企業と消費者のコミュニケーション

2016 年3月 25 日
関東・関西在住の 20~69 歳の男女 2,000 名に聞いた
『企業と消費者のコミュニケーション』
~消費者における「情報のフィードバック」と「企業の CSR 活動を見る目」 ~
第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社
長 矢島 良司)では、関東と関西在住の 20~69 歳の男女 2,000 名を対象に企業と消費者のコ
ミュニケーションについてアンケート調査を行いました。この程、その調査結果がまとまりまし
たので、ご報告いたします。
本リリースは、ホームページ(URL:http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/index.html)
にも掲載しています。
≪調査結果のポイント≫
1 問題や気になること・不満を感じた時に伝えるかどうか (P.2)
●企業や店舗へのフィードバックより「家族や友人・知人に伝える」
満足したり嬉しい思いをした時に伝えるかどうか (P.3)
●満足感や嬉しい思いは特に女性のクチコミ情報で拡がりやすい
信頼する「消費に関連する情報」 (P.4)
●男性は「信頼できると思うメディア」、女性は「身近な人」
「消費者」という存在に対する意識 (P.5)
●消費者における企業・店舗との信頼関係構築の必要意識は高い
1 消費者は「保護されるべきもの」であるか (P.6)
●年代が高いほど「消費者は保護されるべき」との意識が高い
1 企業の社会的責任に対する意識 (P.7)
●企業の社会的責任に対する消費者の意識は高い
1 企業と消費者のコミュニケーションについての意識 (P.8)
●互いの思いがつながりにくい「企業と消費者のコミュニケーション」
<お問い合わせ先>
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 広報担当(津田・新井)
TEL.03-5221-4771
FAX.03-3212-4470
【URL】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/index.html
≪調査実施の背景≫
今日、企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)に関する動きが強まっ
ています。2010 年には組織の社会的責任に関する国際規格(ISO26000)が発行されました。こ
うした流れの中、企業活動においては、例えばフェアトレード(公平貿易)やエコロジー、二
酸化炭素の排出量削減といった持続可能な社会に向けた視点が求められるようになってきま
した。企業が社会的責任を果たすことにより、商品・サービスの価値だけでなく、企業の存在
自体が社会的に価値あるものと認識され、消費者に長期的に支持される企業となることは、企
業が存続する上でも重要です。
企業と消費者の関係をみると、高度成長期に消費者問題が頻発したことから、1968 年に消費
者保護基本法が制定され、消費者は保護されるべき存在であるとする動きが強まりました。し
かしその後、2004 年に消費者保護基本法が全面改訂されて消費者基本法となり、消費者の自立
支援が意識されるようになりました。こうした中で、企業において消費者とのコミュニケーシ
ョンを重視し、消費者志向経営というコンセプトの下、消費者とのコミュニケーションを活性
化させて信頼関係を構築しようとする動きがみられています。
しかし実際には消費者問題が後を絶たず、理想的な消費社会が実現されているとはいえませ
ん。消費者にとっては、日々の暮らしにかかわることや安心・安全に関する情報のほうが目に
入りやすく、
企業の CSR 活動や消費者志向経営の姿勢は伝わりにくい状況にあると思われます。
そこで、
今日の消費者が企業とのコミュニケーションや企業の CSR 活動をどのようにとらえ、
そもそも「消費者」という存在をどう位置づけているのかなどについて、実態を明らかにする
べくアンケート調査を実施しました。
≪調査概要≫
■ 調査時期
■ 調査方法
: 2015 年 12 月
: インターネット調査(株式会社クロスマーケティング)
■ 調査対象
: 関東と近畿の 20~69 歳の男女
関東:埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県
近畿:滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県
■ サンプル数 : 2,000 名
人
20 代
30 代
男性
40 代
50 代
60 代
男性合計
20 代
30 代
女性
40 代
50 代
60 代
女性合計
男女合計
174
230
