レーザ溶接ビードマップの開発

栃木県産業技術センター 研究報告 No.12(2015)
経常研究
レーザ溶接ビードマップの開発
赤羽 輝夫*
関口 康弘*
To Provide a Bead-Map for Laser Welding
Teruo AKABA and Yasuhiro SEKIGUCHI
平成24年度から25年度に実施した研究「CO2レーザによる異種金属溶接における特性評価」において,
溶接条件と溶接結果の関係が把握できるレーザ溶接ビードマップを開発した。
1)2)
この活用により鋼と
ステンレス等の異種材料溶接における最適溶接条件の選定に効果が認められた。しかし,異種材料の溶接
にレーザ溶接ビードマップを活用するためには,最適条件の平均値をアレンジするなどの工夫が必要であ
った。
本年度は,実際に同種・異種材料の試験片を溶接してレーザ溶接ビードマップの開発を行った。その結
果,同種・異種材料の溶接条件と溶接結果の「見える化」が実現でき,最適条件,良好条件の範囲,
欠陥の発生する条件等が把握できるようになった。
Key Words : レーザ溶接,レーザ溶接ビードマップ,異種材料,溶接条件,最適化
1
はじめに
質:SPCC,板厚:2.0mm)とステンレス板(材質:SUS
省資源・省エネルギー化が進展する中,自動車業界で
304,板厚:2.0mm)の異種である。
は車体の軽量化を推進している。車体の軽量化方法と
レーザ出力と加工速度はそれぞれ5水準とし,水準値
して,テーラードブランク工法(TB工法:異種金属や
は平成24年度から25年度に実施した研究「CO 2 レーザに
板厚の異なる材料をレーザ溶接等で溶接してからプレ
よる異種金属溶接における特性評価」で得られた最適
ス成形する方法で,軽量化や高強度化に有効。)が広が
条件を基とし,さらに予備実験を加えて選定した。
溶接後に試験片の両端部を切断しサイズを25mm×
りを見せている。
県内の中小企業が今後TB工法を実施するには,レー
25mmとした。LBMは3種類とも縦横200mmのアクリル板に
ザ溶接 技術の高度化や溶接条件の最適化法を図ること
試験片サイズの穴を合計25個開けて試験片をはめ込み,
が必要となる。
ビードの裏面も観察できるようにした。
表1
本研究では,これまでの研究で開発したレーザ溶接ビ
試験材料
ードマップ(LBM:レ ー ザ 出力 及 び 加 工速度等を複数の
水準で 変化させ,ビード・オン・プレートによる溶接
種
試験片A
試験片B
レーザ出力
加工速度
ビ ー ド を 2次 元 に 配 置 し , 傾 向 を 「 見 え る 化 」 し た も
別
(板厚mm)
(板厚mm)
(kW)
(mm/min)
行う。それらの特性を把握し,溶接条件の最適化をルー
①
SPCC 3.2
SPCC 3.2
2.0~4.0
1.0~3.0
チン化させて活用を図る。
②
SPCC 2.0
SPCC 3.2
2.2~3.8
0.8~4.0
③
SPCC 2.0
SUS304 2.0
2.4~4.0
1.9~3.1
の 。)について,実際の試験片溶接によるパターン展開を
2
2.1
研究の方法
2.2
LBM規格
レーザ溶接方法
表1に示す組合せで3種類のLBMを作製することとし
各試験片は,初めにレーザ切断により45mm×25mmに
た。①は鋼板(材質:SPCC,板厚:3.2mm)の同種であ
切断し,レーザ溶接面の変質を避けるために湿式切断
り,②は鋼板(材質:SPCC,板厚:2.0mm)と鋼板(材
機により45mm×12.5mmに精度良く分割し,アセトンに
質:SPCC,板厚:3.2mm)の異種であり,③は鋼板(材
よる脱脂を行った。
レーザ溶接には,三次元レーザ加工機(㈱日平トヤ
* 栃木県産業技術センター 材料技術部
マTLM-408C-40F)を使用した。試験材料の突合せ面を
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栃木県産業技術センター 研究報告 No.12(2015)
正確に位置決めするための治具を使用した。
溶接継ぎ手はI型突合せとした。
①の溶接には軟鋼製のφ9mmフィラーを使用し,②は
