第1回出場者インタビュー

平成27年度「緑の雇用」現場技能者育成対策事業
第1回 日本伐木チャンピオンシップ2014
「緑の雇用」研修生 入賞者インタビュー
先﨑倫正
今井陽樹
第1 回日本伐木チャンピョンシップ 2014 「緑の雇用」研修生 入賞者インタビュー
今井 陽樹
はじめに
IMAI HINOKI
日本伐木チャンピオンシップ(以下、JLC)は、林業技術及び安全作業の向上
並びに林業の仕事を一般に広め、林業の社会的地位向上を図ることを目的と
第1 回 J LC プロフェッショナルクラス第2 位
(第31回 WLC 2014 スイス大会 出場)
しているチェーンソー競技の日本大会で、
世界伐木チャンピオンシップ
(以下、
WLC)に出場する日本代表選手選出も兼ねて、全国から広く参加選手を募り、
WLCのルールに準じ、
5 種目の競技
(伐倒競技、
ソーチェン着脱競技、
丸太合せ
輪切り競技、接地丸太輪切り競技、枝払い競技)で競技者の技術を競います。
自分の技術を確認できる場、それがJLCの魅力
採点基準は、
技術面
(効率性、
正確性等)
のみならず安全面
(装備、
動作手順等)
も対象となっており、
24歳以上の
「プロフェッショナルクラス」
から 3 名、
24 歳
未満の「ジュニアクラス」から1名、日本代表選手が選出されます。
「緑の雇用」
現場技能者育成対策事業では、
JLCを通じて
「緑の雇用」
現場技能
者
(FW等)
の労働安全意識の強化を図るとともに、
「緑の雇用」
現場技能者育成
対策事業の認知促進や新規就労希望者の拡大を図るため、
JLCの取組みを応援
しています。
2014 年の第 1 回 JLC では、
「緑の雇用」出身者が 2 名、日本代表選手に選出
され、第 31回 WLCスイス大会に出場しました。
そこで、日本代表選手となった「緑の雇用」出身者 2 名に対し、普段の作業
現場での安全管理に対する意識や取り組み、
今後の目標、
JLC の魅力・見どころ
Q
J LC の面白みは
どんなところですか?
一番は JLC(WLC)の厳格な基準・ルールのもと、選手が同じ
土俵で腕を競い合い自分の技術がどのレベルなのかということ
が審査され、一目でわかるところに面白みを感じます。普段
山で働いていても、
中々人に評価されることは少なく、
自分では
「上手くなった」と思っても、それは自分の感覚や主観であって、
傍から見たらどうなのか、
人と比べたらどうなのかを競技の中で
自分の技術のレベルがはっきりわかることが面白いと思います。
Q
J LC 出場に向けて
練習などはされるのですか?
などをインタビューし、本紙にまとめましたのでご紹介します。
休日に個人で練習しています。
競技のルールに合わせた機材等は
色々な人に協力いただき準備しています。
紹介選手
Q
今井 陽樹(多野東部森林組合)第 1 回 JLC プロフェッショナルクラス第 2 位
先
倫正(㈲マル先 先
自分の中で技術と仕事に誇りが持てるようになったことが
一番大きかったです。これまでは、技術を他人と比べる機会
もなかったので、
「自分の技術はどのレベルなのか」
「
、どこまで
やればいいんだろうか」
などを日々思っていました。
そんな中、
J LC に出場して競技として採点されることで、
自分の今まで
やってきた事の確認にもなりましたし、
結果が出て評価され
ることで自信にもつながりました 。
林業)第 1 回 JLC ジュニアクラス優勝
W LCとは
世界伐木チャンピオンシップ ( 以下、
WLC ) は、
世界伐木チャンピオンシップ
協議会 ( 以下、ialc ) が主催する 40 年以上の歴史を持つ由緒ある林業技術の
大会です。
近年では隔年で WLC が開催されており、
ヨーロッパを中心に約30
カ国、
100 名を超える選手が参加しています。
WLC は、
林業技術及び安全作業の
向上並びに林業の仕事を広く一般に広め、
林業の社会的地位向上を図ることを
目的としています。また、WLC は将来の林業を担う若手の育成にも力を入れ
ており、
将来の担い手のエンパワーメント及び人材間の交流を行っています。
1
J L C に出場して新たに発見したことや
学んだこと はありましたか?
Q
競技と実際の現場とのつながりを感じる
ところはありますか?
