肝超音波診断のNew Technology SMIとSWE

特別企画
2015年3月5日
提供●東芝メディカルシステムズ株式会社
肝超音波診断の
New Technology
SMIとSWE−Propagationの必要性と臨床的有用性−
近年の画像診断法の進歩は目覚ましく,臨床診断における重要性が増している。
中でも超音波診断における進歩は急ピッチで,臨床応用の範囲を拡大するニューテ
クノロジーが相次いで開発,導入されつつある。例えば,剪断波が伝播する速度か
ら組織の硬さを評価するShear Wave Elastography(SWE)
は,びまん性肝疾
患における肝線維化の程度や肝腫瘍の存在を,これまで以上に高精度に診断するこ
とを可能にする。また,造影剤を使わない状態でも微細で低流速の血流を描出する
ことのできるSuperb Micro-vascular Imaging
(SMI)
も,肝障害に伴う微細
血流の変化や肝腫瘍の血流をより鋭敏に診断することを可能にする。
本企画では超音波診断のニューテクノロジーのうち SWE と SMI の2つに焦点を
小川 眞広
当て,その原理と特徴,肝疾患診療における臨床応用の可能性などについて紹介す
る。解説は,わが国における超音波診断をリードする研究者の1人である日本大学
内科学系消化器肝臓内科分野准教授 / 日本大学病院消化器内科科長・超音波診断セ
ンターセンター長の小川眞広氏にお願いした。
氏
日本大学内科学系
消化器肝臓内科分野 准教授/
日本大学病院消化器内科 科長・
超音波診断センター センター長
で,もう1つが組織の中を剪断波
(shear wave)
が伝
組織の中の剪断波の伝播速度から
組織の硬さを評価するSWE
播する速度を見るSWEである。
東芝メディカルシステムズ社が開発したSWEでは,
びまん性肝疾患では肝線維化が進むほど組織の硬
まず音響的プッシュパルスによって組織の一部を変
さが増す。また,肝腫瘍が存在すれば,その病巣の
形させ,それにより生じた剪断波が組織の中を伝播
硬さは増している。したがって,肝組織の硬さ,ない
する速度を検出し,それに基づき組織の硬さを評価
し硬さの分布を精細に評価することができれば,肝
する。組織が線維化により硬くなっていると,全体的
線維化や肝腫瘍の診断に有用である。こうした観点
に剪断波の速度は速くなる。また,組織の中が腫瘍
から,超音波診断でも肝組織の硬さを評価する方法
で硬くなっていると,その部分は周辺組織に比べて
が模索されてきた。しかし,Bモードのスペックルパ
剪断波の速度が速くなる
(図1)
。
ターンでは,中等度
(F2)
,軽
度
(F1)
の肝線維化を診断する
図1 SWEにおける剪断波の伝播速度の変化
のは困難であった。そこで,
肝組織の硬さを評価する方法
として開発され,注目されるよ
うになったのがエラストグラ
フィである。
エラストグラフィには2つの
方法がある。1つは組織に一
定の圧を加えたときに生じる
ゆがみの大きさを見るstrain法
a プッシュパルスによって
組織の一部を変形させる
b 腫瘍などの硬い障害物では
伝播速度が速くなる
1
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プロセスシアンプロセスマゼンタ
プロセスシアン
プロセスマゼンタプロセスイエロー
プロセスイエロープロセスブラック
プロセスブラック
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なお,剪断波の速度は,次式によって弾性に換算
剪断波がきちんと伝播していないことが疑われる。す
される。
なわち,等高線を確認することで,SWEのデータの信
E=3ρVs2
頼性を判断することが可能になっている
(図3)
。
E:弾性率
(kPa)
Vs:剪断波の伝播速度
(m/s)
データの経時的比較,患者間比較も可能に
3
ρ:密度
(kg/m )
SWEの臨床的有用性は,何より組織の硬さを絶対
到達時間等高線表示
(Propagation)
により
データの信頼性を担保
的な弾性率で定量的に評価できることで,
「これによ
りデータの経時的比較,患者間比較が可能になる」
と
SWEは東芝メディカルシステムズ社の超音波診断
小川氏。さらに同氏は,
「到達時間等高線表示により
システムAplioTM PlatinumシリーズのAplio 500にオ
データの信頼性が担保されていることの意義も大き
