ABeam Public Relations Report [アビームコンサルティングのいまを伝える] www.abeam.com/ jp ABeam Consulting Public Relations Report 2015 July 2015 v.2 2015 アビームコン サル ティングの い まを 伝 える ABeam 特集 戦略的クラウド活用 24 戦略的クラウド活用 Part1 [特別対談] ビジネスにイノベーションをもたらす クラウドの戦略的活用とは? 桔梗原 富夫氏 日経BP社 イノベーションICT研究所長 赤石 朗 アビームコンサルティング プリンシパル Public Relations Report 2015 28 戦略的クラウド活用 Part2 クラウド利用によって発生する弊害と その解決アプローチ 関川 秀一郎 ディレクター 長井 孝治 エキスパート 30 CONTENTS Top Message 4 ABeam Consultingの視点 進化するグローバル化 企業はどのように優位性を構築すべきか 6 10 アビームコンサルティングの1年間のおもなトピックスを ご紹介します 成功するクラウド活用のための3つの要件 33 常にお客様と寄り添い、 ビジネス現場と密着し グローバル化の“次なるステップ”を見据えた変革を支援 岩澤 俊典 アビームコンサルティング 代表取締役社長 ABeam Consulting Digest 2014.04-2015.03 戦略的クラウド活用 Part3 リージョンレポート 34 変革の実現を支える ビジネスイノベーションプラットフォーム ABeam Cloud From ASEAN 「メコン商圏」 を逃がすな 急速な市場拡大と安価な労働力が魅力のメコン商圏 “タイ+1”への進出を成功に導くものとは 原 市郎 アビームコンサルティング タイランド マネージングディレクター 視点1[激化するグローバル競争を戦うための戦略立案とは] ビジネスモデル再構成の繰り返しによる 競争優位の積み重ねが「持続的成長」の源泉 37 エネルギーバリューチェーン全体を最適化 エネルギー企業に求められる最経済運用の仕組みとは 宮丸 正人 プリンシパル 12 視点2[圧倒的な競争力を実現する顧客マネジメントとは] “ジャパンクオリティ”の顧客マネジメントが どこにも負けない競争力を実現する 小野田 敬 プリンシパル 40 中本 雅也 プリンシパル 14 From JAPAN エネルギー自由化最前線 ABeam ConsultingのCSR Jリーグ モンテディオ山形 セーリング Team ABeam 視点3[SCM再構築 グローバル基準への挑戦] グローバル基準のSCMを再構築 日本企業にとっての着眼点とは 富田 雅樹 プリンシパル 16 視点4[“攻め”のビジネス戦略を支える会計とは] 会計はグローバル経営を読み解く共通言語 高度化が“攻め”のビジネス戦略を支える 中野 洋輔 プリンシパル 矢野 智一 プリンシパル 18 視点5[グローバル戦略を加速させる次世代の経営基盤] グローバル戦略を加速させる スピードと柔軟性を備えた経営基盤 佐々木 信寛 プリンシパル 小山 和久 プリンシパル CASE STUDY 導入事例 2 ABeam Consulting 2015 21 TOTO株式会社 “標準テンプレート”の戦略的活用により 迅速かつ最適なグローバル経営基盤を実現 ABeam Consultingとは アビームコンサルティングは、 アジア発のグローバルコンサルティングファームと して、 お客様のグローバル事業拡大をご支援するために、付加価値の高いコン サルティングサービスを提供し続けてまいりました。業界・業種に特有の課題や 市場ニーズ、国や地域ごとに異なる文化や商習慣を踏まえ、企業戦略から業務 改革、IT構築、運用・保守にわたる全サービス領域で、深い洞察力と豊富な経 験に裏打ちされたお客様ごとのベストプラクティスを提供します。お客様の経営 変革を実現する 「リアルパートナー」、 それがアビームコンサルティングです。 ――本誌はアビームコンサルティングの “いま” をお伝えする広報誌です。 ABeam Consulting 2015 3 Top Message をお手伝いするために注力しているのが、デジタル化に 対する取り組みのご支援です。 周知のとおり、グローバルを席巻する昨今の主要なイ ノベーションは、デジタル技術のインパクトによっても 常にお客様と寄り添い、 ビジネス現場と密着し グローバル化の“次なるステップ”を見据えた変革を支援 たらされています。これまでも ERP によってオペレー ションが標準化・効率化され、ビジネスインテリジェン ス(BI)によって意思決定支援が行われるようになる など、IT はビジネスを大きく変えてきました。それが 最近では、ビッグデータやデータドリブン・マーケティ 新たな競争ステージを迎えた日本企業のグローバリゼーションを支えるべく アビームコンサルティングは企業変革への挑戦と実現を後押しすることをミッションとする。 ング、あるいは IoT(モノのインターネット化)といっ たキーワードに象徴されるように、大量データのリアル 実際にビジネス現場へ足を運び、 トップダウンとボトムアップの双方向から企業を変え 成功を勝ち取るまで支援し続ける 「リアルパートナー」 としての取り組みを、 さらに進化させていく。 タイム分析によって、状況判断や意思決定などが自動的 に行われる時代を迎えています。 これまで以上にビジネスと IT が深く融合しながら、 岩澤 俊典 かつてないビジネスモデルやサービスモデルを生み出し、 グローバル競争を大きく変えていくと予想されます。 アビームコンサルティング株式会社 代表取締役社長 しかし、そこにどんな世界が広がっていくのか、具体 的なイメージを掴むのはあまりにも困難であり、不確実 な将来に向けて的確な戦略を定めることができません。 かといって、すでに顕在化しつつある課題に対する解決 お客様と寄り添いながら 共に変革を実現する もはや一歩も踏み出すことができないのです。 アビームコンサルティングは従前より「リアルパート そこでアビームコンサルティングがお客様の一歩先を ナー」という理念を掲げ、他のコンサルティングファー 進んでイノベーションを実践し、不確実な将来を先取り ムとは違った立ち位置でお客様と接してきました。通常 し、デジタル化による“あるべき姿”をご提示したいと のコンサルティングビジネスの範疇にとどまらず、一歩 考えています。また、その取り組みから創出・蓄積され 踏み込んでお客様と寄り添いながら、お客様の企業変革 た知見やノウハウ、ソリューションの数々を、ビジネス を共に実現することをミッションとしてきました。 イノベーションプラットフォームとしての「ABeam なかでも近年、多くのお客様にとって不可避の課題と 言われています。経営トップが強力な指導力を発揮し、 易なことではありません。これまで常識と思っていたこ Cloud」を通じて、惜しみなくビジネス現場に提供し なっているのが、新たなステージを迎えたグローバル化 明確なビジョンを掲げ、その方針に沿った戦略を策定す と、正しいと信じてきたやり方を変えることは、ある意 ていきます。全世界のクラウド市場では、革新的なテク に対応するための変革です。欧米の先進企業はもとより、 ることで、組織全体を変えていくことができるのです。 味で自らを否定することにもつながるからです。 ノロジーやアプリケーションが相次いで登場し、日々進 新興国の成長企業との国境を超えた競争が激しさを増す しかし、それだけでは組織は動かず、企業の本質も変 そこにアビームコンサルティングが提供する価値の意 化しています。これらの中から、日本流の変革に役立つ につれ、日本企業の意思決定は本社から遠く離れた国や わりません。さまざまな業務の最前線に立つマネージャー 義が表れてきます。客観的な立場から冷静に判断し、必 と思われるものをアビームコンサルティングが独自の“視 地域に設置された拠点において“現地主導”で行われる やリーダーに、自社が向かおうとしている方向性および 要に応じて他社のやり方を取り入れたり、世界の動向を 点”に基づいて厳選し、ベストプラクティス(成功事例) ようになってきています。マーケットにより近い現場で その課題を自分たち自身の責務として“腹落ち”させ、 持ち込んだりしながら、スピード感を持って変革を進め とともにお客様に提供できるサービスメニューを拡充し 速やかに判断を下し、環境変化に迅速に対応することを 一人ひとりを変革の原動力としていかなければ、目的を ていきます。机上で描いたコンセプトやプランを提示す ようとしています。 目的とするものです。 達成することはできません。 るのではなく、実際に現場へ足を運び、現場から考え方 日本企業が今後向かうことになるグローバル競争は、 このように立ち止まることのない変革を推進していく 特に日本企業は現場の力が強いだけに、一方的なトッ を変えていくことが、 「リアルパートナー」としてのア ますます熾烈なものになると考えられます。その道程は 実行力こそが、グローバル市場で日本企業が勝ち抜くた プダウンだけではうまくいきません。現場が主体的に動 ビームコンサルティングのやり方であり、そのスタイル “山あり、谷あり”で、必ずしも順風満帆ばかりではあ めの必須条件となっています。 かなければ、変革は成功しません。裏を返せば、現場を は現在も絶え間ない進化を続けています。 現場から考え方を変えていくことで 日本流の変革を目指す 企業の変革はトップダウンによって成し遂げられると 4 策を探るといった従来の単純なアプローチでは、企業は ABeam Consulting 2015 動かしてこそのトップダウンであり、それが日本流の変 革のあり方と言えます。 では、どうすれば現場から変革を起こすことができる のでしょうか。組織内部にいて自らを変えていくのは容 一歩先のイノベーションを実践し 不確実な将来に“あるべき姿”を提示する アビームコンサルティングが、お客様の“次なる変革” りません。私どもはお客様のチームの一員として、痛み を分かち合いながら、成功を掴むまで、ぶれることなく 邁進します。それがお客様の変革の実現をお手伝いする 「リアルパートナー」としてのアビームコンサルティン グのこだわりです。 ABeam Consulting 2015 5 ABeam Consulting Digest 10 アビームコンサルティングの1年間のおもなトピックスをご紹介します 2014.04-2015.03 2014 >>> 新入社員74名入社 4 ABeam BIアナリティクス サービスをリリース 分析・解析結果を経営の重要な意 思決定に利用できるようにするとと もに、経営改革・業務改革など企業 力強化に向けた取り組みの支援を 開始しました。 仙台市と共同でアセットマネ ジメントの内部監査プログラ ムを開発、ISO55001認証 取得を支援 5 SAP Training Servicesを 開始 6 富士山での環境活動 団体登録している環境NPO「富士 アビームマレーシアはSAP社のエデュ 山クラブ」の協力のもと、新入社員 富士山麓にお ケーションパートナーとして認定され、 48名を含む83名が、 SAP Training Serviceの提供を開 いて不法廃棄物処理活動、ならび に特定外来種駆除活動を行いまし 始しました。 た。 11 604 グローバルでのコストマネジメントの 設計・構築から導入後のフォローアッ プまでの一連を支援するサービスの 提供を開始しました。 億円 現状分析から改革ロードマップ作成 まで、 企業が継続的に成長していくた めのオムニチャネルリテイリング実現 に向け、構想策定を支援するサービ スの提供を開始しました。 オープンリンク社と協業し、 エネルギー 事業者 (主に電力・ガス会社) 向けに エネルギーバリューチェーン全体の最 適化を支援するコンサルティングサー ビスの提供を開始しました。 チーム・アビーム470級男子 仁川アジア大会にて銀メダ チーム・アビーム470級男子 SAP Gold Partnerとして 全日本選手権にて優勝 認定 ルを獲得 2015年 3月末 アビームマレーシアがSAP社のパート ナーエッジプログラムにおいて、 Gold Partnerとして認定されました。 連結売上高の 推移 2014年 3月末 モンテディオ山形がJ1昇格 決定 当社が経営に参画しているJリーグク ラブチーム、 モンテディオ山形がJ1へ の昇格を決めました。 2013年 マレーシアのペナンに 新オフィス開設 12 グローバル間接材コストマネ オムニチャネルリテイリング エネルギーバリューチェーン ジメント構築支援サービスを 構想策定支援サービスをリ 最適化を支援するため米国 リリース リース OPENLINK社と協業 3月末 570億円 マレーシア全域でのサポートを強化 するため、マレーシア北部での営業 拠点としてペナンオフィスを設立しま した。 547億円 仙台市と共同でアセットマネジメント システムの国際規格ISO55001に 準拠した内部監査プログラムを開発 し、同市の下水道事業の管路部門 による国内初のISO55001認証取 得をサポートしました。 7 8 グローバルネットワーク 9 2015 >>> 11カ国21拠点 32カ国67拠点 ●海外拠点 ●アライアンス拠点 クラウド時代の運用管理ソ 価 値 観 別 消 費 実 態 調 査 「電力・ガスシステム改革対 リューションをリリース 2014を発表 策特命チーム」 を設置 日本全国の約3,000人を対象に、 心 電力・ガスシステム改革に対応する 理学に基づいて設計されたアンケー エネルギー事業者や、同市場への ト調査を実施し回答者の割合を分 参入を検討している企業に対し、事 析した結果、他者追随派(26%) 、 業戦略・テクノロジー・BIを中心とし Implementation and 安定志向派(17%) 、合理主義派 た総合コンサルティングサービス Support Services for (16%) 、おっとり派 (16%) 、懐疑志 「A B e a m E n e r g y S u m m i t "SAP Business 向派(12%) 、 イノベーション志向派 Solution(ABeam ESS)」 の提供を All-in-One" を開始 (10%) 、内向き志向派(3%) という 開始しました。 結果と な り ま した。 アビームマレーシアが、 SAP Business コンカーと間接費管理領域 All-in-Oneの導入支援サービスの提 において戦略的協業を開始 供を開始しました。 「A B e a m I n n o v a t i v e C o s t IIJとクラウド分野において Optimization Solutions」 に、 コン 協業開始 カーのクラウドサービスを加えること で間接費マネジメントシステムの構 アビームコンサルティングの豊富なノ 築を強化し、間接費マネジメントを ウハウ・知見と、 「IIJ GIOサービス」 仕組みとして定着させるための包 を組み合わせることで、業種・業務 括的なサービスを提供いたします。 