助成事業 この情報誌は競艇の交付金による 日本財団の助成金を受けて作成しました。 昭和36年4月3日第3種郵便物認可 平成20年2月25日 (年4回25日) 発行 ISSN 0912-7437 日本海難防止協会情報誌 【特集】 2008 春 NO.536 漁船の操業と 航行の安全 目次 2008 春 【特集】漁船の操業と航行の安全 No.536 座談会:漁船における海難の実態と安全対策/ JF全国漁業協同組合連合会 代表理事 専務 宮原 邦之/ JF全国漁業協同組合連合会 漁政・国際部次長 待場 純/ 聞き手 (社)日本海難防止協会 増田 正司────笆 海難審判から見た漁船海難とその分析/ 高等海難審判庁 海難分析情報室────笨 漁船漁業の安全対策/ 日本水産株式会社 福原 稔────笄 漁船海難の防止に向けて/ 第二管区海上保安本部────筅 気象・海象情報と漁船の海難防止/ 気象庁 予報部────筧 漁船の安全操業向上のために/ 高崎経済大学 准教授 久宗 周二────筮 漁業の将来と操業の安全対策/水産庁 企画課 金子 守男────箍 取材:漁船の操業と航行の安全対策への取り組みを追う 漁業無線局・漁業会社と乗組員に聞く────箒 特集以外の記事 海保だより 海中転落による死者・行方不明者の減少を目指して/ 海上保安庁 警備救難部────篦 国際VHF海岸局「マリンセイフティはねだ」12月16日開局/ (社)東京湾海難防止協会────籠 海守便り 海を浄化する干潟から/海守事務局────簇 海外情報 マ・シ海峡における「航行援助施設基金」創設の動き/ シンガポール連絡事務所────簓 日本海難防止協会のうごき/平成19年の海難発生状況────篳 船舶海難の発生状況/主な海難/海上保安庁提供────篷 忙中閑話(コラム)/若林邦芳(ロンドン研究室長)────簗 編集レーダー────篶 漁船の操業と航行の安全 2 0 0 6年1 0月、宮城県女川町沖で1 6人乗りサンマ漁船「第7千代丸」が遭難、乗組員9人 が死亡、7人が行方不明となる重大な海難事故が発生した。 一方、昨年1 2月9日夜、石巻市金華山の沖合東方60キロで、北海道根室市の沖合底びき 網漁船第6 8丸中丸(6 6トン)が遭難した。僚船14隻とともに金華山沖でのイカやタラ漁を 切り上げ女川港に向け帰港中の海難事故であった。乗組員7人中、危険を感じた3人は、 とっさに救命胴衣を手に海に飛び込んだ。この3人は、付近海域を捜索する仲間の船に助 けられた。家族の必死の願いもむなしく、事故の2日後に遺体で発見された2人は救命胴 衣を着用していなかった。ここでも救命胴衣が生死の明暗を分けた。 今号では、漁業者や乗組員、漁業協同組合など関係者の海難事故防止への取り組みを探 った。また、日本各地には、沖で操業する漁船との連絡・情報通信手段として漁業無線局 が存在する。近年の通信技術の変革に伴う漁業無線局の新たな安全確保への取り組みを追 った。 漁業界にも、原油高騰の波が押し寄せている。操業に欠かせない燃料油や漁具の高騰は、 魚価の低迷と相俟って漁業者の経営を大きく圧迫している。 漁業者を取り巻く経済的背景が厳しい時代ほど、漁船の海難事故が多いと言われている。 こうした苦い、辛い経験を繰り返さないためにも、関係者の海難防止に向けた更なる取り 組みを期待したい。 家族に見送られニュージーランド海域向け出港する大型イカ釣り漁船(青森県八戸港) 座談会:漁船における海難の実態と安全対策 JF 全国漁業協同組合連合会 代表理事専務 JF 全国漁業協同組合連合会 漁政・国際部次長 聞き手・!日本海難防止協会 くにゆき 邦之 まちば じゅん 待場 純 ますだ ただし 増田 正司 安全対策に携わっておられる関係者の皆さ はじめに 増田 企画国際部長 みやはら 宮原 んが取り組まれている活動内容や今後の取 本日は、お忙しい中、お集まり頂き ましてありがとうございます。 日本海難防止協会で、年4回発行してい る情報誌「海と安全」で、春号(2月2 5日 発行予定)の特集テーマとして、 「漁船の 操業と航行の安全」を取り上げることにし り組みについてもお話し頂きたいと思いま す。 はじめに、JF 全国漁業協同組合連合会 の概要について紹介をお願いします。 合併や集約を推進 宮原 ております。 私たちの組合は、全国津々浦々にあ 近年は、陸上一般も含めて安全対策の重 る漁業協同組合の全国単位の連合体です。 要性が強く求められる状況になってきまし 正会員は73で都道府県漁連が42、金融を担 た。そこで、貴連合会をはじめ漁船漁業の 当する信用漁連31という構成です。その他 座談会を開く(東京・内神田の JF 全国漁業協同組合連合会会議室で) 2 海と安全 2 0 0 8・春号 に准会員1となっています。2 0 07年1 1月現 在の漁協数は1, 18 1となっています。昭和 水産基本計画にも安全対策 2 7年の全漁連設立時には水産協同組合法に 増田 基づく漁協が3, 5 00ほどありましたがこれ られていますが、この中で水産需給率のア まで合併や集約を進め、現在も組織の再編 ップなど健全な水産業の発展を期すとあり 強化に取り組んでいる最中です。このなか ます。従来の連合会の活動は、水産業の発 で特徴的なことは1県1漁協を基本に、東 展に力点が置かれていた気がします。近年 北では秋田や山形、中国・九州では山口や は漁船の安全対策についても踏み込んだ記 大分など、すでに8県で県域ごとに漁協が 述がされていますが考え方を聞かせてくだ 出来てきています。 さい。 後継者不足と高齢化の波 増田 現在は県漁連があってそれを構成す 水産基本法に基づき基本計画が定め 生かしたい安全マニュアル 宮原 水産基本計画策定の段階で水産政策 る組織として多数の漁協が存在するという の重要テーマのひとつとして漁船の安全対 イメージですね。貴連合会の HP を拝見す 策が盛り込まれました。以前から漁船は衝 ると、正組合員、准組合員あわせて4 1万7 突や海中転落などの海難事故が多いと言わ 千人と紹介されていますが、全体的には後 れてきました。安全対策への取り組みは漁 継者や漁船員そのものが減少傾向にあると 業にとって避けられないテーマと位置づけ 捉えていいのでしょうか。 られています。 宮原 すでに全国にある漁協の約半数は1 安全はすべてに優先するとの認識に立ち 県1漁協を目指し合併作業に取り組んでい 平成10年には「海難ゼロを目指して」とい ます。組合員数が急激に減少するなかで、 う冊子(安全マニュアル)を作成し、平成 これまでのように全国津々浦々に漁協が存 12年には「事故ゼロへの挑戦」と題して、 在するという形から政策面を含め広域に連 地域における安全対策への取り組みと成果 携していく態勢が必要です。1つの漁協で を紹介するとともに、救命胴衣(ライフジ 組合員数が2 0人を切ると解散となる法律上 ャケット)の着用推進など海難事故の未然 の規定があり、現在合併・再編を進めてい 防止のための対策などを盛り込んだ冊子を ます。最近では小さな合併より県域での合 作成しました。全漁連はこれらの冊子を活 併がいいという流れができてきています。 用し、安全対策に向けた周知啓蒙を図って 人材面では農業分野と同様に高齢化と後 きました。作成には『漁業労働安全マニュ 継者不足が顕著になってきています。2 0 05 アル等作成検討会』を立ち上げ、国交省の 年の漁業就業者数2 2万2千人で、男性1 8万 指導を頂きながら、さらには日本海難防止 6千人のうち6 5歳以上が3 5. 7%を占めてい 協会 OB の菅野さん、東京水産大学の宮澤 ます。 助教授など大勢の方に協力していただきま した。 海と安全 2 0 0 8・春号 3 トしますが関係者の反応や受け止め方はい かがですか。 宮原 今回の法改正に関しては、各浜で大 反対の声が上がるものと覚悟していました。 しかしながら意外や意外。そうした声は誰 からも出ませんでした。漁業者自身が高齢 化してきていることに加え、重大海難が発 生すると1週間以上の捜索を余儀なくされ ることは常識。当然、その間は操業もでき JF 全漁連代表理事専務の宮原さん ない。ライフジャケットをつけないと仲間 全漁連としてはこうした過去に積み上げ に大変な迷惑をかけるという認識が漁業者 たマニュアルなどを生かしつつ、引き続き の間に定着してきたのではないかと思いま 『海難事故ゼロ』を目指して取り組んでい す。テレビの釣り番組やマグロ漁船の番組 く考えです。沿岸小型漁船の場合、大半は などでは、必ずライフジャケットをつけた 1人乗りの漁船です。安全対策もこうした シーンが放映されることも意識の変化に大 背景をもとに水産独自の安全指針を設ける きく影響しているのでしょう。 必要があるとの判断からマニュアルも『1 先日起きた根室の漁船転覆事故でも7人 人乗り小型漁船の安全対策として何をする 中3人はライフジャケットを着用していて か』を最大のテーマとして検討したわけで 助かったという例もあります。最近のジャ す。 ケットは、機能性に優れ、薄く作業性にも それが今回のライフジャケット着用の義 務化という法改正につながったのです。 適した製品が開発されています。着用への 抵抗感もずいぶん薄れてきています。 当時の漁業関係者の一般的な認識は法定 4年前にライフジャケットに関する法律 備品を増やすことには大反対という感じだ 改正がありましたが、当時はライフジャケ ったと思います。ところが、陸上ではチャ ットを所持さえしていない船がたくさんあ イルドシートの装着義務付けの実施や海上 りました。今は少なくとも船には積み込ん においても神戸沖でヨットが転覆し、幼い であるという状況です。昨年のアンケート 子供を助けようとした両親が亡くなってし の結果では着用率も確実に上がってきてい まうという痛ましい事故が発生し、にわか ます。近い将来「ライフジャケットをつけ にライフジャケットの着用が注目を浴びる ているのは漁師だ。 」と言われるくらいに ようになったのです。 したいと考えています。 進むジャケット着用 増田 いよいよ平成2 0年4月に1人乗り漁 船のライフジャケット着用義務化がスター 4 海と安全 2 0 0 8・春号 危険が潜む1人乗り漁船 増田 今回の法改正を機にライフジャケッ ト着用の大切さを周知・徹底することと、 今後も継続した啓蒙活動が重要ですね。 海中転落防止のためのハード面への取り 組みならびにライフジャケット以外の対策 注意する必要があります。 転倒やはさまれ事故も要注意 について聞かせてください。 増田 宮原 いと聞いていますが。 万一海中転落してしまった場合の対 漁船では転倒や挟まれ事故なども多 策も重要です。1人乗りの場合は、船に戻 待場 ることが難しいのです。機関の自動停止装 底びき船はラインホーラー、網船はネット 置や船側の昇降装置を装備することが重要 ホーラーが装備されています。これに風で だと思います。 あおられたカッパや衣類のすそなどを巻き 最近は省力化のためほとんどの船が 以前レーダートランスポンダの導入につ 込まれ、そのまま体も巻き込まれるケース いて検討した経緯があります。現在、一般 があります。乗組員が多ければ万一巻き込 化はしていませんがそのシステムは生かさ まれても早期発見が可能ですが、1人乗り れています。船が転覆した場合、ブイ型の の小型漁船が多くなっており、このような トランスポンダが船位を知らせるというも 小型船では細心の注意を払う必要がありま のです。当時、第四管区海上保安本部の支 す。中には小型船に、安全レバー(ストッ 援を得て巡視船やヘリを出動し大演習まで パー)などの設置を工夫している人たちも おこなった経緯があります。現在は性能も います。 向上し、イパーブとセットで運用されてい 験談が一番有効です。しかし、アンケート ます。 欠かせない関係機関の連携 増田 こうした事故の防止対策には、実際の経 を実施してもなかなか具体例があがってこ ないのです。みんな「事故や怪我は恥」と ライフジャケットはある程度定着し いう意識が強く、内緒にして外には出した てきたということですが、今後は、それ以 がらないし、日常的にも事故や怪我は話題 外のシステム(エンジンストップ機能や船 になりにくいのが現実です。 側の昇降装置)と有効に組み合わせた運用 事故防止には、それぞれの地域で、積極 が必要になってきますね。 的に啓蒙活動をおこなえる人材と体制作り 宮原 同感です。長崎県漁業無線局が全国 が不可欠です。残念ながら現状は点の活動 にさきがけて導入している小型漁船緊急通 であって輪の活動になっていないという歯 報システムなど海上保安庁、漁協、漁業無 がゆさがあります。 線局などが連携できるシステムが理想的で 次に対策ですが、全漁連では、これまで すが、小型漁船の場合は、キャビンがなく の事故事例を精査し整理したものを対策集 無線装置そのものが設置できない船も多い としてまとめて関係者に配布したことがあ のが実情です。どうしても携帯電話依存型 ります。内容の多くは従来から言われてい になってしまいます。海上の場合は、携帯 ることや転落防止に手すりを設置するとい 電話の不感海域が多いことも漁業者は十分 った当たり前のことなのですが、それがで 海と安全 2 0 0 8・春号 5 オートパイロットやレーダーに頼った操船 が中心となり、たぶん大丈夫という意識と 漁の疲れが重なってつい居眠りをしてしま うのです。信じられないかもしれませんが 1人乗り漁船の居眠り操船が多いことも事 実です。それだけ、労働が過酷ということ かもしれません。事故防止のためには、複 数で乗り組む体制を徹底することが大事だ と考えています。 JF 全漁連漁政・国際部次長の待場さん きないところに悩みがあります。 漁船の災害防止活動については、各漁協 漁船特有のトップヘビーに要注意 増田 衝突の次に多いのが転覆事故となっ の協力と積極的な取り組みが欠かせないと ていますが。 考えています。 待場 転覆事故の原因の多くは、気象・海 また、事故や災害の発生は、水揚げ量や 象を十分把握せず無理な操業を行ったり、 魚価、燃料油の高騰などのバックグラウン 漁が多すぎて喫水オーバーによるケースな ドも大きく影響します。収支が厳しくなれ どがあります。以前、漁船の復元性が問題 ばどうしても無理をしてしまうということ になったことがありましたが、システム(漁 があると思います。 船)協会の設計段階で造船工業会との検討 増田 毎年発生する海難の大半は漁船とプ 検証が加えられ、現在はとくに構造上の問 レジャーボートが占めています。内容は衝 題はありません。ただ、漁船の場合は、魚 突と転覆が中心となっています。プレジ が入った魚網の位置や着氷などによって船 ャーボートや遊漁船は十分に組織化されて の重心が高くなるいわゆるトップヘビーに いませんが、漁協の場合は全国組織ですか なりやすいという特性があります。実際に ら海難防止対策の徹底についても組織の末 漁をする場合には十分な配慮が必要です。 端までやる気になればその効果は大きいと 思うのですが。 過酷な操業が居眠りを誘発 宮原 最初から気象が悪ければ出漁しませんが、 これまでの海難事故事例をみても出漁後の 急激な気象の変化が重大な結果をもたらす ことが多いのです。最近では船団や浜毎に 小型船は操船に自由度があるから見 部会長を定め、出漁判断をしているケース 張りさえしていれば、衝突事故は避けられ も多くなっています。また、沖では、出漁 るのです。しかし、最近の船は、スピード 船グループ内の定時連絡で相互に注意喚起 が速く5トン未満の船で1 0 0マイル以遠に をおこなうなど連携も強化されてきていま 1週間を超えて出漁するケースもあります。 す。 漁場までの距離が遠いから、どうしても 6 海と安全 2 0 0 8・春号 経験則を無駄にするな 難遺児育英会という団体があります。発端 は、森進一の「港町ブルース」というレコー 先ほど紹介したマニュアル「海難ゼロを ドを発売したときに、売り上げの一部を寄 目指して」のなかには、これまで積み重ね 付するから応援をという話が舞い込んでき てきた経験則が集約されています。各漁協 ました。その頃、静岡県の39トン型遠洋マ に責任者を定めて、それぞれのグループご グロ漁船が集団遭難するという痛ましい海 とに中心的役割を担う人材を核としてその 難事故が発生。