プションとして搭載されている
(写真)
。SWEには,
い」
と言う。これまで肝疾患の診断のゴールドスタン
①剪断波伝播速度表示
写真
②弾性率表示
Aplio 500を用いて診察している風景
③到達時間等高線表示
(Propagation)
の3つの表示モードがあり,必要に応
じて切り替えて表示することができる
(図2)
。
①は剪断波の伝播速度が速いと評価
された部分は赤 色で表 示される
(カ
ラーマップは設定変更可能)
。
②では弾性率の高い部分が赤色で表
示される。
③は剪断波が組織に到達した時間を
等高線で表示するモードで,組織が硬
いと到達時間が速くなり等高線の幅が
広がり,組織が軟らかいと到達時間が
遅くなり等高線の
幅が狭まる。
図2 SWEの3つの表示モード
びまん性肝疾患
の場合は,部位に
より剪断波の伝播
Smart map
第三の表示モードが使える
弾性率表示 E
[kPa]
elasticity
速度が大きく異な
E=3ρVs2
Vs:剪断波伝播速度[m/s]
ρ:密度[kg/m3]
るということはない
ので,等高線は同
じ幅のまま連続す
る。 し た が っ て,
剪断波がきちんと
伝播している場合
は,平行な等高線
が表示される。し
到達時間等高線表示
Propagation
剪断波伝播速度表示
speed[m/s]
かし,等高線の線
がギザギザで平行
東芝独自
でもない場合には,
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なく,腫瘍内の変化を捉えて腫瘍分化度の評価にも
症などに加え,サンプリングエラーなど多くの問題が
有用な可能性がある。肝細胞がんにおいて剪断波の
あった。しかし,
「SWEにより非侵襲性に一定の精度
伝播速度を比較した結果,高分化型,中分化型と比
をもって肝線維化の程度や肝腫瘍の存在が評価でき
較して低分化型肝細胞がんでは有意に伝播速度が速
るとなれば,今後,超音波診断の有用性は増すと考
い,すなわち硬さが増していたという報告もある1)。
えられる」
と同氏は展望する。なお,肝線維化の程度
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ダードは肝生検であったが,これには侵襲性や合併
造影剤なしでも
微細な低流速の血流評価を可能にするSMI
(Superb Micro-vascular Imaging)
の評価に関しては最近,糖鎖マーカーを用いた検査
試薬により,採血のみで迅速に評価する方法が開発
され,保険適用となった。ただし,採血には軽度とは
いえ侵襲が伴い,また,検査は特別な検査機器
(免疫
超音波診断での血流の描出には,これまでもっぱ
測定装置)
を用いて臨床検査室で行われるもので,
らカラードプラ法が用いられてきたが,微細で低流速
ベッドサイドで行われるものではない。したがって,
の血流の描出には限界があった。そこで,造影剤を
完全に無侵襲に,またベッドサイドで,主治医が肝の
用いて描出能を高める工夫がされてきたが,適用部
全体的なチェックと併せて線維化も評価できるSWE
位には制限があり,患者負担も大きかった。東芝メ
には,大きな臨床的有用性を期待してよいだろう。
ディカルシステムズ社の開発したSMIは,こうしたカ
SWEの肝疾患診療への応用としては,まず,びま
ラードプラ法の欠点を克服し,微細で低流速の血流
ん性肝疾患全般における線維化の程度の評価が挙げ
の描出を可能にした新しい血流イメージング技術で
られる。一見通常の脂肪肝のように観察されても,
ある。
実際には線維化が進行している症例を拾い上げるこ
低流速での血流の描出の妨げになるのは,検者お
とが可能となるため,ウイルス性肝炎に加えて脂肪
よび被検者の呼吸に伴う動きなど,血流以外の対象
肝や非アルコール性脂肪性肝炎
(NASH)
の診断にも
物からくる不要なドプラ信号
(モーションアーチファ
有用なことが期待される。同氏によれば,
「今後は B
クト)
である。これまでの技術では,この不要なドプ
モード像で正常に近い像であっても,SWEで肝組織
ラ信号を,血流信号を残しつつ排除することはできな
が硬いと評価されれば,それにより慢性変化が強い
かった。SMIではモーションアーチファクト特有の特
ことを疑うというような症例も出てくるのではないか」
徴を解析することで,これを除外し,血流信号だけ
という。
を取り出すことが可能になった
(図4)
。
