研究支援組織の設計と大学研究戦略

研究支援組織の設計と大学研究戦略
講師 帝京大学 ジョイントプログラムセンター
教授 中西穂高
講義の概要
講義の留意点
URA に必要なスキルの中でも、特に中上級の URA に
中上級の URA が対象ということで、単に高度な URA
求められる知識や能力の習得を図ることを目的に、以
業務の解説を行うのではなく、各 URA が所属する大
下の内容の講義を行った。
学のおかれている状況を理解しながら、その大学に適
中上級 URA には、高度な研究支援業務を行うだけで
した業務の仕組みを構築していくための知識や能力が
なく、大学全体のマネジメントを考えた業務を進める
学べるように講義内容を工夫した。受講生が実際に取
ことや、大学幹部に対して研究マネジメントの方向性
り組んでいる業務は受講生によりかなり異なっているこ
に関してオプションを示し大学運営に寄与していくこと
とが講義中の対話の中から明らかになったため、研究
が求められる。その内容は、基本方針、具体的戦略、
支援に関する知識だけでなく、仕事を進めていくため
実施方法の三段階に分けることができる。基本方針に
に必要な思考方法や発想方法など、汎用的で基盤的
関しては、大学の状況を把握して設定することが重要
な技能を学ぶことができるように心がけた。
で、学内環境に応じた組織整備も必要になる。また
研究支援には一定のコストがかかることを大学経営陣
試行的研修講師としての所感
に理解してもらうことが重要である。具体的戦略には、
受講生は、講義に熱心に取り組んでおり、マネジメン
特許戦略、研究戦略、地域との連携、ベンチャー支
ト手法に直結した研修内容に対するニーズの高いこと
援策などがある。特許は大学の状況に応じた戦略が必
が伝わってきた。一方、教員との関係構築に苦労して
要であり、その戦略に沿った規則や契約書のひな形を
いる様子も伝わってきており、研究支援組織の構築に
整備して外部に示していくことが求められる。大学の
際しては、URA に教員と対等に議論ができるようなポ
状況に対応して URA の業務範囲を戦略的に設定する
ジションを与えるような制度上の工夫が必要となろう。
ことは重要で、例えば大学の状況によってはベンチャー
中上級の URA が取り組むべき課題には、ベンチャー
支援まで範囲を広げることも必要になる。実施方法と
支援や地域住民との協働などスキル標準には明示され
しては、人事、予算面を考えた組織づくりが重要で、
ていないものも含まれる。今後は、こうした広範なニー
その際には、大学幹部だけでなく学内全体の支持を得
ズにも対応できるような、柔軟な研修プログラムを構
ることが必要になる。研究に関わる政府の政策情報は、
築していくことが求められる。
政策立案過程を把握した上で収集することが効果的で
ある。
スキル標準における関連項目
研究プロジェクト企画立案支援、外部資金情報収集、
研究プロジェクト企画のための内部折衝活動、研究プ
ロジェクト実施のための対外折衝・調整、研究プロジェ
クト実施のための対外折衝・調整、教育プロジェクト
支援、産学連携支援、知財関連、研究機関としての
発信力強化推進、研究広報関連、イベント開催関連、
安全管理関連、倫理・コンプライアンス関連
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中上級 URA に求められること
(マネジメントに関して)
●
●
大学のマネジメントを考えて研究支援組織を運営する
研究支援組織のあるべき姿を大学のマネジメント層に理解してもらう
(業務に関して)
● 研究支援に際して高度な判断ができる
●
個別対応だけでなく、研究の位置づけを考える
(大学全体に関して)
●
●
大学の進むべき研究支援の方向性に関し、オプションを幹部に示し、選んでもらう
大学としての研究支援の方向性を対外的に発信する
基本方針:大学の状況に対応
大学の置かれている状況の把握
● 研究大学(RU11)/それ以外の大学
●
●
●
●
●
国公立大学/私立大学
都会の大学/地方大学
トップダウンの大学/ボトムアップの大学
経営状況のいい大学/経営が苦しい大学
産学連携に理解がある/ない
置かれている状況に応じて戦略構築
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基本方針:組織の位置づけ
大学における研究支援(産学連携)組織の位置づけ
①中央集中 vs 学部分散
●
中央集中型
・学長の下に研究支援組織を設置(センター、本部、機構等)
・すべての共同研究を把握し、すべての知財を扱う
・大学の方針を反映しやすい
●
学部分散型
・基本的には各学部で研究支援活動(共同研究、特許出願等)を行う
・困難な案件に限り全学的組織で取り扱う
②プロフィットセンター vs コストセンター
● プロフィットセンター
・特許で収入を上げるとの考え(国もその方針?)
