Patlak plot 法に基づく大脳平均脳血流量の自動解析法

一般社団法人 電子情報通信学会
一般社団法人
電子情報通信学会
THE
INSTITUTE
OF ELECTRONICS,
THE INSTITUTE OF
ELECTRONICS,
INFORMATION
AND
COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
信学技報
IEICE Technical Report
IEICE MI2014-78(2015-3)
Technical Report
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
Patlak plot 法に基づく大脳平均脳血流量の自動解析法
原 武史††
小保田智彦†
片渕哲朗†††††
多湖博史†††
後藤裕夫†††
福岡大輔††††
藤田広志††
†
††
岐阜大学工学部応用情報学科 〒501-1194 岐阜県岐阜市柳戸 1-1
岐阜大学大学院医学系研究科再生医科学専攻知能イメージ情報分野 〒501-1194 岐阜県岐阜市柳戸 1-1
†††
岐阜赤十字病院放射線科部 〒502-8511 岐阜県岐阜市岩倉町 3-36
††††
岐阜大学教育学部技術教育講座 〒501-1194 岐阜県岐阜市柳戸 1-1
†††††
岐阜医療科学大学保健科学部放射線技術学科 〒501-3892 岐阜県関市市平賀字長峰 795-1
E-mail: †{kobota, hara, fujita}@fjt.info.gifu-u.ac.jp
あらまし
脳血流シンチグラフィの低侵襲な定量解析法として, 放射性薬剤からのカウント数を利用する Patlak plot 法を用いた大脳平均
脳血流量(mCBF)の測定が一般的に行われている. しかし従来の方法では ROI 設定により測定者間, 測定者内変動があるため, 再
現性が問題となっている. われわれは自動解析で算出す方法の開発を行った. 今回 2011 年に撮影された 44 症例を用いて, 5 名の
技師の手動測定による測定結果と開発した本手法との比較を行った. 自動解析法による測定値は 3 名の技師と同等の傾向を示し,
右脳 28 症例, 左脳 27 症例において 5 名の技師の手動測定による測定値の範囲内に存在した.
キーワード
脳血流シンチグラフィ,Patlak plot 法
Automated analysis of mean cerebral blood flow based on Patlak plot method
Tomohiko KOBOTA†
Takeshi HARA††
Tetsuro KATAFUCHI†††††
Hiroshi TAGO†††
Hiroo GOTO†††
Daisuke FUKUOKA††††
and Hiroshi FUJITA
†
Department of Information Science, Faculty of Engineering, Gifu University
1-1 Yanagido, Gifu, Gifu, 501-1194 Japan
††
Department of Intelligent Image Information, Gifu University Graduate School of Medicine
1-1 Yanagido, Gifu, Gifu, 501-1194 Japan
†††
Department of Radiology, Japanese Red Cross Gifu Hospital, 3-36 Iwakura, Gifu, Gifu, 502-8511 Japan
††††
Technology Education, Faculty of Education, Gifu University, 1-1 Yanagido, Gifu, Gifu, 501-1194 Japan
†††††
Department of Radiological Technology, Faculty of Health Science, Gifu University of Medical Science
795-1 Ichihiraga aza nagamine, Seki, Gifu, 501-3892 Japan
E-mail:
†
{ kobota, hara, fujita}@fjt.info.gifu-u.ac.jp
Abstract The purpose of this study is to develop an automated analysis method to reduce variations in the measurement of
mean cerebral blood flow based on the Patlak plot method. We compared measurements of an automated analysis method and
a manual procedure in the five radiological technologists (RTs) to evaluate our developed method. Measurement results by our
automated analysis showed the same tendency as three RTs and existed in the range of measurements by manual measurements
of five RTs in 28 right and 27 left cerebral hemisphere.