SWEはびまん性肝疾患の単なる硬さの診断だけで
臓器として,その実質中に最も豊富に血液を含ん
でいるのは肝臓で
図3 到達時間等高線表示におけるデータの信頼性
ある
(心臓のように
内腔に血液をため
ているのではな
く)
。したがって,
信頼性高い
「肝疾患の診断に
おいて,血流に関
する情報を得るこ
全ての線が滑らか
(まっすぐ)であり,
互いに平行である
とは 極 め て 重 要
で,臨床的有用性
信頼性低い
線がギザギザで,
かつ,互いに
平行でもない
が高い」
と小川氏
は言う。
信頼性高い
びまん性肝疾患
で線維化が進行す
ると,肝臓の血流
支配が変化するの
で,血流変化が生
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のRFAを実現する上でも有用であると考えられる。
じる。肝臓は門脈と肝動脈の2つにより栄養されてい
るため,血流表示によりその変化を推測することも可
画像検査として,超音波診断にはCTのように放射
能である。軽症の慢性肝炎ではあまり変化はないが
線の被ばくがなく,また,CTやMRIほど大掛かりな
肝硬変の初期になると,門脈の血流が低下し,進行
装置を必要としないなどのメリットがある。一方,超
と共に門脈血流はさらに低下し,代償的に動脈血が
音波診断では検者間でスキルに差が生じやすく,そ
上昇する。したがって,
「門脈と肝動脈の血流のバラ
れにより有用性が左右されることなどがデメリットと
ンスを評価することで,肝線維化のステージを推測
考えられている。検者間でスキルに差が生じやすい
することも可能になる」
と同氏。肝腫瘍でも腫瘍の成
最たる理由は,プローブ操作の自由度が極めて高い
長につれ新生血管が増加するなど血管構築の乱れが
ことである。そのため,プローブ操作に熟達した検
観察されるので,その詳細な評価から,腫瘍のステー
者では観察できるものが,熟達していない検者では
ジを推測することも不可能ではない。
観察できないということが起こる。
SMIは造影剤を用いないことが大きな利点ではあ
しかし,プローブ操作の自由度が高いということは,
るが,特に血管構築を詳細に評価したい症例を選ん
決してデメリットとしてだけ捉えるべきではないだろ
で造影剤を用いれば,さらに臨床的有用性は高まる
う。なぜならプローブ操作が自由ということは,手で
と考えられる。
触れる患部を可視化したいという画像診断の根源の
目的に沿ったものであるからだ。同氏も「スキルが上
SWEやSMIの導入で
Fusionにおける超音波診断の有用性も高まる
がりさえすれば,超音波診断は触診代わりになり,被
検者との強力なコミュニケーションツールにもなりう
最近,CT,MRI,超音波診断など複数の画像検査
る」
という。
「SWE やSMIの導入により超音波診断へ
で得られた情報を融合する,いわゆるFusionによる診
の理解と関心の高まることが,超音波診断に真剣に
断も盛んに行われるようになった。SWEやSMIは
取り組む医師の増加につながり,その中からスキルの
Fusionにおける超音波診断の有用性も高める。診断
難しさをむしろ醍醐味と感じるような医師が1人でも
能をさらに向上させることの他に,小川氏は,
「Fusion
多く出てくることを期待したい」
と同氏は結んだ。
により無用な画像再検査が減ることも期待している」
1)森安史典氏(東京医科大)のデータ
という。SWEやSMIを用
で,例えば最初のFusion
で,経過が超音波で十分
に追えるという判断が得
られていれば,その後は
Intensity
の経過観察にも有用なの
図4 従来の手法とSMIによる血流イメージングの比較
Intensity
いた超音波診断は肝疾患
従来の
フィルタ
モーション
アーチ
ファクト
血流
超音波だけを施行し,無
微細
用なCTやMRIは避けら
血流
通常
通常
Velocity
れるわけである。
Intensity
肝腫瘍の主要な治療
Velocity
従来のフィルタ技術
法の1つにラジオ波焼
術
(RFA)
があるが,これ
SMI処理
は通常,超音波検査ガイ
ド下に穿刺針を患部に刺
血流
入して行われる。SWE
やSMIは,より正確で安
全な超音波検査ガイド下
微細
肝硬変症例の肝表面のSMI加算画像
SMI技術
通常
Velocity
本特別企画は東芝メディカルシステムズ株式会社の提供です
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