報告書(PDF/553KB) - 独立行政法人 国立青少年教育振興機構

実施概要
平成27年度 体験活動安全管理研修~山編~
主催:国立青少年教育振興機構教育事業部企画課
会場:国立三瓶青少年交流の家
日程:平成27年6月17日(水)~19日(金)(2泊3日)
参加者:29名(国立21名、公立5名、民間3名)
1.事業趣旨
登山活動における安全管理に必要な知識・技術について理解する。
2.事業概要
(1)講義「登山活動における安全管理の基礎Ⅰ」
講師:北村 憲彦 氏 (名古屋工業大学教授/国立登山研究所専門調査委員会委員長)
【講義内容】
登山活動のリスクマネジメントについて理解する。
【ポイント】
①入山前の準備
a.経験の少ない弱い人に合わせた企画 b.万一の場合を考えた計画書を作成
c.装備と服装の役割を理解する d.体調を整えておく
②登山中のリスク管理
a.体調と天気の観察と早めの決断 b.ルート予測・現在地確認・ルート維持
③万一の遭難対策
a.慌てない・焦らない・諦めない b.致命傷を見つけ、優先的な対処 c.保温と待機と連絡、可能な場合搬送
(2)講義「登山活動における安全管理の基礎Ⅱ」
講師:猪熊 隆之 氏 (気象予報士/㈱ヤマテン代表取締役)
【講義内容】
登山活動中の安全管理能力向上のために、山岳気象の基礎について理解する。
【ポイント】
・天気が崩れる原因は空気中にある水蒸気が冷やされ、海側から吹く風によって上昇し雲が発生するためである。
・暖気と寒気が上空で混ざり合おうとすることで大気が不安定になり、豪雨や雷が発生する。
→雷が発生したら低いところへ避難し、低い姿勢を取ることでリスクを軽減
①雷の発生しやすい条件はお天気キャスターの言葉でわかる。
「大気が不安定」 「上空に寒気を伴った低気圧が接近」 「太平洋高気圧の勢力が後退」 「温かく湿った空気」
②低気圧が通過しても日本海側の山は要注意
a.低気圧接近時や寒冷前線通過後に一時的に穏やかな天候になることがある。 b.風向きの変化
c.急激な気温変化と暴風雨 d.風雪の強さと気温低下の度合いは低気圧後面の寒気の強さに比例
③低体温症になりやすい気象条件
a.強風 b.濡れ(降雨、降雪) c.急激な気温低下
(3)「実習事前インフォメーション」
講師:中村 唯史 氏 (島根県立自然館サヒメル)、北村 憲彦 氏、猪熊 隆之 氏、渡邉 雄二 氏 (国立登山研修所アドバイザー)
【趣旨】
①三瓶青少年交流の家における三瓶山登山安全管理マニュアルについて説明。
②活火山である三瓶山の歴史と地形について学ぶ。
③講師の登山装備を実際に見ることで、事前の準備物について把握する。
【ポイント】
・緊急時の連絡先は活動施設ではなく、119番に連絡する。
・水分摂取については、体重×行動時間×5cc 引率者は緊急時に備えて予備の水分を準備する。
水とスポーツ飲料を併用することが理想
・雨具は防寒着にもなることから、引率者も参加者も必需品として準備する。
(4)演習・実習「登山活動の指導および安全管理の実際」
講師:北村 憲彦 氏、猪熊 隆之 氏、渡邉 雄二 氏
【趣旨・ポイント】
●登山実習 : 三瓶青少年交流の家(標高約600m)→男三瓶山(標高1,126m) → 女三瓶山(標高953m)
・地形図、コンパスは必携とし現在地やポイントを確認、また緊急時に備え風のない非難場所や、エスケープルートを把握する。
・リーダーを選び、バディを組みポイント毎で必ず全員がいることを確認し、行方不明を未然に防ぐ。
・膝の屈曲を小さくし、細かく斜めに歩くことで足に負担をかけず登山中疲れにくい歩き方が出来る。
・休憩ではザックをおろし、ストレッチや膝上を心臓に向かってマッサージすることで血流がよくなる。
●救急実習 : 背負い搬送の実践
・搬送の前に傷病者の状態を把握することが第一優先。搬送して大丈夫かどうか、事前にどういった応急処置が必要かを判断したうえ
で搬送する。
・搬送方法として、ポールやザックを用いたり等搬送方法は様々あるが、山の状況に応じた対応と搬送方法をすること。
