持続的森林管理創造プロジェクト活動報告書

持続的森林管理創造プロジェクト活動報告書
<平成27年度>
はじめに
宮城県では,戦後造成されてきた人工林資源を,適正な森林管理や木材供給に加え,
地球温暖化防止等を目的として,間伐対策を重点とした施策を展開してきました。
一方,生業としての林業が消滅するほどに立木価格が低迷し,人工林の間伐,皆伐,
造林は計画量を下回ったまま利用期に達した林分が急増し,若齢級の林分が著しく少
ない状況となりました。スギ人工林はもうじき過半が50年生以上となり,多くの無間
伐林分は,樹冠長率等の問題から長伐期に移行できる林分は限られてきます。
持続可能な森林管理と森林所有者の育林経費回収のために取り組んでいる森林施業
の集約化は,森林所有者の高齢化や震災復興に絡む労働力不足等から停滞しています。
このまま林業活動が停滞すれば,将来,人工林資源からの木材の持続的供給は極め
て難しいものとなり,森林による二酸化炭素吸収量は減少の一途をたどることとなる
でしょう。
今後,森林の若返りを図り,持続的に森林を管理していくためには,森林施業コス
トの低減化や伐採跡地の再造林及び長期施業受委託などの視点に立ちながら,森林所
有者への働きかけが重要となります。
そこで,本プロジェクトでは,持続可能な森林管理を念頭に置き,将来の資源予測
モデルに係る検討,適正な資源管理を実現させるための効果的な取組の洗い出しを行
い,様々な視点から森林所有者への働きかけ用普及ツールの作成に取り組みました。
本報告書は,検討結果を今後の造林に関する普及指導事業に活用することを目的と
して,活動内容を取りまとめたものです。
平成28年2月
持続的森林管理創造プロジェクトチーム
目
次
1
スギ人工林資源を巡る現状分析と問題点の洗い出し・・・・・・・・・1
2
モデル地区の現地調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
3
簡易コスト分析,適正な森林管理に関する情報収集と検討・・・・・・8
4
望ましいスギ人工林管理シミュレーションの検討と提案・・・・・・・10
5
森林管理者向けPRチラシの作成・・・・・・・・・・・・・・・・・11
6
相談対応用アイテム案・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
参考資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
チラシ集・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
1
スギ人工林資源を巡る現状分析と問題点の洗い出し
①
現状分析
若齢級の人工林は図-1のとおり著しく減少し,図-2~図-4に示すとおり,将来の木
材供給の持続が難しい状況となりつつある。この状況を修正していく方策について検討する
ため,現状を次のように整理した。
①宮城県のスギ人工林は,戦後集中的に植栽されており,すでに利用期に達している一
方で,造林面積は激減しており,あと30年ほど経つと使える資源がなくなっていく。
②宮崎県では近年,宮城県の10倍以上の植栽が行われており,宮崎県庁への聞き取り
から,その違いは県民性の違い等によるらしいことが推測された。(図-5参照)
③全国における宮城県のポジションは木材需要第6位,スギ素材生産量第9位,自給率
第40位となっており,旺盛な木材需要がある一方で他県材に頼っている状況である。
④全国的には素材生産量が上昇しているが,宮城県では震災の影響もあり,間伐,主伐
ともに停滞し,資源が利用されていない。(図-6参照)
⑤県内のどの林分でも長伐期に移行できるわけではなく,50年以上のスギ林で虫害が
目立つ林分も少なくない。例えば大面積を所有する神社の境内林を調査したところ,
スギカミキリの被害によって,大木の大半が遷宮には使えない状況を確認している。
現在が伐り旬である林分も多い。
⑥森林総合研究所では樹冠長率が2割以下では間伐の効果がないとしている。森林組合