一家の大黒柱を失った家族 地域に合ったマニュアルの運用を行ってい を救おうと女性部(漁協婦人部)が立ち上 ただきたいと思います。全漁連としては1 0 がり、宣伝活動を支援し盛り上げたのです。 年前に作ったマニュアルを改訂したいと思 現在は、浄財(基金)が50億円にも達する っているところです。 など、海難で父親を失った遺児たちにとっ て力強い支えとなっています。 求められる漁船の構造改善 また、漁船の構造改善にも取り組んでい きたいと考えています。世界の最先端にあ るといわれている欧州と比較して10年以上 遅れています。漁船に対する概念そのもの が遅れています。今後建造する船は、乗組 員の生活と労働環境を改善(少なくとも 聞き手の増田部長 活動内容をわかりやすくアピール 増田 一通りお話を伺いましたが、最後に、 ILO 海事統合条約に準拠)すること、安全 と後継者の確保育成をコンセプトに取り組 む必要があります。欧州では、オープンデ ッキがないムーンプール型の漁船が建造さ 今後の取り組みで特に強調したい点をお願 れています。海中転落事故など起こそうに いします。 も起きない船なのです。従来型の発想から 宮原 脱皮して根本から変えていかないと、日本 まず、関係省庁とも連携して安全対 策マニュアルをさらにブラッシュアップし、 の漁業は世界から取り残されるかもしれま リニューアルしていきたいと考えています。 せん。 次に、これまで全漁連はいろいろな活動 増田 全漁連の今後益々の発展と所属船の を行ってきています。しかし、その割には、 安全操業を祈ります。本日はお忙しい中、 世間一般からは、その活動が見えていない ありがとうございました。 気がします。もっと活動内容をわかりやす くアピールしていきたいと考えています。 全漁連が大きく関ってきた1つに漁船海 海と安全 2 0 0 8・春号 7 海難審判から見た漁船海難とその分析 ∼死亡・行方不明者の過半数が漁船で発生!! ∼ 高等海難審判庁 最初に 海難分析情報室 も多く、次いで機関損傷167隻、乗揚160隻 となっています。 我が国の漁船員は,平成1 4年には約3万 特に、漁船は他の船種と比べて機関損傷 3千人でしたが、平成1 8年には約3万人と の発生割合が高く、3年間の全機関損傷243 なり、この5年間で約1割の漁船員が減少 隻のうち69%(167隻/2 43隻)を占めてい したことになります。しかしながら、過去 ます。 5年間における漁船海難の死亡・行方不明 者数の推移をみると、毎年1 00人以上の尊 い人命が奪われている現状にあります。 このような状況下、昨今の燃料値上げ、漁 獲高減少などから、人件費抑制による必要 最少人数での出漁などにより、安全対策が 疎かになる危険性も懸念されており、漁船 に対する安全対策の徹底がより一層重要と なっています。 そこで、最近の漁船海難の発生状況やそ の原因、同種海難の問題点などを検討し、 再発を防止するための分析を行うこととし ました。 今回の分析対象は、平成1 6年から平成1 8 年までに海難審判庁において裁決のあった 全海難2, 2 3 2件、3, 2 2 5隻のうち、漁船海難 1, 1 3 0件、1, 3 3 3隻について分析しています。 その内容は、以下のとおりです。 漁船海難の発生状況 1事件種類 ! 漁船海難の事件種類別隻数をみると、 1, 3 3 3隻中、衝突海難が7 5 2隻(5 6%)と最 8 海と安全 2 0 0 8・春号 2死亡・行方不明者の発生状況 ! 死亡・行方不明者の半数以上が漁船で発 生しています。 漁船における死亡・行方不明者の推移を みると、全死亡・行方不明者に占める割合 は、平成15年に半数を割ったものの、それ 以外の年は半数を越えて推移している現状 原因についてみると、 「見張り不十分」が にあります。 5 76隻で3 6%を占めており、次いで、「居眠 3発生時間帯 ! り」128隻(8%)、「主機の 整 備・点 検・ 早朝が要注意!! 取扱不良」122隻(8%)、「航法不遵守」 漁船海難の発生時間帯をみると、 夕方 (1 7 1 18隻(7%)の順となっています。 時∼1 9時)の発生が9 6件と最も少なく、時 なお、「居眠り」は、全海難では262隻が 間の経過ととともに増加し、早朝(5時∼ 適示されており、そのうち漁船が49%(128 7時)がピークで2 1 7件発生しています。 隻/262隻)と半数を占めています。 2衝突の原因 ! 4衝突の相手船 ! 衝突の3件に2件は見張り不十分 漁船同士の衝突が多い!! 衝突海難で裁決から原因が適示された 衝突の相手船をみると、漁船同士の衝突 8 92原因についてみると、「見張り不十分」 が1 9 9隻(36%)と最も多く、次いで貨物 が565隻と63%を占めており、次いで、「航 船との衝突が1 5 8隻(2 9%)となっており、 法不遵守」が118隻(13%)、「信号不履行」 この2船種で6割以上を占めています。 7 8隻(9%)の順となっています。 ※ 裁決では、1隻の船舶について複数の 原因を示すことがあります。 また、平成18年に裁決のあった「見張り 海難の原因 1漁船海難の原因 ! 平成1 6年から1 8年までに裁決のあった漁 船海難で、 裁決から原因が適示された1, 5 95 海と安全 2 0 0 8・春号 9 漁船海難再発防止に向けて 1.継続した確実な見張りの実施 見張りは、安全運航の基本であり、周囲 を見渡し、継続した見張りが重要です。 1目視による継続した見張りを行う。 " 周囲に他船を見掛けなくても、その後の 不十分」1 75隻について、詳細に分析して 他船の接近に留意する。 みると、見張りを行わなかった7 0隻 (4 0%) 、 2夜間は法定灯火を表示する。 " 見張り態勢に就いていたが、衝突直前まで 不要な集魚灯や作業灯などを点灯したま 相手船に気付かなかった70隻(4 0%)、相 まにしていると、見張りの妨げになり、他 手船を認めたもののその後の動静監視を行 船から見ても法定灯火の識別が困難となる っていなかったもの3 5隻(2 0%)となって ので注意する。 おり、見張りを行わなかった7 0隻をみると、 3船首方向に死角がある場合、船首を左右 " 操業・漁獲物選別・魚群探査・漁具の整理 に振ったり、船内を移動するなど船首死角 など作業を行っていたものが5 4隻(7 7%) を補う見張りを行う。 で、 「操業中は他船が避けてくれると思っ ていた」や「漁に熱中していた」などで見 レーダーを装備している場合は、有効に 活用する。 張りを行っていない漁船が多数ありました。 2.航法などの遵守 また、船首浮上や構造物による死角を生 じていたため相手船に気付かなかったもの 我が国の沿岸海域は漁船が操業する好漁 も2 8隻あり、他船の接近に気が付かず衝突 場であるとともに、貨物船などの航路でも に至っています。 あることから航法などを守る必要がありま す。 1海上衝突予防法、海上交通安全法、港則 " 漁船の衝突海難 法に規定された航法を遵守する。 2漁労に従事している船舶は、法定灯火ま " たは形象物を表示する。 3漁労中、接近する他船があるときは、注 " 意喚起信号または警告信号を積極的に行う。 3.居眠り運航の防止 居眠りによる海難は、 ! 10 海と安全 2 0 0 8・春号 体調など(疲労、睡眠不足、薬の服用、 飲酒、年齢、体力、病気) ! 外部環境(他船なし、海上平穏、慣れ た海域、緊張後の安心感) " 船内環境 (いすの設置、 単調な機関音・ 振動、室温) # 生活のリズム(夜間、特に0 4∼0 6時に 眠気を生じる) り、機関の運転状態を確認することなどが 必要です。 以上、これまでの海難審判事例に基づき 漁船における海難防止の視点からいくつか の留意点について述べてみました。近年漁 船においては重大海難が絶えません。今後 の事故防止の一助となれば幸いです。 などの要因が絡み合い、 「まさか居眠りす ることはない」 、 「もう少しだから」などと 眠気を感じつつも居眠り運航の防止措置を とらずに海難に至っているケースが多いの です。 眠気を感じたら、まずはいすから離れ、 立って体を動かし、外気に当たり、洗顔す る、ガムを噛む、コーヒーを飲む、可能で あれば、安全な海域で一旦休息する、当直 を交替するなどが考えられますが、何より も十分な睡眠で、万全の体調により出漁す ることが大切です。 4 機関の点検など 機関損傷による海難は、整備・点検・取 扱不良により2 2 0隻で発生しており、機関 の性能・取扱方法を知り、平素の保守点検 を十分に行う必要があります。 1機関始動前に潤滑油及び冷却水量などを $ 確認する。 2過負荷運転は、軸受に大きな力がかかる $ だけでなく、ピストンの焼き付など損傷に つながるので、適切な負荷範囲での運転を する。 3警報装置は、潤滑油圧力の低下や冷却水 $ 温度上昇に対し効果があるので、常に電源 を入れ、年に一度は作動テストを行う。 4操業中であっても、定期的に機関室に入 $ 海と安全 2 0 0 8・春号 11 漁船漁業の安全対策 日本水産株式会社 海上勤労課 ふくはら みのる 福原 稔 はじめに 1 9 1 1年(明治4 4年)山口県下関に「田村 汽船漁業部」を創業したのが当社日本水産 株式会社の始まりです。東シナ海でのト ロール漁船による底曳網漁業で獲れた魚を 安定的にかつ安く消費地へお届けすること でした。 1 9 1 9年(大正8年)組織変更して社名は 「共同漁業㈱」になり、その後漸次増強を 図り、1 9 3 7年(昭和1 2年)社名を日本水産 ㈱に変更しました。 太平洋戦争では徴用された大型捕鯨母船 から優秀な小型トロール漁船に至るまでそ 南氷洋で操業する大型トロール船 至っていません。 過去の体験・経験をもとに安全操業に関 するポイントを幾つかまとめてみました。 船舶火災防止のポイント の殆どを失い、戦後は残った老朽船による 操業中の火災発生は、電気溶接作業、漏 トロール漁業で再出発することとなりまし 電、煙草の火の不始末が三大要因です。生 た。サケ・マス、カニ、カレイなどの北洋 産ライン換装工事などの整備作業を操業中 の幸を獲る漁業も許可され各母船団が出漁 に乗組員で行う場合があります。いずれも し事業を拡大していきました。 ガス切断や電気溶接など火気を使用して行 昭和4 0年代には約6 0隻以上の当社所有底 う工事が多く、火災防止には万全の準備と 曳漁船が世界の漁場で活躍していましたが、 注意を払わなければなりません。本船構造 昭和5 2年の20 0海里問題による沿岸各国の は、船艙と急速冷凍室との境界壁面や床面 漁場の囲い込みにより、これまで自由に操 は一面可燃性の断熱材が張り詰められてお 業してきた海域から締め出され、各国との り、一端着火すると瞬時に船体を火が駆け 合弁事業や共同事業による事業継続を余儀 めぐり、手のつけられない状態になります。 なくされ、現在では6隻の大型トロール船 船体構造を熟知し、火気が使える個所と絶 が南米方面で操業しています。 対使ってはならない場所の確認と、工事終 過去、操業中に外国漁船との衝突や火災 了後の現場パトロールは勿論のこと付近を 事故が発生していますが、船長初め乗組員 常時監視するなどの注意が要求されます。 の冷静沈着な行動により、重大な災害には 12 海と安全 2 0 0 8・春号 また海水を常時使用する場所については、 天井裏配線や、居住区内での許容量以上の 網索)長の和の距離を過ぎるまでお互いに 電化製品の使用による漏電火災もあり、ブ 相手船側に舵をとらないことを心がけます。 レーカーやアースの有無も常時点検が必要 たまに斜めに横切る無法船に遭遇すること です。 があります。このような船には電話、汽笛、 輻輳海域での操業時 他船との関係 探照灯の照射などで注意喚起をしなければ なりません。また、ソナー装備船は、自船 のオッターと他船のオッターが通過する状 多くの漁船が輻輳する漁場での操業運航 況をソナーによって監視し確認することが は、自船の状態が曳網中か揚網中かそれと できます。ソナーは漁獲向上の武器として も探索航海中かということを十分認識した 活用されますが、漁具競合を避けるための 上で、付近操業船の状態が航海船かまたは 有効な漁労機器でもあるのです。 曳網中の動力漁船であるかを常に把握して おく必要があります。その相対関係で国際 復元性・トリムに関する配慮 海上衝突予防法の適用が変わるため、相手 出漁に際し、燃料油、製造用資材、さら 船の動静を見極めて操船する必要があるの に重い漁具資材、清水が浮面心(船体浮力 です。言葉の異なる外国人乗組員が運航す の中心点)から後部に積まれるので出港時 る他船と衝突のおそれがある状態に遭遇す のトリムは船尾トリム約3m となります。 ることも多く、漁獲を優先する危険な位置 このように船尾が大きく沈み込んだ状態で、 関係に陥ることもあります。 高緯度の荒れる漁場などを向かい風で全速 衝突防止以外にも漁具競合(絡み)を避 航走する場合、波速と船速が同調すると“危 けなければなりません。特に時化の中で事 険な出会い群波現象”に陥ったり、スラミ 故を起こした場合、非常に危険な二次災害 ング(船首の上下動)が激しくて減速しな に怯えながら絡み外し作業を行わなければ ければ走れなくなるなど操業効率の低下に ならなくなるのです。 つながります。また、大きなウネリのなか 不幸にして万一他船と漁具を絡ませた場 を2∼3ノットで向かい風曳網する場合、 合、お互いに船の行脚を止めて連絡をとり 船首喫水が浅いと曳網力が不安定になり船 ながらワープを徐々に巻き込み、絡んだ個 首が風に落とされ保針ができなくなるばか 所まで巻き上げて絡みを外すという極めて りか漁獲も激減します。船体の保安上も効 危険な作業を行うことになります。要は絶 率的操業上でも障害となるのです。1日で 対に漁具競合を起こさないことにつきるの も早くトリムをベストコンデションにする です。 には大漁が最も好ましいのですが漁獲が振 お互いに網を曳きながら相手船と航過す るわないときなどは使用燃料は浮面心から るときには両船の網口を広げるためのオッ 後部にあるタンクから使用し、生産製品は ターボード展開の幅を加えた距離だけ離し 浮面心前部の2番艙へ積みつけるなどの工 て航過し、両船の伸ばしているワープ(曵 夫を行います。燃料の消費状況にもよりま 海と安全 2 0 0 8・春号 13 は速力を落とし、小角度で回頭しないと危 険、旋回中に舵を戻すと、角速度は減じず 元のままで直圧力が急に消失するので、外 方への傾斜は更に大きくなります。このよ うな場合に内側から横波を受けると転覆の おそれがあることを漁労長は常に心に留め ておくべきです。 操業終了引き揚げ前には、ダブルボトム 海水温‐2℃海氷発生 の燃料および清水は70%以上消費し、製品 すが5 0 0トン∼6 00トンの製品を保持すると は艙内満船近いという状態になります。船 荒天操業時スラミングがなくなり思う存分 内の工場には、処理中の原料(漁獲物)を に探索や曳網にその船の能力を発揮できる 保持し、さらに80t∼100t の漁獲物を甲板 ようになります。5, 00 0トン型の船では、 上に巻き上げると見かけの重心が上昇し、 入港間際となり燃料を7 0%ほど消費し、約 船の傾斜がなかなか元に戻らないことを体 1, 0 0 0トンの製品を積んでいるとトリム1. 5 験してきました。このような状況下では操 m 以下∼イーブンキール近くになります。 船には充分注意し、船を風波に立て保針し、 こうした状態で風波を船尾に受けて曳網す 横波を受けて漁獲物が移動しさらに船体が ると、スクリュープロペ ラ が racing(空 傾斜するという危険な状態に陥ることを避 転)して危険です。このような場合は FPT けなければなりません。操業中は常にタン (船首タンク)の清水を捨て風波を船尾 クコンデションに気を配り、Heeling(船 2 0°∼30°に受 け る よ う 曳 網 保 針 し rac- 体の傾き)調整の条件が許す範囲で燃料や ing を避けなければなりません。 