カメラがとらえた摩周湖の底 センサーがとらえた摩周湖の水 環境計測研究センター 田中敦 1 本日の話の内容 -ユニークな摩周湖の特徴 -水中カメラやセンサーを活用し、 ・地球をめぐる物質の動きを調べ ・透明度のしくみをとらえる 2 ユニークな摩周湖の特徴:その位置づけ 北海道東部 阿寒国立公園 国連環境計画(UNEP)の 陸水監視システムGEMS/Waterの ベースラインステーション に日本で唯一登録された湖沼 ベースラインステーション:汚染レベル が低く保たれた状態を観測するため の観測ステーション 3 数字で見た摩周湖の特徴 成 因 カルデラ湖 最大水深 211m 平均水深 146m 湖面積 19.2km2 集水域面積 32.4km2 湖容積 2.8km3 国立公園特別保護地区 4 湖なのか?山なのか! けわしい地形 きびしい気候 これが摩周湖の特徴につながっている 5 研究対象としてのユニークさ 1.水質の汚染が少ない 地球をめぐる物質の動きを調べるための希少な湖 2.日本最高・世界有数の透明度 しかし、透明度が下がりつつある! 透明度のしくみを調べ、回復につなげたい 6 1.地球をめぐる物質の動きを調べる 阿寒国立公園の特別保護地区 誰も住んでいない 誰も立ち入らない カルデラ湖 河川がない 流れ込む汚染がない 大気を経由して湖面に落ち込む物質の受け皿 7 湖水中の元素濃度を見てみると 単位はすべて ppm(百万分の1) 13 ナトリウム ビーカーに一滴に相当 1万分の1 0.001 鉄 0.001 リン さらに100分の1 0.00001 鉛 さらに100分の1 0.0000001 水銀 8 最近、分析値が得られるようになった 湖水中の元素濃度を見てみると どこから湖に入ったのか? 今後、濃度(汚染)は変化するか? 地球をめぐる物質の動き 大気から 大気からか? 雨から 水中の観察・観測が必要 ナトリウム 循環する 鉄 湖底から 9 湖底から 鉛 水銀 濃度は 減るはず 濃度は? リン 分解過程 湖底からか? 湖底の観察・観測が必要 2.透明度のしくみを探る 透明度とは 直径30cmほどの円盤を水中に沈め 見えなくなった深さが透明度 光学的説明 眼が区別 できる感度 6m 下向きに 進む光 上向きに 進む光 12m 透明度板で反射 水で反射 18m 10 日本の湖沼の透明度をくらべてみると 摩周湖以外は公共用水域の観測データ(1981~2006) 11 摩周湖の透明度の長期変動は 1931年に世界一の透明度(41.6m) 2005年に最低の値(14m)→ 新聞記事にもなった ・なぜ、透明度が下がったのか ・何が、透明度を決めているか ・回復する方法はあるのか 1950年以降は10年ごとの平均値 12 摩周湖ならではの観測器の活用 物質の動きや透明度のしくみを探るために 人力で取り扱える 大きさと重さで 人が近づくことを 拒む季節も働く 13 水中カメラやセンサーを備えた観測器の活用 民生用の水中カメラ データロガー 深さや時間ごとに自動的にデータを記録 安価な耐圧容器に入れることで 水深200mでの画像を記録 物質の動き を探る 透明度のしくみ 光センサー 水中の光の色(波長)ごとにデータを採取 14 湖岸からもカメラで観測できる ダイナミックな氷や水・霧の動きが見えてくる 一日で起きる 湖面の開氷 の様子 摩周第一展望台 弟子屈町設置 ウェブカメラ 15 太陽光の届く範囲でカメラを入れてみましょう 大きな粒子が浮遊しているのがわかる 2010年10月の観測 23m 33m 43m 16 データロガーによる深さごとの観測例 クロロフィルと濁度の深さ分布 高クロロフィル層 ケイ藻殻など 2007年8月 高濁度層 鉱物片など 17 透明度を決めるものは? 