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別紙
諮問第504号
答
1
申
審査会の結論
「火災調査書」を一部開示とした決定は、取り消すべきものとは認められない。
2
審査請求の内容
(1)審査請求の趣旨
本件審査請求の趣旨は、東京都個人情報の保護に関する条例(平成2年東京都条例
第113号。以下「条例」という。)に基づき、審査請求人が行った「平成26年○月○日
○時○分頃、東京都○○区○○(地名)○丁目○番○号で発生した火災に関する火災
調査書(様式第15号、様式第15号の2)に記載されている私の個人情報」の開示請求
に対して、東京消防庁消防総監が平成26年9月5日付けで行った一部開示決定につい
て、その取消しを求めるというものである。
(2)審査請求の理由
審査請求書及び意見書における審査請求人の主張を要約すると、以下のとおりであ
る。
ア
制度の趣旨に反している。
東京消防庁による火災原因調査は、火災の予防と被害の軽減によって公共の福祉、
すなわち東京都民の健康と幸福を増すことを目的とする。要するにこの調査は都民
の暮らしを守るために行われている。その結果は本来都民皆のものである。個人の
プライバシーが特に問題になるのでない限り、都民は誰でもその結果に接すること
ができるはずである。少なくとも建物の所有者は条例に基づいて調査結果の開示を
請求する権利がある。
結果を所有者にすら示さないようなものは調査としての体をなさない。無意味な
ばかりか有害な営みである。実施機関の判断は明らかに法の趣旨に背いている。
1
イ
条例 16 条2号に該当しない。
条例は、個人識別情報を原則として開示の対象外とする。しかし、非開示とされ
た記載はいずれもこれに当たらない。
条例 16 条2号は個人識別情報等を開示の対象外とした上で、「人の生命、健康、
生活又は財産を保護するため、開示することが必要であると認められる情報(同号
ただし書ロ)であれば、個人識別情報であっても開示の対象となるとしている。こ
れは、情報を開示しないことにより保護される開示請求者以外の個人の権利利益よ
りも、開示請求者を含む人の生命、健康等の利益を保護することの必要性が上回る
ときには、当該情報を開示しなければならない。
火災調査の協力者は、個人として本来秘匿しておきたい情報を提供したのではな
く、火災に関する客観的な状況を報告したに過ぎない。これはいわゆるセンシティ
ブ情報ではないし、個人のプライバシーとも関係がない。非開示にして保護される
べき利益はない。
審査請求人の利益を保護する必要性が情報提供者のそれをはるかに上回ってい
る。したがって、火災調査書の各記載はいずれも条例 16 条2号ただし書ロに当た
る。
「傷病名及び傷病程度」は、条例 16 条2号柱書の「開示請求者以外の個人の権
利利益を害するおそれがあるもの」には当たらない。条例 16 条2号は、あくまで
他人の個人情報について開示の対象外とするものである。傷病名や傷病の程度が開
示されても、その人の権利が侵害されるおそれは全くない。
原決定は、火災調査書のうち「発見状況」欄の発見者、「通報状況」欄の通報者
の「住居、氏名、年齢」と「認識状況及び具体的な行動」を区別せずにいずれも条
例 16 条2号の個人識別情報に当たるかのようにいう。
「 認識状況及び具体的な行動」
からはどこの誰かが特定されることはないからこれに当たらないことは明らかで
ある。
ウ
開示によって信用は失墜しない。
火災調査書のうち「発見状況」欄及び「通報状況」欄の認識状況及び具体的な行
動の記載を開示することで「都民等からの火災調査に対する信用を失墜させる」こ
2
とはない。調査結果の公表によって調査に対する信用が失墜するなどということは
あり得ない。そのような実証はどこにもないし、明らかに経験則に反している。む
しろ事故調査はその結果の公表が求められている。公表によって関係者に事故の防
止を促すことが、再発の防止と被害の軽減につながるからである。
エ
開示によって情報収集や関係資料の入手は困難にならない。
「発見状況」欄及び「通報状況」欄の認識状況及び具体的な行動の記載を開示す
ることで「関係者からの情報収集活動や火災関係資料の入手が困難」になることも
ない。
適切な方法で火災調査を行っているのであれば、その内容の公表に不都合など生
じるはずがない。むしろ公表によって初めてその内容の正確さが担保され、かつ、
火災予防に実をあげるはずである。情報収集に不都合が生じるとすれば、それは恣
意的な情報収集ができなくなるということである。これは法と条例の予定する「事
業への支障」ではあり得ない。
オ
実施機関は、
「発見状況」欄及び「通報状況」欄を非開示とした理由について、
「こ
れらの情報は、火災に関係する者(本件では、発見者及び通報者)から、その供述
内容は他に知られることはないという状況の下であくまでも任意の協力により得
られた供述による情報を基に記載されているものであり、これが開示されることと