フィラーを使用せず,③はステンレス製のφ9mmフィラ
ーを使用した。フィラー送り速度は200mm/minに統一し
た。
レーザ溶接時のビームの焦点位置を試験片の表面に
合わせ,2枚の試験片の突合せ面(接合線)上をレーザ
ビームの中心が通過する状態を基準とした。
図2 作製した LBM ①
図3 外観検査図①
図4 作製した LBM ②
図5 外観検査図②
図6 作製した LBM ③
図7 外観検査図③
溶接条件のうち,デューティ(レーザを照射してい
る時間の割合)100%,狙い位置(突合せ面から溶接線
のオフセット量)0mm,アルゴンのシールドガス流量を
20L/min,パルス溶接時の周波数を2kHzに統一した。
2.3
LBM評価試験
外観検査を行い,溶接部の溶込不良,融合不良,熱
影響部,アンダーフィル等について観察した。なお,
良好な溶接とは,余盛が溶接ビードの表面と裏面に連
続する状態とした。
溶接試験片を切断,樹脂埋め,研磨,エッチング処
理した溶接部断面を金属顕微鏡(オリンパス㈱GX71)
によりマクロ組織を観察した。3種類のLBMの25試験片
から中央条件,その高低出力条件,その高低速度条件
の5試験片を対象とした。エッチング処理は,SPCCはナ
イタル液を使用した。SPCCとSUS304の試験片は,SPCC
側をマスキングした状態でシュウ酸液による電解エッ
チングによりSUS304を行った後に,ナイタル液でSPCC
側をエッチングした。
マイクロビッカース試験機
( ㈱ フ ュ ー チ ュ ア テ ッ ク FMARS10K) に よ り , 各 材 料 の 溶
接部近傍の硬さ分布を測定し
の低下に伴い溶込不良とフィラー融合不良が発生し,
た 。 3種 類 の LBMの 25試 験 片 か
加工速度の低下に伴い熱影響部が拡大した。
②の外観検査の結果,最適条件はレーザ出力3.0kW付
ら中央条件,その高低速度条
件の3試験片を対象とした。
近,加工速度2.4mm/min下近傍にあり,良好条件は図5
図1 測定部
押印加重を50gfとし,図1に示す溶接部の中央から±5m
のマーキングした11条件であった。また,レーザ出力
mの範囲を0.5mm間隔で測定した。
の低下と加工速度の拡大に伴い溶込不良が発生し,加
工速度の低下に伴い熱影響部が拡大した。
3
3.1
③の外観検査の結果,最適条件はレーザ出力3.6kW下
結果及び考察
近傍,加工速度2.8mm/min下近傍にあり,良好条件は図
LBM及び外観検査
図2,4,6は実際に作製したLBM①,②,③の写真
7のマーキングした7条件であった。また,レーザ出力
であり,図3,5,7は①,②,③の外観検査結果を
の低下に伴い溶込不良とアンダーフィルが発生し,加
図示したものである。縦軸にレーザ出力の5水準を,横
工速度の低下に伴い熱影響部が拡大と融合不良が発生
軸に加工速度の5水準を対応させた。
した。
①の外観検査の結果,最適条件はレーザ出力3.5kW下
3.2
図8,9,10に①,②,③のマクロ試験結果をLB
近傍,加工速度2.5mm/min下近傍にあり,良好条件は図
3のマーキングした5条件であった。また,レーザ出力
LBMのマクロ試験
Mの配置と関連づけて示す。
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も良好な溶接状態であった。また,低速条件では,入
熱量が多く,溶接部と熱影響部が拡大した。薄板の効
果により,溶接部にブローホールは見られなかった。
③のマクロ試験結果,中央条件と高出力条件では良
好な溶接状態であった。また,低速条件では,入熱量
が多く,溶接部と熱影響部が拡大した。低出力条件と
高速条件では,溶込不良であった。溶接部内部の融合
状態はマーブル状であった。
3.3
図8
LBMの硬さ分布試験
マクロ試験結果①
図11
図9
硬さ分布試験結果①
マクロ試験結果②
[板厚3.2mm側]
図12
図10
[板厚2.0mm側]
硬さ分布試験結果②
マクロ試験結果③
[SPCC側]
[SUS304側]
① の マ ク ロ 試 験 結 果 , LBM中 央 条 件 で は 良 好 な 溶 接
状態で あった。また,高出力条件と低速条件では,入
