「次世代をタバコの害から守るために」 第24回日本禁煙推進医師歯科医師連盟 学術総会を開催して 十文字学園女子大学 人間生活学部幼児教育学科 教授 健康管理センター長 齋藤 麗子 2月28日,3月1日の二日間,東京で禁煙医師連盟 シンポジウム1「FCTC と東京オリンピック」では 学術総会を開催した。1992年5月31日の世界禁煙デー 寺原朋裕(厚生労働省健康局がん対策・健康増進課た の日に東京で禁煙医師連盟の発会式があり,それか ばこ対策専門官) ,尾崎治夫(東京都医師会副会長・ ら23年経過し今回は第24回の総会を迎えた。発会当 東京都医師会タバコ対策検討会委員) ,野上純子(東 時の我が国の喫煙率は今よりはるかに高く,男性の 京都議会議員) ,大和浩(産業医科大学産業生態科学 喫煙率は60%を超え,男性医師の喫煙率も35~40% 研究所健康開発科学研究室教授) ,岡本光樹(岡本総 という時代であった。その中でせめて医師,歯科医 合法律事務所)などのシンポジストからオリンピッ 師はタバコを吸わず,患者さんにはタバコの害を説 クまで従来の開催国同様に受動喫煙防止条例の策定 明し,病気の治療とともに禁煙につなげようと立ち が不可欠であることがそれぞれの立場から述べられ 上 が っ た わ け で あ っ た。 今 年 は2005年2月27日 に た。東京オリンピックまでまだあと5年あるのでと FCTCタバコ規制枠組み条約が発効されてちょうど エールも送られた。 10年が経つ。また,2020年の東京オリンピックをタ シンポジウム2(ファイザー共催セッション) 「次 バコの煙の害が無い東京で成功することも願ってプ 世代を守るための医療者の役割」では羽鳥裕(日本医 ログラムを組んだ。二日間にわたり,内容の濃いシ 師会常任理事) ,岡田寿朗(公益財団法人8020 推進財 ンポジウムを開催し,170人の参加者を得て成功裏に 団 8020 地域保健活動推進委員会委員長) ,藤原英憲 終了したのは,ご参加の皆様のおかげと感謝する。 (日本薬剤師会常務理事) ,中板育美(日本看護協会常 御来賓の挨拶では 正林督章(厚生労働省健康局が 任理事) ,白根璃沙子(神戸大学医学部学生)のシンポ ん対策・健康推進課長) ,外山千也(厚生労働省元健 ジストそれぞれの職能団体としての喫煙対策の従来 康局長)より,医師連盟への期待も述べられているよ と今後の取り組みについて述べられ,今後はそれぞ うで身の引き締まる思いとなった。招待講演では「子 れが連携して取り組む重要性が指摘され,再確認し どもたちのためにFCTC の内容の実現を」と題して た。今回は若い考えとして医学生の参加も試み,フ 小宮山洋子 (フリージャーナリスト・元厚生労働大臣) レッシュな意見も聞かれた。 は国会内に禁煙議員連盟をスタートさせた苦労話も 二日目は大会長講演「母子保健における喫煙対策30 うかがえた。小宮山様には3年前の総会では現職の厚 年の変遷」斎藤麗子(十文字学園女子大学教授)が最 生労働大臣としてご挨拶いただいていた。 近の母子手帳の良い変化や,子どもを取り巻く受動 喫煙状況がまだまだ改善されていない点など多くを 指摘した。 シンポジウム3「次世代に向けて~ FCTC の完全 履行のために」松沢成文(参議院議員,前神奈川県知 事) ,細野助博(中央大学総合政策学部教授) ,平野公 康(国立がん研究センターがん対策情報センターたば こ政策研究部研究員) ,小池梨花(東京都台東区台東 保健所健康部参事)議会,経済学,企業としてのJT について,行政それぞれの立場からの意見と提言が 興味深いものであつた。 小宮山元厚生労働大臣 30 5 / 2015 複十字 No.362 今回の学術総会では「次世代をタバコの害から守 る」を主要テーマとし,タバコの煙の無い東京でオリ 市並びに開催国に残すことを推進する」と示されてい ンピックを成功させることと,FCTC発効10周年を る。外国の方たちを心からおもてなしするだけでな 記念する総会と欲張った。