手形法小切手法(江口眞樹子) 1 2、3年前期 選 択 2単位 15回 科目内容・目標 この授業では手形および小切手制度の基本的な構造を学ぶとともに、これに関する諸法令について理解する ことを目的としている。 手形および小切手は有価証券である。この有価証券というコトバを意味する米語は securities であるが、この語 のもともとの意味は「安全」とか「無事」とかいったことである。また、ここから securitization(有価証券化)というコトバ も派生するが、この語も直訳すれば「安全なものにすること」である。一体、有価証券という仕組みは、何を安全な ものにしているのか。また、どのようなテクニックを使ってこれを達成するのか。他方、-右の米語とニュアンスは だいぶ異なるが-、もともとわが国の有価証券というコトバは、ドイツ語の Wertpapier を直訳したものである。語を 分解していえば「Wert=価値のある」「papier=紙、証券」ということである。一体、有価証券は、どのような理由か ら「価値のある」紙となりうるのか。 以上のような視座に基づき、手形および小切手制度の意義・仕組みを学ぶとともに、これを規制する諸法令に ついて、基礎から応用まで広く講義していきたいと思う。なお時間の関係上、講義では主として約束手形を扱い、 為替手形・小切手については必要な場合に適宜言及する。 なおこの授業の内容および目標は、共通的到達目標(コア・カリキュラム-第二次案修正案)に準拠するもの である。 2 授業の基本方針 まず、この授業では民法(本学の講義科目でいえば「取引法 1」「取引法 2」および「不法行為法」がこれにあた る。「家族法」はあまり関係がない)を理解していることが必要不可欠の前提となる。民法のなかでも、何といって も法律行為に関する正確かつ深い理解が求められよう。法律行為概念を本当の意味でわかっていなければ、 有価証券にまつわる諸法令を学ぶといっても、所詮は表面的な知識の習得に終始することとなる。 つぎに、具体的な授業の進め方としては、基本的な概念や基礎知識は予習済であることを念頭に、本質論に 直結する論点やひとりでは理解することが難しいテーマについて講義することとしたい。それゆえ、しっかり予習 をしてこないと、1時間半の講義が最初から全く理解できないということになる。予め配布するレジュメには、教科 書の該当頁が示されているので、授業に出席する際には、予め該当箇所を読んでおくことが不可欠である。2 単 位(15 回)というかぎられた時間内で講義しようというのであるから、このような前提に則らざるを得ない。どうかこの ことを了解して欲しい。 つぎに、授業の際には、教員による一方的な説明に終始することなく、受講生諸君に対して適宜説明を求め、 また各自の考え方を披瀝して相互に批判しあうなど、なるべく双方向的な授業を行うつもりである。 以上のような密度の濃い授業を目指すが、時間的な制約から授業時間内にすべての論点や判例について取 り上げることは不可能であると思われる。したがって、教室で取り上げなかった論点および判例等については各 自で必ず自習することが求められる。 -1- 3 成績評価 期末に実施する定期試験を評価の基本とするが、なるべく対話による双方向的授業を行う予定であるから、授 業における態度・取り組み方も評価の対象となる。 さらには授業時間中に教場レポートを実施し、その内容も加味して総合的に評価する予定である。 具体的な評価の割合は、定期試験 80%、教場レポート 10%、授業への取組み等(授業における態度・発言・質 問への回答等)を 10%とする。 4 教材 〔教科書〕 田邊光政「最新手形法小切手法」〔五訂版〕(中央経済社・2007 年) 「手形小切手判例百選」〔第7版〕(別冊ジュリスト№222、有斐閣・2014 年) 〔参考書〕 木内宜彦「手形法・小切手法〔第 2 版〕」(新青出版) 木内宜彦「プレップ手形法」(弘文堂) 倉澤康一郎「手形判例の基礎」(日本評論社) 倉澤他「シンポジューム手形・小切手法」(新青出版) 宮島司「やさしい手形法・小切手法〔第 2 版〕」(法学書院) 前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣) ※その他の文献については、授業の際に適宜指示する。 5 授業計画 第 1 回 有価証券法総論 有価証券に関する基本および手形・小切手の意義について理解することを目的とする。 具体的には、有価証券の意義および特質さらに有価証券の種類や経済的機能について理解することを目 的とする。