H「グローバル教育推進 - 新潟県立教育センター

分科会H「グローバル教育推進プロジェクト」
テーマ:グローバル教育の推進
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学校における国際理解教育の推進を図るための取組
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研究の概要
今年度、当センターではグローバル教育推進プロジェクトを立ち上げ、「教師がどのように、どん
な場面でグローバル教育を推し進めていけばよいのか、現場での具体的な実践を目指した研究・開発
を行う」ことを目的として調査・研究に取り組んだ。具体的には、学校現場でのグローバル教育の実
態を把握するため、教員を対象にしたアンケートを実施し、その結果の分析を行った。また、関係す
る外部機関との連携を図るため、JICA 等が主催する研修会や研究会に参加し、実践事例の収集や、連
携の在り方等を検討した。ここではアンケート結果の分析を紹介する(有効回答数:264)なお、学
校現場では国際理解教育として浸透しているため、アンケートでも国際理解教育の実践について質問
した。
まずは国際理解教育の実践について、全体で約4割の教員が実践していた。なお校種別の実践の割
合は図1に示す。一方で、児童生徒がグ
ローバル社会で通用する人材になって
ほしいと考えている教員は9割を超え
ていた。国際理解教育の必要性を感じて
いる教員は非常に多いが、実践がそこま
で進んでいない実態が確認できた。
実践が進んでいない理由として、「ど
のようなことをやったらいいのか分か
らない」と答えた割合が最も多かった
図1
(図2参照)。また、実践を進めるため
に必要なこととして、
「国際理解教育の知識・理解」や「実践事例」と答えた教員が多かった。推進
する上での課題と考える。
グローバル教育推進への提言として、
2点示した。1点目はネットワークを広
げることである。実践していない教員は
実践のための手立てを求めている。もう
すでに実践している教員から積極的に
情報提供やアドバイスをしてもらうこ
とで、推進の輪が広がるだろう。また、
外部機関との連携を図る必要もある。外
部機関による研修会や講師派遣事業も
すでにあるため、そのような機会・資源
を活用することも重要と考える。
2点目は、グローバル教育の視点をも
図2
って教育活動を見直すことである。今ある教育活動の中に、グローバル教育の視点をもって実施でき
るものは多い。例えば「多様性を学ぶ」ことをねらいとすることで、様々な教科指導の中で取り組む
ことが可能となる。グローバル人材育成のため、どのような資質・能力を育てるか、そのような視点
から実践することが、グローバル教育の推進につながると考える。
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分科会の流れ
(1) 開会のあいさつ
(2) 基調発表
「国際理解教育の現状と課題」 県立教育センター指導主事 柳澤 敏雄
(3) 実践発表
①「体験・参加型でつくるグローバル教育」 長岡市立才津小学校
渡辺
登 教諭
②「文部科学省人権教育研究推進事業におけるグローバル教育の実践」
県立津南中等教育学校 伊藤 大助 教頭
(4) 講義・演習
国際協力機構JICA 東京国際センター地域連携課市民参加協力調整員 本田 龍輔 様
(5) 閉会のあいさつ
(6) 諸連絡・閉会
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実践発表の概要
(1) 実践発表1 「体験・参加型学習でつくるグローバル教育」
長岡市立才津小学校 渡辺
①
登 教諭
実践発表 「世界の中の日本」こんなところに日本人~エルサルバドル編~ 6年生社会科
教師海外研修でエルサルバドルを訪問したときの体験や見聞を基に、以下のような内容の国際
理解教育を実践した。
・日本とエルサルバドルの食文化や学校生活等の相違点から、学習課題を見いだす。
・自ら見いだした学習課題の解決を通して、世界平和を維持していくためには、相互依存や共生
の考え方が大切だということに気付く。
②
ワークショップ体験「チョコレートの真実」
世界中の子どもの権利を守り、発展途上国における児
童労働の撤廃と予防に取り組む国際協力の NGO 団体、
ACE が開発した教材を使ったワークショップ体験を行っ
た。はじめに日本の家族とガーナのカカオ農家を営む家族
との一ヶ月の生活費のやりくりをグループごとに考えた。
次に、グループからのシェアリングを基にカカオ農家の貧
困について理解した。最後に、ワークショップをとおして
「貧困」
「児童労働」
「教育が受けられない」などの事象に
ついての関連性を考えることから、発展途上国の貧困によ
る負のスパイラルについて体験的にとらえた。
(2) 実践発表2 「グローバル社会に対応できる豊かな人権感覚と実践的態度の育成 ~中等教育学