に合った最適なシステム環境の診 断から設計・導入、運用・保守まで 日本マイクロソフトと戦略的 をワンストップで提供するサービスを 協業を発表 発表しました。 日本マイクロソフト株式会社と、顧 ABeam Template for 客戦略を強化し変革を志向する企 Success Factorsの提供を 業を包括的に支援するため、戦略 開始 的協業を推進することに合意しま した。 従業員基本情報の一元管理を短 Partner Center of Expertise (PCoE)として認定 アビームマレーシアがSAP社より Partner Center of Expertise (PCoE)として認定されました。 4,043名 ABeam Consulting 2015 4,177名 2013年 3月末 社員数の 推移 4,359名 2014年 3月末 2015年 3月末 79.4点 お客様満足度調査結果 ※1 ※2 満足度平均点 6 2 SAP Excellence Awards 中南米地域におけるサービス強化の 2賞を受賞 新時代の運用管理への変革を支援 するクラウド時代の運用管理ソリュー ションの提供を開始しました。 期間・低価格で導入できるサービス 「ABeamTemplate for Success Factors」 の提供を開始しました。 1 Grupo ASSAと協業 ビジネス 継続意向 80.0% ※3 SAP Award of Excellence 2015 2部門を受賞 3 ためアルゼンチンを拠点とするITサー アビームマレーシアがSAP社の 「Excビス企業であるグルッポ アッサ社 ellence Award 2014 Education」 と SAP社の優秀パートナー企業を表 (Grupo ASSA Corp.) と業務提携しま 「Excellence Award 2014 Value- 彰 す る 賞『S A P A W A R D O F した。 added Reseller」 の2賞を受賞しま EXCELLENCE 2015』において、 した。 「ザ・ベスト・リソース・パートナー」 「プ SAP APJ Partner Contribution Award を受賞 モンテディオ山形の2015公 ロジェクト・アワード」の2部門で受賞 しました。 日本を含むアジア地域におけるSAP 式戦用ユニフォームスポンサー ABeam Cloud 提供開始 ビジネスへの貢献度及び顧客満足度 に決定 が著しく高く評価されたパートナー企 豊富な業種・業務ソリューションをス 業として、3年連続で表彰されました。 モールスタートで利用可能なSaaS 型のサービス 「ABeam Cloud」 の提 供を開始しました。 ※1 2014年4月〜2015年3月までの642案件が対象 ※2 満足度を点数化する質問では、 80点以上とする 回答者が70%近くにのぼった。 ※3「中長期的な関係を築くパートナーとして相応しい 企業であると思いますか」 という質問に対して、 「大いに そう思う」 「そう思う」 とした回答者の割合。 ABeam Consulting 2015 7 ABeam Consultingの視点 進化するグローバル化 企業はどのように優位 性を構築すべきか 企業活動のグローバル化は時代とともに進化を繰り返してきました。 現在では、 グローバルスケールを活用しながら ローカル市場への適合を実現する 「グローバル最適」 の状態にまで到達しています。 ─── 進化を続けるグローバル化の中で、 日本企業はどのように優位性を構築すべきでしょうか? 8 ABeam Consulting 2015 1 視点 激化するグローバル競争を 戦うための戦略立案とは 視点 2 3 視点 SCM再構築 グローバル基準への挑戦 圧倒的な競争力を実現する 顧客マネジメントとは 視点 4 5 視点 グローバル戦略を加速させる 次世代の経営基盤 “攻め”のビジネス戦略を 支える会計とは ABeam Consulting 2015 9 ABeam Consultingの視点 1 も不可欠です。 激化するグローバル競争を 戦うための戦略立案とは ビジネスモデル再構成の繰り返しによる 競争優位の積み重ねが 「持続的成長」 の源泉 新興国のマーケットは急速に変化しており、 絶え間ないビジネスモデルの再構成によって“競争優位”を短いサイク ルで積み重ねながら維持していく必要がある。 “勝つべきマーケット”を早期に見極め、 ターゲットとなる“ペルソナ” を特定し、 “リーンに”素早く事業を立ち上げ、嗜好の変化やマーケットの成熟レベルに合わせ、俊敏に自己変革 を繰り返す。 この取り組みこそが企業のグローバル戦略の要点であると、 アビームコンサルティング宮丸正人は語る。 金融業界で社会人のキャリアをスタートし、大型ストラクチャー ドファイナンスの組成や数多くのM&A案件を手がけたほか、 金融上場企業の経営企画部門や経営戦略部門のヘッド を歴任。ブティック投資銀行の取締役CFOを経て、2012 年にアビームコンサルティングに転身。2013年2月から “新” 戦略事業部を立ち上げ、 2014年4月から戦略ビジネスユニッ トを統括する。現在100名を超える戦略コンサルタントチー ムを率いる。 10 ABeam Consulting 2015 き、絶え間ないビジネスモデルの再構 まず、自分たちの「勝つべきマー またビジネスモデルの変更を繰り返 成によって磨きをかけた製品やサービ ケット」を早期に見極め、その地域に していく中では、提供する製品やサー ス、テクノロジー、あるいはビジネス 向けて提供しようとしている商品や ビスを変える外向きの変革だけでなく、 モデルそのものを、先進国のマーケッ サービスに対して、それを必要として 内なる変革も重要になります。それぞ トに逆輸入して成長のエンジンとする、 いる潜在顧客はどういう人たちなのか、 れの地域のレギュレーションや商習慣 「リバース・イノベーション」と呼ば いわゆる「ペルソナ」を特定します。 に適応した効率的なオペレーションの れる新たな変革モデルも注目されるよ 次に「リーンな手法」で事業を立ち上 構築、グローバルに積極的な M&A を うになりました。 げるとともに、顧客ニーズの高度化や 行う中で一貫したガナバンスをどう ウォルマート社が新興国で始めた小 マーケットの成熟レベルに合わせて絶 やって確立していくのか、そこにはど 型店舗の展開形態をアメリカ本国に持 え間ないビジネスモデルの再構成を んな経営基盤が必要であり、IT テク ち込んで成功したり、ゼネラル・エレ 図っていきます。 ノロジーをどのように活用していくの クトリック社(GE)が中国向けに開 か、これらを総合的に実践していくこ 発した携帯型の超音波診断装置が先進 とが必要です。さらには、キーとなる 国でも注目を集めたり、事例は枚挙に 人材についても変革が必要です。グ 暇がありません。 “継続的な変化”が 持続的成長をもたらす 市場そのものが急速に変化していく ローバルに自己変革を繰り返し実行し 単なるグローバリゼーションを超え 新興国において、1つの成功モデルが ていくということは、最終的に自社の た“真のグローバル戦略”を展開して その後も収益をもたらし続けることは 数千人、数万人といった従業員を、全 いく中にこそ、企業はイノベーション 極めて稀です。生活水準の向上に伴う 世界で変化できる人材に育成し活用し による活路を見出すことができるのです。 嗜好・ニーズの変化や市場特性の変容 ていかなければなりません。 興国の市場そのものを成長機会ととら が起こり、成功したモデルそのものが 自社のケーパビリティを高めるため え、顧客を開拓し、市場を創出し、事 時間を置かずに市場の実態にそぐわな に、あらゆる要素をアジャイルに変化 業の成長につなげていくことが求めら くなっていくからです。こうした市場 させて、アジリティを獲得していかな れる時代へと変化しました。 における持続的成長とは、市場の変化 いと、グローバルで勝ち抜いていくこ しかし、そうした市場では欧米系の に応じた「一時的な競争優位」を短い とはできないのです。 グローバル企業はもとより、近年急速 サイクルで繰り返し創出することに に力をつけてきた新興国系のグローバ よって得られるのです。 新興国で磨きをかけた イノベーション力は 先進国での成長エンジンへ シリアル・イノベーターに とっての 「リアルパートナー」 アビームコンサルティングは、日本 発・アジア発の総合コンサルティング ファームとして、グローバルに戦う日 本企業のイノベーションを繰り返しサ ル企業との熾烈な競争を余儀なくされ 顧客の嗜好やニーズの変化をキャッ ています。日本企業はこの競争といか チアップしながら追随していくのか、 に向き合い、これまでのビジネスのや それともターゲットとする顧客そのも ビジネスのグローバル展開を図る、 ノロジー、アウトソーシングの各専門 り方を変えていくべきなのか――。こ のをシフトさせていくのか。場合に 中でも変化の激しい新興国のマーケッ 領域の知見と経験値に加え、企業変革 れがグローバル戦略立案を考える上で よってはその地域から撤退し、自社の トを攻略するとなれば、その戦略の立 を統合する力が生み出す圧倒的なス の出発点になると思います。 製品ポートフォリオやリソースの強み 案から実践にいたるあらゆる局面で、 ピードを武器に、企業ごとのグローバ 中長期的視野に立ち、グローバル市 をより効果的に発揮できる地域に移動 課題と困難に直面することになります。 ル成長を実現します。 場において自社がどのようなポジショ する、といった経営判断も求められま しかし見方を変えれば、これは自社が “ Real Partner for serial かつての日本企業のグローバル戦略 ンを獲得し、イニシアチブを発揮して す。進出した地域固有の特性や事情を 変化するスピードを高めるトレーニン innovator” 、繰り返し変革を実行す は、安い労働力を求めて海外に進出し、 いくことを目指すのか、明確なビジョ 正確に見極めながら、変化に柔軟に対 グとも言えます。成熟した先進国市場 る者(=シリアルイノベーター)に そこで製造・生産した製品を先進国市 ンを描くことは非常に重要です。加え 応していくアジリティ(俊敏性)を身 においては難しいビジネスモデルの再 とってのリアルパートナーであること 場で販売するというモデルが中心でし て、 「個々のマーケットでの戦い方」 につけることが、日本企業のグローバ 構成が、新興国市場では必須のもので が、アビームコンサルティングの大き た。それが現在では、拡大を続ける新 を徹底的に追求し、実行していくこと ル成長においてきわめて重要な要件に す。最近では、新興国マーケットで築 な使命です。 宮丸 正人 執行役員 プリンシパル 戦略ビジネスユニット長 経営企画グループ長 [email protected] なると言えるでしょう。 個々の市場での戦い方を 徹底的に追求して実行する ポートしていきます。グローバル戦略 からオペレーション、プロセス、テク ABeam Consulting 2015 11 2 ABeam Consultingの視点 中本 雅也 圧倒的な競争力を実現する 顧客マネジメントとは “ジャパンクオリティ”の顧客マネジメントが どこにも負けない競争力を実現する グローバル展開を果たした企業にとって、 基幹業務システムの整備に続くステップとして課題となるのが、 営業やマー ケティング、 カスタマーサービスなどの強化を目的としたCRM (Customer Relationship Management) の導入であ る。 その成否の鍵を握るのは、 あらゆる拠点や部門を横串で貫き、一貫した基準のオペレーションやサービスを 提供する顧客マネジメントだ。 世界でも際立った“ジャパンクオリティ”の顧客対応を実践していくことで、 日本企業 はかつてない競争力を獲得できると、 アビームコンサルティング中本雅也は語る。 執行役員 プリンシパル 製造ビジネスユニット長 [email protected] 情報機器メーカーにて、製造業、流通業、サービス業などに対する システムコンサルティングの実績および営業として4期連続トップセー ルスの経験を持つ。1999年より外資系大手コンサルティング会社 に転じ、製造業・流通業をはじめ、 サービス、金融、 エネルギー、鉄道、 官公庁などのお客様に対して200件以上のコンサルティングを手 がける。2010年にアビームコンサルティングに入社し、事業戦略 や業務改革はもとより、CRMの第一人者として顧客マネジメントや 営業マネジメントを中心としたコンサルティングを担当。各種団体や 大学院などでの講演・講義、雑誌・TVの取材や書籍の執筆でも活 躍している。 ンポイントとなり、顧客離反の原因と たある海外メーカーは、進出した国や タッチポイントは急速に多様化してい なりかねません。 地域に十数年にわたって自社の駐在員 ます。企業もまた、プライバシー保護 を住まわせ、現地の文化や嗜好を深く の問題を除けば、顧客の位置情報や商 学ばせ、顧客ニーズを正確かつ詳細に 品購買の履歴など、一人ひとりの行動 掴んだ製品を展開することでシェアを を詳細な粒度かつリアルタイムで把握 その意味でも、現在の企業活動に 伸ばしてきました。彼らのこうした努 できるようになりました。 とって「カスタマーエクスペリエンス 力やバイタリティは賞賛に値し、高く 顧客対応を含むサービス品質が ブランド力を決定づける (顧客経験価値) 」の向上が、ますます の進展といったイノベーションに伴い、 重要なキーワードとなっています。常 ただし、それはあくまでも製品仕様 企業は今後ますます大量のデータを獲 固めることでした。そして現地での活 重視しなければならないのが、グロー に顧客の目線に立ち、どの国どの地域 レベルでの顧客ニーズの把握でした。 得することが可能になると予想されま 動が軌道に乗るようになると、営業や バルを視野に入れ、あらゆる拠点や部 においても、あるいはどの部門の担当 これに対して日本は、おもてなしや真 す。 マーケティング、カスタマーサービス 門を横串で貫いて統合された顧客マネ 者であっても、一貫した基準の対応が 心、誠意といった概念に象徴される、 すなわち、こうしたビッグデータを 昨今、製造業はもとより物流サービ といった業務領域での機能強化が求め ジメントの実現です。裏を返せば、現 できなければなりません。そのために 世界でも際立った高品質の顧客サービ 的確に収集・分析し、そこから得られ スなどあらゆる業種において企業のグ られるようになります。これがここ数 在のビジネス現場では、顧客マネジメ もグローバルで顧客情報を統合し、拠 スを提供してきた歴史と土壌を持って た顧客の潜在ニーズやマーケットに対 ローバル化が注目されていますが、こ 年の大きな動きであり、ビジネスの根 ントの未熟さに起因するさまざまな問 点や部門ごとにまちまちだったオペレー います。