で行っている間伐は,同一の組合員である場合が多く,50年生以上の間伐状況を森
林情報管理システムの履歴情報から検索すると11%と驚くほど低い。50年を過ぎ
て初回間伐する林分は,経費面からみると主伐した方が,所有者の収入は多い。
⑦大径材の伐倒,搬出は積雪地以外では難しい箇所があること,現時点で大径材を加工
できる製材工場がなく,用途も特定されていないことから,大径木ほど収益が高まる
とはいえない。
ha
70,000
宮城県
60,000
秋田県
宮崎県
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
1
図-1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
齢級
秋田県,宮城県,宮崎県のスギ人工林齢級別面積(国+民)(平成24年3月現在)
- 1 -
- 2 -
ha
70
拡大造林
再造林
60
50
0.97
40
41.38
30
20
10
10.55
23.80
0.03
45.43
26.35
17.94
9.37
15.82
15.64
0
大河原
仙台
図-5
北部
栗原
東部
28.41
1.40
6.57
登米
平成25年度管内別造林実績
- 3 -
気仙沼
②
問題点の洗い出し
現状分析に基づき,人工林の若返りと木材利用が進まない要因と,どのようにしたら補正
できるのを2グループがKJ法により検討,整理した。その結果は次のとおりである。
人工林の若返りと木材利用が進まない要因と解決方法について
要因
関心
問題解決のためにクリアすること
・行政からの投げかけ
・チラシ
グル ー プ A
・施業提案による見積額の提示
・所有林ツアー
利益
→
県行造林契約
・木材価格の安定
・育林の低コスト化
→
一貫作業システム
・付加価値(ex.FSC)
施策
・巡視員の配置
・県行造林契約
・木材生産適地への再造林優遇
・高齢林に対する重税
コストと採算性
→
環境税財源
「伐る」
・路網整備,情報化,機械化で生産効率向上
「植える」
グル ー プ B
・一貫施業の導入と補助制度での補填
・エリートツリー導入等低コスト技術の開発
・長期施業受委託
「法整備」
・加工側の使いやすい補助制度づくり
・地域産木材利用の仕組みづくり
・ブランディングと商品販売展開の戦略づくり
労働力
・人材育成(間伐から皆伐・再造林へのシフト)
経営意識とビジョン
・普及員,森林組合,コーディネーターが情報共有と判
断基準づくりを行い,所有者の目標づくりを支援
整理,認識された人工林の若返りと木材利用が進まないことの解決方法を念頭に置き,森
林所有者に働きかけるためのチラシづくりに反映させることとした。
- 4 -
2
モデル地区の現地調査
大衡村駒 場から大郷町大松沢
に至る県道16号沿いには,皆
伐跡地が16箇所あり,そのう
ち皆伐後放置された1箇所(写
真上段)をモデル地区として設
定し,現地調査とチーム員によ
る感想を出し合い(写真下段
右),取りまとめた。
なお,皆 伐跡地はスギ,アカ
マツに対して行われ,換金でき
ない素性の悪い立木は残され(写
真 下 段 左 ), 林 床 一 面 ア ズ マ ネ
モデル地区の伐採跡地
ザサ,ところどころヤマグワ,
クリの萌芽が優占している林分
である。
感想を全般的に見ると,「見た目が悪い」,「再造林経費がかかり好ましくない」が多く,
「収支上やむを得ない」,「気にならない」など一様ではなかった。
更新については,
「ササの繁茂で更新は難しいものの,条件がよいので再造林が望ましい」
が大宗を占めた。
森林所有者に対する再造林を進めるための説明の仕方については,
「経費面から」が4件,
「公益上の理由から」,「価値観から」がともに3件,「災害面から」が1件であった。
換金できずに残された素性の悪い立木
調査状況
アンケート結果を取りまとめたものは次のとおりである。
- 5 -
伐採跡地を見た感想に関するアンケートのまとめ
該当する回答に○印をつけてください。(複数回答可)
1.皆伐後放置された森林の伐採方法について