なると、その供述が火災調査の目的以外に利用されることはないとの都民の信頼に
反することとなる」と主張する。
しかし、本件開示請求は、火災調査の目的の利用である。本件火災の被害者であ
る審査請求人が、自己情報の開示請求という手続を通じて、火災調査の結果に接す
ることによって、火事を防止することが可能になり、皆が安心して暮らすことがで
きるようになるのだから、都民の信頼に反するということにもならない。
カ
実施機関は、「本件において非開示とした部分の情報には出火原因の判断に影響
するような内容は含まれておらず、出火原因に関する情報部分は開示している」な
どと主張する。
しかし、非開示とされた部分に出火原因の判断に影響するような内容が含まれて
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いるかどうかは、審査請求人の立場では全く分からない。発見状況や通報状況が非
開示となっているが、ここに記載されている情報が何かの役に立つかもしれない。
そもそも、火災原因は不明となっている。審査請求人が火災原因を判断し、場合
によっては更なる調査や鑑定を実施するためには、発見状況や通報状況等の情報も
総合して検討することが必要不可欠である。
キ
実施機関は、「受傷者の具体的な傷病名や受傷程度が当該受傷者個人の意思によ
らずに開示された場合には、その情報の取り扱われ方によっては、当該受傷者個人
の権利利益を侵害するおそれがある」と主張する。
「その情報の取り扱われ方によっては」と留保を付けて主張しているが、どのよ
うな取り扱われ方によって、個人の権利利益を侵害するのだろうか。具体的な主張
ができないからといって、情報を開示したくないという目的のために、このような
留保付きで主張することは、公的機関のあるべき姿ではなく、不公正であるとしか
言いようがない。氏名や住所等の個人情報から離れて、個人の権利利益を侵害する
ような場面など全くあり得ない。
ク
自分の所有し居住する建物がなぜ燃えたのか。これはその個人にとって極めて重
要な情報である。現に公的機関が調査を行い、結果を保有していながら、建物の所
有者にこれを秘匿していい理由はない。個人情報に関する法律や条例は、権力が情
報を秘匿するためのものではない。実施機関の判断は個人情報に関する法律や条例
に違反しており、取り消されなければならない。
3
審査請求に対する実施機関の説明要旨
理由説明書及び口頭による説明における実施機関の主張を要約すると、以下のとおり
である。
(1)対象公文書に記載されている情報内容等について
火災調査書は、火災が発生した場合に、消防法(昭和23年法律第186号)第7章の
規程に基づき消防署で、その火災の原因及び火災のために受けた損害の調査を行った
結果の概要を、総括的にとりまとめたものであり、これには、出火日時、火元の所在、
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火元者の氏名等の個人情報のほか、火災による焼損状況(類焼物件を含む。)、火災・
原因概要(死傷者の概要を含む。)、発見・通報・初期消火の各状況等が記載される。
なお、本件火災の火元は、審査請求人が所有し、居住する住宅であるので、本件火
災調査書は、火元者である審査請求人に関する情報を中心として記載されているが、
発見・通報・初期消火に関わっている火元者とは別の個人の氏名、行動等に関する情
報も記載され、また、本件火災により受傷した火元者とは別の個人に関する情報も記
載されている。
(2)非開示理由について
ア
「火災・原因概要」欄で非開示とした部分について
「火災・原因概要」欄で非開示とした部分には、本件火災により受傷した者の氏
名、年齢、住居、傷病名及び受傷程度が記載されている。
このうち、本件火災により受傷した者の氏名、年齢、住居については、審査請求
人以外の個人に関する情報で、特定の個人を識別することができるものであるため、
条例16条2号に該当する。
また、本件火災により受傷した者の傷病名、受傷程度等は、審査請求人以外の個
人に関する情報であって、この情報自体からは審査請求人以外の特定の個人を識別
することはできないが、開示することにより、なお審査請求人以外の個人の権利利
益を害するおそれがあるため、条例16条2号に該当するものとして非開示とした。
イ
「発見状況」欄及び「通報状況」欄について
「発見状況」欄及び「通報状況」欄には、発見者及び通報者の住居、氏名、年齢、
認識状況、具体的な行動及び住宅の電話番号に関する情報が記載されており、これ
らの情報は、審査請求人以外の個人に関する情報で、特定の個人を識別することが
できるものであるため、条例16条2号に該当する。
また、これらの情報は、火災に関係する者から、その供述内容は他に知られるこ
とはないという状況の下であくまでも任意の協力により得られた供述による情報
を基に記載されているものであり、これが開示されることとなると、その供述が火