Keywords Cerebral blood flow scintigraphy,Patlak plot method
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©20●●
IEICE
Copyright
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by IEICE
1. は じ め に
認知症の早期発見には放射性薬剤による脳血流シンチ
2.2 大 脳 半 球 基 準 座 標 の 決 定
グラフィが用いられており, 脳全体の血流量の把握や
大脳半球の基準座標は, 画像におけるモーメントを
瀰漫性の血流低下の検出, 治療効果の判定には脳血流
用いて決定する. まず背景領域において画素値が最も
量 の 定 量 評 価 が 必 要 と さ れ て い る [1]. Patlak plot 法 は
高い数値を閾値とし 2 値化処理を行う. 2 値化を行い得
放射性薬剤から放出される放射線量を測定し, 測定値
られた領域の最上画素を頭頂部, 幅が最も小さい位置
と血流量の関係を動脈採血の代わりに利用する低侵襲
を 頸 部 と し , 頸 部 よ り 下 の 領 域 を 削 除 す る .残 さ れ た
な 脳 血 流 測 定 法 で あ る . し か し , 関 心 領 域 (Region of
領域を頭部領域とし, モーメントから得られる重心を
interest:ROI)の 設 定 , ROI か ら 得 ら れ る 時 間 放 射 能 曲 線
大 脳 半 球 ROI の 基 準 座 標 と す る . 図 2 に 閾 値 に よ る 2
(Time activity curve:TAC)の 時 間 補 正 な ど , 多 く の 手 動
値化後の領域と, 抽出された頭部領域を示す.
操作が存在する. そのため測定者によって結果にばら
つきがあるとされている. ばらつきを低減させる自動
化の試みは他のグループでも行われている. 矢野らは
55 症 例 に お け る 健 常 部 の 血 流 を 比 較 し , 従 来 法 と の 平
均 絶 対 誤 差 率 は 3.1±2.5%で あ る と 報 告 し て い る [2].
本 研 究 の 目 的 は Patlak plot 法 に よ る 測 定 値 の ば ら つ
きを低減させる自動解析法の開発である. 本研究は矢
野らとは異なり健常部の分離は行わない. 今回は開発
図 2
した自動解析法による測定値と技師 5 名の手動による
2 値化後の領域と, 頭部領域
測定値の比較を行い, 自動解析法による測定値が妥当
な数値を示しているか検証を行った. そのため技師 5
3. 実 験
名の手動による測定値のばらつきの程度を明らかにし ,
実 験 に は , 2011 年 に 撮 影 さ れ た 44 症 例 を 使 用 し た .
次にそのばらつきと自動解析法による測定値との比較
表 1 に男女別平均年齢, 表 2 に収集条件を示す. 画像
を行う.
解 析 ソ フ ト は 手 動 測 定 で は Xeleris3.0 GE 社 製 を 用 い
2. 自 動 解 析 法
ており, 自動解析法による測定は開発した岐大ソフト
今 回 提 案 す る 自 動 解 析 法 で は , 大 動 脈 弓 ROI を 円 ,
を使用する. 手動測定では 5 年以上の経験をもつ放射
大 脳 半 球 ROI を 半 円 の 幾 何 学 図 形 を 用 い る . 位 置 情 報
線技師 5 名が測定を行った. 自動解析法による測定は
や 大 き さ を 指 定 す る こ と で , ROI を 設 定 す る こ と が で
測定者による差がないため開発者が測定を行った .
きる.
表 1 男女別平均年齢
2.1 大 動 脈 弓 基 準 座 標 の 決 定
大動脈弓基準座標の設定は, あらかじめ作成した大
症例数
年 齢 (Average±SD)
動 脈 弓 TAC モ デ ル と 候 補 領 域 か ら 得 ら れ る TAC の 相
男性
23
76.2±9.3
互 情 報 量 (Mutual information:MI)を 求 め , 最 大 相 互 情 報
女性
21
75.9±6.9
量 を 持 つ 位 置 を 基 準 座 標 と す る [3]. 候 補 領 域 は 右 腕 静
計
44
脈部の抽出を行い, 最も右側の位置に境界線を設定し,
線より右側において閾値処理を行い, 残された領域を
候補領域とする. 図 1 の左に抽出された右腕静脈と境
界線, 右に最終候補領域を示す.
