原告第3準備書面 - TPP交渉差止・違憲訴訟の会

平成 27 年( ワ) 第1 30 29 号、 第2 35 67 号
TPP 交 渉 差 止 ・ 違 憲 確 認 等 請 求 事 件
原告
原 中勝 征
被告
国
外1 58 1名
原告 第3 準備 書面
(T PP が食 の安 全の 関係 でも たら す被 害に つい て)
平成 27 年1 1月 6日
東京 地方 裁判 所民 事第 17 部合 議B 係御 中
原告 ら訴 訟代 理人
弁 護士
山田
正彦
弁 護士
岩月
浩二
外
本準 備書 面で は,T PP が我 が国 にお ける 食の 安全 を危 険に さ らし, 原
告 ら に 対 し て い か な る 被 害 を 与 え る か を ,T P P が ア レ ル ゲ ン 表 示 と 遺 伝
子 組 み 換 え 食品 表 示 に 与 え る 影 響 の 観 点か ら 補 充 し て 主 張 し ま す 。な お ,
今後 も原 告ら は食 の安 全に 関し て補 充し て主 張を 行う 予定 です 。
第1
1
T PP の内 容
日本 政府 の発 表
今年 10 月 5日 ,T P P交 渉は , 協議 国 間で 大筋 合 意が 成立 し たと
報じ られ ま した 。同 日 ,内 閣官 房 TP P政 府 対策 本部 が 公表 した 「 環
太平 洋パ ー トナ ーシ ッ プ協 定( T PP 協定 ) の概 要」 で は, 食の 安 全
との 関係 では ,
「 S P S 章 は ,科 学 的 な 原 則 に 基 づ い て ,加 盟 国 に 食 品
1
の安 全( 人 の健 康又 は 生命 の保 護 )を 確保 す るた めに 必 要な 措置 を と
る権 利を 認 める WT O ・S PS 協 定を 踏ま え た規 定と な って おり, 日
本の 制度 変 更が 必要 と なる 規定 は 設け られ て おら ず, 日 本の 食品 の 安
全 が 脅 か さ れ る よ う な こ と は な い 。」 と 説 明 さ れ て い ま す 。
ま た ,貿 易 の 技 術 的 障 害( T B T )に つ い て も ,
「遺 伝 子組 み換 え食
品を 含め , 食品 の表 示 要件 に関 す る日 本の 制 度の 変更 が 必要 とな る 規
定は 設け られ てい ない 」な どと 説明 され てい ます 。
しか し, こ のよ うな 説 明は ,以 下 の理 由 から 全く 信 用で きる も ので
はな く, む しろ ,T P Pは 国民 に その 全貌 が 知ら され な い中 で, 実 質
的に 日本 の 食の 安全 を 危険 にさ ら す内 容と な って いる こ とは 明ら か で
す。
2
SP S協 定自 体が 食の 安全 を保 障す るも ので はな いこ と
まず ,S P S章 は, 科 学的 な原 則 に基 づ いて ,加 盟 国に 食品 の 安全
(人 の健 康 又は 生命 の 保護 )を 確 保す るた め に必 要な 措 置を とる 権 利
を認 める W TO ・S P S協 定を 踏 まえ た規 定 とな って い ると いい ま す
が, そも そ もS PS を 厳密 に読 み 解く と, 各 国が 人や 動 植物 の健 康 を
守る ため に とる こと の でき る措 置 が, 厳格 に 制約 され る こと は, 訴 状
13 頁以 下 で述 べた と おり です 。 SP Sル ー ルの 下で は ,健 康に 重 大
な影 響が 懸 念さ れる 輸 入品 につ い てで あっ て も, その 輸 入を 制限 す る
ため には , 十分 でな い にし ても 一 定の 科学 的 根拠 が要 求 され るの み な
らず ,輸 入 制限 につ い ても ,あ く まで も暫 定 的な 措置 と して のみ 容 認
され るの で す。 限ら れ た期 間で 科 学的 証拠 が 収集 でき な かっ た場 合 に
は, 輸入 制 限は 解除 し なけ れば な らな いわ け です が, 慢 性的 健康 へ の
影響 の有 無 を確 認す る には ,疫 学 的調 査が 必 要で あり , 暫定 的な 期 間
でこ れを 実施 する のは 不可 能を 強い るに 近い もの です 。
2
また ,政 府 は日 本の 制 度変 更が 必 要と な る規 定は 設 けら れて い ない
とい いま す が, 直接 的 に日 本の 制 度変 更を 要 求す る規 定 が入 って い な
かっ たと し ても ,加 盟 国の 投資 家 が投 資し た 産品 につ い て, 予防 原 則