災調査の目的以外に利用されることはないとの都民の信頼に反することになり、そ
の結果、火災調査においての関係者等からの情報収集活動や火災関係資料の入手が
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困難となり、ひいては火災の原因及び損害の調査に係る事務の適正な遂行に、支障
を及ぼすおそれがあるため、火災に関係する者により任意になされた供述内容に基
づくこれらの情報は、条例16条6号にも該当するものとして非開示とした。
(3)審査請求人の主張について
ア
審査請求人は、審査請求書において、開示することによって審査請求人の生
命、健康、財産等の権利利益を保護する必要性が、非開示による受傷者個人や情報
提供者個人の権利利益の保護の必要性をはるかに上回るとして、非開示とした情報
はいずれも条例16条2号ただし書ロに該当する旨主張している。
しかしながら、本件において非開示とした部分の情報には出火原因の判断に影響
するような内容は含まれておらず、審査請求人に開示されないことにより、現に審
査請求人を含む人の生命、健康等に被害が発生し続けているとか、そのような被害
が発生する蓋然性が高いということもないので、条例16条2号ただし書ロには、該
当しないというべきである。
イ
また、審査請求人は、火災による受傷者の傷病名や受傷程度は、条例16条2号の
「開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの」には当たらない旨
主張している。
しかしながら、火災が公共の関心事であることから、火災による死傷者の状況に
ついて公表されることがあることと、条例に基づいて保有個人情報開示請求がなさ
れた場合に、開示請求者以外の受傷者の傷病名や受傷程度が条例16条2号本文に該
当するか否かとは別の問題であって、受傷者の具体的な傷病名や受傷程度が当該受
傷者個人の意思によらずに開示された場合には、その情報の取り扱われ方によって
は、当該受傷者個人の権利利益を侵害するおそれがあるから、条例16条2号に該当
するものというべきである。
ウ
また、審査請求人は、審査請求書において、「発見状況」欄及び「通報状況」欄
に記載されている認識状況、具体的な行動は、開示することで、都民等からの火災
調査に対する信頼を失墜させることはないとか、関係者からの情報収集活動や火災
関係資料の入手が困難になることはないなどと主張している。
6
しかしながら、これらの情報は、発見者及び通報者である個人から、その供述内
容は他に知られることはないという状況の下であくまでも任意の協力により得ら
れた供述による情報を基に記載されているものであり、これが開示されることとな
ると、その供述が火災調査の目的以外に利用されることはないとの都民の信頼に反
することとなったり、自ら供述した情報内容がり災者等に知られることを快く思わ
ない関係者からの自発的な情報提供が得られなくなる等、供述を躊躇するような事
態となり、今後の火災調査においての関係者等からの情報収集活動や火災関係資料
の入手が困難になるおそれがあるから、条例16条6号に該当するものというべきで
ある。
エ
なお、審査請求人は、審査請求書において、自分の所有し、居住する建物がなぜ
燃えたのかは、その個人にとって極めて重要な情報であるとして、建物所有者に秘
匿していい理由はない等と主張しているが、本件においては、出火原因に関する情
報部分は、既に開示されているものである。
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審査会の判断
(1)審議の経過
審査会は、本件審査請求について、以下のように審議した。
年
月
日
平成26年12月
審
3日
議
経
過
諮問
平成27年
1月30日
新規概要説明(第90回第三部会)
平成27年
6月16日
実施機関から理由説明書収受
平成27年
6月26日
実施機関から説明聴取(第94回第三部会)
平成27年
7月
審査請求人から意見書収受
7日
7
平成27年
7月24日
審議(第95回第三部会)
平成27年
9月18日
審議(第96回第三部会)
平成27年10月30日
審議(第97回第三部会)
平成27年11月27日
審議(第98回第三部会)
平成27年12月18日
審議(第99回第三部会)
平成28年
1月22日
審議(第100回第三部会)
平成28年
2月19日
審議(第101回第三部会)
(2)審査会の判断
審査会は、審査請求の対象となった保有個人情報並びに実施機関及び審査請求人の
主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
ア
火災調査について
火災調査とは、消防法第7章の規定に基づいて行われる消防機関の行政調査であ
り、同法31条では、火災の原因並びに火災及び消火のために受けた損害の調査をす
ることが定められている。
