学生間に基礎知識の差がある大学における構造力学の

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日本建築学会大会学術講演梗概集
(東北) 2009年 8 月
学生間に基礎知識の差がある大学における構造力学の学習法に対する提案
-その2 自学自習用 e-Learning システムの開発-
正会員
構造力学
静定力学
教育
学習効果
e-Learning
自学自習
久木
赤倉
石川
章江*1
貴子*2
孝重*3
End
応 力 の算 出 過 程
§1 はじめに
前報では文系学生の構造力学に対する理解度等の調査
結果を報告した。その結果、授業後に復習できる自学自
習用教材の要望等もみられたため、時間や場所的な制約
をうけない e-Learning システムの開発と試行実験を行った。
§2 e-Learning システムの開発
2.1 構造マップの作成
文系学生向けの構造力学用 e-Learning システムは、毎回
の授業後に利用する教材として位置づけ、演習問題の実
施、教室講義における映像の配信(VOD)、学習ポイント
の提示等を行うものとした。システム構成を図1に示す。
○
会員外
正会員
トップページ
作図方法の理解
作図方法の理解
作図方法の理解
正負の判断
正負の判断
正負の判断
作図(記載)
作図(記載)
作図(記載)
N図
Q図
M図
算定方法の理解
算定方法の理解
算定方法の理解
力の選定(過不足)
力の選定(過不足)
力の選定(過不足)
正負の判断
正負の判断
正負の判断
力の距離の判断
計算
計算
計算
N図
Q図
M図
応力算出点と区間の判断
授業回ごとの
ページ
教室講義の映像
(VOD)
反力の方向整理(正負)
演習問題
学習のポイント
(資料)
力の選定(過不足)
ランダムに
出題される
演習問題
図1 e-Learning システムの構成
「構造力学」の内容が理解出来ていない学習者は、自
分が理解できないポイントやミスしやすい項目に気が付
いていない場合が多い。よって学習教材システムにおけ
る演習問題で、「つまずくポイント」を提示できるシステ
ムを作成することとした。実施した中間テスト 1,2,期
末テストの結果を分析し、構造力学の演習を解く際に生
じるミス項目 38 項目を抽出した。演習問題を解く手順に
沿って、各所で発生するミス項目を整理し「構造力学」
という科目の構造マップを作成した。結果を図2に示す。
下部から上部の矢印が演習問題を解く手順を示し、各
所で発生するミス項目をまとめて配置した。なお各項目
の重要度(影響度)や発生頻度はばらついている。
開発する学習システムではこのマップおよびミス項目を
学習者に提示し、どの箇所でどのようなミスをしたのか学
習者自身が把握できるようにした。ミスの傾向を自覚でき
るシステムを開発することで、効率のよい学習が可能にな
ると考えた。
反 力 の算 出 過 程
間違えるポイントの提示による理解
力の選定(過不足)
力の選定(過不足)
正負の判断
正負の判断
計算
計算
水平方向
正負の判断
力の距離の判断
計算
鉛直方向
曲げモーメント
分布荷重を集中荷重に変換
斜めの荷重を鉛直成分と水平成分に分解
特殊荷重の対応
支点別反力の記入
START
図2
「構造力学Ⅰ」の構造マップ
2.2 システムの概要
開発システ ムにおいて 、クライア ント側は基 本的に
WWW ブラウザのみ用意すれば学習可能となる。システ
ムは Flash で作成した。画面イメージを図3に示す。学習
者はトップページで学習項目を選択する。この項目は講義
授業と連動し、「講義ビデオの視聴」「学習のポイント」
「演習問題」が選択できる。本システムの特徴は「授業内
容を理解しているかを確認できること、自学自習ができる
こと」であり、一歩一歩理解しないと、次がわからないと
いう授業の特徴に対応しており、演習問題によって、理解
度や自分が間違える要因を確認できる。
A Technical Proposal for Structural Mechanics Learning in the University
having the Differences in Academic Abilities among Students
-Part 2 Development of the Self-Instructional e-Learning System-
HISAGI Akie, AKAKURA Takako and ISHIKAWA Takashige
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10
10
トップページ
ミスした部分を示し,つまずき
項目と構造マップを提示
実験群
統制群
人
数
5
実験群
統制群
人
数
5
穴埋め問題
全くわからない
あまりわからない
どちらとも
いえない