まず競技で特に大事にしていることは
「安全」
です。
競技を採点するポイントも安全の項目の減点がすごく高い
ので、
注意するポイントとしては
「安全」
「正確さ」
「速さ」
の順番で、
まずは安全を意識して競技に臨みます。
この
順番は普段の仕事と全く同じで、作業中にこのポイントを意識すると雑にならず集中が持続するので安定し
ます。
「作業は早いけれど、
見ていて危なっかしい」
というのでは良い仕事をしているとはいえず、
「作業は丁寧、
大きなケガもしたことがない」という方がすごい技能者ではないかと思います。
2
第1 回日本伐木チャンピョンシップ 2014 「緑の雇用」研修生 入賞者インタビュー
森づくりは森林所有者様の喜ぶ姿を思い浮かべる
Q
チェーンソーマンとしての面白み、
やりがいは何ですか?
最初は伐倒した木が思った場所に倒せるようになったり、
今までの
自身の技術では伐れなかった木を伐れるようになったり等、
純粋
に成長できる楽しみだと思います。
もう少し踏み込むとただ伐る
だけでなく、
立ち木を傷付けないようにするとか、
如何に綺麗な
商品として材を出すか、次の作業はどうすれば楽になるのか、
さらには将来の山がどうなるか、
森林所有者様が見た時に喜んで
もらえるかまで考えていくことがこの仕事の面白み、やりがい
につながっています。
Q
そもそも林業に携わるようになった
きっかけは何だったのですか?
高校生の時に始めたスノーボードにどっぷりとハマり、
友人に見せてもらったカナダで滑る映像や話を聞いて、
卒業後
「滑りたい!」
という想いでカナダに渡りました
(笑)
。
それから 3 年が経った頃、
夏のロッキー山脈に登って
いた時に山の頂上から見た景色があまりにも綺麗で、
この景色をみんなに見てもらいたいと思い自然に関わる仕
事を探していく中で林業という仕事を知りました。日本に戻り、林業就業支援講習に参加したのちに多野東部
森林組合に入って「緑の雇用」の研修生として 3 年間学びました。現場技能者としては現在 6 年目になります。
事故事例を頭にストックして
危険な状況をイメージする
Q
普段行っている安全対策を
教えてください。
作業班では現場に入る前に危険予知活動を行って、
互いにケガに
つながりそうな状況を話し合っています。また個人としては、
この仕事を始めた時に何が危険かわからなかったので、まずは
『林材安全』という冊子に掲載されている多くの事故事例を片っ
端から読んで、
自分の中で経験したことはないが危険なやり方等
を知識として頭の中に入れました。木 1 本に向かい合うときに
どのように倒れるかを想像し、もしかしたら挟まれるかもしれ
ない等、作業前に起こるかもしれない自分の“痛いイメージ”を
思い浮かべるようにしています。常にできているわけではない
ですがその痛いイメージをして、少しでも危ないと思った時は
違うやり方を考えます。経験してからでは遅いので、とにかく
多くの事例を知っておくことで危険な状況にならないように
努めています。
Q
それでも、現場で危ない思いをした
ことはありますか?
横に倒した丸太の上を歩いていた時に丸太が転がり転倒、衝撃で
一瞬アクセルトリガーを引いてしまい、チェーンソーで左手首を
切りました。
幸いにもその時に装着していた腕時計のベルトで守られて皮一枚で
済みましたが、いつもは必ずかけていたチェーンブレーキをその
時だけかけていなかったことでケガを負ってしまい、改めてチェ
ーンブレーキを常に使用する必要性を認識しました。ベルトが
半分切れた腕時計はその事故の戒めとして今でも装着して作業
をしています。
世界の技術は積み上げられた「経 験」
の研修で印象に
Q 「緑の雇用」
残っていることはありますか?
群馬県内の他の森林組合や事業体の研修生と会って話したり、皆のチェーンソーの使い方を見たり、色々な
研修生同士で交流できるところが面白かったです。
研修生の中には積極的な人もいましたし、控えめの人もおり、普段それぞれで行っている作業や環境に違
いがあるので、それぞれの実体験(自身の作業の話や危険だった事等)を講師や他の研修生と話し合い、
フィードバックするような参加型だと、
さらに自分の中での安全意識の醸成にもつながっていくと感じました。
3
Q
2014 年のスイスで行われた WLC に日本代表として出場されましたが、
どんな印象をもたれていますか?
スピード、正確性を上げても減点が 1 つあるだけで順位がすごく下がるため、慎重になってしまいましたが、
何とか減点なしで競技を行うことが出来ました。
世界のトップ選手はミスしない上に高いレベルで競技を行っ
ていたので、自分との違いはそこだと思います。その差は技術の部分もありますが、今まで積み上げてきた
「経験」だということを強く感じました。
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第1 回日本伐木チャンピョンシップ 2014 「緑の雇用」研修生 入賞者インタビュー
IMAI HINOKI
先﨑 倫正
SENZAKI TOMOMASA
第1 回 J LC ジュニアクラス優勝
(第31回 WLC 2014 スイス大会 出場)
Q
林業という仕事を広めたくてJLCに出場
各国の選手との交流は
ありましたか?