の見 地か ら 輸入 制限 な どが なさ れ た場 合, 投 資の 章の 定 める 公正 公 平
待遇 違反 等 を理 由に , 訴え られ る こと も十 分 にあ り得 ま す。日本 に よ
る輸 入制 限 が, 米国 企 業等 の利 益 を害 する 場 合に は, た とえ 食の 安 全
を守 るた め の措 置で あ った とし て も, その 農 産物 につ い て投 資を し た
企業 が間 接 収用 や公 正 公平 待遇 義 務違 反等 を 理由 とし て 日本 を提 訴 し,
損害 賠償 請 求を 通じ て 規制 撤廃 に 向け た圧 力 をか ける こ とも 想定 さ れ
てい るの で す。 直接 的 な制 度変 更 要求 が規 定 され てい な いか らと い っ
て, 安心 でき るな どと いえ ない ここ とは 明ら かで す。
3
貿易 の技 術的 障害 にあ たら ない とい う保 障が ない こと
貿易 の技 術 的障 害( T BT )と S PS ル ール とは , 一般 的に 相 互補
完的 であ る とさ れ, 貿 易障 壁の う ち, SP S ルー ルが 適 用さ れる 措 置
を除 き, そ の他 の全 て の技 術的 基 準や 規格 , それ らが 適 用さ れる た め
の手 続に 適 用さ れる と 解さ れて い ます 。す る と, 遺伝 子 組み 換え 食 品
を含 め, 食 品の 表示 要 件に 関す る 日本 の制 度 の変 更が 必 要と なる 規 定
が直 接的 に TB Tル ー ルと して 規 定さ れて い なく とも , 貿易 障壁 に な
ると 判断 さ れれ ばそ の 使用 が制 限 され うる こ と, さら に は,遺伝 子 組
み換 え食 品 など に対 し て加 盟国 の 投資 家が 投 資し た場 合 には ,投 資 の
章の 定め る 内国 民待 遇 や公 正公 平 待遇 違反 等 を理 由に , 訴え られ る こ
とも 十分 に あり 得ま す 。こ こで も ,直 接的 な 制度 変更 要 求が 規定 さ れ
てい ない か らと いっ て ,安 心で き るな どと い えな いこ こ とは 明ら か で
す。
3
4
事前 協議 の合 意内 容か らも 食の 安全 は侵 害さ れる 危険 性が 高い こ と
さら に, 2 01 3年 4 月1 2日 に 発表 さ れた 日米 の 事前 協議 で,日
本政 府は す でに 現在 の 食品 添加 物 や農 薬な ど に関 する 規 制に つい て,
追加 的な 譲 歩を する こ とを 要求 さ れ, これ に 合意 して い ます 。政 府 は
TP P交 渉 に入 る「 入 場料 」と し て, はじ め から 食品 添 加物 や農 薬 に
関す る規 制 の緩 和を 約 束し てい る ので すか ら ,T PP が ,S PS ル ー
ルを 現状 よ りも 厳格 に 適用 する 内 容と なっ て いる こと は 疑い のな い 事
実な ので す。
5
TP A法 の内 容を 考 慮す ると さら に食 の安 全 を害 する 危険 が高 いこ
と
(1 )米 大統 領に はT PA 法に 反す る内 容の 交渉 権限 がな い
米 大 統 領 に 条 約 交 渉 権 限 を 与 え る T P A 法 が ,米 国 で 成 立 し ま し た 。
この TP A 法は ,米 大 統領 に無 条 件に 条約 交 渉や 締結 権 限を 認め る も
ので はな く ,同 法の 定 める 交渉 目 的に 合致 す る範 囲で の み交 渉権 限 を
与え るも の とな って い ます 。つ ま り, 同法 の 定め る交 渉 目的 に合 致 し
ない 場合 に は, 交渉 権 限が 制限 さ れ, 議会 に よる 修正 や 否決 の対 象 と
なり うる ので す。
(2 )T PA はバ イオ テ クノ ロジ ー等 の新 技術 に 影響 を与 える 表示 等を
制限
そ し て , T P A 法 は 第 2 節 ,( b )( 3 ) に お い て , 以 下 の よ う に バ
イオ テク ノ ロジ ー等 の 新技 術に 影 響を 与え る 食品 の表 示 等を 制限 す る
こと を目 標と して 掲げ てい ます 。
す な わ ち ,T P A 法 は ,
「農 業分 野に 関す る米 国の 主要 な交 渉目 的は ,
次の 事柄 を 行う こと に よっ て, 米 国の 農産 品 が, 外国 の 農産 品が 米 国
4
