33 橈骨遠位端骨折における受傷時骨転位量と術後手関節可動域の関連

第 6 セッション
運動器(一般演題)
一般口述
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橈骨遠位端骨折における受傷時骨転位量と術後手関節可動域の関連について
の検討∼当院における最終経過観察時の治療成績と併せて∼
服部 隼人(はっとり はやと)1),永井 教生1),小野 志操1),船越 登2),小林 雅彦2),山下 文治2)
京都下鴨病院 理学療法部1),京都下鴨病院 整形外科2)
キーワード
橈骨遠位端骨折,手関節可動域,骨折転位量
【はじめに,目的】
橈骨遠位端骨折の治療は,治癒後の骨形態と予後の間には密接な関係があるとされている.機能的予後のため
に解剖学的整復位での骨癒合が目標とされている.諸家の報告をみると,単純 X 線画像による手術直後と最終経
過観察時における volar tilt(以下,VT)と radial length(以下,RL)の矯正損失に着目しているものが多い.受
傷時の骨転位量と手関節可動域との関連についての報告は見られない.今回我々は,受傷時と術後の VT,RL
の変化量が術後の手関節可動域(以下,ROM)に関係するかについて検討した.
【対象と方法】
当院にて掌側ロッキングプレートが施行された背側転位型の橈骨遠位端骨折症例 10 手(女性 8 手,男性 2 手)
を対象とした.手術時平均年齢は 60.9 歳であった.単純 X 線画像による測定項目は,当院の診療放射線技師が撮
影した側面像を用いて,受傷時の VT(以下,受傷時 VT)と掌側ロッキングプレート施行後の VT(以下,術後
VT)を計測した.前後像を用いて,掌側ロッキングプレート施行後の RL(以下,術後 RL)と健側の RL(以下,
健側 RL)を計測した.骨転位量の指標として,受傷時 VT と術後 VT の差(以下,PVTD)と,術後 RL と健側
RL の差
(以下,ASRLD)を算出した.算出された PVTD および ASRLD と最終経過観察時の ROM
(背屈,掌屈,
回内,回外)
の関係について検討した.統計解析は Spearman の順位相関係数を用い,有意水準 5% 未満とした.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院倫理委員会に承認を得て行った.
【結果】
PVTD は平均−16.1̊ であり,ASRLD は平均−3.29mm であった.最終経過観察時の平均 ROM は背屈 73̊ 掌屈
73̊ 回内 84̊ 回外 87̊ であった.PVTD と掌屈に r=0.679,p=0.02 と有意な正の相関を認めた.PVTD と他の ROM
および,ASRLD と ROM の間には相関関係は認められなかった.
【考察】
本研究の結果から,我々が指標とした骨転位量と術後 ROM の間には関連がないことが示された.これは Gartland らが示す, 橈骨遠位端骨折後の予後には治癒後の骨形態が関与しているとの報告と一致する結果となった.
但し,PVTD と掌屈には正の相関を認めた.このことは受傷による高エネルギー損傷が治癒後の ROM に影響を
及ぼす可能性を示唆しているものと考えられる.我々が渉猟し得た,2004∼2011 年の 8 年間に術後 ROM が記載
され,本邦での報告された掌側ロッキングプレートを用いた橈骨遠位端骨折後の治療成績では平均 ROM は背屈
64̊ 掌屈 62.5̊ 回内 82̊ 回外 82.7̊ であり,我々の組織の修復過程と癒着予防を考慮した治療成績は良好であるとい
える.今後は術後の骨形態を考慮した運動療法を展開し,更に治療成績の向上を図りたい.
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第 6 セッション
運動器(一般演題)
一般口述
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橈骨遠位端骨折後の手関節可動域に影響を及ぼす因子の検討∼患側受傷時と
健側の橈骨遠位端前後径を比較して∼
吉田 雄大(よしだ たかひろ)1),永井 教生1),小野 志操1),船越 登2),小林 雅彦2),山下 文治2)
京都下鴨病院 理学療法部1),京都下鴨病院 整形外科2)
キーワード
橈骨遠位端骨折,橈骨遠位端前後径,方形回内筋
【目的】
一般的に橈骨遠位端骨折では X 線画像から Radial length(以下,RL)Radial angle(以下,RA)などを用いて
骨折部の転位を評価している.X 線画像上,橈骨遠位端の前後径(Antero Posterior Diameter;以下,APD)が
増大している症例を経験することは少なくない.受傷による APD の増大が手関節可動域に影響を及ぼすか否か
についての報告は我々が渉猟した限りでは見当たらなかった.今回橈骨遠位端骨折後における APD および X 線
画像より得られる各測定項目の健患側差と手関節可動域の関係性について検討した.
