Franco Serblin氏の音への情熱

西暦 2015 年 09 月 07 日
ダレナン博士の研究所
研究報告書 No.35
題名:Franco Serblin 氏の音への情熱
報告者:ログ
かつてオーディオの業界は、著しい繁栄を極めた。特にテレビジョンが多くの家庭に普及する時代からラジ
オが普及した後において、自分の好きな音楽を聴けるオーディオは特別な価値があった。少なくとも 1960
年代において LP レコード一枚が 2000 円であり、当時、大学卒の初任給は 15000 円程度であったため 1)、
相当な高額であったことが分かる。ちなみに、LP とは Long Play の略であり、レコード盤面一枚に対して片
面で約 30 分ほどの音楽が聴けた。現在は曲一つにつき MP3 などのファイルによる音楽メディアが主である
ために、ギガバイト以上の記録メディアを使用すれば、曲の収録時間にほとんど関心は払わなくてもよくなっ
た。その LP レコードは、前世代の SP(Standard Pleying)レコードと比較して、長い記録が可能であったが、
今では相当に少ない時間である。このようにして、音楽メディアはレコードから、MP ファイル、その間に
CD(Compact Disc)と様々な発展を遂げてきた。また、これと同じくして、源流にあたる音楽メディアを生
かすために、入力から出力へのオーディオ機器も大きく様変わりした。レコードプレーヤーから DAP(Digital
Audio Player)、アナログからデジタルアンプへと変貌はその最たるものである。このことから現在の音響機
器は源流(録音技術も含め)から、入力、増幅まではほとんどデジタル機器で行っている。すなわち、音を 0 か
1 の記録に置き換えている。しかしながら、最終出力であるスピーカーは未だにデジタルではない。それとい
うのも、人間が聞く音はアナログであり、デジタルでは音(音楽)にならないからで
ある。将来的には、脳内に直接音を認知させるような機器の発達もあるかもしれない
が、耳から聞く音はアナログのままであることには変わりようがない。そのため、他
のオーディオ機器以上にスピーカーにこだわりを持つ人も少なくはない。Franco
Serblin 氏もその一人である(図)
。Serblin 氏はイタリアを代表するスピーカーメー
カーの Sonus Faber 社の創業者でもあり、1980 年に同社を起業し、1980 年代
中頃には同社を代表する Minima (1984)、Electa (1986) 、Electa Amator
(1987) といった製品を世に送り出した。2006 年に Sonus Faber 社を譲ったも
のの、その後は自分の名を冠とする Studio Franco Serblin 社を創業した。しかし
ながら、残念なことに、 2013 年 3 月 31 日に 73 歳のその生涯を終えた 2)。
図 Franco Serblin 氏 3)
Seblin 氏はイタリアのヴィチェンツァ生まれである 2)。イタリアと言えば、ヴァイオリンの一大生産地で、
Stradivari 氏はもとより、Amati、Guarneri といった一族もすべてイタリアで生まれである。すなわち、現
在のヴァイオリンの芳醇な音色の源流は、中世のイタリア職人気質から来ていることは間違いない。実は、
Franco Serblin 氏のスピーカー作りも彼らに相当するような職人的なこだわりがあり、極厚のウォールナッ
ト無垢材による、寄せ木加工をキャビネット(エンクロージャー)としたフルハンドメイドのスピーカーは、当
時、通常(商業的な流れ)ではありえないほどの内容であった。外観の美しさもさることながら、そのスピーカ
ーの構造・ユニットへの追求には、スピーカーは単なるオーディオ機器ではなく、楽器である、との氏の思想
が大いに見え隠れした。Sonus Faber はイタリア語で音の工房と訳されるが、まさしくその通りであった。
1) https://ja.wikipedia.org/wiki/千円盤 (閲覧 2015.9.7)
2) https://it.wikipedia.org/wiki/Franco_Serblin (閲覧 2015.9.7)
3) http://www.avcat.jp/main/avnews/2013/04/01/sonusfaber、創業者「franco-serblin-(フランコセルブリン)-」亡く/ (閲覧 2015.9.7)