清水タンクをまとめて自由水による重心移 航海の終盤ではダブルボトム(二重底) 動の見掛けの復元力の損失を最小にするべ タンクの燃料や清水が消費され少なくなる く対策をとっておかなければならないので のに反し、艙内への生産製品が増し必然的 す。また、常時正確な重心計算はできない に船の重心は上昇して GM(復元力を示 にしても、常日頃から船体の動揺周期を測 す)は減少してきます。なかでも荒天海域 り GM の目安を掴んで安全運航に心掛け で順風(追い風)全速で探索航走し、魚群 ることが大切だと考えています。 反応を発見後、直ちに反転投網して行く場 合には、若干旋回径は大きくなってもまず 氷海域での操業 速力を落として回頭するなど出港時とは異 南極大陸周辺においては、5月に入り海 なった復元性を重視した操船が求められま 水温度がマイナス0. 5°∼マイナス1°に す。旋回時の船体の傾斜角は、速力の2乗 なると蓮の葉状の氷となり、南系の風向に に比例し、GM および旋回半径に反比例し なると瞬く間に海面が凍り海氷となります。 ます。復元性の悪い船は、回頭する場合に 蓮の葉状の氷のときは、この氷を突っ切っ 14 海と安全 2 0 0 8・春号 て曳網できますが海氷が厚さを増してくる と曳網は見合わせなければなりません。 地形が湾状になっている海域での曳網は、 入口を塞がれるおそれがあるので、充分な 注意が必要です。風向と海水温度によって は瞬時に凍りつき、その範囲も一気に拡大 するのです。 北洋と異なり南氷洋は、海氷の中に小型 氷山が散在し、この海氷の周辺には氷山の 裂氷や砕氷が混在しています。ふつうは肉 氷山をぬって操業する新!丸(4 0 0 0/GT) これは漁労長の考え一つで決まるのです。 眼で確認できますが海氷の中にある氷山片 漁労長は、常に漁を追い求める。乗組員の は見分けにくいので細心の注意が必要です。 安全を第一に考え漁をする。いわば合理的 氷山、群氷の発見および予知を自らの経験 な考えと高度な技術が要求される仕事なの を踏まえて列記すると、! 1その付近には霧 です。優れた漁労長とは、合理的にものご が発生し異常な偏風を伴う! 2反射光の発見 とを考え、研究し、解決策を実行に移す能 (氷域の上空では氷による反射光を受けて 力を備えているものなのです。 黄白色となる)! 3氷片、砕氷断片の漂流! 4 海水温度の急降下などです。 「突かせる」場合の位置(海底地形)も 一考の必要があります。例えば海底地形が 基本的には厳重な見張りを念頭におき、 入り込んだキャニオン付近では湧昇流の影 肉眼での見張りは勿論のこと、レーダ監視 響で予期せぬ大波やウネリが発生する場合 は継続して行います。漁変時に海氷群に遭 があります。比較的浅水深で平坦な海底付 遇した場合は、大幅に迂回路をとることが 近の海域は、波浪やウネリは小さいのです。 肝要です。夜間、海氷群の兆しがあれば直 ちに機関を半速に落とし航行するなどの対 応が必要です。 突かせる(支える、heave―to) 場合の判断 おわりに 事故は多くの要因が重なって起こるもの です。一つの要因だけで起こることはまれ であると考えています。 事故は Ring of risk(危険の輪)が繋が 特に大時化(シケ)が予想される場合、 って Risk―chain(危険鎖)を構成して起こ 一連の天気図を参考に、気圧が降下傾向に るものです。事故の防止にはこの危険鎖を あれば早めに「突かせる」 (操業を中止し 断ち切ることが必要であるとされています。 天候の回復を待つ)ことが乗組員および船 漁船では特に危険の鎖を構成する要素が 舶の安全につながります。気圧上昇、風向 非常に多いといえます。これからも安全操 の変転など海況に好転の兆しがあれば、投 業を基本に、世界の海からおいしい魚を皆 網準備にかかるという判断も出てきます。 様のご家庭にお届けしていきます。 海と安全 2 0 0 8・春号 15 漁船海難の防止に向けて 第二管区海上保安本部 海難221隻のうち漁船が約7割に当たる145 はじめに 隻を占め、また、海難に伴う死者・行方不 第二管区海上保安本部は、東北6県およ びその周辺海域を管轄し、太平洋、津軽海 明者25名中漁船乗組員は23人を占めていま す。 峡、日本海の三方面の広い範囲で、海上犯 このような状況から、当本部では、漁船 罪の取締りや海難救助、海洋調査、水路測 海難の防止を最重点課題の一つと位置付け、 量、灯台の保守・運用など海上の安全を確 様々な取組みを行っています。 保するための幅広い活動を行い、 「安全で 美しい東北の海」を守っています。 第七千代丸の海難 東北地方沿岸、特に三陸沖は、北から寒 近年、東北地方で発生した漁船海難で特 流の千島海流(親潮) 、南から暖流の日本 に重大なものとして、平成18年10月のさん 海流(黒潮) 、さらに津軽海峡から対馬海 ま漁船第七千代丸の海難があります。 流の分岐流である対馬暖流が交錯する複雑 台風並みに発達した低気圧が日本列島東 な潮境を形成し、日本有数の好漁場となっ 岸を北上、大荒れの天候となった10月6日 ており、漁業活動が盛んに行われています。 午後9時48分頃、海上保安庁に「女川沖出 これに伴い、例年、漁船海難も多数発生 島東2海里位で、大きい波をもらって航行 しており、平成1 8年に東北地方で発生した 不能となった。…島だ、島だ、ぶつかって 図 全国及び東北地方における海難船舶隻数(平成1 8年) 16 海と安全 2 0 0 8・春号 しまう。 」といった第七千代丸からの遭難 実施したアンケートによると、気象・海象 通報が飛び込んできました。巡視船艇、航 が操業に支障をきたす状況になった場合の 空機などにより捜索を実施したところ、翌 操業中止の判断は、対象船舶7隻全てが「漁 7日午後2時頃、捜索中の宮城県警のヘリ 労長が行う」と回答しています。 コプターが宮城県女川町出島東岸で横倒し 一方、旅客船や内航貨物船の世界では、 状態の第七千代丸の船体を発見しました。 事業者に安全管理規程を設定させ、安全を 乗組員1 6人は全員が行方不明となり、当本 確保するための事業の運営方針や管理体制、 部では、巡視船艇延べ9 5隻、航空機延べ4 9 管理方法について詳細に規定するとともに、 機を出動させ、また、県警や県、漁業協同 安全管理を専門に担当する職員を会社に配 組合なども加わった陸、海、空からの捜索 置するなど、事業者が主体となった安全管 を実施した結果、9人は遺体で発見、収容 理体制が構築されています。 されましたが、残る7人は現在も行方不明 となったままです。 このような状況を踏まえ、第七千代丸海 難のような悲惨な事故を防止するためには、 後日、この海難は、気象・海象の判断を 従来のように漁労長等漁船乗組員に対する 誤り、荒天時には三角波が立ち非常に危険 海難防止指導を充実強化するのみならず、 な状態となる海域を経由する不適切な針路 船の運航を管理・監督すべき立場にある船 を選定したことが原因であると特定されて 主等経営者も含めた関係者全体により安全 います。 対策を検討し、実行することが必要不可欠 であると考えられます。 そのための一方策として、当本部では、 前記アンケートを実施した船主などに対し、 出港前の船体・機関の点検や気象・海象情 報の入手、出港・操業中止の基準、海陸間 における連絡設定などといった安全運航を 確保するために必要となる基本的な事項を、 自主ルールといった形で取りまとめること を提案しています。 横転した第七千代丸 第七千代丸の海難を教訓に 取りまとめに際しては、各船が現在取っ ている安全対策を基に当本部において雛形 を作成し、これを参考として各船の実情に 現在、漁船の運航に関しては、漁労長や 応じた自主ルールを策定していただくとい 船長といった実際に漁船に乗組んでいる う流れで、船主などに働きかけを行いまし 方々に一任することが言わば常識となって た。 います。当本部が第七千代丸の海難を受け 自主ルールの策定は、船主等経営者が船 て、第七千代丸の僚船の船主などに対して に対してルールに基づいた助言や指導を行 海と安全 2 0 0 8・春号 17 うことで、今まで安全運航についてあまり # 緊急通報用電話番号「118番」の有効 関心を持っていなかった船主等経営者の積 活用 極的な関与につながるほか、漁船乗組員に 講習会では、漁業者のご子弟やお孫さん とっても船主などからの助言や指導を抵抗 たちから公募した無事故を願うメッセージ なく受け入れることが可能になるものと期 ∼お父さんへのメール・手紙∼を席上で紹 待されます。また、ルールの策定に向けた 介したり、海難で行方不明となった場合に 船主等経営者と漁労長等漁船乗組員との話 残されたご家族が直面する苦しみや不安、 し合いを通じて、双方の安全意識の向上お 事故後の生活などといった悲しい実情を訴 よび安全に対する意思疎通が図られるなど、 えかけたりするなど、行政機関による一方 自主ルール策定の過程自体においても安全 通行的な講習会とならないよう、また、受 運航に直結する効果があるものと考えてい 講者が興味を持って真剣に耳を傾けていた ます。 だけるような講習内容とするよう心がけて います。 また、海難が発生した場合に一番悲しむ こととなるご家族からの呼びかけが、漁業 者の心情に何より効果的に訴えかけるもの と考えられることから、直接漁業者に対し て実施していた従来からの講習会に加え、 漁業協同組合の女性部を対象とした講習会 を開催し、漁業者を支えるご家族から安全 運航、安全操業を働きかけていただくとい LGL の活動 海難防止に向けた取組み った、間接的な啓発活動も展開しています。 このほか、ライフジャケット着用率の向 上策として、各県漁船海難防止協議会など 自主ルール策定の働きかけのほか、漁船 と連携し、漁業協同組合女性部の協力のも 海難を防止する活動として、当本部では、 と、女性ライフジャケット着用推進員、通 漁業者が集まる各種会合や説明会などの機 称「LGL(ライフ・ガード・レディース)」 会を捉えた海難防止講習会により、海難の を委嘱、浜のお母さんからお父さんへ、ラ 発生状況、事故事例と教訓、海難に遭遇し イフジャケット着用を呼びかける活動を展 た際に生還するための方法(自己救命策確 開しています。 保3つの基本(※) )などについて説明し 浜のお母さんは、過去、海難によりご家 ています。 族を亡くされた経験をお持ちであったり、 (※) また、海難の一番の被害者となり得る方々 自己救命策確保3つの基本 ! ライフジャケットの常時着用 でもあります。各種会合における講演や浜 " 携帯電話などの適切な連絡手段の確保 を巡回しての呼びかけ、地元ラジオ番組へ 18 海と安全 2 0 0 8・春号 表示し、漁業者のみならず港を利用する一 般の方々をも対象として、ライフジャケッ トの着用を訴えかける運動に取組んでいま す。 この防波堤などへのメッセージの表示は、 漁業者など港の利用者の目に日常的に留ま ることから、心理的効果によるライフジャ ケット着用意識の向上が期待されます。 また、関係者からも上々の評判をいただ いており、各地の漁業協同組合の支所など 防波堤へのメッセージ表示 の出演などといった LGL の活動は、語り から、表示の際に使用する型枠の貸し出し 要望が多数寄せられる状況となっています。 かける言葉にも重みがあり、海の男を自負 する漁業者の胸にも深く響くようです。 この活動に最初に取組んだ宮城県漁業協 同組合雄勝町東部支所では、当初2 0%程度 であったライフジャケットの着用率が、現 在では90%を超える状況となっており、 LGL の活動の成果が明確に現れてきてい ます。 この成果は、LGL に委嘱された浜のお 母さんの力によるものが大きいことはもち ろんですが、漁業協同組合や漁船海難防止 協議会、地元市町村や海上保安署など、関 係者による一致協力した活動があったから こそのものと言えます。 ライフジャケット着用率1 0 0%の出漁風景 おわりに 本稿では、当本部における漁船海難防止 LGL によるライフジャケット着用推進 に向けた取組みについて、その一部をご紹 活動は、発祥の地である宮城県から東北地 介させていただきました。当本部では、漁 方全体の活動へと展開しつつあり、将来的 業者はもちろん、その他一般の方々も含め には全国的な広がりを見せて欲しいと願っ て、海上で命を落とす方を一人でも減らす ています。 よう、今後とも様々な対策を講じていくこ また、LGL 活動の他、ライフジャケッ ト着用率向上策として、当本部では、漁港 の防波堤などに「救命胴衣着用」 、 「命に着 ととしています。 「海難ゼロ」 、これが私たちの究極の願 いです。 せる救命胴衣」などといったメッセージを 海と安全 2 0 0 8・春号 19 気象・海象情報と漁船の海難防止 きく ち 気象庁予報部予報課 はじめに 予報官 ただし 菊池 正 の台風の発生・移動などの監視・解析・予 報を行っています。また、東南アジア域気 気象庁では、自然災害の軽減、国民生活 象機関向けに台風解析と予報の支援情報の の向上、交通安全の確保、産業の発展など 提供や、航空路予報担当機関に台風情報を に寄与することを目指して、気象警報や注 提供することがあります。 意報などの防災気象情報を発表しています。 防災活動をより効果的に支援するために、 情報の内容や発表のタイミングなどについ ては、常に関係する防災機関や報道機関と 調整を行っています。 海難防止に対する気象庁の役割 予報・警報の作成・発表に関し、気象庁 気象情報の運用の改善 ○気象情報の標題・注意警戒文・本文 平成18年10月6日から8日にかけて、低 気圧が発達しながら、関東の南東海上から 三陸沖、北海道の南海上を進みました。図 は10月6日21時の地上天気図です。 この低気圧に伴う暴風と高波により、 本庁と全国の気象台が一体で情報発表を行 っています。気象庁本庁では、台風に係わ る解析や予報の発表、全般気象情報の発表、 各地方への技術的指導と支援を行っていま す。全国の気象台では、それらを受けて府 県天気予報や警報・注意報の発表を行って います。 また、海上に対する予報や警報の発表に ついては、気象庁本庁では、アジア太平洋 地上天気図解析と予想図、台風予報図の発 表、全般海上予報・警報の発表、セイフテ ィネット情報の編集、ナブテックス海上予 報・警報の編集・発表を行っています。ま た、管区気象台などでは、担当海域に対す る海上予報・警報の発表を行っています。 さらに、台風については、気象庁本庁は 太平洋台風センターとして、北西太平洋で 20 海と安全 2 0 0 8・春号 ・10月6日17時20分頃、茨城県神栖市沖で パナマ船籍の貨物船が座礁 ・10月6日夜、宮城県女川町東方約10キロ メートル沖合でさんま漁船が転覆 などの海難や、北日本を中心とする水産施 設などへ甚大な被害が発生しました。 宮城県の漁船転覆事故は、発達中の低気 圧がまだ関東の南東海上にある時点で発生 ・「東よりの暴風が長時間にわたって吹き しました。また、水産施設の被害について、 つけるため、沖合だけでなく沿岸部でも 「低気圧によってここまでの風・波になる 大しけとなる見込みです。」 とは予想していなかった」という漁業関係 などのように、当初の見込みが変わって危 者の発言が繰り返し報道されました。こう 険度が高まる予想に変化したときは、危険 したことから、気象庁は、防災気象情報の 度の高まりを強調し、現象の特徴や地域性 「伝える内容」や「伝え方」を工夫するこ に配慮した具体的な記述を工夫することと とによって、これらの事故や被害の発生を しました。 防止・軽減できなかったか検討を行い、必 ○ 要な改善を図ることとしました。 その結果、まずは気象情報の標題につい 台風情報の充実 平成19年4月から台風情報の充実も図り ました。 て、警戒の対象とすべき現象名を冠するこ <温帯低気圧に変わりつつある台風に関す とで、何に警戒すべきかを明確にすること る情報の充実> としました。 具体的な標題例として、 ・「暴風と高波に関する全般 (地方、府県) 気象情報」 台風では中心に近いほど風が強くなる場 合が多いのに対して、温帯低気圧は中心か ら離れた所でも風の強いことが多いのが特 徴です。時に台風が温帯低気圧に変わる過 ・「暴風と大雪に関する…」 程でさらに発達し、中心付近だけではなく ・「大雨と強風および高波に関する…」 広い範囲で暴風が吹くことがあります。