!
【対象と方法】
対象は 2012 年 10 月から 2014 年 3 月までの期間で,当院で背側転位型の橈骨遠位端骨折と診断され掌側ロッキ
ングプレートによる手術を施行された 10 例(男性 3 例,女性 7 例 平均年齢は 63.5 歳)とした.APD は月状骨
窩掌側骨性隆起頂点とリスター結節を結んだ線の長さとした.測定項目は診療放射線技師により撮影された X
線側面像にて APD,Volar tilt(以下,VT)を測定し,前後像にて RL,RA を測定した.各測定項目の健患差を
算出し,最終評価時の手関節可動域との関係を Spearman の順位相関係数を用い検討した.有意水準は 5% とし
た.経過観察期間は平均 8.9 ヶ月であった.
【倫理的配慮】
本研究は当院の臨床研究倫理委員会の承認を得た.
【結果】
患側からみた各測定項目における健患側差の平均値を以下に示す.APD は 1.12mm 増大しており,RL は 5.86
mm 短縮,RA は 7.9̊ 減少,VT は 20̊ 背側へ傾いていた.手関節可動域は平均で,背屈 70̊,掌屈 69.5̊,前腕回内
82.5̊,前腕回外 86̊ であった.各測定項目間の相関関係について,ADP と前腕回外に r=−0.67(p<0.05)
,APD
と RL に r=0.70(p<0.05)
,RL と前腕回外で r=−0.88(p<0.01)とそれぞれ相関が認められた.APD と手関節
掌背屈,前腕回内,RA,VT では相関関係は認められなかった.
【考察】
本研究の結果から術後の APD が増大すると RL が短縮し,前腕回外が制限されることが示された.これは受傷
時に RL が短縮するほどの強い圧縮応力が加わることで,APD が増大したものと考えられる.APD 増大と前腕回
外制限の関係について考察する.Stuart PR らは,方形回内筋は浅層と深層から成る 2 層筋であり,浅層は主に回
内動作,深層は遠位橈尺関節の関節包に付着し安定性に作用すると報告している.Richard KJ は,方形回内筋は
最大回外で約 1cm 伸長されると報告している.本研究の結果と合わせて考えると,橈骨遠位端が骨折する程の強
い圧縮応力により APD の増大がすることで,方形回内筋の起始・停止を延長させ前腕回外可動域を最終域で制
限したものと推察された.本研究の限界は症例数が少ないことであり,今後症例数を増やし更に検討を重ねる必
要がある.
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第 6 セッション
運動器(一般演題)
一般口述
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無症状の上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の上肢における身体的特徴についての一
考察
反橋 浩二(そりはし こうじ)1),段 秀和2),西川 仁史3),藤本 智久4),藤原 俊輔5),
藤井 祐樹5),石井 裕之6)
佐用中央病院 リハビリテーション科1),段医院 整形外科2),甲南女子大学3),姫路赤十字病院4),
段医院 リハビリテーション科5),ハーベスト医療福祉専門学校6)
キーワード
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎,メディカルチェック,肩関節総回旋角度
【はじめに】
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(以下,小頭 OCD)は初期発見できれば 90% 以上が修復されるが,進行期になると
50% 程度の修復となると言われている.小頭 OCD が疑われる選手において理学所見での特徴を得ることができ
れば,選手,指導者レベルで毎日チェックでき早期発見早期治療につながると考えられる.今回,無症状小頭 OCD
の身体的特徴について検討したので報告する.
【目的】
メディカルチェック(以下,M・C)の結果より無症状小頭 OCD 例における身体的特徴について検討すること
である.
【方法および対象】
M・C の内容は,①肘関節内側・外側・後方の圧痛検査,②肘関節内側・外側・後方の超音波検査,③身体機能
評価 17 項目(上肢 7 項目,下肢 4 項目,体幹・筋力 6 項目)で構成している.対象は,姫路少年硬式野球協会に
所属する平成 24 年から 27 年度の新入生で M・C を受けた 206 名のうち 80 名.M・C の結果から小頭 OCD 無症
状群(圧痛なし,肘 ROM 制限なし,超音波所見陽性)6 名,小頭 OCD 既往群(通院歴のある選手)5 名,Normal 群(事前アンケートにおいて野球肘障害の既往がなくかつ M・C の結果から圧痛なし,肘 ROM 制限なし,超
音波所見陰性)の 69 名の 3 群に分類し,機能評価の上肢の肩可動域測定 5 項目(①肩甲骨固定での肩外転角度,
以下 TAT,②肩甲骨固定での肩水平内転角度,以下 HFT,③ 2nd 外旋,④ 2nd 内旋,⑤ 3rd 内旋)に 2nd 外旋
角度と 2nd 内旋角度を合わせた総回旋角度の 6 項目のそれぞれの角度および左右差について 3 群間で比較検討
した.
