Title イオン性-中性DDAOミセルの表面エネルギー(ポスターセ ッション詳細,基研研究会『膜の物理学』) Author(s) 寺田, 弥生; 前田, 悠; 小田垣, 孝 Citation 物性研究 (1997), 68(3): 358-361 Issue Date URL 1997-06-20 http://hdl.handle.net/2433/96047 Right Type Textversion Departmental Bulletin Paper publisher Kyoto University 研究会報告 イオン性一中性 DDAO ミセル の表面エネル ギー 九大理 寺 田 弥生 A 前田 悠 小 田垣 孝 e mai l:At e r a3s c p◎mbox・ nc・ kyus huu・ ac・ J p AbSt r aC t イオン性 DDAO と中性 DDAOからなる DDAO ミセルの表面エネルギーをミセル表面の格子模型 をもとにモンテカルロ法を用いて計算 した。その結果、イオン性 DDAO の割合 α〟に対する表面エネ ルギーの依存性を得た.また、DDAO間に生じる水素結合がミセルの物理的特性を決定する際に大き な役割を果たしていることがわかった。特に DDAOl個あたり2本の水素結合が存在するという計算結 果を得た。塩の効果や温度依存性についても議論する。 界面活性剤 は多 くの実用的な応用性 を持つため幅広 く興味を持 たれてい る。水 中に分散 し た界面活性剤 は界面活性剤の濃度 、水溶液の温度 、pH、塩濃度な どを変化 させ ることによ り、 様 々な相 をとることが知 られてい る。特に界面活性剤 の濃度がある一定濃度 ( 臨界 ミセル濃度 CMC)を越 えるとミセル を形成す る。典型的な界面活性剤 は親水基 と鎖状の疎水基 とか らな り、それ らの間の相互作用が ミセル形成 に重要であると考 えられ てい る。 Dode c yl di mc t h yl mi a neo xi de( DI ) AO)はア ミンオキシド基 を持 った界面活性剤 の一種 であ り、合成洗剤 中の泡安定剤や人工膜の材料な どに使われ るな ど工学的にも応用範囲が広い物質 である。この DDAO のユニー クな物理的特性の一つ として中性の DDAO が水素 イオンによっ て イオン化 され ることがあげ られ る。 C1 2 H2 5 N( CH3 ) 2 0 +H+ ≠ nDDAO C1 2 H2 5 N+( CH3 ) 2 0H i DDAO この とき i DDAO と nDDAO が 水 中に分散 してい る系では DDAO の濃度 が CMC を越 え ると i DDAO と nDDAO の混合 ミセル を形成す る。溶液の pⅡ を変化 させ ることによって全 DDAO に対する i DDAO の割合 α〟を比較的簡単にコン トロール できるため、この系に対 し て様 々な実験が行 なわれている。最近前 田らのグループによって低濃度の DDAO 溶液につい て系統的な実験が行なわれ 【 1 トCMCや溶液の ミセルの 自由エネル ギーが α〟に強 く依存 して お り、ある一定の α〟 (α〟つ で極小値を持つ ことが明 らかに され た。また、溶液 に塩 を加 え DDAO ミセ ることによって DDAO ミセル も安定化 し、と くに塩濃度が大 き くなると純粋 な nル よ りも純粋な i DDAO ミセルのほ うがエネルギー的に安定であることがわかった。これ ら の特性の定量的説 明は現在の ところ存在 しない。 DDAO と nDDAO か らなる ミセルの表面エネル ギー をモンテカル ロ ( MC)法に 我 々は i よ り格子模型 を用いて計算 し、ミセルに対する水素結合の効果 を調べた。この研究の 目的は ミ セル表面の水素結合の効果 を調べることにあるので、表面の曲率については無視 し、周期境界 条件を課 した正方格子で ミセル表面を近似 した。まず 、1 6×1 6の正方格子 を ミセル表面 として ー 35 8- 「 膜の物理学」 用意 し、正方格子上の各サ イ トを DDAO の親水基 と仮定す る。