INTERVIEW 社長の急逝という経営危機を救った 飯島経営グループの取り組み 飯島経営グループ 代表 税理士・中小企業診断士・行政書士 飯島賢二 同 総合戦略室長 飯島一敏 株式会社トータス 代表取締役 川邉公美 同 経営企画室長 営業統括部長 鷹野行雄 株式会社ビクウィース 後継者紹介サービス 営業担当責任者 幾島光子 同 人材事業部シニアコンサルタント 鬼本昌樹 中小企業は経営者の個人的な才覚や信用力で事業が成 り立っていることが多いので、その経営者が急逝する と、事業の継続性に致命的な支障をきたすことが多 い。本稿で紹介する株式会社トータス(東京都品川 区)は、業務用スリッパを扱う企業だが、一流ホテル を多数顧客に持つなど優良企業として成長してきた。 ところが、経営者が急逝したことで、事業の先行きに 大きな不安を抱える事態に陥った。この問題の解決を 支援したのが、飯島経営グループ(埼玉県熊谷市)で ある。同グループは今回の問題に対し、経営者や管理 職の人材紹介を専門に行っている株式会社ビクウィー ス(東京都千代田区)と連携し、経営のプロを招聘す ることでトータスの事業を安定化させることに成功し た。今回の取材では、トータスの経営危機回避に取り 組んだ皆様にお集まりいただき、詳しくお話を伺った (写真は右から飯島一敏氏、幾島光子氏、鷹野行雄氏、 川邉公美氏、飯島賢二氏、鬼本昌樹氏)。 41 40 INTERVIEW 飯島経営グループ/株式会社トータス/株式会社ビクウィース 優良企業がトップの急逝により窮地に ︱︱ 今回は、前社長の急逝により経営危機に 直面した株式会社トータスを、飯島経営グルー プが支援したお話を伺いたいと思います。 を含めて約300名です。 年のことです。 事業は順調に伸びていたのですが、創業者で ある私の父から経営を引き継いだ主人が、急に 亡くなりました。平成 その際、いったんは社員に代表を任せたので すが、その社員からの要望もあり、後日、私が 社長の席に着くことになりました。 そのようなとき、知人から飯島経営グループ の飯島先生の評判をお聞きしまして、ぜひご援 助いただきたいと思い、ご連絡いたしました。 会計事務所が事業承継の危機を支援 ンサルティング会社の株式会社飯島綜研を含む ︱︱ 飯島経営グループは飯島賢二税理士事務 所を中核とする会計事務所グループで、経営コ ただ、私はそれまで主人の事業には深く関わ っておりませんでしたし、為替の影響で当時持 複数のグループ企業で構成されています。 ているという側面もお持ちです。 っていた中国工場を手放し、製造からの撤退を す。 今後も安定して継続できるように、お手伝いし 川邉 株式会社トータスは、各種スリッパの販 売を業務の主軸としている会社です。特に業務 営をしていないと取引しないことがよくありま なくてはならないと思いました。 余儀なくされるなど、難しい出来事が立て続け す。川邉社長からお話を伺って、トータスは素 用スリッパに強く、ホテルニューオータニ様な 晴らしい事業をしてこられたのだなと思いまし ︱︱ 川邉社長は飯島先生とお話をされて、ど んな印象を持たれましたか。 飯島先生は税理士や中小企業診断士として中 小企業支援に取り組んでいるだけでなく、経営 グループ企業の飯島綜研は旅館やホテルなど の経営コンサルティングを得意とされているよ た。 川邉 知人からは大変偉い先生だと伺っていま したので、初めてお目にかかるときは勇気が必 に起こりました。ですから、大変な不安を抱え うですが、そのような経緯もあって、飯島先生 何回か川邉社長とお会いしてお話を聞いてい くうちに、社長ご自身が経営者としての経験と 要でした。しかし、実際にお会いしてみると、 ど、大手のホテルにも当社の製品を愛用してい にご相談があったのでしょうね。 いう点で不安を抱えておられることが分かりま 親身になって相談に乗ってくださり、お話をし コンサルタントとして数々の事業再生を手がけ 飯島賢二 川邉社長の知人の方とは大変親しく していましたので、その方のご紹介ならしっか した。また、中国にあった工場を手放し、メー ながら心のつかえが取れるような思いがしまし て代表を引き継いだというのが正直なところで り伺わなければならないと思いました。 カーではなくなったことも、将来に対する不安 た。