213
180
208
1,005
167
223
204
180
221
995
2,000
%
8.7
11.5
10.7
9.0
10.4
50.3
8.4
11.2
10.2
9.0
11.1
49.8
100.0
1
今回の調査では、関東地方と近畿地
方に限定し、実際の人口比と乖離が
小さくなるように、また就労状況につ
いても実際の労働力人口を参考に抽
出しました。そのため、性・年代ごとの
人数が同数にはなっていません。
問題や気になること・不満を感じた時に伝えるかどうか
企業や店舗へのフィードバックより「家族や友人・知人に伝える」
図表1 問題や気になること・不満を感じた時に伝えるかどうか(性・年代別)
【家族や友人・知人に伝える】
(%)
100
80
60
【企業や店舗に伝える】
40
20
0
45.6
11.0
36.8
8.6
44.3
16.1
47.4
20代
5.7
30代
4.8
40代
8.3
50代
9.1
60代
52.4
20
男性全体 6.8
11.7
45.6
よく伝える
0
40
80
100
34.4
27.0
37.0
36.6
8.5
4.4
60
(%)
31.1
10.1
38.5
伝えるほうである
55.8
45.5
54.7
58.3
53.9
21.0
女性全体 6.1
22.2
20代
4.2
24.2
30代
8.5
20.1
24.4
63.8
14.9
35.9
27.5
34.5
40代
4.4
50代
5.6
40.6
60代
7.2
38.9
36.8
自分が購入・契約した商品やサービスについて、満足したり不満を感じた時、その気持ちを
企業や店舗、もしくは家族や友人・知人に伝えるかどうかについて、
「家族や友人・知人」
「企
業や店舗」ごとに、
「よく伝える」
「伝えるほうである」
「伝えないほうである」
「全く伝えない」
の4段階で回答してもらいました。
「自分が購入した商品やサービスについて、問題や気になること・不満を感じた時」に「家
族や友人・知人」
「企業や店舗」に伝えるかどうかについてみると、男女ともに「企業や店舗」
に比べて「家族や友人・知人」に伝える人が多いことがわかります(図表1)。「家族や友人・
知人」についてはとりわけ女性で割合が高く、30 代以上の女性ではいずれも8割近くが伝える
(
「よく伝える」と「伝えるほうである」の合計)としています。
「企業や店舗に伝える」とし
た割合は、60 代の男性で他よりやや高く、
「よく伝える」とした人が 10.1%と1割を超え、
「伝
えるほうである」(38.5%)との合計で5割弱を占めています。全体として、多くの人は相対
的に問題や気になること・不満を企業や店舗にフィードバックしておらず、こうした情報を企
業や店舗が把握しにくい状況にあるようです。
2
満足したり嬉しい思いをした時に伝えるかどうか
満足感や嬉しい思いは特に女性のクチコミ情報で拡がりやすい
図表2 満足したり嬉しい思いをした時に伝えるかどうか(性・年代別)
【企業や店舗に伝える】
【家族や友人・知人に伝える】
(%)
100
80
60
40
20
47.5
11.8
43.1
43.0
10.3
17.0
20
男性全体 4.8
20代
5.2
30代
4.8
50.2
9.4
40代
3.8
50.6
10.0
50代
2.8
11.5
60代
50.5
よく伝える
0
0
40
60
(%)
80
29.3
25.9
32.6
29.6
28.3
7.2
28.8
女性全体 5.5
34.3
伝えるほうである
56.1
44.9
55.2
56.9
61.1
60.6
23.6
26.9
20代
6.0
21.0
25.6
30代
7.2
23.0
40代
3.9
22.2
50代
5.0
38.3
20.8
60代
5.4
37.1
37.2
35.3
「自分が購入した商品やサービスについて、満足したり嬉しい思いをした時」に「企業や店
舗」
「家族や友人・知人」に伝えるかどうかについてみました(図表2)。その結果、ここでも
「企業や店舗」に比べて「家族や友人・知人」に伝える人が多いことがわかりました。「問題
や気になること・不満を感じた時」に比べると性・年代ごとに割合の多寡はあるものの、
「企業
や店舗に伝える」とする割合は低く、
「家族や友人・知人」とする割合が高い傾向にあります。
これらの結果から、満足や嬉しい思いについては、問題や気になること・不満に関する情報
よりさらに企業や店舗にフィードバックされるケースが少なく、家族や友人・知人と共有され
るケースが多いことが確認されました。また、家族や友人・知人と共有する割合は男性より女
性で高く、30 代以上の女性では、ほぼ8割が回答しています。
筆者のこれまでの調査からも、女性は男性に比べて消費におけるクチコミの影響が大きいこ