そ のように、台風以外では原則として警戒の のような場合、暴風に警戒すべき状況が続 対象とすべき暴風、高波または大雨などの く間は、台風情報の発表を続けることとし 現象名を用いることとしました。 ました。 また、注意警戒文(見出し)および本文 この情報により、台風に匹敵する防災対 でも、伝えるべき重要な事項のイメージが 策が必要であることを効果的に伝えること 具体的に伝わるよう表現を工夫することと ができると考えられます。 しました。 たとえば、 ・「暴風を伴う低気圧」 、「急速に発達する 低気圧」 のように、注目が必要な現象名などの修飾 語を付した表現を用いたり、 ・「低気圧が急速に発達する予想に変わり ました。○○地方では、今日の夕方以降、 これまでの予想より強い2 5メートルの暴 風が吹く見込みです。 」 新しくなった予想図 海と安全 2 0 0 8・春号 21 <台風への発達が予想される熱帯低気圧に こととなり、台風の中心が最も近づく時間 関する情報の充実> 帯や、それぞれの地域で警戒が必要となる 平成1 8年6月から、今後2 4時間以内に台 風になり、かつ、2 4時間以内に日本へ接近 すると予想される熱帯低気圧に関して、 「発 達する熱帯低気圧に関する情報」の発表を 時間帯がより詳しくわかるようになりまし た。 船舶の安全などのための情報 開始しました。平成1 9年にはこれをさらに 船舶の運航には、台風や発達中の低気圧 拡張し、2 4時間以内に台風になると予想さ などによる荒天時の安全性のほか、海上輸 れる北西太平洋域の全ての熱帯低気圧に関 送における経済性や定時性などが求められ して、台風と同様の形式による解析・予報 ます。 の情報提供を始めました。これにより、台 このような船舶の安全などを確保するた 風になる前から熱帯低気圧の情報がいち早 め、気象庁は、日本近海や外洋を航行する く伝わり、防災の準備を促すことができま 船舶向けに、海上における風向・風速、波 す。 の高さ、海面水温、海流などの予報、強風・ <3時間刻みの台風の予報> 濃霧・着氷などに関する警報を発表してい 従来、1 2時間先、2 4時間先、4 8時間先、 ます。これらの予報や警報は、国際海事衛 72時間先の台風の位置・強度の予報を発表 星による衛星放送、ナブテックス無線放送、 していましたが、日本付近に台風がある場 NHK ラジオ(漁業気象通報)などにより 合には、この予報に加えて、3、6、9、 提供されます。 15、1 8、2 1時間先の予報も発表することと <日本近海に関する情報> しました。これにより、2 4時間先までの台 我が国の沿岸から300海里(およそ560キ 風予報は3時間刻みの予想値が提供される ロメートル)の範囲内の海域については、 22 海と安全 2 0 0 8・春号 悪天24時間、48時間予想図)、台風(72時 間先までの進路・強度予報)、波浪、海面 水温、海流、海氷などの実況や予想などの 図情報を、短波による気象庁気象無線模写 通報(JMH)により提供しています。 おわりに 発達した低気圧や台風により大荒れとな ることが予想される場合、低気圧や台風の 接近に先立ち、まずは「暴風と高波に関す る情報」や「台風第○号に関する情報」が 発表され、注意・警戒の呼びかけが始まる。 情報の内容を見れば、予想される風速や波 これを3 7の領域に細分し、海域ごとに、低 気圧などに関する情報と共に、風向・風速、 の高さなどを知ることができます。 やがて、具体的な防災行動が必要な段階 波の高さ、天気などの予報、強風・濃霧・ になると、風や波に関する警報や注意報が 着氷などの警報を提供しています。これら 発表されるようになります。また、海上に の予報や警報などは、地方海上予報や地方 関しては、海洋気象台や管区気象台などか 海上警報として、ナブテックス無線放送に ら担当海域に対して「地方海上警報」が発 よって日本近海を航行する船舶に提供して 表され、注目すべき低気圧や台風の状態と います。 共に、予想される最大風速が報じられます。 また、漁業気象通報として、台風、高・ これらの情報は災害を防止するのに重要 低気圧、前線などの解析情報と警報事項を、 な情報であり、様々なシステムを通じて入 NHK ラジオを通じて日本近海で操業する 手することができます。これらの情報を有 漁船向けに提供しています。 効に利用して安全航行にぜひ生かしていた さらに、海上警報の内容を記入した実況 だきたいと思います。 天気図や、 海上の悪天 (強風・濃霧・流氷・ 着氷)の予想も記入した予想天気図(海上 各種防災気象情報は下記インターネットホームページにも掲載していますのでご利用ください。 気象庁ホームページ http : //www.jma.go.jp/ 船舶向け天気図提供ページ http : //www.jma.go.jp/jmh/jmhmenu.html 海と安全 2 0 0 8・春号 23 漁船の安全操業向上のために 高崎経済大学 経済学部 准教授 ひさむね しゅうじ 久宗 周二 事に就いておりますが、現在も独立行政法 はじめに 人航海訓練所と船員の自主改善活動の共同 漁船の安全操業向上のために一筆寄稿さ せていただきます。私の所属を見てアレと 研究をはじめ、東京海洋大学や、北海道大 学水産学部と研究交流を続けています。 思った方がいるかと思います。経済の専門 そのような縁で、漁業の労働災害の研究 大学で、しかも群馬県は海がありません。 を続けていますが、漁業の労働災害が減ら あまり関係ないのでは、と思われて当然で ないことにとても危惧を感じています。 す。以前、財団法人海上労働科学研究所に 漁業における労働災害の発生状況は、他 勤め、船員安全の研究をさせていただきま の産業に比べ依然として高い水準にありま した。研究の成果をまとめて、平成1 2年に す。漁業労働災害の被災率は全産業の8倍、 「漁業技術の評価と労働災害の研究」で、 林業に次いで高率になっています。 (労働 北海道大学より水産科学博士の学位をいた 災害の発生状況を図1に示します。漁船員 だきました。その後、縁があって現在の仕 全体の災害数では1997年は1, 236件で、 1985 図1 漁船災害の経年変化 24 海と安全 2 0 0 8・春号 年の3, 3 2 5件と比べると37. 2%に減少し、 を傷害内容、部位、作業、災害原因につい 死亡災害では1 9 97年は4 3件となり1 9 8 5年の てより細かく分類し、業種毎の災害の特徴 9 5件と比べると4 5. 2%に減少していていま を抽出し、他の要因との関係を明らかにし す。しかし、船員数が毎年減少しているた て、船員災害防止の資料とするための検討 め災害件数を漁船員数で除し、1 0 00を掛け を行ないました。 た千人率でみると1 9 9 7年は2 5. 7 8件で、 1 98 5 まき網漁業の労働災害の分析をすると、 年の3 5. 49件と比べると72. 7%となってい 発生作業別では、漁労の46. 7%、 荷役22. 5%、 ます。死亡災害を千人率でみると1 9 9 7年は 漁労と荷役の両方で全体の7割を占めまし 0. 7 8 6件 で、1 9 85年 の0. 8 7 5件 と 比 べ る と た。具体的な作業別にみていくと、投網作 9 1. 1%となっており、あまり減少が見られ 業2. 5%、揚網作業33. 0%、 (洋上での運搬) ていません。 船 の 取 り 付 け7. 0%、そ の 他 の 漁 労 作 業 漁業の労働災害の詳細 4. 2%(以上の項目まで漁労作業)、(網か ら運搬船へ)積込作業8. 8%、(陸上へ)水 船員法1 11条及び船員法施行規則では、 揚げ作業6. 0%、 その他の荷役作業7. 7%(以 船舶所有者は船舶内並びに船内作業に関連 上の項目まで荷役作業) 、整備作業13. 3% して船舶と密接した場所で発生した災害・ などとなりました。災害原因別に細かく見 疾病のため、発生当日を含めて3日以上休 ると波浪による動揺10. 9%、ロープが急に 業した船員(死亡し又は行方不明になった 張る、切れる8. 5%、ロープ、網などに(身 ものを含む)の場合は、運輸省(現国土交 体の一部が)まき込まれるが8. 1%、 (コー 通省)に届け出をしなければならないこと ンローラ、サイドローラなどの)漁労機器 になっています。それらの疾病災害状況を に絡む13. 4%、 その他の不可抗力21. 8%(以 とりまとめ、 「船員災害疾病発生状況報告 上突発的要因)となり、主にヒューマンエ 書(船員法11 1条)集計書」が発行され、 ラーが災害原因と思われるものは8. 1%、 船員の災害・疾病の発生状況の実態を明ら 足を滑らすが16. 9%、災害原因の詳細不明 かにし、船員災害防止対策に活用していま が12. 3%でした(図2)。まき網船の場合、 す! 1。現在の集計では商船・漁船を含めて 漁労機器に絡む、ロープが急に張るなどの 同じ基準で集計しているために、他の船種、 要因で事故が発生しやすいと考えられます。 業種との比較はしやすいが、特に漁業の場 沖合底引網漁業の労働災害の分析では、 合、漁法の違いにより使用する漁具、船型、 発生作業別では、漁労の54. 3%、次いで漁 作業内容、操業環境が大きく異なっており、 獲物の取り扱いの16. 3%となり、漁労と、 大まかな分類では、その業種毎の災害の特 漁獲物の取り扱いの、漁労関係の仕事で全 徴、発生要因の因果関係については、不明 体の7割を占めした。作業内容と労働災害 な点が多くなっています。そこで本研究で にかかわる全ての記述についての分析を行 は、まき網漁業と沖合底引網漁業の2業種 いました。具体的な作業別にみていくと、 において「船員災害疾病発生状況報告書」 投網作業17. 3%、揚網作業27. 3%、その他 海と安全 2 0 0 8・春号 25 図2 労働災害の原因別グラフ(まき網漁業) の漁労作業(ロープの切り替えなど) 9. 7% 船毎に異なるため、例え機械に不具合があ (以上の項目まで漁労作業) 、漁獲物の選 ったとしても、他の要因との相互作用で災 別・整理1 5. 6%、出入港作業7. 8%、整備 害原因が解らず、安全対策が実施しにくい 作業4. 3%、その他の作業18. 0%となりま 点があります。 した。 また、甲板の面積が限られているために、 沖合底引網漁業の災害原因別に細かくみ 安全を保持するための通路や作業スペース ていくと、波浪による船体の動揺2 1. 5%、 が取りにくく、作業上、手摺りや、安全装 ロープの張り・切れ1 5. 8%、ロープに絡む 置を付けにくい点もありますが、安全対策 6. 5%、その他の不可抗力(氷が落ちるな を少しずつ進めていかなければなりません。 ど)8. 8%(以上の項目まで突発的要因) 、 力んだ作業(作業中に力きみ、無理な姿勢 まとめ で作業をするなど)4. 6%、ヒューマンエ 今回はご紹介できなかったのですが、そ ラーが災害原因と思われるものは7. 7%、 の他の研究では、漁労作業を VTR 装置で 詳細不明 ( 「報告書が無記入または誤って」 記録し、人間工学的側面より動作分析を行 などと表記)35. 0%でした(図3) 。沖合 ったことで、各工程のサイクルタイムの違 底引網船の場合、詳細が不明のものを除く い、要素動作の頻度の割合の違いなどが明 と波浪、ロープの張り切れなどの突発的な らかになりました。漁労作業の動作分析を 要因で、事故が発生しやすいと考えられま 行い、作業マニュアル等を作ることは、漁 す。 船員が自らの作業内容をチェックして作業 理由としては、漁労作業の場合は、海象、 漁獲量が状況によって異なり、作業方法も 26 海と安全 2 0 0 8・春号 方法、手順を改善し、労働災害を減少でき ます。さらに、漁労技術を教育していく際 図3 労働災害の原因別グラフ(沖合底引き網漁業) に、作業の流れを具体的に示す資料になる 作業の評価の知見は、人事計画、および漁 と考えられます。 労技術教育の資料となると考えます。 さらに、現在漁労作業が行われていられ 本編に紹介した内容は、平成12年に北海 るのは、熟練した作業者が状況を瞬時に判 道大学大学院水産学研究科に提出した博士 断して、漁労機械を操作して作業を行って 論文をまとめたものであり、研究の全編は いるからです。また、熟練した作業者が作 2 008年3月に「漁労作業の評価と労働災 業工程毎に、新人船員を指導したからです。 害」をヤマカ出版より、出版する予定です。 安全かつ的確に操業していられるのは、そ ご一読いただき、船員の労働災害防止に役 れらの現場での経験が築き上げた蓄積(ノ 立てていただければ幸いです。 ウハウ)が存在しているためであると考え 参考文献 られます。 まき網漁船と、沖合底引網漁船に乗船し、 1運輸省海上技術安全局船員部:船員災害 ! 作業に必要な技能レベルを工程毎に明らか 疾病発生状況報告(船員法第111条)集計 にし、現場の経験が築き上げた蓄積(ノウ 書 ハウ)を評価しました。技能レベル毎に最 2稚内地区漁船安全対策検討委員会:沖合 ! 低必要とする人数がこの数字であり、この 底引網漁業の作業の標準化の作成について 人数を下回ると操業に支障をきたし、労働 1987 災害の発生する可能性があります。この技 3水産庁:寒冷漁場における労働科学的調 ! 術レベルを保持できるように、新人船員を 査 1975 航海学会の論文 平成9年度 P6、23、42、1 998 採用し、育成のための職場内の訓練をして、 熟練船員を確保する必要があります。漁労 海と安全 2 0 0 8・春号 27 漁業の将来と操業の安全対策 水産庁 企画課 課長補佐(漁業労働班担当) はじめに 漁業就業者は、この1 0年間で約3割減少 かね こ もり お 金子 守男 1, 500人で推移しており、漁村出身者以外 には、なじみが薄いこともあって、その大 半が漁村地域の出身者となっています。 し約2 1万人(平成1 8年)となっています。 また、他産業から漁業への新規参入につ また、漁業就業者(男性)の3割以上が6 5 いては、最近、いくつかの事例が見られる 歳以上と高齢化が進展しています。このよ ものの、極めて限られているのが現状であ うに漁業就業者の減少・高齢化が進展する り、今後より一層、新規就業・参入を促進 中で、将来にわたり、国民に対して水産物 して漁業・水産業の活性化を図り、安定的 を安定的に供給していくことが課題です。 な漁業生産力を確保していかなければなり ません。 私が担当している漁業労働班は、水産庁 で漁業労働政策全般を担っている部署です。 将来にわたって、国民に対する水産物の安 定供給を担う漁業経営体を確保・育成する とともに、漁業者が安心・安全に漁業を行 い、持続的な漁業経営ができるように労働 環境を整備・改善していくことを任務とし ています。 また、我が国は、食の外部依存の進展、 スーパーマーケットの販売シェアの上昇等、 新たな水産基本計画 今後10年間の水産に関する各種施策の基 水産物の消費流通構造の変化にも直面して 本となる計画であり、昨年3月に閣議決定 います。世界では欧米や中国を中心に水産 された新たな水産基本計画では、水産物の 物需要が拡大(3 0年前と比べて中国では約 自給率を平成29年までに65%(平成17年に 5倍、欧米では約1. 5倍)しており、日本 は57%)にあげる目標を掲げ、水産物の安 からの水産物輸出も増加しています。こう 定供給を担う効率的かつ安定的な経営体を した新たな情勢変化をビジネスチャンスと 育成していくこととしていますが、このよ 捉え、新たな観点からの漁業・水産業を構 うな水産物の自給率向上などの施策も、漁 築することも必要です。 業が安全に働くことができる労働・職場環 漁業への新規就業者数は、近年1, 2 0 0∼ 28 海と安全 2 0 0 8・春号 境であることが前提です。 漁業の労働災害は、他産業と比べてその の着用や漁業無線の活用の促進により海難 発生率が7倍以上となっており、労働災害 事故の防止を図る。 」旨規定したところで が多いことが漁業の産業特性の一つとなっ す。(参照:水産基本計画の概要) ています。 ・労働災害統計での4日以上休業および死 亡した災害の分率(2 00 4年) 新たな漁船の安全操業対策 漁業労働は、狭く動揺する作業場で行わ 漁業(海面漁業) 1 8. 2パーミル れ、他の労働環境とくらべて極めて特殊な 鉱山を除く全産業平均 2. 5パーミル 状況下にあることから、毎年多くの労災を また、漁船の海難及び人身事故は、全国 発生させています。更に今後の漁業者の高 各地で発生しており、一漁業者の自己責任 齢化の進展によって、労災の発生頻度や重 の範囲内で解決できる問題でなく、産業の 大な労災の発生が多くなることが危惧され 安全な労働環境の改善や持続的な人材確保 ます。 の観点から、政策的に事故防止策を講じて いく必要があります。 そのような観点から、本基本計画におい 重大な労災と位置づけられる漁船の海難 および海中転落などの人身事故による死 亡・行方不明者は、近年、年間約150人程 ても、 「漁業労働環境の改善として、災害 度で推移しており、全船舶の海難および人 発生が特に多い漁ろう作業中の安全の確保 身事故による死亡・行方不明者のうち、い に重点を置き、安全操業の徹底、救命胴衣 ずれも漁船の割合は、半数以上で最も多い 海と安全 2 0 0 8・春号 29 状況にあります。 このような状況から、漁業者自らが漁船 事故防止に向けた取組を実施していく必要 があり、平成1 9年度において、!漁船安全 操業に関する漁業者意識の向上、"ライフ 全操業の取組について支援を行っていく考 えです。 (参照:漁船安全操業対策事業の 概要) おわりに ジャケット着用率向上による事故発生の減 安全な労働環境を確保することは、産業 少、#安全操業の徹底による漁船海難発生 政策の基本です。自分の生命に危険のある の減少を目的とする「全国漁船安全操業推 職業には、誰も就こうとは思いません。ま 進月間」を全国一斉に展開し、漁業者およ た、一度事故が発生すれば、漁業経営にも び漁業関係者に対して、効果的な事故防止 大きな影響を与えることになります。漁業 キャンペーンを実施しました。 (参照:全 の労働環境を改善し、誰もが安心して漁業 国漁船安全操業推進月間ポスター) に就業または参入してもらえる環境を整備 また、平成2 0年度においては、この枠組 することは、産業の持続的発展を図る上で みを新規・拡充予算である「漁船安全操業 極めて重要です。それができて、初めて、 対策事業(平成2 0年度概算決定額:3 3百万 将来にわたって持続的に国民への水産物の 円) 」を活用し、この枠組みを更に拡大・ 安定供給を実現することが可能になると考 発展させていくこととしています。水産庁 えています。 としては、今後も漁業者自らによる漁船安 30 海と安全 2 0 0 8・春号 全国漁船安全操業推進月間ポスター 海と安全 2 0 0 8・春号 31 取材:漁船の安全対策への取り組みを追う 青森・北海道・長崎∼漁業無線局・漁業会社・乗組員など関係者に聞く∼ 第1埠頭の卸市場は海外大型イカ釣船の水 青 森 揚げ基地となっている。このほかにも、湊 町には鮮魚や水産加工品など54店舗を抱え 八戸漁業指導協会 る八戸市営魚菜小売市場が賑わいをみせて いる。また、近年の八戸港はコンテナバー 整備が進む八戸漁港 スの整備など商港としての機能も充実・強 八戸港の水産関連施設は広大である。鮫 町日出町にある第1魚市場は、主として旋 網(まきあみ)船の受け入れ基地である。 化してきている。 八戸といえばイカ 江陽4丁目の第2魚市場は、底曳網(そこ 八戸港は、昭和41年を皮切りに平成12年 びきあみ)船、小型イカ釣船、定置網漁業 までに水揚げ数量日本一を6回達成してい などの水揚げが中心。白銀町の第3魚市場 る。なかでも魚種別水揚げ数量、水揚げ金 は、大型イカ釣船、中型イカ釣船。築港街 額いずれにおいてもイカの占める割合は他 八戸港には数多くのイカ釣り漁船が入港してくる 32 海と安全 2 0 0 8・春号 いしかわたいぞう 次長、石川大蔵さん。 漁業指導協会は八戸港の中心部に位置す る水産会館の中に事務所を構える。 引き続き、石川さんに最近の八戸漁港の 動向や安全対策への取り組みについて話を 伺った。 原油高に翻弄される漁業者 一般的にイカ釣り漁船といえば夜間沖合 事務局次長の石川さん に出漁し、集魚灯をつけて夜行性のイカを の魚種に比べて格段に大きい。八戸といえ 寄せ集め、それを釣り上げるというイメー ばイカと言われるゆえんである。青森県内 ジであるが、そればかりではないらしい。 における八戸市が占める漁獲量の割合も過 沖合底曳網漁船やサバ・アジなどの魚群を 去1 0年間にわたって5割を超える水準を維 大きな網で囲い込み、絞り込んで一挙に巻 持している。 き上げる漁法を用いる旋網船も漁期によっ 八戸港のイカ釣り漁船といっても船型は てはイカをターゲットに漁をおこなうとい さまざま。船型は、1 8 5総トンを超える大 う。また、最近は燃料油の高騰で各漁業者 型船をはじめ、3 0∼18 4総トンの中型船、 も厳しい経営を強いられている。高騰した 30総トン未満の小型船に分かれる。現在の 燃料油の節約も兼ねて夜間の集魚灯方式の 主力は中型船4 2隻、小型船2 0隻が日本近海 漁を取りやめ、昼間に半分寝ボケ顔のイカ で活躍している。 を釣りあげるという漁法も盛んにおこなわ 海外でも活躍する大型船 れているという。最近では夜間操業と昼間 操業が半々位と石川さんは話す。 大型イカ釣り漁船は、ニュージーランド 八戸漁業指導協会は、平成10年に7つの 海域や南米のチリやアルゼンチン、さらに 漁業協同組合が合併してできた「はちのへ はフォークランド海域で操業する。最盛期 漁業協同組合」と「八戸漁業協同組合連合 には船団を構成して出漁していたと言われ 会」の統合に伴って、平成15年4月に新た るが、現在では八戸港を基地とする大型船 に地区連合会の役割である広域的指導機能 は、わずか3隻となっている。 の維持・継続を目的に設立された。八戸漁 八戸港における漁獲高の最盛期は、昭和 連が従来おこなっていた漁業者に対する操 5 0年代から平成の初めにかけてである。6 3 業に関する安全講習などの指導事業部門を 年には、水揚げ量8 2万トン、水揚げ金額は 引き継ぎ、スタートした。八戸地区漁協の 6 5 9億円を超えた。水揚げ金額のピークは なかでも各地域間における横断的な連携活 5 7年の93 3億3 9 00万円だと八戸港の歴史を 動などについて中心的な役割を果たしてい 語ってくれたのは、漁業指導協会の事務局 る。 海と安全 2 0 0 8・春号 33 一方、八戸漁連の経済事業は、八戸みな と漁協と、ぜんぎょれん八戸食品㈱が引き 元イカ釣船の漁労長 継いでいる。 後継者の確保が最大のテーマ 石川さんは、いま一番重要なことは、陸 上産業でも言われていることだが、後継者 の確保育成への取り組みだという。早期に 将来の漁業担い手を確保しないと大変なこ とになると石川さんは心配する。当地区で も他地区と同様に高齢化の波が押し寄せて いる。これになんとか歯止めをと、地元に ある八戸水産高等学校などを中心に幅広く 漁業者からの求人と生徒からの求職情報な どの橋渡しに取り組んでいる。 安全意識の維持・向上を 経験談を語る榊さん 大型イカ釣船で3 2年 昭和47年から10年間ニュージーランド沖 で、昭和57年から平成15年10月に下船する までの22年間はフォークランド海域を中心 また、漁業者や船員の高齢化と事故や海 に大型イカ釣り船の漁労長として乗り組ん 難発生は極めて密接に関係している。そこ できたという八戸市湊町在住の榊 保次さ で石川さんは、八戸水難救済会ならびに船 ん(67歳)から当時の話を聞いた。 さかき やすつぐ 員災害防止協会八戸地区支部の事務局とし ニュージーランド沖での操業は年明け て毎年、漁期の合間をぬって開催する救命 早々の1月初旬から。毎年12月2 0日前後に 講習会、海難防止講習会などへの参加を広 は、母港の八戸を出航し、約15日間の航海 く呼びかけるなど安全対策にも積極的に取 を経て漁場へ着く。 り組んでいる。 一瞬の気の緩みが事故に 昨年7月には、沖合底曳網漁船の乗組員 を対象に災害防止講習会を開催した。今年 は4月にイカ釣り漁船の乗組員を集めて同 講習会を開催する予定だという。事故や災 害防止は一瞬の気の緩みから起きる。常に 事故や災害防止の意識を忘れないことが最 も大事だと石川さんは締めくくった。 34 海と安全 2 0 0 8・春号 出港準備中の大型イカ釣船 魔の暴風圏 この海域に向かったが、この海域での重大 海難事故は聞いたことがなかったと榊さん 船には冷凍設備を有し、釣り上げたイカ は話す。当時は出漁する船の隻数も多く、 は急速冷凍処理をして船倉へ。総量8 5 0ト 船団を構成しながら、僚船同士がお互いに ンで満船となる。7 00トンほど水揚げした 気象・海象の情報交換を綿密に行うなどの 段階で、仲積み船と呼ばれる運搬船に積み 対策や時化の海域への十分な備えができて 替え日本に運ぶ。操業船は、ニュージーラ いたことが事故の未然防止につながったの ンド沖でイカが釣れなくなる2月いっぱい ではないかと。 まで漁を続ける。3月に入ると同海域での また、自分自身のこうした幾多の難関を 漁を切り上げ、およそ半月をかけ、大圏航 乗り越えた経験の積み重ねが、万全の注意 法により、南米最南端のホーン岬を経由し を払えば事故は未然に防ぐことができると てアルゼンチンもしくはフォークランド周 いう総責任者、漁労長としての自信につな 辺海域の漁場へ向かう。 がったと榊さんは話してくれた。 この航海は、今思い出しても足がすくむ と榊さんは振り返る。乗り組む船は、イカ 八戸漁業用海岸局 釣り船では大型船といわれるが総トン数は 4 00総トンに満たない。南緯50度から60度 にかけての海域は魔の暴風圏と呼ばれてい る。常時南西もしくは南南西の風、風速3 0 ∼4 0m の暴風が吹き荒れている。年間を 通して風速15m 以下の日は数えるほどし かないといわれている。大波の中で船底に あるプロペラが空転してしまうこともしば しば。最近の船は、プロペラが空転すると、 自動的にエンジン回転が下がる調整機能を 持っているが、昔の古い船は、そうした機 能は備えていない。すべて乗組員の技術に 頼らざるを得なかったと榊さん。 長年の経験で乗り切る 南緯6 0度を越えると今度は見えない氷山 港が一望できる海岸局 火災事故の第1報を受信 「火災発生。懸命に消火中なるも火力衰 えず。まもなく無線機、衛星電話も使えな くなる……。」第31宝昌丸の火災事故の第 1報を受信したときのことである。 に悩まされる。榊さん自身、一度だけだが 日中のため通常通信波の感度は微弱、明 ぶつかったことがあるという。幸い船体に 瞭度もぎりぎり、内容が判別しがたい状況 軽度のへこみは生じたが、操業や航海に支 だ。とっさの判断で定時連絡とは何か違う。 障はなかったという。数多くの日本漁船が 間髪いれず短波周波数へ変更を要請。 海と安全 2 0 0 8・春号 35 す。せっかく得た貴重な経験を、事後の事 故防止に生かしきれていないのが実態です。 もっともっと体験者の教訓に学ぶべきで す。」と西山さん。 沿岸漁船など2 4 0隻が加入 八戸漁業用海岸局(呼出符号:JFS、呼 出名称:あおもりけんぎょぎょう)は、主 力の中型イカ釣漁船、超短波で1ワット船 火災事故第1報を受信した西山さん と呼ばれる沿岸の漁船も含めて2 40隻が加 にしやましょうじ 八戸漁業用海岸局に勤務する西山正治さ んは、そのときの状況を振り返る。 欠かせない連携プレー 入している。職員は青森県職員と青森県無 線利用漁業協同組合職員合わせて10人であ る。 なかでも西山さんは勤続43年の超ベテラ 「こちらは青森県漁業了解。周波数連絡 ンである。八戸港を基地とする漁船漁業の 設定するのでよろしく。付近僚船への連絡、 盛衰をつぶさに見てきた一人である。これ 必要な手配をおこなうので人命第一に頑張 までに漁業無線局職員として遭難通信や火 って下さい。 」感度微弱の状態から周波数 災事故対応に直接携わってきた貴重な経験 変更一斉指令など全てがうまくいった。成 をもあわせ持つ。 否は、事故発生時の初動で決まるといわれ るがこのときほど痛切に感じたことはない と西山さんは感慨深げに話す。 安易な閉局が心配 日本の水産業は、昭和52年に200海里時 事故発生への対応は、冷静沈着にマニュ 代に突入した。日本漁船の北洋漁業からの アル通りの実行が求められる。事故船、僚 撤退に伴う大量減船。その後の遠洋マグロ 船、陸上局、救助機関の連係プレーが欠か 漁船の大量減船など漁業の退潮は止まない。 せない。事故船からの第1報後、直ちに、 近年の通信技術の進展も相俟って、全国的 セルコール群呼び出し機能を使い当局所属 に漁業無線局のあり方が問われている。い 船全船に対し一斉指令周知を行う。 くら通信技術が発達しても、漁業無線局と まず、付近僚船への事故情報の周知。続 しての新たな役割があるはず。安易な閉局 いて、付近僚船の確認と救助依頼、同時に で漁業者や漁船乗組員の安全が損なわれる 救助機関である海上保安部への連絡である。 ことがあってはならないと西山さんは心配 生かそう事後の教訓に 「漁船漁業界もご他聞にもれず『事故や トラブルは恥だ』という風潮が残っていま 36 海と安全 2 0 0 8・春号 顔で話した。 北 海 道 浜木漁業株式会社 沖底船と遠洋マグロ船 浜木漁業㈱は、釧路港を基地として沖合 底びき網(沖底)漁船と遠洋まぐろ漁船を それぞれ1隻ずつ所有している。釧路市入 はま き ふみ お 舟にある会社に代表取締役専務の濱木文雄 さんを訪ねた。 燃料油・漁具の高騰で悲鳴 浜木漁業専務の濱木さん 鮮魚の輸出で新たな活路を 最近の特徴としては、大型のスケソウは 現在、釧路港には沖底船は1 5隻。そのう 揚網後直ちに船内で選別をおこない氷詰め ちの8隻は、オッターと呼ばれる網口を拡 して陸揚げする。スケソウは本来、タラコ げるためのボードが付いた網を用いて海底 を採ったあと、すり身として加工されるの に潜むスケソウダラ(スケソウ)を獲る底 が一般的。スケソウは、日本ではあまり鮮 引き網漁船である。残り7隻は、スケソウ 魚として扱われない。 (マダラは鍋ものな やハタハタ、カレイなどの魚群を取り囲む どに人気が高い)ところが韓国ではスケソ ように網を仕掛けて巻き上げる「かけまわ ウを鮮魚として食べる習慣があり、需要も し」と呼ばれる漁法を用いて漁業を営む。 旺盛だという。したがって、選別された魚 浜木漁業は、沖底船で毎年9月から翌年 は、韓国を中心として海外に輸出されるの の5月までの9ヶ月間、厚岸沖から襟裳岬 沖合にかけ、主にスケソウを漁獲する。 近年の釧路漁港の水揚げ金額は2 0∼3 0億 だと濱木さんはいう。 遠洋マグロも燃油高で 円ほどで比較的安定していると濱木さんは つづいて濱木さんに当社所有の遠洋マグ 語る。問題は、燃料油や石油製品さらには ロ漁船第3 5八幡丸(420総トン)について 網やワイヤーロープなどの漁具の急激な値 話してもらった。 上がりである。各漁業者は悲鳴を上げてい 第35八幡丸は日本人船員8人とインドネ るという。中でも燃料油の A 重油は、2 シア船員14人の合計22人が乗り組む。毎年 年 前 に は1kl 当 り3 5, 0 00円 だ っ た が、今 4月から6月の間、オーストラリアとニ では8 2, 0 0 0円と倍以上である。 ュージーランド(シドニー・タスマニア公 2 0 0海里時代に突入した昭和5 2には釧路 海)を漁場に高級魚として知られる南マグ の沖底船は3 0隻をかぞえた。その後、6 2年、 ロの延べ縄漁を行う。南マグロは資源保護 平成1 0年と減船を重ねて今日に至っている。 のため、国際漁獲規制の対象魚種である。 海と安全 2 0 0 8・春号 37 TAC(漁 獲 可 能 量)は、年 間3, 000ト ン までとされている。7月、8月は赤道直下 のソロモン諸島海域でキハダマグロを追う。 延べ縄漁は、およそ10 0km におよぶ幹縄 に2, 5 0 0本の釣り針をつける。エサはイワ シ、アジ、マツイカ、サンマなど色々であ る。釣り上げたマグロは、急速冷凍され船 の魚倉へ。この海域での漁を終えると一路 日本のマグロ水揚げ港で有名な静岡県清水 港に向かう。