ミ ュータ ンス連鎖球菌数と小児の生活習慣の関係について

小児歯科学雑誌40(4):693-7002002693
ミユータンス連鎖球菌数と小児の生活習'慣の関係について
宮 城 淳
堀 雅
東 知 宏
中村由貴子
小坂田弘
紀 筆 *
BazarOyuntsetseg
RodisOmar
松村誠士*
下 野 勉 *
彦子
岡崎好秀
要旨:鰯蝕のない3∼5歳の小児114名を対象として,Dentocult-SMRStripMutansテスト(OrionDiagnostica
社製)を用い,ミユータンス連鎖球菌数について調べた。また小児の生活習’慣に関する15問のアンケート
を実施した。そしてミユータンス連鎖球菌数とアンケート項目との関係について数簸化理論Ⅱ類を用ぃ解析
した。
さらに上位にランクされた項目についてはt検定を用い検討を加えた。
1.Dentocult-SMRStripmutansテストの判定結果の分布は,クラスOは69.3%(79/114名),クラスlは
21.9%(25/114名),クラス2は8.8%(10/114名)であり,クラス3は1人もいなかった。
2.以下の項目はミュータンス連鎖球菌数と有意に関係していた。
1)間食の不規則摂取tf検定p<O.Ol)
2)間食回数3回以上tf検定p<0.01)
3)甘味飲料を多く飲むtf検定p<0.05)
4)保護者の鋪蝕が多いtf検定p<0.05)
5)間食後の歯磨きをしないtf検定p<0.05)
以上より,これらの項目に対する保健指導を行えば,ミュータンス菌の定着のリスクが減少し,ひいては
小児の鰯蝕予防につながることが期待できる。
Keywords'. ミュータンス連鎖球菌,Dentocult-SMRStripmutans,生活習慣,餓蝕活動性試験
緒
言
離蝕原生菌であるミュータンス連鎖球菌(以下ミュー
ジンi3)やキシリトール'4個)の応用が試みられている。
さて感染とは,病原体が宿主の体内に侵入し,定着増
殖すること』・'8.1,)であり,侵入しても定着しなければ感
タンス菌とする)は,乳歯の萌出後に検出されることが
染とはいえない。
知られている1−s)が,この菌の伝播については,母子を
中心とする家族内の感染とする報告! ‘Clが多くなされて
て調査し,保健指導を行うことは,感染のリスクを低下
いる。
させる可能性につながる。
ミュータンス菌が早期に定着した小児は,遅く定着し
た小児と比較し,高い鰯蝕擢‘患状態にある2.S.9)そこ
で,子どもと接する機会の多い母親からの感染を防ぐこ
とが,小児の溌蝕予防へつながると考えられる'' ")。母
子感染を防ぐためには,母親の唾液中のミュータンス菌
数を減らすことが重要であり,そのためにクロルヘキシ
岡山大学歯学部付属病院小児歯科
車岡山大学大学院医歯学総合研究科行動小児歯科分野
岡山市鹿田町2-5-1
(主任:下野勉教授)
(2”2年7月3日受付)
(2002年7月6日受理)
すなわち宿主(小児)に菌を定着させない要因につい
そこで本研究では,雛蝕のない小児を対象として,
ミュータンス菌数を判定するDentocult-SMRStripMutansテスト" "'(OrionDiagnostica社製)を用いて,小
児の生活習慣とミュータンス菌の存在について検討を加
えた。
対象ならびに方法
3∼5歳の幼稚園児330名を対象に歯科健診および
Dentocult-SMRStripmutansテスト(以下SMテストと
略す)を行い,そのうち離蝕のない小児114名を抽出し
た。また同時に,保護者に間食習’慣や歯磨き習’慣を中心
とした15項目の生活習’慨に関するアンケートを実施し
694岡崎好秀ほか:ミユータンス菌数と小児の生活習慣
間食の回数は何回ですか?
戸外遊びを良くしていますか?