とが確認されていますが、実際に、問題や気になること・不満、満足や嬉しい思いなどの情報
は、女性のクチコミ情報として流通しやすい点がうかがえる結果となりました。
3
100
信頼する「消費に関連する情報」
男性は「信頼できると思うメディア」、女性は「身近な人」
図表3 信頼する「消費に関連する情報」(性・年代別)<複数回答>
(%)
50
40
30
【男性】
10
20
(%)
【女性】
0
0
10
20
30
40
50
28.1
32.8
31.7
34.3
33.9
32.2
21.5
23.0
22.8
信頼できると思うメディア
(テレビ、新聞、サイトなど)の情報を信じる
20.4
10.3
30.5
32.7
27.9
30.0
26.7
自分の身近な「人」(家族や友人・知人)の
情報を信じる
13.1
13.3
14.4
16.7
14.3
17.4
11.7
13.0
16.8
17.5
20.1
15.6
13.6
信頼できると思う「人」(専門家を含む)の
情報を信じる
20.7
7.8
13.9
18.3
18.3
15.4
6.9
7.4
30代
40代
50代
60代
14.3
15.2
10.6
13.1
製造元や企業、行政に問い合わせるなどして
自分で調べて判断する
9.8
10.9
12.7
11.7
13.0
20代
29.0
7.8
8.7
12.6
12.1
10.3
10.0
10.0
世の中の多くの人が正しいと認める情報を
信じる
2.8
官公庁が公開・発信している情報を信じる
4.2
0.9
2.5
5.0
2.9
1.3
1.4
3.3
3.4
10.0
0.0
0.9
1.0
1.1
2.7
その他
「消費に関する情報のうち、どのような情報を最も信じられるものとして選んでいますか」
との問いに対する複数回答をみても、女性がクチコミ情報を重視している様子がうかがえます
(図表3)
。信頼する「消費に関連する情報」として、男性で「信頼できると思うメディア(テ
レビ、新聞、サイトなど)の情報を信じる」がいずれの年代でも最上位にあげられたのに対し
て、女性では「自分の身近な『人』
(家族や友人・知人)の情報を信じる」とした割合が 60 代
以外ではいずれの年代でも最も高くなっていました。
「消費に関連する情報」には、企業からの宣伝を目的とした情報発信に加え、リコールなど
の危険を知らせる情報もあります。また、消費に関連する法律や制度の施行や改正、消費者問
題への注意喚起など、行政や業界団体から発信される情報もあり、
「消費に関連する情報」は
多種多様です。このような状況において、消費者に見て欲しい情報をどのような手段で伝達す
るかが、今日の企業や行政における課題となっています。
4
「消費者」という存在に対する意識
消費者における企業・店舗との信頼関係構築の必要意識は高い
図表4 「消費者」という存在に対する意識
0%
20%
企業・店舗と消費者は互いに
信頼しあう関係を築くべきだ
40%
19.5
商品・サービスを選ぶ上では、
消費者(買う側)にも責任があると思う
14.1
消費者は「保護されるべきもの」である
13.4
企業・店舗に比べると、
消費者は弱者だと思う
13.9
「消費者は神様である」という考え方に
4.1
賛同する
60%
80%
59.7
15.7
57.9
7.1
33.5
48.3
どちらかといえば
あてはまる
6.3
27.3
43.6
あてはまる
5.2
21.9
52.3
24.2
100%
どちらかといえば
あてはまらない
9.1
23.4
あてはまらない
「企業・店舗と消費者は互いに信頼しあう関係を築くべきだ」との意識についてみると、あ
てはまる(
「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」の合計、以下同じ)とした割合
は 79.2%と約8割を占めました(図表4)
。
また、
「商品・サービスを選ぶ上では、消費者(買う側)にも責任があると思う」について
あてはまるとした割合は 72.0%でした。多くの消費者が企業との信頼関係と消費者の責任の必
要性を認識している様子がうかがえます。
ただし、「消費者は『保護されるべきもの』である」にあてはまるとした割合も、65.7%と
比較的高いものとなっていました。
さらに、
「企業・店舗に比べると、消費者は弱者だと思う」についてあてはまるとした割合
は全体で 57.5%となっていました。
加えて、
「
『消費者は神様である』という考え方に賛同する」についてあてはまるとした割合
は 28.3%でした。これについては、60 代(34.4%)であてはまるとした割合が最も高いとい
う傾向がみられています(図表省略)。
5
消費者は「保護されるべきもの」であるか
年代が高いほど「消費者は保護されるべき」との意識が高い