短期間で水揚げするのは、極 力旬のうちに消費者へという当社のモッ トーによるものである。 第1 5八幡丸、左から2人目が通信長の有田さん 卒業後北海道へ あり た はじめ ただ、水揚げのための航海を頻繁に行う 有田 肇さん(61歳)は浜木漁業㈱所属 ことは漁労期間にロスを生むとともに余分 の沖底船、第15八幡丸(16 0総トン)に乗 な燃料消費にもつながると濱木さんは悩む。 り組む無線通信士である。釧路沖底通信士 また、近年は外国でのマグロ消費が伸び 会(15隻15人が加入)の会長を務め仲間か ていると言われているが、やはり一番は国 内消費。日本の各水揚げ港での魚価には神 経を尖らせる。近年は、輸入マグロの値段 が市場の価格を押し下げる傾向が強いと濱 木さんは心配する。 らの信望も厚い。 気温マイナス17度と凍てつく釧路副港岸 壁に着岸中の本船に有田さんを訪ねた。 有田さんは、山口県萩市の出身。昭和42 年に地元の電波高等学校の第1期性として 沖合底びき網漁船と遠洋マグロ漁船、い 卒業。以後、北海道の遠洋マグロ漁船(8 ずれの漁業種も経営状態は厳しいが、何と 年)、北洋の独航船、母船式サケ・マス船 か将来に活路を見出すために懸命に頑張っ (10年)などに乗り組んだ。いま乗ってい ている漁業経営者の姿が見えた。 る沖底船も今年で10年になる。本船のいい ところは、1日1回夕方から夜半にかけ、 必ず港に帰ることと日曜日には魚市場が閉 まるため毎週土曜日は休漁することだそう である。出港すると1年近く母港に帰らな いマグロ漁船は、乗組員にとって厳しい職 場だと有田さんはいう。 温暖化の影響か 「ここ数年、全体的に漁が減ってきてい 釧路副港に着岸中の沖底船 38 海と安全 2 0 0 8・春号 る。5∼6年前から、流氷が見えなくなっ た。それまでは、漁場である厚岸沖や襟裳 的な指導のもとで北海道漁船海難防止セン 沖では、びっしりと流氷に覆われていた。 ターが設立された。理事長には、北海道知 昔は、流氷が魚を連れてくるとよく言われ 事が就任し、道あげて海難防止活動に取り たものだよ。 」と有田さんは豊漁が続いた 組む体制ができあがったのである。 当時を懐かしく振り返る。 また、 「われわれが獲っているスケソウ 北海道漁船海難防止センターの運営は、 主体の道、一管本部に加え、沿海部に位置 のすり身価格は何とか維持できているらし する市町村、漁業協同組合などが参画した。 いがそれ以上に燃料油などの操業経費の負 センターを中心とした関係者の事故防止へ 担増が大きい。経営は大変だと思う。 」と の懸命な取り組みは、徐々にその効果を発 会社の経営状態を気遣う。 揮した。 二度と起こすまい 昨年4月、船内火災が発生した。原因は、 船員室付近の電気系統。出火後、直ちに火 元である居住区を完全密閉し、海水で船体 平成2年以降は、年間海難事故発生隻数 は、100隻前後、死亡行方不明者数も10∼ 20人前後まで減少してきている。 新たにセンターを発足 を冷却するという初期消火と僚船との連携 平成11年8月には、海難の未然防止を中 がうまくいった。有田さんは、 「幸い乗組 心に活動する!北海道漁船海難防止セン 員の人身を伴う大事故には至らなかった。 ターと救難活動を主体とする日本水難救済 事故後、会社からの指示でもしもに備えて、 会北海道支部が統合し、名称を現在の!北 それまでの簡易式酸素マスクからボンベ式 海道漁船海難防止・水難救済センター(略 に切り替えたが、火災事故にともなう煙の 称:海防・水救センター)として、新たに 怖さをあらためて思い知った。 」と自らの 活動を開始した。 経験を話してくれた。 海防・水救センター 道あげて海難防止に 昭和4 9年当時の北海道では、海難事故と 海防・水救センターは、海難未然防止部 門を担当する事業第一部と水難救済部門を 担当する事業第二部とに分かれるが、実際 の活動としては相互に連携する内容が多い。 テレビ CM にも救命衣 いえば漁船。転覆や衝突事故など年間3 20 海難未然防止部門の主な活動は、海難防 隻に及ぶ海難事故が発生し、それによって 止に関する講習会(18年度は100回、4, 707 年間1 1 4人もの死亡・行方不明者数を数え 人を対象)・訪船指導(1, 252隻)ならび た。 に研修会の開催、機関紙「北極星」の発行 北海道として海難事故防止に向け、何ら (年2回)、海難防止強調運動(春・秋) かの手だてを打たざるを得ない状況にあっ ならびに啓発運動の実施、海難事故死ゼロ た。そこで、第一管区海上保安本部の積極 達 成 表 彰(H20.1. 25現 在8, 609日、9漁 海と安全 2 0 0 8・春号 39 協が継続中) 、オレンジベスト常時着用特 別運動など。 各種委託事業(海洋性レクリエーション 関係者安全講習会、プレジャーボート関係 者安全指導) 、日本財団事業(子供の海の 安全教室とお母さんの安全の集い) 、その 他(夏場の1ヶ月間、全道一円を対象に第 一管区海上保安本部が放映する救命衣着用 推進テレビコマーシャルへの協賛、防水機 能付き携帯電話の普及など)である。 専務理事の笹野さん 回り開催される事業も多い。各ブロックを 担当管轄する事務局長は、そのたびに道内 各漁港を飛び回る。 海防・水救センターの変遷ならびに海難 防止活動への取り組み状況について、同セ ささ の ただし ンターで専務理事を務める笹野 正さんは このように話してくれた。 意識改革が徐々に浸透 引き続き、笹野さんに、今後の抱負など お母さんの安全の集い 救難所の充実強化 を含めて話を伺った。 これまで、道内の海難事故が大きく減少 してきている理由について笹野さんは、 「第 水難救済部門では、救難機材の整備、水 一管区海上保安本部の海難統計資料のとお 難救済教室の開催、青い羽根募金運動、セ り、センター発足当時と比較すると平成2 ンター全道大会の開催、救難所に対する各 年ごろまでは、毎年大幅に海難事故件数が 種助成などである。 減ってきました。道内の漁業者の減少や、 同センターは道内の小樽・桧山・渡島・ 漁船の安全操業をサポートする機器の発達 胆振・日高・十勝・釧路・根室・網走・宗 もありますが、漁業者自身の安全への意識 谷・留萌の1 1ヶ所に支部を配置し、支部を 改革が大きい。近年は、シケに対する出漁 地域ごとにまとめた5ブロックに分かれる。 の可否判断も、極めて慎重になっています。 北海道札幌市中央区に事務所を置くセン また、救命衣への意識も着用することが当 ターの職員が各ブロックの事務局長を兼務 たり前というふうに変わってきたことが、 している。 重大事故の発生が減少してきた理由だと思 毎年度策定された計画は、各支部で持ち 40 海と安全 2 0 0 8・春号 います。ただ、最近は、漁師が出漁しない シケの日に、プレジャーボートが平然と釣 が課題です。キーポイントは、救命衣着用 りに出かけるなどという無謀なケースもあ の徹底です。センターでは、 『海難防止は ると聞きます。 」と心配を通り越してあき 家庭から』を合言葉に毎年、漁協の女性部 れ顔で話す。 を対象に『お母さんの安全の集い』を開催 しています。また、漁業者の皆さんには、 浜で膨張式救命衣の膨らみ具合や浮力を直 接自分たちの目で見て体験する安全講習や 地区の子供たちを対象とした救命衣着用講 習を開催するなど小さいときから海の安全 意識を高めることにも力を入れていま す。」と笹野さん。 周りの助言が命を救う 年2回発行する「北極星」 「各漁協のリーダーや先輩漁師たちのア ドバイスを聞いていて本当によかった。命 キーポイントは救命衣 拾いをしたなどという話をよく耳にします。 「センターの使命は、 『北海道の漁業者 海難による死亡・行方不明事故は、家族を の命を守る』こと。事業計画策定において 悲しみのどん底に落とし込むばかりか、漁 も人命の尊重を第一義として、海難事故で 業者仲間への負担も大きい。海難事故遭遇 多数を占める海中転落や、転覆に伴う乗組 という最悪の場合でも、浮いていれば助か 員の投げ出され事故の防止に力を入れてい る可能性は高い。安全・安心のためには救 ます。特に海中転落事故件数そのものは減 命衣の常時着用を。 」と笹野さんは、周り ってきていますが、件数に対する死亡・行 からの助言が大事であることや漁業者自ら 方不明者の割合は依然として8割にも及ん の安全に対する意識改革の必要性を強く訴 でいます。この数字をいかに小さくするか えた。 救命衣着用訓練を行う小供たち 海と安全 2 0 0 8・春号 41 長 崎 JFR長崎県漁業無線局 全国屈指の漁業県 長崎県は日本の最西端に位置し、北は壱 岐、対馬、西は五島列島など大小600余り の島々と半島を抱え、その範囲は東西2 13 無線局の当直風景 キロメートルに及んでいる。豊かな自然と 美しい景観に恵まれ、雲仙、西海の2つの 国立公園を有している。また、北部は玄界 灘、西から南西部は東シナ海、さらに東か 導監督用の免許についても業務を受託した。 無線局の新たな取り組み ら南東部は有明海に接し、その海岸線は複 平成18年3月10日には、全国に先駆け、 雑で総延長は4, 1 95キロメートル、全国第 緊急通報システム整備事業が完了し、9中 2位の長さである。 継局の2 7MHz1W 漁業用海岸局が新たに 九州南部から北上する黒潮暖流の恩恵を 受け、その入り組んだ海岸線には昔から沿 免許を受け、同年6月に長崎県小型漁船緊 急通報システムが稼動を開始した。 岸漁業が栄えた。一方、大陸棚が広がる東 このシステムは、海中転落者が装着した シナ海では以西底曳網(いせいそこびきあ ペンダント型自動発信機からの信号を、通 み)漁業、大中型旋網(まきあみ)漁業が 報装置が自動的に検出し、船のエンジンを 隆盛を極め、戦後の日本国民の魚たんぱく 自動停止するとともに、緊急信号を発信す 源として大きな役割を果たしてきた。 る。これを受信した統制局(長崎県漁業無 全国屈指の漁業県として、海上の船舶と 線局)は、直ちに海上保安部などへ救助要 陸上を結ぶ漁業無線もいち早く発達、昭和 請を行うことが可能となる画期的なもので 5年には長崎県水産試験場に県漁業無線電 ある。 信所が開設された。昭和2 0年、原爆投下に 長崎市柿泊の小高い山の中腹にある より中断はあったが、2 2年には再開し、幾 JFR 長崎県漁業無線局の田中八洲治局長 多の変遷を経て昭和5 5年には、社団法人長 を訪ね、小型漁船緊急通報システムの運用 崎県漁業無線協会を設立した。平成2年に 状況ならびに今後の抱負などについて話を は水産庁第2次漁業用無線施設等整備事業 伺った。 た なか や の適用を受け3年計画で近隣局の整備統合 事業を完了した。さらに、福岡県や佐賀県 す じ もっと普及したい新システム の漁業指導監督用の免許について業務受託 田中さんは、 「小型漁船の漁業者は、安 契約を結び、平成1 7年には水産庁の漁業指 全意識をもう少し強く持ってほしい。 」と 42 海と安全 2 0 0 8・春号 相互の信頼関係をさらに強く さらに田中さんは、無線局としての今後 の役割について「安全な操業と航海は、沖 で操業する漁船とわれわれ無線局職員との 相互の信頼関係があってこそ成就するもの と信じています。現在、定期的に地元の西 日本旋網通信士会や以西底曳網の山田丸通 信士会などとの連絡会・研修会などを重ね 局長の田中さん 強調する。 小型漁船の大半は、1人乗りで漁を行う。 毎年発表される事故統計をみても海中転落 による死亡や行方不明事故は非常に多い。 平成1 7年度の漁船の海難事故と海中転落に よる死者・行方不明者数は16 9人。このう ち約半数の8 2人が海中転落によるものとな 人間関係・信頼関係の更なる向上に最も力 を入れています。これからも沖の仲間から 頼りにされる『電波の灯台』としての役割 を果たしていきたい。」と力強く述べた。 山田水産株式会社 以西漁業では老舗 っている。残された家族のことを考えると 山田水産㈱は、長崎市を基地として以西 心が痛む。特に最近は、燃料油の高騰でど 底曳網(いせいそこびきあみ)漁業を営む の漁業者も厳しい。安全まで意識が回らな 歴史ある漁業会社である。漁業許可(大臣 いのではと田中さんはいう。 許可)が東経1 28度30分より以西なので以 新システムは特に一人乗りの小型漁船が 西底曳網漁業と呼ばれる。保有隻数は同族 対象である。現在、申し込みは40 0件ほど 会社の長運水産㈱とあわせて操業船10隻 だが、実際にシステム装置の搭載船はおよ (5組)運搬船1隻の11隻。総トン数は113 そ2 5 0隻でしかない。田中さんは、今後こ トン∼164トンである。 のシステムをいかにして普及していくかが 最大の課題だと話した。 底魚資源の回復が不可欠 今のところ県からの補助制度により、実 以西底曳網漁業は九州・山口における漁 質的な機器設置費用の自己負担額は約5万 業の一大勢力としての時代を築き活躍して 円である。万一事故が起こった場合、家族 きた。しかしながら、東シナ海、黄海にお はもちろん、漁業者仲間の心労と負担は計 ける底魚資源の悪化と膨大な数の中国漁船 り知れない。これまでさまざまな海難事故 との漁場競合などにより、許認可隻数は、 に遭遇してきた経験を持つ田中さんは、目 昭和40年の780隻をピークに昭和60年には 先の負担より万一事故が起きたときのこと 435隻、現在はわずか13隻となっている。 を考えてほしいと真剣な面持ちで訴えた。 航海日数は45日前後、年間約6航海出漁 海と安全 2 0 0 8・春号 43 (シケ)やお正月だからといっても魚価が 跳ね上がるなどということは殆どありませ ん。また、近年の燃料油高騰、漁網や発泡 スチロールなどの石油関連商品の大幅な値 上がりは特に頭が痛い問題です。経費増が 魚価に反映してくれればいいのですが… …」と厳しい表情の尾崎さん。 2度と繰り返さないために 山田水産取締役の尾崎さん しかし、情況が厳しいことを理由に、安 する。東シナ海の漁場で主に2艘曳(にそ 全対策の手抜きはできない。社内では安全 うびき)を行う。主船と従船が1日4回ず 衛生基本書を作成、これをもとに年度始め つ交互に網を入れ、2隻で1つの網をひく。 には安全衛生委員会を開催し、安全対策に 24時間操業である。漁獲される魚種は1 00 関する重点項目を決定、乗組員全員に周知 種類を超えるが、主なものは、キダイ、マ する。毎航海出港前には安全委員長(船員 ダイ、アカムツ、イボダイである。ウチワ 担当係長)による綿密なミーティングを行 エビなどの一部活魚を除いては魚種・規格 う。これは平成9年1月13日、韓国済州島 別に船上で箱に氷詰めされる。夏場などは 南東海域で操業していた当社の第18長運丸 魚の鮮度を保つために時間との戦いだ。乗 が10万トン級の外国貨物船に衝突され沈没、 組員にとって一番厳しい辛い作業である。 乗組員10人全員が行方不明になるという大 長崎漁港で水揚げされた後、地元の長崎魚 惨事が起きた。この事故を契機に毎航海の 市をはじめ九州、京阪神、関東方面の各魚 出港前安全ミーティングは欠かすことがな 市場を経由して消費者へ届く。 いと尾崎さんは話す。 さらに尾崎さんは、 「特に曳網操業中の 原油高騰と流通の変革が経営 を圧迫 場合は、船の針路を容易に変更できません。 山田水産の事業所は、長崎市京泊の新長 いう安易な考え方は徹底して排除し、 『衝 崎漁港にある。新長崎漁港は市の中心部か 突・ニアミス』を防止するために航走中を ら車で4 0分ほど。漁港内にある事業所で取 含め主船・従船間の情報交換を密にするこ 『相手船が進路を変更してくれるもの』と お ざきたけひろ 締役部長の尾崎武広さんに話を聞いた。 とで2隻体制の見張りを徹底するよう指導 「流通の変化で魚価が低迷しています。 しています。また、乗組員が服用する薬の 以前は主に魚屋さんで対面販売されていた 管理、デッキの整理整頓・ぬめりの除去な 魚が現在は量販店での販売が多数を占め、 ど高齢化に伴う傷病対策や漁船特有の転 市場では価格が事前に決定される相対取引 倒・挟まれなどの災害防止にも力を入れて が主流になりつつあります。そのため時化 います。」と付け加えた。 44 海と安全 2 0 0 8・春号 この水産資源を子々孫々に り込み作業をする乗組員の位置を確認しな がら慎重にウインチを捲く。