この“ジャパンクオリティ” する知見を“ジャパンクオリティ”に れらの企業にとって当初の課題は、生 幹でもある顧客対応、いわゆる CRM 題が生じています。 ションやワークフローをすり合わせ、 に基づいた顧客マネジメントをグロー 基づいた顧客マネジメントに反映し、 産管理や販売管理、会計など、基幹業 に対する投資が活発化してきました。 例えば自社製品を使っている同一顧 顧客(アカウント)をしっかりグリッ バルに展開できれば、どんな企業にも さまざまなビジネス現場でのオペレー 務システムの整備によって経営基盤を この取り組みを成功に導く上で最も 客に対して、カスタマーサポート部門 プしていく必要があります。企業のブ 負けることはありません。まさにこれ ションやサービスに体現していくこと が保守契約の延長を勧める一方で、営 ランド力は製品の良し悪しだけでなく、 こそが、アビームコンサルティングが で、日本企業はグローバル市場におけ 業部門は新製品へのリプレースを勧め 顧客対応も含めたトータルなサービス 提 唱 す るCRMソ リ ュ ー シ ョ ン、 る競争優位性を高めることができるの るといった、ちぐはぐなアプローチを 品質によって決定づけられるのです。 「ABeam Customer Focus」のあり 顧客マネジメントの未熟さは 顧客離反の原因となる 顧客経験サイクル(シュリンプモデル) 営業・販売 認知 情報探索 マーケティング 購買前評価 購 買 後 買 価 評 オプション 利用 顧客サービス ABeam Consulting 2015 /契 約 利用 再購入・ 再契約 購 離反 12 評価すべき点があります。 ウェアラブルデバイスの普及、IoT しているケースがよくあります。また そして、こうした顧客マネジメント 最重要顧客に対して、日本国内のサー の強化こそが、日本企業がグローバル ビス網では丁寧な対応を徹底している 競争に打ち勝っていくための最大の武 にもかかわらず、海外窓口ではその顧 器になるのです。 方なのです。 多様化する顧客タッチポイント デジタル戦略がCRM推進の核へ です。 このノウハウと実績を有しているの はアビームコンサルティングの他にあ りません。日本生まれのコンサルティ ングファームとして“ジャパンクオリ 日本企業は昨今、グローバル市場で CRM を推進していく上での核心と ティ”を熟知した私たちだからこそ、 うな対応をしているケースもあります。 競合する海外勢に対して「マーケティ なるのが「デジタル戦略」です。ソー 真のパートナーとなって CRM 推進を 顧客に不信感を抱かせたり、期待を ング力で負けた」と言われています。 シャルメディアやスマートフォンの普 サポートしていけると自負しています。 裏切ったりする、こうした対応はペイ 実際、グローバル市場で急成長を遂げ 及により、顧客が企業にアクセスする 客が誰なのかもわからず、一見客のよ ABeam Consulting 2015 13 販売 ABeam Consultingの視点 SCM再構築 グローバル基準への挑戦 めています。 アビームコンサルティングの前身、 トーマツ トウシュ・ロス コンサ ルティングに入社。当時は主たる専門領域が会計領域だったこ ともあり、財務会計・経営管理など会計分野のコンサルティング に携わる。2003年から日系大手消費財メーカーの大規模なグ ローバル展開プロジェクトに参加し、 グローバルSCM構築を支 援する。それを契機にグローバルで活躍する日本企業のグロー バル経営基盤展開をサポートする業務に多数従事してきた。 2015年4月にSCMセクターへ異動。 ABeam Consulting 2015 欧米グローバル企業が国や地域の枠 組みを超えてサプライチェーンを標準 購買 には2つの重要な要件があります。ま ず1つ目は“可視化された PSI 情報” 日系グローバル企業の多くは、進出先の各国市場における事業の運用効率を高めるために、 多額の投資を行っ てSCM(サプライチェーン・マネジメント) の仕組みを個別に構築してきた。 しかし各国の市場が世界規模に拡 大するにつれ、 日本企業のSCMはグローバル連携ができず、 徐々に機能不全に陥っていく。 いつしか競合する 欧米企業だけでなく、新興国企業にも後塵を拝するようになってしまった。 グローバル基準のSCMを再構築す るために必要な着眼点とは。 アビームコンサルティング富田雅樹が解説する。 グローバルSCMで 遅れをとる日本企業 生産 グローバル基準の SCM を実現する グローバル基準のSCMを再構築 日本企業にとっての着眼点とは 執行役員 プリンシパル プロセス&テクノロジー第3ビジネスユニット SCMセクター 公認会計士 [email protected] 需給 い直し、再構築に向けた取り組みを始 (サプライチェーンを最適化する調達・ 富田 雅樹 14 3 企業の価値創造を支える サプライチェーンの 全プロセス 物流 生産・販売・在庫情報)が必須です。 サプライチェーンを実現するために必要な4要素 戦 略 業務プロセス 組織・人材 ITシステム この実現ができて初めてグローバル SCM が 成 立 し ま す。グ ロ ー バ ル SCM は、グローバルレベルの PSI 情 ある需要予測の IT、倉庫管理の IT な を業界全体で共有することで、国内市 報を基本としてオペレーションしてい ど、あらゆる IT を組み合わせて全体 場への安定供給に成功したのです。こ くことが重要です。そのためには PSI 最適化することで、サプライチェーン れは、グローバル SCM がリスクマネ 情報の基礎となるグローバル経営基盤 全般をコントロールすることが可能に ジメントの観点で大きな役割を果たし を展開することが鉄則です。 なります。 た好例です。 期待される リスクマネジメント機能 ITと業務の双方への理解が 再構築を成功に導く このグローバル基盤展開において、 KPI、コード、業務プロセス、ルール の“4つの標準化”は必須の作業です が、この推進にあたってはグローバル グローバル SCM では、リスクマネ ここ2~3年は、IT のさらなる進展 SCM 実現に向けた考慮すべきポイン ジメントにも留意しなければなりませ によってサプライチェーンの世界が大 は徐々に後れをとるようになりました。 トが含まれています。納期遵守率や歩 ん。従来の SCM は主にコストの最適 きく様変わりしています。かつては電 日本企業は国内市場で築き上げた 留まり率といった KPI、品目や得意先 化が重視されていました。しかし東日 話やメールで情報をやりとりしていた SCM を海外でも適用しようとしまし を表すコード、売上金額や在庫の計 本大震災やタイの洪水によって、全世 のに対し、いまはあらゆる情報が自動 たが、緻密かつ複雑な日本の仕組みを 上・カウントのルール、生産・販売・ 界のサプライチェーンが大きな影響を 的にやりとりされ、リアルタイムで状 海外で運用することが難しかったので 物流の業務プロセスなどの SCM 標準 受けたこともあり、今後はサプライ 況確認することが可能になりました。 す。例えば日本の SCM を米国のよう 化をグローバルで徹底することです。 チェーンの中に異なるロケーションの 数週間前の販売データを使って調達・ な先進国に持っていったとき、個別に 例えば各国で同じモノを作っていて 代替サプライヤーを用意しておくと 生産・在庫計画を立てていたものが、 米国の要件に修正して適用することは も、品目コードが違えばそれを同じモ いった、リスクを回避するための取り リアルタイムにシミュレーションを実 できましたが、アジア全体に横串で適 ノとは見なせません。そこで素材や部 組みが重要になってきます。 施し、最適なときに最適なモノを最適 用しようとすると、日本の SCM では 品、商品や製品といった品目コードを 例えば、ある大手化学メーカーでは 負荷が大きすぎて運用し切れなかった 標準化することで、グローバル全体の 東日本大震災でサプライヤーの工場が 速に下せるように進歩しているのです。 のです。 取引情報が見えてきます。標準化に取 被災し、素材が調達できないという事 ただし、グローバル SCM は IT だ り組み、グローバル PSI 情報が可視化 態に陥りました。そのサプライヤーは けで解決できるものではありません。 されて初めて、グローバル SCM が成 国内で素材を生産する唯一の存在だっ ITと業務の双方への理解が必須であり、 り立つわけです。 たため、業界全体の事業継続も危ぶま IT システムを構築しながら業務プロ 2つ目の要件は“全体最適化のため れました。この危機的局面を救ったの セス全体の見直しと改革に取り組まな 求められる2つの要件 “可視化されたPSI情報”と “全体最適化のためのIT” な場所で生産・在庫する経営判断を迅 化し、各国・各地域で役割分担を行い だからといって、手をこまねいてい の IT 利 用”で す。グ ロ ー バ ル SCM が、大手化学メーカーのグローバル ければなりません。この IT と業務の ながらモノづくりするグローバル るわけにはいきません。多くの日系企 を実現する上で、IT の活用を抜きに SCM です。グローバルで標準化され 両方に精通しているところが、アビー SCM(サプライチェーン・マネジメ 業がいま、グローバル基準の SCM の しては語ることができません。グロー たコード体系の中から同じ素材を生産 ムコンサルティングの強みだと自負し ント)へと移行を果たす中、日本企業 あり方とはどういうものかを改めて問 バル経営基盤という IT、その周辺に している中国の企業を探し出し、情報 ています。 ABeam Consulting 2015 15 ABeam Consultingの視点 4 中野 だからこそ、会計数値の精度 “攻め”のビジネス戦略を 支える会計とは をいかに高めるか、グローバルでの同 質性をどうやって担保するか、即時性 をどう実現するかといったことが、高 度化を進める上で今後ますます重要な 課題となります。経営者が正しい数値 会計はグローバル経営を読み解く共通言語 高度化が“攻め”のビジネス戦略を支える をより迅速に見ることができるように グローバル化に伴い、各企業は国際財務報告基準 (IFRS) に代表される法制度への対応や、海外の各拠点に 対するガバナンスの確立が急務となっている。 さらにビジネス環境の変化に迅速に対応し、競争に打ち勝ち、企 業にダイナミズムをもたらす「 、グローバル会計の高度化」 が求められている。 “攻め”のビジネス戦略を支える会計を、 アビームコンサルティング中野洋輔と矢野智一が語り合った。 の信頼を得るなど、グローバルで事業 なれば、地球の裏側の現地法人のビジ ネス状況もつぶさに把握することがで き、 “攻め”のビジネス戦略を実行で きます。グローバルな会計基盤は世界 でビジネスを展開する企業として株主 矢野 智一 執行役員 プリンシパル ビジネスユニット長 プロセス&テクノロジー第1ビジネスユニット FMCセクター長 [email protected] 執行役員 プリンシパル プロセス&テクノロジー第1ビジネスユニット FMCセクター [email protected] 1996年にアビームコンサルティング入社以来、会計・ 財務のプロフェッショナルとして、製造、流通、金融、 サー ビス、公共機関など、 あらゆる業界のお客様に対するコ ンサルティングに従事。また、ERPを中心とした基盤導 入の大規模プロジェクトにも携わってきた。FMCセクター 長としてアビームコンサルティングの会計部門を統括す るとともに、2015年4月にはアビームコンサルティング 中国のマネージングディレクターに就任。 1998年にアビームコンサルティングへ入社。米国で会 計コンサルタントとしてのキャリアをスタートし、帰国して からも製造業、商社、金融など、 あらゆる業界のお客様 へのコンサルティングに従事。 プロジェクトマネージャーと してもグローバルプロジェクトでのリーダーシップを発揮 するとともに、会計情報の統合・分析、活用や会計業務 プロセスの標準化などにも専門的な知見を持つ。 を推進していくための必須要件と考え グローバル会計基盤の海外展開です。 なく評価できるようにするのか。それ ています。加えて、将来を先読みしな 月次の決算結果に対して経営の意思決 ぞれの国や地域固有の法規制や税制に がら先手を打つ“攻め”のビジネス戦 定を行っているものが、週次での決算 対応することに加え、グローバル全体 略を支える環境づくりが高度化によっ 処理と意思決定が可能になるのです。 で最適化された財務会計、管理会計、 矢野 しかしながら、一方ではシス 税務のオペレーションを実現していく テム導入さえすれば会計が高度化する ための業務プロセス改革も重要です。 といった単純なものではありません。 プロセス改革に対する具体的なソ 会計の高度化には、お客様の業務プロ リューションとして、IT の活用を検 て可能になるのです。 独立しており、少しでも日本に収益を 摘され、巨額の追徴課税を請求される グローバル会計の高度化に 求められる要件 還元してくれるようになれば幸いとい 事態が起こっています。それぞれの国 ――企業がグローバル会計を高度化す セス全体を含めた改善や対応が必要に 討することになります。あるいは社内 う位置づけにあったように思います。 や地域の税制や法制度を理解し、最低 るには何を達成する必要がありますか。 なる場合が少なくありません。例えば のリソースで対応しきれない場合は、 ――企業活動のグローバル化が進むに それが現在では、状況が一変していま 限のガバナンスをきかせておかないと、 矢野 会計が共通言語であるために 海外工場の原価計算方法の策定にあた 経理業務や企画業務などをアウトソー つれ、企業の事業リスクは従来と比べ、 す。たった1つの海外拠点で起こった グローバル経営は成り立ちません。 は、その基準やルールが統一されてい り、部品表の見直しが必要なことが判 スすることも考えなくてはなりません。 どのように変化していますか。 事象が、グローバル全体の経営に大き 中野 会計はまさにグローバルの ること、そしてそれを処理するプロセ 明する場合があります。そしてその解 中野 その意味でも、グローバル会 な影響を及ぼす、そんな時代になって “共通言語”ということを実感してい スが標準化されていることが必要です。 決のために、お客様の業務プロセスを 計の高度化を支援するコンサルタント ます。簿記の仕訳を見れば、いつ、ど 例えば売上を計上する金額やタイミン 一つひとつ紐解きながら、問題点を見 が担うべき役割はますます大きく、重 こで、どんな事象が起こったのか、企 グは各国で同じ基準であるはずですし、 つけ出し、あるべき形に組み立て直す 要になっていると考えます。企業の中 業活動のすべてを把握できます。会計 値引きの処理方法についても同様のは ことが必要になる場合もあるのです。 