本人は歯を磨きますか?
69.3(γ
保護者の方は,仕上げ磨きをしてあげていますか?
︵Uでn↑nJ“虞︺
勺lln〃↑向く︺“”マ一hJ︵、︶﹃JI︵×︺︵u︺宅■1宅日0里■0五10ゴO0qU8
QQQQQQQQQQQQQQQ
間食を与える時間を決めていますか?
よく飲む飲み物は,何ですか?
間食の後歯を磨きますか?
今までに,フッ素を塗ってもらったことはありますか?
間食の与え方に気をつけてあげていますか?
お口の中をよく見てあげていますか?
保護者の方は,むし歯で治療した歯が多くありますか?
保護者の方は,甘いものを好んで食べますか?
いつ頃から甘いおやつを食べるようになりましたか?
甘い飲み物を飲む回数は何回ですか?
噛んで軟らかくしたものを与えた経験はありますか?
図1アンケート項目
州
跨
21.9%
、
8
〃
0%20%A0¥60S80%100S
ロクラス0口クラス1回クラス2
図2鰯触のない小児におけるミュータンス菌検出率
レンジならびに偏相関係数を表1に示す。レンジならび
に偏相関係数の順位が上位である項目ほど,ミュータン
ス菌の存在と関係が深いことを意味している。上位にラ
付属のプラスチックストリップ(8×73mirOを舌の一
ンクされている項目としては,①間食回数②甘食を始
めた時期③保護者の餓蝕の状態④食後の歯磨き⑤
間食の規則性⑥甘味飲料の回数⑦よく飲む飲み物で
で10回転し唾液を付着させた。次に,SMテストの壌
ある(表1。
た(図1)。
SMテストはパラフィンペレットを1分間噛ませ,
地にプラスチックストリップを挿入し48時間培養後,
次に,各項目のカテゴリーウエイトを図3に示した。
モデルチヤートによりクラス0からクラス3までの4段
カテゴリーウエイトが正の値を示すほどミュータンス菌
階判定を行った。
が検出される可能性が低く,負の値が大きくなるほど可
なおSMテストとI唾液1.0m/あたりのミュータンア
能性力塙<なる。
菌数との関係20)は,クラス0では<1()℃FU/m/.クラス
検出の可能性が低くなる生活習慣項目は,甘食を始め
1は11)-∼1(1℃FU/mノ,クラス2は105∼10"CFU/m/.多′
た時期が3歳以上,間食後に歯磨きをする,保護者の鰯
ラス3は>10'CFU/m/である。
蝕が普通.少ないの順であった。一方,検出の可能性か
歯科健診は,十分な照明下で歯鏡を,また必要に応i
て探針を使用して行った。
高くなる項目は,間食回数が3回以上,間食の不規則摂
取,甘味飲料をよく飲むの順であった。
そして,SMテストによってミュータンス菌の存在を
次に,各アンケート項目でレンジならびに偏相関係数
外的基準とし,得られたアンケート項目を要因として林
の高い項目において,ミュータンス菌の存在との関係に
の数量化理論第Ⅱ類期-271を用い計算した。そしてアイテ
ム内のカテゴリーウエイトの最大値と最小値の差である
ついてt検定を行った。間食の不規則摂取児(48.6
%,37/114名)は,規則摂取児(22.1%.77/114名)に
レンジと偏相関係数から,ミュータンス菌の存在にか刀
比べ,検出率が有意に高かった(p<().01.図4)oま
わる生活習慣について調査した。
た,間食回数3回以上の小児(47.1%,17/114名)は,
2回以下の小児(26.8%.97/114名)に比べ,検出率か
勺
さらに菌の存在と関係の深い生活習慣の項目を抽出
し.t検定を用い検討を加えた。
結 果
SMテストの判定結果の分布は,クラス0は69.3%
有意に高かった(p<0.01.図5)。次に,甘味飲料を多
く飲む小児(47.8%,23/114名)は,お茶や牛乳を中心
に飲む小児(26.4%,91/114名)と比べ,検出率が有意