図表5 消費者は「保護されるべきもの」である(性・年代別)
(%)
0
20
20代
男性
30代
16.1
10.9
40代
50代
30代
9.9
40代
11.8
50代
13.3
100
52.1
56.7
16.8
10.8
80
48.3
12.8
20代
60
44.8
16.0
60代
女性
40
58.2
39.5
48.4
51.0
56.7
あてはまる
60代
15.4
64.3
どちらかといえばあてはまる
「消費者は『保護されるべきもの』である」にあてはまるとした割合について、性・年代別
に比較をしました(図表5)
。これによると、年代が高い人で「消費者は『保護されるべきも
の』である」と考える人が多いことがわかります。特に女性では若年層で低く、高年層で高い
傾向があります。
こうした傾向が年代効果によるものなのか世代効果によるものなのかは、経年変化を追わな
ければ検証することができませんが、少なくとも現状において、60 代の女性(79.7%)と 20
代の女性(50.3%)では、30 ポイント近い差があることがわかりました。
6
企業の社会的責任に対する意識
企業の社会的責任に対する消費者の意識は高い
図表6 企業の社会的責任に対する意識
0%
企業が社会的責任を考えて活動したり、
社会貢献をすることは重要だと思う
20%
40%
15.7
社会や環境に良くない活動を行っている
企業のモノは買いたくない
8.1
被災地や困っている地域を支援したいと思って、
モノを購入することがある
6.7
企業は社会的責任を考えて活動したり社会
貢献をするよりも、価格を下げるべきだと思う
10.6
企業の社会貢献活動は、宣伝広告のために
行っているとしか思えない
7.6
あてはまる
80%
56.6
19.6
社会や環境に良い活動を行っている
企業のモノは積極的に買いたい
60%
21.8
51.0
6.0
23.3
55.2
6.3
29.9
43.5
37.6
38.5
43.2
34.7
どちらかといえば
あてはまる
100%
48.6
どちらかといえば
あてはまらない
6.9
12.3
7.8
9.2
あてはまらない
「企業が社会的責任を考えて活動したり、社会貢献をすることは重要だと思う」にあてはま
るとした割合は 72.3%でした(図表6)
。
また、
「社会や環境に良くない活動を行っている企業のモノは買いたくない」にあてはまる
とした割合が 70.6%であるのに対して、
「社会や環境に良い活動を行っている企業のモノは積
極的に買いたい」にあてはまるとした割合は 63.3%となっています。
一方、被災地や困っている地域を支援する目的で積極的に当該地の利益となる消費を行う
「応援消費・支援消費」は、2011 年の東日本大震災をきっかけに広く知られるようになりまし
た。しかし現在、
「被災地や困っている地域を支援したいと思って、モノを購入することがあ
る」にあてはまるとした人は 50.2%と半数程度にとどまっています。
なお、
「企業は社会的責任を考えて活動したり社会貢献をするよりも、価格を下げるべきだ
と思う」にあてはまるとした割合は 49.1%、
「企業の社会貢献活動は、宣伝広告のために行っ
ているとしか思えない」にあてはまるとした割合は 42.3%といずれも半数を割っていました。
これらの点から、
企業の CSR 活動に関しては、消費者の一定の理解を得ていると考えられます。
7
企業と消費者のコミュニケーションについての意識
互いの思いがつながりにくい「企業と消費者のコミュニケーション」
図表7 企業と消費者のコミュニケーションについての意識
0%
20%
企業による商品・サービスの改善や改良は、
消費者に伝わりにくい
14.6
企業・店舗に意見や苦情を言ったほうが、
よい商品・サービスができると思う
15.2
企業・店舗に意見や苦情を言っても、検討や改善には
なかなかつながらないと思う
商品やサービスに多少の不備があっても、その後の対応が
きちんとしていれば、また同じモノを購入する
自分が長く使い続けたい商品やサービスについては、
企業に対して情報提供やアドバイスなどの協力をしたい
企業・店舗に意見や苦情を言うのは苦手である
9.7
14.1
10.5
14.6
あてはまる
40%
60%
80%
58.4
22.2
54.3
41.1
24.2
41.1
51.4
47.9
40.2
どちらかといえば
あてはまる
100%
4.9
6.5
8.2
26.1
33.3
8.5
32.7
どちらかといえば
あてはまらない
8.5
12.5
あてはまらない
「企業による商品・サービスの改善や改良は、消費者に伝わりにくい」にあてはまるとする
割合は 73.0%でした(図表7)
。消費者志向経営に力を入れる企業では、コールセンターなど
の顧客対応部門に寄せられる消費者の声を入念に分析して商品・サービスの開発や改良に活か