統計解析は,Kruakal Wallis の H 検定を用い,危険率 5% 未満(p<0.05)を有意とした.
【説明と同意】
整形外科医のもと対象者,保護者,指導者に対して M・C の趣旨を説明し書面を用いた同意書を得たうえで実
施した.
【結果】
測定項目の 5 項目については,すべてで有意差はなく 2nd 外旋と 2nd 内旋可動域の総回旋角度(以下,総回旋
角度)
の結果
(投球側 非投球側)
も小頭 OCD 無症状群
(139.17±18 148.33±12.11)
, 小頭 OCD 既往群(155±3.54,
145±9.35)
,Normal 群(145.72±18.6,151.01±19.68)であり有意差は認めなかった.しかし,総回旋角度の左右
差について検討すると,小頭 OCD 無症状群
( 9.2±19.1̊)
,小頭 OCD 既往群
(10.0±11.7̊),Normal 群
( 5.2±12.8̊)
であり小頭 OCD 既往群と Normal 群において有意差を認めた(p<0.05)
.
【考察】
小頭 OCD 無症状群での身体的特徴を得ることができなかったが,初期の発見には超音波検査が重要であるこ
とが改めて示された.既往群で総回旋角度において有意差が出たことにより,総回旋角度の左右差を定期的に確
認することが早期発見のために必要であることが示唆される.また Wilk らの,非投球側に対して投球側の総回旋
角度が 5̊ 以上減少を認める投手に有意に肘障害があるとの報告もあることから現場でのスクリーニングやセル
フチェックを行うことが早期発見に繋がると考える.
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第 6 セッション
運動器(一般演題)
一般口述
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肩腱板断裂症例における術後 2 ヶ月時の患者立脚評価と術前評価及び疾患背
景因子の影響について
板野 哲也(いたの てつや),春名 匡史,上田 泰之,立花 孝
信原病院 リハビリテーション科
キーワード
肩腱板断裂症例,shoulder36,術前JOA可動域
【目的】
近年,肩腱板断裂症例の機能改善に対する評価に客観的評価だけでなく,患者の主観的評価や QOL を考慮した
報告や関節鏡にて mini open 法を施行した症例において,術前の可動域制限が術後の可動域,筋力,患者立脚評
価に影響を及ぼすとの報告がある.当院では肩腱板断裂症例に直視下手術にて McLaughlin 法を施行し,術後約
2∼3 ヶ月で退院し日常生活や職場復帰する特徴がある.そこで当院における術後 2 ヶ月時の患者立脚評価にも術
前の状態が影響を及ぼすのでないかと考え,術後 2 ヶ月時の患者立脚評価と術前評価及び疾患背景因子の影響に
ついて検討した.
!
【方法】
対象は,2015 年 2 月∼4 月に当院にて肩腱板断裂と診断され,直視下手術にて McLaughlin 法を施行し,術前,
術後評価を行った 16 名(男性:11 名,女性 5 名,手術時平均年齢:67±6.5 歳)とした.術前評価は,疼痛の程
度(夜間時痛,運動時痛)を Visual Analogue Scale(VAS)を用いて評価した.身体機能面は,日本整形外科学
会肩関節疾患治療成績判定基準 JOA score(以下;JOA)の疼痛,機能,可動域を用いた.疾患背景因子は年齢,
罹患期間,術中出血量とした.術後 2 ヶ月時の患者立脚評価には,患者立脚肩関節評価法 Shoulder36 V1.3
(以下;
Sh36)の疼痛,可動域,筋力,健康感,ADL の 5 項目を用いた.統計処理は,術後 2 ヶ月時の Sh36(疼痛,可動
域,筋力,健康感,ADL)を目的変数,術前評価項目と疾患背景因子を説明変数として,ステップワイズ法によ
る重回帰分析を行った.
