商法(江口眞樹子、千葉 理) 1 1年後期 必 修 4単位 30回 科目内容・目標 商法とは企業に関する生活関係を規律する民法の特別法である。そこで、この授業は民法を理解していること を前提として、商法に対する正確な理解を得ることを目標とする。しかも、商法といっても総則、会社、商行為、保 険、海商、手形・小切手など、その分野は多岐にわたるが、それらのうちでは会社法を中心として講義を行う。な ぜなら、-民法上「法人」についての一般的な規定が置かれているものの-、会社法は(営利・社団)法人に関 する基本法・原則法であると解されるからである。あらゆる法体系のうちで基本法・原則法が法科大学院の必修 科目とされているとすれば、これは当然のことであろう。もっとも、「商法」の授業である以上、会社法以外の分野 についてもおろそかにするわけにはいかない。くわえて、会社法以外にも同じく基本法と評価できるものがある ならば、これについても取り上げるべきであるということになる。この授業では、商法総則および商行為にも言及 する。なお、手形・小切手法については、「手形小切手法」(法律基本科目群・選択科目)において扱うものとする。 これら以外の分野については、その基本原則に属するものを最初に取り扱うとともに、あとは、会社法の講義を なすに際して、必要に応じてそれぞれ言及することとしたい。 なお、この演習の内容および目標は、共通的到達目標(コア・カリキュラム-第二次案修正案)に準拠するもの である。 2 授業の基本方針 まず、この授業では民法(本学の講義科目でいえば「取引法 1」「取引法 2」および「不法行為法」がこれにあた る。「家族法」はあまり関係がない)を理解していることが必要不可欠の前提となる。民法のなかでも、何といって も法律行為に関する正確かつ深い理解が求められよう。これなくしては、商法を学ぶ意味はない。法律行為概 念を本当の意味でわかっていなければ、商法を学ぶといっても所詮は表面的な知識の習得に終始することとな る。この点をよく理解しておいてほしい。より具体的には、会社の「設立」や会社の「決議」といったものは、法律 行為-ないしその要素である意思表示-に位置づけられるが、民法を完璧に理解していなければ、これらが法 律行為であるということはまったく理解できないであろう。しかも、問題は、民法で履修する法律行為の一般原則 とはどこが同じでどこがどう異なるのかといった点に存するのであり、民法を完璧にわかっていなければ、これに ついては最初からお手上げということになる。さらに、法律行為論以外でも、例えば法人論が会社法の学習の前 提となるなど、民法は商法を学ぶ前提として非常に重要である。これらのことをよく肝に銘じておいてほしい。 つぎに、具体的な授業の進め方としては、基本的な概念や基礎知識は予習済であることを念頭に、本質論に 直結する論点やひとりでは理解することが難しいテーマについて講義することとしたい。それゆえ、しっかり予習 をしてこないと、1 時間半の講義が最初から全く理解できないということになる。予め配布するレジュメの冒頭に、 教科書や参考書の該当頁が記載されているので、これらの該当箇所を予め読んでおくことが不可欠である。ま た、重要な裁判例のうち少なくともレジュメで会社法判例百選(有斐閣、以下の教科書欄参照)の掲載番号が記 されているものについては、授業に先立って読んでおくことが求められる。4 単位(30 回)というかぎられた時間 内で、膨大な量の商法を講義しようというのであるから、このような前提に則らざるを得ない。どうかこのことを了 解して欲しい。 つぎに、授業の際には、教師による一方的な説明に終始することなく、受講生諸君に対して適宜説明を求め、 また各自の考え方を披瀝して相互に批判しあうなど、なるべく双方向的な授業を行うつもりである。 以上のような密度の濃い授業を目指すが、時間的な制約から授業時間内にすべての論点や判例について取 り上げることは不可能であると思われる。そこで、それらの論点や判例については、各自が自習することが求め られる。 -1- 3 成績評価 期末に実施する定期試験を基本とする。 講義における質疑応答も可能なかぎり行う予定であるから、授業における態度、発言、質問に対する回答等 の授業への取り組み、および教場レポートの内容も平常点として評価の対象とする。 具体的には、定期試験(70%)および平常点(30%)を総合して厳正に評価する。 評価は、担当教員全員の合議により偏りのないように厳正に行う。 4 教材 〔教科書〕 第 1 回~第 6 回は以下の教科書を使用する。 近藤光男「商法総則・商行為法」〔第 6 版〕(有斐閣法律学叢書) 「商法(総則・商行為)判例百選」〔第 5 版〕(有斐閣、別冊ジュリスト№194) 第 7 回~第 30 回は以下の教科書を使用する。 