7月号 - 東京都立大塚ろう学校

ひよこだより
都立大塚ろう学校 乳幼児教育相談
平成27年7月1日 NO.4
発達について
今回は<発達について>お話をさせていただこうと思っています。私は言語聴覚士とい
う仕事をしており、ひよこ組の他に発達センターでも仕事をしています。たくさんのお母
さんとお会いしてきましたが、その中で最も多い質問は<ことば>に関するものです。お
子さんの<ことばの発達>が一番気になってしまうのはもちろん分かります。でも<こと
ばは全体発達の一部>なのです。そして<発達には順序があり、その子その子のタイミン
グに応じて伸びていく>ということを忘れないでいただきたいと思います。
発達をピラミッドで表すと、ピラミッドのベースは「からだ」です。その上に「心•情緒
の育ち」が乗り、その上に「知力」
、そしてピラミッドのてっぺんに「ことば」が乗ります。
「ことば」の力を大きく育てたいならば、その下の部分を大きく育てていく必要がありま
す。
まずピラミッドの一番下、
「からだ」の部分をお話しします。やはり「身体が資本」なの
です。私たちは生まれた瞬間から死ぬまで重力と戦っています。首を動かせるようになり、
寝返りを打てるようになり、お座りができ、立ち上がれる。これはすべて重力に逆らう力
が育つから獲得できることになります。重力に立ち向かうためには必要な身体作り。その
ために大切な事は規則正しい生活。よく食べて、よく寝ること。夜更かしをさせないこと。
これは脳の栄養になります。身体の発達に合わせた充分な運動も必要です。飛んだり、跳
ねたり、投げたり、走ったり、でんぐり返りをしたり。。。色々な身体の動かし方ができる
ことは、自分のボディイメージ(自分の身体が空間の中でどんな風に存在しているかが分
かること)が習得できてきたことでもあります。ジャングルジムをくぐり抜ける時に頭が
ぶつからないように腰をかがめるでしょう。あれは自分のボディイメージがしっかりでき
ていないとできないことなのです。赤ちゃんの頃は自分の手を舐めてみたり、手や足を触
ってみたり触られたりしながら自分の身体を確認してきました。ひよこ組でもグループの
時に「ぞうきんの歌」などを楽しんでいますね。あれらの体操もすべてこのボディイメー
ジを育むことにもつながっています。
そしてその次に「心の発達」
。これはコミュニケーションのベースでもあります。ママの
ことが好き。パパのことが好き。にっこり笑うとママもにっこり笑い返してくれる。ママ
との間に育まれる共感関係や愛着関係。好きな人に伝えたい。好きな人と分かり合いたい。
そういう心が育つことはことばの育ちのベースとなります。数年前からカウンセリングの
勉強をしていますが、
その勉強をしてみて「3 つ子の魂 100 まで」とは本当のことなのだな、
と思います。0歳から 3 歳(母子分離ができるまで)の安定した親子の愛着関係の構築は、
その後のその人の人間関係を決定づけてしまうと言っても過言ではなく、乳幼児期に安定
した親子関係を築けた子どもは、その後の人生でどんな難題が起こったとしても自分で解
決できる力と自信を持つのです。
さて次に「知力」についてです。代表的なものに「手を使う力」が挙げられます。私た
ちの脳には運動野という部分があり、口を司るところと手の動きを司るところはお隣同士
に並び、その領域は広範囲を占めています。手は外部の脳といわれるほどとても重要な働
きをします。動物と人間を区別するのに「直立歩行と手で道具を作りそれを使う」という
定義があります。
手を伸ばして物をつかむようになり、物を持ちそれを持ち替えようとし、物をつまめる
様になり(つまめるようになると初語がでます)、積み木を上手に積めるようになるまでに
微細な動かし方ができるようになり、右手と左手を同時に別々の動きで動かせるようにな
り、上手に鉛筆を持てるようになり、タオルを絞れるようになり、トイレで上手にお尻を
拭けるようになります。
日常生活の中で色々な手の動かし方を経験させるようにしていきましょう。手を動かし
つつ目を使うことを「目と手の協応」といいますが、それは学習のベースとなります。ひ
よこ組でも色々な活動をしていますね。お家でもお手伝いの中で育んでいってください。
ペットボトルの蓋を開ける、布巾を絞る(難しいときは片方を親が持ってあげて片方をク
ルクル回すようにさせてみましょう)
、洗濯物を畳む、手を洗ったり顔を洗ったりすること、
お茶碗を持ってスプーンを使うこと、ボールを持ってかき混ぜること、食器を運ぶこと、
ボタンを留めたりファスナーを閉めたりすること、靴を履くこと、手遊び、粘度遊び、砂
遊びなど。
感覚過敏がある子は物に触ったりすることが苦手ですが、少しずつ少しずつ触れるよう
にさせていきましょう。まずはママが積極的に触っているところを見せ、大丈夫だという
ことを示して安心させてあげましょう。一度ではすぐに触れるようにならないかもしれま
せん。でも繰り返す内にきっと変化があります。手で触るのが難しいようだったら道具を
使って触らせてみる経験も良いでしょう。
子どもが1人で出来そうなことはできるだけ1人でやらせてあげましょう。見守ること
は時にとても難しいことです。でも1人でできたという経験はその子に自信を与えます。
「身体」
「心」
「知力」の一番上に乗っているのが「ことばの力」です。ことばとは無関
係のようなことでも、実はすべて「ことば」につながっているのです。
「ことばの発達」はこれらピラミッドの頂点となります。この部分を大きく豊かに育て
たいのならば、その下の部分(身体•心•知力)を大きく育てる必要があります。「ことば」
を使って私たちは相手と気持ちを通わせようとします。これがコミュニケーションです。
このためには「ことばの知識」よりも「相手に伝えたいという意識が育つこと」が大切と
なってきます。
「ことば」は手話や音声言語に限りません。その子の表情やしぐさ、絵や写
真カード、ジェスチャーも立派な「ことば」なのです。
ことばについての基本的な考え方をお話しします。「ことば」で表現できるようになるに
は、
「わかることがら」と「わかることば」がその子の中にたくさんたまっていることが必
要になってきます。
「わかることがら」とは例えば、コップを見せると飲む真似をするとか、
靴下を見せると足を出してくれるとか、太鼓を見せるとバチで叩くとか、歯ブラシを見せ
ると口にあてるとか、そういったことです。「わかることば」とは「パパは?」ときくとパ
パの方を見るとか、
「ジュースを飲もう」でコップを持ってくるなどです。0歳児の親子体
操で<ぞうきんの歌>が大好きな男の子がいます。
「ぞうきん やるよ〜」と伝えると、自
分からニコニコ顔で寝っ転がります。その子の中に<ぞうきんの歌=寝っ転がる=大好き
なママが関わってくれる=楽しい=大好き!>というイメージが育っていることになりま
す。これらのイメージが「表現できることば」になっていきます。
聞こえない•聞こえにくいとなると「ことば!ことば!」と躍起になり、とにかく一語で
も多くと思ってしまうかも知れません。ことばを育てることも大事なことですが、その子
の心を豊かに育てるということが大切であり、それが豊かなことばとコミュニケーション
を育むベースとなります。
最後にご自分のお子さんの発達だけでなく、他のお子さんの発達も同じように喜びま
しょう。他のお子さんが発達することは、ご自分のお子さんも影響を受け発達するという
ことですから。
(文責 関根)