に高かった(p<0.()5.図6)oさらに,保護者自身の餓
(79/114名),クラスlは21.9%(25/114名).クラス
蝕が多い者(37.5%,72/114名)は普通。少ない者
は8.8%(10/114名)であり,クラス3は1名もいな
(19.0%,42/114名)と比べ,検出率が有意に高かった
かった(図2)。
(p<0.05.図7)。間食後の歯磨きをしない小児(37.5
クラス0をミュータンス菌未検出群(以下SM−群と
%,88/114名)は,歯磨きをする小児(7.7%.26/114
する),クラスlおよびクラス2は,ミュータンス菌が
名)に比べ,検出率が有意に高かった(p<().05.図8)o
存在すると考え検出群(以下SM+群とする)に群分↓
しかし,甘食を始めた時期が3歳以上の小児(21.4%,
し外的基準とした。
28/114名)と2歳以下の小児(33.7%,86/114名)で
数量化理論第Ⅱ類により抽出されたアンケート項目の
は,有意の差は認められなかった(p=0.16.図9)。
小児歯科学雑誌40(4)2002695
表1各要因のカテゴリー別のレンジと偏相関係数
31間食の規唱
02間食回謝
する
しない
Q6よく飲む飲み物
お茶・牛乳
甘味飲料
Q7間食後の歯磨き
する
しない
Q8フッ化物塗布の経験
あり
なし
Q9間食への配慮
いいえ
Q10口腔観察(保護者)
いいえ
はい
はい
012保護者の甘味I噌好
好き
嫌い
Q13甘食を始めた時期
2歳以下
3歳以上
014甘味飲料の回数
Itu!以下
2回以上
015噛み与えの状態
ある
ない
不明
考 察
gジ△4?
多い
普m少ない
555
Qii保護者の鰯蝕
卯塑一釧塑一泌郷一“弘一兜訓一塊ね一沌哩一”幻一駈羽−ぬ洞
Q5仕上げ磨き(保護者)
0.5154(9)
0.1140(8)
0.5501(7)
0.1203(7)
0.7641(4)
0.1779(4)
0.1654(13)
0.0473(14
0.2563(12)
0.0524(12)
0.2748(10)
0.0755(9)
0.7648(3)
0.2077(3)
0.0184(14)
0.0050(13)
0.8938(2)
0.2135(1)
0.“48(6)
0.1714(5
0.5273(8)
0.0897(10)
テストの培地には,ストリップへのコロニー付着を容易
にするため,30%の蕨糖が含まれている鋤o
本研究では,小児の生活習’慣とミュータンス菌数との
まず,離蝕のない小児を対象としてSMテストを行
関係について検討を加えた。ミュータンス菌の選択培地
い,ミユータンス菌の存在について調べた。そして判定
結果を2群に分け,クラス0群(69.3%)をSM−群,
は,GoldらのMSB培地(MitisSalivariusBacitrasin培
地)』'が一般的である。しかし,この方法では,操作が煩
雑なため多人数を対象とする疫学調査には適さない。
クラスl∼3群(30.7%)をSM+群とし分析を行った。
関狸によれば3∼5歳児の有所見者(クラスl∼3)の
そこで本研究では,SMテスト" 221を用いて検討を加
割合は,約60.4∼66.7%であり,本研究の約2倍と多
えた。Jensen20)によると,SMテストとMSB培地上の
い。しかし,今回は,鵬蝕のない小児を対象としている
ミュータンス菌数は強い相関関係があると報告してい
ためクラス0が最も多くなったと考えられる。
る。なおMSB培地は20%の蕨糖が含まれているが,SM
さて,保護者とその子どもの雛蝕‘催.患状態には,正の
696岡崎好秀ほか:ミユータンス菌数と小児の生活習慣
要 因
要
因カ
力テ ゴ リ ー レ ン ジ
(
n
)
唆射的
