はしがき を歩けば行政法に当たる」といわれるほど、題材があふれています。 そこで、問題を解き、解説により理解を深めることができるように、 できるだけ多くの具体例を取り入れました。例えば、「許可」という言 本書は、自治体昇任試験を受験される方々が、短期間で行政法の対策 葉の解説では、「喫茶店の営業の許可」を例示しています。 ができるように、行政法という幅広い知識の範囲領域を必要最小限度の また、初学者の方が苦手とする行政法特有の難解語やなじみのない言 40項目に厳選してまとめた問題集です。 葉もすんなりと頭に入るように、本書では、解説中に様々な事例を豊富 通常、問題集を使う際には、問題を解き、解説を読んで、わからない に取り込みました。 箇所や疑問を基本書や参考書で当たって確認するものです。本書では、 その手間が極力省けるように、各項目について五肢択一の問題と肢別の 行政法を理解するためには、まず「行政行為」を理解することが一番 解説、さらに解答のカギとなる重要ポイントをまとめて「解説書を兼ね の近道です。行政行為の特性は行政事件訴訟法のしくみと密接に関連し た問題集」としました。 ています。行政事件訴訟法がわかることで、行政行為がわかるという循 本書を繰り返し解くことで、基本的な知識と解答力を確実に身に付け 環的なしくみになっていますので、本書では、行政行為を冒頭の項目に ることができます。 収録しています。行政法をムダなく修得するために、もっとも効率的に 本書は、次のような特徴をもっています。 取り組めるようになっています。 ・行政法の頻出項目を40問に厳選整理 受験者各位が本書をフルに活用し、難関を突破されることを期待して 過去3年間の本試験で実際に出題された問題から、とくに出題頻度の おります。 高い項目を40問にまとめ、厳選しています。それぞれの設問にはさらに 出題頻度の高い順に★★★、★★、★の3段階でランクを付けているの で、時間のないときには頻度の高い順から学ぶとより効果的です。 ・五肢択一の問題と肢別の解説を見開きで掲載 五肢択一の問題を左に、各肢に対応する解説を右頁に掲載しました。 解説の頁には、正答にたどり着くためには、何がポイントになるのかに ついても掲載しています。 ・基礎項目、重要ポイントを見開きで整理 上記の肢別の解説頁に加え、各項目の重要ポイントを整理した解説を 見開きで収録しています。重要ポイントでは、できる限り図や表を用い て行政法の基本的な知識、試験で問われることの多い論点についてその 定義や概念、 用語や制度の違い等についてコンパクトにまとめています。 ・身近にある具体例を積極的に採用 行政法は、社会で日々起きている事件に密接に関連しています。 「街 平成26年9月 地方公務員昇任試験問題研究会 目 次 ★★★、★ ★、★……頻出度順の星印 はしがき................................................................................................................................... 2 凡例............................................................................................................................................... 6 ■行政行為 1 行政行為の公定力、不可争力.............................................. ★ ★ ★ 2 行政行為の自力執行力、不可変更力................................... ★ ★ 3 行政行為の種類①......................................................................... ★ ★ ★ 4 公物とその使用関係..................................................................... ★ ★ ★ 5 行政行為の種類②............................................................................. ★ ★ 6 法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為................. ★ 7 行政行為の附款............................................................................... ★ ★ ★ 8 行政行為の瑕疵............................................................................... ★ ★ ★ 9 行政行為の取消しと撤回.......................................................... ★ ★ ★ 10 行政裁量①.......................................................................................... ★ ★ ★ 11 行政裁量②.......................................................................................... ★ ★ ★ ■行政の実効性確保 12 行政上の強制措置............................................................................. ★ ★ 13 行政上の強制執行............................................................................. ★ ★ 14 行政代執行.......................................................................................... ★ ★ ★ 15 執行罰(間接強制)、直接強制、強制徴収........................... ★ 16 行政罰.................................................................................................... ★ ★ ★ 17 即時強制........................................................................................................ ★ 18 行政調査.................................................................................................... ★ ★ 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 56 60 64 68 72 76 ■行政救済と行政争訟 19 取消訴訟の提起の要件............................................................... ★★★ 80 20 取消訴訟における訴えの利益.................................................. ★★ 84 21 取消訴訟における執行停止制度.............................................. ★★ 88 22 取消訴訟における判決の種類、効力................................... ★★ 92 23 行政事件訴訟の類型..................................................................... ★★★ 96 24 