205号 - 埼玉県地方自治研究センター

204号
SAITAMA 自治研通信
2015年2月26日
自治が変わる・自治を変える
SAITAMA
自治研通信
【発行】公益財団法人埼玉県地方自治研究センター【住所】埼玉県さいたま市浦和区高砂 4-3-5 県労評会館
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公契約条例プロジェクト会議を開催―草加市条例の特徴
や川越市の取り組みを検証
1 月 21 日に自治研センター・自治労埼玉県本部の公契約条例プロジェクト会議を開催しました。
会議では、全国の公契約条例の現状も報告され取り組みが徐々に進展していることを確認しました。
その上で、埼玉県内で初めてとなった草加市の公契約基本条例についてその特徴点を検証、さらに川越
市公共調達審議会の審議状況を確認しました。
担を大幅に軽減する。
草加市条例の特徴と有効性を検証
条例第 13 条及び規則第 6 条
草加市条例(2014 年 9 月議会で可決成立、施行
は 2015 年 4 月 1 日)については 2014 年 11 月に
市の担当課のご協力で聞き取り調査をしていま
す。
⑥ 「労働環境報告書」が必要な公契約
ア. 予定価格が 1 億 5 千万円以上の工事又は
製造の請負契約
イ. 予定価格が 1 千万円以上の業務委託に関
この時の担当課の説明を要約して特徴点を上
げると次のようになります。
する契約および指定管理契約
ウ. 前 2 号に定めるもののほか、適正な賃金
① 公契約の基本的な在り方を中心として、市や
等の水準を確保するため、市長が特に必
事業者の責務を規定する中で、適正な労働環
要であると認めるもの
境を求めていく。理念条例ではあるが、具体
規則第 3 条
策は規則に委任し、実効性を担保している。
⑦ 条例の適用労働者
条例第 12 条(労働賃金基準額)第 26 条(委
任)
約に係る業務に従事する労働基準法第 9
② 労働賃金だけでなく、労働環境全般に対し、
事業者に理解を求め、草加市における労働環
境全体の底上げを目指す。
条に規定する労働者(正社員、日雇い労
働者、パート、アルバイト等)
イ. 自らが提供する労務の対価を得るため、
条例 13 条(労働環境の確認)
③ 市内事業者の活用
ア. 事業者または下請負者に雇用され、公契
事業者または下請負者との請負の契約に
条例第 16 条
より公契約に係る業務に従事する者(い
④ 実効性を担保する方法として、事業者に対し
て、労働環境の確認を行う。
わゆる一人親方)
規則第 4 条
条例 13 条(労働環境の確認)及び「草加市が
⑧ 労働報酬基準額の設定
発注する契約に係る労働環境の確認に関する
市長は、規則で定める公契約に係る事業者が
規則」
労働者に支払う賃金の基準額を定めることが
⑤ 労働環境を確認するための提出書類は、
「労働
環境報告書」とすることで、事業者の事務負
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できる
条例第 12 条
*「基準額」となっているが、先行する市の
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条例で「労働報酬下限額」とされているもの
と同様である。規則第 5 条 3 項で「事業者等
2015年2月26日
川越市公共調達審議会
―「公契約の理念」を合意
は、労働賃金基準額以上の賃金を労働者に支
払わなければいけない」と規定。
川越市は、一昨年12月に労働者代表2人、事
⑨ 労働報酬基準額を定めるのは市長
業者代表2人、学識経験者3人の「公共調達審議
市長は、規則で定める公契約に係る事業者等
会」を設置し、市長から①公共調達の理念②入
が労働者に支払う賃金の基準額を定めること
札・契約制度の在り方③公契約条例の3点の諮問
ができる。
を受け、2015年1月末までに8回の審議会が
条例12条
開かれた。
その基準額は、
ア. 工事等の請負契約については、農林水産
第8回の審議会において諮問事項の1点目「公
省および国土交通省が定める公共工事設
共調達の理念」について答申案がおおむね合意さ
計労務単価
れた。
イ. その他の労働者については、最低賃金法
第9条第1項に規定する地域別最低賃金
合意された川越市公共調達の理念
額
本市は、物品、工事又は製造の請負に係る成果
ウ. 市長が基準額を定めるには、公契約審議
物、役務等を外部から調達して事業を運営してい
会の意見を聴かなければならない。
る。これらの公共調達は、市民・事業者の福祉の
規則第5条2項から4項
増進及び地域経済の健全な発展に資することを
⑩ 公契約審議会は、事業者、労働者、学識経験
目標として、次の基本理念のもとにおいて行う。
者で構成し、労働賃金基準額や公契約に係る
1.市民ニーズに応え、かつ、計画性のある公共
重要事項を審議