図 1
静脈部の境界線と候補領域
- 116 -
表 2 収集条件
使用製剤
99mTc 600MBq
収集マトリックス
128×128
Zoom
1.0
エネルギーウィンドウ
140keV±10%
コリメータ
LEHR
4.2 自 動 解 析 法 に よ る 結 果 の 比 較
4. 結 果 と 考 察
4.1 技 師 5 名 の 手 動 測 定 に よ る ば ら つ き
次に自動解析法による結果と 5 人の手動測定による
技師 5 名の手動測定による結果のばらつきを相関係
結 果 を 4.1 と 同 様 に 比 較 し た . 最 も 低 い 相 関 係 数 は ,
数 , Bland Altman 解 析 を 用 い て 比 較 を 行 い , 技 師 間 の
右 脳 が 技 師 3 の 0.800, 左 脳 が 技 師 1 の 0.720 と な り , 手
測定値の差が最大の症例について考察を行った. 最も
動測定による測定者間の相関係数より低い値となった .
低 い 相 関 係 数 は , 右 脳 は 技 師 1 と 技 師 4 の 0.870, 左 脳
表 3 に 差 の 95%信 頼 区 間 の 幅 の 平 均 を 示 す . 差 の 95%
は 技 師 1 と 技 師 5 の 0.840 で あ り , す べ て の 測 定 者 間
信頼区間の幅の平均は, 手動測定の測定者間の幅の平
に お い て 高 い 数 値 を 示 し た . Bland Altman 解 析 で は 右
均 よ り 大 き く な っ た . 相 関 係 数 が 低 く , 差 の 95%信 頼
脳 左 脳 と も に 技 師 2, 技 師 3, 技 師 4 と 他 の 2 名 の 技 師
区間が大きくなった理由として, 自動解析法による測
の間に加算誤差が認められ, 技師 1 と他の 4 名の技師
定値が, 技師 5 名の手動測定の測定値から大きく外れ
の 間 に 比 例 誤 差 が 確 認 さ れ た [4]. ま た 同 一 症 例 に お い
て算出してしまう症例が存在するためと考えられる.
て 技 師 間 の 測 定 値 の 差 は 最 大 11.7[mL/100g/min] と な
Bland Altman 解 析 に よ る 結 果 は , 技 師 1 と の 間 に 加 算
った. 図 3 に測定者間の測定値の差が最大となった技
誤差と比例誤差, 技師 5 との間に加算誤差が認められ,
師 1 と 技 師 2 の ROI 設 定 を 示 す . ま た 図 4 に 技 師 1 と
右 脳 左 脳 と も に 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た . Bland Altman
技 師 2 の Bland Altman 解 析 の 結 果 を 示 す . 測 定 値 に 差
解析の結果から自動解析法による測定値は , 手動測定
が 出 た 理 由 と し て 技 師 1 は 大 脳 半 球 ROI の 設 定 に お い
に よ る 技 師 2, 技 師 3, 技 師 4 の 測 定 値 と 同 様 の 傾 向 が
て , 右 脳 ROI と 左 脳 ROI の 間 に 大 き な 間 隔 が 入 る こ と
みられた.
があげられる. 間隔が入ることでその部分のカウント
図 3 で 示 し た 症 例 に お け る 自 動 解 析 法 に よ る ROI 設
値 が TAC に 考 慮 さ れ ず TAC の カ ウ ン ト 値 が 低 く な り ,
定の結果を図 5 に示す. 幾何学的図形を用いることで,
測定値が低く算出され測定結果に誤差が出たと考えら
技 師 の 方 が 設 定 す る ROI に 近 い 形 状 で 設 定 す る こ と が
れる. また大脳半球のカウント値が高くなるにつれ,
で き る . ま た 幾 何 学 的 図 形 を 用 い る こ と で , ROI の 基
TAC の カ ウ ン ト 値 に 大 き く 差 が 出 る た め , 技 師 1 と 他
準位置の手直しを行う際に, 測定者間の形状のばらつ
の技師の測定値の間に比例誤差が認めら れたと考えら
きを軽減させることができると考えられる .
