次世代エネルギー・社会システム実証事業成果報告 [平成 26 年度報告] 事業者名 :一般財団法人エネルギー総合工学研究所 補助事業の名称:Ⅰ-3. エネルギーマネジメントシステムの構築に係る調査事業 テーマ 2 次世代エネルギー社会システムにおける DR 経済効果調査事業 (交付決定番号:6410001) 事業期間:平成 26 年 4 月 1 日~平成 27 年 3 月 10 日 事業の目的・目標 本事業では、社会システム実証を通じて、アグリゲータを通じたインセンティブ型のディマンドリス ポンス(以下、DR)による需要調整の費用対効果を評価することにより、DR ビジネスに向けた環境整 備に資することを目的としている。平成 26 年度から本事業に参加したエネルギー総合工学研究所では、 複数のインセンティブ型 DR 実証事業者と共同で実証事業を遂行する東京電力と連携し、東京大学にお いて行われる DR プログラムの費用対効果の定量的評価を補佐することを目標とした。 事業の概要 インセンティブ型 DR 実証事業に関する具体的な DR 経済効果の分析は東京大学側で実施され、エネ ルギー総合工学研究所では、東京大学にて実施される分析を補佐するべく、以下の作業を実施した。 インセンティブ型 DR 実証プロジェクトとの調整 海外でのインセンティブ型 DR 実績の調査 事業スケジュール 事業全体イメージ 経済産業省 新産業・社会システム推進室 NEPC 新エネルギー導入促進協議会 次世代エネルギー・社会システム実証事業費補助金 I-1-1 エネルギーマネジメントシステムの 構築(インセンティブ型DR) インセンティブ型DR実証事業者 1)東光高岳、グローバルエンジニアリング 2)丸紅、エナーノックジャパン 3)日立、東京ガス、ダイキン 4)東芝 5)双日、シュナイダーエレクトリック 東 京 電 力 殿 I-3 次世代エネルギー社会システムに おけるDR経済効果調査事業 東京大学 エネルギー総合工学研究所 平成 26 年度の成果 (1)インセンティブ型 DR 実証プロジェクトとの調整 複数のインセンティブ型 DR 実証事業者と共同で DR の実施・計測を行う東京電力と DR 実施状況 について認識をすりあわせ、DR 実施結果を本事業の共同実施者である東京大学と情報を共有し た。具体的には、インセンティブ型 DR 実証開始時、実証中、実証後 3 回にわたり、以下の作業 を実施した。 インセンティブ型 DR の経済価値評価基準となる発電コストと役割分担の確認 インセンティブ型 DR 実施状況の認識あわせ 報告書作成に向けたインセンティブ型 DR 実施結果の認識あわせ インセンティブ型 DR 実証事業者へのアンケートを実施 (2)海外でのインセンティブ型 DR 実績の調査 海外での DR プログラムの体系を整理し、インセンティブ型 DR の位置づけを明らかにした 海外でのインセンティブ型 DR 事例調査を実施し、具体的なルールおよび設定価格を調査し た 海外で実施されているインセンティブ型 DR ではどのような考えの下に価格設定を行って いるかを調査した 海外でのインセンティブ型 DR の利用実績を調査し、どのような需要家対象のインセンティ ブ型 DR 利用が伸びているか、需要家タイプ別のインセンティブ型 DR によるピーク負荷削 減可能性がどの程度見込めるのかを調査した 平成 26 年度次世代エネルギー・社会システム実証事業費補助金 I-3 エネルギーマネジメントシステムの構築に係る調査事業 テーマ 2 次世代エネルギー社会システムにおける DR 経済効果調査事業 事業名称:DR ビジネスの環境整備に向けた社会システム実証の調査・評価 (交付決定番号:5420001) (交付決定番号:6410001) 成果報告書 平成 27 年 3 月 国立大学法人 東京大学 一般財団法人 エネルギー総合工学研究所 要約 本報告書では、本事業の目的・目標、内容、スケジュールについてまとめた上で、事業 成果について記載した。 本事業は、インセンティブ型 DR の経済効果の調査を対象とするもので、東京大学とエ ネルギー総合工学研究所の共同事業である。本事業では、社会システム実証を通じて、ア グリゲータを通じたインセンティブ型のディマンドリスポンス(以下、DR)による需要調 整の費用対効果を評価することにより、DR ビジネスに向けた環境整備に資することを目的 としている。平成 25 年度については、DR に関する事前調査や実証データの整備を行い、 データ分析のための準備を行うことを目標とした。平成 25 年度冬季から実証は始まり、需 要家の負荷パターンを含む定量データが蓄積されてきた。平成 26 年度については、実証デ ータの検証・分析及び分析結果の精査を事業内容とし、二段階の手続きを通じて分析を実 施した。 一段階目では計量経済学手法に基づく DR プログラムの評価を行い、DR の条件 (DR 発動の通知時間、継続時間など)や需要家の属性(需要家の契約電力、種別など)が DR の達成率とどのように関係しているかを明らかにする。第二段階では需要家の便益まで考 慮した形で DR の費用対効果について定量的な評価を行う。本社会実証では DR の条件や 需要家の属性に関して複数のパターンが含まれており、それらを比較することで DR の費 用対効果の違いについても示唆を得る。 なお、今年度実施されるインセンティブ型 DR 実証事業に関する具体的な DR 経済効果 の分析は東京大学側で実施され、エネルギー総合工学研究所では、東京大学にて実施され る分析を補佐するべく、以下の作業を実施した。 ① インセンティブ型 DR 実証事業者と共同で DR の実施・計測を行う東京電力と DR 実 施状況について認識をすりあわせ、DR 実施結果を本事業の共同実施者である東京大 学と情報を共有した。 ② 海外における DR プログラム仕様を調査し、インセンティブ型 DR プログラムにつ いて、さらに分類・体系化を行い、それぞれのインセンティブ型 DR の特徴をまと めた。 ③ DR プログラム仕様自体の評価に資するために、海外のインセンティブ型 DR プログ ラムの実態・実績を調査した。 ④ インセンティブ型 DR 実証事業者へのアンケートを実施し、アンケート回答を整理 した結果を東京大学および東京電力と情報を共有した。 i 目次 要約 ........................................................................................................................................ i はじめに ................................................................................................................................ 1 1. 事業の目的・目標 .......................................................................................................... 2 2. 事業の内容 ..................................................................................................................... 3 3. スケジュール .................................................................................................................. 5 4. 事業の成果 ........................................................................................................................ 6 4.1. 計量経済学手法に基づく DR プログラムの評価........................................................ 7 4.1.1. 検証方法:計量経済学手法に基づく DR プログラムの評価 ............................... 7 4.1.2. 検証結果:計量経済学手法に基づく DR プログラムの評価 ............................. 10 4.2. 需要家の負担を考慮した DR の費用便益分析 ......................................................... 13 4.2.1. 検証方法:需要家の負担を考慮した DR の費用便益分析................................. 13 4.2.2. 検証結果:需要家の負担を考慮した DR の費用便益分析................................. 18 4.3.DR アグリゲータへのアンケートから得られた考察 ................................................. 20 4.4.インセンティブ型 DR 実証プロジェクトとの調整 .................................................... 22 (1) 第 1 回 東京電力打ち合わせ ............................................................................. 22 (2) 第 2 回 東京電力打ち合わせ ............................................................................. 22 (3) 第 3 回 東京電力うち合わせ ............................................................................. 23 4.5.海外でのインセンティブ型 DR 実績の調査............................................................... 23 (1) DR プログラムの体系とインセンティブ型 DR の位置づけ .............................. 23 (2) 海外でのインセンティブ型 DR 事例調査 .......................................................... 27 (3) 海外でのインセンティブ型 DR における価格設定の考え方 ............................. 29 (4) 海外でのインセンティブ型 DR の利用実績 ...................................................... 31 参考文献 .............................................................................................................................. 35 -1- はじめに 本事業は、一般社団法人新エネルギー導入促進協議会の「次世代エネルギー・社会シス テム実証事業」の補助により実施した。また、インセンティブ型 DR の経済効果の調査を 対象とするもので、東京大学とエネルギー総合工学研究所の共同事業である。 2011 年 3 月の東日本大震災以降、原子力発電の停止等によってわが国の電力供給の制 約が顕在化し、電力需給のひっ迫を回避するために、計画停電、電気事業法に基づく電力 使用制限令、数値目標付の節電要請等が行われてきたところである。