6.千葉県がんセンターがんの分子疫学コホート調査研究事業

6.千葉県がんセンターがんの分子疫学コホート調査研究事業
千葉県がんセンター研究所がんゲノムセンター 横井左奈
目的
がんは生活習慣病のひとつであり、喫煙や飲
酒などのライフスタイルと遺伝的要因の交互作
用の結果として発症する。近年、ライフスタイ
ルによる健康影響の感受性に関わる遺伝子が解
明されてきている。千葉県がんセンターでは、
千葉県民の生活習慣や遺伝的背景を踏まえた、
県民一人ひとりの体質に応じたがんの予防法の
開発を目的として、平成 22 年から千葉県市原
市に於いて分子疫学コホート研究を開始した。
24 年度までに約 3,800 人の協力者の登録を完了
した。25 年度は 5,000 人の協力者の登録を目標
とした。
方法
本研究は、千葉県がんセンターが主体となり、
千葉県健康福祉部、医師会、市原市の協力を得
て、国立がん研究センター(JPHC-NEXT 研究)
と連携し、40 〜 74 歳の男女の市原市民を対象
として行っている。平成 25 年度は、調査地域
を市原市五井、姉崎、上総牛久に加え、八幡宿、
ちはら台にも拡大した。市原市国保の特定健診
の受診者に対し調査の説明を行い、個別に同意
を取得し、血液および尿検体の保存と生活習慣
に関する約 500 項目の質問からなる自記式アン
ケートを行った。健診以外で市民へ調査を周知
する方法として、町会の回覧やポスティングを
活用して広く住民に参加を呼びかける方式を新
たに確立した。健診の受診記録の収集のために、
国保特定健診集団会場以外でのリクルートの際
には、直近の健診データのコピーを持参するよ
う依頼した。協力者へのインセンティブとして
は、アンケート記載内容に基づく食事の栄養解
析及びヘリコバクターピロリ菌の血清抗体価の
解析、
今後 10 年間のがん・心臓病の危険度チェッ
クの 3 項目を返却した。市原市民を対象に開催
したがんの講演会においては、当院病院長によ
る本コホート調査についての紹介を行い、参加
申込書を配布して、啓蒙活動を行った。
結果
今年度は、総計 40 回の新規登録のための調
査を実施した。健診会場での同意率は昨年同様
70 ~ 80%と良好であった。合計の総参加者数
は、平成 25 年度当初の計画を上回り 5,800 人
にのぼった。国保加入者以外の参加者からの健
診データの回収率は、約 60%であった。残り
の 40%の協力者は健診未受診者であった。また、
次世代シークエンサーを用いたゲノム解析は、
400 種類のがん関連遺伝子の解析を拡大し、全
遺伝子のエクソン* についての解析系の構築に
取り組んだ。
考察
今年度は、特定健診の集団会場以外でのリク
ルートを開始した。また、町内回覧やポスティン
グでのリクルートは、健診を受診しない国保加入
者(70%以上を占める)や社会保険加入者にも
調査参加を促す機会となり、1,700 人の新規参加
者が得られた。インセンティブとして協力者に
提供している、食事の栄養解析、ヘリコバクター
ピロリ菌の血清抗体価は市民の健康意識の向上
や除菌行動に活用されている。健診未受診者の参
加が得られたことは、偏りの少ないコホートの
形成のために有意義であるが、一方で健診情報
は非常に有用な経時的データであるため、今回
のコホート調査への参加が今後の受診行動につ
ながることが望ましい。コホート参加を機会に、
各種インセンティブに触れることにより、参加者
の健康意識が向上して、新たに健診を受診する
ような動機付けになっているか追跡することは、
新たな研究課題の一つである。また、本コホート
調査は来年 5 年目を迎えるため、今後は更なる
協力者募集に努めると共に、追跡調査のシステム
作りに取り組みたい。また、
追跡データに基づき、
コホート内症例対照研究を構築し、千葉県の生活
習慣と遺伝的背景を踏まえた疾患感受性に関わ
るゲノム変化の同定を目指したい。
図 1 コホート調査参加者数
*
エクソン:デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸
(RNA)の塩基酸列中で成熟 RNA に残る部分。
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