MC シュ ミレーシ ョンの初期 状態 として一定の濃度 αM で ランダムに水素 イオンを格子上のサ イ トに付加 させ る。水素 イオ ンは親水基であるア ミンオキシド基 ( サ イ ト)に電荷 を与え、水素原子はそのサイ トの最近接 ボンド 4本の うちの 1本上 にあるものと仮定する。初期状態では水素結合 は全 くない もの とす る。MCシュ ミレーシ ョンには メ トロポ リス法 を用いた。各 MCステ ップで ランダムに水素原 子 を選び、MCステ ップの終状態 としては 選んだ水素原子か ら最近按 のボンド 6本の うちの 1 本-水素原子が移 るか、またはそのままのボンドに残 るかのいずれか とした。この とき、水素 結合 を作る場合 と作 らない場合があるとし、水素原子が結合 してい るサイ トが MC ステ ップの 始状態 と終状態で異なる場合は電荷 も移動 させ るもの とする。ここで水素原子 は 1本のボ ンド に 1個 まで、水素結合 は DDAOl個 あた り 2本まで とす る。 i _ DDAO -nDDAO, ミセルの表面エネルギーは中性 ミセルの表面エネル ギー との差で表 さ DDAO間の クー ロン反発 、 i DDAO の親水基の OH と最近按 の他の れ 、このエネル ギーは i DDAO の親水基の間の水素結合 と nDDAO の親水基間のダイポール相互作用 の 3つか らなる もの とした。ダイポール相互作用エネル ギーの大きさは他の 2つのエネル ギー よ りかな り小 さ いため表面エネル ギーに対す る影響は小 さい。そ こで、以下では ミセルの表面エネル ギー に対 するクー ロン相互作用 と水素結合 の効果 を中心 に考える。我 々のモデル システムでは水素結合 に関 しては 3つの異なるタイプ ( 水素結合の両端の DDAO に対 して何本 のボンドが存在 す る かで識別)が区別できるもの とす る ( 図1 ) 。t ypeA、t ypeB、t ypeC それぞれの水素結合 は 3 つの異 なったエネルギー hA、 hB と 主( hA + hB)を持つ もの とする。また、クー ロン エネ ル ギー としてス クリー ンドクー ロンポテンシャル を用いた。 図 2は室温 TR-2 5 o C での クー ロンエネルギー と水素結合エネル ギー と全表面エネル ギー を α〟の関数 として示 した計算結果である 【 2 】 。この時、塩濃度 β-0 . 3 0mo ld m 3、 タイプ A とタイプ Bの水素結合エネルギーの比 hB/仙 ニ ー1 . 0( 全ての水素結合 迂等 しい強 さで 系 を安定化 させ る)とした。水素結合エネル ギーは α〟が小 さい ときは α〟に比例 し、 α〟が 1に近付 くと幾何学的な拘束か ら傾 きが緩やかになる。一方 クー ロンエネルギーは塩濃度 βが DDAO の組の数 によって決まるのでほぼ α〟2に比例 大 き くデバ イ長が小 さいた め最近按の i する ( 図 3) 。 これ らの効果が競合 し、かつ α〟に対す る依存性が異なるため全エネル ギー はあ る特定の値 α〟書で極小値 を持つ。DDAOl個 あた り 2本の水素結合 が存在す る効果 を見 るた めにエネル ギーの比 hB/I hAl-1 0 0(タイプ Bの水素結合はエネル ギー的に不安定 、すなわ ち、DDAOl個 あた り 1本の水素結合 しか存在 しない)の ときのエネルギー 曲線を図 2中に示 した。この場合 も全表面エネルギーは極小値を持つが全体の定性的な振舞いが実験 と一致 しな い (α〟が 1に近い とき全エネルギーの増加率が大き過 ぎる) 。我々の計算結果 と実験結果 を比 較 した結果 、タイプ A とタイプ Bの水素結合の強 さはほ とん ど差 がな く、DDAOl個あた り2 本の水素結合が存在す ると考えられ る。そ して 、2本 めの水素結合 は ミセルの特性 を決定す る 際に大 きな役割 を果た してい ると思われ 、 この結果 i DDAO -aDDAO ミセルの表面には鎖 - 3 59 - 研究会報告 状水素結合 の クラスターが存在す る ( 図4 ) 。 