図13
熱量が 多く,溶接部と熱影響部が拡大した。低出力条
硬さ分布試験結果③
件と高速条件では,入熱量が少なく溶込不足であった。
図11,12,13に①,②,③の硬さ分布試験結
板 厚 3.2mmは 溶 融 部 が 深 い た め 発 生 し た ガ ス が 閉 じ こ
果をLBMの水準に関連づけて示す。
められやすく,ブローホールが発生した。
②の マクロ試験結果,中速条件では出力が変化して
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①の硬さ分布試験結果,母材の硬さが100HV程度に対
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し,溶接中央部では200HV以上であった。また,低速条
一般的に最適溶接条件を求めるには,推定条件から
件より高速条件の場合に溶接部中央が硬くなり,高速
始まり試行錯誤を繰り返していたが,LBMの活用により
条件より低速条件の場合に熱影響部が広がった。これ
最適溶接条件の効率化及びルーチン化を実現できると
は,溶接による入熱量が高速条件では少ないため母材
考える。特に(1)のケースでは効率化の度合いが最も高
に吸収されやすく急冷されたことにより最も硬くなり,
く,作業者の労力,溶接材料のコスト,リードタイム
低速条件では母材が高温となるため徐冷されたことに
の削減に高い効果が期待できる。
より硬さが抑えられたと考える。
②の 硬さ分布試験結果,低速度条件では過剰な入熱
4
により 熱影響部が広範囲であり,さらに薄板側が高温
となり やすくまた冷却も早まったことにより硬さのピ
おわりに
本研究により次の成果を得ることができた。
(1)SPCC 3.2mmの同 種材料,SPCC 2.0mmとSPCC 3.2
ークが薄板側にシフトしたと考える。
mmの 異 種 材 料 , 及 び SPCC 2.0mmと SUS304 2.0mm
③ の 硬 さ 分 布 試 験 結 果 , 鋼 板 の 硬 さ が 100HV程 度 で
の異種材料について完成度の高いLBMを開発し,
ステンレス板が200HV程度に対し,溶接中央部では350
それらの特性を把握した。
~ 400HV程 度 で あ っ た 。 低 速 度 条 件 で は , 過 剰 な 入 熱
(2)溶接条件と溶接結果を体系的に「見える化」し,
により 溶接部及び熱影響部が広範囲となるが,徐冷効
最適溶接条件設定について効率化を実現した。
果によ り硬さのピークは高速度条件よりも低下した。
(3)LBMの 作成方 法と利用 方法を 確立し,企業の溶接
な お , ピ ー ク が 3箇 所 に 現 れ た 原 因 は , 測 定 部 分 の 溶
現場でも活用可能なものとした。
接部の幅が1mmを超えたためである。
3.4
LBMの活用と効果
参考文献
LBM の 活 用 事 例 と し て 次 の 4つ の ケ ー ス が 想 定 で き
1) 赤羽輝夫他:"CO2レーザによる異種金属溶接における
る。
特性評価(第1報)"栃木県産業技術センター研究報告,
(1) 溶 接 材 料 ・ 条 件 が 同 一 の 場 合 は , そ の ま ま LBMの
102-106,(2013)
2) 赤羽輝夫他:"CO2レーザによる異種金属溶接における
最適条件が活用できる。
(2) 溶接 材 料 ・ 条件 の 相 異が 小 さ い 場合 は,最適条件
特性評価(第2報)"栃木県産業技術センター研究報告,
118-121,(2014)
の推定に類似のLBMが活用できる。
(3) 溶接 材 料 ・ 条件 の 相 異が 大 き い 場合 は,テスト溶
接 の 欠 陥 状 況 と LBMの 欠 陥 規 則 を 参 考 に 最 適 溶 接 条
本研究は,公益社団法人JKA補
件の推定に活用できる。
(4) 全 く 新 規 の 溶 接 材 料 ・ 条 件 の 場 合 は , LBMの 作 成
助事業により整備した機器を活
用して実施しました。
方法を参考に新規作製が有効である。
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