No.106 2015年10月号

CONTENTS
§筑豊小児科医会のご案内・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
§小児科医会報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
§地域連携ささえあい小児診療・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
§飯塚病院月間診療のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
§筑豊小児科医会のご案内
■第 269 回
●日
時:2015 年 10 月 14 日(水)(18:50~20:30)
●場
所:飯塚病院 北棟 4 階 多目的ホール
一般演題
シアトル“カイゼン”セミナー研修報告
飯塚病院 小児科 岩元 二郎
特別講演
「当院における発達症診療の現状」
社会福祉法人財団 池友会 福岡新水巻病院
周産期センター長 白川 嘉継 先生
*軽食があります。
■第 270 回(第 36 回筑豊感染症懇話会と同時開催)
●日
時:2015 年 10 月 28 日(水)(18:30~)
●場
所:のがみプレジデントホテル
一般演題
「髄膜炎が先行したムンプス感染症の 1 例」
飯塚病院
「当院で経験した急性巣状細菌性腎炎の 15 例の検討」
初期研修医
石原 大輔
飯塚病院
初期研修医
特別講演
「泌尿器科領域におけるキノロン系薬~最近の考え方~」
産業医科大学 泌尿器科 准教授 濱砂 良一 先生
§小児科医会報告(第 268 回、平成 27 年 9 月 16 日開催)
「マイコプラズマ感染症-診断、耐性菌、発症機構に関する最近の話題」
医療法人徳洲会 札幌徳洲会病院 小児科 小児感染症部長 成田 光生 先生
成田光生先生はマイコプラズマの臨床および研究に関しては日本の第 1 人者の先生で、日本マイコプ
ラズマ学会の重鎮の先生です。目からうろこの素晴らしい講演でした。概要の一部をまとめてみました。
○マイコプラズマとは?
マイコプラズマは一般の細菌とは異なり細胞壁は持たないものの立派な細菌である。ウイルスと細菌
の中間の病原体という定義はあてはまらない。マイコプラズマは喉頭蓋より下の下気道の線毛上皮に飛
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まつ感染し、滑走して接着し増殖するが、組織を破壊侵襲することはない。乾燥に弱く、飛沫に乗らな
ければ感染はできない。感染が成立する(マイコプラズマが直接絨毛に到達する)ためには、至近距離
(<1m)で激しい咳をしていることが条件。激しい咳をしていなければ感染することはないので、登園・
登校は可能である。増殖は遅いため、潜伏期は 2~3 週間と長い。咳は痰の少ない乾いた咳が特徴で、大
量の細胞を破壊せず、粘液などの分泌を亢進させないため鼻水が出ないのが他の細菌性肺炎との大きな
違いである。一般外来患者でマイコプラズマとウイルスとの混合感染は 20%と言われている。
○マイコプラズマの病原性
マイコプラズマは直接的な細胞障害はなく、細胞膜に存在するリポ蛋白からサイトカインを誘導する
免疫発症が特徴的である。マクロファージ(司令官)がマイコプラズマの侵入を認識し免疫系を発動す
る。マイコプラズマ感染に特有のサイトカインとして IL-18 がさまざまな免疫担当細胞を活性化し、種々
のサイトカインを出し炎症を惹起する。また IL-8 は好中球を活性化し、酵素や活性化酸素を出し炎症を
惹起する。これが免疫応答から免疫発症(自然免疫)の機序である。特に胸水貯留をきたしやすいのは
免疫発症による。
○マイコプラズマの肺外発症
マイコプラズマのターゲットとしては下気道の肺だけでなく、肺外発症も時として存在する。肺外発
症は直接型、間接型、血管閉塞型の 3 型がある。直接型は、症状の責任部位に菌体が存在し、細胞膜の
リポ蛋白が局所においてサイトカインを誘導して発症する。中耳炎や脳炎、髄膜炎、心外膜炎、間接炎
などが直接型発症である。間接型は、症状の責任部位には菌体は存在せず、免疫複合体形成や免疫学的
交差など免疫応答の修飾による。蕁麻疹や多形滲出性紅斑、急性糸球体腎炎、血球貪食症候群などが該
当する。血管閉塞型は直接型あるいは間接型の機序による血管炎や血栓・塞栓などによる血流の遮断が
病態の基本であり、脳梗塞や肺塞栓症、突発性難聴などがある。マイコプラズマを合併した川崎病も日
本には多いとされている。肺炎と肺外発症の疾患は独立したものと捉えてよい。
○マイコプラズマの診断
ウイルス感染症の場合、血中に特異的 IgM 抗体が存在する期間が感染後の数カ月間に限られているため、