長期の成長戦略を描いていく構想力や、 によって、グローバルビジネスを1つ ずです。また同じ製品の製造原価に算 に束ねて語ることができるのです。 入する費目は世界中どこで製造しても グローバル化の進展に伴う 事業リスクの顕在化 中野 日本企業にとって海外進出は いるのです。 珍しいものではありませんが、多くの 矢野 実際、海外拠点で当局から指 場合、そのビジネスは各国や各地域で ステークホルダー 会計関連サービス 企業活動 ・キャッシュマネジメント ・ トレジャリーマネジメント ・グループ資金管理 ・キャッシュフロー管理 ・取引先与信リスク管理 ・為替リスク管理 財務 SCM ・グローバル経営 基盤構築 ・業種別会計対応 ・国別会計対応 ・業務効率化 ・業務標準化 ・業務プロセス ・ベンチマーク 16 中野 洋輔 ABeam Consulting 2015 プロ セス 評価 会計 オペレー ション ・グローバル原価管理 ・SSC導入 ・経理BPO ・経理組織最適化 ・移転価格・間接税 ソリューション ・海外拠点業務設計 ・PMI 企業 業績 企業 リスク ・内部統制構築 ・内部統制評価 ・規定類整備 ・ガバナンス強化 ・リスクアセスメント ・不正防止ソリューション ・KPI規定 ・予算制度高度化 ・経営コックピット構築 ・決算早期化 ・決算期統一 ・IFRS導入方針・実行計画策定 ・連結経営ソリューション ・BI構築 ・ビッグデータ活用 ・バランススコアカード その時々の局面を乗り切るための施策 矢野 さらに言うと、会計は企業経 同じであるはずです。この統一性・標 営者のための計器盤だと思います。ス 準化がグローバルレベルで達成される 多方面に広がる検討項目と 重要度を増す コンサルタントの役割 ピードメーターがない自動車ではまと ことは、会計高度化の必須要件です。 ――グローバル会計の高度化のために ません。こうした考えからアビームコ もに運転ができないのと同じで、経営 中野 そしてスピード、これがグ は、検討すべき項目が多方面に広がっ ンサルティングでは、コンサルタント 者や CFO にとって、会社の実態を把 ローバル会計の高度化にとって最重要 ていくのですね。 の人材育成に注力しています。一人ひ 握し意思決定を行うために不可欠な です。統一性と標準化の担保により、 矢野 必然的にそうなります。企業 とりの能力の向上こそが、お客様に対 ツールです。会計の数値を見ることで、 グローバルレベルの会計基盤システム 業績やリスクをどのような仕組みに するより大きな貢献につながると確信 正しい舵取りを行うことができます。 化をさらに推し進めることができます。 よって可視化し、本社からタイムラグ しています。 を打ち出せる経営者としてのセンスを 備えたコンサルタントでなければ、顧 客企業を的確にリードすることはでき ABeam Consulting 2015 17 ABeam Consultingの視点 5 小山 和久 グローバル戦略を加速させる 次世代の経営基盤 グローバル戦略を加速させる スピードと柔軟性を備えた経営基盤 これまで多くの日本企業は、 進出した国や地域の各拠点に対してガバナンスをきかせるための仕組みや基盤づく りを課題としていた。現在では、 その基盤の上でいかに現地マーケットを開拓していくのか、新しいビジネスモデル を展開していくのかといった“攻め”のビジネス戦略へと舵を切り始めている。 そうしたグローバル戦略を加速させ る次世代の経営基盤にはどんな要素が求められるのか。 アビームコンサルティング佐々木信寛と小山和久が語り 合った。 “攻め”への転換が起こりつつあると 言えます。 佐々木 これまでは日本から海外の 各拠点をコントロールし、ガバナンス 大手総合電機メーカーにおいて、 アジア、米国、 メキシコなど主 に海外でのBPRやシステム導入を担当してきた。その後、米 国のソフトウェア会社に転じてソフトウェア開発エンジニアとし て活動。2004年にアビームコンサルティングへ入社してから は日本企業の海外進出およびグローバル経営基盤構築を主 にサポートしている。 18 ABeam Consulting 2015 佐々木 海外マーケットは刻々と動 いています。ある国への進出が決まれ ば、時間をかけてはなりません。競合 益率)を上げられない。要するに、買 しています。ある家電メーカーの例を 他社に対抗策を考えさせる余裕を与え 収した企業のポテンシャルを思ったよ 挙げると、インドへ進出するにあたっ るだけですから。新たな戦略をいかに うに活用できていないケースをよく目 て当初は、 “地産地消”のマーケット 短時間で実行に移すことができるか、 にします。 開拓を考えていました。ただ、収益が 佐々木 買収先が欧米系資本の企業 成り立つようになるまでには相当な時 だった場合など、これまで日本国内で 間がかかることから、まずは欧州市場 行ってきたオペレーションやマネジメ に向けた生産拠点にしようという方向 佐々木 確かに、 “攻め”のビジネ ントを導入しようとしても、 「なぜそ にビジネス戦略の舵を切りました。そ スモデルに対応したグローバル経営基 んなやり方をするのか」と根掘り葉掘 うなると、従来から想定していたイン 盤をクイックに立ち上げたい、グロー り聞かれて、なかなか納得してもらえ ド国内での販売プロセスだけでは不十 バルマーケットからの要求に対してク ません。自分たちがやってきた方法こ 分で、輸出プロセスも経営基盤に組み イックにマネジメントモデルを適用し そがベストだと思っているだけに、素 込んでいかなければなりません。 たい、という要望が増えています。 直に言うことを聞いてくれないのです。 アジリティが勝負を左右します。 小山 そこがまさに、お客様が最優 先で取り組みたい課題のようです。 営基盤にはフレキシビリティが大切で ました。それが現在では、その基盤の す。実際、欧米系の企業に限らず、グ ――グローバル戦略を加速するために、 上で進出先でのビジネスをいかに拡大 ――“攻め”のグローバル戦略を展開 ローバル市場で先行し、成功を収めて 柔軟性の他に経営基盤に取り入れるべ していくのかといった、より高次の課 していく上で、企業は具体的にどんな きた企業のオペレーションやマネジメ き要素はありますか。 題にシフトしてきています。 壁にぶつかるのでしょうか。また、そ ントには見習うべき点がたくさんあり 佐々木 TOTO 様の事例では(21 れを支える経営基盤に求められる要素 ます。ならば、彼らのやり方やナレッ ページ参照) 、海外生産拠点の中で最 とは何でしょうか。 ジを、逆に自分たちのグローバル経営 大規模を誇り、なおかつ経営基盤を効 小山 そうです。例えばあるグロー 執行役員 プリンシパル 製造ビジネスユニット [email protected] への展開も検討しているところです。 臨機応変な戦略転換に対応する 柔軟なマネジメントモデル をいかに構築するかが課題となってい 新たなビジネスモデルを迅速に 展開するグローバル経営基盤へ シンクタンクにおいて、主に全社業務改革およびSAP ERPシステ ムのグローバル導入支援などを手がけてきた。2002年にアビーム コンサルティングへ入社してからは、総合商社やハイテクメーカーを 中心とした製造業の全社業務改革、 グローバル経営基盤の構築、 CRMをベースとした業務改革、ITシステム導入、 ロールアウトなどを 担当している。 グローバルレベルの標準化と ローカライズとの最適化 をきかせることを目的とした経営基盤 佐々木 信寛 執行役員 プリンシパル 製造ビジネスユニット ハイテクセクター長 [email protected] バルハイテク製造業のお客様は、東南 小山 その意味でも、グローバル経 アジアで物販事業に加え情報システム 小山 新しい国や地域に進出して 基盤に取り込んでいくという柔軟な考 果的に活用してきた実績を持つインド などの SI 事業もセットで提供し、さ マーケットの拡大を図るにせよ、新し え方もあると思うのです。すでにグ ネシアの合弁会社の業務プロセスを標 ――グローバル戦略は重要な経営課題 らに保守まで含めたトータルなサービ いビジネスモデルを展開するにせよ、 ローバルで実績のあるオペレーション 準テンプレート化してインドに展開す となっていますが、近年その取り組み スビジネスを開発、新たな収益基盤を 現地に何の実績もないところから事業 やマネジメントであれば、それらを別 るという方法により、迅速な対応を実 に変化は見られますか。 確立しました。そしてそれをグローバ を立ち上げるのは困難であり、時間も の国や地域に展開する際にも周囲の納 現しました。併せてインドやタイへの 小山 グローバル化の目的は企業に ル経営基盤上に構築することにより、 かかります。そこで、例えば M&A に 得が得やすいはずです。 展開ではローカルの特性を加味しなが よって異なりますが、最近の大きな流 収益性の高いビジネスモデルを他の東 よって足場を築くこともあります。と 佐々木 フレキシブルなグローバル れとしては、足元を固めるところから 南アジア諸国へも展開したほか、南米 ころが、想定した ROE(株主資本利 経営基盤の重要性は、私も非常に痛感 ら最適化しました。 小山 そうですね。標準テンプレー ABeam Consulting 2015 19 CASE STUDY 導入事例 TOTO株式会社 グローバルマネジメントモデル Plan Do 生産性向上 情報の可視化 業務プロセス コード 事業視点 ルール 経営層 組織視点 管理層 業務視点 計画/実績データ 販売 生産 会計 在庫 購買 “標準テンプレート”の戦略的活用により 迅速かつ最適なグローバル経営基盤を実現 など Action Check 決定 評価・分析 KPI 実務層 管理レポート 顧客別 ビジネスユニット別 商品別 組織別 など TOTO株式会社(以下、TOTO)は、 の設計」 「全世界のビジネス状況をリ 標準テンプレートを用いて構築さ 海外事業の強化に向け、グローバル経 アルタイムに可視化」の3つの構想を れたグローバル経営基盤システムはま 営基盤システムの整備を進めている。 描いて臨んだ。 ず、工場が建設中であったインドに導 アビームコンサルティングは、グロー しかし、具体的な要件定義や仕様 入された。インドでは税制や商習慣が バルに適応できる経営システムの「標 策定を進めるうえで、社内には各グ 複雑であるが、地域の特性を活かしな 準テンプレート」を構築、さらに各拠 ローバル拠点の業務に精通し、標準と がらグローバルにおける標準化のノウ 点への最適化も図るなど、TOTOの迅 なる業務プロセスやコードを検討でき ハウを持つアビームコンサルティング るメンバーは少数であった。また、建 は、スムーズかつ迅速な導入を実現し 設中のインド工場の稼動に間に合わせ た。この成果を踏まえ、同年にはタイ ることが求められるなど、時間的な制 へのシステム導入も行われた。大規模 約もあった。 デモの影響などもあり、一時は稼動の トだけではうまくいきません。現地の 解したうえで直面しそうなリスクを予 小山 まさにそのとおりで、そもそ 法制度や商習慣に合わせたカスタマイ 見し、それをヘッジしながらグローバ もグローバル経営基盤とは何かという 速なグローバル展開を支援している。 ズが不可欠です。特にインドはブラジ ルレベルの標準化とローカライズを最 と、グローバルレベルで PDCA サイ ルと並んで世界で最も税制が複雑な国 適化させたフレキシブルなグローバル クルを実現するためのマネジメントモ だけに、多くの企業が苦労しているの 経営基盤を構築していく必要がありま デルにその本質があります。具体的に 海外住設事業の目標を達成する グローバル経営基盤システムの 整備が課題 ではないでしょうか。 す。ただ、ここで誤解していただきた は、全社・事業・地域・拠点単位で管 佐々木 現地の事情を知らずに進出 くないのは、 “フレキシビリティ”と 理すべき重要な指標となる「KPI」 、 く の 歴 史 を 持 ち、業 界 を 牽 引 す る すると思わぬ損失を招くことがありま は決して“場当たり的”ではないとい 業務上のルールを具体的な処理手順と TOTO。同社は長期経営計画において、 す。例えば物流倉庫を配置する際にも、 うことです。特に“攻め”のグローバ して詳細定義した「業務プロセス」 、 成長の柱である「海外住設事業」の目 インドネシアの合弁会社であるSTI に把握できるようになり、適切な販売 交通インフラや地理的なメリットだけ ル戦略においては、それによって何を 個々の品目や組織などを識別・分類し 標として、売上1,580億円、営業利益 (P.T.SURYA TOTO INDONESIA) 施策などを推進することが可能になっ 220億円を掲げている。その実現のた が運用している既存のSAP ERPシス た。さらに、グローバル経営基盤シス めに重要となるのが、TOTOが5つの テムをベースに、標準テンプレートを テムは本社で集中的に運用・管理され リージョン(米州、中国、アジア・オ 策定する方法を選択。STIの業務に最 ているため、各拠点での運用負荷が大 セアニア、欧州、日本)に区分した海 適化して実装されている業務プロセス 幅に軽減している。 外拠点でのグローバル経営基盤システ から、グローバル標準として採用でき ムの整備である。SAPをベースとし る部分などを精査。約2カ月半の期間 グローバルでの機動力と各地域への対 たグローバル経営基盤システムの構築 をかけて業務プロセスの精査、システ 応力で、TOTOの世界22拠点へのグ を伴うこのプロジェクトに、同社が ム評価を実施した結果、グローバル標 ローバル経営基盤システムの迅速かつ 準テンプレートの構築が完了した。 最適な展開を支援していく。 を考えていたのではだめです。そもそ 実現するのか、明確なビジョンを描い て体系化した「コード」 、グローバル も州ごとに税制が違いますし、物を動 ていなければなりません。 で統一すべき要素の方針を定めた 衛生陶器メーカーとして100年近 かすだけで課せられる物品税や、州を 佐々木 さらに言えば、まずはビジ 「ルール」 、これら4つの標準化項目な またいだ販売に課せられる越境税など、 ネスを立ち上げて“走りながら考える” らびにこれを支える共通アプリケー 何重もの税負担を背負うことになって というビジネス推進スタイルだけでは ションと IT インフラからグローバル しまいます。裏を返せば、そうしたイ 通用しないと肝に銘じておく必要があ 経営基盤は構成されます。 ンド事情に精通した豊富な経験と知見 ります。グローバルレベルでの経営改 佐々木 その整備と統一がなされて を持っていたからこそ、的確にご支援 革や“攻め”のビジネス戦略の成否の いないと、グローバルレベルでマネジ パートナーとして選んだのがアビーム することができました。 鍵を握るのは、国内外のあらゆる拠点 メントモデルを実践することはきわめ コンサルティングである。 