閉会の時に発表した「無煙 く,オリンピックの終了後に我が国がどれほど良く 都市東京宣言」にもあるように大会宣言として参加者 変わっているかが,問われるのである。今回のオリ の賛同を得て採択された。今後この宣言をマスコミ, ンピックではスモークフリー社会として人々に受動 医学界,医師会,議員などに広めていきたいと思っ 喫煙の無い社会という大きなレガシーをもたらして ている。これからの私たちの様々な働きかけで,受 ほしいと思う。来年の学術総会は沖縄県那覇市を予 動喫煙の害のない社会をめざしたい。 定している。今後一年間もそれぞれの立場で,受動 2020年にはオリンピックが東京で開催され,その 喫煙から身を守るために働きかけをしていくのが, ための準備は始まっている。IOCのオリンピック憲 タバコ病で亡くなったり病気を発症した喫煙者や受 章には「オリンピックの良い遺産(レガシー)を開催都 動喫煙者たちに対しての我々の役割ではないか。 WHO タバコ規制枠組条約(FCTC)発効 10 周年 タバコの煙のない社会を作る東京宣言 ( 無煙都市東京宣言 ) 来る 2020 年、国際都市東京で、56 年ぶりの夏季オリンピック・パラリンピック競技大会が開催さ れます。日本の高度経済成長を象徴するイベントであった前回の東京オリンピックは、新幹線や高速 道路の整備だけでなく、日本人の衛生意識やモラルの向上にも大きく寄与しました。下水道の整備に より汚れた河川が甦り、ゴミのポイ捨てなどは影を潜め、手洗いが奨励されて赤痢などの感染症が減 り、さらには、下げ止まっていた犯罪率も再び低下していきました。今の日本では「あたりまえ」の ことばかりですが、これらはオリンピックという国家的イベントが日本にもたらした、世界に誇るべ き正の遺産(レガシー)であり、私たちもその恩恵を享受しています。 では 21 世紀の東京オリンピックで、我々は次の世代に対し、どのような遺産を遺すことができる のでしょうか。 国立がんセンター疫学部長だった平山雄先生は 1981 年、世界で初めて、受動喫煙と肺がんとの関 係を明らかにしました。彼の遺志を継ぐ世界中の研究者たちが、数え切れないほどの研究を積み重ね、 能動喫煙が全ての臓器に害を及ぼすことに加え、受動喫煙の害も、前世紀のうちに科学的に揺るぎな い事実となりました。これらの科学的根拠に基づいて世界保健機関(WHO)は、WHO として初の国際 条約であるタバコ規制枠組条約 Framework Convention on Tobacco Control (FCTC)を起草し、世界 中の国々が合意しました。日本も 2004 年、19 番目の批准国として、包括的なタバコ規制により人々 が健康に生きる権利を守ることを世界に対して約束したはずです。 今年 2015 年は、その条約が発効して 10 年の節目にあたります。私たち医療専門職の役割は、医学 という科学の恩恵を社会にしっかりと届け、一人でも多くの人の命を救い、健康を守ることにありま す。私たちは、平山博士をはじめとする多くの科学者たちの正の遺産を受け継ぎ、未来を担う子ども たちを含むすべての人々がタバコの害を受けずに暮らせることが「あたりまえ」の社会を作らなくて はなりません。飲食店などの完全禁煙に多くの市民が賛成している今、機は熟しています。実効性あ る受動喫煙の法的規制により顧客のみならず従業員の健康を守ることをはじめ、FCTC の完全実施へ の動きを加速させることが重要です。いのちを守ることの大切さを、次の世代に伝えて参りましょう。 私たち、日本禁煙推進医師歯科医師連盟と学術総会参加者はここに、全医療専門職と市民社会を代 表し、あらゆる人々がタバコの煙を浴びることなく健康的な毎日を過ごせる「空気のバリアフリー社 会」を作ることを誓い、東京オリンピックの選手村予定地を臨むこの築地より、高らかに宣言致しま す。 2015 年 3 月 1 日 第 24 回日本禁煙推進医師歯科医師連盟学術総会参加者を代表して 大会長 齋藤 麗子 5 / 2015 複十字 No.362 31
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