(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第48回(平成27年度)研究発表会 論集 プレゼンテーション発表アブストラクト №217 コンクリートの劣化状況と熱挙動に対するスケーリング評価 (株)日建技術コンサルタント 1.はじめに 瑞泉 翔 ける他の実験においても、同様にこの方法で温度勾配を測定 近年、既存コンクリート構造物の維持管理が課題となって おり、それに付随して構造物の劣化診断の効率化が重要視さ れている。本研究では、特に表面の剥離等のいわゆるスケー している。 以上の方法で測定した各モルタル供試体の温度勾配のグラ フを、図-3 に示す。 リング損傷を受けたコンクリートを対象に、その劣化具合の 水散布後、約 15 秒の時間において、試験体内部の熱によっ 簡易的な評価方法として、ポータブルな熱源を用いた温度測 て試験体表面温度は上昇し、ピーク値を得て下降している。 定による評価を提案する。 グラフからは、空隙の大きい試験体(W/C65%)の温度勾配 過去に行った実験によって得られた知見から、表面損傷の 大きいコンクリートは、損傷の小さいコンクリートに比べて が大きいことが読み取れる。これにより、供試体の空隙率と 温度勾配の相関性が確認された。 熱挙動が大きくなり、観測される温度勾配が大きくなるもの と仮説を立て、コンクリートの劣化状況と熱挙動の相関性を 確認し、現場でのコンクリートのスケーリング評価に対して 温度(℃ ) 温度測定が有効であるかを検証した。 2.実験概要 □ W/C 65% ○ W/C 55% よく含浸させた供試体表面に、ドライヤー型の簡易熱源ヒ ータを用いて 5min,600℃の条件で加熱を行った。その後、約 5g の水を霧吹きで散布し、各供試体のピーク温度から一定時 間までの温度の下降勾配を測定した。具体的には、以下の 3 図‐1 加熱・散水直後の温度分布 つの実験を行った。 (1) W/C55%と W/C65%(共に 50×50×300mm)の二つの モルタル供試体を使用し、適切な測定方法及び温度勾配の傾 向を調査した。 □ W/C 65% ○ W/C 55% (2) 100×100×80mm の塊状コンクリート供試体を、ス ケーリングの小さいものと大きいものの 2 種類使用し、表面 の状態の違いによる温度勾配の傾向の違いを調査した。 (3) スケーリングの激しい塊状コンクリートを 100× 100×25mm の大きさに切断し、その切断面とスケーリング面 の表面状態の違いによって、温度勾配に影響があるかを調査 図‐2 時間経過後の温度分布 した。 ピ-ク温度勾配 (最高点1画素) 115 3.実験結果と考察 110 測定方法としては、より正確な温度勾配を算出するため、 面としての温度変化をグラフ化し、温度勾配を測定すること とした。図-1 および図-2 は、測定した温度を正面から見て縦 に平均をとり、横軸の測定画素位置に合わせてプロットした ものである。温度の変化を面として捉えることで、供試体の 表面状態の影響をより正確に反映できると考え、本研究にお 温度(℃) (1)W/C55%、W/C65%のモルタル供試体 □ W/C 55% W/C 65% ○ W/C 65% W/C 55% 105 100 95 90 85 0 20 40 60 80 100 120 経過時間(秒) 図‐3 モルタル供試体の温度勾配 - 179 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第48回(平成27年度)研究発表会 論集 プレゼンテーション発表アブストラクト №217 (2)塊状コンクリート供試体 (3)切断コンクリート供試体 図-4 に示すのがスケーリングの小さい供試体の写真および 図-7 はスケーリング破壊を起こしたコンクリートの表面と、 サーモグラフィ画像である。また、図-5 に示すのがスケーリ 接断面のそれぞれの断面の温度勾配をグラフ化したものであ ングの大きい供試体の写真およびサーモグラフィ画像である。 る。スケーリング破壊を起こしたコンクリートを、深さ 25mm この 2 種類の供試体の温度変化をグラフ化したものが、図-6 のところで切断し、スケーリング表面と切断面で温度勾配を である。 比較した。 図-6 から温度勾配を読み取ると、スケーリングの小さい供 切断面の方は表面が整っていることから、スケーリング表 試体に比べ、スケーリングの大きい供試体の温度勾配が大き 面の温度勾配に対してより小さくなるのではないかと想定し くなっており、当初の仮説を裏付ける結果となった。実験(1) ていたが、切断面の温度勾配の方が大きくなるという結果と で得られた傾向とも合致することから、標準的なコンクリー なった。これは、供試体表面に露出していた粗骨材の影響や、 トのスケーリング評価に対して、温度測定は一定の有用性が 切断により供試体の質量が小さくなったため温度ピークが早 あると考えられる。 期に表れ、正確な測定結果が得られなかった可能性等が考え られる。 100 95 90 Y = 97.12-0.1825 X 温度(℃) 85 R 2 =1 80 75 70 65 Y = 96.61-0.2267 X 60 R 2 =1 スケ-リング無し(切断試料)最大値 スケーリング大 スケ-リング無し(切断試料)平均値 スケ-リング有り(切断試料)最大値 55 スケーリング小 スケ-リング有り(切断試料)平均値 50 加熱直後 水散布後 0 20 40 60 80 100 120 140 160 経過時間(秒) 図‐4 スケーリングの小さい塊状コンクリート 図‐7 各断面の温度勾配 4.まとめ (1)のモルタル供試体と、(2)の塊状供試体の実験に おいては、表面損傷の大きい供試体の方が、大きい熱挙動を 示した。その結果、スケーリング面の評価に対して、温度勾 配の測定という方法は一定の有用性があると考えられる。し かし、(3)の切断供試体の実験では、表面の整った断面の 方が、大きい熱挙動を示した。 加熱直後 水散布後 図‐5 スケーリングの大きい塊状コンクリート 最後に、今回得られた各実験結果の一般性を高めるために、 多くのサンプルデータを収集し、将来的には、温度勾配から直 にスケーリング評価が可能となるようなシステムの構築を目 110 Y = 106.1-0.2867X 2 100 R = 0.996 スケ-リング無し(塊試料)最大値 スケーリング大 スケ-リング無し(塊試料)平均値 指していきたい。 スケ-リング有り(塊試料)最大値 スケーリング小 スケ-リング有り(塊試料)平均値 温度(℃) 90 【参考文献】1)鎌田卓司,鳥取誠一,中村圭二郎,栗田耕一:遠 80 隔加熱によるアクティブ赤外線法を用いたコン 70 クリート高架橋の検査,コンクリート工学年次 Y = 84.89-0.2004X 60 論文集,Vol.25,No.1,pp.1763-1768,2003. 2 R = 0.999 50 0 20 40 60 80 100 120 140 160 経過時間(秒) 図‐6 塊状コンクリートの温度勾配 - 180 -
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