にお いて 与 えら れて い るの と実 質 的に 同等 の 競争 機会 を 外国 の市 場 で
獲得 する こ と, 及び 大 量取 引, 特 殊農 産品 , 並び に付 加 価値 農産 品 の
貿易 にお い て, より 公 正で 開放 的 な条 件を 達 成す るこ と であ る」 と し
た 上 で ,こ の 行 う 事 項 と し て ,
「 衛 生 植 物 検 疫 措 置 よ り 開 か れ た ,平 等
な市 場ア ク セス を保 障 する 「と り わけ ,米 国 にと って セ ンシ ティ ブ な
輸入 農産 品 に関 して , 次の よう な 不当 に米 国 の市 場ア ク セス 機会 を 減
少さ せる よ うな 慣行 又 は米 国を 致 命的 な状 態 に追 い込 む ほど 農産 品 市
場を 歪曲 す るよ うな 慣 行を 撤廃 す るた めの 規 制及 び効 果 的な 紛争 処 理
機 関 の 開 発 ,強 化 ,お よ び 明 確 化 を 図 る こ と 。」と 規 定 し て い ま す 。そ
して ,こ の 「不 当に 米 国の 市場 ア クセ ス機 会 を減 少さ せ るよ うな 慣 行
又は 米国 を 致命 的な 状 態に 追い 込 むほ ど農 産 品市 場を 歪 曲す るよ う な
慣 行 」と し て ,
「 バ イ オ・ テ ク ノ ロ ジ ー 等 の 新 し い 技 術 に 影 響 す る ,表
示 等 の 不 当 な 貿 易 制 限 又 は 商 取 引 の 要 求 事 項 。」「 ウ ル グ ア イ ・ ラ ウ ン
ド合 意に 違 反し て, 科 学的 根拠 に 基づ かな い もの をは じ めと する , 不
当な 一般 衛生 上ま たは 植物 衛生 上の 制限 」
「 その 他の 貿 易に 対す る不 当
な技 術的 障壁 」と 規定 して いま す。
米 国 は ,以 前 か ら 遺 伝 子 組 み 換 え 食 品 の 表 示 撤 廃 を 求 め て い ま す が ,
遺伝 子組 み 換え 食品 が 使用 され て いる とい う 表示 は, ま さに この バ イ
オ・ テク ノ ロジ ー等 の 新し い技 術 に影 響す る 表示 とし て ,T PA に 反
し, 修正 を 強要 され る 危険 性が 極 めて 高い も ので す。 ま た, アレ ル ゲ
ンと なる 食 品の 表示 や 食品 添加 物 の表 示に つ いて も, 科 学的 根拠 の 未
究明 なも のも 多く ,
「 科 学 的 根 拠 に 基 づ か な い も の 」表 示 と し て 制 限 さ
れる 可能 性が 危惧 され てい ます 。
(3 )米 韓F TA での 経験
実際 に, 米 韓F TA で は, 交渉 妥 結後 に 米国 側か ら 追加 交渉 の 提案
5
があ り, そ れら の交 渉 事項 に合 意 しな い限 り 米国 大統 領 が承 認し な い
とい う方 法 がと られ ま した 。そ し て, その 追 加交 渉の 結 果, 両国 の 乗
用車 の関 税 撤廃 時期 が 5年 目以 降 へ延 長さ れ る等 の変 更 や, 韓国 に 輸
入さ れる ア メリ カの 自 動車 (商 用 車を 除く ) の安 全基 準に関 し, 製 造
会社 毎に 年間 2 万 5 千台 まで ,ア メリ カの 基準 を満 た すも のは 韓国 の
基準 を満 た すと 認定 す るな ど, 明 らか に韓 国 に不 利な 基 準の 受諾 が 事
実上 強要 され たの です 。
も し も ,T P P の S P S の 章 に ,政 府 が 説 明 す る よ う に ,
「 日本 の制
度変 更が 必 要と なる 規 定は 設け ら れて おら ず ,日 本の 食 品の 安全 が 脅
か さ れ る よ う な こ と は な い 。」と す れ ば ,現 在 食 品 表 示 法 等 で 定 め ら れ
てい るア レ ルゲ ンの 表 示や ,食 品 添加 物の 表 示な どの 法 規制 はそ の ま
まと いう こ とに なる の でし ょう 。 しか し, 先 にの べた よ うな 米韓 F T
A の 経 験 も 踏 ま え れ ば ,米 議 会 か ら は こ れ ら の 表 示 が ,
「科 学的 根拠 に
基づ かな い」
「 不 当 な 技 術 的 障 壁 」で あ る と し て ,交 渉 妥 結 後 の 追 加 交
渉と いう かた ちで 事実 上強 要さ れる こと は目 に見 えて いま す。
ま た, T PP のT B Tの 章に つ いて も同 じ こと がい え ます 。仮 に 政