(5)講義「事故事例から学ぶ安全管理」
講師:前田 賢 氏 (鳥取県山岳協会遭難対策委員長)
【趣旨】
①事故事例
道迷い、転落・滑落、立ち入り禁止区間に侵入し行動不能状態に陥る、落石、熱中症 等
多くは下山中に起こり、とっさの行動がしにくい中高年層の事故が多数
②対策として
登山計画書の提出・・・場所や状況を予測しやすくなり、対応が変わってくる。
事前に山の情報を得る・・・指導者の下見によって危険個所を事前に把握することが出来る。
③そのほか
・道に迷った際は尾根に戻ることで、谷にいるより見つかりやすくなる。
・複数で迷った際、携帯電話は一人以外は電源を切り、電池を切らさないようにする。
・緊急連絡後はその場から動かないこと → 移動してしまった結果発見されずに事故に陥ってしまうケースがある。
・ケガは重症であることを予測して十分な処置を行うこと。
(6)協議「登山活動における安全管理について」
講師:北村 憲彦 氏、猪熊 隆之 氏、渡邉 雄二 氏、前田 賢 氏
【趣旨】
全日程を踏まえて、施設・団体に活かすための安全管理について協議、質疑応答
【質疑応答解答例】
Q 事前の健康チェックについて
A 健康チェックが必要な理由を保護者にしっかり説明したうえでの事前調査が必須である。健康状態を考慮したグループやプログラム
を考える。
Q 実施可否の判断基準について
A 地元の市町村の観測地点と事前マニュアル等を参考に理由づけがはっきりとした基準をつくる。
山によってリスクが異なること、安全基準を満たしていても危険があるという概念を持つことが重要。
Q 危険生物について
A クマ・・・鈴やラジオを鳴らして自分の存在を示す。目を見ながら静かに後ずさりして逃げる。
ハチ・・・何かの刺激を受けて攻撃態勢に入り、特に黒いものに向かってくる。
以前に刺されたことがある場合は必ず既往歴に記入してもらい、エピペンを持参させる。
ヘビ・・・肌が露出している部分に敏感。必ず長袖、長ズボンで肌の露出が少ない服装をする。
3.アンケート集計と事業の様子
(1)参加者の男女比
【参加者の声】
(1)講義「登山活動における安全管理Ⅰ」
・運動としての登山の特徴や、チームパフォーマンスの捉え方など整理して考えることができた。
・環境と運動の特徴では具体的な数値をもとに、登山における配慮事項についても学ぶことができた。
(2)講義「登山活動における安全管理Ⅱ」
・天候判断はいつも悩みの種だったため、改めて難しく奥深いと感じた。
しかしメカニズムや特徴が少しずつ理解できると、天気を予想する楽しさがわかってきた。
・天気図をどのように読み取るのか、風向きや雲の出来方等、様々な観点から学ぶことが出来た。
(3)「実習事前インフォメーション」
・講師のザックの中身を見ることができ、それぞれの内容の違いやこだわりも参考になった。
・事前に三瓶山の成り立ちを知ることができ、登山中も様々な地形に興味を持って登ることが出来た。
(2)参加者の年齢構成比
(4)演習・実習「登山活動の指導および安全管理の実際」
・チェックポイントのつけ方、細かな読図、ペース配分等講師から直接話を伺いながら学ぶことができ、
新しい視点がたくさん増えた。雨天の中で実習できて非常によかった。
・雨の中ではあったが、前日の講義を生かして体験することで興味をもって活動することができた。
地形図の見方もわかるようになるととても楽しく、登山を指導する立場になって研修することができた。
(5)講義「事故事例から学ぶ安全管理」
・講師の言葉にはその実体験によるものが多く、重みがあった。
遭難を未然に防ぐために、十分な対策を講じていきたい。
・引率時の安全管理、携帯電話の使い方について知ることが出来て参考になった。
(6)協議「登山活動における安全管理について」
・様々な内容について具体的な回答を聞くことが出来て、とても参考になった。
また講師が実際に体験したヒヤリハットについて聞いたことで、リスクを想定することの大切さを学んだ。
(3)事業全体の満足度