調達
条例第17条・18条
市民ニーズに応え、かつ、計画的な発注を行い、
⑪ 賃金確保の実効性の担保①
労働環境の確認を、
「労働環境報告書」によっ
良質な社会インフラ及び市民サービスを提供す
て行う。
る。
2.公正な競争と適正な手続きの確保
条例第13条及び規則第6条
調達目的物(役務の提供を含む。)の特性や規
⑫ 賃金確保の実効性の担保②
労働者の申し出を保証。労働者側から基準額
模を踏まえた入札及び契約の方法を選択すると
以上の不払いなど申し出た場合、事業者によ
ともに、公正な競争を害する要因の排除を強化す
る不利益取り扱いを禁止。
る。また、受注者(受注しようとするものを含む)
規則第7条
に対する入札及び契約に関する情報提供を充実
⑬ 賃金確保の実効性の担保③
不適切な労働環境等に対し指名停止措置もっ
させることにより、公正な競争条件を確立すると
て実効性を担保する。労働環境報告書を提出
ともに、適正な手続きの確保を図る。
しない、また虚偽の報告、改善指導に従わな
3.信頼性(公開性)の確保
いなど。
情報の公表、手続きの過程及び結果のチェック
規則第9条
体制の強化、不正行為に対する措置の強化等を図
以上のように特徴を確認し、条例は基本条例で
ることにより透明性、公正性を向上させ、もって
あるが、規則でその実効性を補完しているといえ
市民・事業者の信頼の確保を図る。
る。今後労働賃金基準額などが審議会を経て定め
4.社会的な継続性を確保
られ、4月に施行されるが実際の運用の中で効果
公共調達の担い手の中長期的な育成、確保に取
り組むことにより、現在及び将来の公共財産等調
が発揮されることを期待したい。
達目的物の品質維持・向上を図り、もって持続可
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能な社会の構築に寄与する。
2015年2月26日
公開セミナーと財政セミナーのキモ
5.地域社会の発展への寄与
公共調達を通じて、地域を支える地元企業の発
2 月 15 日に埼玉自治研センター主催の公開セミ
展を推進するほか、福祉への配慮、環境への配慮、
ナー「2015 年度地方財政計画と自治体財政」(講
労働者福祉の向上への配慮、災害時の対応等安全
師:地方自治総合研究所菅原敏夫さん)を開催し
確保への協力その他本市における政策実現に貢
ました。また 19・20 日には自治労と自治体議員
献することにより、地域社会の発展に寄与する。
連合共催の「2015 年度地方財政セミナー」が東京
で開催され埼玉の会員も参加しました。
第9回(2月5日)以降の審議会ではこの理念
埼玉の講演記録は 3 月発行予定の『埼玉自治研
に沿って現行の入札・契約制度を洗い直し、理念
№43』に詳しく記録を掲載予定ですのでご期待
に基づいた制度となるように検討されていく。
ください。
その後いよいよ公契約条例の必要性に審議が
ただ、講演後の質疑応答で菅原講師は「地方創
移るわけだが、理念の5・地域社会の発展への寄
生事業は手を挙げたほうがよいのですか」という
与の「労働者福祉の向上への配慮」を起点に、4、
質問に対し「講義の中でその財源とされているも
社会的な継続性を確保の中の「公共調達の担い手
のが既存の歳出の振り替えやよくわからない財
の中長期的な育成、確保に取り組むことにより、
源であること説明したこと、また、示されている
現在及び将来の公共財産等調達目的物の品質維
事業がプレミアム付き商品券などであることを
持・向上」の上にも当然、労働者賃金の確保やそ
踏まえ、少数意見ではあると断ったうえで、無理
の他労働条件確保を主眼とする「公契約条例」が
に使わなくてもよいのでは」と答えていました。
必要となることは言うまでもない。
このような事前学習をしたうえで、東京の「財
政セミナー」にも参加してきました。
越谷市は公共サービス基本条例を
先行させ、その後公契約条例へ
セミナーは①「2015 年度政府予算案」②「2015
年度税制改革」③「2015 年度地方財政計画」④片
山善博慶応大学経済学部教授の「地方創生に自治
越谷市は、高橋努市長の公約で公共サービス基
本条例、公契約条例の制定を準備している。公共
体はどう対応するか」⑤「2014 年度地方交付税算
定の検証」と5本の講演からなったものです。
サービス基本条例は公共サービス基本法を受け
それぞれ政府資料を分析した貴重な講演でし
て越谷市の公共サービスの基本を定めようと言
た。埼玉自治研センターで講演資料と講演記録の
うもので、制定に至れば全国でも初めてとなろう。
保管がしてありますのでご希望の方は電話かメ
これには連合公務労協も期待を寄せて学習会を
ールでお問い合わせください。講演記録はデジタ
おこなったり、条例案の作成などにも協力体制が
ル録音してありますのでコピーも可能です。
つくられている。
ここでは、片山善博教授の講演を紹介します。