小山 進出先の政府が用意した優遇 を横串で貫いた情報の可視化の即時立 て困難になります。アビームコンサル 税制に安易に飛びついて失敗するケー ち上げと、目標達成に近づくためにク ティングは国内外で手がけてきた多く スもよくあります。指定された場所に イックな「グローバル標準プロセスの のプロジェクト経験のノウハウを抽出 工場を立ち上げたところ、周囲の治安 適用と現地ビジネスモデルとの最適化」 し た う え で 体 系 化 し た「ABeam の悪さから駐在員の活動に支障が生じ にあります。これによって初めて、変 Method」を活用し、お客様の経営課 たり、働き手を集めるのが非常に困難 化が激しいグローバルマーケットにお 題と常に密着しながら変革実現までの だったりといったデメリットに後から いて、より正確かつタイムリーな経営 一連の取り組みを“グローバル・ワン 気づくのです。現地の環境や特性を理 判断が可能となるのです。 チーム”でご支援します。 ロ グ TIN され、TOTOとアビームコンサルティ ングの両社は「すべてのグローバル拠 点の業務に適用可能な標準テンプレー トの策定」 「本社から各グローバル拠 点を横串で管理するためのKPIツリー 7カ月という短期間で導入を完了した。 先行して導入したインドとタイの そこでアビームコンサルティングは、 グローバル展開を加速する 標準テンプレートを迅速に構築 2012年4月にプロジェクトが開始 延期も検討されたが、予定通り、実質 地域の特性を 最大限に生かしたローカライズ 両拠点では、経営情報がリアルタイム 今後もアビームコンサルティングは、 ー バル ルアウトチーム ロー アビーム本社 アビームインド (JKT) アビームタイ Step2 インド拠点へ導入 機能性・適合率を向上 2013年2月 - 2014年1月 (11ヵ月) TMT Step3 タイ拠点へ導入 2013年11月 - 2014年7月 (8ヵ月) STI ・調 分析 査 アビームインドネシア Step1 インドネシア拠点既存システムの 分析・調査とテンプレート化 この導入事例の詳細はホームページをご覧ください。 http://jp.abeam.com/collaterals/toto.html 20 ABeam Consulting 2015 ABeam Consulting 2015 21 経営を迅速化・柔軟化するための クラウドサービスの利用について 多くの企業が論理的には理解しています。 しかし、 その一方で十分な活用に至っていないという 現状がそこにはあります。 クラウド活用のために考慮すべき点 さらに現場から見た“乗り越えるべき課題” などについて解説します。 [特集] 戦略的クラウド活用 Part1 [特別対談]ビジネスにイノベーションをもたらす クラウドの戦略的活用とは? Part2 クラウド利用によって発生する弊害とその解決アプローチ Part3 成功するクラウド活用のための3つの要件 22 ABeam Consulting 2015 ABeam Consulting 2015 23 戦略的クラウド活用 Part 1 [特別対談] ビジネスにイノベーションをもたらす クラウドの戦略的活用とは? ――まずはクラウド利用に対する企業の動向を教えて ください。 桔梗原 クラウドはもはや迷うものではなく、 “使っ て当然”のものになりました。新しいシステムを構築す る際、まずクラウドを検討する、いわゆる「クラウド ファースト」の考え方も定着してきたように思います。 戦略的クラウド活用 桔梗原 富夫 氏 日経BP社 イノベーションICT研究所長 赤石 朗 アビームコンサルティング プロセス&テクノロジービジネスユニット長 「クラウドファースト」が定着する一方 依然としてセキュリティに慎重な姿勢も 特集 日経BP社の執行役員でありイノベーションICT研究所長を務める桔梗原富夫氏と アビームコンサルティング赤石朗が語り合った。 か。また、それによって企業はどんなメリットを得るこ ベースとなっているのはクラウドです。クラウドがあっ とができるのでしょうか。 て初めて多様なデータがつながり合い、新しい価値を生 赤石 先日、ある製造業のお客様を訪問する機会があっ み出すことができます。その意味でも、クラウドこそが たのですが、そこで盛り上がったのが、 「バリューチェー プラットフォームととらえる考え方は、まさに当を得て ンのすべてがクラウドでつながり、ありとあらゆるデー いるようです。 タを共有できるようになったら、需要予測も不要になる しかしその一方で、依然としてクラウドの戦略的活用 クラウドは企業にかつてない新たな価値を生み出すとともに ビジネスモデルそのものを変えていく原動力となる。 これこそがクラウドの戦略的活用にほかならない。 また、 そのイノベーションに向けた取り組みを支えるべく クラウドを提供する側はどのような役割を担っていくべきなのか。 たちの生活に大きなインパクトをもたらしていますが、 のではないか」という話です。 に二の足を踏む企業があるのも事実です。子会社の日経 極論かもしれませんが、企業の先にいるお客様や取引 BP コンサルティングで数年前からクラウド利用動向の 先まで、すべてのステークホルダーの動きを正確なデー 定点観測を続けているのですが、企業が不安を感じる項 タに基づいて、なおかつリアルタイムに把握できるよう 目の第1位は相変わらず「セキュリティ」です。 になれば、例えば「適正な在庫量を算出するために知恵 赤石 やはりそうですか。大規模な情報漏えい事件が を絞る必要はなくなる」というのは、まさに正論だと思 たびたび起こり、世間を騒がせているだけに、企業はセ うのです。同じ知恵を絞るのであれば、自社の製品やサー キュリティに神経質にならざるを得ないようです。 ビスの差別化のために力を注いだほうがはるかに有益で ただ、そうした情報漏えいが起こった状況をよく見て みると、ハッキングされているのは多くの場合、社員の 個人 PC などのエンドポイントです。クラウドそのもの はインフラからアクセス回線まできわめて厳重に保護さ す。さらに言えば、クラウドを活用することでビジネス モデルそのものを変革することも可能となります。 桔梗原 それこそがクラウドの戦略的活用で実現する、 イノベーションのあり方ではないでしょうか。 れており、そこから直接情報が漏えいしたケースはほと 赤石さんの話をお聞きして頭に浮かんだのが、米ゼネ んどありません。クラウドがセキュリティ上のウイーク ラル・エレクトリック社(GE)の「インダストリアル・ ポイントになるという誤解を払拭し、むしろクラウドを インターネット」の取り組みです。同社は航空機のジェッ 活用することでセキュリティレベルを高めることができ トエンジンやガスタービンなどの産業用機器にセンサー るという事実を、積極的に啓蒙しなければなりません。 を取り付け、インターネット経由で収集した IoT デー クラウド上のオープンなデータを共有しながら 企業がそれぞれの立場からビジネスを変革する ――クラウドの戦略的活用とはいかなるものでしょう タを管理・分析し、予防保守に活かすことで無駄な停止 時間を減らし、生産性や稼働率を高めてきました。この 実績をベースに、ジェットエンジンの「売り切り型」ビ ジネスから、リース契約と保守サービスをセットにした 赤石 同感です。かつてはクラウドと言ったときに、 ホスティングやハウジングなどのデータセンターサービ スと何が違うのかといったことが議論になる時代もあり ました。現在では企業の意識もすっかり様変わりして、 クラウドはプラットフォームとなって企業のビジネスを 支えています。 桔梗原 そうした中で改めて伺いたいのですが、赤石 さんはクラウドの意義をどうお考えですか。 赤石 “デジタルでつながる”ことではないでしょうか。 以前はさまざまなシステムや業務プロセスを1つの基盤 上で連携させるには大変な労力が伴いました。それが現 在では、クラウドを使うことで簡単に実現できます。先 ほど「クラウドはプラットフォームになった」と申し上 げたのはそういう意味です。 桔梗原 昨今はモバイル、ソーシャル、ビッグデータ、 IoT といった新たなテクノロジーが企業のビジネスや私 24 ABeam Consulting 2015 ABeam Consulting 2015 25 すが、今後はクラウドを通じて提供されるIaaS、PaaS、 らに現在では、エンジンのみならず航空機の運航データ SaaSといった無数のサービスの中から、最適なサービス を解析することによって、効率的な航空機のフライト方 を選択し、それらを組み合わせてシステム構築・運用を提 法を導き出し、航空会社の業務最適化を提案するといっ 供していくことが当たり前になっていくでしょう。裏を返 た領域まで踏み込んでいます。 せば、そうした部分にクラウド事業者への期待が高まって 赤石 IoT データを活用することで、ビジネスモデル をさらに進化させてビジネス全体を拡大させたわけです 考えています。1つは、アビームコンサルティングがイノ 日本企業も、もっとがんばらないといけませんね。 ベーションの水先案内人となって、お客様に最適なソリュー 桔梗原 もちろん、日本からも革新的な企業は次々に ものから、 “オンデマンドで利用する”ものへと概念を の品揃えを提供していくというアプローチです。 な操作性と GPS 機能、そしてクラウドを連携させ、同 社グループのタクシー約3,800台の中から、お客様の最 26 ABeam Consulting 2015 桔梗原さんがおっしゃったように、クラウドの世界に は無数のサービスが群雄割拠で存在しており、テクノロ ジーも日々、進化を続けています。ただ、そのすべてが お客様の IT 部門による調査の網にかかっているわけで はありません。そこで我々がシリコンバレーやイスラエ ルをはじめ全世界から見つけてきた革新的なサービス・ をつけたのは日本交通でした。同社はさらに、全国各地 ソリューションを、ABeam Cloud を通じて紹介して に提携先を広げ、この配車アプリを展開しています。配 いきたいと考えているのです。お客様にはその中から興 車アプリの累計ダウンロード数は165万件を超えており、 味を持ったものを、一定期間自由に試していただき、ビ かつてない新しいタクシーの価値が、そこから生まれよ ジネスのイノベーションにつながる“ひらめき”や“気 うとしています。 づき”を得られる場として、ABeam Cloud を発展さ 赤石 クラウド上でさまざまなデータがオープンにな せていこうとしています。 り、さらにそのデータを多くの企業が活用することで、 桔梗原 そうした「目利き力」を活かしたクラウドブ 従来とはまったく違ったアクションを起こすことが可能 ローカーサービスをアビームコンサルティングが提供し になる。そんな新たなエコシステムが、クラウドによっ てくれるとなれば、ユーザーとしても心強いですね。 最新テクノロジーの「目利き力」を活かし イノベーションに対する“ひらめき”や “気づき”を促す ――クラウドはビジネスそのものを変えていく力を持っ 桔梗原 富夫氏 日経BP社 執行役員 技術情報グループ統括補佐 イノベーションICT研究所長 もうひとつ、お願いを申し上げるとすれば、ぜひ異業 種コラボレーションを誘発する場としても、ABeam Cloud を発展させてほしいということです。企業が単 独でイノベーションを成し遂げようとしても、なかなか 困難な時代です。複数の企業が業界の枠を越えて連携す る中から、新しい価値が創出されるケースが増えていま ていることがわかりました。では、そうしたユーザー側 す。アビームコンサルティングには、そうした“出会い” の戦略的活用を、クラウドを提供する側としてはどのよ や“つながり”をリードするドライバー役になっていた うに支えていくべきなのでしょうか。 だきたいのです。 桔梗原 クラウドによってシステム構築のあり方も、 赤石 ビジネスイノベーションのプラットフォームと 運用のあり方も大きく変わってきています。これまでは して、ABeam Cloud が異業種間のコラボレーション SI(システムインテグレーション)といった形で、それぞ とデジタルビジネスの発展に貢献する場となるよう、今 れの企業に個別最適化されたシステムを作ってきたわけで 後も努力していきます。 クラウドで提供される無数のサービスから いかに自社に合ったものを選択し 戦力化していくかが重要となります。 寄りの場所を走行中の車両を簡単操作で呼ぶことができ 戦略的クラウド活用 う1つは、業界最先端のクラウドのサービスやテクノロジー 大きく変えようとしています。スマートフォンの直感的 大手メーカー系のソフトウェア開発会社を経て、 1987年に日経BP社 に転身。取材記者から 『日経コンピュータ』編集長を経て、2013年に 設立されたイノベーションICT研究所の所長に就任。一貫してエンター プライズICTシステムの動向やICTベンダーの戦略を追いかけてきた。 現職では、 クラウドランキングなどの調査にあたるほか、 マーケティング戦 略立案のコンサルティング、 各種イベントにおけるパネル討論等のモデレー ターなど、 マルチに活躍している。 ションをクラウドを通じて提供するというアプローチ。も 登場しています。例えば日本交通は、タクシーを“拾う” て築かれつつあるのですね。 事業会社を経て2000年にアビームコンサルティングに入社。戦略部 門からキャリアを積み、 10年以上にわたってERPの導入・グローバルロー ルアウトの支援に携わる。 「ABeam Cloud」 の立ち上げで中心的な役 割を担うとともに、 現在はサービスライン (業務/IT) の全体統括を担当 している。 赤石 ABeam Cloudには大きく2つの方向性があると ダストリー4.0」という新たな取り組みが始まっています。 シリコンバレー生まれの Uber が有名ですが、実は先鞭 アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル プロセス&テクノロジー 第2/第3/第4 ビジネスユニット ビジネスユニット長 [email protected] ところです。 ね。ドイツでも官民一体となって製造業を中心に「イン る配車アプリを展開しているのです。同様の取り組みは 赤石 朗 おり、 「ABeam Cloud」の取り組みにも非常に注目する 特集 クラウドを活用することで ビジネスモデルそのものを 変革することも可能となります。 「サービス型」のビジネスモデルにシフトしました。さ ABeam Consulting 2015 27 戦略的クラウド活用 Part 2 クラウド利用によって発生する弊害と その解決アプローチ 関川 秀一郎 システム更新時や新規システム導入時にクラウドの利用を優先的に検討する いわゆる“クラウドファースト”の考え方が日本企業にも浸透してきた。 ビジネス現場ではあるべき姿に程遠いのが現状だ。 