全身の神経を 最後に尾崎さんは、 「私たちが操業して 手先に集中しウインチを操作する。瞬時も いる東シナ海は日本・中国・韓国が共有し 油断できない、もっとも緊張するときだ。 ている海です。それぞれの国が、共通認識 無事揚網作業を終りホッとする間もなく のもと子々孫々に、この海域の水産資源を 次の網入れである。次の揚網まで引き上げ 残すことを考えたバランスのとれた漁業を た魚の箱詰め作業が続く。こうした作業が 行う必要があります。日本の漁業者が立ち 24時間繰り返されるという。 行かなくなれば一挙に資源保護のバランス は崩れてしまいます。そのために、私たち 日本の漁業者が漁獲し、衛生管理にも十分 配慮した健康食品である安心・安全な国産 の魚をもっともっと皆さんに食べていただ きたいのです。 」と訴えた。 つづいて、早朝に入港したという山田水 産の所有船2隻を訪ね乗組員に話を聞いた。 第1長運丸機関長の坂本さん 問題は魚価安 さかもと やす お 第1長運丸の機関長坂本泰生さん(43 歳)にも話を聞いた。冬場の東シナ海は、 北西の季節風が1週間も吹き続けるという。 その間、乗組員は食事を座ってとることは ない。ご飯と味噌汁のお碗を片手で持ち、 揚網コントローラーの前で機関長の山口さん 緊張がつづく揚網作業 立ちっぱなしの食事である。こうして水揚 げした魚の価格が市場で安いと落胆という より情けない。乗組員の気持ちは大きく沈 やまぐち けん じ 第2 1山田丸の機関長山口健次さん(55 んでしまうという。昔の東シナ海では、高 歳)は、シケの中での揚網は一番神経を使 級魚といわれる大型のマナガツオが1網で うという。揚網時のウインチ操作は機関長 3, 000箱も獲れ、いわゆる一獲千金の時代 の役割である。魚が詰まった網を引き上げ があったらしい。そこまでは期待しないが るときは網の重さにウインチの動力が加わ 厳しい時代を脱却できるよう、何とか魚価 り船尾の喫水が極端に下がる。そこへ山の が安定するような対策ができないものかと ような青波が乗って来る。甲板上で網の取 坂本さんは訴えた。 海と安全 2 0 0 8・春号 45 「漁船からの海中転落者」の推移を事故者 海保だより 海上保安庁 数、生存者数及び生存率で示したもので、 警備救難部 生存率は増加傾向を示しています。 海中転落による死者・行方不明者の 減少を目指して ∼ライフジャケット着用の推進∼ 船舶からの海中転落による 死者・行方不明者 表1は、 平成1 0年から平成1 9年までの 「船 舶からの海中転落による死者・行方不明 (表2 漁船からの海中転落者の生存率) ライフジャケット着用率 者」の推移を船種別で示したものです。同 表3は、平成13年から平成18年までの「ラ 期間における年間の平均死者・行方不明者 イフジャケット着用率」を船種別に示した ※1 ※2 数は、漁船9 1人、 一般船28人、 プレジ もので、漁船の着用率をみると、平成13年 ャーボート等2 5人の順となっており、漁船 12%から平成19年31%と1 9ポイント増加し からの海中転落による死者・行方不明者の ていますが、平成19年の3 1%も依然として 割合が最も多く、全体の6 3%を占めていま 船種別では最低であり、今後もライフジャ す。 ケットの着用指導を推進していく必要があ ※1「一般船」 :貨物船、タンカー、旅客船、作業船、その他の船舶 ります。 ※2「プレジャーボート等」:プレジャーボート、遊漁船 (表3 ライフジャケット着用率) (表1 船舶からの海中転落による死者・行方不明者) 自己救命策3つの基本 漁船からの海中転落者 表2は、平成1 0年から平成1 9年までの、 46 海と安全 2 0 0 8・春号 このように、徐々にではありますが、ラ イフジャケット着用率の増加が生存率向上 につながり、ライフジャケット着用の効果 ャケット着用に関するアンケート調査では、 が表れているものと考えられます。 当初2割程度に過ぎなかった着用率が9割 しかし、海中転落による死者・行方不明 以上に向上しました。海上保安庁では、LGL 者を減少させるためには、ライフジャケッ の全国展開を図るべく、全国漁協女性部連 ト着用だけでは不十分であることから、海 絡協議会に対して協力を依頼しており、こ 上保安庁では、この他に、防水パック入り のような取組みが全国に広がり、死者・行 携帯電話などの連絡手段の確保、緊急通報 方不明者の減少に結びついていくことを期 用電話番号 「1 1 8番」の有効活用を加え、 「自 待しています。 己救命策3つの基本」と呼び、海中に転落 した遭難者が無事に生還するための重要な 手段として周知啓発活動を推進しています。 おわりに ライフジャケットの着用率は年々向上し また、平成1 9年4月から全管区海上保安 ており、平成19年の着用率は52%となりま 本部の運用司令センターにおいて携帯電話 した。しかし、海中転落による死者・行方 などから1 1 8番通報を受けた際、通報者の 不明者を減少させるには、まだまだ十分と 所在位置等を電子地図上に表示させ、迅速 は言えません。特に平成19年における海中 に把握することが可能となりました。 転落による死者・行方不明者のうち約6割 ライフジャケット着用率向上 のための最近の取組み は漁船に関係するものであり、漁業者のラ イフジャケット着用率も約3割と低調であ ること、また、平成20年4月1日から一人 石巻海上保安署(第二管区)では、漁業 乗り漁船のライフジャケット着用が義務化 者のライフジャケット着用率向上について されることも踏まえ、今回紹介した LGL 最も効果が期待されるのは、夫を助け家庭 の全国展開や漁業者を対象とした漁船海難 を守る妻の助言ではないかという観点のも 防止講習会等を通じライフジャケット着用 と、宮城県漁業協同組合雄勝町(おがちま の推進や安全意識の啓発を引き続き、重点 ち)東部支所へ協力を依頼し、平成1 8年9 的に実施していきます。 月、女性部役員3名による全国初の「ライ (*グラフ及び本文に使用している平成1 9年の数値は速報値で フガードレディース(LGL) 」が誕生しま す。 ) した。これまでに石巻海上保安署、気仙沼 海上保安署及び宮城海上保安部管内の4 4人 に LGL の委嘱を行っています。LGL は、 漁港など巡回による漁業者や釣り人への声 かけ、パンフレットの配布などを実施し、 地域一丸となって安全意識を高めているも ので、平成1 9年3月末に同組合雄勝町東部 支所所属の漁業者に対し実施したライフジ 海と安全 2 0 0 8・春号 47 国際 VHF 海岸局「マリンセイフティはねだ」12月16日開局 ∼海難防止団体として全国初∼ せ 社団法人 東京湾海難防止協会 航行安全情報管理部 参与 と 瀬戸 としのり 俊典 皆さんに覚えて頂くため、この海岸 局の呼出し名称の「マリンセイフテ ィはねだ」で説明します。「マリン セイフティはねだ」は、東京湾海難 防止協会の英語名称:Tokyo Wan Association For Marine Safety の 「Marine Safety」と工事海域の地 名の「はねだ」を組み合わせたもの です。 「マリンセイフティはねだ」の位 置は、当協会が関東地方整備局から 受託しました「東京国際空港周辺海 域船舶航行安全対策業務」を行うた めに都内江東区青海2丁目地先埋立 記念通信を行う理事長の武井さん 地に設置運営している羽田航行安全 !東京湾海難防止協会は、大規模海上工 情報管理室内です。工事用船舶の航行に関 事付近海域での一般船舶と工事用船舶との する情報などを「マリンセイフティはね 安全を図るためには、工事用船舶の動静な だ」から、湾内を航行する一般船舶に直接 ど工事に関する情報を一般船舶に対し迅速 伝えることが可能となり、湾内および工事 的確に提供することができる国際 VHF 無 区域付近の航行船舶の安全確保に多大の効 線電話が必要不可欠と考えてきました。ま 果を上げることが期待されます。 た、海事関係者からもそれを永年にわたり 羽田空港再拡張工事は、急速大量施工、 渇望されていました。このたび、羽田空港 輻輳する東京港口での施工、今まで大規模 再拡張工事に関する東京湾内の航行安全対 海洋工事では行われたことが無かった昼夜 策の一環として、ようやく国際 VHF 海岸 兼行での施工という工事であるため、東京 局を平成1 9年1 2月16日開局し、2 4時間いつ 湾内の船舶航行安全に大きな影響を与える でも無線電話により工事情報などの提供を 工事です。 「マリンセイフティはねだ」の することができるようになりました。 無線電話により行う主要な通信は次のとお 以下、新しい海岸局の無線電話により行 う業務をご紹介しますが、出来るだけ早く 48 海と安全 2 0 0 8・春号 りです。 ○羽田航行安全情報管理室と東京湾内を航 *同様の目的のため東京港西航路に接続し 行する工事用船舶と国際 VHF 無線電話を て設定された制限区域内で制限事項に反し 搭載する一般船舶との間の迅速的確な情報 た船舶がいる場合は制限事項を順守するよ 提供の通信 う助言します。 *工事用船舶の殆どは国際 VHF 無線電話 *その他、工事中の船舶交通の安全を確保 を備えていませんので、MCA 無線(注1) するため定められた新たな航行方法などに により工事関係の通信を行っています。工 関し支援助言します。 事用船舶が湾内を航行している時、先行避 ○羽田空港再拡張工事進捗にともなう安全 航(注2)する場合にその相手の一般船舶 航行支援業務 に対し自船の行動を伝える手段がありませ *工事進捗にともない大きく変化すると予 ん。 「マリンセイフティはねだ」が工事用船 想される D 滑走路北東部周辺の海域の航 舶の先行避航の情報を国際 VHF 無線電話 行環境に対応して、航行船舶相互間の見合 で提供し、両船の航行の安全に寄与します。 い関係の情報などを必要に応じ提供します。 (注1、MCA 無線:移動無線センターが このような「マリンセイフティはねだ」 提供する法人向け業務用無線) を皆様方に気軽に利用して頂き、羽田空港 (注2、先行避航:工事用船舶が航行の安 再拡張工事中の東京湾内の航行安全に更に 全を図るため、湾内航行中の一般船舶に対 寄与できますよう、!東京湾海難防止協会 し十分余裕ある時期に予め変針、減速など は心から願っています。 の避航動作をとること。 ) ○工事に関する情報を提供する通信 *工事用船舶運航状況、工事区域などを問 「マリンセイフティはねだ」の要目 免許人:社団法人 東京湾海難防止協会 無線局種別:海岸局(国際 VHF 海岸局) い合わせてきた船舶に情報提供します。 開局日:平成1 9年1 2月1 6日 *土運船、ガット船などの工事用船舶の運 呼出名称:マリンセイフティはねだ 航状況を各局あて同報します。 周波数:VHF CH1 6(呼出応答用無線電話の *連絡誘導路用大型の鉄構造物などを輸送 周波数)VHF CH1 3(通信用無線電 する大型台船を曳航する船団の運航状況を 話の周波数)VHF CH1 2(予備用無 各局あて同報します。 瀬電話の周波数) (注:VHF とは超 *工事作業が気象・海象状況により中止に 短波:Very High Frequency の頭 なった場合に各局あて同報します。 文字で表す電波の帯域) ○東京沖灯浮標新航行方法などを遵守する 出力:1 0W よう支援する通信 サービスエリア:東京湾の観音埼と富津岬を *工事中の安全をはかるため東京港西航路 結ぶ線以北の海域 出口の沖合の船舶交通を整流するため新設 された東京沖灯浮標の周辺海域の新航行方 法を順守するよう支援助言します。 無線局位置:都内江東区青海2丁目地先 中央防波堤外側埋立地(その1)東京航行 安全センター内 羽田航行安全情報管理室 海と安全 2 0 0 8・春号 49 が多数生息しています。その栄養価の高い 海守便り 泥をすくって食べるコメツキガニやシオマ 海を浄化する干潟から (海守事務局) ネキなどのカニ類、泥の中に潜るゴカイ類、 その他それらを餌とする小動物や小魚が多 数生息しています。また、それらをねらっ 生態系が深刻な状況に直面 干潟はかつて不毛の地として考えられ、 干拓や埋め立てが盛んに行われてきました。 て鳥がやってきます。このように干潟の生 き物はすべて食べる、食べられると言う関 係にあります。 環境省が全国の代表的な干潟157ヶ所(ラ ところが、そこには多様な生物が生息して ムサール条約登録干潟3 3ヶ所を含む。 )の おり、渡り鳥の中継地などとしてしても重 生物調査を実施したところ、1, 667種の生 要な場所なのです。 物が確認されましたが、ある地域では46種 干潟とは、海岸部に川や沿岸流によって 運ばれてきた砂や泥が長い年月をかけて堆 が生息しなくなる「地域的絶滅」の危険性 があるのとことです。 積して形成されたところです。潮の干満に また、近年、水質汚濁が原因と思われる より陸地となったり海面下になったりする アオサの異常発生などにより、各干潟の生 ことを繰り返している地形のことです。 態系が深刻な状況に直面していることは確 簡単に言えば、皆さんが潮干狩りをする かなようです。 場所、すなわち満潮の時は海に、干潮の時 海守では昨年、干潟のクリーン作戦に参 には陸になるところです。干潟は内湾の奥 加しましたが、一部の不心得な人の手によ や大きな河川の河口付近に多く、大規模で って投棄されたゴミの多さに驚かされまし 代表的な干潟は、 「むつごろう」で有名な た。ゴミに覆いつくされた干潟では、ゴミ 九州・有明海周辺にある干潟です。 の下でもけなげに生きている動物と死んで 干潟の大きさは、河川や沿岸流による土 しまっている動物を沢山目にしました。 砂の供給・運搬能力および堆積する海岸部 現在干潟の価値が見直され、干潟を再生 の地形や潮汐による海水面の変動量に影響 する試みが行われています。干潟の自然は されます。土砂の供給と波浪・潮流などに 前述したように極めて微妙な均衡の上にな よる微妙なバランスの上に成り立っており、 りたっています。簡単に回復できるもので このバランスが崩れたときには、乾燥した はないのです。 陸地と化してしまうか、もしくは海面下と なってしまいます。 海守事務局 干潟には、川の上流から流されてきた有 TEL 03―3500―5707 機物が堆積しやすく、その有機物を分解す FAX 03―3500―5708 る微生物が多く発生します。干潟の泥には URL 高い栄養価が豊富に含まれており、微生物 E―mail : info@umimori.jp 50 海と安全 2 0 0 8・春号 http : //www. umimori.jp/pc/ 第に高まってきました。 マ・シ海峡における「航行援助 施設基金」の設立に向けた動き シンガポール連絡事務所 このような中、IMO と沿岸国の間にお いて、マ・シ海峡の利用者による自発的支 援を前提とした利用者と沿岸国による航行 安全や環境保全を推進するための枠組み作 これまでの経緯 りの検討が進められてきました。その具体 像が、2007年9月に開催された IMO シン マラッカ・シンガポール海峡 (以下 「マ・ ガポール会議において、 「協力メカニズム」 シ海峡」という)は、年間9万隻を超える として明らかにされ、国際的に幅広い支持 船舶が通航するインド洋と太平洋を結ぶ国 を集めました。 際海峡であり、世界の国々の経済社会活動 を支える重要海域となっています。 協力メカニズムの中核がマ・シ海峡にお ける航行援助施設の維持・更新を行うため 日本経済にとっても、輸入原油の9割以 に設立される「航行援助施設基金」です。 上が同海峡を経由して運ばれており、文字 同基金は、海峡利用者からの自発的貢献と どおり我が国の「生命線」となっています。 いう形でその運営資金を集め、マ・シ海峡 一方で、マ・シ海峡は、「細く・長く・ における主要航行援助施設の維持・更新を 浅く・曲がった」海域であり、重大海難事 担っていくことになります。 故やこれに伴う環境汚染の危険と隣り合わ 日本財団は、同会議の中で、同基金の設 せの航行の難所です。我が国では、1 97 0年 立当初5年間において、総費用の3分の1 以降、!