当施設における転倒の実態

4-第4-O⑥-5 一般演題
9月4日(金) 9:00∼10:00 第4会場 パシフィコ横浜 会議センター3階 311
リスクマネジメント⑥ [座長]大村 浩司(介護老人保健施設アルマ・マータ)
第1群:101 入所
第2群:205 データのある比較・検討
第3群:O3367 リスクマネジメント 苦情処理
当施設における転倒の実態
過去3年間の発生状況から
介護老人保健施設 さかい幸朋苑
小関 正和
当施設では転倒予防に対する取り組みを行なっているものの、件数は減少していない現状にある。今回転倒の実態を
明らかにするために過去3年のデータから調査を行った。その結果からみえた傾向について報告する。
【はじめに】
高齢者の転倒は多くの場合、日常生活活動(以下ADL)の低下をきたし生活の質の低下につながることになる。在宅復
帰を目指す老健施設では転倒によって在宅復帰を阻まれることも少なくはない。転倒予防は高齢者の生活を支える上
で重要であるといえる。当施設においても転倒予防の取り組みを行なっているが転倒件数は減少していない。今回、
転倒の傾向から転倒予防の一助を導くことを目的に当施設入所者の転倒の実態について調査、分析を行なった。その
結果及び結果からみえた傾向について報告する。
【研究方法】
1. 調査期間:平成24年4月∼平成27年3月
2.調査対象者:対象者は調査期間内に当施設へ入所した新規の利用者とした。ただし自発的な活動がないと考えられ
る障害高齢者の日常生活自立度C2の者は今回の研究の対象外とした。
3. 調査方法:(1)「いろんなこと報告書」(以下報告書)から期間中に対象者に発生した転倒回数、及び発生場所、転
倒の原因、転倒発生時について調査を行った。転倒の定義は当法人が定めている「意図しないで転んだ結果、足底以
外の体の一部が床についた状態」とし、ずり落ちも転倒に含めることとした。また転倒の原因は報告書に記載されて
いる本人からの聞き取りも参考にしている。(2)新しい環境との関連を見るために転倒までの期間について調べた。
(3)対象者の概要については年齢・性別・要介護度・認知機能・ADL能力・服薬の有無を調査した。認知機能は長
谷川式簡易認知症スケール(以下HDS-R)をADL能力はBarthel Index(以下BI)を用いた。また服薬については先行研
究の報告を参考に睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬の服用の有無とした。(4)解析方法は、対象者を転倒の
有無から転倒群と非転倒群に分類し、入居者の概要ごとにt検定を行い、服薬についてはχ2検定を行った。検定結果は
t検定、χ2検定ともに有意水準5%未満(p<0.05)とした。
【結果】
対象者119名(男性29名、女性90名)のうち転倒群が44名、非転倒群が75名であった。(1)転倒回数は69件であり、23名
(54.8%)が2回以上転倒していた。転倒の発生場所については居室内ベッド周囲が22件(31.9%)、居室内その他の場
所が23件(33.3%)居室内トイレが4件(5.8%)と49件(71.0%)が居室内で発生していた。次に転倒の原因としては、
排泄時の転倒が34件(49.3%)と約半数を占めた。転倒発生時間は3時間ごとに分けて集計を行ない、午前6時∼9時の
間が15件(21.7%)と最も多かったが日中を通して著明な差はみられなかった。(2)転倒までの入所期間については
3ヶ月毎で集計を行った。入所30日以内に転倒した者が18名(40.9%)と高い割合を示し、入所90日以内になると31名
(70.5%)であった。(3)および(4)年齢、要介護度、HDS-R、BIでは転倒群と非転倒群の間に有意な差を認めら
れなかった。しかし服薬については服薬者が非服薬者に比して多く転倒していることが明らかとなった。
【考察およびまとめ】
今回の調査では転倒の発生状況を原因、場所、時間で比較・分析を行なった。まず転倒の発生場所について、約7割が
居室内で発生している一方で転倒の原因の約半数は排泄時であった。しかしトイレでの発生割合は居室内トイレ、共
同トイレ合わせても8件(11.6%)と低く、逆にベッド周囲や居室内で発生が高かった。このことから排泄行為という
よりも起き上がりや立ち上がり等、排泄までのプロセスで転倒が発生していることが考えられる。転倒発生時間をみ
ても6時から18時までの時間帯では顕著な差はなく時間的な特徴はみられなかった。このことから定時に限らず行われ
る排泄行為と関連しているものと推察された。
次に転倒までの入居期間は30日以内で多く発生し、約7割の入居者は入居90日以内で転倒している。これは新しい環境
に慣れていないことが要因として考えられるが、加えて入居後90日以内は短期集中リハビリの期間であり、リハビリ
の実施によって生活機能や身体機能が高まる一方で動作の確立が不十分なまま行動された結果転倒につながった可能
性が考えられる。リハビリの効果が得られる反面転倒のリスクが高まることを再認識した。
また対象者の年齢や要介護度、認知機能、ADL能力からは転倒の傾向がみられなかった。これらだけでは転倒の要因
になり得ないと考える。しかし睡眠薬等の薬剤の服用により転倒が発生しやすいことが示された。古川は睡眠薬など
の薬物は他の要因と重なった場合、転倒を誘発する可能性が高いと述べており今回の調査結果からも薬剤が転倒を誘
発しているものと考えられる。
以上のことから当施設での転倒は入所後の短期間で排泄に関連した転倒が居室内で発生している傾向にあると推察さ
れた。そのため、排泄時のプロセスの確認や居室内での過ごし方を検討することが転倒予防に有用であると考える。
また服薬状況やリハビリの進捗状況を踏まえたリスク管理を多職種協働での取り組むことで短期間に発生する転倒の
予防につながると考える。今回の調査結果から得られた傾向を活かした生活支援を行ない、入居者にとって安心、安
全な生活ができるよう努めていきたい。