公認会計士協会による「東京証券取引所インフラファンド市場におけるイ

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PLUTUS+ MEMBER’S REPORT
No.66
公認会計士協会による「東京証券取引所インフラファンド市場におけるイ
ンフラ資産等の評価業務」の公表について
September 30, 2015
株式会社プルータス・コンサルティング
石川 大地
1. はじめに ~「東京証券取引所インフラファンド市場におけるインフラ資産
等の評価業務」の調査研究報告
」の調査研究報告の公表
等の評価業務
」の調査研究報告
の公表
平成 27 年 8 月 17 日に日本公認会計士協会の経営研究調査会は経営研究調査会研究報告
第 56 号「東京証券取引所インフラファンド市場におけるインフラ資産等の評価業務」を公
表した1。
我か国の厳しい財政状況から民間の資金・ノウハウを活用する PPP や PFI の関心が高ま
っており、また、マクロ経済の影響を受けにくく安定的な事業環境から、投資家のインフ
ラへの関心が高まっている2。このような状況の中、株式会社東京証券取引所は上場インフ
ラ市場を開設した。その結果、公認会計士が上場インフラファンドの持分やインフラ事業
の価値評価業務を行うことが増加すると考えられる。
2. 本調査研究報告の概要
本調査研究報告は、以下のように構成されている。
I.
上場インフラ市場とインフラ資産等の評価
II.
本研究報告が対象とするインフラ資産
III.
インフラ資産評価の体系
IV.
インフラ資産の事業価値評価の実施
V.
インフラ資産保有会社の投資持分評価の実施
VI.
インフラ資産等評価結果の報告
1日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第 56 号「東京証券取引所インフラファンド市場におけるイ
ンフラ資産等の評価業務」の公表について
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/main/56.html 2015 年 9 月 30 日閲覧
2株式会社東京証券取引所「上場インフラ市場研究会報告—我が国における上場インフラ市場の創設に向け
て—」の公表について
http://www.jpx.co.jp/news/detail/detail_698.html 2015 年 9 月 30 日閲覧
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VII.
評価報告書の参照
本調査研究報告はインフラ資産の中でも、既に案件形成数の多い太陽光発電事業(メガ
ソーラー発電事業)を例にとって記載している。
本稿では、インフラ資産等の価値評価業務に関する具体的な記載があるⅣ章以降につい
てみていく。なお、インフラ資産等の価値評価業務は、企業価値評価業務と類似する部分
が多い。本稿では基本的に企業価値評価と異なる部分についてみていく。企業価値評価に
ついては平成 25 年 7 月に公認会計士協会より公表されている企業価値評価ガイドライン3を
参照されたい。
3. 「Ⅳ インフラ資産の事業価値評価の実施」
インフラ資産の事業価値評価の実施」「Ⅴ インフラ資産保有会社の投
資持分評価の実施」
資持分評価の実施
」について
3.1 評価アプローチの選定
評価アプローチの選定に関して、事業価値の形成要因ごとに以下の観点から検討が必要
となる。なお、現状コストアプローチを前提にした評価事例は想定しがたいことから、コ
ストアプローチによる評価を前提にした説明が行われていない。
① 投資家への開示情報:企業価値評価の場合、一般的にインカムアプローチは客観性
が低く、恣意性が入りやすいとされているが、インフラ資産等の事業価値評価にお
いては軽減される傾向にある。また、マーケットアプローチについて、類似取引事
例やインフラ市場の実績の蓄積が現段階では不十分であることに留意が必要である。
② 固定価格買取制度4:平成 24 年 7 月 1 日からスタートした固定価格買取制度は 4 年目
を迎えたものの、当該事業のみを対象とする類似取引事例、類似上場会社は十分で
ない。この点、現段階ではマーケットアプローチの採用は限定的となる。
③ 長期キャッシュフロー:比較的に容易に策定可能であり、この点、インカムアプロ
ーチに適している。
④ 開発リスク:固定価格買取制度の認定後、土地の利権問題等で事業が頓挫すること
もある。商業運転開始以降を評価日とする場合、インカムアプローチを採用する場
合でも、開発リスクは低いと考えられる。
⑤ 想定発電量:機器、立地、データ計測手法等の違いを考慮し、対象事業個別の検討
が必要であり、インカムアプローチを採用する場合、この点に留意する必要がある。
⑥ 有期事業:固定価格買取制度は 20 年等の期限が設定されている。現段階では有期事
業として扱うことが一般的である。
3