この課題解決に向けてアビームコンサルティング関川秀一郎と長井孝治が クラウドの無秩序な導入が “シャドーIT”を蔓延させる こうして社内に蔓延していく“シャドーIT”に対して、 情報システム部門の目は行き届かず、ガバナンスを著し く低下させてしまうのです」 エキスパート プロセス&テクノロジー第2ビジネスユニット ITMSセクター IT Research & Incubation [email protected] 1999年にアビームコンサルティング入社。ERPを中心とした大規模なITインフラの グランドデザイン策定やIT戦略を担当してきた。IT Research & Incubationのサービ スラインを統括する現在は、 最新テクノロジーやソリューションの動向をいち早く調査・ 検証し、 その知見を社内にフィードバックする活動に注力している。 2004年にアビームコンサルティング入社。SAPマイスターとして、IT基盤のモダ ナイゼーション (近代化) や情報の高度活用を専門とする。お客様に対するIT戦 略の立案支援、 グランドデザインの策定支援にも長年従事している。 クラウドサービスの ガバナンスをいかに確立するか 「世界には無数のクラウドサービスが存在しています。 情報システム部門の限られたリソースで、その一つひと つを評価し、セキュリティやサービスレベルなどの要件 では、どうすればシャドーITによってサイロ化した を満たしているかを検証し、他のクラウドサービスや社 ITのガバナンスを取り戻すことができるのだろうか。 「全 内の既存システムとの整合性を取りながら、カタログ化 社的に一元管理して、全体像を把握する必要があります。 して提供するなど不可能に近いことです」と関川は示唆 例えばサービスポータルにクラウドサービスを集約し、 する。 IT インフラ(IaaS)から IT システムの開発・運用 ITコンセプトモデル策定時には、中長期的な経営戦略 を支えるミドルウェア(PaaS) 、アプリケーション に基づいて、 「全体最適・標準化」 「競争力強化」の両軸 非差別化要素で利用するクラウドサービスは、基本的 「情報システム部門にいちいち伺いを立てなくても、ク (SaaS)など、企業活動に必要な IT サービスをパブリッ を考慮したシステムの要素整理が必要となるが、ガバナ に全社で標準化・共通化する。一方、差別化要素で利用 ラウドであれば必要な IT サービスを即座に導入して利 ククラウドから簡単かつ迅速に調達できる時代となった。 ンスが低下している状態では、全体俯瞰の最適なITアー するクラウドサービスについては、情報システム部門に 用できる」というメリットにあった。使いたいクラウド しかし、こうしたクラウドの手軽さはメリットをもた キテクチャを策定ならびに実行することが困難となる。 よって検証・認定されたサービスをカタログ化して、サー サービスが情報システム部門の認定を受け、実際に提供 ビスポータルに登録し、一定のルールを守らせた上で、 されるまでに数週間や数箇月のタイムラグが発生すると らすだけではなく、 「従来とは違った形の IT システムの 各部門やプロジェクト単位で蔓延するシャドーIT は、 利用状況を可視化するなどが挙げられます」と長井は話す。 そもそも各部門がシャドーIT に走ってしまう原因は、 サイロ化を招いています」と関川は指摘する。 「各部門 全社スケールでの ROI(投資対効果)の判断を困難に 各部門がそれぞれの業務ニーズに応じて選択できる、適 いうのでは、結局、ビジネス現場のユーザーは待ちきれ やプロジェクトが独自の判断と予算でクラウド事業者と するとともに、セキュリティ/コンプライアンスを低下 度に標準化されたアプリケーションを提供するのである。 ずにシャドーIT に舞い戻ってしまいかねない。 契約し、IT サービスを調達するケースが増えています。 させる恐れもある。 求められるクラウドの姿 コスト 信頼性& セキュリティ 継続性 運用 サポート 28 戦略的クラウド活用 社外の専門家が提供する 「クラウドブローカーサービス」 を活用するメリットを語る。 特集 しかし、経営戦略、事業戦略、IT戦略が三位一体となって紐づけられた 本当の意味での 「戦略的クラウド活用」 が行われているかというと 長井 孝治 ディレクター プロセス&テクノロジー第2ビジネスユニット ITMSセクター IT Research & Incubation [email protected] ABeam Consulting 2015 ●最もコスト競争力が高いクラウド基盤を選ぶことができる ●業務にフィットしたテンプレートがSaaSで提供されている ●セキュアな閉域網ネットワーク接続で守られている ●高品質なセキュリティ予防・対策が行われている ●クラウド移行の過渡期やマルチクラウドの利用を想定し、 包括的に運用管理を行うことができる ●SLAに基づいた安全確実な運用保守サポートを受けられる ●継続的に改善される (品質向上・コスト低減) あるいは、会社として認定するクラウドサービスの仕 「例えば新たにグローバル進出した拠点などでは、少 様やセキュリティレベル、契約条件などのルールを明示 人数のスタッフが現地の事情も十分に把握しきれていな しておき、その範囲内で各部門に自主的なサービス選定 い中で、一刻も早い業務開始に向けたシステムの立ち上 を認めるケースもある。もちろんこの場合も、導入され げに奮闘しています。こうしたビジネス現場の課題に応 たクラウドサービスについては必ずサービスポータルへ える意味でも、IT サービスをリリースするまでのリー の登録を行い、情報システム部門の管理下に置く。 ドタイム短縮は不可欠なのです」と長井は強調する。 こうして社内で利用するクラウドサービスをもれなく そこでアビームコンサルティングが推奨するのが、ク 把握し、利用をコントロールすることで、 「クラウド事 ラウド活用に熟知した社外の専門家が持つ知見とノウハ 業者に対してボリュームに応じた価格交渉にあたること ウの活用だ。これは多様な業界・業種のビジネスに対し が可能になるなど、コスト削減の余地も生まれてきます」 て、企業に最適なクラウドサービスの選定から基盤の統 と関川は話す。 合、運用管理までをワンストップでサポートする「クラ クラウドブローカーサービスが クラウドの戦略的活用を実現する ウドブローカーサービス」として体系化されているもの で、 「情報システム部門のパートナーとなって、クラウ ドの戦略的活用を支えます」と関川は語る。 ただし、ビジネス現場のユーザーから十分な満足を得 オンプレミスのシステム運用からクラウド活用への転 られるサービスポータルを情報システム部門が単独で運 換を推進していく中で、クラウドブローカーサービスは 用していくには、非常に大きな困難が伴う。 強力な援軍となる。 ABeam Consulting 2015 29 戦略的クラウド活用 Part 3 成功するクラウド活用のための 3つの要件 成功するクラウド活用のための3つの要件とは? 1 クラウドの戦略的活用を端的に述べるなら、単なるITコスト削減の手段ではなく 新ビジネスの創造やグローバル展開などからトップライン拡大に貢献する 前節に続きアビームコンサルティング関川秀一郎と長井孝治が 「スモールスタートが可能なアジリティ」 「ワンストップサービス」 戦略的活用成功の鍵を握る クラウドブローカーサービス ている SaaS のほとんどは特定課題に対するポイントソ 最新テクノロジーの 柔軟な導入 ワンストップ サービス リューションであり、企業の業務プロセスやセキュリティ 現在、クラウドへの移行は過渡期であり、企業システ 対策、ERP との連携などを包括的にカバーする IT サー ムの成熟度によって、オンプレミスとのハイブリッド環 ビスとしては十分と言えません。本当の意味でクラウド 境が最適なケース、またはクラウドプロバイダーごとの のメリットを最大限に引き出す戦略的活用のためには、 得意・不得意を使い分けるマルチクラウド環境が最適な コスト、信頼性、セキュリティ、継続性、運用サポート ケースと、最適解が異なる状況となっている。こういっ などのクラウドにおける全般的な課題をクリアしなけれ た状況下においては、適材適所でクラウドプロバイダー ばなりません」と長井は示唆する。 ムレスに支援するクラウド基盤を短期間で実現している。 (P32の注1参照) 2 けでなく、その上で動かすアプリケーションや、セキュ アに接続するネットワークサービス、システム状況を外 さらに、さまざまな企業のグローバル経営基盤を支援 部から監視・運用するサービスなど、付随する各種の仕 してきたアビームコンサルティングの業種・業務コンサ 組みを最適に選択するという難しい業務が必要となって すなわち、導入した SaaS を経営戦略や事業戦略、ビ ルタントと IT コンサルタントが、課題抽出や要件定義 くる。 ジネス現場のニーズ、あるいは海外拠点を展開する国や といった上流工程からプロジェクトに参画。攻めの経営 そのサービスでは、国内/海外のクラウドプロバイダー 地域の商習慣に対応した形で使えるようにするには、ア 戦略や事業戦略を展開する上で“あるべき姿”と、現状 と提携し、お客様の要望に合わせた最適なグローバルク ドオン開発、パラメータ設定、カスタマイズといった現 の業務プロセスやシステム環境との間のギャップを洗い 「アプリケーション、サーバー環境、ネットワーク、 ラウドのデザインを実現することが重要である。そして、 在のシステムインテーグレーションに近い作業を経なけ 出し、それぞれの企業に最適な業種・業務テンプレート 保守運用サービスと、クラウド上でエンタープライズシ そ の 鍵 と な る の が、SaaS(Software as a Service) ればならない。さらに本稼動後のパフォーマンス確保や を選定するとともに、インフラ基盤やシステムのパフォー ステムを利用するために必要な要素をワンストップで提 をベースとした「クラウドブローカーサービス」という セキュリティ対策、運用保守に至るまで、最適化に向け マンスを維持するための各種ツール群を組み合わせて提 供し、専門要員を企業側で抱えることなくサービスを利 アプローチだ。 て検討すべきことは多岐にわたり、リードタイムも多大 供する。 用することが可能となります」と関川は語る。これによ ならびにアプリケーションの組み合わせを提供できるソ リューションサービスが求められている。 ここではクラウドサービス活用のための3つの要件を なものとなる。 専門要員を抱える必要もない ワンストップサービス この課題に応えるための機能が、クラウドのワンストッ プサービスである。 り複数ベンダーとのやり取り・調整が不要になるぶん、 「スモールスタートが可能なアジリティ」 「ワンストップ このリードタイム短縮や省力化という課題を解決しス サービス」 「最新テクノロジーの柔軟な導入」に絞って モールスタートを実現しているのが、さまざまな SaaS 解説する。 を一段上位のレイヤーから包括する業種・業務テンプレー 昨 今、ク ラ ウ ド の 事 例 と し て、AWS(Amazon トだ。アビームコンサルティングでは長年蓄積してきた Web Services) に代表される IaaS 基盤上へのエンター 経営基盤構築に関するノウハウと知見をベストプラクティ プライズシステムの移行実績が増えている。しかしクラ そして、成功するクラウド活用の3つ目の要件である スとして集大成しており、システムの設計や開発に重い ウド上でシステムを安定稼動させるにあたっては、デー 「最新テクノロジーの柔軟な導入」は、それ自体がクラ 作業負担をかけることなく、一連の業務プロセスをシー タセンターならびに仮想サーバーとしての IaaS 基盤だ スモールスタートが可能なアジリティ リードタイム短縮と省力化を実現 一般に SaaS は導入すればすぐに使えると思われてい 30 るが、実はそうではない。 「現在のクラウド市場に出回っ 3 戦略的クラウド活用 「最新テクノロジーの柔軟な導入」 の3つの要件を示しつつ 成功するクラウド活用のポイントを語る。 特集 差別化要素の強化にその本質がある。 そこで重要な鍵を握るのが 「クラウドブローカーサービス」 の効果的な活用だ。 スモールスタートが 可能なアジリティ ABeam Consulting 2015 企業側の負荷軽減が実現される。 最新テクノロジーの柔軟な導入 差別化要素の競争力を強化 ウド活用を加速し、組織に深化させていく原動力となる。 ABeam Consulting 2015 31 変革の実現を支える ビジネスイノベーションプラットフォーム ABeam Cloud オンプレミスで構築したシステムの場合、いったん本 らにアビームコンサルティングのクラウドブローカーサー 番運用を開始した以降は、自社の努力によってアップグ ビスに参加するベンダーにとっては「アビームコンサル レードや新機能のアドオンを図っていかない限り、最新 ティングが擁する数多くのお客様のビジネスニーズとの テクノロジーに追随することはできない。一般に IT の マッチングを円滑に行い、かつサービスを紹介すること ライフサイクルは5~7年といった長期に及ぶが、仮に が可能になるというメリットもあります」と関川は語る。 この期間にまったく手を加えずにいたならば、IT イン ここまで述べてきた3つの要件を備えた SaaS 中心の フラやアプリケーションは陳腐化する一方だ。戦略的活 クラウドブローカーサービスを、具体的なソリューショ 用を実現するどころか、ビジネス現場のユーザーから見 ンとして体系化したものが「ABeam Cloud」である。 向きもされないシステムになってしまう。 これに対してクラウドならば、最新の機能やサービス 「アビームコンサルティングはお客様の幅広い声に耳 を傾けつつ、クラウドのさらなる戦略的活用を後押しし をタイムリーに取り入れながら、差別化要素となるアプ ていくテクノロジーや業界・業種のベストプラクティス、 リケーションについても競争力を維持し続けることがで そしてビジネス現場のユーザーが使いたくなるアプリケー きる。 ションを、ABeam Cloud をプラットフォームに提供 アビームコンサルティングでは、常に最先端のテクノ ロジーを追い求めてシリコンバレーや IT 先進国のイス ラエルなどに技術者を派遣し、そこで獲得したノウハウ や知見をクラウドブローカーサービスに移入している。 そのため、お客様は多大な労力をかけて自ら調査せずと していきます」と、関川と長井は今後に向けた意気込み を示す。 注1 アビームコンサルティングの業種・業務テンプレート “業種”に特化したテンプレートとしては、例えば不動産業界を対象と した 「ABeam Cloud Real Estate Solution(アビーム不動産管理ソ も、世界的な技術トレンドを確実にキャッチアップする リューション)」、商社・卸・メーカー販社向けの基幹システムテンプレー ことができる。