間食の規則性
お茶牛乳
不眠風的一
間食同勧
(
9
1
)
Z6.4%
2国以下
]圏以上
多い
外遊び
少ない
する
歯磨き(本人)
甘味飲料
しない
47.8%
(
2
3
)
通
、
仕上げ磨き(保瞳者
0%20%40%60%80%100%
猫療・牛乳
よく飲む飲み物
甘唾飲料
pSM+pSM−
する
間食俊の歯晒き
図6噌好飲料とミュータンス菌の検出率
あり
フッ化物塗布
X*検定則.05
しない
なし
はい
間食への配虚
j刀
4口
く、く
いいえ
はい
口腔観察(保湿者)
いいえ
保硬者の闘蝕
旬ヨ少ない
多い
保趨者の甘味噌好
甘食を始めた時期
普通少ない
好き
囲い
2厘以下
〕α以上
甘味飲料の回数
多い
(
7
2
)
1画以下
2国以上
あら
噛み与え
ない
0%20%40%60%80%100%
不 画 皇
SM+DSM-
X*検定魂.05
-1-0.500.5
図7保護者の鶴蝕とミユータンス菌の検出率
図3各アンケート項目におけるレンジ
(
n
)
規則摂取
不規則摂取
48.6%
(
n
)
(
7
7
)
する
(
2
6
)
(
3
7
)
しない
(
8
8
)
OK20X40%60%80%100%
SM+DSM-
0%20%40%60%80%100%
DSM+DSM-
X*検定<0.01
X'検定く0.05
図4間食の規則性とミュータンス菌の検出率
図8間食後の歯磨きとミュータンス菌の検出率
(
n
)
2回以下
3回以上
Z6.8%
47.1%
3趣以上
(
1
7
)
2鹿以下
0%20%40%60%80%100%
pSM+pSM−
X*検定<0.01
図5間食回数とミュータンス菌の検出率
(
n
)
(
9
7
)
Z1.4%
(
2
8
)
(
8
6
)
0%20%40%60%80%100%
口SM+pSM−
X*検定n.sp=0.16
図9甘いおやつを食べ始めた時期とミュータンス菌の検出率
小児歯科学雑誌40(4)2002697
相関関係が認められる2"9)。山本ら2,)は,未処置歯を有
する母親の子どもは,有しない母親の子どもに比べ2歳
時の雛蝕が多かったとしている。この理由として,歯の
形態や生活習慣の類似性が考えられるが,ミュータンス
菌の家族内の感染も重要な要因の一つであろう。
ミユータンス菌の感染は歯の萌出とともに始まること
また,口蓋裂児に対して哨乳を可能にするためしジン
床が用いられているが,床の装着によりミュータンス菌
は早期に定着するという報告頚)もある。
先に述べた感染予防の研究''一'71では,母親のミュータ
ンス菌を減らすことに主眼をおいているが,もう一つの
方法は,宿主(小児)側の因子の強化である。すなわ
が知られており,Caufield"によれば平均感染年齢は2歳
ち,ミュータンス菌が侵入しても,その後の定着を防ぐ
2か月であり,19か月で25%,31か月で75%の小児か
因子を調べ,保健指導を行うことは,感染の予防につな
ら検出される。また,この時期に感染しやすいことから
がると考えられる。
"感染の窓"3)と名づけられている。感染は,子どもと最
も接する機会の多い母親からが主であるが,遮伝子型の
研究5.10)により父親や保育園の友達などからも感染する
可能性が知られている。
母子感染を予防するため,多くの報告がある11-1"o
Brambillaら'3)によると,母親に毎日フッ化物とクロル
本研究では,ミュータンス菌の存在を外的基準として
林の数最化理論第Ⅱ類23-27)を用いた。この分析方法は,
当初胃がん24)や動脈硬化のリスクファクター2s)の研究に
ついて用いられてきたが,歯科領域では1歳6か児歯科
健診等における餓蝕発生の要因分析に応用されてい
る
2
6
.