神田秀樹「会社法」〔第 17 版〕(弘文堂) 「会社法判例百選」〔第 2 版〕(有斐閣、別冊ジュリスト№205) 〔参考書〕 第1 回授業において参考文献一覧を配布するほか、その後も授業中適宜指示するが、ここでは 2 冊 だけ挙げておく。これはあくまで予習・復習の便宜のために挙げるのであって、購入するか否かは 各自で判断すること。 江頭憲治郎 「株式会社法」〔第 6 版〕(有斐閣) 伊藤靖史・大杉謙一・田中亘・松井秀征著「会社法」〔第 3 版〕(LEAGAL QUEST、有斐閣) 5 授業計画 第 1 回 商法の意義、商人および商行為 商法の意義、商人および商行為概念について理解することを目的とする。 具体的には、民法上の概念である「人」や「法律行為」といったものと、商法上のそれである「商人」や「商行為」 との関係、異同等について検討する。 第 2 回 商業登記 商法登記の意義について理解することを目的とする。 具体的には、商号等の登記によって「商人」の存在を明確化させる商業登記制度の意義とその効力、また不 実の登記がなされた場合の考え方について検討する。 第 3 回 商号と名板貸 商号および名板貸人の責任について理解することを目的とする。 具体的には、名板貸人とは何か、名板貸人はどのような責任を負うかについて検討する。 第 4 回 営業の補助者 商業使用人および代理商ならびにその他の補助者について理解することを目的とする。 具体的には、商人の営業を補助しその活動を拡大させる者にはどのような者がいるか、その権限、これらの者 のなした行為の効果等について検討する。 -2- 第 5 回 商行為の通則(1) 第 6 回 商行為の通則(2) 商人の報酬請求権、商事時効を始めとする商行為の通則を理解することを目的とする。 具体的には、報酬請求権、商事法定利率、商事消滅時効、商人間の留置権における民法の原則との相違に ついて検討する。 第 7 回 会社法総論(1)-会社の意義 会社の意義を理解することを目的とする。 具体的には、旧商法における会社の定義と新会社法における会社の定義、従来から会社概念の要素とされて きた「営利性」「社団性」および「法人性」の意味内容や会社の種類がなぜ限定されるのかといった点等について 検討する。 第 8 回 会社法総論(2)-会社の種類 会社の種類を理解することを目的とする。 具体的には、新会社法における 4 種類の会社の分類基準は何かについて把握し、旧商法上の会社の種類と どのような理由で何が変わったのかを検討する。 第 9 回 株式(1)-意義および種類 株式会社の構成員である株主が有する権利(株式)について、意義、本質やその種類を理解することを目的と する。 具体的には、株式の本質、株主権の具体的内容や株主平等の原則等について検討する。 第 10 回 株式(2)-株券 株券の意義および法的性質について理解することを目的とする。 具体的には、株券の発行・不発行、株券の効力発生時期、株券の喪失と再発行について検討する。 第 11 回 株式(3)-株式の譲渡および株主名簿 株式の譲渡の意義、方法および株主名簿の趣旨・名義書換について理解することを目的とする。 具体的には、株式の自由譲渡性や譲渡制限、株式の善意取得、株主名簿の意義および名義書換の効力等に ついて検討する。 第 12 回 会社の機関 会社の機関の意義および各種会社におけるそのあり方について、歴史的パースペクティブの中で理解するこ とを目的とする。 具体的には、所有と経営の分離(ないし一致)や各種会社の機関のあり方、歴史的変遷等(機関設計の柔軟 化)について検討する。 第 13 回 株主総会(1)-意義 株式会社の機関である株主総会の意義および権限について理解することを目的とする。 具体的には、株主総会の意義および権限等について検討する。 第 14 回 株主総会(2)-運営 株主総会の運営について理解することを目的とする。 具体的には、株主総会の招集にまつわる諸問題や運営方法等について検討する。 -3- 第 15 回 株主総会(3)-総会決議 株主総会決議がいかなる法律行為(ないし意思表示)であるか、またこれに瑕疵があった場合の特別の訴に ついて、その制度趣旨・内容を理解することを目的とする。 具体的には、総会決議の法的性質やその要件(成立・有効・効果帰属・効力発生の 4 要件)、および総会決議 取消・無効確認・不存在確認の 3 つの訴等について検討する。 第 16 回 取締役および取締役会(1)-取締役・取締役会の意義および権限等 株式会社の業務執行(ないし代表)機関について、その基礎を確認する。 具体的には、戦前から平成 17 年改正に至る立法の変遷を中心に、これを前提とした取締役、取締役会ないし 代表取締役の位置づけ、機関相互の関係、取締役の選任・就任および権限、取締役会の意義・権限等について 検討する。 