有価証券の機能、有価証券の表彰する権利にはどのようなものがあるか、また、それに応じて有価 証券がどのように種類分けされるかという点を学ぶとともに、そのうち完全有価証券と呼ばれる手形・小切手に ついて、その意義および経済的機能等について検討する。 また、手形法の意義についても学ぶ。 第 2 回 手形の法的性質および手形行為 有価証券のうち、完全有価証券といわれる手形・小切手の特質および手形行為の意義・法的性質について 理解することを目的とする。 さらに手形行為とは何か、手形行為はどのような法的性質を有するかについて検討する。 第 3 回 手形行為の成立要件 手形行為成立の形式的要件(手形要件など)および実質的要件について学ぶことを目的とする。 具体的には、法律行為としての振出の「目的」や手形の記載事項(必要的・有益的・無益的・有害的のそれぞ れ)等、手形行為の有効要件について検討する -2- 第 4 回 手形行為の法的構造 手形理論について理解することを目的とする。 手形上なされる法律行為のあり方(いわゆる手形理論)についての判例・学説の対立(交付契約説、発行説 および創造説)を学ぶとともに、これ以外の有価証券の場合にはこれとどのように異なるか、といった点につい て検討する。 第 5 回 手形行為と意思表示 手形行為と意思表示について理解することを目的とする。 具体的には、一般の意思表示と手形上でなされる意思表示との異同、手形上なされる意思表示に意思の不 存在や意思表示の瑕疵がある場合の処理等について検討する。 第 6 回 署名および手形行為独立の原則 手形署名および手形行為独立の原則について理解することを目的とする。 具体的には、署名の意義やこれが有価証券的意思表示の要素とされている理由を、手形に関して学ぶとと もに、同一の書面を使ってなされる複数の手形行為の相互関係について検討する。 第 7 回 他人による手形行為(1) 他人による手形行為の基本について理解することを目的とする。 具体的には、他人に手形を振り出させる方法として、代理方式による手形行為および代行方式による手形 行為の意義について検討する。 第 8 回 他人による手形行為(2) 無権限者により手形行為がなされた場合の法的処理について理解することを目的とする。 具体的には、無権代理と偽造、権限濫用による手形行為および手形の変造について検討する。 第 9 回 手形上の権利の移転 手形上の権利の移転行為について理解することを目的とする。 具体的には、法定的に定められた手形の移転方法である裏書を中心とし、かつこれ以外の方法による手形 債権の移転や裏書の要件および効果、特殊の裏書等について検討する。 第 10 回 裏書連続および善意取得 裏書連続の意義および効果について理解することを目的とする。 具体的には、裏書の連続ないし不連続とされるのはいかなる場合かといったことや立証責任の転換・善意取 得といった裏書連続の法律効果について検討する。 第 11 回 実質関係および手形抗弁 手形の実質関係や抗弁の意義および内容について理解することを目的とする。 具体的には、原因関係の意義、物的抗弁と人的抗弁の区別や人的抗弁の切断・悪意の抗弁、融通手形の 抗弁、後者の抗弁、二重無権の抗弁等について検討する。 第 12 回 支払および遡求 支払の意義および効果や遡求について理解することを目的とする。 具体的には、受戻が要件となるか否かといった点や善意支払、手形の書換、手形の喪失と除権決定につい て検討する。 -3- 第 13 回 手形の時効・手形保証 手形の時効および手形保証について理解することを目的とする。 具体的には、手形の時効期間および時効の中断について理解するとともに、手形保証の意義、方式および 効力について検討する。 第 14 回 白地手形 手形法学における「暗礁」と言われている白地手形について、その意義およびこれにまつわる様々な問題 点を理解することを目的とする。 具体的には、白地手形と無効手形との区別や白地補充権の法的性質、白地手形にまつわる時効、除権決 定等について学ぶとともに、手形・小切手以外の有価証券ではなぜ湖のようなことが問題とならないかといっ た点について検討する。 第 15 回 利得償還請求権 手形の実質関係)について学んだうえで、利得償還請求権について学ぶものとする。 具体的には、手形関係と実質関係、利得償還請求権の意義、利得承安請求権の発生要件、譲渡および行 使について学ぶものとする。 期中に実施した教場レポートについての解説を行う。 -4-
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