図 6 に技師 5 名の手動測定の測定値と自動解析法に
れる.
よる測定値を示す. 図 5 を参考に自動解析法による測
定値が技師 5 名の手動測定による測定値の範囲内に収
ま る 症 例 数 を 調 べ た . 右 脳 28 症 例 , 左 脳 27 症 例 に お
いて自動解析法の結果が範囲内に存在した. また範囲
内 に 存 在 し な い 症 例 の う ち , ROI の 位 置 や 形 状 の 再 設
定を行うことで範囲内に収まる症例も存在した.
表 3 差 の 95%信 頼 区 間 の 幅 の 平 均
手動測定による測定者間
図 3 技 師 1(左 )と 技 師 2(右 )の
自動解析法と手動測定の測定値
手 動 に よ る ROI 設 定
右脳
1.281
左脳
1.434
右脳
1.825
左脳
1.898
[mL/100g/min]
図 5 自 動 解 析 法 を 用 い て 設 定 さ れ た ROI
図 4 技 師 1 と 技 師 2 の Bland Altman 解 析 (右 脳 )
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図 6 技 師 5 名 の 手 動 測 定 に よ る 結 果 と 自 動 解 析 法 に よ る 結 果 (左 :左 脳 右 :右 脳 )
文献
5. ま と め
技師 5 名の手動測定による測定値にはばらつきが存
[1] 仁 井 田 秀 治 :脳 血 流 SPECT を 用 い た 各 種 定 量 法 の
在 し , ROI の 設 定 が 系 統 誤 差 に 影 響 し て い る と 考 え ら
実践 臨床使用上の注意点を中心に, 日本放射線
れた. 開発した自動解析法による測定値は 技師 5 名の
技 術 学 会 雑 誌 , 58(5), 640-650, 2002
結 果 か ら 大 き く 外 れ る 場 合 が あ る が , 技 師 3, 技 師 4,
[2] 矢 野 今 朝 人 , 宮 坂 正 , 佐 藤 誠 : 自 動 化 Patlak
技 師 5 と の 間 に 同 様 の 傾 向 を 示 し , 右 脳 28 症 例 , 左 脳
plot 法 の 開 発 と 臨 床 例 に お け る 検 証 , 日 本 核 医 学
技 術 学 会 誌 , 63(2), 247-256, 2007
27 症 例 に お い て 技 師 5 名 の 測 定 値 の 範 囲 内 に 存 在 し た .
以上から幾何学的図形を用いた自動解析法において妥
[3] 渡 部 浩 司 : マ ル チ モ ダ リ テ ィ の 画 像 位 置 合 わ せ と
当な測定値を得る可能性が示唆された. 自動解析法の
重 ね 合 わ せ , 日 本 放 射 線 技 術 学 会 雑 誌 , 59(1),
60-65, 2003
結果が大きく外れる症例を減らし, さらに妥当な測定
[4] 梅 田 啓 , 岡 田 泰 昌 : 正 確 さ の 比 較 :Bland-Altman
値の算出を今後の検討課題とする.
解析による呼吸器内科領域代替検査法の検証, 呼
吸 と 循 環 , 60(8), 840-848, 2012
謝辞
本 研 究 の 一 部 は ,科 学 研 究 費 補 助 金・新 学 術 領 域 研 究( 医
用 画 像 に 基 づ く 計 算 解 剖 学 の 創 成 と 診 断・治 療 支 援 の 高 度 化 ,
医 用 画 像 に 基 づ く 計 算 解 剖 学 の 多 元 化 と 高 度 知 能 化 診 断・治
療 へ の 展 開 ), 基 盤 研 究 ( C ) 24500543 / 23591802 , 地 域 イ
ノ ベ ー シ ョ ン 戦 略 支 援 プ ロ グ ラ ム( 都 市 エ リ ア 型 )岐 阜 県 南
部 エ リ ア ( 可 能 性 試 験 ), お よ び 岐 阜 大 学 活 性 化 経 費 の 補 助
により行われました.
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