減圧過熱水蒸気乾燥と有機溶媒注入による乾燥速度向上法

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減圧過熱水蒸気乾燥と有機溶媒注入による乾燥速度向上
法
立元, 雄治
財団ニュース. 12, p. 15-17
2011-01-10
http://hdl.handle.net/10297/6151
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〔天野工業技術研究所基金研究助成〕
減圧過熱水蒸気乾燥と有機溶媒注入による乾燥速度向上法
静岡大学工学部物質工学科
立元 雄治
[email protected]
課 題
・熱に弱い材料
・乾きにくい材料
⇒乾燥速度の向上が課題
有機溶媒注入による乾燥速度向上
応 用
低温度・高速度乾燥技術
食品原料の乾燥など
1.はじめに
乾燥操作は、固体材料中に含まれる水分を蒸発除去する操作である。したがって、乾燥操作において
は多量の熱を要し、このためにエネルギー効率の向上が重要な課題である。
一方で、乾燥する材料が熱に弱い材料である場合も多く、乾燥後に製品として使用する場合には熱に
よる変質を防止する必要がある。この場合には低温度で乾燥を行わなければならないが、低温度乾燥の
際には乾燥速度が低いために乾燥時間が長くなり、結果的に多くのエネルギーを要することになる。し
たがって、低温度でありながら高速度で乾燥する技術の開発が重要である。
低温度で乾燥すべき材料として挙げられるものに食品原料がある。特に、この食品原料のうちでも農
作物や果実などをそのまま乾燥する場合には、材料内の水分の蒸発速度が低いために極めて長時間の乾
燥が必要になる。
本研究の目的は、このように乾燥しにくい材料を低温度かつ高速度で乾燥するための方法を確立する
ことである。材料中に低沸点の有機溶媒を注入して材料内部で蒸発をさせ、内部からの有機溶媒蒸気の
移動によって材料を多孔質とし、材料内水分の蒸発速度を向上させ、全体の乾燥時間を短縮する方法に
着目した。低温度乾燥法として減圧過熱水蒸気乾燥法を用い、さらには高速度乾燥法として流動層乾燥
を併用した。
2.概要
2-1.減圧過熱水蒸気乾燥
低温度乾燥法として、減圧乾燥(真空乾燥)は優れた特性を有する。これは、減圧とすることで水の
沸点が低くなり、このため低温度でも高速度で蒸発が行われるためである。乾燥方式のうちでもっとも
一般的な方法は、熱風を材料に直接当てて加熱し、材料中の水分を蒸発除去する熱風乾燥であるが、通
常、減圧乾燥では、乾燥容器内でガスを循環させたり、積極的に材料にガスを当てたりして加熱すると
いうことは行われない。これは、減圧条件下では、乾燥容器内に存在するガス量が少ないためであり、
特に、高真空(低圧力)条件では、ガスによる加熱は不可能である。
本方式では、乾燥室内の圧力を10kPa程度とした。この条件では、ガスを当てての加熱が可能である。
また、後で述べる流動層との併用が可能である。
過熱水蒸気とは、沸点よりも高い温度にまで加熱した水蒸気であり、大気圧では100℃よりも高い温
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度の水蒸気を過熱水蒸気と呼ぶ。図1に過熱水蒸気
になる温度と圧力の関係を示す。減圧条件では、
沸点が下がるため、低温度で過熱水蒸気となる。
過熱水蒸気の特徴のうち減圧条件でも当てはまる
ものとして、(1)乾燥時の材料温度が水の沸点に
等しい、(2)無酸素乾燥が可能となる(食品原料
の酸化防止効果)、(3)特有の乾燥製品が得られる
場合がある、といったものがある。
2-2.媒体粒子流動層乾燥
減圧乾燥(真空乾燥)であっても材料中の水分
を蒸発させるための熱を加える必要がある。この
方法として、流動層を使用する方法に着目した。
図1 圧力と水の沸点の関係
図2に減圧流動層乾燥装置の概略を示す。流動層は、
分散板と呼ばれる粉粒体は通過しないが、気流は通過する板の上に粉粒体を載せて下からの気流によっ
て粉粒体を浮遊運動(流動化)させる装置である。気体と粉粒体との接触が良好で、高速度乾燥が可能
である。ここでは、乾燥物とは別の粒子(流動媒体粒子)の流動層内に乾燥する材料を投入して乾燥す