減 衰 水中で光は弱くなる 水自身による吸収 粒子による吸収 - 植物プランクトン - 土壌粒子 減衰係数 照度 6m 水温 クロロフィル 濁度 12m 粒子による散乱 溶けている物質による吸収 減衰する要因 連続観測する4項目 18m 18 水面下にデータロガーを沈めて 年間を通じた連続観測を行う 20m 光の減衰係数 40m クロロフィル 濁度 水温 19 年間を通した水温の変化と湖水の循環 表層の水温が 高く,下が低い = 成層 = 密度の差により 混合しない 20 年間を通した水温の変化と湖水の循環 摩周湖は年に2回循環し、真冬は結氷する複循環湖 年に2回, 12月と5月に 水全体が 混合する 21 年間を通したクロロフィルと濁度の変化 水温変化とともに植物プランクトンの多い層が上下する 春~夏 20m層 40m層 20m層 40m層 22 年間を通したクロロフィルと濁度の変化 水温変化とともに植物プランクトンの多い層が上下する 秋 20m層 40m層 20m層 40m層 23 年間を通したクロロフィルと濁度の変化 水温変化とともに植物プランクトンの多い層が上下する 冬 20m層 循環期 40m層 20m層 40m層 24 年間を通した光の減衰(下向き減衰係数)の変化 循環期に減衰が小さく(光が通りやすく)、夏に大きくなる 25 年間を通した光の減衰(下向き減衰係数)の変化 透明度は季節変化し、予想された推定透明度と観測値(○)がよく一致 真冬よりも、循環期に高くなる 2009年5月には32.5mの高い透明度 26 透明度の季節変化の模式図 夏から秋(成層期) 冬(循環期) クロロフィルが高い クロロフィルが低い 光が届かない 光が届く クロロフィルが低い 栄養が少ない 春にかけての水温上昇時期も同様 12月と5月の循環期に透明度が改善 27 植物プランクトンによる光の吸収 16.5m 透明度 32.5m 28 プランクトンのサイズと光吸収・散乱 サイズ大 サイズ小 等しいクロロフィル量 晴の日の裏摩周展望台 29 プランクトンのサイズと光吸収・散乱 サイズ大 サイズ小 等しいクロロフィル量 光吸収小 光吸収大 霧の日の裏摩周展望台 霧=小さい水滴 視程小=透明度小 サイズが小さいとクロロフィルが同量でも光吸収が強くなる さらに、光散乱も大きくなる 透明度の低下 30 植物プランクトンの小型化 過去の摩周湖 (定性データから推定) 現在の摩周湖 (定量的なデータを採取) ピコ植物プランクトン 2/1000 mm 2/100 mm 大型の植物プランクトン 2/10 mm 総量に差はなく 小型化の進行 140トン 140トン 31 単純化した摩周湖の食物網(ヒメマス導入前後) ヒメマス導入直後 ヒメマス導入前 魚類・ザリガニ ニジマス 昆虫 ザリガニ ニジマス ヒメマス 動物プランクトン 植物プランクトン 大型(ミジンコ) 小型(ワムシなど) 昆虫 ザリガニ 大型(ミジンコ) 小型(ワムシなど) 植物プランクトン 植物プランクトン ピコ植物プランクトン ピコ植物プランクトン 沈降・分解 バクテリア 栄養塩(窒素・リン) 32 単純化した摩周湖の食物網(ヒメマス導入前後) ヒメマス導入後 魚類・ザリガニ ニジマス 昆虫 ザリガニ ヒメマス 動物プランクトン 植物プランクトン 大型(ミジンコ) 小型(ワムシなど) 植物プランクトン ピコ植物プランクトン 沈降・分解 バクテリア 栄養塩(窒素・リン) 33 光の届かない深い水や湖底では…… 光の届かない水深に 多数の粒子 ・何でできているか 植物片・プランクトン の死骸など ・ただよっているのか 毎分1cm以下で ゆっくり沈む 物質の動きにどの 程度影響するか 湖底に鉄を含んだ泥 未分解の葉や枝 ・湖底湧水の場所 34 粒子を含めた栄養や物の動きの例 栄養塩(リン酸と硝酸)の深さ分布 水中をゆっくり沈降する巨大な粒子 雨・岸からの供給 粒子全体の数%か 粒子に 変化 溶解して バランス 湖底からの供給 ≒ 3ヶ月 で消費 深い水深まで生物の影響がある 35 まとめ ユニークなフィールドである摩周湖 世界有数の透明度が減少 データロガーの利用 真冬を含む データを初めて採取 地球をめぐる物質の動き 湖水の分析 技術の進歩で 濃度がわかった 水の循環と透明度の季節変化 水中カメラの活用 深層にまで 粒子が浮遊 湖底湧水や生物の影響 過去のヒメマスの導入が透明度を変えるきっかけ 36 ご清聴ありがとうございました 本研究は以下の機関との共同の研究活動の結果です 篤く感謝を申し上げます ・弟子屈町 ・てしかが自然史研究会 ・自然公園財団川湯支部 ・北海道立総合研究機構環境科学研究センター ・北海道大学 ・北見工業大学 ・千葉大学 ・山梨大学 ・日本大学 ・朝日新聞社 写真:藤江晋 37
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