ややわかった
わかった
0
全く高まらない
あまり高まらない
どちらとも
いえない
理解度の変化
図6 つまずくポイントの把握
3.3 システムに対する評価
システムに対する評価として役立つ度合や面白さ等に
ついて質問した。結果の一部を図7,8に示す。
10
10
人数
役立たない
あまり
役立たない
どちらとも
いえない
やや役立つ
役立つ
0
つまらない
0
ややつまらない
人数
5
どちらとも
いえない
5
ややおもしろい
*1 文化女子大学住環境学科 准教授・博士(学術)
*2 東京理科大学経営工学科 教授・博士(人間科学)
*3 日本女子大学住居学科 教授・工学博士
図5
おもしろい
図3 システムの画面イメージ(一部)
2.3 演習問題による学習
学習者はログイン後、授業回ごとの演習問題を選択し、
テストを行う。演習問題は各回 10 問程度用意された課題
からランダムに出題される。学習者は計算の途中経過を
細かく入力するが、ステップごとに正解しないと先に進
むことが出来ない。なおステップごとにヒント項目をみ
ることも可能である。回答が終了すると、回答者が途中
でどのようなミスをしたかに関する具体的な項目が提示
され、構造マップとミスした箇所が同時に示される。こ
れにより、どの段階でどのようなミスをしやすいのかと
いった特徴を学習者自身で理解することが可能となる。
§3 システムの評価実験
3.1 評価実験の概要
開発システムにより、自分のつまずくポイントである
ミスを把握できるか、理解度が向上するかの評価実験を
2008 年 12 月に実施した。実験対象は提案した学習システ
ムを利用する実験群 16 名と、参考書や自分のノートを使
用して学習する統制群 15 名である。学習前のテストと理
解度等に関する自己評価調査を行った後、40 分間学習を
行う。その後、学習後のテストと理解度等に対する自己
評価調査を実施した。さらに実験群 16 名に対し、学習後
にシステムの評価に関するアンケート調査を行った。な
お学習項目は「反力」の範囲のみで実験を行った。
3.2 実験結果および考察
40
テスト(39 点満点)の平均得
点の結果を図4に示す。テスト
30
の得点は、実験群、統制群とも 点 20
実験群
に学習後は向上しているが、顕 数
10
統制群
著な差はみられなかった。
0
次に理解度の変化およびつま
実験前 実験後
ずくポイントの把握度合の変化
図4 テストの平均得点
を図5,6に示す。
理解度(高まった+やや高まった)は実験群の回答が多
く、つまずくポイントは実験群の大部分が把握したと回答
した。提案した学習システムによって学習者が自分の間違
えやすいポイントを把握し、理解度の向上を感じることが
少なからず示唆された。
やや高まった
を
ミスした部分には×印表示し,
正解しないと先に進めない
高まった
0
図7 システムの面白さ 図8 システムの役立ち度
被験者の 81%が「面白い」、「役立つ」と回答した。また
自学教材としての評価も被験者の 73%が「とても良い」
「良い」と回答した。自由記述では、利点として「一人
でも気軽に勉強できる」「間違いがすぐわかる」「自分の
弱点がわかる」といった意見が多く挙げられた。欠点で
は「理解できないと先に進めないのが困る」、改善要望で
は「メモ帳や電卓機能の追加」等の意見が挙げられた。
また、わかりやすさ、演習問題の難易度についても適切
であると評価され、全体として提案した学習システムの
目的にあう評価を得られる結果となった。
§4 おわりに
近年、社会的にも構造に関する正しい知識の習得に対
する要求が高まっている。一方、教育現場では学生の学
力低下、やる気の不足といった問題点が議論され、教員
にとっての課題は増え続けている。そこで具体的な状況
や対応策といった情報の共有化が必要であると考える。
文系学生の多い大学における構造力学教育の向上を目
的に、前報では現状調査の結果を報告した。この結果を
もとに本報では自学自習用の e-Learning システムを授業後
の復習用教材として構築した。今後は実際の授業の中で
本システムを活用し、その効果を長期的に検証する必要
があると考えている。なお本研究における調査にご協力
頂いた諸氏に深謝する次第である。
*1 Assoc. Prof., Dept. of Dwelling Environment, Bunka Women’s Univ., ph. D.
*2 Prof,, Dept. of Management Science, Tokyo Univ. of Science, ph. D.
*3 Prof., Dept. of Housing and Architecture, Japan Women’s Univ., Dr. Eng.
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