る。
使用するガスに熱風または過熱水蒸気を使用した。また、流動層内を減圧(10kPa)とした。
2-3.有機溶媒の注入
農作物や果実といった食品原料の乾燥操作では、内部の水分移動速度が遅く、表面がすぐに乾燥して
しまい、内部に水分が取り残され、この水分の除去(乾燥)に多くの時間を要するという問題がある。
そこで、この内部の水分の乾燥速度をいかにして向上させるかが重要である。このための方法として、
水に比べて低沸点の有機溶媒(ここではエタノールを使用)を材料中に注入し、これを内部で蒸発させ
て材料内部から外部に向かって蒸発した有機溶媒蒸気を移動させて材料を多孔質とし、内部水分の乾燥
速度を向上させることを考えた。新たに溶媒を注入するという操作を加えるが、乾燥時間が短縮されれ
ば、消費エネルギーは大きく減少できるので有効である。
3.実験装置および方法
実験装置には図2に示したものを使用した。乾燥
室本体はガラス製円筒(内径65mm)とし、流動
層とした場合の流動媒体粒子には約120μmのガラ
スビーズを使用した。乾燥する試料には円盤状に
切り出したジャガイモを使用し、径20mm、高さ
10mmとした。所定の時間ごとに試料を取り出し
て質量を測定した。また、乾燥後の試料を100℃の
熱風中に長時間おいて完全に乾燥し、この質量を
乾き時の質量とした。低沸点の有機溶媒としてエ
タノールを用い、5μLを注射器で試料の中心に注
入した。
4.結果および考察
図3に熱風流動層乾燥において、60℃、10kPa
(減圧)の条件で乾燥した時の含水率の経時変化を
図2
減圧流動層乾燥装置の概略
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示す。エタノールを注入した場合の方が含水率の
減少がはやく、短時間で乾燥が終了していること
が分かる。特に、乾燥の後半において含水率の減
少速度が高く、エタノールの蒸発によって材料全
体が多孔質になっていることが考えられる。
図4では、過熱水蒸気流動層乾燥(大気圧、
150℃)の場合の試料中心温度の経時変化を示す。
試料温度は、はじめ急激に上昇し、その後ある温
度(水の沸点:100℃)で一定となり、乾燥が終了
すると試料温度が乾燥温度(150℃)に等しくなる。
この図(過熱水蒸気の場合)では、エタノール注
入の影響があまり現れていないが、注入した場合
の方が短時間で試料温度が乾燥温度(150℃)に達
し、短時間で乾燥が終了しているといえる。
エタノール注入の効果は、流動層としない通常
の熱風乾燥では、大気圧でも減圧でもほとんど現
れなかった。また、温度が高い方がより効果が現
れやすく、熱風流動層の方が過熱水蒸気流動層の
場合よりも効果が顕著であった。以上から、特に
材料温度を急激に上昇させる条件において、内部
の低沸点有機溶媒の蒸発が促進され、その効果が
顕著に現れやすいことが分かった。他にもレンガ
や米粉団子も試料として使用したが、レンガはも
ともと多孔質であるため、効果が見られなかった。
また、米粉団子は、低温度では注入によらず乾燥
時に多孔質となり、高温度では、内部の有機溶媒
の蒸発によって材料内の圧力が急激に上昇したた
め、エタノールを注入した場合にのみ割れを生じ
た。
図3
熱風流動層乾燥時の含水率の経時変化
図4
過熱水蒸気流動層乾燥時の
試料温度の経時変化
5.まとめ
低温度かつ高速度での乾燥方法の確立を目指して、乾燥材料への有機溶媒注入による乾燥速度向上を
試みた。単に熱風乾燥や過熱水蒸気乾燥としたのみでは効果がなく、流動層乾燥と併用することで顕著
な効果が現れた。試料を短時間で加熱する乾燥方式(乾燥条件)で効果が顕著であり、熱風流動層で特
に良好な結果が得られた。結果から、農作物や果実などの割れが生じにくく、乾燥しにくい材料の場合
に効果が現れやすいと考えられるが、今後、材料を特定して応用面での検討を進めたい。また、本方式
の有効性についての定量的な評価(数値評価)も実施していきたい。
謝辞
本研究は財団法人浜松科学技術研究振興会 天野工業技術研究所基金により行われました。ここに謝
意を表します。
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