ドイツの選手とはチェーンソーコントロール(チェーンソーの事前チェック)の時に話しかけたことでドイツ
チームと交流するきっかけになりました。WLCは各国の選手とのコミュニケーションが取れるのも楽しみの
一つです。
人とのつながりを感じるワクワクする
林業にしていきたい
Q
Q
先 さんはJLC2014 のジュニアクラスで優勝されましたが、
そもそもJLCに出場しようと思ったきっかけは何だったのでしょう?
まだ 25 歳の自分が言うのも変なのですが、若い人たちに林業
を知ってもらい、この仕事に就いてもらいたいと思ったから
です。
そうでないと、
林業界も自社も持続・発展していけません
ので・・・。
まだ若い自分がJLCに挑戦するとろころを見ていただくことで、
同年代の人たちに何か刺激を与えられるのではと考えました。
また、
「緑の雇用」の研修生だった時の講師にWLCに参加され
方がおられまして、
その方から背中を押されたというのもあります。
今年も WLC の国内予選大会であるJLC に
参加されますが、抱負はありますか。
Q
日本一になって世界に行きます。そのために世界大会に出場するイメージを強く自分の中に持つことと、本番
になると緊張で練習通りに出来ないことがあるので、競技の前に自分の中でのルーティン(深呼吸の回数、
チェーンソーの置く場所等)を行う等で、冷静に普段の実力を出せるようにしたいと思います。
Q
単なる技の競い合いではなく、一つひとつの競技が全
て現場の作業とつながっているという点です。日頃の
現場における作業の適格性、効率性、安全性などが評価
されているのだと思います。あとは、現場ではなかなか
しませんが、
多くの選手が競技によって使用するチェー
ンソーのバー
(刃の長さ)
等を変えています。
良く見ると
わかりますので、
チェックすると面白いかもしれません。
最後に、林業の現場技能者としての
自身の目標をお聞かせください。
林業を一生の仕事としていきたいと思っています。自分と
しては人の役に立ちたいということが根本にあり、如何に
人の顔が見えづらい林業を人の顔が見えるような林業に
するかを考えています。
その為には、
JLC
(WLC)
等の外に発信
できる機会に自ら進んで挑戦し、そこで得た人とのつなが
りや情報を現場にフィードバックし、
自分自身でも競技者と
して林業の魅力をどんどん発信していきたいと思います。
これからの若者がワクワクする林業にしていきたいです。
JLCの見どころは何ですか?
Q
JLC出場に向けて
練習などはされるのですか?
はい。普段の仕事の中でも意識はしますが、第1回大会では 2 ∼ 3 か月前になると
青森県内の出場者同士でも練習していました。
今井 陽樹さん ( 30歳/1985年生まれ )
所属:多野東部森林組合 現場技能者の経験年数:6年
・J LC の得意種目/すべてが得意であり苦手。平均的に出来るようになりたい。
・愛用しているチェーンソー/スチール MS461
・オフの時の過ごし方/チェーンソーの練習
・好きな食べ物/奥さんの手料理
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第1 回日本伐木チャンピョンシップ 2014 「緑の雇用」研修生 入賞者インタビュー
競技採点の基礎にあるのは安全の確保
Q
Q
JLCに出場して新たに発見したことや
学んだことはありましたか?
はい、いろいろな発見がありましたが、チェーンソーを使っ
ている時は足が1センチでも動くと減点となります。それは
チェーンソー起動中に足を動かすことは危険ということを意味
します。普段の作業では意識していなかったので、そのことを
学べたことは大きかったです。
チーム青森の先輩に
「日本刀を振り
回しながら歩く剣術士はいない。振るときは足をきちんと止め
ているだろう」
と言われて、
なるほどと思いました。
あとは、
競技
ごとに減点のポイントが分かるので技術の改善に役立ちます。
一つひとつの動作を確実に行う事の大切さを学びました。
Q
当たり前のことをきちんとやってこそ安全は担保される
JLC のジュニアクラスで優勝したことで
何か反響はありましたか?
普段行っている安全対策を
教えてください。
チェーンソーは個人持ちなので、
メンテナンスは自身で定期的に
行っています。
防護服については、
会社からもゼロ災害を強く指導
されているので必ず着用しています。また、現場での作業前の
ミーティングは毎日行っています。
作業後のリスクアセスメント
も、研修で使用した資料(リスクアセスメント報告書)を使って
個人でも、また現在「緑の雇用」の研修生にも指導するかたちで
定期的に行っています。また、体調管理も重要だと思います。
体調の悪い時に現場に出ると他の人にも迷惑をかけてしまう恐れ
もありますし、
それこそ労災に繋がる危険があるので無理はしな
いようにしています。
その他いろいろありますが、
安全対策につい
ては、
当たり前の事を的確にきちんと行うことがもっとも大切だと
思っていますので、
そこは徹底するよう心掛けています。
おかげ
様で、今日まで怪我といえるような怪我は一度もしていません。
はい。
前回は青森県内で大会が行われたということもあり、
テレビ
等で広く取り上げてもらったことで、
業界や仕事のことを知って
いただくきかっけになったと思います。
Q
「緑の雇用」研修で学んだことを現場で
実践することが大切
Q
そもそも林業界で仕事をするように
なったきっかけは何だったのですか?