特異的 IgM 抗体を検出することが血清診断としては診断的意義が高い。細菌感染としてのマイコプラズ
マの場合は、ヒトに繰り返し感染するため、健常人の中にも IgM 抗体保有者が存在する。このためペア
血清にて抗体価の変動を観察する必要がある。
PA 法(微粒子凝集法)は、主に IgM 抗体を検出するため、感染早期や再感染などでは IgM 抗体応答が
弱いため検出されにくい。よって特異性は十分だが、感度は 90%に届かない。また PA 法は目視判定の
ため、微妙な条件で値が多少ぶれることがあるので判定には注意が必要。遺伝子診断法として PCR 法と
LAMP 法があるが、どちらも咽頭スワブで検体採取を行うが、増殖には線毛上皮が必要で、上気道では下
気道の約 100~1,000 分の 1 程度のマイコプラズマの菌濃度であり、咳が弱い場合は下気道から上気道ま
で菌が運ばれないことが多く、上気道由来検体では中々安定して検査感度が得られないこともあるので
評価には注意を要する。実際に検体採取する場合は、扁桃腺の裏側部分あるいは咽頭の後壁などを強く
擦過する必要がある。
LAMP 法は検出感度、特異度ともに PCR と同等の高性能で、院内検査室で採取当日に熟練した検査者に
より結果が判明可能。LAMP 法も咽頭スワブなど上気道由来の検体ゆえ、咳が弱い状況では下気道から上
気道に菌が運ばれず陽性が出難いので判定には注意が必要。
抗原検出法(リボテストマイコプラズマ)は病原特異的抗体 2 種類を用いて抗原を捕捉する方法で、
検体採取は咽頭スワブが推奨される。PCR 法と同様、陽性と出たらほぼ間違いなく感染急性期を示唆す
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るが、検査感度は 70%程度で必ずしも高くはない。
マイコプラズマの診断技術が近年格段に向上しているが、LAMP 法や抗原検出法での単独診断だけでな
く、やはり従来型の血清診断法(PA 法によるペア血清)が Gold standard と言える。
○マイコプラズマの薬剤耐性機構
マイコプラズマの薬剤耐性機構は 23S リボソーム RNA ドメイン V の点突然変異のみで、95%以上が
A2063G である。ただしマイコプラズマの場合、感受性菌と比べ薬剤耐性菌の増殖力は劣っており、菌自
体の耐性化が臨床的重症化には直結しない。マイコプラズマの直接的な細胞障害性は弱く、肺炎、肺外
発症はいずれも免疫発症である。
○マイコプラズマの治療
2012 年の全国的な流行で、耐性菌の流行が話題になったが、マクロライド系抗菌剤を第 1 選択とする
治療方針を変更すべき積極的理由はない。重要なことは菌を殺すことよりもキノロン耐性といった新た
な脅威を生まないことが薬物療法でのポイントである。トスフロキサシンを含むキノロン系薬剤の肺炎
マイコプラズマ肺炎に対するルーチンの使用は控えるべきである。キノロン系薬剤の投与は「使用する
必要があると判断される場合」に限るべきである。マクロライド系薬の効果は、投与後 48~72 時間の解
熱で評価する。マクロライドが無効の場合には、成人ではテトラサイクリン系またはキノロン系の 7~
10 日間投与を推奨する。優先的にはミノサイクリンを使用する。
マクロライド系としては、アジスロマイシンは耐性誘導をしやすいので注意が必要。
(中国はマイコプ
ラズマに関してはアジスロマイシンの使用が圧倒的に多い)。クラリスロマイシン(CAM)が妥当である
が、10mg/kg/日では用量不足で、感受性菌を確実に治療しようとすれば最低 15mg/kg/日は必要である。
CAM の後発品ドライシロップは製剤上の問題点があり、必ずしも先発品と同レベルではないので使用に
は注意する。
○マイコプラズマ感染の重症度の指標とステロイド投与
マイコプラズマ感染のサイトカインの指標としては血清 IL-18 がよい指標となるが、必ずしも病初期
から高いとは限らない。IL-18 系の活性化はマイコプラズマ肺炎の重症化を意味し、最もよく反映して
いるのが血清 LDH である。460U/L 以上は IL-18 系の活性化、免疫過剰の目安となり、ステロイド投与の
基準となる。しかしながら発症から 7 日以内のステロイド投与は薦められず。ステロイドの使用量は常
用量。(プレドニソロンとして 1mg/kg/日経口、メチルプレドニソロンとして 1mg/kg/回☓2~3 回/日静
注(小児)、あるいは 500~1,000mg/日静注(成人)、解熱次第減量開始し、7 日間程度で中止が目安。
○Take home message
マイコプラズマ肺炎治療指針 SUMMARY(15 歳以下小児版)
1.マイコプラズマ肺炎の急性期の診断は LAMP 法を用いた遺伝子診断およびイムノクロマトグラフィー
法による抗原診断が有用であるが、確定診断は血清診断(PA 法)。
