参加者に無料体験してもらった。参加者は 50 名で、ほ とんどが小学生であった。その結果、15 分前後で組み立 てが終了し、また、楽しんで作業している様子が確認で きた。 2.3 強度の測定方法 学校にあるもの、また、身近なもので行えること、そ して、個人差が出ないことなどを考慮して、強度測定法 を考案した(図2)。学 校現場で精密な強度試 験を行うのは困難であ ることから、建物模型の 強度を正しく知ること よりもむしろ、子どもた ちの予想や想像力を重 視したゲーム形式の強 度測定法にした。 図2 強度測定法のイメージ 【指導者の事前準備】 おもりになるような様々な重さのものを準備する。子 どもたちが考えて選択できるよう、学校にある身近なも ので使えそうなものは全て準備しておく。食べ物を扱う ということを念頭に置いて、清潔な袋や容器に入れるな ど、衛生面には十分に注意する必要がある。 【強度測定の流れ】 ①端材のクッキーを手で割ったり食べたりして、硬さを 確認する。 ②模型の上に乗せるおもりの中から、建物模型がおもり の重さに耐えられる上限を予想しておもりを3つ選択 させる。 ③勢いをつけずに1つずつおもりを乗せていく。 (図2) ④壊れずに乗せることができたおもりの重さを、強度と する。 3.建物模型の開口部デザインに関する検討 3.1 開口部デザインの決定 なるべく選択肢が多く、そして、参加者の興味関心を より引き出せる開口部デザインを行うため、建築のモチ ーフとしても用いられることがあるアルファベット 26 文字をすることにした。ただし、アルファベット 26 文字 すべてを作るのではなく、次の条件に該当する文字を除 き、A、D、H、I、K、N、O、P、R、U、V、W、X、Y、 Z の 15 文字とした。 ①力学的に無駄な(壁面を支えていない)部分があるも の(C、E、F、G、J、Q、S) ②形が類似しているもの(M:V に類似、T:I に類似) ③造形が難しいもの(B) ④形が明確に現れないもの(L) 3.2 開口部デザインの共通ルールの決定 開口部デザインの共通ルールとして、淵は1cm 残し、 アルファベットの線幅もできる限り1cm と決めてクッ キー抜き型を製作することにした(図3) 。 図3 開口部デザイン(H 型)の例 4.クッキー抜き型の製作 4.1 抜き型に用いる素材の検討 クッキー抜き型には下記のように様々な素材の利用が 考えられるが、アルファベットを図案化した抜き型は複 雑なデザインになるため、近年普及が進み利用しやすく なった3Dプリンターによりクッキー抜き型を製作する ことにした。 ①アルミ板…ペンチなどの工具があれば折り曲げて 様々な形を作ることが可能であるが、食べ物に触れる ものであるため接着方法に課題が残る。 ②アルミ缶の輪切り…身近にあるもので作れるのが利 点であるが、大きさが限られるため多様なデザインは 難しい。 ③市販のステンレス製抜き型…ステンレスは固く加工 しにくいため、元の形の跡がなかなか伸ばせずいびつ になる。 ④3Dプリンター…ソフトで3Dデータを作れば、数時 間で多様なデザインのクッキー抜き型を作ることが可 能であるが、コスト面の課題が残る。 4.2 3Dプリンターによる成形 (1)3Dデータ作成の概要 Autodesk 社の「123D design」という3DCAD のフリ ーソフトを用いてデータ作成を行った。 【3Dデータ作成手順】 ①平面(Offset 機能) まず、外枠を描く。次に、アルファベットのデザイン を完成させ、最後に、生地を押し出す穴となる部分をつ くる。図4のように厚みの異なる部分は、分けて描く。 することができる(図6) 。 図6 3Dデータ作成中の画面(I 型の様子)③ (2)クッキー抜き型の調整 3Dデータ作成に先立ち、スチレンボードでクッキー 抜き型模型を製作した。これを用いてクッキー生地を型 抜き、開口部がデザインどおりに開けられているか、生 地を押し出す穴の大きさや場所が適当であるか、を確認 した。 (3)3Dデータの修正と抜き型の成形 TierTime Technology 社製の3DプリンターUP Plus2 に より、ABS 樹脂で成形した(図7) 。3Dデータ作成後、 まず初めに粗い設定(一層の厚さ 0.4mm)で出力し、不 備があればデータを修正した。修正内容が大きいときは 再出力し、不備が無いことを確認した後、細かい設定(一 層の厚さ 0.15mm)で出力し、抜き型を完成した。最終 的な出力の設定条件は表2のとおりである。なお、成形 速度を Normal および Slow に設定してより高精度で出力 しても、仕上がりに大きな違いは見られなかった。 図4 3Dデータ作成中の画面(I 型の例)① ②立体化(Extrude 機能) 平面のうち、型刃となる部分は 30mm、中の部品と外 枠とをつなぐ部分は3mm に設定して立体に起こしてい く(図5) 。 