教材風車の開発と展開

教材風車の開発と展開
― ecowing の機構と機能 ―
高村泰広(福島県立新地高等学校)、○佐藤建吉(千葉大学)、小松一星(千葉大学)
1 はじめに
再生可能エネルギー(自然エネルギー)の利用が国際的には進められているが、日本では導入計画が立案さ
れているとは言い難く、その実施は民間事業者の経営判断に任されている状況にある。とりわけ風力発電の利
用においては、大きな重荷を背負わされているとしても過言ではない。風力発電の利用拡大には、その社会的
受容性(public acceptance, PA)を高める必要がある。そのためには、既存システムとの対立を解き、また保
守的なスタンスから未来先取りへの心情を醸成することが重要である。こうした局面は、文字通り社会、ある
いは大人が、推進や転換へのかじ取りをしなければならない。しかし、現状では、こうしたことへの期待は低
いので、子供世代から風力発電についての理解を高めることが、求められる持続可能社会への近道となるかも
しれない。そこで、本稿では、学校教育や市民教育向けの教材風車を開発する取り組みの一環を披露して、会
員の皆様のご支援をお願いする。
2 開発した教材風車
筆者らが教材風車として取り組んでいるのは Ecowing と名付けたマイクロサイズの垂直軸風車である。こ
れは図1の外観図のように、3枚翼の垂直軸風車(VAWT)であるが、①起動性を改善するために歯車式のピ
ッチ制御と、②強風対策のために永久磁石の吸着力を利用した強風対策を導入している。①と②の要件を、簡
単な機構で実現している。また③発電機にはコアレス発電機を用いてコンパクトにまとめている。これらの点
が、中学や高校での「エネルギー教育」や「ものづくり教育」において、科学・工学的な基礎学習と、設計・
技術的な適用学習とを、併せた多面的な総合学習に、この教材風車は有効ではないかと考えている。
ここで①については、図 2 のように風向と翼の回転位置に応じてピッチ制御を行う機構を導入している。こ
の制御の導入により、図 3 のように回転特性が大幅に改善されることが実験で得られている。
また、②の強風対策では、図 4 と図 5 のように、磁石の吸着力を超えた高風速時には布製の翼が開き回転速
度が低下するが、低風時になると再び磁石は吸着し自動的に翼が閉じて回転復帰するという仕掛けになってい
る。③の発電機も、図 6 のように小型で平板状であり、内部の構造は永久磁石と空芯コイル(コアレスコイル)
用いている。これも簡単な構造になっている。
以上のように、①、②、③とも構造と原理、そして仕組みは簡単であるが、その機構の動作には科学的背景
があり、その実現には工学的・技術的な適用という重要性がある。構造の簡単さは、教育的に重要な要素では
ないかと考えている。
同時に、
主旨からは外れるが、
この風車は途上国での風力発電の利用にも貢献できると、
筆者らは考えている。
3 教材風車を用いた実験観察と留意点
理科分野の教材開発には、まず興味もち、それが理解でき、そのうえで、さらに創造力や探究心が育成され
ることが要件になる。風車は、科学的・工学的な仕組みや原理を学ぶことができるほかに、エネルギーという
社会的、さらに経済的な側面もあり、これら多様な側面から探究心を引き出すことができる。以下に、教材風
車としての学習の対象と実験器具、さらに観察の要点などについて表 1、表 2 に分類した。
表 1 教材風車の部品と機能
大分類
主要回転
部品
名称
材質
個数
機能
翼(羽根)
帆布
3組
受風し回転力を生み
出す
軸
鋼
1本
アルミ
ニウム
鋼
3組
回転中心として固定
支持
翼の支持と回転半径
を定める
支持と回転性確保
鋼
3 組(大小
径の組)
ピッチ制御
ゴム
3本
ピッチ制御
アルミ
ニウム
ネオジ
ウム
アルミ
ニウム
など
1個
風向検知と風向指令
30 組
翼の吸着と分離
1個
発電
鋼
1 組(大小
径の組)
増速
ゴム
1本
増速
回転アーム
軸受
タイミング歯車
ピッチ制
御部品
タイミングベル
ト
尾翼
強風対策
部品
ボタン磁石
発電機
発電部品
( エ ネ ル タイミング歯車
ギー変換)
タイミングベル
ト
補助部品
8個
ボルト
ナット
鋼
鋼
固定
固定
キー
鋼
固定
観察点
翼は 3 枚であるのはどうして
だろう?
材料はなぜ帆布だろうか?
軸の働きと構造はどうなって
いるだろうか?
回転半径の大きさは、特性にど
う影響するだろうか?
軸受の働きは何だろう?
ピッチ制御は、どのようにして
行われているのだろうか?
大小の歯車の歯数の割合は?
タイミングベルトを用いてい
るのはなぜだろう?
風向指令という意味はなんだ
ろう?
磁石の分離はどのようにして
起こるだろうか?
コアレス発電機の構造はどう
なっているだろう?回転速度
と発生電圧の関係は?
なぜ増速をするのだろうか?
タイミングベルトは、ほかにど
のようなところに使われてい
るだろうか?
ボルトとナットの固定は、回転
中に緩まないのだろうか?
キーはどのように取り付ける
のだろうか?
表 2 実験器具と役割、および観察点
器具
扇風機や送風機
役割
風の発生源
目的
風力エネルギーの
発生と大きさの設
定と測定
風速と回転速度の
評価
発生電力の測定
回転特性、翼の開
閉観察
関係式と観察点
風速計
風速測定
回転計
軸回転速度測定
電圧、電流計
電力測定
撮影ビデオカメラ
挙動観察記録
吸着力測定
磁力測定
ボタン磁石の吸着
力測定
翼の開閉観察
トルクメータ
トルク測定
エネルギー変換量
の測定
風車の出力エネルギー:Uout=2πFRn/60 =
2πTn/60 (T:トルク、n:回転速度 rpm)
変換効率:η=Uout/Uin)
可変抵抗器
モータ
負荷装置
発生エネルギーの
利用と確認
風力エネルギーと変換エネルギーの関係は?
入力風力エネルギー:Uin=1/2・ρAV3
(ρ:密度、A:受風面積、V 風速)
風速と回転速度の関係は比例的?
Ugen=RI2=EI (R:抵抗、I:電流、E:電圧)
風速はいくら以上で翼が分離するか?
引張り分離か、せん断分離か?
分離する回転位置はどこか?
4 おわりに
以上のように、再生可能エネルギーについての理解を得る動機づけとして、低速でも回転特性が高まるため
の機構や原理について実物と実験を通して学習する。同時に、回転特性の向上は、強風時に壊れやすいのでそ
の対策も必要になる。身近な素材でその対策を施し、観察を行う動機づけを行う。今後、実際に生徒を対象と
して実験を行い、この教材の効果を確認する予定である。こうした教材利用と学習の取り組みが、未来を担う
若者世代に風力発電について理解が進む一助になればと考えている。
Rotation speed [rpm]
図 1 教材風車(ecowing)の外観(左:全体、右:発電機)
図2
可変ピッチ制御式風車の概要図
300
250
200
150
100
50
0
3
4
5 6 7 8 9 10 11 12 13
wind velocity [m/s]
図 3 風速と回転速度の関係
(a) 通常の状態
図 4 永久磁石による強風対策の効果
(b)磁石の吸着力以上の強風で
翼がオープンした状態
図 5 永久磁石を用いた強風対策
図 6 コアレス発電機の外観と大きさ
(c) 概念図