震災から 4 年あまり が経ち電力需給の状況は改善しつつあるが、原発再稼働の先行きが依然不透明で電力供給 力の上積みが容易ではない現状において、需要側における負荷削減への取り組みは引き続 き重要となっている。 その中で、供給側の状況に応じて需要を変化させるディマンドリスポンス(以下、DR) への期待が高まっており、DR の実効性・市場としての可能性に関して理解を深めることが 求められている。諸外国に目を向けると、米国では産業用・商業用等の大口需要家や電力 卸売市場を対象とした DR プログラムが既にピークカット・ピークシフトに対して影響力 を有しているが、その市場の発展には DR アグリゲータが大きな役割を果たしている。わ が国でも DR に関する社会実証が始まっており、 「次世代エネルギー・社会システム実証事 業」では料金型の DR(CPP など)等に関する実証・調査が盛んに実施されているが、特 にアグリゲータを介したインセンティブ型の DR に関してさらなる知見の蓄積が望まれる。 こうした背景を踏まえて本補助事業では、アグリゲータを介したインセンティブ型の DR に関する社会実証を通じて、実証期間に得られた需要家の負荷データを計量経済学的に 分析することによって、DR による需要調整の費用対効果を定量的に評価する。具体的には、 容量の確保を目的とした DR、電力量調達を目的とした DR、アンシラリーサービスとして の DR を調査対象とする。平成 25 年度については、DR に関する事前調査や実証データの 整備を行い、データ分析のための準備を行うことを目標とした。平成 26 年度については、 蓄積された実証データの検証・分析及び分析結果の精査を事業内容とした。 エネルギー総合工学研究所では、インセンティブ型 DR の経済評価を実施するに当たっ て、インセンティブ型 DR 実証事業者と共同で DR の実施・計測を行った東京出力と連携 し、インセンティブ型 DR 実証を実施する DR アグリゲータの情報を東京電力から入手す るとともに、DR 実施状況について認識をすりあわせ、DR 実施結果に関して本事業の共同 実施者である東京大学と情報を共有した。また、海外でのインセンティブ型 DR の実態・ 実績に関して調査した。 以下、本報告書は次のように構成される。第 1 章で実証事業の目的・目標についてまと めた後、第 2 章で実証事業の内容、第 3 章では事業のスケジュールを記載する。第 4 章で は事業の成果として、DR についての調査結果と DR の価値評価に関する検討結果を記述す る。 1 1. 事業の目的・目標 本事業では、社会システム実証を通じて、アグリゲータを通じたインセンティブ型 のディマンドリスポンス(以下、DR)による需要調整の費用対効果を評価することに より、DR ビジネスに向けた環境整備に資することを目的とする。具体的には、容量の 確保を目的とした DR、電力量調達を目的とした DR、アンシラリーサービスとしての DR を調査対象とする。実証では DR の条件(通告時期、調整電力の計算方法など) に関して複数のパターンを許容することにより、それらを比較することで DR の費用 対効果の違いに関しても示唆を得る。その中で、需要家の便益を考慮して DR の費用 対効果を定量的に評価する。こうした分析を通じて、需要抑制を発電と同値なものと して位置づけ、DR プログラムと新たな電源設備を増強する選択肢をメリットオーダー に基づいて比較考量するための基礎とする。 平成 25 年度については、DR に関する事前調査や実証データの整備を行い、データ 分析のための準備を行うことを目標とした。この目標のため、インセンティブ型の DR に関して調査を行った上で、その電源価値を定量的に評価する手法を設計する。この 過程を通じて、分析に必要なデータについても知見を蓄積し、価値評価に資する形の 社会システム実証について検討した。 平成 26 年度については、実証データの検証・分析及び分析結果の精査を事業内容と し、二段階の手続きを通じて分析を実施した。一段階目では計量経済学手法に基づく DR プログラムの評価を行い、DR の条件や需要家の属性が DR の達成率とどのように 関係しているかを明らかにする。第二段階では需要家の便益まで考慮した形で DR の 費用対効果について定量的な評価を行う。本社会実証では DR の条件や需要家の属性 に関して複数のパターンが含まれており、それらを比較することで DR の費用対効果 の違いについても示唆を得る。 平成 26 年度から本事業に参加したエネルギー総合工学研究所では、複数のインセンテ ィブ型 DR 実証事業者と共同で実証事業を遂行する東京電力と連携し、東京大学において 行われる DR プログラムの費用対効果の定量的評価を補佐することを目標とした。 2 2. 事業の内容 インセンティブ型の DR に関する調査を行い、社会システム実証に関する示唆を得 る。調査対象としては、容量の確保を目的とした DR、電力量調達を目的とした DR、 アンシラリーサービスとしての DR を取り上げる。 わが国における今後の DR のあり方を考える上で、諸外国で用いられている DR の 分類・特性を把握することは不可欠な作業である。また、インセンティブ型の DR に ついて議論する上では、調整量を計算するための基準(ベースライン)の定め方を無 視することはできない。このような観点から、本事業では諸外国で用いられているベ ースラインの考え方にも目を向ける。 DR プログラムと新たな電源設備を増強する選択肢をメリットオーダーに基づいて 比較考量するためには、DR の持つ経済的な電源価値を定量的に評価する必要がある。 本事業では、DR の価値を DR の便益および DR の費用の観点から評価を試みた。 平成 25 年度冬季から実証は始まり、需要家の負荷パターンを含む定量データが蓄 積されてきた。平成 26 年度は、蓄積された負荷データを用いた DR に関する検証・分 析及び分析結果の精査を行った。 平成 26 年度から本事業に参加したエネルギー総合工学研究所では、東京大学にて 実施される、インセンティブ型 DR 実証事業に関する具体的な DR 経済効果の分析を 補佐するべく、以下の作業を実施した。 ① インセンティブ型 DR の実績を評価するに当たって、DR が代替する電源の発電 コストを把握することが重要である。そこで、2014 年 8 月に東京電力から、イ ンセンティブ型 DR で経済差し替えを行う判断で必要となる発電コスト情報を 東京電力から入手した。また、2014 年 10 月にインセンティブ型 DR 実証事業 者による DR 実施状況について状況認識をすりあわせ、2015 年 1 月に実証事業 者による DR 実施状況・結果の情報を東京電力から入手し、本事業の共同実施 者である東京大学と情報を共有した。これらの打ち合わせのサマリを 4.4 章に 掲載した。実際の打ち合わせの議事メモおよび資料は付録Ⅰに掲載する。 ② 海外におけるインセンティブ型 DR の仕様を調査し、インセンティブ型 DR プ ログラムについて、さらに分類・体系化を行い、それぞれのインセンティブ型 DR の特徴をまとめた。結果は、4.5 章「(1) DR プログラムの体系とインセンテ ィブ型 DR の位置づけ」で報告する。 ③ インセンティブ型 DR の種類によっては、需要家の負荷データの実測値の分析・ 評価だけではなく、基本料金(円/kW)と DR を実施した場合の従量料金(円 /kWh)とのバランスなど DR プログラム仕様自体の評価も必要となる。そのよ うな DR プログラム仕様自体の評価に資するために、海外のインセンティブ型 3 DR プログラムの実態と実績を調査した。結果は、4.5 章「(2) 海外でのインセ ンティブ型 DR 事例調査」 、 「(3) 海外でのインセンティブ型 DR における価格設 定の考え方」、 「(4) 海外でのインセンティブ型 DR の利用実績」で報告する。 ④ 2 年間のインセンティブ型 DR 実証を総括するにあたり、DR アグリゲータ事業 者に共通アンケートを実施し、その結果の整理を実施した。アンケートの内容 と、アンケート項目ごとに整理した回答内容は付録Ⅱに掲載する。 実証事業の全体イメージ 経済産業省 新産業・社会システム推進室 NEPC 新エネルギー導入促進協議会 次世代エネルギー・社会システム実証事業費補助金 I-1-1 エネルギーマネジメントシステムの 構築(インセンティブ型DR) インセンティブ型DR実証事業者 1)東光高岳、グローバルエンジニアリング 2)丸紅、エナーノックジャパン 3)日立、東京ガス、ダイキン 4)東芝 5)双日、シュナイダーエレクトリック I-3 次世代エネルギー社会システムに おけるDR経済効果調査事業 東京大学 東 京 電 力 殿 エネルギー総合工学研究所 4 3. スケジュール 本事業のスケジュールは、以下の通りである。 5 4. 事業の成果 本補助事業「DR ビジネスの環境整備に向けた社会システム実証の調査・評価」は、社会 システム実証を通じて、アグリゲータ(DR を提供する補助事業者)を通じたインセンティ ブ型1のディマンドリスポンス(以下、DR)による需要調整の費用対効果を評価することに より、DR ビジネスに向けた環境整備に資することを目的とする。平成 26 年度においては、 実証データの検証・分析及び分析結果の精査を事業内容とし、二段階の手続きを通じて分 析を実施した。一段階目では計量経済学手法に基づく DR プログラムの評価を行い、DR の 条件(DR 発動の通知時間、継続時間など)や需要家の属性(需要家の契約電力、種別など) が DR の達成率とどのように関係しているかを明らかにする。第二段階では需要家の便益 まで考慮した形で DR の費用対効果について定量的な評価を行う。本社会実証では DR の 条件や需要家の属性に関して複数のパターンが含まれており、それらを比較することで DR の費用対効果の違いについても示唆を得る。 本分析においては、社会システム実証によって得られた期間中の需要データから DR の 費用対効果をいかにして定量的に評価するかという点を課題にする。DR の効果のうち、特 に料金型のものについて既に次世代エネルギー・社会システム実証事業の中で別途分析が 行われている。海外も含めた既存の分析で主流な研究には DR 発動中の需要家の電力利用 パターンを平時のそれと比較することによって、DR による需要の削減量を計量経済学的な 手法に基づいて評価するアプローチがある(例えば Wolak、2011) 。本補助事業においても 同様の手法を採用する。つまり、分析の一段階目では需要の削減量を計算し、契約ネガワ ット(需要家とアグリゲータが契約した需要削減量)に対して実績ネガワット(需要家が 実際に削減した需要量)がどの程度の割合で実現したかを評価する。具体的には、ベース ラインと DR 発動中の需要量の差を実績ネガワットとして設定した後、DR の条件(DR 発 動の通知時間、継続時間など)や需要家の属性(需要家の契約電力、種別など)に応じた DR の達成率(実績ネガワット/契約ネガワット)の違いを統計的・計量経済学的な分析に よって明らかにする。 費用便益分析を行うためには、DR による便益(いかなる電源と代替し、どの程度の金銭 価値があるのかという点)と DR による費用(DR の発動に対してどの程度の負担が社会的 に発生したかという点)を定量化する必要がある。本補助事業では分析の二段階目として、 DR とは「卸市場価格の高騰時または系統信頼性の低下時において、電気料金価格の設定 またはインセンティブの支払に応じて、需要家側が電力の使用を抑制するよう電力消費パ ターンを変化させること(FERC、2011)」を指し、電気料金型とインセンティブ型に区 分できる。