砂防ソイルセメント(INSEM 工法)について 1.砂防ソイルセメント(INSEM 工法)の概要 砂防ソイルセメントは,砂防事業を推進する上で,砂防施設の構築に現地発生土砂を有効活用するために開発 されたものである。 INSEM(IN-situ Stabilized Excavated Material)は,現地発生土砂とセメント(高炉セメント B 種 等),場合に よって水(流水 等)を現場内で攪拌混合し,現場重機(ブルドーザ・振動ローラー 等)によって敷均し,転圧を行っ て,砂防施設とこれに伴う附帯施設の構築及び地盤改良に活用する工法である。 長 所 ①搬出土砂の減少(発生土砂の利用) ②安全性の向上 ③施工条件の緩和 ④環境負荷軽減への寄与 ⑤現地発生土砂の使用用途の拡大 ⑥コスト縮減 ⑦外部保護材の採用による適用範囲の拡大 短 所 ①コンクリートに比べて耐凍結融解性が小さい ②コンクリートに比べて耐摩耗性が小さい ③外部保護材を必要とする(使用目的・部位による) 図 1-1 施工方法の概略図 2.使用材料 2.1 現地発生土砂 砂防ソイルセメントに用いる現地発生土砂は,原則として,適用制限は設けないものとする。また,現地発生土砂 は,その性状を各種試験によって把握するとともに,施工性等を考慮して最大寸法(Gmax)を設定する必要がある。 〔現地発生土砂の性状把握試験〕 区 分 必須項目 必要に応じて 実施 試験項目 試験基準 備 考 ふるい分け試験 JIS A 1102・1204 - 密度・吸水率試験 JIS A 1109・1110 粗骨材は 1~3 分級 単位容積質量・実績率試験 JIS A 1104 棒突・ジッギング法 締固め試験 JIS A 1210 B・E 法 含水率(比)試験 JIS A 1125・1203 - アルカリシリカ反応性試験 JIS A 5308 - 有機不純物試験 JIS A 1105 - 微粒分量試験 JIS A 1103 - 2.2 水 水は,原則として施工現場付近で採取できる流水等を使用する。ただし,使用流水がセメント硬化反応を妨げるこ とがないことを事前に確認する。 〔混合水の水質試験〕 品 質 分析項目 基 準 備 考 懸濁物質の量 コンクリートの 溶解性蒸発物質の量 練混ぜ水の 塩化物イオンの量 品質規格 モルタルの圧縮強さの比 JIS A 5308 付属書 C - 凝結時間の差 ※JIS A 5308 付属書 C または JSCE-B101 2.3 セメント 砂防工事では,長期強度や化学抵抗性に優れる高炉セメント B 種の使用が一般的であるが,砂防ソイルセメントに おいては,セメントの種類は特に限定しない。 六価クロム抑制,早期改善,有害物質対策など,用途に応じてセメント系固化材の使用も有効である。 3.配 合 配合設計は,配合試験によって目標強度を発現するために必要な単位体積当りのセメント量,及び INSEM のピ ーク強度時の含水比(単位水量)を決定するために実施する。 配合設計は,その強度が土砂の強度特性と同様な傾向を持つと考える手法で実施することを基本とする。 砂防ソイルセメントの目標強度(設計基準強度)は,対象とする砂防施設の部位や附帯施設及び地盤の改良材で必要 とする強度に合わせて設定する。なお,各種検討に用いる目標強度(設計基準強度)の材齢は 28 日を標準とする。 配合強度は,変動係数を考慮して目標強度の 1.5 倍(割増係数の一般値)とする。配合はセメント量・水量(含 水比・W/C)を設定し,目標強度・目標単位体積重量(密度)を満足する配合を示方配合とする。 目標強度 ≧ 最大圧縮応力(σmax)× 安全率(n) (構造物:n=4,基礎工:n=3) 配合強度 = 目標強度 × k (一般に k=1.5) 配合手法区分 コンクリートアプローチ コンクリート配合手法に基づいた方法 ソイルアプローチ 土の締固め特性に着目した配合手法で, で,土砂,セメント,水が締固めた後に 締固め試験結果をもとに所定のセメン 3 配合手法 1m となるように設定された手法。混合 ト量を混合する方法。施工時の管理方法 時の水量は骨材の表面水量である。ま は含水比によって幅を持たせた管理を た,配合時に Vc 値等のコンシステンシ 行う。強度及び施工性を考慮して含水比 ーを指標としているので,施工時の品質 の管理幅を設定する必要がある。 管理はこれをもとに管理する。 〔配合試験〕 区 分 必須項目 必要に応じて 実施 試験項目 試験基準 試験室における練混ぜ JIS A 1138 備 考 可傾式ミキサ 供試体作製 JIS A 1132 棒突+電動ピック 圧縮強度試験 JIS A 1108 φ150×300mm σ7,28 六価クロム溶出試験 環境庁告示 46 号溶出試験 - 標準 VC 試験 JSCE-F 507-2007 - スランプ試験 JIS A 1101 - コーン指数試験 JIS A 1228 - 4.試験施工・本施工 INSEM 工法の施工は,現地状況,対象となる施設の規模,使用する材料特性,施工設備,施工機材等を考慮し, 施工箇所の条件に応じて施工方法を選定する。 4.1 混 合 バックホウ攪拌が一般的で,土砂+セメントによる空練り(1.5 分~3.0 分/m3)後,加水して本練り(3.0 分/m3)へと 移行する。混合時間は試験施工等の結果により決定する。トラックアジテータ・バッチャープラント等の混合事例も ある。 4.2 敷均し ブルドーザまたはバックホウが一般的で,1 リフト厚を 1 層か 2 層に分けて敷均す。 4.3 転圧・締固め 振動ローラーを使用し,転圧回数は試験施工等の結果により決定する。転圧後の 1 リフト厚:50cm の場合,大型(10t 級以上),転圧後の 1 リフト厚:30cm 以下の場合,小型(1~5t 級)が用いられている。一般的には無振動 2 回+有振動 6・8 回で行っているところがほとんどである。 4.4 打継目処理 原則として散水を行う。表面が乾燥する等必要な場合にはセメント散布(0.5~1.0kg/m2)を行う。なお,モルタル 塗布(厚さ 1.5cm 程度)を実施した事例もある。基礎部および埋戻しが行われる部分については,打継目処理は,行わ なくてよい。また,同一施工日に連続打設を行う場合も打継目処理は行わなくてよい。 4.5 養 生 原則として,養生シートを用いた養生を行うこととする。養生シートを使用し散水を併用して実施している事例が 多い。冬季に極寒状態となる場合等には,養生マットの使用や熱養生を実施している事例もある。 〔品質管理〕 適 用 現地発生土砂 ソイルセメント 試験項目 試験基準 頻 度 ふるい分け試験 JIS A 1102・1204 1 回以上/1 材料 含水率(比)試験 直接加熱法(フライパン法) 1 回/施工日 フェノールフタレイン散布 - 混合回数毎 RI 計器による密度試験 JGS 1614-2003 1 回(3 点以上)/1 層毎 供試体作製※ JIS A 1132 1 回/施工日(σ7,28) コア採取試験※ - σ7,28 圧縮強度試験※ JIS A 1107・1108 φ150×300mm σ7,28 ※供試体(σ7)ならびにコア(σ7,28)の圧縮強度は,試験施工時にだけ実施する。コア採取試験では目標強度が低い場合, 抜取りによる骨材の緩み等,影響を受けやすいため注意する必要がある。 【参考文献】 「砂防ソイルセメント設計・施工便覧」 (財団法人 砂防・地すべり技術センター)
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