3D プリンターの現状と今後の展開 3D プリンターとは何か

3D プリンターの現状と今後の展開
ジャパンコンサルティング合同会社
CEO 代表コンサルタント
前田健二
3D プリンターとは何か
3D プリンターとは、3DCAD1ソフト等でつくられた 3D データを出力してモノをつくり
上げるプリンターです。
3D プリンターは、1987 年にアメリカ人技術者チャック・ハル(Chuck Hull)が 3D ス
テレオリソグラフィー特許を取得したことがその始まりであると言われています。3D ステ
レオリソグラフィーは光造形法と日本語に訳されますが、紫外線硬化樹脂に紫外線を照射
してモノを造型する仕組みです。この仕組みは、今でも光造形法と一般的に呼ばれており、
モノづくりの現場では古くから馴染みのある言葉であり技術です。
続く 1990 年、プラスチック樹脂などの素材を溶かし、積層式にノズルで「プリント」し
てモノをつくる仕組みがアメリカ人発明家スコット・クランプによって開発されました。
当時、自分の幼い娘のためにカエルのおもちゃをグルーガン(接着剤を塗るためのポンプ
式の銃型容器)でつくろうと考えたクランプは、二次元に描いたカエルの輪郭に接着剤を
上塗りして物体に出来ないかと考え、積層型 3D プリンティングの仕組みを発案しました。
後に FDM(Fused Deposition Modeling, 熱溶解積層法)と名付けられたこの仕組みは、
今日の数多くの 3D プリンターに導入されています。
1995 年にはアメリカのマサチューセッツ工科大学で石膏等の粉末の素材にインクジェッ
ト式にインクを吹き付け、積層式にモノにする仕組みが開発されました。粉末積層法と呼
ばれるこの仕組みは、フルカラーで出力することが可能なプリント方法です。
また、最近は粉末造形法(SLS: Selective Laser Sintering)と呼ばれるプリント方式が
一般的になってきており、プラスチック、ガラス、金属等の素材を粉末化し、レーザーを
照射して造形することが可能になってきました。
以上の四つの方式が現在の 3D プリンターに主に採用されています。しかし、以上の他に
も研究レベルで新しいタイプの 3D プリンターが開発されつつあり、今日における「3D プ
リンター」が、将来も同じ形体を保ち、あるいは同じ方式を採用したままでいるかはわか
1
CAD(Computer Aided Design)コンピューターを使ったデザイン、設計。
1
©ジャパンコンサルティング合同会社,2013
無断転載を禁じます。
りません。いずれにせよ、今日現在における「3D プリンター」は、上のいずれかの方式を
使ってモノを造型するプリンターであると言って問題ないと思います。
レップラップ 3D プリンター
上記の四つのタイプの 3D プリンターは、いずれも工場や研究施設等で使われるハイエン
ドマシンであり、それぞれの現場においてそれぞれ進化を遂げてきました。
一方、2005 年にイギリスのバース大学機械工学部教授エイドリアン・ボウヤー氏が、個
人用デスクトップ 3D プリンター開発プロジェクトを立上げ、レップラッププロジェクトと
名付けました。レップラップ(Rep Rap)とは、Replicating Rapid Prototyper(複製用高
速試作機)を省略したもので、
「人類史上初の自己生成型複製 3D プリンターをつくること」
を目的としています。
レップラップの 3D プリンターは、当初からオープンソース2で、かつパブリックライセ
ンス3で世界中に公開されたこともあり、瞬く間に世界中に普及しました。3D プリンター製
造ベンチャーとして立ち上がった企業の少なくない数が、レップラップで開発された 3D プ
リンターをベースにしています。現在、世界中に出荷されている 3D プリンターのうち、半
分程度がレップラップベースの 3D プリンターであると推定されています。
(レップラップの 3D プリンター「メンデル」)
オープンソース(Open source)ソースが公開されているソフトウェアまたはハードウェ
ア。
3 パブリックライセンス(Public license)特定の人や組織に著作権が帰属しない、公に供
されているライセンス。
2
2
©ジャパンコンサルティング合同会社,2013
無断転載を禁じます。
3D プリンターで一体何がつくれるのか・初めは試作品から
1987 年にアメリカ人技術者チャック・ハルが 3D ステレオリソグラフィー技術を開発し、
スリーディーシステムズを設立した当初、同技術を使った光造形式 3D プリンターは主に試
作品の製造に使われていました。ラピッド・プロトタイパー(Rapid prototyper:高速試作
品製造機)と呼ばれたように、初期の光造形式 3D プリンターの顧客には交通車両、医療機
器、コンスーマー製品のメーカーが多く含まれていました。
一方、FDM(Fused Deposition Modeling, 熱溶解積層法)技術をもとに世界初の積層造
形式 3D プリンターを開発したスコット・クランプは、やがてストラタシス社を設立します
が、同社の初期の 3D プリンターもラピッド・プロトタイパーと呼ばれていました。同社の
製品第一号はシリコングラフィックス社のワークステーションを搭載し 17 万 8 千ドルの価
格で発売されましたが、まったく売れなかったそうです。同社はやがてより大型の 3D プリ
ンターを開発し、大企業へ向けて営業を行ったところ、GM、3M、プラット&ホイットニ
ーといった大企業が同社の 3D プリンターを採用しました。なお同社の現在の顧客にも、航
空機、車の大手メーカーが多数含まれています。
このように、初期の 3D プリンターは主に航空機、車、医療機器、コンスーマー製品等々
の試作品製造に使われるケースがほとんどでした。しかし、3D プリンターの持続的性能向
上と使える素材の幅が拡がったこと、および素材自体の品質向上により、今日までに様々
なモノが 3D プリンターでつくられるようになってきました。
3D プリンターで一体何がつくれるのか・航空機用部品、車用部品
GE(General Electric Company)傘下の GE エビエーションは昨年 11 月、シンシナテ
ィにあるモリス・テクノロジーズ4を買収し、子会社化しました。モリス・テクノロジーズ
は、3D プリンターを使って航空機用部品を製造しており、GE エビーションは同社を買収
することにより同社の高速高品質製造技術(Rapid Quality Manufacturing)を確保出来る
としています。
GE エビエーションは、同社のベストセラーLEAP 航空機用エンジンのコンポーネントを
3D プリンターで製造する予定としており、納期の短縮、原料コストの削減、部品軽量化、
在庫コストの削減等の各種のメリットが享受できるとしています。
航空機用部品は最近特に 3D プリンターの進出が著しい分野の一つです。初飛行から 20
4
モリス・テクノロジーズ(Morris Technologies)http://www.morristech.com/
3
©ジャパンコンサルティング合同会社,2013
無断転載を禁じます。