電気料金型 DR とは「時間帯(または時間)別に料金を設定することで、需要 家に自らの判断で、割高な料金が設定された高負荷時に需要抑制、割安な料金が設定され た低負荷時に需要シフトを促す枠組み」であり、インセンティブ型 DR とは「卸電力価格 が高騰又は電力需給が逼迫した際に、需要家に対して負荷抑制・遮断を要請又は実施する 枠組み」である。 1 6 DR の便益及び費用を推定し、DR の費用対効果を評価する。なお、DR によって生じる需 要家の負担を直接観察することは本分析では困難であることから、それを費用便益分析の 評価対象として含むことは難しい。この点に対処する一つの方法として、本検証において は社会実証に参加した需要家を対象とするアンケートの結果から「需要家がネガワット 1kW あたりどの程度の負担を負っているか」という点についての特定化を試みている。 本章の構成は以下の通りである。4.1 節で第一段階の計量経済学手法に基づく DR プログラ ムの評価を行う。次に 4.2 節で第二段階の需要家の負担を考慮した DR の費用便益分析につ いて検証方法およびその結果を記述する。 4.1. 計量経済学手法に基づく DR プログラムの評価 本節では、社会実証において各アグリゲータから発動された DR を対象に、DR の達成率 (実績ネガワット/契約ネガワット)の決定因子について統計的・計量経済学分析を行う。 本分析にあたっては、各需要家に対して発動された各 DR について、その達成率を計算す る作業が必要となる。 4.1.1. 検証方法:計量経済学手法に基づく DR プログラムの評価 4.1.1.1. ベースラインの設定 達成率に関する分析を行うためには、DR によって生み出された実績ネガワット(需要家 が実際に削減した需要量)を測定・検証することが必要となる。ネガワットを測定するた めには、原理的には DR 中の需要家の負荷実績値が「当該時間に DR が発動されなかった 場合に実現した負荷」と比較してどの程度下落したかを評価できれば良い。しかし「当該 時間に DR が発動されなかった場合に実現した負荷」 を直接観察することはできないため、 過去の負荷データ等から基準となる「ベースライン」を導出し、ベースラインと負荷実績 値の差を実績ネガワットとして評価する手法がしばしば取られている。電力中央研究所 (2013: 1)はベースライン選定の北米事例について行った調査を踏まえ、DR が先行する 米国の事例では需要抑制がされなかった場合の仮想的な負荷をベースラインとして計算し、 負荷抑制量を推定する方法が多く採用されている旨を報告している。 本分析では、各需要家に対して発動された各 DR に対して、発動時間中のベースライン を算出し、対応する実績ネガワットを推定する。ベースラインの計算方法にはいくつかの 手法がある。以下は、北米エネルギー標準委員会(NAESB。North American Energy Standards Board の略)が採用した類型化である。 1. ベースラインタイプ-I(Baseline Type-I):インターバルメーター(一定時間ごとに使 用電力量を積算し、記録する装置)による過去の時間帯ごとの検針値を用いてベース 7 ラインを作成する方法。天候等による補正を行うことに多用される手法。 2. ベースラインタイプ-II(Baseline Type-II) :需要家ごとのインターバルメーター値が 利用できない場合、需要家のポートフォリオを作成し、その統計的な標本値からベー スラインを作成する方法。ロードプロファイリングを活用する手法。 3. 最大ベース負荷(Maximum Base Load) :DR イベント期間中にそれ以下に保たなけ ればいけないというフラットな負荷の基準を事前に決めてしまう手法。 4. DR イベント前後の検針値比較(Meter Before / Meter After) :DR イベント直前の実 際の負荷からベースラインを作成する手法。 5. 発電出力測定(Metering Generator Output):需要家が発電設備を保有しており、発 電によって DR イベントに対応している場合の計測・評価手法。 本節では、このうちでも実務上広く利用されていると考えられている「ベースラインタ イプ-I」と「DR イベント前後の検針値比較」に基づき、ベースラインを計算する。具体的 には、以下の三種類の手法によって算出されるベースラインに基づいた分析を行い、その 結果に対する頑健性も確認している2。 平均化法(High 4 of 5) 当該需要家の需要量の平均値をもとにベースラインを設定する手法。具体的には、以下の 6つの手続きに従う。 ① DR 発動日から過去 45 日以内における平日3かつ DR 非実施日をベースライン参照可能 日とする。 ② ベースライン参照可能日のうち DR 発動日に最も近い 5 日をベースライン算出候補日 とする。 ③ ベースライン算出候補日それぞれについて、DR 実施時間帯における需要量の平均値と ベースライン算出候補日 5 日間における DR 実施時間帯の需要量の総平均量を比較す る。DR イベント時間帯における需要量の平均が、ベースライン算出候補日 5 日間の DR 実施時間帯における需要量の総平均量の 25%を超えて低い日がない場合、ベースラ イン算出候補日の 5 日をベースライン算出対象日とする4。 2 ベースラインの選定には複数の視点があり、望ましいベースラインを一つ選定すること には細心の注意を要する。EnerNOC(2011:3)は実績ネガワットの計測に関して種々の 論点を提示した上で、ベースラインが持つべき重要な性質として「実績ネガワットが正確 に計測されるか(Accuracy)」、「すべての利害関係者が容易に理解できるか(Simplicity)」、 「需要家が意図的に不規則な負荷を作り出すことでベースラインが歪曲しないか (Integrity)」の 3 点を挙げている。本報告では、複数のベースラインに基づく分析を行 うことで結果の頑健性を確認することとしている。 3 本年度の社会実証ではデータで補足している DR 発動が平日に限られていることから、 平日のケースについてのみ取り上げることとした。 4 DR イベント時間帯における需要量の平均が、ベースライン算出候補日 5 日間の DR 実施 8 ベースライン算出対象日 5 日のうち DR 実施時間帯における平均需要量が大きい方か ④ ら 4 日間を選定し、それらの時間毎(コマ毎5)の平均値を算出して、それを仮定ベー スラインとする。 DR 発動日の DR 発動時間の 4 時間前~1 時間前の各コマについて、実需要量と仮定ベ ⑤ ースラインの差を算出し、これらの平均値を調整量とする。 ⑥ DR 実施時間帯の仮定ベースラインに調整量を加算して、これをベースラインとする。 同等日採用法 需要量に関して発動日との差が最も小さい非発動日を選択し、その負荷をベースラインと して設定する。具体的には、以下の4つの手続きに従う。 ① DR 発動日から過去 45 日以内における DR 非実施日を比較対象日とする。 ② DR 発動日の DR 実施コマとその直前 1 時間(2 コマ)と直後 1 時間(2 コマ)を除い たコマを比較対象コマとする。 全ての比較対象日について、比較対象コマそれぞれにおける DR 実施日の実需要値と ③ 比較対象日の実需要値の二乗誤差を算出し、それらの総和(誤差二乗和)を算出する。 比較対象日のうち誤差二乗和が最も小さい 3 日間を選択し、その 3 日間のコマ毎の電 ④ 力量の平均値をベースラインとする。 事前計測法 DR 発動コマの 4 時間前~1 時間前のコマ(6 コマ)における需要量の平均値をベースライ ンとする。 4.1.1.2. 達成率の計算 設定したベースラインと負荷実績値の差を DR 発動毎・需要家毎に計算したものを「実 績ネガワット」と呼ぶ。これと契約ネガワット(契約容量×DR 継続時間)の比をとること で達成率を計算する。すなわち、以下を設定したベースライン別に求める。 達成率(%) = 実績ネガワット(kWh)/ 契約ネガワット(kWh) × 100 なお、以降の統計的・計量経済学分析で外れ値の影響を緩和するため、達成率が 0%~100% の範囲になるように処理を行った6。処理を行わない場合と比較して質的な推定結果はほぼ 変わらない。 時間帯における需要量の総平均量の 25%よりも低い日があった場合、当該ベースライン算 出候補日をベースライン算出候補日から除き、残りのベースライン算出可能日のうち DR 発動日に最も近い日を新たにベースライン算出候補日に加える。 5 コマとは 30 分間隔の時間単位(00:00~00:30、00:30~01:00、・・・、23:30~24:00)を 指す。 6 達成率が 0%より小さい場合には 0%、100%より大きい場合には 100%を割り当てた。こ 9 4.1.1.3. 達成率と DR プログラム・需要家属性の関係 導出した達成率を DR の条件や需要家の属性に回帰することで、どのような形式の DR が(契約ネガワットに対して)大きい実績ネガワットを創出したかという点を確認する。 具体的な説明変数として、ここでは DR 発動の通知時間(発動の何分前に通知されるか)、 継続時間(発動から終了までの時間(分))、発動時間ダミー7、需要家の契約電力(kW)、 ネガワット契約量(kW) 、負荷制御の対象(生産ライン、空調、照明を表す各ダミー変数) 、 形態(オフィスビル、商業施設、工場、水道施設、その他施設を表す各ダミー変数)を取 り上げた。推定はトービット・モデルに基づいて行う。 4.1.2. 検証結果:計量経済学手法に基づく DR プログラムの評価 4.1.2.1. 実証データの概要 平成 25 年度~平成 26 年度の「次世代エネルギー・社会システム実証事業」の「インセ ンティブ型 DR 実証」 (東京電力管内で実施)において、 「DR ビジネスの環境整備に向けた 社会システム実証の調査・評価」を実施し、社会実証に参加した需要家の負荷データを収 集した。アグリゲータと契約する各需要家(事業所)について、30 分単位の負荷データ(DR 実施日以外の負荷も含む)を取得した。本章では、平成 26 年度上期(4 月 1 日~9 月 30 日) を対象とした検証結果を報告する。この間、58 件の需要家を対象に合計 287 回の DR の発 動があった。 4.1.2.2. 達成率の決定因子 表 1a~1c が検証結果である。まず、各表の 1 列目(推定結果 1a(1)~1c(1) )を確認 する。通知時間(分)の係数は平均化法と事前計測法では統計的に有意な推定値が得られ ていないが、同等日採用法で有意に負と推定されている(係数:-0.038)。このことは、今 回の実証で通知時間の短い DR に関しても一定の達成率が実現していることを示している。 反応時間が 10~15 分程度の DR では自動制御が用いられることがあり、DR 発動への通知 時間と達成率との間には強い相関関係を認めることはできなかった。 一方で、継続時間(分)に関しては平均化法(係数:-0.350)と同等日採用法(係数:-0.904) こでの計算結果では達成率が 100%より大きくなったケースが多く(分析に用いた需要家の うち平均化法では 30%、同等日採用法では 74%、事前計測法では 27%のサンプルについて 達成率が 100%より大きく推定された)、結果の解釈においてはその点に留意が必要である。 100%を超える達成率は負荷調整を行う上で必ずしも望ましくはなく、その分を割り引い て達成率を評価することも考えられる。しかしながら、割引の因子として用いる数値につ いて何を用いることが適当かは先見的に明らかではないことから、ここでは割引を行わな かった。 7 発動時間を午前(12:00 まで)、昼間(12:00 から 15:00)、夕方(15:00 以降)の 3 つに 区分し、それぞれダミー変数を作成した。 10 で有意に負の推定値が得られている。