図5 3Dデータ作成中の画面(I 型の例)② ③削り取り(Chamfer 機能) 最後にクッキー生地を型抜けるよう型刃となる部分を 削っていく。削り幅を ・3mm 幅【3.0mm→4.2mm→7.7mm】 ・2mm 幅【2.0mm→2.8mm→5.1mm】 の3段階で削っていくことで型抜きのための型刃を作成 図7 3Dプリンター出力の様子 表2 設定条件と成形結果 一層の 厚さ 成形速 度設定 重量 成形時間 層数 0.15mm Fast 42.0~ 45.3g 3h57min~ 4h33min 219 5.建物模型の強度特性および採光特性 5.1 建物模型の概要 強度測定、昼光率測定を行う建物模型は以下の通りで ある。 【材料】光の透過率を小さくするため、既存の配合にコ コアパウダー10g を加えた。 【寸法】 高さ 60mm×横 90mm×奥行 90mm 壁面の厚さ3mm 【開口部デザイン】本報では、A、H、I、X 型と、開口 部なしの5つについて測定する(図8) 。 5.2 強度測定の概要および結果 【強度測定の方法】 ①デジタルフォースゲージの加圧部分の中心に建物模型 を設置する。 ②5mm/分の速度で連続的に荷重を加える。 ③加えた荷重の値が0N になったら測定を終了する(図 9) 。 60 50.4 50 照度(lx) 昼光率(%) 開口部面積(cm2) 図8 建物模型 X 型であった。クッキー生地にココアパウダーを入れ着 色したこと、天井部分のプラ板を黒のスプレーで着色し たことにより、開口部外からの光の進入をほぼ防ぐこと ができた。また、開口部面積が大きければ昼光率も大き くなる関係が見られた。 強度測定、昼光率測定の結果から、最も「明るく強い」 建物は 284.5N×17.1%=48.6N の I 型であった。 40 36.7 38.9 照度 30 31.4 20 17.5 18 20 17.1 14.2 12.5 13.2 10.7 10 0 0.03 00.09 窓なし A H I 昼光率 開口部面 積 X 図 11 昼光率測定結果(模型なしの照度 294.3lx) 図9 強度測定の様子(A型) 【測定値の評価方法】 強さとして最大荷重(N)、硬さとして荷重/変位量 (N/mm)を用い、これらにより強度を総合評価する。 図 10 の測定結果によれば、H、I、X 型の中で最も強 度が大きかったのは H 型である。H 型は両端の縦柱が太 く、割れも少なかったので、これが支えとなったと考え られる。なお、A 型は最大荷重が 500N を超えたため測 定できなかった。開口部なしの模型の最大荷重が 375.5N であったことから、本来の模型強度ではないと考えられ る。 最大荷重(N) 荷重/変位量(N/㎜) 400 375.5 350.5 300 200 100 284.5 280 最大荷重 175 121.2 荷重/変位量 95 88.2 0 図 10 強度測定結果 5.3 昼光率測定の概要および結果 昼光率は表1の③の方法により求めた。 図 11 の測定結 果によれば、昼光率が最も高いのは I 型、最も低いのは *宮城教育大学 准教授・博士(工学) **宮城教育大学 学生 ***宮城教育大学 教授・工学博士 6.まとめ 建物模型の開口部デザインの検討を行い、開口部を開 けるためのクッキー抜き型を作製した。さらに、A、H、 I、X 型について、強度特性と採光特性を明らかにするこ とができた。今後は残りの開口部デザインについて強度 特性と昼光率を測定し、教育プログラムの基礎資料整備 を進める予定である。 謝辞 本研究は、JSPS 科研費 26560031(研究代表者 菅 原正則)の助成を受けました。 参考文献 1)菅原正則:明るく強い建物模型を考える教育プログ ラム:日本エネルギー環境教育学会 第2回全国大 会論文集(2007-8) 、pp. 113-114 2)菅原正則、齋藤美穂:明るく強い建物デザインを考 える教育プログラムに用いる紙模型の基本特性:日 本エネルギー環境教育学会 第5回全国大会論文集 (2010-8) 、pp. 213-214 3)菅原正則:永瀬香理:明るく強い建物デザインを考 える教育プログラムに用いる紙模型の強度特性:日 本建築学会東北支部研究報告集、第 74 号、計画系 (2011-6) 、pp. 243-246 4)菅原正則、高野千草:明るく強い建物デザインを考 える教育プログラムにおける食材利用の試み:日本 建築学会東北支部研究報告集、第 76 号、計画系 (2013-6) 、pp. 9-12 Assoc.Prof., Miyagi University of Education, Dr.Eng. Student, Miyagi University of Education Prof., Miyagi University of Education, Dr.Eng.
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