公認会計士協会「経営研究調査会研究報告第 32 号「企業価値評価ガイドライン」の改正について」の公
表について
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/32.html 2015 年 9 月 30 日閲覧
4
経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギーについて(なっとく!再生可能エネルギー)
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/index.html 2015 年 9 月 30 日閲覧
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⑦ 建設費用:キャッシュアウトの大半を占める。事業ごとに個別の検討が必要である。
商業運転開始以降を基準日とする場合、開発リスク同様、建設費用が見積もりを超
過するリスクは低く、インカムアプローチの採用の障害になりにくいと考えられる。
⑧ 商業運転開始以降の費用:火力発電等と比較すると燃料費が発生しないので、比較
的少額であり、インカムアプローチを採用する場合でも費用予測は比較的容易であ
る。
3.2 インカムアプローチによる
インカムアプローチによる評価法
による評価法
インカムアプローチの中で最も一般的な評価手法である DCF 法を検討する。直接保有
(インフラファンドがインフラ資産へ投資)の場合、DCF 法の中でも最も一般的なフリー
キャッシュフローを加重平均資本コストで割り引くエンタープライズ DCF 法が適しており、
間接保有(インフラファンドがインフラ資産を保有する法人へ投資)の場合、個別に検討
が必要でありエンタープライズ DCF 法の他にエクイティへのキャッシュフローを株主資本
コストで割り引くエクイティ DCF 法等の採用が考えられる。
以下 DCF 法における、主な価値形成要因ごとに検討する。
① 継続価値:固定価格買取制度は 20 年等の期限が設定されていることから、有期事業
とするか、もしくは期限後も継続する事業とするかが論点となる。この点、固定価格
買取期間終了後の売電の取り扱い、再開発の可能性について、現状、明確な指針は公
表されていない。そこで、保守的に有期事業として扱うことが一般的である。また、
その場合、原状回復義務に係るキッシュアウトも考慮する必要がある。
② 税金の取り扱い:通常は税引後のキャッシュフローを割り引くが、パススルー課税が
適用されるような投資スキームの場合、税引前のキャッシュフローを割り引くことが
考えられる。
③ 想定発電量:事業計画に利用されているは超過確率を検討する必要がある。なお、機
関投資家間の M&A においては、P-50(超過確率 50%)の予測発電量に基づくことが
多い。事業価値評価においても、当該超過確率を用いることが妥当と考えられるが、
予測手法、技術コンサルタントの採用の有無、過去の運転期間の想定発電量等をヒア
リングし、総合的に検討する必要がある。
④ 運転・保守費用:燃料費がないため、火力発電等と比較すると少額である。耐用年数
が比較的短い部品(パワーコンディショナ等)の保守費用や、火災保険の費用、環境
保護対策費用等について、キャッシュフローに織り込まれているかを検討する必要が
ある。
⑤ 評価対象事業の収入の契約上の条件:スキームによっては、売電収入ではなく賃料収
入となることも想定される。この場合、賃料に関する契約条件を十分に確認し、適切
にキャッシュフローに反映されているかを検討する必要がある。
⑥ 固定価格買取制度以外の投資促進施策:各種助成金、固定資産税の優遇措置、並びに、
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税務上の加速度償却や即時償却等の適用の可能性がある。これらがキャッシュフロー
に反映されているかを検討する必要がある。
⑦ 割引率:CAPM により割引率を求める際に、類似上場会社のベータ値を用いることが
考えられる。ただし、対象事業を中核事業としている上場会社は非常に限定的であり、
また、固定価格買取制度は平成 24 年 7 月に導入された制度であり、十分な観察期間
(5 年)に満たないことに留意が必要である。
米国や EU においても我が国同様に再生エネルギーの利用促進施策が実施されてい
ることから、海外の類似会社の選定することも考えられる。海外市場の類似上場会社
を選定する際は、次の検討が必要となる。
(ア) 所在国の株式市場の成熟度(流動性は十分か)
(イ) 検討している類似会社の全事業のうち再生エネルギー事業の占める割合が高い
か
(ウ) 所在国の再生エネルギー発電事業促進施策と我が国の施策との類似性
(エ) 発電種別(太陽光発電、風力発電、地熱発電等)のリスクの類似性
(オ) 検討している類似会社と保有事業資産の成長ステージ(開発段階か、稼働後か
等)の類似性
(カ) 上場期間、浮動株比率、規模、決定係数等
3.3 マーケットアプローチ
マーケットアプローチによる