していますが、こうした改善事例はなかなか消費者に伝わりにくいという現実があるようです。
「企業・店舗に意見や苦情を言ったほうが、よい商品・サービスができると思う」にあてはま
るとした割合は 69.5%と7割近くおり、消費者の声が企業の商品・サービス改善のヒントにな
ると考えている人は少なくありません。しかし、約半数は「企業・店舗に意見や苦情を言って
も、検討や改善にはなかなかつながらないと思う」としており、企業・店舗に意見や苦情を言
ったほうがよいと感じながらも、実際は消費者の意見は企業や店舗に反映されにくいと考える
人も少なくないようです。
「商品やサービスに多少の不備があっても、その後の対応がきちんとしていれば、また同じ
モノを購入する」にあてはまるとした割合は 65.5%、「自分が長く使い続けたい商品やサービ
スについては、企業に対して情報提供やアドバイスなどの協力をしたい」にあてはまるとした
割合は 58.4%となっており、企業と消費者が誠実かつ積極的なコミュニケーションをとること
で、信頼関係が構築できる可能性が示唆されました。ただし、「企業・店舗に意見や苦情を言
うのは苦手である」とする人も多く、消費者からの行動は多いとはいえなさそうです。
8
≪研究員のコメント≫
消費者から企業や店舗に対して、商品やサービスの不満や満足を伝えることは多くなく、商
品やサービスに関する消費者の意見は企業側に十分伝わっていないことが確認されました。コ
ールセンターへの連絡を含め、企業や店舗に対して情報を伝える消費者は全体の一部であり、
その背後には声を出さない消費者が数多く存在します。そのため、企業は不満や満足を知らせ
てくれる消費者を、声を出さない多くの消費者の代弁者ととらえる必要があるでしょう。「商
品やサービスに多少の不備があっても、その後の対応がきちんとしていれば、また同じモノを
購入する」とする消費者が少なくなかったように、誠実な対応は消費者離れを防ぐ可能性があ
ります。さらに、そうした対応を受けた消費者の経験は、「家族や友人・知人に伝える」とい
うクチコミにもつながり、派生効果を生む可能性もあると思われます。
また、「企業による商品・サービスの改善や改良は、消費者に伝わりにくい」とする意見が
多かったように、今日、消費者に届けたい情報をいかなる手段で伝達するかは、企業において
課題となっています。消費者の声を活かす企業努力は、企業単独ではなかなか社会に伝えにく
い側面があります。ホームページや自社で作成した冊子などを用いて、それぞれで情報発信を
行っている企業は多いものの、なかなか消費者の目に触れにくいという実情があります。例え
ば、一般社団法人日本ヒーブ協議会*1が作成した「お客様の声を活かした取り組み 55 事例」
は、企業が顧客から寄せられた声を元に、どのように商品・サービスの改善に活かしたかを業
界を横断してまとめた事例集です。こうした事業者団体が取りまとめ役となり企業各社が連携
して情報発信を行うことで、行政や消費者団体とも連携をとることが可能となり、企業単独で
は難しい情報発信も行えるようになるでしょう。消費者と直接接点を持ちにくい業種の企業で
も、こうした事業者団体を介することで、消費者に自社の活動を知ってもらえる可能性があり
ます。今後、企業と消費者のコミュニケーションを活性化させるにあたっては、こうした事業
者団体、消費者団体、行政との連携による情報発信がより重要となってくるものと思われます。
さらに、消費者が保護されるべき対象か、責任を問われるべき対象かという点については議
論の余地があることがわかりました。しかし少なくとも今日、自分たちを一方的に保護される
対象であると考えている消費者は多くありませんでした。売り手と買い手のニーズのバランス
がとれた消費社会の構築においては、企業と消費者の両者が責任を果たす必要があり、それに
向けた双方からのアプローチによる十分な情報とコミュニケーションが重要となると考えら
れます。そのため、企業・消費者の連携をより意識し、積極的かつ適正な情報発信とコミュニ
ケーションを行うことが消費者自身にも求められます。それは、単に匿名で SNS に消費体験を
投稿することではありません。企業や店舗に適切な情報のフィードバックを行い、自らがより
よい消費社会を構築する意識を持つことは、ひいては自らのメリットともなります。安心・安
全な消費社会を求めるのであれば、消費に関する情報収集を積極的に行いつつ、建設的に問題
解決が図られると思われる場所に対し、適切な方法で、正しい内容の情報提供を行うことを、
消費者自らが心がける姿勢が求められるのではないでしょうか。
(研究開発室 上席主任研究員 宮木由貴子)
*1 一般社団法人日本ヒーブ協議会は、企業に勤務する女性で構成され、消費者と企業をつなぐ役割を担う消
費者関連団体。1978 年設立。
9