継続時間が 30 分長くなることで、達成率がおおよそ 10%(平均化法、-0.350×30 = -10.50)~27%(同等日採用法、-0.904×30 = -27.12)程度 悪化している。継続時間の長い DR を必要とする場合には、需要家を束ねて DR をリレー するようなアグリゲータが大きな役割を果たしうることを示唆されている。事前計測法に 関しては有意な推定値が得られていないが、これは一般的に継続時間が長くなるほど事前 計測法のパフォーマンスが悪化することと関係しているとも考えられる。 表 1a 推定結果:達成率の決定因子(ベースライン:平均化法) 被説明変数: ベースライン: 通知時間(分) 継続時間(分) 契約電力(kW) 契約ネガワット(kW) 推定結果1a(1) -0.014 (0.013) -0.350 ** (0.146) 0.000 (0.002) 0.023 *** (0.007) 達成率(%) 平均化法(High 4 of 5) 推定結果1a(2) 推定結果1a(3) -0.014 (0.013) -0.337 ** (0.149) 推定結果1a(4) 0.024 *** (0.007) 通知時間(分、対数値) 継続時間(分、対数値) 契約電力(kW、対数値) 契約ネガワット(kW、対数値) -1.98 (4.13) -43.98 ** (17.12) -6.59 (7.66) 13.14 * (7.55) -1.89 (4.13) -41.10 ** (17.00) -31.39 (22.14) 30.77 (25.66) -26.68 (19.77) あり あり 3.43 *** 282 -16.97 (19.02) 18.64 (24.42) -20.14 (18.91) あり あり 3.69 *** 287 12.45 * (6.42) 制御対象: 生産ライン 空調 照明 発動時間ダミー 需要家種別ダミー F値 観測数 -1.52 (23.54) 21.08 (18.77) -22.57 (19.06) あり あり 3.92 *** 282 13.13 (19.33) 9.93 (16.95) -17.40 (18.23) あり あり 4.15 *** 287 ※括弧内は標準偏差。***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%の有意水準を表す。 需要家の属性について見ると、契約電力について有意な推定値が得られているのは、同 等日採用法のみである(係数:0.005)。契約電力 50kW の増加(これは契約電力のサンプ ルにおける平均値 4,976kW の 1%程度に相当する)に対して達成率が 0.25%(0.005×50 = 0.25)が上昇するという程度の大きさであり、本実証では契約電力が大きい大規模需要家ほ ど達成率が良いという傾向は強く見られていない。 一方契約ネガワットについては、全てのベースラインで係数が統計的に有意に正と推定 されており(係数:0.023(平均化法)、0.037(同等日採用法) 、0.032(事前計測法)) 、今 回の実証では契約ネガワットが大きい需要家ほど達成率が高くなる傾向が見られた。つま 11 り、需要削減の確実性が高い需要家ほど需要削減への貢献が大きかったということができ る。なお契約ネガワットと契約電力は高い相関を持つ(相関係数を計算したところ 0.56 で あった)ため、契約電力を説明変数から除いた推定(推定結果 1a(2)~1c(2) )も行った が、結果はほとんど変化しなかった。 表 1b 推定結果:達成率の決定因子(ベースライン:同等日採用法) 被説明変数: ベースライン: 通知時間(分) 継続時間(分) 契約電力(kW) 契約ネガワット(kW) 推定結果1b(1) -0.038 * (0.020) -0.904 *** (0.287) 0.005 * (0.003) 0.037 *** (0.011) 達成率(%) 同等日採用法 推定結果1b(2) 推定結果1b(3) -0.035 * (0.020) -0.849 *** (0.266) 推定結果1b(4) 0.042 *** (0.011) 通知時間(分、対数値) 継続時間(分、対数値) 契約電力(kW、対数値) 契約ネガワット(kW、対数値) -12.05 * (6.80) -101.01 *** (32.96) 32.02 ** (13.66) 1.15 (11.80) -10.28 (6.84) -101.43 *** (31.63) -57.76 * (31.12) 84.94 ** (39.43) -54.83 (34.36) あり あり 2.34 *** 282 -31.74 (27.61) 76.39 ** (36.00) -51.56 (34.34) あり あり 2.11 ** 287 12.57 (9.74) 制御対象: 生産ライン 空調 照明 発動時間ダミー 需要家種別ダミー F値 観測数 -15.34 (29.67) 87.94 *** (25.43) -57.78 * (34.01) あり あり 2.78 *** 282 4.25 (26.24) 82.82 *** (22.73) -56.36 * (33.54) あり あり 3.02 *** 287 ※括弧内は標準偏差。***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%の有意水準を表す。 負荷制御の対象による達成率への影響に関しては、明確な結果が見られていない。生産 ラインについては全てのベースラインについて有意な推定値が得られておらず、生産ライ ンを用いて DR に対応した需要家ほどパフォーマンスが高かったとは言えない。空調に関 しては、同等日採用法で有意に正の推定値(係数:87.94)が得られているが、事前計測法 では負に推定されており(係数:-73.60)、推定結果は頑強とまではいえない。照明につい ては、同等日採用法に関してのみ有意に負の推定値(係数:-57.78)が得られている。DR に対して照明を用いた対応だけでは十分な実績ネガワットを確保することが難しい可能性 がある。 推定結果 1a(3)、 (4)~1c(3) 、 (4)は説明変数の対数をとって推定したものであるが、 質的な結果に大きな変化は見られなかった。 12 表 1c 推定結果:達成率の決定因子(ベースライン:事前計測法) 被説明変数: ベースライン: 通知時間(分) 継続時間(分) 契約電力(kW) 契約ネガワット(kW) 推定結果1c(1) 0.008 (0.018) -0.242 (0.186) 0.000 (0.002) 0.032 *** (0.009) 達成率(%) 事前計測法 推定結果1c(2) 推定結果1c(3) 0.008 (0.018) -0.236 (0.187) 推定結果1c(4) 0.032 *** (0.009) 通知時間(分、対数値) 継続時間(分、対数値) 契約電力(kW、対数値) 契約ネガワット(kW、対数値) 5.43 (5.95) -32.56 (21.33) -24.45 ** (11.58) 25.88 ** (10.30) 4.78 (5.99) -27.49 (21.65) -25.05 (26.67) -49.36 (33.73) 29.13 (30.32) あり あり 5.12 *** 282 -19.92 (24.33) -63.94 ** (31.68) 39.64 (30.17) あり あり 5.12 *** 287 18.61 ** (8.58) 制御対象: 生産ライン 空調 照明 発動時間ダミー 需要家種別ダミー F値 観測数 15.70 (27.64) -73.60 *** (25.37) 35.95 (28.14) あり あり 5.27 *** 282 20.71 (24.34) -78.26 *** (23.21) 38.18 (27.35) あり あり 5.75 *** 287 ※括弧内は標準偏差。***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%の有意水準を表す。 4.2. 需要家の負担を考慮した DR の費用便益分析 本節では、社会実証において各アグリゲータから発動された DR によって生み出された ネガワットの費用便益分析を行う。分析を行うために、DR による便益と DR による費用を ともに推計する必要がある。推計した DR の便益と費用を合わせることで、DR の社会的な 価値を定量化することを目的とする。 4.2.1. 検証方法:需要家の負担を考慮した DR の費用便益分析 4.2.1.1. DR による便益 DR の便益としては、既存電源を代替することによる固定費用および変動費用の削減が考 えられる。ここでは、コスト等検証委員会報告書(2011)から費用の単価を用いて回避可 能原価(DR により抑制される費用)を推定した。推定は、年間 50 時間8のピーク部分に対 8 電力の安定供給に必要な予備率 8~10%を下回る年間日数から 50 時間を仮定した。2013 13 してネガワットで代替する状況を想定して行う。電力需要のピーク部分に対する調整を行 う石油火力がネガワットで代替される場合、固定費の抑制としては既存石油火力が代替さ れるケース、新設 LNG 火力の建設が中止されるケースの二つがシナリオとして考えられる 9。また、必要とされる予備率が DR によってどのように変化するかという点も考慮が必要 である。ここでは、予備率の削減を踏まえるケースと踏まえないケースの二つについてそ れぞれ回避可能原価を計算する。前者に関しては予備率 8%を加味し、需要削減量の 1.08 倍にあたる容量の電源が削減されると仮定した。 コスト等検証委員会報告書(2011:52)では、石油火力について燃料費の上昇によって 設備の利用率を 10%とした場合の運転維持費が 8.0 円/kWh と計算されている10。設備稼働 率を 10%とすると、既存石油火力が代替されるケースにおいては運転維持費のみを算入し、 1 年間(8,760 時間)1kW あたりの固定費の抑制量は次のように求められる11。 【予備率を非考慮】8.0 円/kWh×8,760 時間/年×10%(設備稼働率) = 7,008 円/kW・年 【予備率を考慮】8.0 円/kWh×8,760 時間/年×10%(設備稼働率)×1.08 = 7,569 円/kW・年 年度の東京電力管内において、予備率が 8%未満となった年間日数、10%未満となった年間 日数はそれぞれ 9 日、27 日であった。予備率が不足する日においてピーク時間帯が 3 時間 程度継続すると考えれば、年間時間に換算して 27~81 時間程度に相当する。年間 50 時間 という仮定はほぼこの中間に対応している。 9 代替される電源を仮定する方法とは別に、系統運用者の行動をモデル化することで、電 源の変化を長期的視野 から内生的に捉えるアプローチも 存在する。電力中央研究所 (2011a)は長期電源構成モデルに基づき、DR が発電の固定費用および変動費用の削減に どの程度寄与するかを試算している。長期電源構成モデルとは、線形計画法に基づき、設 備形成や電源運用に関する様々な制約のもとで「期間内に発生する発電費用の現在価値合 計」を最小化するものである。発電の固定費と燃料費に関して推定した結果、回避可能原 価は平均 8,500 円/kW・年と導出されている。本報告で想定する発電費用の下限は 7,008 円 /kW・年(固定費用として既存石油火力の代替を仮定、予備率および変動費用を考慮しない ケース)、上限は 11,793 円/kW・年(固定費用として新設 LNG 火力の建設中止、予備率 および変動費用を考慮するケース)であるので、電力中央研究所(2011a)の推定結果はこ の間に入っている。 10 設備利用率に関する想定を変えて計算を行なっても、以下の回避可能原価の推計値は変 化しない。 11 回避可能原価を計算するにあたり、電力の損失率を考慮するアプローチも考えられる。 