マラッカ海峡協議会を通じ、日本 の金額を支援することを表明し、沿岸国が 財団の財政支援により、マ・シ海峡におけ 提唱した協力メカニズムを他に先駆けて積 る航行援助施設の整備に努めてきました。 極的に支援することとしました。 IMO シンガポール会議 今後の動き しなしながら、中国、インドなどアジア IMO シンガポール会議に引き続き、10 地域を中心とした近年の急激な経済成長に 月にインドネシアにおいて開催された沿岸 より、マ・シ海峡の通航量は年々増加の一 国と利用国との事前調整会合において、同 途をたどっています。今後さらに増加する 基金の本格稼動に向けた作業をさらに加速 ことが見込まれており、海上安全リスクも させることを合意し、2008年1月15、16日 一層高まっていくことになります。 に、東京において、日本財団と沿岸国によ こうした情勢の変化を踏まえ、我が国の る会議が開催されました。 みがマ・シ海峡における航行安全や環境保 今後は、同会議を契機として、航行援助 全のための支援国となっている現状を疑問 施設基金のスタートに向けた動きが一層進 視し、今後は、海峡の利用者がその社会的 んでいくことが見込まれています。 責任に応じた負担をすべきとの考え方が次 (所長 磯野 正義) 海と安全 2 0 0 8・春号 51 日本海難防止協会のうごき (平成1 9年1 1月∼2 0年1月) 月 日 11.7 11.15 ∼ 11.16 会 議 名 主 な 議 題 「東京国際空港再拡張に係る船舶航行 安全対策調査検討会」情報提供等に係 る港内交通管理検討部会 全国海難防止団体等連絡調整会議 11.20 港湾専門委員会 12.7 「東京国際空港再拡張に係る船舶航行 安全対策調査検討会」情報提供等に係 る港内交通管理検討部会 港内航行安全システム等の見直しに関 する調査委員会 12.10 12.14 東京国際空港再拡張に係る船舶航行安 全対策調査検討会 12.17 仙台塩釜港塩釜港区外港航路船舶航行 安全委員会 東京西航路に係る船舶航行安全対策検 討調査委員会 12.19 2008年 1.22 海運・水産等関係団体打合会 1.30 平良港船舶航行安全対策調査委員会 ①平成19年度調査計画②交通管理システム等の構築・運用方策 ③制限表面に係る安全対策④海域利用等の検討 ①公益法人改革 ②東京国際空港再拡張後の航行安全対策 ③航行安全対策にかかる最近の動向 分科会Ⅰ ・東京国際空港再拡張工事に伴う航行安全対策 ・AISを活用した港内交通管制 分科会Ⅱ ・港内水域の有効利用 ・小型船からの海中転落対策 ・非会員の小型船舶操縦者に対する安全指導 ①港湾計画の改訂(3港)苫小牧港、三田尻中関港(山口県)、油津港(宮崎 県) ②港湾計画の一部変更(5港)新潟港、以下用地の変更等:八戸港、堺 泉北港、北九州港、中津港 ①船舶航行および錨泊船実態調査結果(速報) ②船舶間コミュニケーション および情報提供システムの検討 ③制限表面に係る安全対策に関する検討 ④待機錨地等の検討 ①操船シミュレータ実験結果および安全性の評価 ②AISを活用した新たな港内管制のあり方 ・基本的管制のあり方 ・AISを活用した新たな港内管制システムの提案 ・ 新たな港内管制を導入する港において検討すべき事項 ③航路設定海域にお ける安全対策の総合的な検討 ①船舶航行および錨泊船実態調査の速報解析 ②部会報告(船舶間コミュニケ ーションおよび情報提供システム、制限表面に係る安全対策および待機錨地等 の検討) ③航空機騒音等に関する安全対策の検討④D滑走路周辺の航行安全 対策の検討 ①前回議事概要の確認 ②工事中の船舶航行安全対策 ③報告書案 ①操船シミュレータ実験結果および安全性の評価 ②航路管制手法の検討 ③新たな航路管制システムの提案 ④入出港操船、船廻しの航行安全対策の検 討 ①航行体験シミュレータ実験実施およびアンケート結果 ②19年度報告書編 集案 ①事業計画案 ②平良港の現状 ③平良港の港湾計画 ④係留施設の評価 ⑤操船シミュレーション実施方案 平成1 9年の船舶海難発生状況(速報値) 海難種類 用途 突 貨物船 一 タンカー 般 旅客船 船 舶 プレジャーボート その他 52 衝 乗 転 揚 火 覆 爆 災 浸 発 機 関 故 障 水 推 進 器 障 害 舵 行 方 不 明 障 害 運 航 阻 害 安 全 阻 害 (単位:隻・人) そ 合 の 他 計 行 方 死 不 亡 明 ・ 166 58 0 12 0 13 37 2 6 0 2 6 0 302 11 52 29 0 5 0 4 11 0 0 0 0 0 1 102 0 31 11 0 5 0 2 5 5 0 0 6 2 3 70 1 135 117 65 8 1 40 181 77 8 2 147 31 36 848 18 53 27 7 9 1 13 11 10 1 0 21 3 6 162 0 漁 船 321 79 62 44 0 29 36 40 11 1 61 7 28 719 44 遊漁船 37 9 3 4 0 6 9 6 2 0 3 0 1 80 1 計 795 330 137 87 2 107 290 140 28 3 240 49 75 2283 75 海と安全 2 0 0 8・春号 船舶海難の発生状況(速報値) (平成1 9年1 0∼1 2月) 海難種類 衝 乗 転 火 爆 浸 機 推 進 器 障 害 関 故 用途 突 貨物船 一 タンカー 般 旅客船 船 舶 プレジャーボート その他 漁 船 覆 災 発 水 障 障 害 行 運 安 方 航 全 不 阻 阻 明 害 害 そ 船種 行 方 死 不 亡 明 ・ の 他 計 21 0 5 0 6 10 1 3 0 1 0 0 93 0 21 7 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 30 0 9 5 0 2 0 0 2 2 0 0 6 0 0 26 0 35 23 17 1 0 11 44 10 1 1 34 8 8 193 5 14 10 1 3 1 5 4 2 0 0 4 0 0 44 0 90 17 19 14 0 9 14 18 1 1 18 3 11 215 26 6 4 1 2 0 2 5 0 0 0 0 0 0 20 0 221 87 38 27 1 33 81 33 5 2 63 11 19 621 31 主な海難(平成19年10∼12月発生の主要海難) No. 合 46 遊漁船 計 揚 舵 (単位:隻・人) 船名等 総トン数 (人員) 発生日時および発生場所 海上保安庁提供 海難 気象・海象 種別 死 亡 行方不明 天気 晴れ ① 貨物船 大峰丸 (日本) 499トン 10月4日21:20分頃 (乗員5人) 静岡県下田市沖 乗揚 波浪 1m なし 視程 良好 千葉県袖ヶ浦を兵庫県飾磨港向け出港し航行中のところ、神子元島付近へ乗り揚げたもの。乗組員は巡視船 により救助され、船骸は後日、サルベージにより撤去された。 第八 三社丸 貨物船 (日本) 199トン 天気 晴れ (乗員4人) 11月1日09:30分頃 ② 衝突 遊漁船 清漁丸 4トン (日本) (乗員3人) 波浪 1m 佐賀県唐津市沖 死亡 1人 視程 約15km 伊万里向け尾道を出港し航行中の三社丸と遊漁のため錨泊中の清漁丸が衝突し、清漁丸船長が海に投げ出さ れ死亡、他の2名も負傷したもの。 第六十八丸 ③ 漁船 中丸 (日本) 天気 曇り 66トン 12月9日 20:30分頃 (乗員7人) 宮城県金華山沖 転覆 波浪 5m 行方不明 4名 視程 15km 女川港向け帰港中、船首から大波を受け、船体が右舷側に傾斜し転覆したもの。 乗組員3名は僚船により救助されたものの、他の4名は行方不明となった。 海と安全 2 0 0 8・春号 53 忙中閑話 しめ鯖は世界を救えるか 英国ロンドンに赴任して1ヶ月半、ホテ ル住まいの生活から抜け出し、やっと自分 の家に入居できた次の日、家の近くの日本 食料店に出かけました。6畳ほどの店内に 日本のコンビニ顔負けの品揃え、お米、醤 油、カレールウなどはもちろんのこと、イ JAMS LONDON のオフィスが入っているロイヤルミントコー トの表ゲート カの塩から、 『めかぶ』があるのには感激 もキリキリ冷やすと甘さが程よく後退した しました。 おかげで、食べて飲んで食べて飲んでのリ その店のウリは『刺身』 。いやぁ、マグ ピートの合間、ふっと「 『食べること』っ ロ、ハマチなどとともに、イカ、ミルガイ て世界平和に繋がらないかな?」と思いま などの貝類から青もののコハダ、しめ鯖ま した。 で、日本のちょっとした魚屋さんと同じに なんでも揃っているのでした。 お腹が減るとろくなことはありません。 イライラしたり落ち込んだり…。反対に食 「最近、刺身食べてないなあ。」という べることは、よほど嫌いなものを無理強い 気持ちから、中トロ、しめ鯖、コハダを頼 して食べさせられる時以外は、本当に楽し んで、家でキリキリに冷やした安白ワイン いことです。 と食しましたが、ワインを飲む前に最初に そして食べることはその食べ物の存在、 口に入れたしめ鯖の味に、私、泣きました 価値を認めることに他ならないのではない …。 (うー、忘れてないぜお前のことは!) かと考えます。頭ではそんなこと考えてい 返す刀でマグロを食し、 「ああ、マグロっ ませんが、例えば中華料理を食べ「ああ、 てこんなにぐっとくるグラマスな味付けだ おいしい。 」と感じることで中華料理とい ったかあ。 」と3切れ続けてほおばった後、 う食べ物そのものに加え『中国』というも 姿勢を正してコハダをいただき、なんとも、 のに親しみが意識の上、下かに浮かんでい このコハダの身のスカスカ感にじっくりし る気がします。それはインド料理でもタイ みた甘酸っぱい酢とが微妙に合わさって、 料理でも同じで、食べながら「本場のイン アクセントの皮も絶妙です。 「ああ、1ヶ ド料理屋だとか、インド人が家で食べてい 月半、日本人やめててすみません、やっぱ るインド料理とかはもっと美味しいんだろ り日本人に生まれてよかったあ…。 」と思 うなあ。 」なんていろいろ想像して、その いました。 国に思いを馳せたりします。食べることに ここまで、それはもう一心不乱に刺身の よって相手に『親しみ』を感じさせるイン 優雅さと奥ゆかしさを堪能し、安ワインで パクトは、宗教が説く『愛』よりも身体で 54 海と安全 2 0 0 8・春号 感じられる分だけ直接的で解りやすく、欲 いいもの(日本料理)も忘れていません。 望を満たすという結果がはっきりしている 我ら日本人は正に寛容と創造の民族であ 分だけ身近に感じられる気がします。 り、我ら日本人こそが、蓋を開けると結局 そうだとすると、ちょっと飛躍して「世 格差が広がっているいわゆる『グローバリ 界平和はこの『食』をきっかけに進まない ゼーション』に一石を投じ、お互いを認め か?」そして「その旗振り役は誰が適当 つつみんなが仲良くできる世界に力添えで か?」答えは? そうです、日本人です。 きるのではないか?と、しめ鯖の甘酸っぱ 世の中、グローバリゼーションが叫ばれて い味に絡む鯖のうまみを噛み締めながら思 久しいですが、我ら日本人は 『食』 のグロー った次第です。 バリゼーションをとうの昔に済ませて、な 世の中で起きる難しい問題に誰もが額に おかつそれを咀嚼した上で進化までさせて 皺を寄せて議論している中、さすらいのし いるのです。英国に来てサンドイッチばっ め鯖マンは、今日も世界平和を願いつつ かり食べていて思ったのは、なんと日本の 『食』を通じた対話を続けるのでした。 食事はバリエーションが豊富かということ でした。それはあらゆる『食』を受け入れ (つづく) ロンドン研究室長 若林 邦芳 ていることからくるもので、同時に日本の 南氷洋の氷山をぬって操業する遠洋大型トロール漁船(写真提供:日本水産株式会社) 海と安全 2 0 0 8・春号 55 ☆今号では、 「漁船の操業 乗組員の悲痛な叫び声が聞こえてきます。 と航行の安全」というテー マで、有識者からの寄稿を □ 北海道苫小牧市の佐藤さんから いただくと共に、JF 全漁連には、座談会にご協 特集号「フェリー・旅客船の安全対策を追う」 力をいただきました。また、取材記事には、沿岸 を読みました。フェリー・旅客船は、お盆やお正 漁業、近海漁業、遠洋漁業など操業海域の異なる 月など帰省客などが増える繁忙期になると、1便 船種や漁獲する魚種が異なるそれぞれの漁船特有 で1, 0 0 0人もの乗客を運ぶことになります。多く の操業実態と安全対策への取り組みについて、漁 の人命を預かる輸送機関にとって旅客の安全は第 業者、乗組員、さらには船・陸間の情報の橋渡し 一義であり、当然、確保されなくてはなりません。 を担う漁業無線局など関係者の皆さんから話を伺 いました。 特集でも、取り上げられていましたが、近年、 フェリー・旅客船会社の経営は燃料油の高騰によ って逼迫しています。中でも国内の長距離フェ イカ釣りにも、沖合で操業する小型船と日本近 リーは、他の輸送モードとの競合下にあって大 海で操業する中型船、遠くニュージーランドやフ 型・高速化が進み、従来とは比較にならないほど ォークランド海域まで出漁していく大型船とさま の高出力エンジンを装備しています。フェリー会 ざまです。1人乗りから大型船まで、漁業者や乗 社にとって燃料油の高騰は経営の根幹を揺るがし 組員の安全対策への気配りなど大変な様子を窺い かねないといわれる所以なのです。 知ることができました。また、ニュージーランド また、フェリーにとって出港時間の遅れは目的 海域に向けて出港する大型イカ釣り漁船とその船 地への入港時間の遅れに直結します。よくある に乗り組む夫の安全な航海を願いつつ出港を見送 ケースとして、頻繁に利用する顧客ユーザーであ る家族の姿にも遭遇しました。 る運送会社に所属するトラックのターミナル到着 が出港時間に間に合わない場合、やむを得ずトラ 東シナ海を漁場とする以西底びき漁船では、キ ックの到着を待って出港することがあります。こ ダイやマダイ、アカムツなどの貴重な底魚資源の の場合、操船者としては、航海中に遅れを取り戻 維持存続を願う漁業者と市場での魚価低迷を懸念 すしかないのです。1台の遅れが余分な燃料消費 する乗組員の素顔が見えました。1週間も猛烈な のみならず無理な航海、ひいては安全の大きな阻 シケが続く中で、立って食事をしながらの操業を 害要因にもなりかねないのです。省エネと安全確 続ける乗組員の姿が思い浮かびます。 保には旅客・ユーザーの協力も欠かせないという フェリーの実情を紹介しました。 北の漁場では、マイナス2 0度と凍てつく中で、 かまぼこなどの原料となるすり身用のスケソウダ ☆このコーナーでは、 「読者からの声」を紹介し ラと格闘する乗組員。沖合底びき網漁船は、1日 ています。読者のみなさんからのご意見・要望な 1回は港に帰るから良いほうだと乗組員は言いま ど、お待ちしています。 す。しかし、着岸しての停泊は、魚倉に蓄えたス ケソウダラを2 0トントラックに水揚げするほんの 1∼2時間。その間、乗組員は、作業衣のカッパ を着て、全員で荷役作業を行うのです。 いずれの漁業者・乗組員も、操業には欠かせな い燃料油や石油関連製品、漁具・魚網などの急激 な高騰に悲鳴をあげています。操業にかかるコス トの増大と低迷する魚価のはざまで、安全な操業 をいかにして確保するのか。漁業者や現場で働く 56 海と安全 2 0 0 8・春号 海と安全 No. 536(42巻、春号) 発 行 平成2 0年2月2 5日 発行所 社団法人 日本海難防止協会 〒1 0 5−0 0 0 1 東京都港区虎ノ門1−1 5−1 6 Tel 0 3 (3 5 0 2) 2 2 3 1 Fax 0 3 (3 5 8 1) 6 1 3 6 E-mail : jams2231@nikkaibo.or.jp URL http : //www.nikkaibo.or.jp 印刷所 第一資料印刷㈱ 正会員・賛助会員・協力会員の方には年4回、 発行の都度「海と安全」を送付しています。 海と安全 第42巻 春号 ●昭和36年4月3日第3種郵便物認可 ●通巻536号 ●平成20年2月25日発行
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