細やかに対応していただき、とても信頼し 年、従業員数はパートナー工場 飯島綜研はホテル・旅館の経営コンサルティ ングを強みとしていますので、この業界のこと 要因になっていました。 設立は昭和 はよく知っています。トータスのお話を初めて これは優良企業ということですから、事業が かりました。 飯島賢二 川邉社長からお話を伺ってみると、 ︱︱ トータスを支援するにあたって、どのよ うな取り組みをされたのですか。 ています。 伺ったときには、納入先に業界内でも一流の企 こうした一流企業はいい加減な製品は使いま せんし、相手先の企業そのものが素晴らしい経 業がずらりと並んでいることに驚きました。 ただその一方で、会社自体は無借金経営であ り、なおかつ大きな資産を持っていることも分 ただいています。 はじめに、トータスの川邉社長から、今回の 経緯をお聞きします。 20 幾島光子氏 鬼本昌樹氏 実務経営ニュース 2013.04 42 43 実務経営ニュース 2013.04 飯島賢二先生 川邉公美氏 60 INTERVIEW 飯島経営グループ/株式会社トータス/株式会社ビクウィース せたようですが、その社員から難しいという話 がせるのも辛いことだと思いました。 娘が3人いますが、3人とも会社経営には関 心がありませんでしたので、そこを無理矢理継 関係なども慎重に維持していかないと、それま ません。その一方で、会社経営は一瞬一瞬が勝 たとしても、会社の社風と合わなければうまく るわけではありません。たとえ経営のプロがい ような鬼本と一緒に、飯島先生やトータス様と 身が経営やマネジメントのプロですので、その 私と一緒に担当した鬼本は、以前は会社の経 営幹部だったという経歴を持っています。彼自 を組んでご対応しました。 す。ですから、今回の案件は社内で特別チーム ればあるほど、卓越した経営手腕が求められま 優良企業であれば経営者の紹介など簡単だろ うと思われるかもしれませんが、優良企業であ だろうと感じています。 川邉社長は優良企業を急遽引き継がざるをえ なくなっただけに、それだけお悩みも深かった 印象を持ちました。 トータス様は大変素晴らしい事業を展開して こられたので、内部マネジメントや取引先との 困っておられるということを強く感じました。 を受け、川邉社長にお話を伺った際に、本当に があり、川邉社長がやむをえず事業承継をした 飯島先生から経営のプロを招聘するというお 話を伺ったときは正直驚きましたが、会社の将 での素晴らしい取り組みが壊れかねないという ご主人が急逝されてから一度は社員に経営を任 という状況になっていました。 来を考えれば、プロの手腕がどうしても必要だ 血縁関係のない事業承継は、ごく一部の大企 業以外はそう簡単にはできませんので、そのよ ︱︱ 経営のプロという人材はそう簡単に得ら れるものではないと思うのですが、飯島先生は 徹底したヒアリングで最適な 人材を選定 うな展開になるのも仕方のない側面があります。 と考え、ご提案を受けることにしました。 また、ご主人は優れた経営者で、その手腕が トータスという優良企業の根幹を支えていたこ とは間違いありません。それは大変素晴らしい ことですが、経営者が優れていると、経営者的 な才覚を持つ社員が育ちにくいという問題もあ ります。 どのようにして招聘したのですか。 今回のような問題を解決するためには、経営 者的能力を持つ人材の存在が不可欠です。ただ、 飯島賢二 経営のプロは確かにどこにでもいる わけではありませんので、探せばすぐに見つか 負ですから、人材が育つまでのんきに構えてい いきませんので、そこも難しいところです。 経営者という人材は短期間に育つものではあり るわけにはいきません。 いました。 その経営ビジョンを細部まで把握することがで 鬼本 私も実際にご相談の内容を伺ってみて、 簡単にはいかないという気持ちを強く持ちまし 打ち合わせを重ねていきました。 そこで、経営者や管理職の人材紹介を専門に 行っている株式会社ビクウィースに探してもら ︱︱ 本日は株式会社ビクウィースの幾島さん と鬼本さんにもご同席いただいています。トー きず、トータス様に適した人材が具体的に見え しょうへい 聘す そこで今回は、経営のプロを外部から招 るという方法を採ることにしました。 タスの案件に対応したときのお話をお聞かせい てこなかったからです。 ですから、川邉社長のもとに何度も伺い、 た。なぜなら、先代の社長様が急逝されたため、 安は感じませんでしたか。 