2
7
)
ヘキシジンの洗口の処置を行った場合,小児のミュータ
今回,上位にランクされたのは,主として食生活に関
ンス菌レベルが有意に低かったと報告している。また
する項目であった。久保田ら27)の,数量化理論Ⅱ類を用
Soderling'鋤やIsokangas'別は,出産後3か月から母親にキ
いた1歳6か月児の研究においても,関係の強い項目と
シリトールガムを噛ませたところ,5歳まで小児の
して,就寝時の哨乳の有無,間食としてよく飲む飲み
ミュータンス菌レベルが有意に低かったとしている。下
物,間食回数,夕食前の菓子摂取頻度であり,食生活に
野I‘'"は,妊産婦教室において,食物の噛み与えをさせ
関する項目が多い。Grindefjord*'も1歳児で夜間の甘食
ない指導を徹底することで,2歳6か月時までは,まっ
摂取量,甘食の摂取頻度が多い場合,ミュータンス菌出
たく鶴蝕の発生を認めなかったとしている。
現のオッズ比が高いと述べている。
しかしミュータンス菌は,一度口腔内に定着すると,
完全に除去することが困難”-")とされている。Bram-
理由として,菌の定着には,蕨糖の存在‘)が大きく関与
billa"'は,菌数がl×10℃FU/m/より高くなると永久感
していると考えられる。
染し,一度感染した後にはそのレベルが上昇すると述べ
これらミュータンス菌の検出と食生活との関係が深い
さて西野ら3鋤は,対数線形モデルを用い離蝕発生要因
ている。Kristoffersson*"らは,ミュータンス菌の菌数を
について調査したところ,母親のカリオスタットテスト
低下させるために隣接面のPMTC(プロフェッショナ
は,1歳6か月時の鶴蝕とは関連性が低かったが,3歳
ル・メカニカル・ツース・クリーニング)を行ったが,
時では最も強かったと報告している。ミュータンス菌の
菌数は一時的に低下するのみであると述べている。
母子感染は,乳臼歯の萌出開始期から完了まで急増す
最近では,ミュータンス菌を除菌するために,歯科医
る2.3.鋤ことから,1歳6か月から3歳までの間に母親の
院でPMTCを行い,クロルヘキシジンケルをトレー法
口腔細菌叢の影響を受けることが,小児の離蝕発生につ
で塗布し,さらには家庭ではフッ化物を利用する,デン
ながると考えられる。また三原ら")は,2歳時における
タル・ドラッグ・デリバリー・システム(3DS)""'の
カリオスタットテストと生活習‘慣との関係について調べ
応用が試みられており,今後の応用が期待される。
たところ,離蝕活動性が高くなる項目として,就寝時の
さて感染とは,病原体が宿主の体内に侵入後,定着増
哨乳ピン使用,間食の不規則摂取,間食回数が3回以
殖し,しかも機会があればいつでも宿主に為害作用が現
上,おやつを遊びながら食べる,市販ジュース・炭酸飲
われる状態をさす18.19)その結果として病的現象が現わ
料を飲む等をあげている。カリオスタットテストの色変
れることが発病である。
化は,細菌(歯垢)の酸産生能によるものであるが,酸
つまり感染の成立のためには,ミュータンス菌が小児
の口腔内に侵入し,歯牙の表面に定着する必要がある。
餓蝕は,ミュータンス菌の感染により初発する』)こと
を考慮すると,感染の時期が遅れれば,以後の小児の雛
蝕催患が低下する3.,)ことが理解できる。
産生菌としては,主としてミュータンス菌や乳酸梶菌と
考えられている"'・三原の研究")において関連性が認め
られた理由は,食生活の乱れが,ミュータンス菌の定着
につながり,鰯蝕活動性が高くなったと考えられる。
以上のことより,ミュータンス菌の母子感染を防ぐに
698岡崎好秀ほか:ミユータンス菌数と小児の生活習慣
は,母親の口腔を清潔に保つことで,小児の口腔への侵
Modeer.T.:Pi℃valenceofmutansstreptococciinone-year-
入を防ぐことが重要である。また同時に,今回抽出され
oldchildren,OralMicrobiol.Immunol.,6:280-283,1991.
