栄養と UHC の相互補完性 - 栄養改善のための国際官民連携

栄養と UHC の相互補完性
(NGO 栄養調査報告およびポジションペーパーへのインプットして)
特定非営利活動法人栄養不良対策行動ネットワーク (栄養アドバイザー)
渡辺鋼市郎
1. 【栄養改善と貧困の軽減】UHC は全ての人が保健に関する情報やそしてそれぞれのニーズ
に対応する質を伴う保健サービスにアクセスできること、そしてその一方でこうしたサービス
を受けるために支払う経済的負担に苦しまないことと定義されます1。社会における脆弱なグ
ループに対して政治的に無関心だったり、差別という形での恣意的に除外したり、あるいは
ほかの政治的な目的を達成しようとする試みの中で犠牲になったり、様々な要因から保健ア
クセスに公正さが欠如していたり、誰かがそこから除外されることになっています。一方で、
栄養問題を解決することは、貧困問題の軽減に寄与します2。栄養不良と貧困は負の連鎖の
関係にあり、貧困は栄養不良の根本原因であると同時に栄養不良の子どもは将来その生産
性が低くなることがわかっています。つまり栄養改善は世代を超えて貧困が生み出される負
の連鎖を断ち切ることになります。栄養問題を解決することは、貧困問題の軽減という形で保
健サービスへのアクセスから除外されるグループを減らすことに寄与します。
2. 【栄養改善と疾病負荷の軽減】栄養状態と疾病負荷は関係しています。適切な栄養状態にな
い子どもは、そうでない子どもに比べてより感染症や慢性疾患に罹りやすく、また疾病からの
回復が遅く、重症の場合の死亡リスクが高まることがわかっています3。したがって、適切な栄
養状態を普及することは、保健サービスへの負荷を下げると同時に、その効果を高めること
にもなります。
3. 【栄養介入と保健システム強化】栄養直接介入の多くは保健サービスの中に組み込まれてい
ます。したがって、保健システム全体の強化と栄養直接介入は切り離して考えられるのでは
なく、一体として進められるべきでものです。一般に、様々な保健介入をばらばらでなく包括
的に一体化して実施することが UHC における重要性として指摘されている一方、その効果的
な「一体化メカニズム」は様々な試行錯誤が行われています4。こうした中、保健サービスの中
における栄養直接介入の一体化においても、他の様々な介入の中で栄養介入の質や投入、
時間配分を十分確保することができない場合が多いのが実情です。そこで、UHC が栄養改
1
WHO (2013) Research for universal health coverage: World health report 2013
2
Hoddinott, J, Alderman, H, Behrman, J R, Haddad, L & Horton, S 2013. The economic rationale for
investing in stunting reduction. Maternal & Child Nutrition, 9, 69-82.
3
Caufield, L, Richard, S, Black, R, 2004, ‘Undernutrition as underlying cause of malaria morbidity and
mortality in children less than five years old’ in the American Journal of Tropical Medicine and Hygiene, 71
(Suppl 2), pp. 55–63.
4
Victora CG, Hanson K, Bryce J, Vaughan JP (2004) Achieving universal coverage with health
interventions, Lancet 2004; 364: 1541–48
善を促進し、それが UHC 目的達成に寄与するという本来の相互補完関係が強化されるよう
にするためには、保健政策の中で栄養に関する優先度を高め、十分な予算配分を確保する
こと、そして地域の実情に合った一体化サービス提供メカニズムの構築が求められます。
4. 【日本の母子保健支援と UHC】2009 年~2013 年に日本の支援で実施された保健分野プロジ
ェクトで何がしかの栄養直接介入を含んでいるものは、JICA 技術協力プロジェクトで 14 案件
(12 カ国)、NGO プロジェクトで 144 件(27 団体、36 カ国)、合計で 158 案件(40 カ国5)にも及
んでいます。これらのプロジェクトでは現地の状況やニーズを把握し、それぞれの特殊事情
に即したかたちで栄養介入を保健サービスに組み入れ、あるいは農業や水など他のセクター
と連携するなどの様々な工夫が施されており、栄養と保健サービスの効果的な「一体化実施
メカニズム」についての知見・経験が蓄積されています。特に NGO 案件では地域の状況やコ
ミュニティを巻き込むことで貧困層や社会から阻害されたグループの保健サービスや栄養介
入に対するアクセス向上のための様々な試みを行っていることも留意されるべきです6。
5. 【結論】以上のように栄養改善は、1)UHC の大きな障害になっている貧困の軽減に持続的に
寄与すること、2)保健サービスの負荷を下げ、また効果を高めること、さらに 3)保健システム
強化と栄養介入を一体化で進めることによる相互補完性、などの点から切り離せない課題と
いうことができ、今後 UHC を中心とする政策策定、事業運営、関係各機関の調整などの面で、
栄養改善を UHC と一体の課題として取り扱われ、応分の比重をかけて配慮することが望ま
れます。そのたドナー、政府、特に保健省による今後策定される UHC 政策において栄養の重
要性への明確な言及が求められます。また、UHC プログラムの実施支援や UHC に関する支
援計画の策定支援においては、当該プログラムや支援計画が地域の実情やコミュニティ住
民の特に貧困層のニーズに即したものにするうえで JICA や NGO による経験・知見を生かす
ことが重要だと考えます。
5
アフガニスタン、イエメン 、インド、インドネシア、ウガンダ、エクアドル、エチオピア、エルサルバドル、ガーナ、カン
ボジア、グアテマラ、ケニア、コンゴ民主共和国、ザンビア、ジンバブエ、スーダン、スリランカ、スワジランド、タイ、
タンザニア、ナイジェリア 、ネパール、ハイチ国、パレスチナ 、バングラデシュ、フィリピン、ブルキナファソ、ベトナ
ム、ベナン、ペルー、ホンジュラス、マダガスカル 、マラウイ、ミャンマー、モンゴル、ヨルダン 、ラオス、ルワンダ、
東ティモール、南スーダン(以上、アイウエオ順)
6
たとえば、コミュニティ保健・栄養ボランティアの育成と持続的な活動のためのメカニズム構築(セーブ・ザチルド
レンのベトナムやミャンマー案件)、コミュニティでの予防接種とビタミン A・駆虫剤配布、身体測定スクリーニングを
組み合わたキャンペーン活動の実施。