分科会F「CAN-DO プロジェクト」 テーマ:自律した学習者を育む授業づくり ~ 1 CAN-DO リストの活用を通して ~ 研究の概要 本プロジェクトは、 「CAN-DO リスト」を活用した授業の普及を通して授業改善を図り、県全体の 生徒のコミュニケーション能力の向上とグローバル人材の育成を図ることを目的としている。 調査の内容・方法として、主に次の3点に取り組んだ。 ○ 実践力向上研修等での授業研究を基に、県内で「CAN-DO リスト」を活用している協力校を中心 とする中学校・高等学校の活動事例を調査する。 ○ 「CAN-DO リスト」を活用している先進的な授業をセンターWeb ページや授業映像の DVD 化に よって県内外に発信する。 ○ 「CAN-DO リスト」を活用した授業の在り方について、2017 年全英連全国大会を目標に中高が連 携して、以下のような項目を重点にした研究開発をさらに推進する。 ・バックワードデザイン(逆向き設計)によるカリキュラムデザイン ・「スタンダーズ」やリストの見本を有効活用した目標準拠型の授業デザイン ・暗記や知識だけによらない「使える技能」を目指した新しい学力観の共有 ・パフォーマンスタスクの導入と指導の在り方 ・教科書を題材にしたパフォーマンスタスク設定方法 ・ルーブリックを用いたパフォーマンス評価の具体的方法 ・授業内の効果的なフィードバックの方法について ・評価と評定の連動 2 分科会の流れ (1) 開会・概要説明 県立教育センター 指導主事 神子 尚彦 (2) 実践発表 ① 上越市立名立中学校 石野 佑紀枝 教諭 ② 県立長岡向陵高等学校 栗本 美紀 教諭 (3) グループ協議 県立教育センター 指導主事 阿部 雅也 (4) 全体発表・提言 (5) 閉会・アンケート 3 実践発表の概要 (1) 中学校発表 「自分の思いや考えを生き生きと話すことができる生徒の育成」 上越市立名立中学校 石野 佑紀枝 教諭 クラスメートや ALT との対話の中で、初歩的な英語を用いて自分の考えを話し、それが通じる喜 びを味わわせ、一層の意欲向上を目指した。単元名は「ALT のジェシカ先生とインタビューをしよ う」、パフォーマンステストとして、ALT と自分のことについて情報を交換するインタビューを行った。 <単元の目標> ○有名人へのインタビューを読み、その内容を理解することができる。 ○自分が質問したい内容を、適切な表現を用いて書いたり話したりすることができる。 ○相手の質問を理解し、適切な表現を用いて答えることができる。 ○間違いを恐れずに、積極的にインタビュー活動に取り組む。 <CAN-DO リスト> 技能 Speaking(Spoken Interaction) Writing Reading Descriptor 「自分辞書」を用いて、ALT に 自分が質問したい内容を、既習 有名人について、なじみのある 3文以上質問することができ 事項を用いて3文以上書くこ 構成、内容、英語で書かれてあ る。また、ALT の質問に適切に とができる。 れば、その概要を理解すること 応答することができる。 ができる。 上記の研究テーマやゴールに迫るために、次の四つの手立てを講じた。 ・基礎・基本の定着のための「帯活動の充実」 ・必要な語彙を蓄積し、インタビューテストの際に活用するための「自分辞書の作成」 ・ペア活動・グループ活動などの「学習形態の工夫」 ・様々な質問・応答のパターンに触れ、自信をもってインタビューテストに臨むための「練習の 確保」 これらの手立てを通して、次のような生徒の変容が見られた。 <帯活動> インタビューに臨むには力が足りないと感じた生徒が多く、1年生の教科書の巻末にある Q&A リストを活用し、帯活動でペアを変えながら2分間で質問し合うという活動を追加した。インタビ ューテストに向けて、リストの答えを自分のことに言い換える練習をし始める生徒も出てきた。 <練習の確保> ALT から生徒に向けたメッセージ(知りたいこと等)を示し、質問のテーマを絞った。これによ り、英語が得意な生徒はより多くの質問を考え、苦手な生徒も Q&A リストから質問を書き出すよ うになった。さらに、質問に対する自分なりの答えを自主的に 考える姿が見られるようになった。 また、当初、授業の振り返りの中でインタビューに対する不 安の声がたくさんあったが、練習を重ねるにつれて頑張ろうと する前向きなコメントが多く見られた。 <パフォーマンステスト> 実際のインタビューテストでは、ALT の答えに対して相づちや 聞き返しなどの反応をする生徒もいた。