第 17 回 取締役および取締役会(2)-代表取締役 代表取締役の意義および権限について理解することを目的とする。 具体的には、代表取締役の業務執行権限の有無、会社代表権限や表見代表取締役の概念等について検討 する。 第 18 回 取締役および取締役会(3)-会社・取締役間の関係 取締役の会社に対する権利・義務について理解することを目的とする。 具体的には、取締役が会社に対して有する権利および会社に対して負う一般的な義務(善管注意義務・忠実 義務)、具体的な義務(競業避止、利益相反取引)等について検討する。 第 19 回 取締役および取締役会(4)-取締役の会社に対する責任 取締役の会社に対する責任のあり方について理解することを目的とする。 具体的には、会社に対する責任の要件等および責任の減免について検討する。 第 20 回 取締役および取締役会(5)-株主代表訴訟 株主代表訴訟について理解することを目的とする。 具体的には、株主代表訴訟の要件等について検討する。 第 21 回 取締役および取締役会(6)-取締役の第三者に対する責任 取締役の第三者に対する責任のあり方について理解することを目的とする。 具体的には、第三者に対する責任の法的性質・要件等、および第三者に対する責任追及の機能について検 討する。 第 22 回 会計参与および監査役、監査役会・会計監査人 監査制度の意義や監査役の権限・義務について理解することを目的とする。 具体的には、明治 23 年制定の旧商法以来の監査制度の変遷や現行法上の監査役の権限ないし義務、監査 役会・会計監査人等について検討する。 -4- 第 23 回 指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社 指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社の意義について理解することを目的とする。 平成17年改正前においては「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」(商法特例法)上の例外 的制度とされてきた委員会設置会社は、平成17年改正により会社法典上の選択肢の一つとされた。また、平成 26 年会社法改正により、監査等委員会設置会社という新たな機関構造が導入された。指名委員会等設置会社 および監査等委員会設置会社が導入された目的、各々の機関構造における各機関の権限等について学ぶ。 第 24 回 会社の設立(1)-意義および法的構造 会社の設立の意義およびその法的構造について理解することを目的とする。 具体的には、商法が規制する会社の「設立」とは何かということや設立行為の法的性質等について検討する。 第 25 回 会社の設立(2)-設立手続の規制の意義 会社設立手続の規制の意義について理解することを目的とする。 具体的には、株式会社の資本制度の意義と設立手続の規制の趣旨について検討する。 第 26 回 会社の設立(3)-瑕疵および責任 会社設立に瑕疵があった場合の設立の効果、その際に責任を負うのはだれかについて理解することを目的と する。 具体的には、設立無効手続について検討する。 第 27 回 株式会社の計算 会社の計算の目的および計算書類や利益配当のあり方について理解することを目的とする。 具体的には、計算の意義、目的や利益配当に対する法規制のあり方等について検討する。 第 28 回 会社の資金調達(1) 新株発行の意義およびその手続、自己株式の処分について理解することを目的とする。 具体的には、新株発行の法的性質やその瑕疵・新株発行無効の訴等、自己株式の処分について検討する。 また、平成17 年改正によって、新株発行は、その条文上は自己株式の処分と併せて「募集株式」の「発行等」とさ れたが、このことの意味についても考えてみたい。 第 29 回 会社の資金調達(2) 新株予約権の意義と発行、社債の意義と発行等について理解することを目的とする。 具体的には新株予約権の概念について理解を深めるとともに、新株予約権は実際にはどのように用いられて いるか、その問題点は何かなどについて検討する。また、社債の意義、社債権者の保護の在り方等についても 検討する。 第 30 回 組織再編および組織変更 組織再編の意義およびその手続について理解することを目的とする。 具体的には、これに属する事業譲渡、合併、分割、株式交換・株式移転の異同やそれぞれの法的性質等に ついて検討する。 さらに、レポートで取り上げた事例演習問題について検討する。 -5-
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