平成 26 年版電気事業便覧によると 2013 年における総合損失率は 8.1%(10 電力会社平均) と報告されている。仮にネガワットにより既存電源が代替されることで損失率がゼロとな るのであれば、回避可能原価は本項で求めたものより約 8.8%(1/(100% - 8.1%) = 1.088) 大きく推定される。しかしながら、ネガワットが入ったケースで損失率がどのように変化 するかという点は明らかではないため、本項では損失率を考慮せずに回避可能原価を推計 している。 14 一方で、コスト等検証委員会報告書(2011:51)では、LNG 火力について設備の利用率 を 80%とした場合の資本費が 0.7 円/kWh、運転維持費が 0.7 円/kWh と計算されている。 設備稼働率を 80%とすると、新設 LNG 火力の建設が中止されるケースについては、運転維 持費に加えて資本費の抑制分を算入し、固定費の抑制量を次のように求める。 【予備率を非考慮】(0.7 円/kWh+0.7 円/kWh)×8,760 時間/年×80%(設備稼働率) = 9,811 円/kW・年 【予備率を考慮】(0.7 円/kWh+0.7 円/kWh)×8,760 時間/年×80%(設備稼働率)×1.08 = 10,596 円/kW・年 なお、DR による固定費用の抑制を算定する際には、DR の不確実性や制約を考慮するア プローチも考えられる。4.1.1.2 項で確認したように、DR の性質や需要家の属性によって DR の達成率は悪化し、信頼性が低下する懸念がある。また 4.3 節で述べるように、ネガワ ットを含む需要資源には様々な制約があり、DR の便益を算定する際には制約される要素に ついて回避可能原価を割り引く方法もありうる。仮に割り引く場合、割引因子として何を 用いるべきかは先見的に明らかではなく、今後の分析が待たれることから本分析ではこの ようなアプローチは取らないこととしたが、この点に関しては十分に留意が必要である。 需要資源の性質や限界については 4.3 節で改めてまとめる。 回避可能原価の計算としては、固定費用に加えて変動費用の抑制分を勘案する方法も存 在する。ピーク時間における変動費用の減分としては、石油火力を直接焚き減らすケース を想定する。コスト等検証委員会報告書(2011:52)では、燃料費の上昇を踏まえた数値 として 21.6 円/kWh という変動費用が挙げられている。石油火力を直接焚き減らすケース では、この燃料費が年間 50 時間分抑制されると考えられるため、その抑制量は次のように 求められる。 21.6 円/kWh×50 時間/年 = 1,080 円/kW・年 その他、変動費用の抑制として起動費の削減が考えられる。電力中央研究所(2015:4、 8)では、DR による回避可能原価の 1 つとして既存電源の起動費の削減を考慮し、それを 95~138 円/kW・年と推定している(夏季ピークと冬季ピークに合わせて計算) 。ここでは その中間値である 117 円/kW・年を変動費用の一部として DR の便益に組み入れた。 4.2.1.2. DR による費用の計算 DR の発動により需要家に生じた負担を費用便益分析の評価対象として含めることも重 要な視点と考えられる。DOE&FERC(2013:29、30)は DR の費用便益分析を行うため のフレームワークを提示しているが、その中で DR の費用項目として「需要家の電力利用 が失われることによる費用(Participant Value of Lost Service)」を挙げている。レポート 15 ではこの費用が需要家にとって重要であることを認めつつも、同時にそれを推定する試み が極めて困難であり、またこの費用は需要家によって大きく異なりうることを指摘してい る。本分析では、この点について本実証に付随して行われたアンケート調査を用いた推計 を行った。また、4.2.2.1 項では推計した費用と需要家属性の関係を検証する。 本検証においては、社会実証に参加した需要家を対象とするアンケートの結果から「需 要家がネガワット 1kW あたりどの程度の負担を負っているか」という点を特定化する12。 アンケートは各アグリゲータを対象に実施したものであり、その中でアグリゲータと契約 する個別需要家について以下の設問項目を含んでいる。 需要家に支払う報酬の kW 単価(ネガワット契約 1kW に対して支払われる報酬) が 10%上昇した場合、需要家が受け入れることのできるネガワット契約量(kW) はどの程度増加すると予想されますか。需要家の形態別にご教示ください。 この設問項目への回答から需要家の形態別に以下の 3 つのステップによって需要家の負 担分を導出した。 ① 社会実証に参加した需要家に支払われた報酬金額(kW あたり)に 10%をかけ合わせ ることで報酬の上昇幅を計算する。 ② 社会実証に参加した需要家のネガワット契約量(kW)に回答結果から得られた上昇率 (%)をかけ合わせることで契約量の上昇幅を計算する。 ③ 上の①で求めた報酬の上昇幅を②で求めたネガワット契約量の上昇幅で除する13。これ 本項で導出する DR による需要家負担は、停電による kWh あたりの需要家負担(停電を 避けるために需要家が払って良い金額あるいは停電を受け入れるために求める金額)を表 す停電価値(Value of Lost Load, VOLL)と関連している。停電価値の推計を行った先行 研究としては、英国において主に選択実験(choice experiment)の方式により停電価値を 導出した London Economics(2013)や日本において停電による損害額をアンケート調査 で捉えた電力系統利用協議会(2014)を挙げることができる。London Economics(2013) の推計では 234~5,565 円/kWh(2013 年の平均為替レートで換算)、電力系統利用協議会 (2014)の推計では 1,215~9,082 円/kWh という結果が得られている。 単純にはこの停電価値を DR の年間発動時間分足し合わせることで、本分析で求める kW あたりの需要家負担と対応させることができる。しかしながら、このように推計した需要 家負担は次の二点から現実の数値より過大となることが懸念される。一つは DR の発動が 停電とそのまま対応していない点である。使用電力量が増えるほど需要家にとっての電力 の限界価値は逓減すると考えられるため、電力利用の一部を抑制する場合に DR から生じ る負担は停電価値よりも小さいと推測される。もう一つは、停電は全ての電力需要家に影 響を与えるものの DR によってネガワットが提供されるのはあくまで DR 契約を結んだ需 要家であるという点である。後述の 4.2.2.1 項の分析からも示唆されるように、DR に対応 する負担が小さい需要家ほど大きいネガワットを提供するとも考えられるため、停電価値 はネガワットの負担のうちでも分布の上方に位置していることが指摘できる。 13 上昇幅がゼロの場合はこの比を計算することができない。以下の分析では上昇幅がゼロ の需要家を分析から除いている。 12 16 によって需要家がネガワット 1kW あたりどの程度の金額を求めるかという点を導出す る。これを需要家がネガワット 1kW あたり負担する分と解釈する。 アンケート結果から本実証における需要家の負担分を求めた結果、平均 2,855 円/kW・年 (中央値 2,400、標準偏差 1,886)という結果が得られた。前述のように、DR による需要 家の負担分は DR の費用として重要なものと認識されつつも、それを金銭的な単位で推定 することは容易ではなく、海外も含めてそのような試みはほとんど行われていない。 DOE&FERC(2013:30)では代替的な方策として、DR 報酬の一定割合(例えば 75%) をこの負担分として計上する方法を例に挙げている。本実証で支払われた報酬の kW 単価 は平均 4,342 円/kW・年であるため、本検証の結果をもとにこの割合を計算すると 65.8% (2,855 / 4,342 = 0.658)という値が得られる。 なお、 本分析で用いたデータは社会実証に参加した 58 件の需要家を元にしたものであり、 サンプル数が必ずしも十分に確保できていない点にも留意が必要である14。特にデータに含 まれる需要家の多くは工場や水道設備など産業用需要家が多く、オフィスビルのような業 務用需要家にはバリエーションが小さかった。今後、より確度の高い形で DR の価値を定 量化していくために、需要家に関するデータ・情報を収集・分析していくことが重要であ る。 ネガワット価値の定量化 DR による便益と DR による費用の差を求めることによってネガワットの価値(円/kW・ 年)を定量化する。DR の費用便益分析を行う場合には視点をどこに置くか(誰にとっての 便益と費用を評価するのか)という点が重要である。DOE&FERC(2013:16-19)では費 用(ここでいう費用とはネガワットの価値に相当する)の概念として、Societal Cost(社 会の構成員が負担する全ての費用。環境への負荷等の外部性も評価の対象となる)、Total Resource Cost(電力供給の費用と需要家の費用の和) 、Program Administrator Cost(電 力事業者やアグリゲータが負担する費用) 、Participant Cost(DR プログラムの参加者が負 担する費用) 、Rate Impact Measure(電力料金の変化)を挙げている。本報告での費用便 益分析は、外部性の考慮はしていないが、電力供給の費用と需要家の負担の両方を含んだ ものであり、Total Resource Cost の考え方に対応している。 14 電力中央研究所(2011b:25)はアンケート調査(回答件数:1,116 件)の結果を元にネ ガワット 1kW あたり需要家が求める報酬額を計算している。推計値はネガワットのポテン シャルのうちどの程度の割合を用いるかで異なっており、ポテンシャルの 80~100%に対 応する推計値が 1,257~50,252 円/kW・年となっている。また、電力中央研究所(2015) では DR の便益を推定した後、それに対するブレーク・イーブン(損益分岐点)でのコス トを導出している。推定結果からブレーク・イーブンでのコストは 5,363~7,768 円/kW・ 年(夏季ピーク、冬季ピークに合わせてそれぞれ計算)となり、本分析での推定値はこれ を下回っている。 17 ただし、本分析で導出するネガワットの価値は Total Resource Cost で考慮される全ての 便益と費用を評価したものではないことに留意が必要である。DR の費用として考えられる 設備費用や通信費用等は分析に含まれていない。 また、本分析では「分散電源」としてのネガワットの価値は導出されていない。災害時 におけるリスク回避などの面から、ネガワットの分散電源としての性質が今後ますます大 きな価値を持つ可能性がある。この点に関しては、将来に向けて知見の蓄積が必要である。 4.2.2. 検証結果:需要家の負担を考慮した DR の費用便益分析 表 2 は便益と費用の差分を取ることによってネガワット価値を導出したものである。上 段が固定費用の抑制に関して既存石油火力の代替を想定するケース、下段が新設 LNG 火力 の建設中止を想定するケースである。4.1.1.1 項で議論したように、固定費用の算定に関し て予備率を考慮しないケースと 8%の予備率を加味するケースの 2 パターンを考えた。 また、 変動費用については考慮しないケース、石油火力の焚き減らしがなされるケースの 2 パタ ーンを列記した。 DR の便益である回避可能原価は 7,008~11,793 円/kW・年という範囲であり、固定費用 の抑制に対する想定に応じて数値に差がついている。DR の費用である需要家の負担分 2,855 円/kW・年を差し引くと、ネガワット価値は 4,153~8,938 円/kW・年という結果が得 られた。 