2.マイコプラズマ肺炎治療の第 1 選択薬にマクロライド系薬が推奨される。
3.マクロライド系薬の効果は投与後 48~72 時間の解熱で概ね評価できる。
4.マクロライド系薬が無効の肺炎には、使用する必要があると判断される場合は、トスフロキサシンあ
るいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮する。ただし 8 歳未満にはテトラサイクリン薬は原則禁忌
である。
5.これらの抗菌薬の投与期間は、それぞれの薬剤で推奨されている期間を遵守する。
6.重篤な肺炎症例には、ステロイドの全身投与が考慮される。ただし、安易なステロイド投与は控える
べきである。
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マイコプラズマ肺炎治療指針 SUMMARY(成人版)
1.マイコプラズマ肺炎の急性期の診断は LAMP 法を用いた遺伝子診断およびイムノクロマトグラフィー
法による抗原診断が有用であるが、確定診断は血清診断(PA 法)。
2.マイコプラズマ肺炎治療の第 1 選択薬にマクロライド系薬の 7~10 日間投与(アジスロマイシンを除
く)が推奨される。
3.マクロライド系薬の効果は投与後 48~72 時間の解熱で概ね評価できる。
4.マクロロイド系薬が無効の肺炎には、テトラサイクリン系薬またはキノロン系薬の 7~10 日間投与を
考慮する。
5.呼吸不全を伴うマイコプラズマ肺炎ではステロイドと全身投与の併用を考慮する。
○まとめ
マイコプラズマ感染は免疫発症で、薬剤耐性は大きな臨床的脅威には直結しない。治療としてはまず
感受性菌を考えクラリスロマイシンを優先的に使い、耐性菌の指標である A2063G を作らないことが大事。
アジスロマイシン、キノロン使用時は耐性菌誘導に注意。抗菌薬は使い方次第、破壊(殺菌性)ではな
くコントロール(静菌性)を!
§地域連携ささえあい小児診療
地域連携ささえあい小児診療スケジュール
■2015 年 10 月・11 月
10 月
11 月
10 月 1 日 木
こどもクリニックもりた
10 月 6 日 火
飯塚病院 小児科
10 月 7 日 水
飯塚市立病院
10 月 8 日 木
飯塚病院 小児科
10 月 13 日 火
森田 潤 11 月 4 日 水
岩元二郎
川崎町立病院
中村由季
11 月 5 日 木
飯塚病院 小児科
11 月 10 日 火
荒木小児科医院
11 月 11 日 水
飯塚市立病院
ひじい小児科・アレルギー科
クリニック 肘井孝之
11 月 12 日 木
細川小児科内科医院
10 月 15 日 木
飯塚病院 小児科
11 月 17 日 火
栗原小児科内科クリニック
栗原 潔
10 月 20 日 火
ささきこどもクリニック
佐々木宏和
11 月 18 日 水
川崎町立病院
10 月 21 日 水
川崎町立病院
11 月 19 日 木
10 月 22 日 木
飯塚病院 小児科
岩元二郎
11 月 24 日 火
10 月 27 日 火
飯塚病院 小児科
岩元二郎
11 月 25 日 水
飯塚市立病院
10 月 28 日 水
飯塚市立病院
11 月 26 日 木
飯塚病院 小児科
10 月 29 日 木
たなかのぶお小児科医院
田中信夫
牟田広実
岩元二郎
岩元二郎
中村由季
穐吉秀隆
岩元二郎
荒木久昭
牟田広実
細川 清
中村由季
やまのファミリークリニック
山野秀文
あざかみこどもクリニック
阿座上才紀
穐吉秀隆
岩元二郎
2015 年 10 月 13 日現在
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§飯塚病院月間診療のまとめ
●入院患者数
142人
《2015年8月》
●外来患者数
●新生児センター入院患者数
27人
1,906人
●分娩件数
●救命救急センター受診者数
1,004人
53件
●主要疾患数(退院患者数;124 人)
肺炎・気管支炎
低出生体重児
高ビリルビン血症及び黄疸
急性胃腸炎
25
8
2
1
痙攣及びてんかん
急性上気道感染症
新生児感染症
腸重積・腸閉塞
●紹介件数 92件
① 平野医院
(件)
6
弥永内科小児科医院
6
③ たなかのぶお小児科
5
④ くきた小児科内科クリニック 4
久留米大学病院
4
5
16
6
2
1
喘息
新生児呼吸障害・心血管障害
髄膜炎
その他
9
4
2
48
飯塚病院 〒820-8505 飯塚市芳雄町 3-83 TEL0948-22-3800(代) http://aih-net.com/
Vol.106 発行日/2015 年 10 月 10 日 発行/飯塚病院 小児科
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