公契約条例は、2015年度中に素案を作成し、
まず片山氏は、「地方創生」という言葉がここ
2017年度施行を目指して内部検討会が行わ
1年くらいの間に人々の間で普通に使われてい
れている。
ることについて、創生という表現は日常用語でな
このように県内でも、草加市を先行自治体とし
いので使うとき「地方創生」というカギカッコつ
て取り組みが具体化してきた。他の自治体におい
きにしているという。どこか胡散臭さを感じてい
てももう一度公契約条例の意義を改めて確認し、
るという。かつて小泉首相のころ「構造改革」と
「地域創生」の課題として、議会、労働運動、自
いう言葉が誰もが良いと考えていたが、例えば労
治体執行部の場で議論を進めていただきたい。
働政策について、労働者は使い勝手の良い労働者
にされてよいとは思っていないのに、使用者側は
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派遣法や何かでそう考えていた。同床異夢の中で
い。「灯油券」は「地方創生」ではなく消費税に
言葉だけがありがたがられた。「地方創生」も言
よる困窮者への言い訳でしかない。
葉だけでなく、共通の認識で地方の疲弊とその原
コンパクトシティ・アンド・ネットワークがゼ
因を反省点検しなければ本当に良い施策は出て
ネコンの期待する旧来の公共事業と同じ結果に
こないと指摘した。
ならないためには大変な工夫と地域ごとの知恵
そこで鳥取県知事時代に鳥取県がどうして疲
弊してきたかについて考えたことをお話しされ
た。
が必要になる。
東京一極集中が是正されなければならないこ
とは数十年言われている。東京の鉄道・道路の混
鳥取はたくさんの公共事業をやってきたがそ
雑は人間的でない。そのために首都機能移転が決
れが地域の振興に結びついたかというとそうで
められたが自治医大が移転したくらいで何もや
はないという。「公共事業費の3割は用地買収費
られていない。本当は、財務省・金融庁が大阪に
でこれは地元に残るが、雇用などには結びつかな
引っ越すぐらいでないと民間にばかり「本社機能
い。土木・建設工事は機械にかかる費用が大きい
を地方に移転すれば減税」と声をかけても難しい。
これはゼネコンに持って行かれる。わずかに下請
「ふるさと納税」の減税枠の拡大もそもそも税
けなどの労務費が地元の雇用と賃金に結びつく
制の根本を崩す大問題である。
が、せいぜい15〜20%だ。しかも銀行の支店
このようなお話をされた、片山氏のレジュメの
長に言わせると用地費も息子の代に残っても東
最後のタイトルは「求められる自治体の自立」と
京の銀行に行ってしまうという。」
なっていた。
「『地方創生』は地域によってそれぞ
「また、鳥取でよそからお金を稼ぐのは当時サ
れ違った形でしか実現できない」だとすれば、そ
ンヨー電気と農産物くらいで、エネルギーはみん
れぞれが住民としっかり向き合って、独自のアイ
なよそから買っていた。石油やガスはもちろん産
デアを出し、それに対して国がしっかり財源を保
出しないし、電気も90%は中国電力でわずかの
証する体制でなければならない。市民・行政担当
水力だけが県の仕事。そこで風力発電に手を付け
者・議会の本当の連携と共同がなければ実現しな
た。また、30人学級で先生を増やした。これは
いのではないか。そう考えさせられた講演でした。
100%人件費だから全部地元に残る。」
(これは講演の記録ではなく、聴講者のメモでま
これまでも、活性化策は「ふるさと創生」「過
とめたもので文責は筆者にあります。船橋)
疎地の振興策」「離島の振興策」などさまざまな
手が打たれてきたが、その反省と検証がやられず
に、「地方創生」で補正予算4200億を付けた
から、3月までに早く手を挙げて計画を出せと言
われても、良いアイデアは出ない。今までの焼き
直しかタイトルを変えただけになる。
本当に地域の人々とじっくり課題を共有し、必
要な施策を考えだすには少なくとも2年ぐらい
はかかるのではないか
「地域振興券」「旅行券」の配布は、一時的な
商店街のにぎわいや旅行業者の手助けにはなる
が、それが地方創生になるのか。若者が将来への
希望を持って地域に残れるようにするには、何よ
りも安定した仕事が必要だ。一時しのぎでない地
域に根差した仕事を考えていかなければならな
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議会活動報告など送ってください
毎月他の自治研センターなどからたくさん
の研究誌などが贈られてきます。その中には
各自治体議会の報告が載せられているものが
たくさんあります。
事務局は、できるだけ多くの情報・資料を
入手するため、新聞各紙や各市町村のホーム
ページ閲覧などをしておりますが、議会の情
報は特段のことがないと新聞などにも載りま
せん。
各議員が後援会や地域に向けて発行してい
る議会報告などセンターにお寄せいただけれ
ば幸いです。