18 表2 推定結果:DR の費用便益分析(円/kW・年) ケース: (1) (2) (3) (4) 【予備率を非考慮】 【予備率を考慮】 【予備率を非考慮】 【予備率を考慮】 7,008 7,569 7,008 7,569 (既存石油火力の代替) (既存石油火力の代替) (既存石油火力の代替) (既存石油火力の代替) DRの便益 固定費用の抑制(①) 燃料費の抑制(②) 0 0 1,080 1,080 (考慮しない) (考慮しない) (石油火力の焚き減らし) (石油火力の焚き減らし) 0 0 117 117 (考慮しない) (考慮しない) (考慮する) (考慮する) 便益合計(④) = ①+②+③ 7,008 7,569 8,205 8,766 需要家の負担(⑤) 2,855 2,855 2,855 2,855 4,153 4,714 5,350 5,911 (5) (6) (7) (8) 【予備率を非考慮】 【予備率を考慮】 【予備率を非考慮】 【予備率を考慮】 9,811 10,596 9,811 10,596 起動費の抑制(③) DRの費用 ネガワット価値 =④-⑤ ケース: DRの便益 固定費用の抑制(①) (新設LNG火力の建設中止)(新設LNG火力の建設中止)(新設LNG火力の建設中止)(新設LNG火力の建設中止) 燃料費の抑制(②) 0 0 1,080 1,080 (考慮しない) (考慮しない) (石油火力の焚き減らし) (石油火力の焚き減らし) 0 0 117 117 (考慮しない) (考慮しない) (考慮する) (考慮する) 便益合計(④) = ①+②+③ 9,811 10,596 11,008 11,793 需要家の負担(⑤) 2,855 2,855 2,855 2,855 6,956 7,741 8,153 8,938 起動費の抑制(③) DRの費用 ネガワット価値 =④-⑤ ※ただし、DRが導入されることによって送配電設備の拡大を回避できることも想定され、そのような場合には、上記回避可能原価及びネガワット価値に、送配 電設備のコストに相当する価値が上乗せされることになる。 4.2.2.1. DR の需要家負担の決定因子 DR の負担は需要家によって異なる可能性がある。ここでは、需要家負担の決定因子につ いて統計的・計量経済学分析を行う。最小二乗法に基づく推定結果をまとめたものが表 3 である。説明変数として、需要家の契約電力(kW)、ネガワット契約量(kW)、負荷制御 の対象、形態を用いている。 推定結果 2(1)では契約電力に関して統計的に有意な推定値が得られなかった。つまり 契約電力で見た需要家の規模と DR の負担に明確な関係は見られなかった。一方で、推定 結果 2(1)、 (2)では契約ネガワットに関して有意に負の推定値(-0.646~-0.448)が得ら れている。これは DR に対応する負担が小さい需要家ほど大きいネガワットを提供するこ とを意味しており、需要家の意思決定として自然と考えられる。推定結果は DR の負担が 100 円/kW・年(これは推定した DR 費用の平均値 2,855 円/kW・円の 3.5%に相当する) 下 落 す る こ と で 契 約 ネ ガ ワ ッ ト が お お よ そ 155kW( 100/0.646 = 154.8 ) ~ 223kW (100/0.448 = 223.2)増加することと対応している。これはサンプルにおける契約ネガワ ットの平均値 836kW の 18.5%(155/836 = 0.185)~26.7%(223/836 = 0.267)に相当し、 19 DR による負担が契約するネガワット量を規定する上での1つのファクターとなっている ことが示唆されている。 表3 推定結果:需要家負担の決定因子 被説明変数: 契約電力(kW) 契約ネガワット(kW) 推定結果2(1) 0.046 (0.096) -0.646 ** (0.286) 需要家の負担(円/kW・年) 推定結果2(2) 推定結果2(3) 推定結果2(4) -0.613 ** (0.252) 契約電力(kW、対数値) 392.86 (609.26) -589.86 (520.34) 契約ネガワット(kW、対数値) -562.39 (433.20) 制御対象: 生産ライン -425.99 (1070.10) 空調 -1192.62 (999.16) 照明 940.91 (1875.76) あり 需要家種別ダミー F値 1.89 28 観測数 -502.20 (1013.34) -893.53 (730.01) 619.47 (1723.45) あり 2.21 * 28 69.29 (1035.55) -1033.52 (1046.86) -268.23 (2038.31) あり 1.42 28 -18.80 (991.51) -749.46 (816.96) -883.36 (1957.45) あり 1.62 28 ※括弧内は標準偏差。***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%の有意水準を表す。 負荷制御の対象に関しては、有意な結果が得られていない。本実証においては DR への 対応方法により需要家負担に大きな差がなかった可能性がある。 説明変数について対数をとった推定結果 2(3) 、 (4)でも係数の向きは同じであるが、統 計的な有意性は失われている。 4.3.DR アグリゲータへのアンケートから得られた考察 ネガワットを含む需要資源(電力需要の上げ下げにより調整される電力)を生かすため には、電力需要が持つ特性を明らかにし、その理解を電力事業者や DR 参加需要家、アグ リゲータの三者の間で共有することが重要である。電源には作業停止等の電源特有の制約 があるのと同様に、需要側資源にも需要家制約が存在すると思われる。こうした需要資源 の持つ特性・制約を理解せずに、電源と同様の扱いをすると、電源との「競争性」に欠く との評価のもとに需要資源が十分に活用されず、電力供給の社会コストを低減させる機会 が失われることにもなりかねない懸念がある。 では需要資源の特性とはどのようなものだろうか。今後、さらなる実証や経験を通じて 知見が蓄積されていき、またそうした経験を積み重ねることで需要資源をさらに上積みす るための工夫もなされてくるものと思われるが、今回アンケートを通じて明らかになった 点をここでは三つ挙げてみたい。 20 (1) 信頼性・確実性について DR を行うにあたって信頼性・確実性を高めるための一つの方法は自動化制御である。空 調や蓄エネ装置、一部の自家発などでは、そうした自動化が最初に入りやすい分野だろう。 産業用では生産設備などの保安上の問題もあることから、そうした需要家の運用方針にあ った形での自動化制御技術の向上が望まれる。 また需要抑制を自動化することはできても、需要の上げ方向(復帰操作)での自動化が 可能なのかについては未知数である。発電機同様に上げ下げが可能な需要資源と、下げの みに利く需要資源というように、需要資源のなかでも強みと弱みがあるのかもしれない。 こうした点における知見と、どのような需要資源が必要とされているのかの見極めが必要 だろう。 (2) 継続時間について 東日本大震災後の再生エネの大量導入に伴って、負荷率が改善されてきていることを考 慮すれば、ピークカット用途として長時間の電源調達が電力会社としては必要となる可能 性がある。このような長時間の需要資源(例えば、水道局のポンプ)は需要家の中でもそ の保有が限られることが想定される。そこで複数の需要資源をリレー的に調達するといっ た運用上の工夫がアグリゲータに求められることになる。アグリゲータへの対価設定はこ うした運用上の技術への対価でもある。 (3) 反応時間について 需要家によって DR への反応時間が異なることが予想される。空調や蓄エネ等では自動 制御と組み合わせることで 10 分程度の短い反応時間を達成することも可能と思われるが、 手動の場合には時間帯によってより柔軟性を必要とする場合もあるだろう。需要家の稼働 状況を見極めた上での判断が求められる場合も少なくないと考えられる。 以上は今回のアンケートを通じて明らかになった現時点での主要と思われる点であるも のの、今後の DR の普及や需要家を含む経験の蓄積に伴って状況は大きく変わりうると予 想される点に注意が必要である。 いずれにしても、需要資源に発電資源との厳密な意味でのイコールフッティングを求め れば、需要資源の多くは使われることなく市場から弾き出されてしまう恐れがある。他方 で需要資源は賢く使うことができれば、代替的な調達手段である既存電源の焚き増しや市 場調達等よりも安価なこともあるはずだ。電源調達のベストミックスに需要資源を織り込 んでいくためにも、需要資源を活用するためのノウハウの蓄積が急務であろう。そのため にも今後、需要家に関するデータ・情報をさらに収集・分析していくことが望まれる。 21 4.4.インセンティブ型 DR 実証プロジェクトとの調整 本事業実施期間中、計 3 回、インセンティブ型 DR 実証事業者と DR 実証を共同で 実施している東京電力と打ち合わせを実施した。 以下に、調整作業として実施した打ち合わせに関するサマリを記載する。 なお、打ち合わせ内容の議事メモおよび交換した資料は付録Ⅰに掲載している。 (1) 第 1 回 東京電力打ち合わせ 開催日時:平成 26 年 8 月 1 日(金) 開催場所:東京電力本店 出 席 者:東京電力 15:00~16:30 ・ 福島本部福島原子力補償相談室補償相談ユニット福島補償相談センタ ー商工業団体相談グループ (昨年度インセンティブ型 DR 実証プロジェクト担当) 永井卓グループマネージャー ・パワーグリッド・カンパニー系統エンジニアリングセンター 馬橋義美津グループマネージャー ・パワーグリッド・カンパニー系統エンジニアリングセンター 元木啓明氏 ・技術統括部技術開発センターエネルギー経済グループ 大木功氏 エネルギー総合工学研究所プロジェクト試験研究部 蓮池宏部長、新谷隆之 議題:インセンティブ型 DR の経済価値評価基準となる発電コストと役割 分担の確認 (2) 第 2 回 東京電力打ち合わせ 開催日時:平成 26 年 10 月 21 日(火) 開催場所:東京電力本店 出 席 者:東京電力側 技術統括部 13:00~14:00 岡本浩部長 同 プロジェクト企画推進グループ 北島博晃副長 同 プロジェクト企画推進グループマネージャー 池ノ内岳彦氏 同 プロジェクト企画推進グループ 保坂直貴氏 同 技術開発センターエネルギー経済グループ 大木功氏 パワーグリッド・カンパニー系統エンジニアリングセンター元木啓明氏 エネルギー総合工学研究所側 川野光伸、新谷隆之 議題:インセンティブ型 DR 実施状況の認識あわせ 22 (3) 第 3 回 東京電力うち合わせ 開催日時:平成 27 年 1 月 19 日(月) 開催場所:東京電力本店 出 席 者:東京電力側 9:30~12:00 パワーグリッド・カンパニー系統エンジニアリングセンター元木啓明氏 エネルギー総合工学研究所側 蓮池宏、新谷隆之 議題:報告書作成に向けたインセンティブ型 DR 実施結果の認識あわせ 4.5.海外でのインセンティブ型 DR 実績の調査 (1) DR プログラムの体系とインセンティブ型 DR の位置づけ インセンティブ型 DR の実績を調査するに当たって、DR の利用が進んでいる米 国を調査対象とした。 下図は、北米信頼度協会(NERC)により米国で実施されているすべての DR プ ログラムを分類・体系化したものである。 図.1 DR の分類 出典:NERC 「2012 State of Reliability」 23 以下に、NERC が体系化した DR プログラムそれぞれについて簡単に説明する。 ① 時間帯別料金(Time-of-Use Rate:TOU) TOU は、DSM としてすでに使われていた料金メニューである。