抗告訴訟の種類................................................................................... ★★ 100 25 義務付け訴訟、差止訴訟.............................................................. ★★ 104 26 民衆訴訟、機関訴訟......................................................................... ★★ 108 27 不服申立ての種類(審査請求、異議申立て)......................... ★ 112 28 不服申立ての種類(不作為、再審査請求).............................. ★ 116 29 不服申立ての要件......................................................................... ★★★ 120 30 行政不服審査法上の教示制度.................................................. ★★ 124 31 行政不服審査法における執行停止制度................................. ★ 128 32 国家賠償法の公権力の行使............................................................ ★ 132 33 公権力の行使による国家賠償責任........................................ ★★ 136 34 公の営造物の設置管理にかかる賠償責任....................... ★★ 140 35 損失補償................................................................................................ ★★★ 144 ■行政立法その他のしくみ 36 法律による行政の原理................................................................... ★★ 148 37 行政立法................................................................................................ ★★★ 152 38 行政手続法(申請に対する処分、不利益処分)............ ★★★ 156 39 行政手続法(行政指導)................................................................... ★★ 160 40 情報公開制度........................................................................................ ★★ 164 10 行政裁量① 1回目 頻出度 行政法学上の行政裁量に関する記述として、判例、通説に照らし て、妥当なのはどれか。 1 行政行為は、権力的、法的、具体的であり、国民の権利自由と の関係で重大な意味を持っているため、行政裁量が問題になる が、行政行為以外の行政契約や行政計画については、問題となら 3回目 正解チェック欄 ★★★ Question 2回目 Answer この設問は、行政裁量に関するものですが、裁量には、要件裁量 と効果裁量があります。 行政庁が行政行為をする場合、まず前提となる事実の認定をしま す(事実認定)。その事実認定に基づいて、法規に定められた処分 要件に当てはまるかどうかの認定をします(要件認定) 。 ない。 この要件に当てはまるかどうかの裁量を要件裁量といいます。 を考慮しないときや、考慮において認識や評価を誤ったときに 政行為をするか選択しますが、その裁量を効果裁量といいます。 2 行政庁が考慮すべきでない事項を考慮し、又は考慮すべき事項 は、当該裁量行為は不当となることはあっても、違法となること はない。 3 要件裁量は、どの程度の処分が相当かという処分内容の選択の 段階と、相当とされた処分を前提として、処分を実際にするかし ないかを選択する段階の2つの場面に区別することができる。 要件認定に基づき、行政行為をするか否か、するとすればどの行 この流れを図式するとこのようになります。どの用語がどの段階 で使われるのか、しっかりと押さえておきましょう。 事実認定 4 最高裁判所の判例では、個室付浴場業の開業を阻止することを 目的として、その周辺に児童遊園を設置した市の行為とこれを認 要件認定 要件裁量 行政行為の選択 ①するかしないか ②何を選ぶか 効果裁量 可した県知事の行為は、児童福祉法の目的に合致し、また、当該 1 誤り。行政行為以外の行政契約や行政計画でも行政裁量は問題 児童遊園は児童福祉施設としての基準に適合しているため、裁量 になります。都市計画の決定について、行政庁の広範な裁量を認 権の濫用とはいえないとした。 めた小田急高架訴訟本案判決(最判平18・11・2)があります。 5 最高裁判所の判例では、信仰上の理由により剣道実技の履修を 2 誤り。当該裁量行為は不当な場合もあるが、例えば、認識や評 拒否した公立高等専門学校の学生が、レポート提出などの代替措 価を誤り、著しく不合理な内容の行政行為をしたときは、裁量権 置を学校側に申し入れたにもかかわらず、学校側が、代替措置を 検討せずその申し入れを拒否し行った原級留置処分及び退学処分 は、裁量権の範囲を超える違法なものであるとした。 の限界を超え違法となります。 3 誤り。効果裁量の説明になっています。要件裁量とは、要件認 定に関わる裁量です。 4 誤り。法の目的とは異なる目的で処分をすること(他事考慮) は許されず、「行政権の著しい濫用による」として違法とされま した(最判昭53・5・26)。 5 正しい(最判平8・3・8)。 正解 5 44 行政行為……45 15 重要ポイント ポイント 必修項目 ❶ 執行罰(間接強制)──砂防法36条のみ現存 執行罰、直接強制、強制徴収のしくみ して可能です。直接強制は、苛酷な人権侵害を伴うものですから、 現行は、一般的制度としては廃止しています。直接強制の方法を規 執行罰とは、他人に代わって行うことができない義務(非代替的 作為義務、不作為義務)が履行されない場合に「一定の期限内に履 行がない場合には、過料を科します」と通告するものです。心理的 圧力により義務の履行を促す方法から間接強制ともいわれます。 定している法律は、現在はほとんどありません。 ポイント ❸ 強制徴収──地方税法48条、行政代執行法6条など 強制徴収とは、市民が、税金などを納めない場合に強制的に徴収 する手続きです。国税の強制徴収に関する法律として、国税徴収法 ■執行罰のしくみ があります。国税以外の金銭債権について強制徴収する場合は、こ の「国税に規定する滞納処分の例による」というような規定が置か 行政庁 行政行為 市 民 れていなければなりません(地方税法48、331など)。 ■国税徴収法の規定とその流れ 義務(非代替的作為義務、不作為 義務)の不履行 行政庁 期限内に履行がない場合には過料 行政行為(税金の納付を命ずる) 市 民 を科すと通告 金銭給付義務の不履行 (未納のまま) 不履行 再度期限を定め、履行がない場合 には、過料を科すと通告可能 督促(一定期間内に金銭を支払うように催告する 不履行 通知) 注意 強制徴収……国税徴収法の定める 手続きによる ポイント ❷ 直接強制──感染症予防法17条2項など 財産の差押え(国税徴収法47) 財産の換価(原則として公売処分・同法89) 直接強制とは、行政上の義務を果たしていない者に対して、直接 その者の身体又は財産に実力を加え義務の内容を実現するものです。 直接強制は、作為義務、不作為義務を問わず、すべての義務に対 66 未 納 注意 注意 換価代金の配当(滞納者の債務の消滅) (同法128) 行政の実効性確保……67
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