イ.収入にならない無駄な伐採はせず,森林所有者の収入を重視した伐採方法であり望
ましい。【1】
ロ.売れないスギが残っており見た目が悪く好ましくない。【5】
ハ.見た目は特に気にならない。【1】
ニ.再造林するのに経費がかかるので好ましくない。【3】
ホ.その他【3】
●再造林を前提としていないために,このような林地(売れないスギが残っている状態)
になっていると感じた。
●景観に配慮した伐採が望ましい。
●森林所有者が,再造林を後に考えるという意向なら「ニ」,天然更新を考えるなら何
ともいえない。せめてササ除去をしてくれたらよいと思う。
●森林所有者が植栽する意思があるのであれば,残存木が邪魔になるので好ましくない
が,植栽する意思がないのであれば,確実に天然更新されるよう指導するということ
で完了させる方法もありではないか。
2.今日見てきた伐採跡地は,伐採後数年が経過し,再造林されることなく放置されてい
るが,伐跡の更新方法としてはどう思いますか。該当する回答を選び,あなたの考える
具体的な更新方法について記入してください。
イ.高木性樹種が更新しているので特に問題はない。【0】
ロ.高木性樹種は少なく,一部にササが繁茂しており更新が困難である。【3】
ハ.地位や搬出路等の現場条件から判断し,造林適地であり再造林した方がいい。
【5】
ニ.その他【0】
あなたの考える具体的な更新方法
●除伐及び残存木の伐採を行い,一斉造林を行う。
●搬出条件がよいので,木材生産を主眼にスギを再造林する。
●人工林とするならば,しっかりとした地ごしらえと植栽が必要。
●樹高が低いのでスギの適地ではない印象を受けた。
●ホオノキやアオダモが成長していた伐採跡地の箇所は,高木性の樹種が確認されたの
で更新完了として判断することとし,手前の売れないスギが残っている箇所は,高木
性の樹種の本数が更新完了の条件を満たしていないと思われる。また,区域面積もま
とまっており,傾斜も緩やかで道路もあることから木材生産適地として再造林する。
残った立木の処理経費が課題。
3.皆伐後,造林未済地をできるだけなくし,再造林により森林の若返りを図るためには
どうすればいいと考えますか。あなたの考える森林の若返り方法について記入してくだ
さい。
●特例を除き伐採時の再造林を(努力)義務化(併せて森林組合のサポートや補助金の
- 6 -
斡旋)→(伐採時の)再造林ワンストップ化
●森林所有者の収入面から考えると,補助金のある間伐は,補助金のない皆伐よりも収
入が上回る場合がある。このことは,再造林を勧める上で課題だと思う。
●疎植(1500~2000本/ha)に加え,準一貫作業システム(再造林なら地ごしらえまで,
天然更新ならササ除去まで)が必要。
●地位や地利のよいところは補助事業を活用するなどして木材生産を目指し再造林す
る。条件の悪いところでは,水源涵養等で更新を図る必要性のあるところであれば,
伐採後の状況を見ながら必要であれば手を加えて森林を育てる。
●再造林を前提とした伐採を行い,地ごしらえの経費を軽減できるよう,伐根等の処理
をまとめて行う。
●“皆伐による収入”と“造林経費”を計算し,造林経費が大きい場合,差額分を補助
する制度を創る。
●造林未済地に対する罰則強化。
●森林所有者による自伐の促進→売り先の確保。
●伐採して販売した木材の収入>(伐採コスト+植栽コスト)となるよう短期的に収益
が約束される仕組みがないと難しいのでないか。
●地道な補助事業の説明と立木がないことによって起きる災害の説明。
●県内で皆伐を中心とした素材生産に取り組む事業体,伐採届出を担当する市町村,補
助事業を活用した造林を得意とする森林組合などと連携し,伐採と植林をセットで勧
められるような補助事業(環境税)を活用し,再造林を進める。
4.もし,今日見た伐採跡地を再造林することとなった場合,あなたは森林所有者に再造
林の必要性をどのように説明し納得してもらいますか。
●再造林のメリット(利益,環境,景観)を前面に押し出す(普及員の積極的な斡旋)。
●森林所有者にメリットのある補助金を探し,理解が得られるまで足繁く通う。