時間帯ごとに従 量料金が変わるため、定性的に系統の需給逼迫が予想されるピーク時間帯に価 格が高くなるような料金設定を行うことによってピーク需要の削減を促し、電 力供給の効率を高めることができる。季節によってピーク料金設定が異なるこ ともあるが、基本的には、時間帯ごとで考えると固定料金である点が、他の電 気料金ベースの需給調整メカニズムと異なる。 ピーク需要時間帯の料金を高く設定してピーク削除のために用いられるだけ でなく、電気自動車(EV)の充電料金制度として、通常電力需要の低い夜間の 電気料金を更に安くして、EV 充電の時間を夜間の時間帯に誘導するような使わ れ方もある。 ② 緊急ピーク時課金(Critical Peak Price:CPP) TOU に対して CPP は、翌日特に需給が逼迫しそうな場合、前日のうちに「ピー ク時間帯に電気を使うと通常のピーク料金よりも更に高い価格設定が適用さ れること」を需要家に通告し、需要抑制を促すものである。電力会社は、年間 数十時間程度の緊急ピークに対応するためだけのピーク電源の確保に向けて、 膨大な設備投資をしているので、確実にピーク需要を削減することができれば、 設備投資の抑制に大きな効果があると期待されている。 ③ リアルタイム料金(Real-Time Price:RTP) 電気料金の発電費用の部分を卸電力市場価格などと連動させ、1 時間ごとある いは 30 分ごとなど時間区分別の電気料金が日々異なる料金メニューが、RTP である。現在は、当日・当該時間(本当の意味のリアルタイム)の卸電力市場 価格ではなく、前日の卸電力市場価格や、リアルタイム市場(電力需給調整市 場)の前日予測値が用いられている。したがって、翌日 24 時間の各時間帯の 電力価格をあらかじめ把握できるが、時間区分ごとに細かく電力価格が異なり、 更に日々料金が変動するため、需要家が電気代を節約するにはそれなりの努力 が必要である。 ④ 送電混雑対応型託送料金(System Peak Response Transmission Tariff) 系統全体を見ると電力需要の過不足がなくても、特定の送電系統部分で冗長性 がなく部分的に需給逼迫が発生しそうな場合、当該送電網に所属する需要家向 けの時間帯電力料金を高く設定することで、送電混雑の解消を狙う託送料金メ ニューである。 ⑤ 直接負荷制御(Direct Load Control:DLC) DLC は、電力会社が家庭用や業務用の DSM として提供してきたもので、契約に 24 基づき、ピーク需要時に電力会社側からの遠隔操作でエアコン、給湯器やプー ルのポンプの運転を遮断もしくはサイクル制御 して、需要を削減する代わり に、電力会社に協力した度合いに応じたインセンティブが付与される契約であ る。日本でも、瞬時調整契約という名称で同様の需給調整契約を持つ電力会社 が存在する。 ⑥ 遮断可能負荷(Interruptible Load:IL) 主に業務用および産業用の DSM として電力会社が提供してきたもので、DLC ほ どの瞬時性は求められないが、電力会社の要請に基づいてあらかじめ契約した 通りに負荷遮断を行う代わりに、電力会社に協力した度合いに応じたインセン ティブが付与される契約である。日本でも、随時調整契約という名称で同様の 需給調整契約を持つ電力会社が存在する。 ⑦ 直接負荷制御を伴う CPP 料金(Critical Peak Pricing with Control) CPP と DLC を組み合わせた DR プログラム。通常は価格シグナルを受けた需要家 に、電気の使用量の調整判断をゆだねるが、系統に緊急事態が発生するなどし て卸売価格が高騰した場合、直接負荷制御により需要家の負荷を削減する。 ⑧ 負荷削減による容量確保(Load as a Capacity Resource:Capacity) 業務用および産業用の契約で、系統内の事故などに対応して即座に負荷削減可 能な量を入札しておく。業務用および産業用の大口顧客で、電力会社や系統運 用機関からの指示があれば即座に負荷削減できる場合、この契約を結ぶことに よって、電力会社に協力した度合いに応じたインセンティブが付与される。 ⑨ 瞬時予備力(Spinning Reserves:SR) 本来は、電力会社や系統運用機関が発電会社と締結する契約で、系統内の電源 が停止するなどに対応して即座に出力を増加させるためのもの。業務用および 産業用の大口顧客で、電力会社や系統運用機関からの指示があれば即座に負荷 を削減できる場合、この契約を結ぶことによって、電力会社に協力した度合い に応じたインセンティブが付与される。 ⑩ 待機予備力(Non-Spinning Reserves:NSR) これも、本来は電力会社や系統運用機関が発電会社と締結する契約である。業 務用および産業用の大口顧客で、電力会社や系統運用機関からの指示があれば 数分間で負荷を削減できる場合、この契約を結ぶことによって、電力会社に協 力した度合いに応じたインセンティブが付与される。 ⑪ 緊急時応答(Emergency Demand Response:EmDR) 業務用および産業用の契約で、系統内の事故などに対応して即座に出力を増減 させるためのもの。業務用および産業用の大口顧客で、緊急事態発生に伴って 25 電力会社や系統運用機関からの指示があれば即座に負荷調整できる場合、この 契約を結ぶことによって、電力会社に協力した度合いに応じたインセンティブ が付与される。 ⑫ 周波数制御(Regulation Service:Reg) これも、本来は電力会社や系統運用機関が発電会社と締結する契約である。業 務用および産業用の大口顧客で、電力会社や系統運用機関からの指示があれば 周波数調整電源と同等のスピードで負荷を調整できる場合、この契約を結ぶこ とによって、電力会社に協力した度合いに応じたインセンティブが付与される。 ⑬ 需要入札・買戻し(Demand Bidding and Buyback:DBB) 需要家側が当初使用を予定した電力量のうち、需要削減に応じても良い電力量 を入札しておき、電力会社や系統運用機関側が必要に応じて買い戻すものであ る。一日前市場での電力取引に DR 資源の参加を認めたものである。 ⑤から⑬の、系統運用機関の管轄となる、リアルタイム市場に適用される DR は、 Real-Time DR と呼ばれ、それに対して、従来の一日前の情報に呼応する形の DR(CPP、 RTP、PTR)は、近年 Day-Ahead DR または Slow-DR と呼ばれるようになっている。 また、将来の容量確保のため容量市場で調達された DR 資源は、実際には、必要に 応 じ て エ ネ ル ギ ー 市 場 ・ ア ン シ ラ リ ー サ ー ビ ス 市 場 で Emergency-DR / Reliability-DR、Spinning Reserve/Non-Spinning Reserve-DR または、Regulation UP/DOWN-DR として利用されることになる。これらは即時対応型 DR という意味で Fast-DR と呼ばれることがある。 これらの DR プログラムの中でインセンティブ型 DR と呼ばれるものは、上図中 左側にまとめられ枠で囲まれている部分、および経済差し替えとして調達される需 要入札・買戻し(Demand Bidding and Buy Back)の DR プログラムである。 インセンティブ型DRプログラム 価格反応型DRプログラム Demand Bidding and Buyback Critical Peak Pricing with Control Direct Load Control Critical Peak Pricing Emergency Demand Response Peak Time Rebate Interruptible Load Real-Time Pricing Load as Capacity Resource Time-of-Use Pricing Non-Spinning Reserves System Peak Response Transmission Tariff Regulation Service Spinning Reserves 26 (2) 海外でのインセンティブ型 DR 事例調査 米国では、州により電力自由化の度合いが異なり、自由化の進んでいる地域では、 系統運用者が DR 資源を市場調達する形が一般的になっている。その場合、DR プ ログラム仕様としての大枠は、たとえば容量(Capacity)調達用、予備力(Reserves) 調達用、緊急(Emergency-Voluntary)調達用、あるいは周波数調整(Regulation) 用の DR プログラムとして規定されるが、調達コストは市場での需給バランスで決 定されるので、その市場価格をもって日本でインセンティブ DR 実証事業者が設計 した DR プログラムと比較・評価してもあまり意味をなさない。 そこで、本事業では、市場調達型のインセンティブ DR プログラムではなく、カリ フォルニア州の3大私営電力会社の1つである PG&E が電気料金メニューの一環と して提供しているインセンティブ型 DR プログラムを調査した。 以下に、該当する DR プログラムの概要と仕様(基本料金、従量料金と条件など) を示す。 SmartAC program (SA) セントラル冷暖房装置を所有する一般家庭/中小企業向けの DLC(直接負荷制御) プログラムで、SmartAC プログラムに参加申し込みをすると、PG&E が SmartAC スイッチあるいはスマートサーモスタットを無償で設置し、5 月 1 日~10 月 31 日 の間、電力供給不足が発生すると、PG&E からの信号で SmartAC のスイッチが 遠隔操作され、電力消費が抑えられるあるいはエアコンの温度設定を4度上げる。 負荷削減量に応じた経済的なインセンティブはないが、SmartAC プログラム参加 者には、プログラム参加時に$50 が支払われる。 Base Interruptible Program (BIP) 緊急事態に備えて遮断可能負荷(IL)をもつ需要家を確保するためのプログラムで、 系統運用に関して緊急事態が発生すると、PG&E がカリフォルニア州の系統運用者 である CAISO に代わって当該契約を行った需要家に負荷削減要請を行う。需要家は、 緊急事態が発生しなくても月当たり 8~9 ドル/kW のインセンティブを受ける。 その代わり、緊急事態発生を告知されたら、30 分以内にあらかじめ定めたレベル (Firm Service Level:FSL)まで負荷を下げなければならない。負荷を下げられ なかった場合は 6 ドル/kWh の罰金が科せられる。 負荷削減要請は最大 1 日 1 回、連続 4 時間以内で、月 10 回以内。負荷削減時間合 計は年間 180 時間以内である。 Demand Bidding Program (DBP) 系統の安定性を確保するために CAISO が警告を出したり、PG&E が天候予測情報や 27 自社調達電源不足等の状況から判断して前日正午までにすれば、指定された時間内 に、 (連続 2 時間以上)10kW 以上負荷を下げられる大口需要家にインセンティブを 与える、いわゆる経済差し替え方の通年の DR プログラム。実際にこのプログラム による DR 資源調達が行われた場合、負荷削減量に応じて 0.50 ドル/kWh が支払わ れる。10kW 以下しか負荷を削減できなくてもペナルティの支払いは発生しない。 Capacity Bidding Program (CBP) ピーク負荷削減のため PG&E が用意した DR プログラムで、当初、夏季(5 月 1 日~ 10 月 30 日)の容量確保(Capacity)方 DR プログラムだったが、現在は通年のプ ログラムとなっており、多くの DR アグリゲータが参加している。 一日前に負荷削減要請を行うタイプと、当日負荷削減要請を行うタイプがあるが、 どちらも要請回数は最大 1 日 1 回、合計で最大月 30 時間となっている。