Na,Ca 飽和粘土に対するセシウム吸着 Adsorption of

Na,Ca 飽和粘土に対するセシウム吸着
Adsorption of cesium on clay saturated with sodium or calcium
辰野宇大・濱本昌一郎・井本博美・西村 拓
東京大学大学院農学生命科学研究科
要旨(Abstract)
FES への時間をかけた吸着とは異なり,粘土平面への Cs 吸着は短時間のイオン交換により生
じる.その結果,土中の Cs 移動の遅延には粘土粒子平面の速いイオン交換現象が影響すると考
えられる.本研究では Na または Ca で飽和した粘土試料の Cs 吸着について検討し,イライト試
料において Na 飽和試料と Ca 飽和試料では Cs 吸着等温線の形が異なる結果を得た.
キーワード:粘土,セシウム,吸着等温線,原子吸光
Key words: Clay,cesium,adsorption isotherm,atomic adsorption
1.はじめに
え,12~24 時間振とうし,遠心分離後に上澄
セシウム(Cs)は粘土粒子のフレイドエッ
を捨てる.この操作を 2 回行った後,純水洗浄
ジサイト(FES)に強く吸着される一方,粘土
とアルコール洗浄を各 1 回行った溶液をそれ
粒子表面ではカリウム(K)等の他のイオンと
ぞれ Na 飽和試料,Ca 飽和試料とした.
競合する.Brouwer et al.(1983)はイライト
飽和試料乾土重 0.5g に対し初期 Cs 濃度 0
粘土を用いて実験を行い,イライト表面の吸着
~200mg/L の溶液 30mL を遠沈管に加え,振
サイトは捕捉が弱いとはいえ Cs-K イオン交換
とうさせた.振とう時間(反応時間)は 1,6,
において 25%程度を占め,無視できる量では
24 時間とした.振とう後,遠心分離を行い,
ないことを報告した.また,Comans et al.
上澄液の濃度を原子吸光分光光度計(AA6200
(1991)は鉱物平面部では比較的早い反応が
SHIMAZU)で測定した.また,粘土試料の
イオン交換反応に寄与していることを報告し
Cs 吸着濃度 qc,Cs 分配係数 Kd は以下の式を
た.これらをふまえると水の流れとともに生じ
用いて求めた.
る土壌中の Cs 移動において,FES への時間を
qC 
かけた吸着とは異なる短時間のイオン交換に
よる寄与も無視できないと考えられる.つまり,
Kd 
粘土粒子平面の状態が Cs 移動の遅延に影響す
(Ci  C f )V
ms
qc
Cf
(1)
(2)
る.本研究ではナトリウム(Na)またはカル
qc
シウム(Ca)による飽和粘土試料の Cs 吸着に
Ci,C :
反応後 Cs 濃度(mg/L)
,
f 初期 Cs 濃度,
ついて検討した.
V
:溶液の体積(L)
,
2.方法
ms
:供試土壌の乾燥質量(kg)
粘土試料としてクニゲル(モンモリロナイト,
ク ニ ミ ネ 工 業 ) と イ ラ イ ト 試 料 ( Snet
Company)
,Cs 試料は CsCl 高純度試薬(関東
化学株式会社)を用いた.
:土壌の固相に吸着した Cs 濃度
(mg/kg)
,
Kd:分配係数(L・kg-1)
3.結果
Fig.1 にクニゲルの Cs 吸着等温線を示す.
クニゲルでは Na 飽和試料-反応時間 1 時間
粘 土 試 料 に 対 し 0.3MNaCl 溶 液 ま た は
(Na:1hr)を除いて,吸着等温線がおおよそ
0.1MCaCl2 溶液を質量比 1:10 で遠沈管に加
同じ形をとった.クニゲルでは Na 飽和試料と
見られないといえる.
Fig.2 にイライトの吸着等温線を示す.イ
ライトの場合,Na 飽和試料と Ca 飽和試料
で吸着等温線の形が大きく異なった.イライ
トは Cs を強く吸着することが報告されてい
吸着濃度(qc:mg・kg-1)
Ca 飽和試料で Cs の吸着に対し大きな差は
12000
Na:1hr
Na:6hr
Na:24hr
Ca:1hr
Ca:6hr
Ca:24hr
8000
4000
0
0
るが(山口ら,2012)
,粘土粒子表面の吸着
10
20
-1
反応後濃度(Cf:mg・L )
物質の違いが Cs の吸着に大きな影響を与え
Fig.1 クニゲルの吸着等温線
また,上述のクニゲルの 1 ケースを除いて,
反応時間 1 時間~24 時間の中で吸着量に大き
な差はなかった.
Fig.3,Fig.4 に各試料の反応後の Cs 濃度と
分配係数の関係を示した.モンモリロナイトで
は初期濃度,反応時間に関わらずに分配係数が
吸着濃度(qc:mg・kg-1)
ることが示唆された.
8000
Na:1hr
Na:6r
Na:24hr
Ca:1hr
Ca:6hr
Ca:24hr
4000
0
0
500~1500L・kg-1 程度を示した.一方,イライ
50
100
反応後濃度(Cf:mg・L-1)
トでは初期濃度が 10mg・L-1 以下の低濃度の時
Fig.2 イライトの吸着等温線
に分配係数が 2000L・kg-1 以上,初期濃度
200mg・L-1 では 100L・kg-1 程度と変化の幅が
10000
飽和試料で 100~4000 L・kg-1 程度,Ca 飽和
試料で一部を除き 80~350 L・kg-1 程度と初期
イオンの違いで大きな差がみられた.
Kd(L・kg-1)
大きかった.またイライトでは分配係数が Na
Na:1hr
Na:6hr
Na:24hr
Ca:1hr
Ca:6hr
Ca:24hr
1000
4.まとめ
粘土試料の表面吸着物質により Cs の吸着に
100
0
違いが生じる可能性が示唆された.特に,イラ
イトでは Na 飽和試料と Ca 飽和試料の吸着等
10
20
反応後濃度(Cf:mg・L-1)
Fig.3 反応後濃度と分配係数(クニゲル)
温線が大きく異なるため,吸着挙動に大きな違
いが生じていることが確認された.
10000
(No.24380130)の助成を受けて行った.ここ
に記して謝意を表する.
Na:1hr
Na:6hr
Na:24hr
Ca:1hr
Ca:6hr
Ca:24hr
-1
本 研 究 は JSPS 科 学 研 究 補 助 金
Kd(L・kg )
謝辞
1000
参考文献等
Brouwer, E., Baeyens,D., Maes, A., Cremers. (1983) :
0.1
J.Phys.Chem.,87,1213-1219.
Comans,
R.N.J.,
Hockley,
100
D.E.(1992)
:
Geochimica
Cosmochimica Acta,56,1157-1164.
山口紀子(2014).土壌の物理性,126,11~21.
1
10
100
反応後濃度(Cf:mg・L-1)
Fig.4 反応後濃度と分配係数(イライト)