●多面的機能の重要性を訴える。
●このまま放置しておくと森林の公益的機能を果たさず,木材生産の収入も得られない。
周辺環境にとっても森林所有者にとってもメリットのない土地になってしまう。自身
や孫の代にも木材という資産を残すこともできるので,是非再造林してほしい。
●今考えられる補助事業等の活用を前提に,今後どれだけの収益が望めるか,放置した
場合のデメリットを交えながら説明する。
●面積が広いこと,道路から近いこと等施業する上でのメリットを証明する。
●風倒木が山腹崩壊の危険性があることを伝え,再造林を促す。
●適地において木材生産のための人工林を確保する必要性があり,今後35~40年で
伐採することで確実に収入になること。
●補助制度を活用することで造林,育林コストよりも木材販売収入の方が大きくなるこ
とをPRして説得する。
●次の世代に残す資源の大切さと,個人資産としての価値を説明する。
●所有森林の土地条件などから木材生産適地であることを理解してもらい,再造林を勧
める。その際,見積書の作成,提示,集約化の必要性,再造林のメリットなどを説明
し,経済的負担ができるだけ少ない方法を提案し,納得してもらえるよう説明する。
- 7 -
3
簡易コスト分析,適正な森林管理に関する情報収集と検討
森林管理情報システムの履歴情報を用いて,平成9年度から平成25年度までに宮城県内
のスギ人工林で間伐を実施した面積の割合を求めるたところ20%であった。このことから,
間伐は限られた森林所有者により行われていることが想定される。
また,施業履歴から50年生以上のスギ林において間伐未実施面積の割合を調べたところ
75%であった。これら間伐未実施の高齢林について,間伐が可能かどうか,場合によって
は皆伐・再造林が可能かどうかの判断を行うためには,現況の把握とコスト分析が必要であ
る。
森林管理情報システムの施業履歴から求めた間伐実施率
H26.11.19現在
施業履歴面積 (スギ50年生以上)
市町村名
森林法5条
A
民有林面積
スギ林面積
50年生以上
面積: ha
Bのうち間伐(C)
Aのうち施業履歴登録有(B)
公有林
私有林
総数
公有林
私有林
総数
間伐実施
50年生以
率
上の割合
(C/A)
体
285,810.62 54,066.48
2,759.03
4,240.81
6,999.84
2,241.12
3,475.87
5,716.99
11%
26%
大 河 原 地 振
計
70,403.91 10,062.98
330.25
736.86
1,067.11
287.48
567.29
854.77
8%
19%
仙
台
地
振
計
56,763.54
8,570.85
381.08
637.43
1,018.51
287.62
482.89
770.51
9%
25%
北
部
地
振
計
47,544.33
9,799.01
454.10
612.71
1,066.81
295.92
544.72
840.64
9%
23%
栗
原
地
域
計
30,234.39
4,896.96
375.33
500.04
875.37
320.71
366.16
686.87
14%
30%
登
米
地
域
計
19,534.45
5,692.24
560.76
694.79
1,255.55
485.47
640.27
1,125.74
20%
36%
東
部
地
振
計
30,876.36
7,798.44
273.81
740.13
1,013.94
236.14
619.34
855.48
11%
33%
気 仙 沼 地 振 計
30,453.64
7,246.00
383.70
318.85
702.55
327.78
255.20
582.98
8%
24%
県
全
施業履歴面積 (スギ50年生未満)
市町村名
県
全
大 河 原 地 振
森林法5条
A
民有林面積
スギ林面積
50年生未満
体
285,810.62 55,248.22
計
70,403.91 11,685.56
面積: ha
Bのうち間伐(C)