府が 説明 す るよ うに 「 遺伝 子組 み 換え 食品 を 含め ,食 品 の表 示要 件 に
関す る日 本 の制 度の 変 更が 必要 と なる 規定 は 設け られ て いな い」 と す
るな らば , 米議 会か ら はT PA 法 の内 容と 矛 盾す ると さ れ, 条約 内 容
の修 正法 改 正を 含め た 再交 渉が 求 めら れる 可 能性 が高 い でし ょう 。 し
たが って , TP Pの 内 容に ,政 府 が説 明す る よう に日 本 の制 度変 更 が
必要 とな る 規定 は設 け られ てい な いと して も ,T PA の 制限 があ る 限
り, 日本 の食 の安 全が 脅か され る危 険性 は極 めて 高い ので す。
第2
T PP 締結 が原 告ら の食 の安 全を 脅か すこ と
この よう な内 容を 含む T PP の締 結は ,食 の安 全 を守 る防 波堤 とも い
6
うべ き使 用制 限の 諸規 定 や, その 前提 とし ての 食 品表 示に 関す る諸 規定
をゆ るが し, 原告 らが 自 らの 健康 や生 命を 守る 機 会を 奪い ,食 の安 全を
脅か すも ので す。 以下 で は, TP Pが 具体 的に ど のよ うに 原告 らの 食の
安全 を奪 い, その 生命 や健 康に 被害 を与 える かを 明ら かに しま す。
1
アレ ルギ ーを もつ 原告 らへ の健 康被 害
(1 )ア レル ギー 原因 食品 誤食 の恐 怖
ア レ ル ギ ー 体 質 の 人 は ,わ ず か な ア レ ル ギ ー 物 質 が 体 内 に 入 っ て も ,
遅発 性の 反 応の ほか , アナ フィ ラ キシ ーと 呼 ばれ る急 性 アレ ルギ ー 症
状を 発症 す るこ とが あ りま す。 そ の症 状は , じん まし ん など の「 皮 膚
の 症 状 」か ら ,く し ゃ み ,せ き ,息 苦 し さ な ど の「 呼 吸 器 の 症 状 」,目
の か ゆ み や む く み ,く ち び る の 腫 れ な ど の「 粘 膜 の 症 状 」,さ ら に ひ ど
い も の に な れ ば ,腹 痛 や 嘔 吐 な ど の「 消 化 器 の 症 状 」,さ ら に は ,血 圧
低下 など 「 循環 器の 症 状」 もみ ら れま す。 特 に, 急激 な 血圧 低下 で 意
識を 失う など の「 ショ ック 症状 」も 1 割程 みら れ, こ れは とて も危 険
な状 態で す。
しか も, ア レル ゲン と なる 物質 が 食品 に どの 程度 含 まれ てい れ ばア
レル ギー 症 状を 発症 す るか は, 個 体差 が大 き く, 微量 で も含 まれ て い
れば ,こ れ らの 症状 の 発症 を招 く 危険 性が あ ると され て いま す。食 品
の原 料と し て含 まれ て いな くと も ,ア レル ゲ ンと なる 物 質を 貯蔵 し た
倉庫 を利 用 した り, ア レル ゲン と なる 原料 を 使用 して 生 産が なさ れ た
工場 で食 品 が製 造さ れ れば ,ア レ ルギ ー反 応 が起 きる こ とは 広く 報 告
がな され てい ると ころ です 。
(2 )食 品衛 生法 など に基 づく 表示 の状 況
その ため , 日本 の食 品 衛生 法は , 小麦 , そば ,卵 , 乳, 落花 生 の5
種 類 に つ い て は ,「 数 ppm」以 上 の ア レ ル ギ ー 物 質 を 含 む 場 合 に は 表 示
7
が 必 要 と 規 定 し て い ま す 。こ の 数 ppm と は ,一 般 的 に は「 1 0 ppm」以
上 と 理 解 さ れ て い ま す が , ppm と は 1 0 0 万 分 の 1 を 意 味 し , 1 0 0
グ ラ ム の 食 品 中 に 0 .0 1 m g の 物 質 が 存 在 す る と き の 濃 度 が 1 0 ppm
とな りま す 。こ の基 準 は, 非常 に 厳格 なも の です が, そ のお かげ で ,
原告 らの 一 部を 含む ア レル ギー 症 状に 悩む 人 や, アレ ル ギー 症状 を 持
つ子 供の 親は ,安 心し て食 品を 口に 入れ るこ とが でき るの です 。
とこ ろが , 国際 的な レ ベル に目 を 移す と ,ア レル ギ ー物 質の 表 示に
つい て明 確 な国 際基 準 はあ りま せ ん。 国際 的 に見 て, ど れだ けの ア レ