今、私がいる「マル先先 林業」というのは私の祖父
が創立したもので、私自身 4 人兄弟の長男、しかも
男は 1 人なので、
自然に継ぐのかなと思っていました。
大学では経営法学を学びましたが、卒業後は「緑の
雇用」の研修生として 3 年間学びながら現場で働き
ました。
の研修で学んだことが
Q 「緑の雇用」
現場で活かされていますか?
「緑の雇用」
の講師は、
WLCにも参加した現役の現場技能者ですので、
現場での作業を強く意識した指導を行って
いるので、
現場で使えるものになっています。
特にチェーンソーの使い方を学ぶ授業では、
使い方や安全への配慮
などを、理論と実技の両面から指導していただいたので良くわかりました。実際の仕事(現場)の中ですとどう
しても忙しいため、
見て覚えろという傾向になりがちですが、
そこがやはり違いました。
特に安全管理面に関する
ことについてはプロの指導が必要だと思います。
ただ、
「緑の雇用」
の研修は基本的なことを学ぶ場、
それはそれで
大切ですが、
それを現場で意識して活かす
(実践)
しなければ身にならないので、
そこは強く意識していました。
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それでも、現場で危険を感じたことは
あるのではないですか?
あります。
先ずは急傾斜地での伐倒作業。
やはり足場の安定性に欠け
ますので。
あとは、
現場で集中していますと、
いつの間にか他の人と
上下接近作業になっていたこともあります。
偏心木の伐倒の時など
は、木が思いもよらぬ方向に裂けたりしましたので怖かったです。
かかり木処理作業でもヒヤッとしたことがありました。これも、
当たり前の事を的確にきちんと行うことが大切なのだと思います。
チェーンソーマンが将来の森を創る
Q
チェーンソーマンの面白み、
やりがいは何ですか?
単純に伐倒することの面白さは勿論ありますが、伐倒する木を
選ぶことから任されていますので、
将来のための森づくりを自分
がしているということにやりがいを感じています。
Q
チェーンソーマンを目指す人への
メッセージがあればお願いします。
やはり、自分がつくった山を自分がもういない次の世代の人
たちに残せるということ、
こんな壮大な仕事は他には無いのでは
と思います。
大変なこともありますが、
自分の考えと技術でそれが
できる仕事ですので、是非も挑戦していただけたらと思います。
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第1 回日本伐木チャンピョンシップ 2014 「緑の雇用」研修生 入賞者インタビュー
競技も仕事も常に向上心をもって取り組む
Q
先 さんは、2014 年にスイスで行われたWLCにもジュニアクラスの日本代表として
参加されましたが、どのような印象を持たれていますか?
世界レベルとの差は感じましたし、
もう少し早くこの競技に取り組んでおけばよかったとも思いました。
正直、
海外勢と何が違うのか、
どこに違いがあるかはわかりません。
それも自分で考えながら、
経験を積み重ねて見つ
けていきたいと思っています。
Q
今年もWLCの国内予選大会であるJLCに
参加されますが、抱負はありますか?
今年はプロフェッショナルクラスに参戦しますので、どこまで
自分の力が通用するのか挑戦したいと思います。
先ずは、
3位以内
に入って世界大会に出場することを目標にしています。また、
自分はソーチェーン着脱競技があまり得意ではないので練習し
たいと思います。
Q
最後に、林業の現場技能者としての
自身の目標をお聞かせください。
チェーンソーの技術はもっと向上させたいと思っていますが、
私が行っているのは林業ですので、高性能林業機械等につ
いても幅広く上手に使えるようになり、
仕事を任せたいと思っ
てもらえるような技能者になることが当面の目標です。
最低でも 10年は現場で修業したいと思っています。
その後の
事は、
きちんとした技能者になってから考えたいと思います。
先﨑 倫正さん (25 歳/1991年生まれ )
所属:株式会社マル先先﨑林業 現場技能者の経験年数:3 年
・JLC の得意種目/伐倒
・愛用しているチェーンソー/ハスクバーナ 576XP
・オフの時の過ごし方/チェーンソーの練習、DVD鑑賞(意外とインドア派)
・好きな食べ物/お寿司、特にうに(青森県産は特においしい)
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平成 27年度「緑の雇用」現場技能育成対策事業
全国森林組合連合会