ALT からの質問では、 何とか聴き取ろうと ALT の目を見て話を聞く姿勢や、文の形 にならなくても、どうにか自分の答えを伝えようと頑張る姿 が多く見られた。力の差はあるが、決してあきらめずに頑張 る姿が多く見られ、インタビューテストの実施は生徒たちに良い 経験になったと感じられた。 今後、より自然な会話を目指すために、コミュニケーションに必要な基本的なスキルを向上させ ること、語彙力の強化のために「自分辞書」を継続させること、教え合いを成立させるための視点 を与えることなどを重点に授業改善に取り組む。 (2) 高等学校発表 「主体的・能動的な学びを促す指導の取組」 県立長岡向陵高等学校 栗本 美紀 教諭 基礎的な力の不足から自信をもって表現できない生徒に対し、基礎力を付けながら主体的、能動 的に学習できる生徒の育成を目指した。このような生徒を育てるには、「生徒が自分の頭で考え、 自分の考えを伝えるアウトプット活動」 「ペア・グループ活動を通して、他の生徒からも刺激を受 ける学び合い」が有効であると考えた。単元はコミュニケーション英語Ⅰ「Lesson9 Sesame Street」 であり、実践発表では、3/7時間目の授業を取り上げた。 <本時の目標> ○1960 年代のアメリカの状況を知り、なぜセサミストリートという番組を作る必要があったのかを 理解する。 ○番組制作者になりきって、番組が大切にしているメッセージについて英語で話すことができる。 本時授業を次のような流れで進めた。 ・本文の内容を復習(英語によるQ&A) ・本文の時代背景について深く知る ・音読 ・番組制作者とリポーター役になり、インタビューを英語で行う ここでは、時代背景の読み取りとインタビュー活動について、それぞれの活動のねらいや実際の 生徒の様子を以下にまとめる。 <時代背景を深く知る> 単元の題材について興味を高め、生徒に推測する力を付けることをねらった。本時の中心活動で ある「番組制作者の思いを語る活動」へつなげるように留意した。 まず、ペアで話し合い、絵の中の人物の気持ちを想像させた。 次に、ペアごとに考えを黒板に書き、学級全体でシェアするとい った活動を行った。 ペアごとに様々な議論が行われ、想像を膨らませていった。生 徒の考えを板書し、共有することで教科書に書かれている本文の 時代背景を深く理解していった。 <番組制作者とリポーター役になってのインタビュー活動(ペアワーク)> ここでは、番組制作者という立場を与えることで、英語を使って発信する必要感を生み、思いを 語らせることをねらった。 製作者役の生徒は、番組に込めるメッセージを、単語やフレー ズで「情報マッピング」に書き込み、英語で伝えた。レポーター 役の生徒は、聞き取った内容をリポートした。 「聞く」 「話す」の 技能を統合した活動を行った。 本文の要点をつかみながら、主体的に活動に取り組む様子が見 られた。意見交換を通して、生徒は自信をもつようになり、題材 や英語への興味を深めていった。 授業後のアンケートで、 「生徒同士で意見交換する機会があり、自ら積極的に学ぶことに繋がっ ている」という設問について肯定的な回答をした生徒の割合は9割以上であった。このことから、 ペアやグループ活動は、自信のない生徒にとって大きな手助けになると考えられる。 今後、授業に安心して参加できる雰囲気作り、発問の仕方などを工夫し、生徒が自分自身に問い かける授業を目指す。 4 協議会の内容 (1) 協議 「小中高を通してコミュニケーション能力を高める~校種の接続を意識した CAN-DO リストの 在り方~」をテーマに小学校・中学校グループと中学校・高校グループに分かれて協議した。次の ような進め方とワークシートを使って協議を行った。 協議の進め方 Step1 個人作業(10 分間) ○小学6年生 学年末「私の夢」/中学1年生1学期「自己紹介」 ○中学3年生 学年末「中学校生活の思い出」/高校1年生1学期末「私の学校生活」 上記のテーマでスピーチ活動を行う場合、「自校の生徒が目指すゴール(理想の姿・期待する姿)」 をどのように設定し、生徒に示すかを付箋に書き出す。 Step2 グループ発表(10 分間) 一人ずつ順番に考えを発表し、左側の枠に付箋を貼り出す。その際、評価の観点や指導内容等で分 類するとよい。 Step3 グループ協議(30 分間) 「話すこと」の技能に限って校種の接続(つなぎ)を意識し、目指す姿について意見交換をする。 考えがまとまったらその姿を右側の枠内に書き出す。 校種をつなぐ上で、大切だと感じた点、難しい点などの留意点を下の枠に随時書く。 <中高グループ用> スピーチ 中学校「中学校生活の思い出」・高校「私の学校生活」 (3年生年度末) テーマ 高 校 「話すこと」について目指す姿をまとめる (高校1学期) ※時間があれば、他の技能ついても協議する 理 想 の 姿 か ら 考 え る 高 校 理 想 の 姿 中 中 学 学 校 校 中学校と高校を 「つなぐ」上での留意 点を書いてください。 教室の子どもたちの実態を踏まえながら、自身が目指したい児童生徒像について意見を交流して いた。また、スピーチ活動を通して、高めたい「話す力」の大切にしたい点や段階性に校種によっ て差違があることが明らかになり、議論が白熱するグループも見られた。 (2) 全体発表 協議の後に、小中グループと中高グループの代表者が協議内容を発表し、共有を図った。 <小学校・中学校の代表グループの意見> ○スキル(声・目線・態度)、環境づ くり、型(内容を含めたフォーマッ ト)の定着等、スピーチ活動におい て大切にしたい点に大きな違いは ない、つまり「境界がない」という ことが特徴である。 ○相手に伝える意識を大切にしな がら指導にあたる。 ○到達目標(CAN-DO)を小学校も中 学校も教師同士が共有すること、さ らに児童生徒と教師が共有するこ とが重要である。 <中学校・高校の代表グループの意見> ○中学校と高校の違いは何か、段階をどのように設ければよいかを意識して協議した。 ○構成面では、中学校は8文、高校では 100 語程度が妥当ではないか。 ○内容面では、発表者自身と聞き手の立場から考えた時に、中学校では「自分」を中心に、高校で は「聞き手」を意識した内容にすることが大切である。 ○高校では聞き手にとって新情報を入れ、強調するなどの工夫が必要ではないか。 5 参加者からの感想 ・高校の先生とお話をして、中学校との違いについて共有できてよかった。高校のゴールを目指し、 中学校で身に付けさせるものを身に付けさせたいと思った。 ・高校の先生方と話し合うことによって、生徒が今後学んでいく方向や内容を聞かせてもらうことが でき参考になった。 ・自分とは異なる視点や考え方に触れることができ、よい刺激になった。 ・CAN-DO とアクティブ・ラーニングをつないだ実践が聞けて、非常に参考になった。 ・校種を越えた情報交換はとても有意義だった。 ・協議が楽しかった。嬉しかった。また話し合いたい。 ・技能のみでなく思考力の育成など、もう一歩踏み込んだ議論をしたい。(技能は大切であり、可能 な限り高めたいが、技能を高めることが教育の第一義ではないと思うので) 6 振り返り (1) まとめ 英語教師がもつ願いや理想を実現するのが CAN-DO リストを活用した授業であると考えている。 まずその一歩を踏み出すため、プロジェクトの概要説明の中で、本分科会のゴールを「子どもたち への思いや授業の目標を語ろう」と設定した。 実践発表では、発表者がもつ願いや目標を、CAN-DO リストを活用してどのように具現したかを 共有することができた。各発表から多くの学びと示唆を得られた。 協議会では、参加者が日々の授業で大切にしている願いや目標を、スピーチという活動を通して 語り合った。校種を交えての協議に大きな意義を感じてもらえた。 CAN-DO リストを活用しながら小中高をつなぎ、子どもたちのコミュニケーション能力の向上を 図るという私たちの「思いや目標」を実現する一歩となったと思う。 (2) 提言 これまでのプロジェクトを通して、 次の4点が CAN-DO リストを活用した授業のポイントである。 ○目標(ゴール)の設定 ○パフォーマンステスト、ルーブリック評価 ○生徒が中心の英語による授業 ○意欲を引き出す振り返り また、小中高をつなぐ CAN-DO リストを作成するに当たっては,次のような点がポイントとなる ことが分かった。 ○各校種で共通する点も多い。共通点から円滑な接続につなげる。 ○一方、校種による違いを知り、どんな段階をもたせるのか明らかにすることも大切である。 ○校内、校種間のいずれも教師同士が「目指す姿(CAN-DO) 」を共有することが大切である。 ○児童生徒と教師が「目指す姿(CAN-DO)」を共有し、それぞれが評価する。 今年度のプロジェクトは、成果を県内に広げるために「学校とのつながり」をキーワードに取組 を進めてきた。指導案の検討、実践、授業の分析などをプロジェクトチームの先生方と共に行って きた。また,自主的な研修団体と連携し,CAN-DO リストの考え方について理解を深め合った。そ こには、いつも教師が協働する姿があった。 学校と県立教育センターとがより主体的・協働的に関わり、新潟県の英語教育の発展に尽くして いきたい。
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