た項目に従い,保健指導を行えばミュータンス菌の定着
のリスクが減少し,ひいては小児の離蝕予防につながる
ことが期待できる。
9)Straetemans,M.M.E、,vanLoveren,C.deSoet,J.J.,de
Graaff,J.andTenCaに,J.M.:Colonizationwithmutans
st1℃ptococciandlactobacilliandthecariesexperienceof
childrenaftertheageoffive,J・Dent・Res.,77:1851-1855,
1998.
まとめ
鎚蝕のない3∼5歳の小児114名を対象として,
Dentocult-SMRStripmutansテストを用いミュータンス
1
0
)
K
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K
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U
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K
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S
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Suzuki,J.,Okada,M.andNagasaka,N、:IntrafamilialdistributlonofmutansstreptococciinJapanesefamiliesand
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M
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l
.
I
m
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u
nol.,43:99-106,1999.
連鎖球菌数について調べ,同時に生活習’慣に関するアン
11)Kohler,B.,Brathall,D.andKi℃sse,B.,:Preventivemeas-
ケートを実施した。そしてミュータンス連鎖球菌数とア
u1℃sinmotherinfluencetheestablishmentofthebacterium
ンケート項目との関係について調査した。
その結果,以下の項目はミュータンス連鎖球菌数と有意
Sti噂ptcoccusmutansintheirinfants,Ai℃h.OralBiol..28:
225-231,1983.
12)Kohler,B、,Bratthall,D.andKrasse,B.:Preventivemeasuresinmothersinfluencetheestablishmentofthebacterium
に関係していた。
1)間食の不規則摂取tf検定p<0.01)
2)間食回数3回以上(r検定p<O.Ol)
3)甘味飲料を多く飲むtf検定p<0.05)
4)保護者の餓蝕が多い(r検定p<0.05)
5)間食後の歯磨きをしない(r検定p<0.05)
上記の生活習慣は,ミュータンス連鎖球菌の定着と関係
することが示された。
以上のことより,これらの項目についての保健指導
を,小児にミユータンス連鎖球菌が定着する2歳以前に
行うことにより,ミュータンス連鎖球菌の定着を防ぐこ
とができ,小児の餓蝕予防につながることが期待でき
る。
文 献
1
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transmissionininfants,J.Dent.Child.,43:192-195,1976.
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Finn・Dent.Soc,87:443-447,1991.
3)Caufield,P.W.,Cutler,G.R.andDasanayake,A.P.:Initialacquisitionofmutanssti℃ptcoccibyinfants:Evidence
foradisci℃tewindowofinfectivity,J・Dent・Res.,72:3245,1993.
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1999,pp・112-115.
5)香西克之:保育園児におけるミュータンス菌の伝播様
式,小児歯科臨床,6(3):27-33,2001.
6)増田典男:血清学的判別を基礎にした日本人小児におけ
Streptococcus〃"tansintheirinfants,AⅡ℃h・OralBiol.,28:
225-231,1983.
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Godoy,F・andStrohmenger,L、:Cariespreventionduring
pregnancy:i℃suitofa30-monthstudy,J.A、D.A、、129:
871-877,1998.
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P、:Occun℃neeofdentaldecayinchildrenaftermaternal
consumptionofxylitolchewinggum,afollow-upfrom0to
5yearsofage,J・Dent.Res.,79:1885-1889,2000.
16)下野勉,壷内智郎,中村由貴子,福島康祐,岡崎好
秀:乳幼児歯科健診における妊婦歯科教室の効果,口腔
衛生会誌,49:544-545,1999.