Aのうち施業履歴登録有(B)
公有林
私有林
総数
公有林
私有林
総数
間伐実施
50年生未
率
満の割合
(C/A)
7,726.07 14,599.06 22,325.13
5,602.60 10,384.17 15,986.77
29%
74%
1,662.76
3,607.95
5,270.71
1,207.74
2,411.35
3,619.09
31%
81%
2,302.63
3,144.82
589.47
1,752.27
2,341.74
29%
75%
仙
台
地
振
計
56,763.54
8,141.90
842.19
北
部
地
振
計
47,544.33 12,391.41
1,689.24
2,877.01
4,566.25
1,067.61
1,755.07
2,822.68
23%
77%
栗
原
地
域
計
30,234.39
7,236.11
800.87
1,425.07
2,225.94
539.67
1,098.74
1,638.41
23%
70%
登
米
地
域
計
19,534.45
4,780.59
852.81
1,453.78
2,306.59
775.33
1,242.13
2,017.46
42%
64%
東
部
地
振
計
30,876.36
5,180.68
726.45
1,634.84
2,361.29
477.79
1,243.11
1,720.90
33%
67%
気 仙 沼 地 振 計
30,453.64
5,831.97
1,151.75
1,297.78
2,449.53
944.99
881.50
1,826.49
31%
76%
施業履歴面積 (全体)
市町村名
県
全
体
森林法5条
A
民有林面積
スギ林面積
面積: ha
Bのうち間伐(C)
Aのうち施業履歴登録有(B)
公有林
私有林
総数
285,810.62 109,314.70 10,485.10 18,839.87 29,324.97
公有林
私有林
総数
間伐実施
率
(C/A)
7,843.72 13,860.04 21,703.76
20%
6,337.82
1,495.22
2,978.64
4,473.86
21%
4,163.33
877.09
2,235.16
3,112.25
19%
3,489.72
5,633.06
1,363.53
2,299.79
3,663.32
17%
1,925.11
3,101.31
860.38
1,464.90
2,325.28
19%
1,413.57
2,148.57
3,562.14
1,260.80
1,882.40
3,143.20
30%
30,876.36 12,979.12
1,000.26
2,374.97
3,375.23
713.93
1,862.45
2,576.38
20%
30,453.64 13,077.97
1,535.45
1,616.63
3,152.08
1,272.77
1,136.70
2,409.47
18%
大 河 原 地 振
計
70,403.91 21,748.54
1,993.01
4,344.81
仙
台
地
振
計
56,763.54 16,712.75
1,223.27
2,940.06
北
部
地
振
計
47,544.33 22,190.42
2,143.34
栗
原
地
域
計
30,234.39 12,133.07
1,176.20
登
米
地
域
計
19,534.45 10,472.83
東
部
地
振
計
気 仙 沼 地 振 計
公有林:県,市町村,財産区
私有林:その他
- 8 -
併せて,再造林する場合,どこまでコストを下げられるのか,適正な森林管理を進めるた
めの,情報を持つ必要がある。
たとえば,次のような選択肢から判断していくのも一つの方法である。
低コスト再造林の条件と選択肢の一例
スギの場合
普通苗
植栽
1000本
コンテナ苗
エリートツリー
2000本
3000本
普通植え
下刈り
しない
1回
2回
巣植え
3回
隔年3回
隔年2回
つる切り
しない
する
除伐
しない
する
