チンギスハーンの国 連載⑨

連載その⑨
チンギスハーン の 国
国際部
夢の実現に向けて
恒例のモンゴル派遣報告会が 9 月14日ウラ
ったモンゴルでの一連の事業です。当初はこ
ンバートルのラマダホテルで開かれました。
こまで広がりを見せるとは思っていませんで
来賓として、在モンゴル日本大使館特命全権
したし、また ODA から 2 億円近くもの支援
大使、モンゴル JICA 事務所、JICA モンゴル
を受けるようになるとも思ってもいませんで
人材開発センター、モンゴル国立医療科学大
した。
学および看護大学の諸先生など多くの方々に
出席していただきました。その席上、カウン
ターパートを代表して挨拶に立ったモンゴル
国立医療科学大学バタバータル学長から衝撃
的な言葉が発せられました。「来年はモンゴ
ル国立医療科学大学にとって記念すべき年に
なります。私たちは重要な 2 つの事業を行い
ます。その一つは国際基準の設備を備えた研
修病院の建設がいよいよ始まること、そして
もう一つは 9 月に柔道整復コースを大学に設
故亀山実会員
置することです」。その瞬間会場内に「オー」
JICA がまだ広尾にあったとき、最初から
というどよめきが響きました。私もその発表
草の根技術協力パートナー型に固持する私た
を聞き、体から力が抜ける感じがしました。
ちに対し「それ以上おっしゃるのなら、JICA
それは脱力感ではなく、久々に感じる安堵感
としてもうお会いすることはできません」と
と充実感でした。
担当者からキッパリ言われ、故亀山実国際部
員と共に近くの喫茶店で言葉もなく何時間も
呆然としていたときのことがまず頭に浮かん
できました。その JICA 担当者も葬儀に参列
してくださり、大粒の涙を流しながら悔しが
っていた姿は今でも私の脳裏に張り付いたま
まです。
この事業に命を懸けた亀山部員が
「モ
ンゴルに柔道整復科ができる」と知ったら、
どんな顔をして、どんなことを言ってくれる
のでしょうか。
モンゴル国立医療科学大学においては学長
左から清水大使、
バタバータル大学長
アマルサイハン副学長、
ナランバートル看護大学長
や副学長の交代、担当者が次々代わるなど本
さまざまなことが頭に浮かんできました。
当にいろいろなことがありました。日本側も
東京都柔道整復師会の活動が発端となり始ま
また同様です。体力的にも精神的にも厳しい
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モンゴル派遣に多くの会員が協力してくれま
業意識の高揚に繋がると思いますし、また柔
した。派遣員一人ひとりの真摯な思いや献身
道整復師を目指す若い人たちにとっては大き
的な行動、そして医療人としての寛容さがモ
な希望になるものと考えます。
ンゴルの人々の心を動かしました。その基に
日本の 4 倍の広さを持つモンゴルの地方を、
は先見性を持った日整執行部の数々の英断が
互いに「旅芸人一座みたいだね」と笑いなが
あり、それがあったからこそ活動を続けるこ
ら励まし合い、何週間にもわたり転々とし講
とができました。今思うと、これらの何一つ
習会を行った日々を今では愛しく思いだしま
が欠けても現在に至ることはなかったと思い
す。暗闇の中に目的地のかすかな明かりを見
ます。
つけたときの安堵感、人生で初めてのホーム
当初から、柔道整復術がモンゴルに真に定
シックなどさまざまな経験をしました。一方
着するには、プロジェクト活動のほかに「学
大学班では、日本式の授業を行い、知識・技
科の設立」「学会の設立」「医療制度への組み
術だけではなく医療人としてのあるべき姿を
入れ」が不可欠だと繰り返しさまざまな所で
徹底的に教えました。それに感銘を受けた学
訴えてきました。内外の多くの人から「そん
生の中から柔道整復術の指導者を目指す者が
なことは絶対無理だよ」と言われました。自
多数出てきました。
身でも「かなり厳しい遠い目標」と思いなが
日本では到底考えられない次から次へと起
らも、それを譲ってしまったら全てのものが
こる予定変更や、想定外の事態にも、決して
ガタガタと崩れてしまうのではないかという
怒らず、JICA 研修で習った、途上国との国際
恐れがあり言い続けました。
交流のモットー「信じて待つ」をみんなで毅
学科が創設されればそれに伴い間もなく学
然として実践してきたことが今回の素晴らし
会も創設されるでしょう。それらのことが我
い報告に繋がった要因の一つではないかとも
われの業界にとってどのような意味を持ち、
思っています。私はそのことを「柔道整復師
どのような影響をもたらすか今は漠然としか
の人間力」という表現でさまざまな場所で説
分かりません。しかし限りない可能性を感じ
明してきましたし、今後もするつもりでいます。
るのは私だけではないでしょう。
現在、私たちの
モンゴルにおける理学療法は日本の国立大
講義を受けたモ
学の支援を受け、数年前に看護大学に学科が
ンゴル各地のド
創設され、現在多くの卒業生を出しています。
クターをはじめ
しかしながら、理学療法は未だモンゴル医療
とする医療従事
制度の中に入ってはいません。そのことを考
者やその地域の
えると柔道整復術がモンゴルの医療制度に組
保健所から、柔道
み込まれるのはそう簡単なことではないこと
整復術をもっと
が分かります。しかし、日本柔道整復師会は
習いたい、治療に
その先見性と行動力、そして世界に誇る日本
取り入れたいの
伝統治療である柔道整復術をもって周囲が驚
要望書
くくらい、モンゴルにおいて「不可能」と思
ほしいという要望が数々上がってきています。
われたことを一つひとつ乗り越えてきました。
これらも学長の報告と同様にとても嬉しい
今後も今までと同じスタンスで行動していけ
ことです。このように多くの人たちの協力と
ば、時間はかかるかもしれませんが「医療制
支援のもと実施してきたモンゴルでの事業も
度への組み入れ」も決して夢ではないと思い
来年 3 月の最終派遣をもって一区切りを迎え
ます。一方会員にとっても柔道整復術が外国
ることになります。重ねて全ての方々に感謝
において認められ定着することは、自らの職
とお礼を申し上げます。 − 25 −
でもっと教えて