東京消防庁火災調査規程(平成6年11月16日訓令第35号)62条では、消防署長は
管轄区域内で発生した火災について、調査書類を作成し、管理しなければならない
旨規定している。また、同規程64条では、火災調査に必要な書類として、「火災調
査書(別記様式第15号及び第15号の2)」、
「出火原因判定書(別記様式第16号)」、
「火
災出場時における見分調書(別記様式第17号)」、「現場(鑑識)見分調書(別記様
式第18号)」、「質問調書(別記様式第19号)」等を定めている。
イ
本件火災調査書及び非開示部分について
本件審査請求に係る開示請求は、「平成26年○月○日○時○分頃、東京都○○区
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○○(地名)○丁目○番○号で発生した火災に関する火災調査書(様式第15号、様
式第15号の2)に記載されている私の個人情報」(以下「本件開示請求」という。)
であり、実施機関では、本件開示請求に係る火災についての調査に伴い作成された
前記アの調査書類のうち「火災調査書(別記様式第15号及び第15号の2)」
(以下「本
件火災調査書」という。)を対象保有個人情報として特定した。
本件火災調査書は、「火災番号」、「出火日時」、「覚知」、「鎮火」、「火災の程度」、
「覚知別」、
「火災種別」、
「火元」、
「焼損状況」、「発火源」、
「部位」、
「経過」、
「着火
物」、「出火箇所」、「火災・原因概要」、
「発見状況」、
「通報状況」、
「初期消火状況」、
「用途地域」、「気象」、「原因判定理由」及び「判定者」の各欄で構成されている。
実施機関は、本件火災調査書について、「火災・原因概要」欄中の「死傷者の住
居、氏名及び年齢」及び「傷病名及び傷病程度」は条例 16 条2号に該当し、
「発見
状況」欄中の「発見者の住居、氏名、年齢、認識状況及び具体的な行動」及び「通
報状況」欄中の「通報者の住居、氏名、年齢、電話番号、認識状況及び具体的な行
動」は条例 16 条2号及び6号にそれぞれ該当するとして、当該部分を非開示とす
る一部開示決定(以下「本件処分」という。)を行った。
ウ
審査会の審議事項について
実施機関は、本件火災調査書の全体が審査請求人の保有個人情報の開示請求の対
象となるとして一部開示決定を行っているが、情報公開における開示請求の対象が
「公文書単位」であるのと異なり、保有個人情報の開示請求の対象は、自己を本人
とする保有個人情報として公文書に記載されている部分に限られ、開示・非開示の
決定は、「情報単位」で行う必要がある。
このことについては、東京都生活文化局広報広聴部情報公開課から、各実施機関
で適切に運用がなされるように通知されているところである(平成 27 年6月 11 日
付東京都生活文化局広報広聴部情報公開課長通知)。
審査会は、上記通知に照らして、本件火災調査書における保有個人情報の範囲及
び該当性について、以下検討する。
エ
条例が規定する保有個人情報の範囲について
条例は、「自己を本人とする保有個人情報」について開示を請求する権利を認め
9
ているところ(条例 12 条)、
「保有個人情報」を「実施機関の職員が職務上作成し、
又は取得した個人情報であって、当該実施機関の職員が組織的に利用するものとし
て、当該実施機関が保有しているものをいう。ただし、公文書に記録されているも
のに限る。」と定義している(条例2条3項)。
次に、保有個人情報を形成する個人情報保護の見地から、その収集は、事務の目
的を明確にし、当該目的達成のために必要な範囲内で、適法かつ公正な手段により
収集すべきことを規定し(条例4条)、個人情報を取り扱う事務の目的を超えて個
人情報を収集することが禁止され、事務の目的を達成する上で必要不可欠な最小限
の個人情報が保有されることになっている。
また、保有個人情報を取り扱う事務を開始しようとするときは、「保有個人情報
取扱事務の目的」、
「保有個人情報の記録範囲」、
「保有個人情報の対象者の範囲」等
を明記した「保有個人情報取扱事務届出事項」
(以下「届出書」という。)を知事に
提出することが義務付けられ(条例5条)、届出書に係る事項は公表されて、個々
の事務において、いかなる個人情報をどのような目的において収集し取り扱ってい
るかについて、広く都民等に周知することとされている(条例6条)。
このように届出書は、条例の各実施機関が行う保有個人情報取扱事務の根幹とな
る基準を示す文書であり、保有個人情報の開示請求の対象となる保有個人情報の範
囲についても、届出書に記載されている届出事項に基づき、公文書の形態、表題、
情報区分の明確性と難易性、情報内容と開示請求者との関連性、さらには、当該実
施機関における当該情報の組織的利用の状況等を勘案し、事案に即して判断するこ
とが相当である。
オ
本件火災調査書の保有個人情報該当性について
実施機関の説明によると、火災調査の目的は、火災の原因及び損害の調査を行う