また単なる情報提供にとどまらず、技術 トにシステム導入ノウハウや海外拠点のロールアウトを想定した国別 的な評価やリファレンスモデルの提示、トレーニングの 整備、トライアル検証の提供といったサポートを通じて、 最新テクノロジーのスムーズな導入を実現している。さ 要件を付加した 「ABeam Cloud Trading Solution」 などがある。 さら に業種を問わない“業務の機能”に特化した、倉庫管理、顧客・料金 管理、需給改革、CMS(資金管理)、間接費管理、 タレントマネジメント、 アナリティクス、BIなどのテンプレートも用意されている。 企業へのクラウド最適化 コンサルティング アビームテンプレートが 高品質とアジリティを実現 シームレスな業務を実現する クラウド構築 クラウドを導入した企業の中にも、全体最適 を見越して構築されたクラウドサービスは多く ありません。アビームコンサルティングでは、 企業の業種・業務プロセスを俯瞰しつつ、 注 力すべきプロセスを識別し見極めて、全体で バランスの取れたクラウド運用へと改善します。 そしてクラウド構築を通して企業のビジネス・ プロセス最適化に注力を図ります。 さまざまなプロジェクトの知見を反映した業務 プロセス、 要件定義ドキュメント、 仮想化環境 からなるソリューション。ベストプラクティスを 反映したテンプレート活用は高品質なシステ ムの実現とともに、稼動後に安全な運用を 支え、海外パッケージやスクラッチ開発と比 較して導入期間の短縮が可能です。 また、 シ ステム改修にも柔軟に対応します。 現在市場で提供されているクラウドのサー ビス提供範囲は限定的なところがあり、企 業のプロセスを包括的にカバーするクラウド サービスとしては十分とは言えません。アビー ムコンサルティングでは、長年の蓄積による ベストプラクティスを踏まえた業界・業務テン プレートを用いて、一連の業務をシームレス に支援するクラウド構築を提供します。 「ABeam Cloud」 の詳細はホームページをご覧ください。 http://jp.abeam.com/tp/abeamcloud.html 32 ABeam Consulting 2015 ABeam Consulting 2015 33 にも近い周辺国は、人的マネジメントがしやすく生 産拠点として有望だ。 「タイは生産拠点としてだけでなく、タイ市場で 消費する商品の供給はもちろん、メコン商圏の周辺 国や東南アジア全体、場合によっては欧米への輸出 ビジネスの拠点としても期待されています。一方、 周辺国については人件費が安い生産拠点としての進 Region Report From 原 市郎 アビームコンサルティング タイランド マネージングディレクター [email protected] 出が中心ですが、各国でのプレゼンスを高めてブラ ASEAN ンドを確立することを目的に先行投資的な進出を図 る企業も増えています」 「メコン商圏」 を逃がすな さらに“タイ+1”には、リスクを回避する意味 もある。 急速な市場拡大と安価な労働力が魅力のメコン商圏 “タイ+1”への進出を 成功に導くものとは 経済成長が著しい地域として世界中が注目する東南アジア。2015年末には 「ASEAN経済共 同体(AEC)」 が発足し、ASEAN加盟国10カ国がまとまった6億人超の一大経済圏も誕生する。 そんな東南アジアの中でも、特にこれからの発展を期待されているのが、世界有数の大河・メ コン川流域5カ国の 「メコン商圏」 だ。 なぜいま、 メコン商圏が注目されるのか。 アビームコンサ ルティング タイランド マネージング ディレクターの原市郎が解説する。 タイと周辺国の関係を活用する “タイ+1”の動き 34 めており、コストも高くなってきました。一方で、 周辺のカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム の各国は、市場がまだ発展途上で、コストも格段に 「東南アジアは中国リスクの回避先になっていま すが、実はタイに投資を集中させるのにもリスクが あります。タイにはクーデターが頻発するという政 拠点に活動しているのが原市郎の率いる「アビーム 治リスク、毎年洪水が発生するという自然災害リス コンサルティング タイランド」だ。 クがあります。4年前に発生した洪水では、サプラ 「いまのメコン商圏では“タイ+1”が注目され イチェーンが全世界で止まるという事態になりまし ていますが、当社も同じく“タイ+1”を基本方針 た。最近では、EU の一般特恵関税制度(GSP)の としています。メコン商圏に進出する企業をタイか 適用対象から中国とタイが除外されたことも少なか らサポートできるケイパビリティを拡大し、周辺国 らず影響があります。こうしたリスクを周辺国に分 には一緒に進出してビジネスを支援します」 散するためにも、 “タイ+1”の動きがあるのです」 日本からメコン商圏の各国に直接行くのではなく、 メコン商圏の市場やプロセスに精通 このように注目されるメコン商圏の中心、タイを タイを拠点とするのには理由がある。 「タイから行くのは、AEC 発足後の域内サービ ス自由化の恩恵を受けられる可能性が高いと同時に、 日本企業のビジネス環境(FDI推移) 日本のFDI(海外直接投資)はASEAN地域、U.S.Aともに過去最高の数値となる リーマンショック、 タイ洪水、東日本大震災より本格的な回復基調 ASEAN地域に対してのFDIでは日本が世界をリードしており、近年では中国を凌ぐ金額を投資 (USD Million) 45,000 India U.S.A 40,000 Vietnam Philippines メコン川流域に位置するタイ、カンボジア、ラオ 安価です。最近ではメコン商圏の東西南北をつなぐ 35,000 Malaysia ス、ミャンマー、ベトナムの5カ国で構成されるメ 道路網も整備されて陸路による物流がスムーズにな 30,000 Thailand コン商圏。このいわゆる“タイ+1(プラスワン) ” り、AECの発足によってカネやヒトの移動も楽にな 25,000 のメコン商圏がいま、特に日本企業から熱い視線を ろうとしています。タイ自身もこれらの周辺国へ積 20,000 集めている。 極的に投資しています。こうしたタイと周辺国の関 15,000 「東南アジアは、これから経済成長していく地域 係を活用しようというのが“タイ+1”の狙いです」 10,000 として世界的に注目されています。なかでも日本企 タイに拠点を置く企業にとって、陸路で取引しや 業が最も多く進出してきたのが、メコン商圏の中心 すい周辺国はタイで構築したサプライチェーンをそ に位置するタイです。しかしタイは、すでに一人あ のまま活用できるというメリットもある。また、タ たりの GDP が5,000ドルを超えて市場が成熟し始 イと共通する習慣や思考パターンを持つなど文化的 ABeam Consulting 2015 Region Report Indonesia Singapore Korea Taiwan Hong Kong China 5,000 0 -5,000 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 (Source:JETRO) ABeam Consulting 2015 35 Region Report Region Report From タイと周辺国との関係性が非常に強いことが挙げら います」 れます。例えばミャンマーへの投資は、日本よりも この2つの強みを両輪として対応できるのは、ア タイのほうがすでに多くなっています。その中には ビームコンサルティングならではであり、現在は日 日本企業によるタイ経由の投資も含まれています。 本企業のメコン商圏進出だけでなく、タイ企業との 周辺国の市場において生産または消費のサプライ 取引も拡大している。日本市場にも進出しているタ チェーンを構築するときには、タイを中心につなぐ イの大手飲料メーカーもアビームコンサルティング のかどうかを検討しますが、タイと周辺国との関係 の主要顧客である。 性を考慮すると、タイ経由にしたほうがスムーズに 「ビジネスボリュームでいうと、アビームコンサ 軌道に乗せられます」 ルティングが得意とする SAP 導入などのシステム メコン商圏において、アビームコンサルティング コンサルティングが主力ですが、タイでは市場調査、 には2つの強みがあると原は言う。 市場参入戦略、M&A やその後の PMI(ポストマー 「1つは、日本企業のサポートに長けているとい ジャーインテグレーション)といった事業戦略も包 う点です。そもそもアビームコンサルティングのメ 括的に支援しています。最近では日系金融機関が買 インターゲットは日系のグローバル企業であり、日 収した現地企業のオペレーションマニュアルをグロー 本企業が進出していくところで一緒にビジネスを展 バル規程と突き合わせて、ギャップを洗い出し、ス 開するというのが戦略です。日本の本社と一体になっ ムーズな現地展開を後押ししました」 て、本社の意向を現地で実現するというところに一 今後はタイ日本企業の周辺国への進出とともに、 番の強みがあります。もう1つは、メコン商圏にお アビームコンサルティングの拠点を周辺国に設立す けるオペレーション体制ができあがっているという ることも視野に入れている。さらにその先のビジネ 点です。アビームコンサルティング タイランドに スとして期待されているのが、欧米グローバル企業 はいま、約120名のスタッフが在籍していますが、 のメコン商圏進出、そしてタイをはじめとするアジ そのうちの95%が現地のタイ人スタッフであり、 ア企業の海外進出支援だ。その下地作りは着々と進 メコン商圏の市場やプロセスについてよく理解して んでいる。 メコン商圏のGDP成長と人口増加 GDP per capita (current,US$) Population(Million) 2014 2019 F Cambodia 1,104 1,594 15.3 16.5 Laos 1,697 2,473 6.9 7.6 Myanmar Vietnam Thailand Japan 1,270 2,073 5,550 38,491 2,097 2,948 7,047 43,504 2014 51.4 90.6 68.6 127.3 2019 F 53.4 95.5 70.0 124.9 Source: IMF, World bank and ABeam analysis 36 ABeam Consulting 2015 JAPAN エネルギー自由化最前線 エネルギーバリューチェーン全体を最適化 エネルギー企業に求められる 最経済運用の仕組みとは 日本のエネルギー業界はいま、大きな変革期を迎えている。2016年4月には電力供給事業、 2017年4月にはガス小売事業の完全自由化を控えるなど、業界再編に向けて動き出している のだ。 そうした中、 エネルギー業界への新規参入を狙う企業が続々と名乗りを上げ、 それを迎え 撃つ既存事業者は国内で蓄積したノウハウをもとにグローバル展開や事業の多角化を図ろう としている。エネルギー企業が取り組む最新トレンドを電力・ガスシステム改革対策特命チーム のリーダー、 小野田 敬が解説する。 グローバル展開と事業多角化で ビジネスチャンスを掴め 独占供給してきた市場に新規事業者が参入し、消費 者は事業者を自由に選択できるようになる。その1 年後の2017年4月には、ガス小売事業の完全自由 「島国・日本にとって、エネルギーは非常にクリ 化も予定されている。さらに2020年4月に電力事 ティカルな問題」―― 長年、エネルギー業界のコ 業者の発送電分離、2022年4月にガス事業者の導 ンサルティング業務に携わり、豊富な経験を持つ小 管分離が決定するなど、日本のエネルギー業界にお 野田 敬はそう語る。クリティカルな問題だからこそ、 ける事業再編の動きは、まさに風雲急を告げている。 これまで電力・ガスの地域独占事業が認められてき こうした自由化と事業再編の動きは、エネルギー たわけだが、そんな時代も、いよいよ終焉の時を迎 業界に一層激しい企業間競争をもたらすことになる。 えつつある。 少子高齢化による人口減少時代に突入した日本では、 2016年4月、日本の電力供給事業が完全自由化 エネルギー市場も漸減すると容易に予測できるから される。従来、国が定めた一般電気事業者10社が だ。国内市場のパイが狭まっていく中で、どのよう ABeam Consulting 2015 37 卸電力 取引市場 ディング事業があります。電力会社は発電所を稼働 するために石油、石炭、LNG(液化天然ガス)な どの燃料を買っていますが、これまでは公益サービ 小野田 敬 新電力 戦略的な 電源・燃料調達の 実現 燃料 電源 ことは困難でした。しかしエネルギー自由化によっ て、こうした縛りがなくなるので、他業界の企業や 石炭 太陽光 発電 他社と 相対取引 ス色が強かったため、発電以外の用途に燃料を使う 執行役員 プリンシパル 金融・社会インフラビジネスユニット インフラ・サービスセクター 電力・ガスシステム改革対策特命チーム 統括責任者 taonoda@abeam.com ETRMサービスの全体像 火力 水力発電 石油・石炭・ LNG 外国に売ったほうが儲かるとなれば、そちらに売る ことも可能になります。今後は収益性を意識しなが LNG 風力発電 石油 エネルギー ポートフォリオの 最適化 ら、エネルギートレーディングのような事業の多角 化を進めていく必要があります」 また、日本企業が海外に進出する際、生産拠点を 含むすべての電力を一括管理する仕組みを支援する 流通 LNGタンク といったビジネスも考えられる。 LNG船/ タンカー 「自由化によってエネルギー企業の市場が奪われ にリスク管理を行い、ビジネスチャンスを掴んでい るという論調も多いのですが、逆にいろいろな箍(た くか。小野田は、それがエネルギー企業の成否を分 が)が外れるので、こうした新規ビジネスをどれだ けるポイントになると言う。 け展開できるかが成功の鍵となります」 では、生き残っていくために何をすべきか。まず 「エネルギー企業は日本国内にとどまらず、グロー エネルギー業界のコンサルティング経験のある32 ている。アジア・太平洋地域ではアビームコンサル バル目線でビジネスを展開する段階に入っています。 グローバル展開や事業の多角化を目指すエネルギー 名の専任コンサルタントを中心に、各インダストリー ティングとオープンリンク社が協業し、バリュー 国内市場が縮小しても業績を向上させるには、海外 企業、あるいはエネルギー業界への新規参入を目指 ソリューションチームのコンサルタント約1000名 チェーンの戦略的な運営体制の整備、ポートフォリ に出て行くほかありません」 す企業を対象に、アビームコンサルティングが が連携するという体制で運営されている。同チーム オの最適化を図る戦略の提言などのコンサルティン もう1つは、事業の多角化だ。 2014年8月に設立したのが、小野田が率いる電力・ が提供する「ABeam Energy Summit Solution グも含め、アビームコンサルティングがオールイン 「事業の多角化の一例として、エネルギートレー ガスシステム改革対策特命チームである。 