校6年間における体系的取組~」
県立津南中等教育学校
伊藤 大助 教頭
人権教育と関連させて実践したグローバル教育の取組であった。社会の情報化、グローバル化に
対応し、生徒の人権意識を組織的、系統的かつ継続的な取組ができるよう校内体制を整備するとと
もに、学校の特色に合わせた教育活動と関連させた人権教育の在り方や、その評価方法の確立に向
けた研究であった。
組織的、系統的・発展的な学習が展開できるように、中等教育6年間を生徒の発達段階に応じて
STAGE1「異文化理解」
、STAGE2「世界の人権問題について」、STAGE3「国際相互理解に向け
て」と位置づけて取り組んでいる。また県の事業を活用し、県内留学生との交流を中心に授業を展
開したことで、今まで触れることのなかった異文化に接し、世界には多様な独自の文化があること
への気付きや、新たな知識の習得へと繋がった。また、他国の事情を理解することで、自国の理解
の深化への機会となったとも考えられるとの発表がされた。
また、生徒へのアンケート結果から、「授業を楽しみながら異文化理解や国際的人権問題を学ぶ
ことができた」と回答した生徒が全体の8割以上であり、また、9割以上の生徒が「異文化理解や
国際的な人権問題について理解が深まった」と回答したということから、国際的な人権課題への理
解と意識が高まったのではないかとする考察がなされた。
今後の方向性として次のようなことが示された。生徒が留学生との交流活動に積極的に取り組み、
それが異文化理解や国際的人権課題について考えることに繋がり有効だったことから、次年度も交
流活動を継続し、更に内容の充実を図ることで、国際的人権感覚の醸成を図っていく。
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講義・演習「国際理解教育の推進を図る活動」の内容
国際協力機構 JICA 東京国際センター地域連携課の市民参加協力調整員である本田龍輔様を講師に、
講義・演習「国際理解教育の推進を図る活動」を行った。最初に簡単なアイスブレイクの活動を行っ
た後、①グローバル化と相互依存について、②途上国が抱える教育の問題、の2つのテーマについて
講義・演習を行った。①の相互依存ではアフリカと日本とのつながりについてワークシートを使って
学び、
「原材料と製品を合わせるゲーム」を通じて、日本と諸外国との相互依存について実感的な理
解を促した。②の教育の問題では、カードを使いながら教育が受けられないことで起こる「負の連鎖」
について、協議を行い、個人の努力では負の連鎖から抜け出すことが難しいことを実感した。
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参加者からの感想
・今後の社会全体にかかわる大事な視点である。小学生から国際感覚を養っていく必要がある。
・とても有意義な会であった。ありがとうございました。
・体験型のワークショップで楽しかったです。実際どのように活用すればよいか知ることができてよ
かったです。
・日本は援助する国というイメージが強かったが、JICA の DVD で相互依存しているという実感がわ
きました。
・体験型は実感を伴うのでよいです。
・実際にワークショップを体験し、資料の提示、声かけ、授業の進め方などをイメージすることがで
き、大変有意義なものとなりました。
・グローバル教育への取組、JICA 様のお話、非常に勉強になりました。まずは「グローバル人材」
の定義を明確にすることが重要だと感じました。自文化中心主義からの脱却、ノンバーバルコミュ
ニケーションなどの力、また、ビジネスにおける求められる姿勢、途上国の幸福の在り方に関する
考え方などの力を明確にしていきたいです。
・実践発表、ワークショップと充実した内容でした。今後も国際理解教育を実践していきたいと思い
ます。
・いかに推進させていくか(校内で)について、多くの事例を紹介してもらえるともっとよかったと
思います。
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振り返り
校種や実践の有無に関して様々な立場の教員が参加された中で、本分科会への満足度は高かった。
特に JICA の本田様から講義・演習していただいたワークショップは、参加型学習の方法や手立てを
知ることができ、大変好評であった。一方で、校内においてグローバル教育をいかにして推進してい
くか、多くの事例を紹介してほしいといった要望もあった。
今年度は1年目ということもあり、限られた数のアンケート調査にとどまった。次年度は、より多
くの教員に答えてもらうだけでなく、いくつかの学校にも協力いただき、児童生徒の調査も実施し、
グローバル教育の実態や子どもたちの意識について研究を深めたい。
また要望にもあったように、グローバル教育推進のための実践事例の紹介もより充実させる必要が
ある。外部機関との連携を含めた実践事例の情報を集め、より実用的な提言を示していきたい。