塩 の効果や温度依存性 につ いて も調べた。シ ミュレー シ ョンの結果 、塩 が ミセル を安定化 す るこ とが確 かめ られ 、この結果 は定性 的に実験 と一致す る。特 に塩濃度 が Cs* 望0 . 22mol d皿 3 よ り大 き くなると 完全な中性 ミセル よ りも完全 イオン性 ミセルのほ うがェネル ギー的に 安定になる ( 図 5) 。これは高濃度の塩 による強いス クリーニング効果 と DDAOl個 あた り 2本 の水素結合 が存在す る効果 によって理解 できる。図 5中で塩濃度 βが小 さい時純粋 な i DDAO ミセル の表面エネル ギーは実験 よ りかな り大きい。これは対 イオンの効果 を無視 しているので デバ イ長 が大 きい時 クー ロンエネルギーが大き くな り過 ぎるためである。また 、温度依存性 に ついては、温度が上昇するに従 って ミセルの表面エネル ギーは大き くな り α〟 *は小 さ くな る と い う結果 が得 られた。この結果 については今後の実験によって確 かめ られ ることが期待 され る。 参考文献 【 1 】Ka imot o,I. ;Shoho,K. ;Sas A ki , S. ;Ma e da ,H.J.Phys .ahe m.1994,9 8 ,1 02 43. ;Ma e da, H. ;Mur o i ,S. ;I s hi i ,M. ;Ka imot o,H. ;Na k ll a a r a,T. ;Mo t o l nur a,K.J. Cot L oi dI nt e r f ac e Sc i ・1995,17 5 ,年9 7・ ; Ma e da,H・CoL L oi dsSur f ac e sA 1996,109,263. [ 2 】Te r ada,Y. ;Ma e da ,I. ;Oda gi ki ,T.pr e pr i nt 2 . 5 1 . 5l 1 0 . 5 l l 0 ul qq 0 . a V I T 榊 5 00 伽 . 5 十 十 + 1 十 十 ++++十十十十十 1 . o 0. 2 5 0. 5 0. 7 5 1 . 5 2 1 一 〇. 1 aM 図 1,ミセル表面上 の水素結合 ● :aDDAO 親水 基 i DDAO 親水基 × :水 素原子 - :化学結合 一一一:水 ypeA,t ypeB,t ypeC の水素結 素結合 。 t んA+ んβ)の 合 にはそれ ぞれ んA、 んβ と 圭( エネル ギー を与 える 0: ,クー ロンエネル ギー ( +)、水素エネル 図2 ギー ( ○) 、全エネル ギー ( ●)の α〟依存性 hB/l hAlニ ー1 . 0の時。 左上図は hB/l hA1- 1 0 0の時。 ( hA - - 1 . 4 kc l mo a l -1 ,T - 25oC, β-0. 3 0moldp -3 ) -3 6 0- 「 膜 の物理学」 ( ulqq )仙 o t I 33 〓 Hgl )帥 o t ( ul qq 3. 5 3 2. 5 ・ 2 ・ 1 . 5 -1 0. 5 0 ー 3. 5 3 2. 5 l og aM 図 3,エネル ギーの 2 ・ 1 . 5 1 0. 5 0 l og aM α〟依存性 b)水素結合エネル ギー EH 実&: 傾き 1 a )クー ロンエネル ギー Ec 実線‥ 便 き2 ◆ ◆ 6 4 2 0 T= WD)笥 ul qq I ( 0. 1 0. 2 0. 3 Cs moldml3 図 4,ミセル表面 の水素結合 の典型的な例 i _ DDAO親水基 × :水素原子 - :化学結合 一一一:水素結合 0: ( hA- h B- - 1. 4kc l mo a l -1 ,T - 2 5 o C, β-0. 30mo ldm 3,α〟 -1 ・ 0) 図5 ,完全 イオン性 ミセルの表面 エネル ギー の塩濃度依存性 cs'窒0. 22mo ldm-3 以上の濃度では中性 ミセル よ りもイオン性 ミセル のほ うが安定 と なる。 - 361- 0. 4
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