【結果】
重回帰分析の結果,術後 2 ヶ月時の Sh36 疼痛,Sh36 健康感,Sh36 ADL には,術前 JOA 可動域が説明変数と
して選択され,Sh36 疼痛=0.036+0.137×術前 JOA 可動域(R2=0.400,p=0.009)
,Sh36 健康感=0.831+0.109×
術前 JOA 可動域(R2=0.436,p=0.005)
,Sh36 ADL=1.521+0.083×術前 JOA 可動域(R2=0.34,p=0.018)の予
測式が得られた.また,Sh36 筋力は,術前 JOA 機能が説明変数として選択され,Sh36 筋力=1.219+0.125×術前
JOA 機能(R2=0.392,p=0.009)の予測式が得られた.
【考察】
本検討より,術後 2 ヶ月時 Sh36 疼痛,Sh36 健康感,Sh36 ADL は,術前 JOA 可動域値からの予測が有用と考
えられ,当院の直視下手術 McLaughlin 法を施行した症例も術後の患者立脚評価成績は,先行研究同様に術前可動
域の影響がみられた.また,術後 2 ヶ月時の Sh36 筋力は,術前 JOA 機能値が予測に有用であった.JOA 機能は
外転筋力や挙上耐久力の評価も含まれているため主観的な筋力評価に影響する要因になったと考える.今回の結
果より,術後 2 ヶ月時の患者立脚評価成績の予測には,術前 JOA 可動域と JOA 機能の値が影響を及ぼしている
と考えられる.
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第 6 セッション
運動器(一般演題)
一般口述
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肩甲上腕関節可動性が肩甲骨回旋位置に与える影響∼拘縮肩症例での検討∼
中井 亮佑(なかい りょうすけ)1),小野 志操1),森 大祐2),小林 雅彦2),山下 文治2)
京都下鴨病院 理学療法部1),京都下鴨病院 整形外科2)
キーワード
肩甲骨下方回旋,肩甲上腕関節,関節可動域
【目的】
肩に障害を有する患者の中には,肩甲骨下方回旋位を呈する症例が少なくない.肩甲骨下方回旋位は腱板筋の
活動性低下や神経症状誘発等の障害を起こす.肩甲骨内側縁(以下,内側縁)に付着する肩甲挙筋や菱形筋群な
ど肩甲上腕関節(以下 GHJ)での影響が大きいとされている.今回,我々は拘縮肩症例において,GHJ の可動域
(以下 ROM)と単純 X 線軸位像にみる肩甲骨回旋位置との関連を調査した.尚,本研究の実施にあたり当院の倫
理委員会に承認を得た.
【方法】
当院で拘縮肩と診断され運動療法の適応となった肩関節疾患患者の中で,側彎や神経症状がなく,理学療法初
診時に屈曲位挙上が 60̊ 以上可能であった 9 名 9 肩
(男 3 名,女 6 名)を対象とした.平均年齢は 54.8 歳であった.
GHJ の ROM 測定はゴニオメーターを用いて行った.対象者を背臥位として徒手的に肩甲骨を固定した状態で他
動的に測定した.肩甲骨回旋位置の計測は,診療放射線技師により撮影された単純 X 線軸位像から肩甲棘下縁長
軸と垂直線のなす角(以下,L 角)
,骨頭肩峰間距離(以下 AHI)
,関節窩面と上腕骨のなす角(以下 FHA)を計
測した.統計解析は Spearman の順位相関係数を用いて危険率 5% にて検討した.
【結果】
GHJ の屈曲位内旋と L 角(r=0.744,p=0.04)及び水平屈曲と L 角(r=0.829,p=0.02)に正の相関を認めた.
一方,下垂位内旋と L 角(r=0.634,p=0.09)及び屈曲位外旋と L 角(r=0.724,p=0.06)には相関関係が認め
られなかった.ROM と AHI 及び FHA との相関関係は認められなかった.
【考察】
村木らは,下垂位での内旋可動域は GHJ の後方を構成する軟部組織(以下,後方組織)全体の柔軟性を評価す
る指標であると報告している.Laudner らは,屈曲位での内旋可動域は GHJ の後下方を構成する軟部組織(以下,
後下方組織)の柔軟性を評価し,水平屈曲可動域は後方組織及び後下方組織の柔軟性を評価するものと報告して
いる.これに本研究の結果を併せて考察すると,下垂位内旋と L 角に相関が得られなかったこと,屈曲位内旋及
び水平屈曲と L 角に負の相関が得られたことから,GHJ の後下方組織に拘縮が存在する場合,肩甲骨は下方回旋
位となりうる.