ただけますか。 ︱︱ 確かに最適な方法だと思いますが、川邉 社長は外部から経営のプロを招聘することに不 川邉 私は父と主人の会社を何とか守りたいと 思っていましたが、残念ながら私自身は経営者 としての経験をそれまで積んでいませんでした。 幾島 トータス様の案件は飯島先生からご紹介 も重視されていました。それは、トータス様が いきました。今回の案件では、特に価値観が最 力と経験、価値観という3つの軸を描き出して このように徹底したヒアリングを重ねて、ト ータス様にふさわしい経営者の性格と資質、能 いるのかなどをお聞きしました。 るのか、会社経営に対してどんな考えを持って 個別面談をして、どのような経営陣を求めてい さらに社員全員に状況を説明し、一人ひとりと てしっかりやらねばならない。そう思いました。 ったのです。 社員の思いに気づいたときは背筋の伸びるよ うな思いがしました。ここは本当に覚悟を決め いることに気づきました。 配し、できることがあれば何かしたいと思って へのヒアリングで、皆が会社のことを本当に心 それまでは自分だけが重荷を背負い、苦しん でいるような気持ちになっていましたが、社員 はそのようにして本当によかったと思います。 川邉 私だけでなく、全社員にヒアリングをす ると聞いたときには驚いたのですが、結果的に これは私自身が大変驚いたのですが、最終面 接では、社員全員が質問をするということにな 面接をしていただくことになりました。 させていただきました。そして、トータス様に ークから最適な候補として、鷹野行雄氏を推薦 幾島 トータス様への徹底したヒアリングによ り見えてきた人物像をもとに、当社のネットワ は驚きました。 いと思いますが、全社員にヒアリングを行うと しますから、人選は慎重に行わなければならな それまで価値観重視の経営を実践してこられた その際、社員の方が、﹁川邉社長の前では遠 慮して言えないこともあると思います。少し席 時間以上はヒアリングをさせていただきました。 証左だと思います。 ヒアリングを境に、会社全体の士気がとても 上がったこともうれしい成果でした。 を外して、私たちだけで面接をさせていただけ 実務経営ニュース 2013.04 44 45 実務経営ニュース 2013.04 25 飯島一敏氏 ︱︱ 経営に関与する人材は会社の今後を左右 ︱︱ 川邉社長から見て、ビクウィースの取り 組みはいかがでしたか。 鷹野行雄氏 INTERVIEW 飯島経営グループ/株式会社トータス/株式会社ビクウィース おっしゃ ませんか﹂と仰ったのです。 そんなことは簡単には言えません。それだけ 社員の方が真剣に経営のことを考えていたとい が、会社が違ってもお互いに意識の共有ができ 剣な姿勢には心を打たれました。 ︱︱ 飯島先生は、こうしたトー タスの姿勢をどのように見ておら ていたので、スムーズにご対応することができ 飯島一敏 トータス様の案件では、ビクウィー スさんとの多国籍チームで対応にあたりました れたのですか。 トータス様で行われた社内ミーティングや面 談にも同席しましたが、経営のプロの招聘とい ました。 Aをしたらどうかという提案もし う、その会社にとっての一大事を、円滑に進め 飯島賢二 実は川邉社長からご相 談を受けたときには、率直にM& ていました。 必要がありました。当社も経営コ トータスでそのようなことが起 きないように、細心の注意を払う かないことが少なくないのです。 経営者を連れてきても、うまくい ただ、会社には独自の理念やオ ペレーションがあるので、外から した。 という手法を採らせていただきま に応えるために経営のプロの招聘 い﹂と言われまして、その気持ち は、どのような経緯でトータスの招聘を受ける 聘されたのが鷹野統括営業部長です。鷹野部長 ︱︱ 全社員による最終面接という前代未聞の 出来事を経て、経営のプロとしてトータスに招 れからまだまだ大きく伸びると思いました。 ていました。その様子を見て、トータス様はこ 社員の皆さんの真 な姿勢も印象的で、社内 き たん ミーティングでは忌憚のない意見交換がなされ するという勇気もお持ちでした。 安を抱えていたわけですが、それを社員と共有 います。真剣にお考えになるあまり、大きな不 トータス様は、まず川邉社長が会社と社員の 将来を真剣に考えていたのが大変に大きいと思 ることができて本当によかったと思います。 