アプローチによる評価法
による評価法
類似上場会社比較法及び類似取引法等が考えられる。
類似上場会社の選定の際の検討事項については、インカムアプローチにおける類似上場
会社の選定(3.2 ⑦)と同様である。
3.4 総合評価結果
将来キャッシュフローの見積もりが比較的に容易という事業の特性からインカムアプロ
ーチが適している。マーケットアプローチは類似上場会社が限定的であることから、主た
る評価アプローチでなく、インカムアプローチを補完する方法として用いることが合理的
である。今後、類似上場会社の増加、マーケットデータの観察期間延長により、マーケッ
トアプローチも主たる評価アプローチとして併用することも考えられる。
評価結果について、複数の評価結果の評価幅(以下、「レンジ」という。)を示す方法
と、単一の評価結果(以下、「ワンプライス」という。)を示す方法がある。これについ
て、評価の目的及びタイミングごとに取り扱いが異なる。インフラ資産取得時の評価の場
合、レンジによる評価が一般的である。その際に、レンジの幅が不合理に広くなることが
無いように留意が必要である。また、インフラファンド全体で一貫してレンジでの評価が
望まれる。一方、商業運転開始以降の継続評価の場合、投信法や金商法によりインフラフ
ァンドはインフラ資産の評価額を開示するが、その際はワンプライスとされている。ここ
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で、評価人の結果が、ワンプライスなら当該評価結果が参照されるが、評価人の評価結果
がレンジの場合、インフラファンドがそれを参考に計算し開示する。
4. 「Ⅵ インフラ資産等評価結果の報告」について
インフラ資産等評価結果の報告」について
評価人による評価は主に 2 つの目的がある。
① 取引時評価:インフラファンドがインフラ資産への投資やインフラ資産保有会社へ
の投資を行う場合の意思決定の参考とするために評価する。
② 継続評価:インフラファンドは投信法や金商法に基づき、投資家へインフラ資産や
インフラ資産保有会社の持分の価値情報を開示する。その際に評価人の評価を参照
する。なお、インフラファンドの開示に係る責任はインフラファンドが負う旨を評
価人の評価報告書に明記する。
5. 「Ⅶ.評価報告書の参照」について
インフラファンドは投信法や金商法によって、投資家に向けてインフラ資産等の価値情
報の提供が求められる。投資家にとって、インフラ資産等の価値情報は投資判断を行う上
での有用とされている。
一般的な企業価値評価では、評価報告書は委任者もしくは委任者に加え限られた関係者
のみが閲覧する。一方、インフラファンドにより開示されるインフラ資産等の価値情報は、
不特定多数の投資家へ開示されることになる。ここで、評価人にとって、不特定多数への
評価結果の開示は訴訟リスクやレピュテーションリスクが高まる。そこで、評価の前提条
件、補足情報等の積極的な情報開示により、誤解、期待ギャップを防止し、評価人のリス
クを低減する必要がある。なお、インフラファンドが評価人の結果に基づき独自に計算し
た箇所がある場合、その事実を明確に開示する。
開示事項は大きく以下の項目となる。
① 評価結果の開示
② 評価手法(評価人、採用した評価アプローチ及び評価手法等)の概要に関する開示
③ 評価に係る補足情報の開示(評価業務の位置付け(保証業務ではない)や評価人の責
任(投資家に直接的な責任を負わない)、インフラファンドと評価人の間に重要な利
害関係がない旨、評価人が基礎資料の検証の義務を負っていない旨、将来予測の部分
については実績と差異が生じる可能性がある旨等)
インフラファンドは評価人の評価報告書に基づいて、自己の責任で開示を行うが、評価
人はインフラファンドと依頼人の間で、契約書等により開示情報として参照する事項につ
いてあらかじめ合意しておくことが重要である。
また、どの程度詳細に記載するかについては、より詳細にすれば、投資家の理解は深ま
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り、評価人のリスクは逓減するが、一方、事業計画等が開示されることになりインフラ資
産等の保有会社の機密情報が開示される。そこで、継続開示の場合、投資家にとって必要
十分な情報開示、例えば、MBO 等の公開買付けに係る第三者評価に係る意見表明報告書の
算定根拠の記載水準が参考となる。
6. 最後に
現在、インフラファンド市場に上場している銘柄はないが、再生可能エネルギーの利用
促進や 2020 年に開催される東京オリンピック向け、インフラ需要が高まっており、また、
我か国の厳しい財政状況から民間の資金・ノウハウの活用が望まれている。このような状
況において、上場銘柄が出てくることが期待される。
インフラ資産等の評価が必要な方々は、弊社にご相談いただければ幸いである。
以上
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