ルギ ー物 質 を摂 取し た らア レル ギ ー症 状が 発 症す るか と いう 閾値 は 確
立さ れて お らず ,そ の 確立 には 今 後1 0年 以 上の 疫学 的 調査 が必 要 で
ある とも いわ れて いま す。
過 去 の 個 別 的 な 規 制 の 例 と し て ,米 国 が グ ル テ ン に つ い て ,2 0 ppm
を 基 準 と し て 設 定 し た こ と は あ り ま し た が , 仮 に こ の 2 0 ppm と い う
基準 が日 本 国内 で適 用 され るこ と とな れば , アレ ルギ ー 患者 は, 食 品
を安 心し て 口に 入れ る こと が出 来 るの か判 断 でき ず, 予 測で きな い誤
食の 危険 に身 をさ らす こと にな るの です 。
(3 )ア レル ギー 反応 の科 学的 根拠 は未 解明
さら に問 題 なの は, ア レル ギー に つい て は, その 科 学的 根拠 は いま
だ解 明さ れ てい ない 部 分が 多い と いう こと で す。 食物 ア レル ギー の 大
部分 は乳 幼 児期 に発 症 し, 年齢 が 大き くな る にし たが っ て症 状は 軽 減
する とい わ れま す。 他 方で ,魚 介 類や ソバ な どの 食物 ア レル ギー は ,
年長 児に な って から 発 症す るこ と が多 く, 乳 児期 のア レ ルギ ーと ち が
って 治り に くい とさ れ てい ます 。 この よう に ,年 齢と ア レル ゲン と の
関係 の外 に も, アレ ル ゲン と運 動 の関 係, ア レル ゲン の 閾値 など , ア
レル ギー につ いて は未 解明 な部 分が 多い ので す。
8
し かし , アレ ルギ ー 症状 が存 在 する こと は 歴然 とし た 事実 です 。 仮
に, TP P に盛 り込 ま れた SP S ルー ルが 厳 格に 適用 さ れる こと と な
れば ,科 学 的根 拠が な いこ とを 理 由に 原材 料 の表 示は 緩 和さ れる こ と
に な る 可 能 性 は 極 め て 高 い と 思 わ れ ま す 。そ の よ う な 事 態 が 生 ず れ ば ,
原告 らに と って は, ど の食 品を 口 にで きる の かが 判断 で きず ,極 め て
深刻 な精 神的 ,肉 体的 な負 担を 負う こと にな るの です 。
(4 )原 告ら の具 体的 被害 (甲 C1 )
原告 大泉 真 佐美 は, ア レル ギー を もつ 子 供の 母で す が, その 子 ども
は 乳 児 の 頃 か ら , 卵 , 牛 乳 , 大 豆 (豆 類 ), 小 麦 , 米 の 5 大 ア レ ル ゲ ン
の外 ,ピ ー ナッ ツな ど のナ ッツ 類 ,そ ば等 に つい ても , 触れ たり 食 べ
たり する と アレ ルギ ー 反応 を起 こ すと いう 重 いア レル ギ ー症 状に 悩 ま
され てき ま した 。原 告 大泉 真佐 美 の子 は, ア レル ゲン が 含ま れた 食 品
を少 しで も 口に する と ,唇 や口 腔 が腫 れた り ,酷 いと き には ,顔 や 身
体が 腫れ あ がっ たり , 吐き 気や 腹 痛, 下痢 , 頭痛 など の アナ フィ ラ キ
シ ー シ ョ ッ ク を 起 こ す こ と も あ り ま す 。こ の よ う な ア レ ル ギ ー 症 状 は ,
急性 的に 子 ども を苦 し める だけ で はな く, ア レル ギー 反 応が ひい た 後
にも アト ピ ー肌 が残 り ,子 ども の 精神 状態 に 対す る影 響 も甚 大で す 。
また ,ア レ ルギ ー反 応 が酷 い場 合 には ,保 険 適用 外の 薬 を購 入せ ざ る
を得 ず薬 代 がか さむ こ とで 原告 大 泉真 佐美 の 家計 を逼 迫 しま すし , 子
ども の苦 し む姿 を見 る こと は, 肉 体的 にも 精 神的 にも 大 きな 負担 と な
りま す。 そ のた め, 親 であ る原 告 大泉 真佐 美 自身 も, 子 ども にそ の よ
うな アレ ル ギー 症状 が でな いよ う に細 心の 注 意を 払っ て 食品 表示 を 読
み解 き, ま た, 食品 メ ーカ ーに 問 い合 わせ る など して , アレ ルギ ー 反
応が 出な いよ うに 努力 を重 ねな がら 子ど もを 育て てき まし た。
原告 大泉 真 佐美 にと っ て, 食品 の 中に 子 ども が反 応 して しま う アレ