17)下野勉:母子感染を視点に入れた歯科保健活動,小児
歯科臨床,6(3):12-18,2001.
18)白土寿一:感染・発症,口腔細菌談話会編,歯学微生物
学,医歯薬出版,東京,1974,p.188.
19)生田哲:バクテリアの話,日本工業出版,東京,
1999,”、68-70.
20)Jensen.B.andBrathall.D:AnewmethodfortheestimationofMl"α"sSn印tococciinhumansaliva,J・Dent・Res.‐
68:468-471,1989.
21)関みつ子,寺嶋利子,高柳輝子,富樫久美,柏木勝,
原田修成,尾崎哲則,吉田茂:低年齢児への"Stripmutans"応用に関する基礎的研究,日大歯学.70:393397,1996.
るs"垣ptococcus〃剛""sの疫学的ならびに生態学的研究
22)関みつ子:ストリップミュータンス簡易法の乳幼児への
応用一年齢,月齢,萌出歯数およびう蝕経験がスコアに
およぼす影響について−,日大歯学,72:88-96,1998.
2.鮪蝕催患児の口腔および糞便より分離したStreptococ-
23)柳井晴夫,岩坪秀一:複雑さに挑む科学,講談社,東
c“〃“α"sの血清型の比較ならびに家族内での伝播,小
児歯誌,16:195-203,1978.
7)増田典男:血満学的判別を基礎にした日本人小児におけ
るs『'でptococcusmutansの疫学的ならびに生態学的研究
3.幼児における動'印foco““'""“"sの初期定着とその
後の推移,小児歯誌,16:204-208,1978.
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24)柳井晴夫,吉本泰彦,商木旋文,豊川裕之,前田和甫,
栗田英男:がんのRiskFactorに関する統計的分析,日
本公衛誌,24:547-556,1977.
25)駒漂勉:数量化理議による動脈硬化性疾患の予後予測
に関する研究,日本公衛誌,25:105-117,1978.
26)有吉ゆみ子,林由子,二木昌人,高田幸子,中田
小児歯科学雑誌40(4)2002699
稔:i歳6か月児歯科健診における離蝕催患に関する要
因について,小児歯誌,20:281-289.1982.
27)久保田節子,川崎浩二,飯島洋一。,尚木興氏:ij%6か
ミュータンス菌除菌拭験の概要,日本歯科評論,692:
119-126,2000.
33)花田信弘,野村義明,武内博朗,泉福英信,熊谷崇:
月児の鰯蝕有病に関する要因,口腔衛生会誌,41:192-
3DSによるミュータンスレンサ球菌に関する臨床研
205,1991.
究,口腔衛生会誌,51:606-607,2001.
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offspring,J.A、D.A.,33:735-743,1946.
29)山本誠二,新谷智佐子,竹本弘枝,滝川雅之,中村隆
子,仲井雪絵,壷内智郎,下野勉:産婦および母税の
口腔が子供に及ぼす影響について,小児歯誌,39:20−
26,2001.
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32)武内博明:クロルヘキシジンを用いた3DS法による
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fromshortlyafterbirth,OralMicrobiol.Immunol..13:
286-291.1998.
35)西野瑞穂,有田謹司,栗飯原靖司,阿部敬典,那須邦
子,阿部典子,三木真弓:地域乳幼児歯科保健管理に関
する研究第1報餓蝕発生要因に関する分析,小児歯
誌,29:362-372,1991.
36)三原丞二,松村誠士,下野勉,祖父江鎮雄:i歳6カ
N歯科健診に関する研究一餓蝕活動性試験(カリオス
タット)の判定結果とアンケート調査結果について−:
小児歯誌,22:142-162,1984.
37)松村誠士:餓蝕活動性試験(カリオスタット)の細菌学
的ならびに疫学的研究,小児歯誌,21:107-130,1983.
700岡崎好秀ほか:ミユータンス菌数と小児の生活習憤
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