ために、り災者を始めとする火災関係者から幅広い情報を収集し、火災の原因や損
害額についての情報を各種火災予防施策へ反映するとともに、り災状況を証明する
ための資料として利用することにあるという。また、本件火災調査書には火災発生
の火元者である審査請求人が所有する建物やその焼損状況等の情報が記載されて
いることから、本件開示請求に対しては、本件火災調査書に記載された全ての情報
を対象保有個人情報の範囲として特定した旨説明する。
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しかしながら、本件火災調査書には、審査請求人のほかにり災者やり災者以外の
火災関係者に関する情報等が混在して記載されており、それぞれ項目欄別に区分可
能な形式で記載されていることから、火災調査事務の目的、その他前記諸事情を勘
案し、審査請求人が開示請求をすることができる「自己を本人とする保有個人情報」
の範囲及びその該当性について、本件火災調査書の 各欄別に検討する。
「火元」欄には、場所並びに建物の階数、用途、面積、構造、火元区分の情
報のほか、火元建物の所有者として審査請求人の氏名、年齢、職業といった審
査請求人を識別することができる情報が記載されており、火元に関する情報に
ついては、その重要性に鑑み、火元建物に関する情報として、審査請求人の個
人情報を保有しているものと認められる。
したがって、「火元」欄に記載された情報は、一体として審査請求人の保有
個人情報に該当するものと認められる。
「焼損状況」欄には、火元及び類焼建物に関して、焼損物件、全焼・半焼棟
数、焼損表面積、火災損害額、火災による死傷者といったり災建物の焼損状況
等が記載されており、当該情報は、火災調査の目的を達成するために必要な情
報として実施機関が収集した情報であると解されるが、個人を特定する氏名等
の記載がなく、その内容、組織的利用状況等から、それぞれのり災建物に関す
る情報について、特定個人の情報として保有管理する必要性を認める特段の事
情がないので、審査請求人を含めた特定個人の保有個人情報とは認められない。
「発火源」、「部位」、「経過」、「着火物」及び「出火箇所」の各欄には、
火元に関連する情報が記載されるところ、具体的事由や個人を特定する氏名等
の記載がないことから、審査請求人の保有個人情報とは認められない。
「火災・原因概要」欄には、火元、類焼建物、救急搬送者及び発火源に関す
る情報が記載されている。このうち、救急搬送者に関する情報は、開示請求者
以外の個人に関する情報であると認められる。
また、火元、類焼建物及び発火源に関する情報は、個人を特定する氏名等の
記載がなく、その内容及び組織的利用状況等から、当該情報を審査請求人を含
めた特定個人の情報として保有管理する必要性を認める特段の事情がないの
で、「火災・原因概要」欄に記載された情報は、いずれも審査請求人の保有個
人情報とは認められない。
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「発見状況」欄及び「通報状況」欄は、いずれも開示請求者以外の個人に関す
る情報であって、審査請求人の保有個人情報とは認められない。
「初期消火状況」欄には、具体的事由や個人を特定する氏名等の記載がない
ことから審査請求人の保有個人情報とは認められない。
「用途地域」欄及び「気象」欄は、火元建物の所有者には直接関連性がなく、
実施機関が本件火災調査において認定した情報であるから、審査請求人の保有
個人情報とは認められない。
したがって、本件火災調査書に記載された情報のうち、審査請求人の保有個人
情報として特定すべき範囲は「火元」欄の情報のみであり、これ以外の情報は、
審査請求人の保有個人情報の開示請求としては認められないものと解される。
なお、本件火災調査書の冒頭部分(表題、作成者、宛先、火災番号、覚知別、
火災種別)の情報は、対象保有個人情報が記載された公文書を特定するために
必要な項目と認められる。
審査請求人は、実施機関の一部開示決定を不当として、その非開示部分を開
示すべきと主張するものであるが、前述のとおり、当該非開示部分は、いずれ
も本来審査請求人の開示請求の対象外として処理されるべきものであり、審査
請求人は、当該部分の開示を求めることはできないものと解されるので、審査請
求人の主張は採用できない。
以上のとおり、本件処分には、審査請求人に係る開示請求の対象となる保有
個人情報の範囲の特定に妥当でない点があるが、前記で審査請求人の保有個人
情報と判断した部分には、実施機関が非開示とした情報はなく、すべて開示さ
れていることから、これを取り消し又は変更すべきものとは認められない。
よって、「1
審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
渡辺 忠嗣、鴨木 房子、寺田 麻佑、前田雅英
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