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ルゲ ンが 含 まれ てい る かど うか を 判断 する に は, 少な く とも 食品 に 含
まれ る原 材 料の 表示 に つい て, 現 行の 食品 表 示法 や食 品 表示 基準 に 従
った アレ ル ゲン ,原 産 地表 示等 が なさ れて い るこ とが 必 須で す。 こ れ
らの 表示 は 原告 とそ の 族に とっ て 命綱 とい っ ても 過言 で はな く, 最 低
限の 安心 を提 供す る条 件な ので す。
もし ,T P Pに より 現 在の アレ ル ゲン や 原産 地表 示 など につ い て制
限が なさ れ るこ とが あ れば ,そ の 被害 は, 原 告と その 家 族の 生命 と 健
康を 脅か す甚 大な もの とな るこ とは 明ら かで す。
2
遺伝 子組 み換 え食 品の 表示 が制 限さ れる
(1 )遺 伝子 組み 換え 食品 の問 題性
遺伝 子組 み 換え 食品 は ,他 の生 物 から 有 用な 性質 を 持つ 遺伝 子 を取
り出 し, そ の性 質を 持 たせ たい 植 物な どに 組 み込 む技 術 (遺 伝子 組 換
え技 術) を 利用 して 作 られ た食 品 です 。現 在 ,日 本で 流 通し てい る 遺
伝 子 組 換 え 食 品 に は ,① 遺 伝 子 組 換 え 農 作 物 と そ れ か ら 作 ら れ た 食 品 ,
②遺 伝子 組換 え微 生物 を利 用し て作 られ た食 品添 加物 があ りま す。
遺伝 子組 み 換え 食品 に つい ては , 遺伝 子 組換 え食 品 がア レル ギ ーを
引き 起こ さ ない のか , 遺伝 子組 換 え食 品を 食 べ続 けて も 大丈 夫か , 子
や孫 の代 で 影響 はな い のか ,害 虫 が死 んで し まう よう な 遺伝 子組 換 え
農作 物は ヒ トに 対し て 影響 はな い のか ,遺 伝 子組 換え 農 作物 を含 ん だ
飼料 を与 え られ た動 物 の肉 や乳 , 卵を 食べ て も健 康に 影 響は ない の か
等の 多く の懸 念が あり ます 。
厚生 労働 省 は, 日本 で は安 全性 審 査を 受 けて いな い 遺伝 子組 み 換え
食品 又は , これ を原 材 料に 用い た 食品 は, 製 造, 輸入 , 販売 など が 禁
止さ れて お り, 国内 に 流通 して い るも のは , 専門 家に よ り構 成さ れ る
食品 安全 に 委員 会に お いて 科学 的 な根 拠に 基 づき 安全 性 の評 価が な さ
10
れて いる な どと 説明 し てい ます ( 遺伝 子組 み 換え 食品 Q &A ,平 成 2
3 年 6 月 1 日 改 訂 第 9 版 )。
しか し, 遺 伝子 組み 換 え食 品の 危 険性 に つい ては , 多く の研 究 結果
が出 され て いま す。 例 えば ,1 9 98 年8 月 10 日, 英 国の ロー ウ ェ
ット 研究 所 のア ーパ ド ・パ ズタ イ 博士 は, 遺 伝子 組み 換 え技 術を 用 い
て作 出さ れ たジ ャガ イ モに より ラ ット の免 疫 低下 に影 響 する と報 告 し
て い ま す 。ま た ,1 9 9 9 年 4 月 2 0 日 ,米 国 コ ー ネ ル 大 学 の ジ ョ ン ・
E・ ロゼ イ 氏は ,英 国 科学 誌ネ イ チャ ーで , 外虫 抵抗 性 トウ モロ コ シ
が他 の生 体 に対 して 被 害を 及ぼ す 恐れ があ る と報 告し て いま す。 2 0
05 年1 0 月に は, ロ シア 科学 ア カデ ミー の イリ ーナ ・ エル マコ ヴ ァ
博士 が, 除 草剤 耐性 遺 伝子 組み 換 え大 豆を 食 べた ラッ ト から 生ま れ た
ラッ トの 死亡 率が 高く 成長 も遅 くな った との 報告 もし てい ます 。
さ ら に , 2 0 1 0 年 に は ,「 遺 伝 子 操 作 に 関 す る 独 立 情 報 研 究 機 関 」
( CRIIGEN) の ギ レ ス ・ エ リ ク ・ セ ラ リ ー ニ 教 授 が 率 い る 研 究 チ ー ム
は , フ ラ ン ス の 専 門 誌 “ Food and Chemical Toxicology” に 発 表 さ れ
た 論 文 で , 米 国 内 の 食 品 や 飲 料 水 の 許 容 値 内 の NK603 の 遺 伝 子 組 み 換