間伐
しない
する
志向する
林相
志向する
スギ材の品質
スギ林
A材
混交林
B材
6回
広葉樹林
C材
D材
今回のプロジェクトにおいて,コストの低減化や,間伐・皆伐の判断基準については,時
間の関係から深く検討することはできなかった。
森林所有者から相談のあった際に,間伐か皆伐か,再造林の方法はどうするか,コストは
いくらかかるのか,といったことがらに即座に対応できるアイテムが必要である。
間伐のコスト計算には宮城県の「間伐シミュレーションソフト」があるものの,皆伐作業
のコスト計算には対応しておらず,間伐と皆伐のコスト比較が即座にできないことが課題で
ある。
詳しくは「6
相談対応用アイテム案」で触れることとする。
- 9 -
4
望ましいスギ人工林管理シミュレーションの検討と提案
「1
スギ人工林資源を巡る現状分析と問題点の洗いだし」で示したように,今後スギ人
工林を持続的に管理していくためには,毎年の伐採面積と造林面積の目標値を定めておく必
要がある。
そこで,平成25年3月末における宮城県民有林のスギ人工林の資源構成表を用いて,チ
ーム員各人が将来の望ましいと思われる齢級構成を予測し,チームとして一つにまとめた。
シミュレーションはチーム員各自の考えに基づき,現在のスギ造林面積164haから将来
の「年毎再造林面積」を,現在のスギ20齢級の伐採率14%から将来の20齢級の伐採率
を決定し,平成30年から75年まで5年間隔で予測,作成した。
チーム員が作成したシミュレーションは,再造林面積の設定を現状維持から,現状の9倍
まで幅広いものとなった。そこで,プロジェクト内で検討し,次の案にすることで合意した。
「宮城県民有林におけるスギ人工林の望ましい,目標とすべき姿は,今後想定される木材
需要量を150万㎥,県内素材生産者の生産能力を50万㎥と仮定し,再造林目標面積は現
状の3倍,すなわち450haとする。」
検討に用いた表と検討したシミュレーション結果を次に示す。
スギ人工林シミュレーション結果のとりまとめ
メンバー
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
平均
標準偏差
中央値
最頻値
再造林面 20齢級保
積(ha)
存率(%)
750
80
450
85
150
50
250
50
600
20
1320
85
500
30
450
85
175
50
350
45
360
60
487
58
313
22
450
50
450
85
最高値,最低値を各1個除外
再造林面 20齢級保
メンバー
積(ha)
存率(%)
A
750
80
B
450
C
50
D
250
50
E
600
F
85
G
500
30
H
450
85
I
175
50
J
350
45
K
360
60
平均
432
59
標準偏差
165
18
中央値
450
50
最頻値
450
50
- 10 -
最高値,最低値を各2個除外
再造林面 20齢級保
メンバー
積(ha)
存率(%)
A
80
B
450
C
50
D
250
50
E
600
F
G
500
H
450
85
I
50
J
350
45
K
360
60
平均
423
60
標準偏差
106
15
中央値
450
50
最頻値
450
50
5
森林管理者向けPRチラシの作成
①
チラシ素案の作成と内部評価
チラシを見た森林所有者が相談に赴く,あるいは電話相談するよう工夫し,相談相手には
県,市町村,森林組合,林業事業体,森林施業プランナーが想定されるが,ここでは主とし
て森林組合をイメージすることとした。
相談対応結果として,間伐,皆伐,皆伐と再造林のケースが考えられ,いずれ,森林経営
計画樹立または変更の相談になる,ということをチラシ作成に当たって共通意識とした。
チーム員が作成したチラシ案については,チーム員同士で「内容,わかりやすさ,読みや
すさ,美しさ」の観点から評価を行い修正を加えた。
チラシ案は,その内容から大きく二つに区分された。一つは,自己所有林に興味を示すよ
う森林組合への誘導を図る「勧誘特化タイプ」,もう一つは勧誘に補助制度等必要事項を加