解剖学的に,後下方組織を構成する軟部組織として小円筋や後下関節上腕靭帯が挙げられる.したがって,小
円筋や後下関節上腕靭帯などの柔軟性の低下は肩甲骨の下方回旋に影響を及ぼしている可能性があるものと推察
することが出来る.
拘縮肩治療において肩甲胸郭関節の柔軟性に加え,GHJ の後下方組織の柔軟性を改善し,肩甲骨の上方回旋の
制限となる因子を抑制することが拘縮肩治療の一要素として重要であると考えられた.本研究の限界として,対
象人数が少なく,症例により屈曲位内外旋 ROM 計測時の屈曲角度が統一されていない点が挙げられる.
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第 6 セッション
運動器(一般演題)
一般口述
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外反母趾症状を有する女子大学生の身体的および歩行時の特徴
吉田 隆紀(よしだ たかき),谷埜 予士次,鈴木 俊明
関西医療大学 保健医療学部 理学療法学科
キーワード
外反母趾,歩行,床反力
【目的】
外反母趾の運動療法として Hohmann 体操や母趾外転運動などがある.しかし外反母趾症例は,後距踵関節が外
反している報告や腰椎の前弯が増大する傾向があったなど他部位との関連性が述べられている.加えて外反母趾
症例の歩行の特徴は,足底外側への荷重増大が報告され,歩行様式の変化にも着目する必要がある.そこで本研
究の目的は,外反母趾症状を有する症例の身体的および歩行時の特徴を検討し,外反母趾の運動療法の一助とす
ることである.
【方法】
対象は,外反母趾症状を持つ女子大学生 10 名
(以下 H 群:外反母趾角 22.4±3.3̊)
(21.3±0.2 歳,身長 158.5±3.8
cm,体重 50.9±5.7kg),コントロール群は外反母趾角が 10 度以下の女子大学生 10 名
(以下 C 群:9.8±5.2̊)
(年齢
21.1±0.2 歳,身長 158.3±4.1cm,体重 54.9±4.3kg)とした.方法は,外反母趾との関連性を検討するために静的
アライメント評価として,FTA 角,Leg heel 角,縦アーチ高率,横アーチ長率を計測した.関節可動域測定とし
て足関節の背屈,底屈
(膝屈曲位と膝伸展位)
を測定した.足趾の筋力は,足趾把持力計で足趾把持力を計測し,
徒手筋力計を使って母趾圧迫力を計測した.またフォースプレートを使って歩行時の立脚時間,制動ピーク値,
駆動ピーク値,離地時の垂直値,離地時前後値,左右方向ピーク値,足圧中心総軌跡長,足圧中心前後軌跡長,
足圧中心左右軌跡長を計測し,床反力値は体重で正規化したものを採用値とした.なお測定は 3 回実施し,平均
したものを C 群と H 群で U 検定によって比較した.本研究は研究代表者所属施設の倫理委員会で承認されてい
る.
【結果】
測定の結果,有意差が認められたのは Leg heel 角(C 群外反 3.8±3.6̊,H 群外反 10.5±4.1̊)
,縦アーチ高率
(C 群 17.8±1.3,H 群 13.6±1.8,
)
であった.関節可動域テストにおいて足関節背屈可動域
(膝屈曲位:C 群 18.1±
10.1̊H 群 8.5±7.4̊)
(膝伸展位:C 群 13.4±7.4̊,H 群 4.5±6.7̊)で認められた.筋力測定では母趾圧迫力
(C 群 3.9±
!
!
2.0kg,H 群 1.9±0.9kg)で認められ.歩行時の測定では離地時垂直値 C 群 1.2±0.1,H1.6±0.2)
,離地時前後値
(C 群 0.6±0.5,H 群 0.2±0.2)
,足圧中心左右軌跡長(C 群 72.3±7.3,H 群 85.0±10.8)で認められた.
【考察】
H 群は C 群に比較して歩行の足尖離地時に垂直方向の負荷が大きく,離地時前後値は蹴りだし時の発揮された
推進力を示すことから足尖離地時において適切に推進力が得られていないと考えられる.その理由として Leg
!
heel 角の増大や縦アーチの減少が足圧中心左右軌跡長の延長を引き起こし,前後への推進力を低下させているこ
とや母趾の圧迫力が弱いことが要因として挙げられる.また H 群の足関節背屈制限は足尖離地時の垂直方向時の
負荷が増大する因子として加え挙げられる.このことより,外反母趾症状に対しては,歩行時の足尖離地時のス
トレス発生要因にも着目する必要があると考えられた.
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