えコ ーン や ラウ ンド ア ップ 水溶 液 を与 えら れ たラ ット が 通常 の餌 を 与
えら れた ラ ット より も 早期 にガ ン を発 生し 死 亡し てい ると報 告し , 世
界を 震撼 さ せま した 。 報告 によ れ ばこ れら の ラッ トは , 乳癌 と深 刻 な
肝臓 ,腎 臓の 障害 を受 けて いた とい うの です 。
こ の 様 な 中 ,E U で は 遺 伝 子 組 み 換 え 作 物 に 対 す る 不 信 感 が 根 強 く ,
20 10 年 7月 13 日 ,E Uレ ベ ルで の遺 伝 子組 み換 え 作物 の認 可 手
続き を維 持 しな がら , 加盟 国に 対 し, 自国 領 土内 全域 あ るい は一 部 の
地域 での 栽 培を 禁止 , ある いは 制 限す るこ と を可 能に す る条 項を 盛 り
込 む ,指 令 2001/ 18/ EC の 修 正 案 が 提 案 さ れ ま し た 。そ し て ,2 0 1
5年 1月 1 3日 ,こ の 改正 案は 欧 州議 会で 可 決さ れ, こ れま でに E U
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加盟 国2 8 カ国 のう ち 19 カ国 が 栽培 制限 や 禁止 を通 告 して いま す 。
また ,E U では ,最 終 消費 者向 け だけ でな く ,外 食事 業 者向 けの も の
につ いて も 表示 の義 務 づけ があ り ,表 示が 免 除さ れる 意 図し ない遺 伝
子組 み換 え製 品の 混入 率は 0. 9% 未満 と定 めら れて いま す。
さら に, E U加 盟国 以 外に も, ロ シア は ,食 糧生 産 から あら ゆ る遺
伝子 組み 換え 製品 を根 絶す るこ とに 決め たと 報じ られ てい ます 。
遺伝 子組 み 換え 作物 の 主要 産出 国 であ る アメ リカ に おい てす ら ,カ
リフ ォル ニ ア, ニュ ー ヨー ク, マ サチ ュー セ ッツ ,コ ロ ラド ,コ ネ チ
カッ ト, フ ロリ ダ, ハ ワイ ,イ リ ノイ ,ニ ュ ーハ ンプ シ ャー ,ペ ン シ
ルベ ニア , ミネ ソタ , ニュ ージ ャ ージ ー, ニ ュー メキ シ コな ど全 米 3
0州 以上 で, 表示 義務 化を 求め る運 動や 法案 提出 が相 次い でい ます 。
こ の様 な 現状 から す れば ,遺 伝 子組 み換 え 作物 に対 す る拒 否感 や 不
信感 は, 世 界の 潮流 と もい うべ き であ り, 原 告ら を含 む 多く の日 本 の
消費 者が 遺 伝子 組み 換 え作 物の 耕 作や 摂取 な どに 不安 を 感じ ,遺 伝 子
組み 換え 作 物が 使用 さ れて いな い 食品 を選 び たい と考 え るこ とは , 極
めて 自然 で, 保護 に値 する 権利 とい うべ きで す。
(2 )食 品表 示法 など の規 制
日本 では , 食品 表示 法 及び 内閣 令 に基 づ き, 大豆 , とう もろ こ し,
馬鈴 薯, 菜 種, 綿実 , アル ファ ル ファ ,て ん 菜, パパ イ ヤの 8種 類 の
農産 物と , これ を原 材 料と する 3 3種 類の 加 工食 品と 高 オレ イン 酸 遺
伝子 組み 換 え大 豆及 び これ を原 材 料と して 使 用し た加 工 食品 (大 豆 油
など )に つ いて ,以 下 の3 つの 例 外を 除き , 原則 とし て ,遺 伝子 組 み
換え 農産 物の 使用 の有 無に つい て表 示す るこ とと なっ てい ます 。
3 つ の 例 外 と い う の は ,① 主 な 原 材 料 で な い 場 合( 主 な 原 材 料 と は ,
使用 量を 重 い方 から 順 に並 べた と きに 3位 以 内に 入っ て いる か, ま た
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は, 原材 料 の重 さに 占 める 割合 が 5% 以上 で ある 原材 料 をい う) ② 組
み込 まれ た 遺伝 子や そ の遺 伝子 が 作る タン パ ク質 が製 品 中に 残っ て い
ない 場合 ( 油, 醤油 ) ③遺 伝子 組 み換 えで な い農 産物 を 原材 料と し て
使っ てい る場 合で す。
この よう な 日本 にお け る遺 伝子 組 み換 え 食品 の表 示 につ いて は ,油