「最経済運用」のコンセプト 短期計画 ●他社電源・取引所の最適活用策推奨 ●燃料と電源の最適な組合せ推奨 最経済運用 ●バリューチェーンにおける 構造変革 最新情報 ▲ ●電源リプレースシナリオ 設備投資 ●系統リスク ⇒予備率最適化策推奨 ●市場リスク ⇒ ヘッジ手段推奨 リスク管理 ▼ 契約変更 ●シナリオ設定・投入支援 ABeam Consulting 2015 ▼ ABeam ▼ ●シナリオ設定・投入支援 ●統計手法に基づく需要予測 OpenLink IRM ボトルネックの特定 ● LNGタンク増設シナリオ 長期計画 ●燃料・電力価格の取付 ▼ 関わる事業構造変革支援 ▼ ●ポートフォリオ構築に 38 エネルギートレーディングリスク管理プラットフォーム(ETRM) 日本発のソリューションを アジア・太平洋地域へ展開 考えられるのがグローバル展開だ。 Region Report 送電網 ● LNG仕向地フリーシナリオ ●軽質LNG導入シナリオ (ABeam ESS) 」は、エネルギー企業に求められる Region Report ワンで提供していく。 経営戦略の策定、エネルギーマネジメントや業務プ 「日本の総合商社も同様のソリューションを展開 ロセスの構築・運用を支援するコンサルティングサー しようとしていますが、そこではシステムを“手作 ビスだ。 り”しなければなりません。導入の負荷やメンテナ コンサルティングサービスを通じて小野田は、エ ンスを考えると、アビームコンサルティングのソ ネルギー企業は事業戦略全体のポートフォリオを考 リューションに優位性があります」 えることが最も重要だと説く。従来のエネルギー企 アビームコンサルティングでは IRM などのツー 業は、燃料、電源・系統運用、市場取引などの担当 ルとともに、これまで培ってきた知見を活用し、ま 部門が個別に部分最適化を図ってきたが、エネルギー ずは日本においてエネルギー自由化に対応するソ 自由化による厳しい企業間競争を制するには、バ リューションを確立。その上でシンガポールやフィ リューチェーン全体で最適化を図り、リスクを管理 リピンなど自由化が先行する地域、さらに韓国やタ したビジネスを追求しなければならないというのだ。 イ、ベトナムなど今後自由化される見込みのある地 そのキーソリューションとして、アビームコンサ 域へとビジネスを拡大させる予定だ。 ルティングでは米国オープンリンク社の「IRM エネルギー自由化を控えた国内のエネルギー企業 (Integrated Resource Management) 」を 用 意 にとどまらず、日本発のソリューションとしてアジ している。これはエネルギーバリューチェーンを全 ア・太平洋地域へダイナミックに展開する ―― こ 体最適化して、柔軟なポートフォリオを策定する最 れこそが、アジアを基点とするグローバルコンサル 経済運用支援システムである。欧州・北米地域では ティングファーム、アビームコンサルティングの真 名立たる大手エネルギー企業に多数の採用実績を持っ 骨頂なのだ。 ABeam Consulting 2015 39 ABeam ConsultingのCSR アビームコンサルティングは、2009年にCSR部(現 CSRユニット) を設立しました。 その後、 アビームコンサルティングらしいCSRの在り方を模索しながら活動を継続し、 2013年には、CSRを経営活動の一環として捉え、 CSR方針を策定しました。 お客様のグローバルな成長や、 より良い地域社会・地球環境の実現へ貢献し、 地域社会とともに 良き企業市民としての 「社会貢献活動」 アジアの子供たちの教育環境づくりを支援 持続可能な社会を構築するため、積極的なCSR活動を推進しています。 「ルーム・トゥ・リード」は、開 発 途 上 国の何百万という子供たちの人生を、読み 書きの習得と男女平等の教育機会から変 えようとしている世界的な NGO 団体です。 アビームコンサルティングは日本初のスポ ンサー企業として、2008年より継続的な ※アビームコンサルティングのCSR活動の詳細は、 「CSR報告書2015」 をご覧ください。 CSR 方針 アビームコンサルティングでは CSR 方針として Mission と Vision を掲げています。この方針に基づき、 5つの CSR 活動領域において、さまざまな CSR 活動を展開しています。 今後は、本業であるコンサルティング事業の特性を活かした CSR 活動にも注力していきます。 活動支援を行っています。 に約4,000万円の寄付を行ってきました。 あわせて、社員からの募金などによる資金 支援も行っています。支援金は、これまで ベトナム、ネパール、インド、バングラデ シュの国々において、図書館・小学校など の建設、女子教育プログラムや現地語児 童書籍出版に活用されています。 図書館建設、教育プログラムなどを サポートする寄付活動 支援先を訪問し、 子供たちとコミュニケーション アビームコンサルティングは、ルーム・ トゥ・リードの 法 人サ ポーターとして、 2008年からほぼ毎年5万 USドル(約500 万円)の企業寄付を行い、2015年度まで 本活動では、継続的な支援を行うととも に、活動の成果を確認・検証することも大 切にしています。そのための取り組みとして、 アビームコンサルティングの CSR 担当者に よる支援先の現地視察を実施しています。 2013年にベトナム、2014年にはネパール を訪問し、支援先の幼稚園や小学校に通 う子供たちと触れ合いました。 安全な飲料水と衛生環境を アジア・アフリカの人々へ 海外オフィスにおける 地域支援活動 震災復興の進展に合わせて 継続的な支援を実施 1981年英国での発足以来26カ国で支 援活動を実施し、1,750万人に安全な飲料 水を、1,290万人に衛生設備を提供してき た世界有数の NGO 団体「ウォーターエイ ド」。アビームコンサルティングは、2013 年のウォーターエイドジャパン設立準備段 階から支援を行うとともに、設立後初のプ ロジェクト支援企業として、オフィス家具 の提供や寄付、プロボノ活動など、さまざ まな形で活動をサポートしてきました。 2014年2月には、WaterAid UKの CEO バーバラ・フロスト氏とアビームコンサルティ ングCEO の岩澤が対談を行い、協力関係 の継 続を確認しました。また、同年10月 に開催された大阪マラソンでは、アビーム コンサルティング社員10名がウォーターエ イドチャリティランナーとして参加し、社内 での募金活動を実施しました。 タイオフィスでは、2011年7月に発生し たタイ洪水の復興支援として、アビームコ ンサルティングの各国オフィスから支援金 を 募 り、約138万 THB(約500万 円)の 寄付を行いました。また、HIVに感染した 子供たちや、HIV で親を亡くした子供たち の支援を目的としたチャリティーマラソン に社員が参加するなど、積極的な社会貢 献活動を実施しています。 マレーシアオフィスでは、老人ホームへ の物資支援を実施。社員から募った電化 製品や日用品などの物資を、社員自らが老 人ホームを訪問して手渡ししました。 東日本大震災の発生直後から現在に至 るまで、復興の進展に合わせた以下のよう な継続的な支援活動を推進しています。 ●義援金寄付 社員などから義援金を募り、緊急支援と して約2,567万円の寄付を行いました。 ● ボランティアセンター支援 ボランティアセンターへの支援活動を実 施。気仙沼ボランティアセンターへのネッ トワーク構築支援やプリンターの提供のほ か、システムに関するサポートデスクの設 置などを行いました。 ●継続的な復興支援 宮城県山元町の苺農家の方々に対する 支援として、社員によるボランティアツアー を定期的に実施。被災地復興の推進力と なる地域経済の活性化に貢献するため、 被災地で生産された物品を社内のイベント で継続的に活用しています。 Mission 私たちは、コンサルティングサービスを通じて クライアントに新たな成功をもたらし持続可能な社会の実現に貢献します。 Vision 1 2 3 4 5 40 CSR 活動領域 私たちは、業務遂行にあたって不正が起こることを予防し、 健全かつ公正な企業経営に努めます。 [強固な事業基盤] 私たちは、優れたコンサルティングノウハウを基盤とした事業活動によって、 良質なサービスをクライアントに提供します。 [お客様とともに] 私たちは、良き企業市民として、画一的な貢献の形にとらわれることなく、 貧困や教育をはじめとする社会的課題に対して、 さまざまなパートナーと協力し、課題解決に向けて積極的に貢献します。 [地域社会とともに] 私たちは、事業活動において継続的な環境マネジメントの改善を行い、 環境パフォーマンスの向上に努めるとともに、私たちの提供するサービス、 その他の活動を通じて、地球環境負荷の低減に貢献します。 [地球環境とともに] 私たちは、 すべての従業員にとって働きやすい、 やりがいのある職場づくりに努めるとともに、 社会貢献活動を通じた自己実現や自己成長を図ることのできる意欲ある 従業員を積極的に支援します。 ABeam Consulting 2015 [社員とともに] ABeam Consulting 2015 41 ©2015 Montedio Yamagata 地球環境とともに 持続可能な社会実現のための 「環境保全活動」 自社オフィスにおける環境負荷低減活動 アビームコンサルティングは、環境マネジ メントシステムの構築およびその継続的な 改善による環境負荷の低減に努めています。 ま た、公 共 ビ ジ ネ ス ユ ニ ットで は、 ISO14001の認証を取得しています。 ●省エネルギーの推進 アビームコンサルティングのエネルギー マ ネジメント 診 断 ツ ー ル「One2Five ® Energy」を活用し、運用面の改善による 継続的なエネルギー削減を重点的に実施 しています。 ●紙使用量の削減 2011年度より両面印刷などを推奨し、 紙消費量の削減を推進。また、社内の全 会議室にプロジェクターやモニターを設置 し、会議・打ち合わせのペーパーレス化を 推奨しています。 ●リサイクルの推進 個々人のデスクのごみ箱を撤去し、各フ ロアのリサイクルステーションへ統合する ことにより、ゴミ分別の徹底や廃棄物の 削減を推進しています。また、エコキャッ プ回収箱の配置により、これまで約178 万個のエコキャップを回収し、2,228人 分のワクチン寄付にあてています。 グリーン電力証書の活用 環境負荷低減はもとより、自然エネル ギーの普及促進を目的に、毎年1回全社 員が集う会議において、グリーン電力証 ■エネルギー消費量 (MWh) ■床面積あたり消費量 (kWh/㎡) MWh 2,500 2,000 200 150 1,500 100 1,000 50 500 0 kWh/㎡ 2009 2010 2011 2012 2013 2014 0 書※を利用したカーボン・オフセットを実 施しています。グリーン電力証書は2009 年より毎年継続的に利用しており、2014 年度は、8,000kWh のバイオマス発電に よるグリーン電力証書を購入しました。 ※グリーン電力証書:風力や太陽光、バイオマスなど の自然エネルギーでつくったグリーンな電気が持つ「環 境付加価値」を「証書」化して取引することで、自然 エネルギーの普及・拡大を応援する仕組み。 富士山環境保全活動 環境 NPO 法人「富士山クラブ」の協力 を得て、富士山麓における清掃活動・外 来植物駆除活動を2007年より毎年実施し、 2013年以降は新入社員の研修日程に組み 込んでいます。2014年度は新入社員と有 志社員の合計約83名が参加して約430kg のごみを回収し、外来植物駆除活動では 北米原産の「オオキンケイギク」を9,000 本、重量にして約65kgを駆除しました。 三戸浜ビーチクリーン活動 アビームコンサルティングのヨット部が 三戸浜にある施設を利用していたという経 緯から、2006年に同海岸のビーチクリー ン活動を開始。以降、公益財団法人かな がわ海岸美化財団の協力により、荒天中 止の年を除き、毎年活動を継続しています。 2014年度は、社員とその家族71名が参加 し、約430kg のごみを回収しました。 アビームコンサルティングは、 モンテディオ山形の2015シーズン公式戦用ユニフォームスポンサーになりました。 Jリーグ モンテディオ山形 アビームコンサルティングが経営に参画している モンテディオ山形が、 2015年シーズンからJ1で活躍中です。 アビームコンサルティングがサポートする 2つのスポーツチーム。 ご声援よろしくお願いします。 セーリング Team ABeam 2016年のリオデジャネイロ・オリンピック出場を 目指しています。 お客様とともに J1クラブを共同運営し、 地方創生に貢献 アビームコンサルティングは2013年6月 に、プロサッカークラブ「モンテディオ山形」 の運営に関わるパートナー企業として選定 され、同年8月に公益社団法人山形スポー ツ振興21世紀協会とともに「株式会社モ ンテディオ山形」を設立しました。アビー ムコンサルティング社員が現地に駐在して クラブ運営に携わり、クラブの発展に加え、 Jリーグで最も地域密着のクラブチームと なれるよう新たな価値の創造を目指してい ます。 地元企業とのコラボレーション企画 地方創生への貢献に向けた取り組みの 42 ABeam Consulting 2015 一環として、アビームコンサルティングの 提案により、チーム強化費を寄付いただい た皆様へ日本有数の農業王国である山形 県の農産物などを御礼品として贈呈する「 “ん まいもの”プロジェクト」を開始。強化資 金の獲得とともに、山形県の魅力を全国 の Jリーグファンへアピールする機会となっ ています。 ホームタウン活動を通した地域貢献 地域・住民に支えられるヨーロッパ型の クラブ経営を目指し、産・官・学と地域が 一体になって活動しているプロサッカーク ラブです。サッカー教室の開催や雪かきボ ランティア、夢クラスなどのホームタウン活 動を積極的に実施。その活動回数は、J リーグでもトップクラスを誇ります。地域の 方々との信頼関係を大切にしながら、 「回数」 だけでなく「地域への貢献度や効果」にも 力点を置き、Jリーグで最も地域に愛され るチームになるべく、ホームタウン活動を 展開していく予定です。 写真左から、470級の今村公彦選手、土居一斗選手、 ナクラ17級の田畑和歌子選手、 チーム・オーストラリアのMathew Belcher選手、Will Ryan選手 ※470は、 全長470cmの「ディンギー」 という2人乗りの小型のヨット。 また、 ナクラ 17は、 2011年 にISAF (国際ヨット競技連盟) 仕様に改良されたレース用競技双胴船。
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