ンサルタントの飯島一敏を担当者 ことになったのですか。 し か し 川 邉 社 長 か ら、﹁ で き れ ば自分たちで会社を守っていきた に立て、ビクウィースからも鬼本 鷹野 私は大学卒業後、上場アパレルメーカー に二十数年勤めていました。私が経営マネジメ れるのも大変よいですね。私もしっかりと前を え、いうべき場面ではきちんとものをいってく 今後の展望をお伺いします。 の企業のサポートをされていると思いますが、 さんのような専門家に参加してもらい、専門チ ームでご対応しました。 ッグメーカーやブラックフォーマルの専門メー カーで人事や営業統括の仕事をし、経営マネジ 見据えて、会社の存続に尽くしていきたいと考 飯島 飯島経営グループでは、毎年テーマを定 めているのですが、今年は﹁感動創造﹂という ントを学んだのはこの会社です。その後は、バ ︱︱ 飯島一敏さんはトータスの案件に取り組 んでどのような感想をお持ちですか。 メントのスキルを磨いていきました。 えています。 うことでしょう。トータスの社員の皆さんの真 トータスのお話は、昨夏にビクウィースから ありました。トータスはスリッパの会社という をテーマに掲げることが多いのですが、それで 言葉を掲げました。会計事務所は﹁顧客満足﹂ 現在は中国工場を手放したこともあって製造 から撤退していますが、再度工場を持ちたいと は不十分だという思いを込めています。満足で ことで、私が経験したことのない業態でした。 しかし、会社自体は大変魅力のあるところだと いう目標も持っています。 はなく、感動されるレベルでお客様を支援した いと思っています。 社員だけではありません。その周りにも、取引 ント業務など、さまざまな角度からサービスを 会社は単なる組織ではなく、社員とその家族 も含め、たくさんの人々の人生を支えています。 提供していかなくてはなりません。 飯島賢二 このような前向きなお話を伺えるの は、私たちとしても本当にうれしいことです。 ですね。 ︱︱ 鷹野さんがトータスに入ったことで、攻 めの事業展開が行える体制ができつつあるよう お客様は日々真剣勝負で経営に取り組んでお られるわけですから、私たちも毎日が真剣勝負 中小企業経営者のそのような苦境をお助けす るために、当グループは会計業務、コンサルタ してしまうところも後を絶ちません。 が出ずに資産もすべて出し切り、最終的に廃業 事業承継を支える会計事務所 思ったのが強く記憶に残っています。 私もいくつかの会社で働いてきたので、会社 ごとに個性があり、仕事のやり方も異なること 先などたくさんのステークホルダーが深い関係 と思ってご支援する必要があります。 を知っています。しかし、経営マネジメントに を考え続けている自分に気づきました。 を築いています。 そのような真剣なやりとりのなかにこそ、お 客様に感動される仕事はあると思います。 中小企業の経営者は、長引く不況のなか、不 安に駆られながら日々を過ごしています。利益 川邉社長の人柄にも感じ入りましたが、何と いっても感動的だったのが、社員全員による最 会社は存続していること自体が大変素晴らし いことであり、経営者は誇るべきです。 ︱︱ 本日は貴重なお話をお聞かせいただきあ りがとうございました。皆様の今後のご発展を は、どんな会社にも通用する普遍的な部分もあ 終面接です。社員からの鋭い質問の数々に対し 川邉社長は鷹野さんというよき相談役を得ま したが、これをトータス再出発の足がかりと考 祈念しています。 になっていたのかもしれません。 の時点で、私は既にトータスのことが心底好き 面接というよりも、社内全体会議のような感 覚で、夢中になってビジョンを語りました。そ ですから、トータスのお話を聞いて、どうす れば自分の経験をトータスの発展に生かせるか ると考えています。 て、熱く語っている自分がいました。 えて、ぜひ会社を盛り立てていただきたいと思 それは、川邉社長や、社員の真剣な姿勢があ ってのことです。 川邉 鷹野さんにはずいぶん助けられています。 います。 ︱︱ 飯島先生はトータスだけでなく、数多く 普段は穏やかな方ですが、トータスのことを考 実務経営ニュース 2013.04 46 47 実務経営ニュース 2013.04
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