Page 1 河上翔太洗性の「よく聴き、よく考え、主体的に学び合う子どもの

河上翔太先生の「よく聴き、よく考え、主体的に学び合う子どもの育成∼
算数的活動を充実させた 5年「合同な図形」の指導を通して∼」について
愛知教育大学 宇 野 民 幸
本 実践 の発表 が研 究会 でお こ なわ れた数 日前 、2012年 度 PISA 調査 の 結果 が発表 さ れ、重 点的 調査
項目であった「数学的応用力」は、日本は7位と前回と比べ上昇して、OECD加盟国においては2位と
なり、 「脱 ゆとり 路線」 の成 果が 表 れた結果 と もされた。 し かし、 同時 に実施 さ れた、生徒 の興 味や 目
的意 識を問 う意識 調査 におい て、2003年 の調査 以来9 年 ぶり の数学 的応用力 の調査 によりあ ら わに なっ
たこ とは、 日本 の生徒 の数学 へ の学習 意欲 の改善 はみ られる もの の、不 安感 ・苦手 意識 などの すべ ての
項目においてOECD加盟国の平均を依然として下回っており、特に「数学はすぐわかる」との回答につ
いては参加国のなかで最も低いという実情である。
その ような現 状 の中で、 河上先 生 は小 学 校の 授業実 践の研 究 にお け る主題 設定 の理由 とし て、子 ど も
たちの算数嫌いに対して、いかに「わかる授業」をおこなうかを大切に考えておられる。先生は、「子
ども の脳 がfull
に働 くの は、子 ども 自身が 作業 に取 り 組 んだり、 自分 の 考え を発 言す るそ の 瞬間 だと思
う。」 とさ れ、研 究仮説 とし て、算 数的活 動 の充実 を図る こ とに より、「 よ く聴 き、 よく考 え、 主体 的
に学 び合お うとす る子 ども」 が育つ であ ろう と考 えら れてい る。ま た、 クラスメ ート の話す 内容 をむし
ろ子 ども は聴こう とす る傾向 にあ るこ とも実感 とし て注 目さ れてい る点 も重要 であ る。そし て研 究 の手
立て として、 算数 的 アプ ロ ーチ と授 業 の方法 論的 アプロ ーチ を示 さ れてお り、 その 仮説 の検証方 法 とし
て、 抽出児 を複数 挙げ、 手 立て を講じ たう えで、 その抽 出児 の変容 と アンケ ートの 結果 から成 果を まと
め られ、 また課 題を挙 げら れてい る。 この よう に、5 年 生 の「合 同な図 形」 におい て授業 をお こな う際、
教材 の工夫 も独 自にお こ ない な がら、 授業研 究 をする ため の様々 な段取 り と構成 とが なさ れており 、そ
の それぞ れにおい て、 先生 の意 図す るこだ わり と工夫 もあ る実践 であ るとい える。 そ の中で も特 に注 目
で きる のは、「合 同 かど うか調 べる場 面」 におい て、 授業 の中で 「辺 の長 さがそ れぞ れ等し かっ たら合
同 だとい える のか」 とい う発問 があ り、 また「 三角形 の内角 の和 を調 べる場 面」 におい て、 「いつ で も
同 じこ とが言 える のか」 という 発問 があ る。い ず れも、児 童が 実感 を伴い なが ら、 算 数的 な活動 をし た
り、感じ た り、 学 んだりし てい る場 面にお い てさ れた発問 であ る。こ れ らは、公 理や 定理 につい て、帰
納 的 なアプロ ーチ をもちい て 理解 をお さ える方 法 とは異 なり、 また、 演繹 的 に論 証 を確か める方 法 とも
違 い、 いつ でもそ うな る根拠 を探 らせる、 またいつ で もそう なる とはい えない 可能性 を意 識させ るこ と
に繋 がっ てい る。 こ の学 びの 過程 は、G.Polyaの示 す 「発見 的 三段 論法 」、 ま た仮 説形成 とい われ る帰
納で も演繹 でも ないが、 重要 な思 考過程 とい える論 理で あり、 上記 の数 学に対 する 意識 の向上 に向け て
の現 場 にお ける 教育 上 の実 践で あ る とい える。 そ の成 果 は、 児童 が 授業 につ い て、 「三 角ブ ラ ン コを
使って〈そういう三角形が〉ないということが分かりました。とても勉強になったし、〈すごく〉楽し
かっ たです 。」 と自 ら感 想 を加 え るこ とから も察す るこ とがで きる。
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