や醤 油な ど につ いて 表 示が ない こ とや ,0 . 9% 以上 の 混入 ある 製 品
につ いて 表 示を 要求 す るE Uの 規 制等 と比 較 すれ ば不 十 分で はあ り ま
すが ,こ れ 以上 の規 制 緩和 は, 原 告ら の選 択 の自 由保 障 とい う見 地 か
ら認 めら れる べき では あり ませ ん。
(3 )T PP によ り「 遺伝 子組 み換 えで ない 」表 示が 禁止 され る
また ,日 本 にお ける 遺 伝子 組み 換 え食 品 に関 する 表 示の 現状 を 見る
と,
「 遺 伝 子 組 み 換 え が な さ れ た 原 料 を 使 用 し て い ま す 」な ど の 表 示 は
ほ と ん ど な く ,ほ ぼ 全 て が ,
「 遺 伝 子 組 み 換 え で な い 」と い う 表 示 と な
って いま す 。こ れは , 遺伝 子組 み 換え の原 材 料を 使っ て いる とい う 表
示の ある 消 費者 から 敬 遠さ れる た め, その よ うな 表示 を 要す る商 品 が
自然 と少 なく なっ てい るた めで す。
他方 で,
「 遺 伝 子 組 み 換 え で な い 」と い う 表 示 は ,法 が 強 制 す る も の
では あり ま せん が, 製 造者 など が 任意 に使 用 する こと が 認め られ て い
るこ とか ら ,遺 伝子 組 みか え表 示 の対 象と な る原 料等に つい ては , こ
の「 遺伝 子 組み 換え で ない 」と い う表 示が な され てい るとい うの が 現
状な ので す。
しか し, T PP が締 結 され れば , 現在 許 容さ れて い る任 意の 「 遺伝
子組 み換 え でな い」 と いう 表示 が ,貿 易の 技 術的 障害 ( TB T) と し
て制 限さ れ る可 能性 は 高く ,原 告 らの 選択 の 指針 が失 わ れる 危険 は 極
め て 高 い と 考 え ら れ ま す 。こ れ は ,
「 遺 伝 子 組 み 換 え で な い 」と い う 表
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示の 認容 が ,T PA 法 が撤 廃を 目 指す 「不 当 に米 国の 市 場ア クセ ス 機
会を 減少 させ るよ うな 慣行 」
「 バ イ オ・テ ク ノ ロ ジ ー 等 の 新 し い 技 術 に
影響 する , 表示 等の 不 当な 貿易 制 限又 は商 取 引の 要求 事 項」 であ る と
判断 され ,そ の制 限を 求め られ るこ とが 容易 に想 像で きる から です 。
また ,遺 伝 子組 み換 え 食品 など に 対し て ,加 盟国 の 投資 家が 投 資し
た 場 合 に は ,「 遺 伝 子 組 み 換 え で な い 」 と い う 表 示 を 許 容 す る こ と が ,
国産 品と の 間で の不 当 な差 別で あ るな どと し て, 投資 の 章に 定め る 内
国民 待遇 や 公正 公平 待 遇違 反な ど を理 由に I SD S条 項 を用 いて 訴 え
られ る危 険 性も あり ま す。 現在 , 日本 では 遺 伝子 組み 換 え作 物の 商 業
栽培 はさ れて いな いた め,
「 遺 伝 子 組 み 換 え で な い 」と い う 表 示 は ,輸
入産 品に とっ て不 利な 表示 とし て規 制さ れる 可能 性が ある からです 。
(4 )遺 伝子 組み 換え 食品 を選 別で きな いと いう 被害
前述 のよ う に, 遺伝 子 組み 換え 作 物に 対 する 不信 感 は世 界の 潮 流と
もい うべ き もの であ り ,原 告ら を 含む 多く の 日本 の消 費 者は ,遺 伝 子
組み 換え 作 物や それ を 原料 とし た 食品 を摂 取 しな い, 使 用さ れて い な
い食 品を 選別 する 利益 を有 して いま す。
TP Pに よ って ,こ の 「遺 伝子 組 み換 え でな い」 と いう 表示 が 制限
され るこ と にな れば , 原告 の多 く は, 自分 の 健康 や生 命 のみ なら ず ,
自分 の子 ど も達 や家 族 の健 康や 生 命に つい て も危 険に さ らさ れる こ と
にな るの です 。
かか る被 害の 甚大 性は ,決 して 見逃 され ては いけ ない もの です 。
以上
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