契約通り 負荷が下げられなかった場合は罰金が科せられる。 負荷削減要請タイプと連続負荷削減時間の種類によって下表のようなインセンテ ィブを受ける。 28 (3) 海外でのインセンティブ型 DR における価格設定の考え方 以上のインセンティブ型 DR プログラムは、カリフォルニア州で電力供給を行って いる電力会社 PG&E 単独のものであるため、各種のインセンティブ型 DR の普遍的 な価格を示唆するものではない。 ただし、カリフォルニア州では、カリフォルニア公益事業委員会(CPUC)が電力・ ガス会社を統括し、同州の省エネプログラム(DR プログラムを含む)の計画・策定 を実施しており、省エネプログラム実施費用は、PGC(Public Goods Charge)とし て、電気・ガス料金と共に需要家から直接徴収されている。そのため、DR プログラ ムに関しても料金水準の透明性が求められており、PG&E の各種 DR プログラムの 料金設定に当たって、CPUC が費用対効果の分析を行い、メリットのあるプログラ ムについてのみ実施が認められている。 2010 年 12 月に公開されている「2010 Demand Response Cost Effectiveness Protocols」によると、CPUC の DR に関する費用対効果分析手順は、分散電源の回 避費用分析手法をベースとしており、以下の 4 つの評価軸から構成されている。 1) Total Resource Cost(TRC) :DR プログラムに参加したかどうかにかかわら ず、DR プログラムを実施した電力会社の顧客全体のコスト便益を集計し、 DR を使うことにより電力会社側コストおよび DR プログラムに参加した顧客 のコストの合計が低下したかどうか判断する 2) Program Administrator Cost(PAC) :DR プログラムを実施した電力会社(ま たは、DR プログラム管理者)が要したコストと便益を集計し、電力会社のコ ストが低下したかどうか判断する 3) Rate Impact Measure(RIM) :上記の PAC を含め、DR プログラム実施に より、電気料金が低下したかどうか判断する 4) Participant Cost:DR プログラムに参加した顧客のコスト便益を集計し、DR プログラムに参加したことによりコストが低下したかどうか判断する これらの評価軸に対して、以下の評価項目に関する価値を評価している。 Administrative costs:DR プログラムの管理に要する費用 Avoided costs of supplying electricity:電力供給回避費用 Bill Increases:電気代の増加 Bill Reductions:電気代の減少 CAISO Market Participation Revenue:CAISO 市場への参加収益 Capital costs to LSE:電力会社(LSE)への支払い Capital costs to participant:参加者への支払い 29 Environmental benefits:環境への影響 Incentives paid:インセンティブの支払い Increased supply costs:供給増加への支払い Market benefits:市場での収益 Non-energy/monetary benefits:エネルギー/金銭以外の便益 Revenue gain from increased sales:売り上げ増加による収益増加 Revenue loss from reduced sales:売り上げ減少に伴う収益減少 Tax Credits:DR 参加に伴う税金の低減 Transaction costs to participant:参加者の取引費用 Value of service lost:サービスロスに伴う費用 評価軸によって、これらの評価項目は費用(Cost)に相当するか、便益(Benefit) に相当するかは、以下の表のとおりである。 評価軸と評価項目の関係 TRC PAC RIM Administrative costs Cost Cost Cost Avoided costs of supplying electricity Benefit Benefit Benefit Participant Bill Increases Cost Bill Reductions Benefit CAISO Market Participation Revenue Benefit Benefit Benefit Capital costs to LSE Cost Cost Cost Capital costs to participant Cost Environmental benefits Benefit Incentives paid Cost Cost Cost Increased supply costs Cost Cost Cost Market benefits Benefit Benefit Benefit Non-energy/monetary benefits Benefit Benefit Benefit Revenue gain from increased sales Benefit Revenue loss from reduced sales Cost Tax Credits Benefit Benefit Transaction costs to participant Cost Cost Value of service lost Cost Cost 評価軸ごとに上記の評価項目の値を費用と便益に分けて積算することで、各評価軸 で見た場合の DR プログラムの評価、それらを束ねることで全体の評価を得ること ができる。DR プログラムのインセンティブ価格が直接関係するのは評価軸 3)Rate Impact Measure(RIM)のみであるが、それを含めた複数の観点から DR プログ 30 ラムが評価されていることがわかる。 (4) 海外でのインセンティブ型 DR の利用実績 以上、インセンティブ型 DR の利用実績として、いくつかのインセンティブ型 DR の事例と、それらの価格設定の考え方についてまとめた。 ここでは、米国における DR プログラムの実績を 8 年間にわたって追跡してきた米 国連邦エネルギー規制委員会(FERC)の報告書 “Assessment of Demand Response & Advanced Metering”のデータを用いて、インセンティブ型 DR に関する利用実 績の推移をいくつかの評価軸ごとに再集計した結果を図示する。 ※ これは、FERC が 2006 年から 2 年ごとに電力供給を行っている全米の 電力会社や系統運用者、自治体などに対して実施した DR に関するアン ケート調査で得られた数字をベースにまとめられたものである。 ※ 最新の 2014 年度調査では、調査対象の母集団が変更されたので比較す ることができないため、2012 年度までのデータを元にグラフを作成し ている。 この図から、インセンティブ型 DR を含めて米国においては、ピーク負荷削減用の DR 資源調達可能量が順調に増えているが、2012 年では全 DR のピーク負荷削減可 能量に対してインセンティブ型 DR によるピーク負荷削減可能量の割合が減少して いる(すなわち、価格対応型 DR によるピーク負荷削減可能量の伸びのほうが大き くなっている)ことが伺える。 31 インセンティブ型 DR の需要家タイプ別ピーク負荷削減可能量の推移に見ると、住 宅向け DR(Residential)はほぼ変わらず、2008 年時点で大口需要家(C&I)より 卸売市場(Wholesale)からの DR 調達が多くなっていることがわかる。 FERC の報告書に記載されている全 DR の需要家タイプ別ピーク負荷削減可能量 の推移は下図のとおりなので、卸取引市場でのインセンティブ型 DR 調達が大口需 要家からのインセンティブ型 DR 調達よりも伸びているとことがわかる。 出典:FERC、2012 年版 DR&SM 評価報告書 32 33 上図は、インセンティブ型 DR の需要家別 DR プログラムタイプ別のピーク負荷削 減可能量の推移をまとめたものである。 住宅向け(Residential)はほぼ直接負荷制御(DLC) 、大口需要家(C&I)は大半が 遮断可能負荷(IL)の DR プログラム、卸売市場では調査のたびごとに調達されて いる DR プログラムタイプが入れ替わっているが、2012 年では容量市場殻の DR 調 達画半分以上を占めていることがわかる。 住宅向けの DLC はインセンティブ型 DR で見る限り、ほぼ横ばいだが、今後スマー トメーターの普及により、当面は時間帯別料金(TOU) 、将来的には Fast-DR 型の リアルタイム料金(RTP)の DR プログラムが伸びていくのではないかと考えられ る。 以上 34 参考文献 [1] EnerNOC(2011)“The Demand Response Baseline.” [2] International Energy Agency(2010)“World Energy Outlook.” [3] London Economics (2013) “The Value of Lost Load (VoLL) for Electricity in Great Britain.” [4] North American Energy Standards Board “Measurement and Verification of Wholesale Electricity Demand Response.” [5] U.S. Department of Energy and Federal Energy Regulatory Commission(2011) “Assessment of Demand Response & Advanced Metering.” [6] U.S. Department of Energy and Federal Energy Regulatory Commission(2013)“A Framework for Evaluating the Cost-Effectiveness of Demand Response.” [7] Wolak(2011) “Do Residential Customers Respond to Hourly Prices? Evidence from a Dynamic Pricing Experiment,” American Economic Review: Papers & Proceedings. [8] エネルギー・環境会議 コスト等検証委員会(2011 年) 「コスト等検証委員会報告書」 [9] 経済産業省「電源開発の概要(平成 17 年度) 」 [10] 電気事業連合会統計委員会「平成 26 年版 電気事業便覧」 [11] 電力系統利用協議会(2014) 「停電コストに関する調査 報告書」 [12] 電力中央研究所(2011a)「デマンドレスポンスプログラムの導入がわが国の発電コス トに与える影響」研究報告 Y10021. [13] 電力中央研究所(2011b)「業務・産業需要におけるデマンドレスポンスのポテンシャ ル評価-関東圏の事業所アンケート調査に基づく集計・分析-」研究報告 Y10020. [14] 電力中央研究所(2013) 「デマンドレスポンスにおける需要家ベースライン選定に関す る北米評価事例の調査」研究報告 Y12021. [15] 電力中央研究所(2015) 「ネガワットの費用便益評価に関する一試算―自律的節電スキ ームによるピーク火力代替の可能性―」SERC Discussion Paper 14008. 35
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