えた「一貫説明タイプ」であった。
②
修正チラシ案の森林組合,森林施業プランナーによる評価
修正したチラシ案は,森林組合と森林施業プランナーに評価と意見をアンケート形式で依
頼した。
アンケートの内容は,チラシの必要性,問い合わせ先の妥当性,チラシに必要な情報,森
林所有者への説明会の必要性,内容・わかりやすさ・読みやすさの評価と改善点,その他意
見・アドバイスとした。
アンケート回収率は83%で,チラシの必要性は回答者すべてが必要と回答した。
また,チラシに掲載されている補助制度の内容については,頻繁に制度が変わること,森
林所有者に誤解を与えるなど賛否がわかれ,別様とする方向性が示唆された。
さらに,森林所有者に高齢者が多いことから,文字は少なく大きくすることが要求された。
③
チラシの配布,普及方法
森林組合と森林施業プランナーによる評価と意見に基づき,最終チラシ案を作成した。成
果品は,巻末の「参考資料」に掲載した。
チラシの普及方法についてプロジェクト内で意見交換し,林業振興課等に相談しつつ,次
のように取り組むこととした。
・チラシの一覧「カタログ」を普及指導チームが作成する。
・字体,連絡先,改善のための加筆修正は,普及指導チームが行う。
・林業事業体への配布は,ウェブサイトからのダウンロード,DVD-R,場合により林
業関係団体の同意に基づく印刷物によることとした。
- 11 -
6
相談対応用アイテム案
森林所有者から相談があった場合,まずは森林経営計画を策定するかどうか検討すること
が好ましい。森林所有者の所有林の取扱を間伐とするか,皆伐・再造林とするかの判断が必
要となる。
ある森林について間伐と皆伐の収益を算定したところ,補助金を含めると前者が後者の2
倍以上の収益が見込まれる結果が得られた。もちろん,搬出する道路や地位のよしあし,こ
れまでの下刈り,間伐等森林施業の取組状況によって間伐・皆伐の収益は千差万別である。
間伐・皆伐の収益を計算し,比較検討するためには,計算ソフトがあると非常に便利であ
る。
また,樹冠長率や虫害等の客観的数値からアドバイスできるアイテムも利便性が高い。
現段階では,宮城県内で使える計算ソフトやアイテムはなく,このプロジェクトではそれ
らを作成するには至らなかったため,今後の課題である。
改良すれば使えそうな計算ソフトやアイテムと,その特徴を次に掲げる。
①過密林の間伐の仕方(岐阜県森林研究所):道路から目標林分までの距離,間伐の目的
により間伐手法を選定する。皆伐との比較はない。
②間伐シミュレーションソフト(宮城県):間伐による収益を算定する。皆伐の作業巧程
を含めば対応できる。
③間伐収入一発シミュレーション(宮城県):間伐と皆伐の収益の比較ができる可能性は
あるが,巧程の見直しが必要。
④伐出見積もりシステム(森林総合研究所):間伐と皆伐の収益を計算できる。宮城県の
材積表と収穫表に対応していない。
⑤熊本県人工林資源予測システム(熊本県):収穫予想のみで収益計算はできない。
提案1:「50年生以上のスギ林での長伐期化が可能な林分の判断基準」
※
特徴:目視,簡易
1
スギカミキリ被害木が主林木(上層木)本数の2割未満
2
主林木の樹冠長率が30%以上
3
副林木(下層木)よりも主林木の本数が多い
4
胸高直径20㎝以上の立木が本数の1/2以上を占める
5
被圧木が1,000本/ha以下
提案2:「低コスト再造林の条件と選択肢」の提案
次に掲げる表から,植栽,下刈り,つる切り,除伐,間伐,志向する林相,志向する
スギ材の品質を選定し,コストを計算して比較・提示する。
- 12 -
低コスト再造林の条件と選択肢の一例
スギの場合
普通苗
植栽
1000本
コンテナ苗
エリートツリー
2000本
3000本
普通植え
下刈り
しない
1回
2回
巣植え
3回
隔年2回
隔年3回
つる切り
しない
する
除伐
しない
する
間伐
しない
する
志向する
林相
志向する
スギ材の品質
スギ林
A材
混交林
B材
- 13 -
広葉樹林
C材
D材
6回
- 14 -