・実際には赤字 ⇒ 学内でお荷物扱い
●
コストセンター
・特許で黒字は狙わない
・社会貢献活動の一環として考える
具体的戦略:特許戦略
特許出願に対する方針
①コスト・効率重視
●
●
●
財政状況の厳しい大学、これまで多くの特許出願を行ってきた大学
企業との共同出願にほぼ限定
単独出願は厳しく限定
②出願数の確保
●
●
●
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発明数の少ない大学、これから知財に力を入れる大学
単独出願も積極的に進める
学内で知財に対する意識を高めることが重要
具体的戦略:研究戦略
産学連携組織でどこまで取り扱うか?
●
外部資金獲得支援
・グラント情報提供、科研費取得講座等
大学として力を入れる研究分野の絞り込み
・地域技術との連携
●
●
コンプライアンス⇒知りうる立場、防止する立場
・研究不正対策(データ改ざん、捏造、剽窃対策、対応)
・研究資金管理
・利益相反
・安全保障輸出管理
・ハラスメント
・安全、事故対応
具体的戦略:ベンチャー支援
どこまでできるか、やるか?
●
VC とのマッチング、プレゼンの場
・ビジネスプランコンテスト
●
大学発ベンチャー制度
・共同研究の特例
・特許ライセンスで優遇
・大学による出資(学内に心理的抵抗も)
・大学からの発注
●
ベンチャー教育
これまでに付き合ってたことのない人たちとの仕事
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実施方法:組織づくり
人材確保
●
●
●
常勤スタッフをどこまで確保できるか(非常勤、契約職員)
専任スタッフの確保(特許出願、ライセンス、契約、URA、コーディネータ 等)
独立した事務組織を作れるか(入試等の影響を受けない)
予算の確保
●
●
運営費用、人件費
特許出願費用(海外単独出願ができるか)
場所の確保
●「キャンパスのはずれの運動場の向こう側」
、
「プレハブ」
●
学内を転々と引越し
実施方法:学内の支持を得る
学内キーパーソンに働きかける
● 学長……トップの支持を獲得する必要がある
・トップが変わるとすべてがご破算になることも
●
理事長……経営責任者の理解は重要
●
副学長(研究支援担当)……真剣に考えてもらう
・2 年の任期で異動?
・雑務をやらされている?
・いかに研究支援活動を理解して動いてくれるか
副学長(財務担当)……時として最大の難敵
・知財で儲かることはないと理解してもらう
●
しかし、多くの場合、大学幹部もまた、マネジメントの素人!
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実施方法:政策情報の把握
省庁における政策立案
●
仕込み段階(前年度)
・各省庁内部での研究会、勉強会
・この段階から参加できると、大学の方針に沿った政策がつくられる
●
盛り上げ段階(5 月~ 6 月)
・審議会における審議、答申を経て世の中にアピール
・省庁内部では新政策の議論
・この段階になると情報収集がしやすくなる
●
計画策定段階(7 月~ 8 月)
・財務省、関係省庁との協議、政治家への根回し
予算編成
●
財務省での議論(9 月 1 日:財務省へ予算の概算要求)
・この段階で準備すれば乗り遅れない
・国会審議(予算は 1 月中に国会に提出)
実施方法:留意点
大学サファリパーク論
● 大学教員の能力をうまく活かすには
桃太郎の戦略
●
組織的総合力で勝負
・サル(戦略を考える知恵)
・イヌ(具体的な行動力)
・キジ(政府や産業界の情報収集)
●
ギブアンドテイクの相互関係
・一方的なお願いでなく、きび団子を提供
● 社会的正義に基づく行動
・
「鬼退治に行く」との大義名分
・コンプライアンスに注意
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