経済学における時間の捉え方 - 京都大学 大学院経済学研究科・経済学部

経済学における時間の捉え方
京都大学経済学研究科
若井克俊
「時間」のモデル化
• 「1日」や「1年」を一つの単位とし、単位期間の系列を考える
• 1単位の期間内では「時間の振り分け」のみ考える
• 「時間の経過」は「単位期間」の移動で考慮する
• 「物理的時間とその経過」の経済学的価値は、直接には計れない
「消費系列」と「予算制約」
「消費系列」
• 各単位期間における消費をまとめて系列表示したもの
「予算制約」
• 1単位期間においては、労働時間と余暇時間(睡眠時間や食事
の時間を含む)の組み合わせによって労働収入が決まる
• 単位期間の間では、貯金することで今日の購買力を将来の期間
に移転し、また、借り入れをすることで将来の購買力を今日に
移転する
「消費」-経済学的価値の源泉
• 貨幣の所有そのものからは満足を得られない
• 貨幣使って経済学的な財・サービスを「消費」することによっ
て満足を得る(財には、家や車(耐久財)、公園利用(公共
財)などを含む)
• 「消費系列」に対する満足度の順序は「選好」と呼ばれる
「時間の価値」の間接的決定
• 与えられた「予算制約」の条件の下、一番望ましい「消費系列」が達
成できるように、各期間内のおける労働時間と消費、ならびに、期間
をまたがる貯蓄額・借入額の決定がなされる
• ある期間内の賃金が上がればその期間ではより多く働く
• 金利が上がれば今期の消費を減らし来期の消費を増やす
• 期間内の時間の間接的価値は「賃金」で近似される
• 来期消費の今期消費に対する相対価値(時間の経過の間接的価値)は
「1/(1+金利)」で近似される
「賃金」と「金利」の決定
• 「賃金」も「金利」も、消費財に対する需要と供給が一致する
ように決定される
• 消費財に対する需要は、消費系列に対する選好や人口に大きく
依存する
• 消費財に対する供給は、テクノロジーに大きく依存する
「消費系列」の評価と割引率
「通常の経済理論」では
• 「今日みかんを消費すること」が「1年後にみかんを消費する
こと」よりも好まれる
• 1年後の消費の満足度は今日の消費の満足度よりも「割り引い
て」考えられる
• この「主観的割引率」はどの期間でも一定であると仮定する
種々の実験結果
「主観的割引率」の時間的な変化
• 現在と来期との間の「主観的割引率」は、来期と来々期との間
の「主観的割引率」よりも高い
• 「問題の先送り」現象
• 時間の経過に伴って、意思決定が変化する(意思決定の時間的
非合理性)
• 人間の行動を直接記述(行動経済学的アプローチ)
種々の実験結果
「主観的割引率」が次期の消費水準に依存(Thaler, 1981)
• 来期の消費が今期の消費よりも高いときは、来期の消費から得
られる満足度を大きく割り引く
• 来期の消費が今期の消費よりも低いときは、来期の消費から得
られる満足度を小さく割り引く
• 「Gain/loss asymmetry」と呼ばれる
種々の実験結果
「消費分散選好」(Lowenstein, 1987)
質問 選択肢
週末1
週末2
週末3
回答率
Q1
A
フレンチ
自宅
自宅
16%
Q1
B
自宅
フレンチ
自宅
84%
Q2
C
フレンチ
自宅
ロブスター
54%
Q2
D
自宅
フレンチ
ロブスター
46%
• 「各時点における消費系列からもたらされる満足度」のばらつ
きが少なくなるように行動 (満足度の系列にGain/loss
asymmetryを応用:Wakai, 2008)
「消費分散選好」の下での投資行動
「世代交代モデル(労働世代と退職世代:30年が単位時間)」
• 人口が増加し、かつ、テクノロジー依存型の社会では、「標準
的モデル」よりも、より高い均衡金利で、より少ない貯蓄を行
う
(「将来」を心配しない)
• 人口が大きく減少する社会では、たとえテクノロジー依存型の
生産を行っても、「標準的モデル」よりも、より低い均衡金利
で、より多くの貯蓄を行う
(「将来」を非常に憂慮する)
まとめ
• 「時間の経過」に対して普遍的経済価値を客観的に求めること
はできない
• 消費系列に対する選好に基づき、種々の経済条件の下、間接的
に経済学的価値が発生する
• 消費系列に対する選好が示す合理的側面のうち、これまでモデ
ルせずにいたものを新たに取り入れることで、より現実的な経
済分析を行うことができる (意思決定論的な手法)